復讐異世界旅行記   作:ダス・ライヒ

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一話目が何故か気に入らなかったので、書き直しました。


序章
神が見捨てた星で…


 地球では無い人が住めるほどの環境が整ったとある惑星。

 そう聞けば、誰もが地球のように大半は海で、緑豊かな大地の物だと想像するだろうが、今は統合連邦軍や惑星同盟軍と言う二つの超巨大軍事勢力の戦争により、荒廃しきっていた。

 元々、この惑星の支配者はワルキューレと呼ばれる女性を中心とした軍事勢力の物であったが、連邦軍の攻撃を受けてワルキューレは完全撤退し、幾度かの奪還を試みたが、連邦軍の敵方である同盟軍の介入により、奪還を断念した。

 それ以降、連邦軍と同盟軍は幾度も攻勢と反撃を繰り返し、惑星の環境を破壊し続けている。

 

 二つの軍隊の主要兵器は高度な科学力で作られた兵器であり、その威力は絶大で山や大地が抉る程で、更に覆い尽くすように双方の将兵の何百何千、何万もの死体、破壊された無数の兵器の残骸が重なりあって地獄と見間違える物だ。

 これほど破壊尽したのに対し、双方の憎しみはまだ止まらないのか、未だに争い続け、惑星の環境を今も破壊し続けている。これ以上続ければ、近いうちにこの星は人が住めなくなる事だろう。否、もう済むことすらままならない状況にまでなっている。

 任務以外で誰も寄り付かない人の手で作り出された地獄の地へ、目的を果たすためにある男が訪れた。

 これは、そのある男による復讐の物語の一つの日常である。

 

 

 

「やれやれ、脱走兵や残った住民の皆様による戦場漁りか」

 

 その男は、死体や兵器の残骸で埋め尽くされた平原の上で、死体や残骸漁りをする連邦か同盟の脱走兵や、逃げ遅れ、必死に生き残ろうと残骸を漁る原住人たちの略奪団を見て呆れて声を上げた。近くでは戦闘が行われているが、連邦や同盟は殺し合うのに夢中で、違法行為を行っている彼らに見向きもしない。

 男の容姿は黒髪で身長190㎝もの大柄な体型、身に付けている物は黒い甲冑とマント、それに身の丈がある大剣を背負っている。顔立ちはやや整っていて、戦士に似合う顔立ちだが、とてもビームが飛び交う戦場には似合わない戦士だ。腰の辺りには、装置が付いているベルトが撒かれている。

 そんな男の声に反応してか、戦場漁りを指揮している武器商人の男が振り返り、銃を持った手下たちと共にやってくる。

 

「なんだお前? ここは俺の縄張りだぞ。他所へ行け!」

 

「戦利品漁りなんぞ戦場では日常的で興味は無いんでね。それにあんた等を通報する気もねぇ」

 

 男の姿を見た武器商人らは、手にしている実弾の銃やレーザー銃を向けて追い払おうとする。

 当の男は目の前で行われている犯罪には興味はなく、通報する気も無いと言って、自分の目的地を告げる。

 

「俺が向かう場所は、あの両軍が必死こいて取り合っている戦略上の重要地点だ。そこに俺が欲しいのがあってな、そこへ行けば宝とかなんか金目の物があるかもしれねぇ。どうだ、ついてくるか?」

 

 自分を敵視する武器商人らに対し、激戦区へ行って財宝でも取らないかと提案するが、そこへ行くのは自殺行為そのものであり、男の行き先を聞いた武器商人らは大笑いし始める。

 

「ハハハッ! こいつ、頭に藁でも詰まってんじゃねぇのか!」

 

「あんなとこへ誰が行くんだよ! ここの方が儲かるぜ!」

 

 確かに、あの激戦区の中に行くのは自殺行為であり、辿り着くまでに殺気立った両軍の将兵に見付かれば直ぐに撃ち殺され、最悪の場合は流れ弾に当たって死ぬ。激戦区にわざわざ向かうこの大男がおかしいと思われるのが当然だ。

 

「お頭、どうします?」

 

「お宝ね。確かに魅力的だが、戦闘が終わってどちらかが追撃戦を始めてからじっくりと調べよう。それまでにこんなイカレタ男に付き合ってなどいられん。射殺するか身包みでも剥いでしまえ」

 

「了解。おい、マヌケ! 持ってるもん全部置いて行け! 死にたくなけりゃあな」

 

 そんな頭のおかしい大男をどう対処するかを自分の雇い主である武器商人に問えば、どちらかが追撃戦に入って向こう側を離れるまで行かないと答え、手下たちに男の対処を命じた。

 命令に応じて手下たちは銃口を向け、持っている物を全て置いて行けと脅す。

 一切の銃を持たない大男は従うはずだが、彼は銃口を向けられても応じず、逆に拒否し始める。

 

「嫌だね。行くのは俺の自由だろう。勝手に絡んでんじゃねぇよ」

 

「うるせぇ! ゴタゴタ抜かすんじゃねぇ! ぶっ殺すぞ!!」

 

「やれやれ、ここの死体が増えるな…」

 

「あぁ!? てめぇ! こっちは三十人は居るんだぞ! 何を言って…あらっ!? こ、これなに…?」

 

 その言い方に腹を立てたのか、手下は怒鳴り散らして黙らせ、威嚇のために銃口に引き金を掛けたが、引き金を引く前に自分の身体が縦に両断されていることに気付き、声を上げた。それから物の数秒で手下は左右に二つに分かれて絶命する。

 目前の手下を両断したのは、いつの間にか大男の右手に握られていた大剣であった。彼の男は目にも止まらぬ速さで、鉄塊のような大剣を引き抜くことができるようだ。

 

「ひっ! なんだこりゃあ!?」

 

「の、能力者だ! 能力者が居るぞ!!」

 

「スターリングラードに比べれば、マシな死に方だな」

 

 自分の姿を見て、能力者だと畏怖する武器商人の略奪団に、大男は第二次世界大戦の数ある有名な戦場の名を口にし、周囲に居る者達に斬り掛かった。

 銃と剣、どちらが有利かは子供でも分かること。だが、この大男は常識を覆し、次々と略奪団を地面を埋め尽くす死体の中に加えて行く。

 

「当たらねぇ! なんなんだこいつは!?」

 

「済まねぇな。銃弾より早くてよ!」

 

 銃弾よりも早く動き、次々と仲間を惨殺する自分を見て恐怖する脱走兵や略奪者らに対し、大男は殺戮を楽しみながら答え、右手に握っている大剣をまるで片手剣でも扱うかの如く振るい、無残な肉塊へと変える。

 かつて人だった肉片と手足が飛び散る中、大男は自分に向けてロケットランチャーを撃ち込もうとする脱走兵に自分の得物である大剣を投げ付けた。

 大剣の重量は大男が軽く振り回しているのが信じられないくらいに重く、その大剣の下敷きになったロケットランチャー持ちは潰されて無残な肉塊と化す。

 自分の得物を投げた大男は、それを拾いに行かずにベルトのコアに手を突っ込み、そこから日本刀を取り出した。

 

「ま、魔法だ!」

 

 何所からともなく大太刀ほどの日本刀を取り出したがために、魔法を使っていると一人の手下が叫んだが、その手下は瞬きする間に迫った大男の日本刀で胴体を斬られ、更に両足を両断される。

 切断面から悍ましい血が噴き出す中、大男は既に次の手下の方へ迫っており、一瞬のうちに迫られて驚く男の顔に柄を打ち立て、相手がバランスを崩した所で首を刎ねた。

 次に大剣の近くに居る三人目の男に近付き、思いっ切り力を込めて右半身を斬りおとした。ここに来て、無理に振り回し続けたか、それとも鈍刀だったのか、刀身が圧し折れた。

 

「ちっ、安物を使わされたか」

 

 折れた刀身を見た大男は、一人だけ逃げようとする武器商人の男の背中に向け、折れた日本刀を投げ付ける。

 

「うっ!?」

 

 背中に折れた日本刀を突き刺され、地面に倒れた。

 頭の武器商人に重傷を負わせたところで、大男は次にコアから自動小銃、それもベルギーの最新式ライフルであるFN SCARの大口径モデルであるL型を取り出し、周囲に展開している銃を撃ってくる手下たちを殺し始める。

 連発では撃たず、特殊部隊のように単発で一人三発ずつ素早く撃ち込んで倒し、弾倉に入ってある二十発分を撃ち切れば、投げ捨てて自分の得物である大剣を拾い上げる。

 残りは七人ほどであったが、戦意は喪失しており、まだ息のある頭である武器商人を見捨てて自分たちだけ逃げた。

 

「化け物だ! 逃げろぉ!!」

 

「お、おい! 待ってくれぇ! 置いてかないでくれぇ!!」

 

 逃げる自分の手下たちに向け、雇い主である武器商人は必死に叫ぶが、誰も聞かずに当ても無く散り散りになって逃げて行く。

 

「ありゃあ、流れ弾に当たっておっちぬな」

 

「うっ、うぅ…た、助けてくれぇ…助けてくれたら、謝礼をやる…頼む…!」

 

「なんだ、まだくたばってねぇのか」

 

 手下足しに見放された武器商人は、自分を襲って来た、と言うよりか殺そうとした大男に自分の財産を条件に助けを求めた。

 大男は大剣を背中に背負ってあるラックに戻し、まだ生きていることに感心の声を上げる。

 そんな死体漁りや戦場漁りで設けている武器商人に、大男はなんの同情も抱かず、周囲に息絶えている兵士たちの死体を見て自業自得だと告げる。

 

「お前はそう言ってた死に掛けの兵隊を助けたことがあったか? 無いだろう。家族に遺品を届けてくれと頼んでいた兵隊の遺品を売り払って来たんだろう? それに金に困ってない。精々、自分の罪を悔いながら死ぬこったよ」

 

「そ、そんな…! 惨すぎる! 苦しみながら死ぬのは嫌だ! 頼む…! せめて殺してくれぇ…!」

 

「弾が勿体ねぇ。言っただろう、悔いながら死ねと」

 

「ああぁ、銃、銃は何所だ…? 銃、銃は…」

 

 自業自得な武器商人に大男は苦しみながら死ねと言えば、彼は自決用の拳銃を探し始めた。

 そんな武器商人を放置して、大男はその場を離れた。

 

 

 

「思った以上の大激戦だな、こりゃあ。どっちも必死だ」

 

 死に掛けの武器商人を放置し、目標の品があるとされる戦略的重要地点を見付けた大男は、連邦と同盟がどれほどの犠牲を払ってでも奪い合っている様子を見て、必死だと思う。

 彼が言った通り、その戦略的価値のある重要拠点は、ワルキューレがまだ支配していた頃に建てられた城であり、幾度もの激戦の所為であちらこちらの壁が倒壊しており、人が住めるかどうか怪しいくらいに破壊されつくしていた。

 大男が求める物は、城の地下にあるのだ。

 双眼鏡で必死に銃を撃ち合い、殺し合っている双方の将兵達の様子を見る中、一人の金髪の短髪で浅黒い肌の男が近付いてくる。

 

「どうだ、順調か?」

 

「ガイドルフか。あぁ、滞りなく順調だよ。ほら、お城は舞踏会で盛り上がってる」

 

「なんとも賑やか舞踏会だ。銃と手榴弾が無ければ、是非とも行きたいが」

 

 大男にガイドルフと呼ばれた浅黒い男は、懐から双眼鏡を取り出し、彼と同じ光景を見る。

 城内は舞踏会のように賑やかと表していたが、それは性質の悪い冗談であり、死の舞踏会と言って良い物だ。

 戦前は美しかったであろう城は血と死、破壊に満ち溢れ、見る影もない事だろう。もし戦争が終わり、元の城主がこの城へ帰れば、絶句すること間違い無しだ。

 城の様子を見ているガイドルフは、大男の名を口にしてあそこまで行くのかを問う。

 

「で、シュン。本当にあの城へ行くのか? 城へと続く道は両軍の将兵や兵器で満ち溢れ、上空は絶えることなく航空機が飛び交っている。地獄の方がマシって言える状況だ。両軍が再編か補給のために退いた後から行った方が良いだろう」

 

 シュンと呼ばれた大男は、ガイドルフから両軍が再編か補給のために戦闘が終わるまで待った方が良いのではと問えば、彼は今から城へ行く方を選んだ。

 

「確かに良い案で、当然とも言えるだろう。だが、俺は気が短いんだ。それに連中が乗り込んで、水晶をぶっ壊すかもしれねぇ」

 

「呆れたよ。お前さんは元軍人でそれに将校だってのに、なんでここまで馬鹿になっちまったんだ?」

 

 強行突破する気であるシュンに、ガイドルフは彼が元軍人でしかも大尉階級の将校なのに、どうして冷静な判断も出来ないかと呆れた。

 

「さぁな。元々、先陣切って部下を引き連れて突っ込んでたクセかな。取り敢えず伏せておけ。流れ弾が飛んでくるぞ」

 

「へっ、もう呆れるくらいに慣れっこさ。ここで一服しながら、元斬り込み隊長の大戦場強行突破の巻を観戦してるさ」

 

「流れ弾に当たっておっちんでも知らねぇぞ」

 

 呆れ返ったガイドルフに対し、シュンは突撃癖があると答え、大剣の刃を右肩に担ぎながら大戦場へと向かった。

 そんなシュンをガイドルフはその場に腰を下ろし、葉巻を咥え、先端に火をつけて一服しつつ、その様子を眺めることにした。

 

 

 

「間近で見ると、絶景だな、こりゃあ」

 

 自分の目前に広がる激戦の光景を見たシュンは、飛んでくる流れ弾にも気にせず、激戦ぶりに舌を巻く。

 そんな激戦区に飛び込もうと、コアよりMG5と呼ばれるドイツの分隊支援火器を二挺取り出し、安全装置を外す。

 次に使い捨てのロケット弾であるM72を幾本か取り出して背中に背負い、先に出した二挺の機関銃を両手に持つ。それとこれから向かう激戦区でも無事に突破できそうな装甲服を、コアの中心を押して全身に身に纏う。

 

「さて、準備はばっちりだ」

 

 一度、軽機関銃を地面に降ろしてヘルメットを被り、全ての装備に不備がない事を確認すれば、二挺の機関銃を拾い上げ、激戦区へ向かって走る。

 城までの道は恐ろしい激戦地であった。両軍の人間や異星人を含む無数の屍が地を覆い尽くし、今もその死体の数は増え続けている。足の踏み場など無く、死体を踏んで進まねばならない状況だ。

 そんな死体で覆い尽くされた大地を、シュンは踏んだ勢いで血が噴き出そうが、死体を踏み潰そうが関係なしに、城へと続く道を進む。

 

「なんだこいつは!?」

 

「撃ち殺せ! 俺たち以外の動く物は敵だ!!」

 

 死体の大地を全力疾走する中、撃ち合っていた両軍の兵士たちはシュンの存在に気付き、警告することなく撃って来た。

 連邦軍や同盟軍から雨のような銃弾を浴びせられるが、魔法の力で一瞬にして身に着けたアーマーはそれらを傘のように弾いて行く。

 

「合羽を着て良かったぜ。暴風雨だからな」

 

 シュンは銃弾を雨に例えてから、両手に持つ機関銃をそれぞれ両軍の陣営に向け、引き金を引いた。

 いくら最新式の機関銃であるMG5とは言え、大口径のライフル弾を使用する機関銃だ。凄まじい反動が両手を襲うはずだが、シュンの筋力とアーマーのマッスルスーツ機能がその反動を拳銃のようにしてくれたおかげで、両手撃ちが出来るようになっている。

 一人の男が左右に撒き散らした弾丸は、塹壕にすら隠れない双方の兵士達に当たり、次々と倒れて行く。

 

「伏せろ! それか残骸に身を隠せ!!」

 

 銃声に負けない怒号で、連邦か同盟の指揮官は歩兵部隊に伏せる様に指示を出し、戦闘車両を前に出した。

 戦闘車両の種類は機関砲やミサイルを搭載した歩兵戦闘車であり、歩兵にとっては脅威とも言える戦闘車両である。だが、装甲は戦車ほどでは無いので、手にしている使い捨てのロケット弾で撃破が可能だ。

 足を止めて連邦軍側の歩兵戦闘車に向けてロケット弾を撃ち込み、撃破する。

 次は奇抜な外見を持つ同盟軍の歩兵戦闘車だ。こちらは機銃では無く、レーザーやプラズマ弾を発射する歩兵戦闘車である。

 これも未来のシールドが使われていると思ったが、シュンが撃ち込んだロケット弾は防げず、連邦軍の歩兵戦闘車と同じく爆発する。

 連邦や同盟の双方の歩兵戦闘車を仕留めたシュンは、弾切れの機関銃を捨て、自分の得物である大剣を抜いて激戦区を疾走した。

 

「奴を殺せ! 能力者だ!!」

 

 人間とは思えぬ速度で疾走するシュンに、双方の兵士たちは集中砲火を浴びせるが、照準が定まらず、むしろいつもの撃ち合いとなる。大勢が撃ち合いで死にゆく中、シュンは城へと近付いて行く。

 

「城までもう少しか。おっと!」

 

 左右から来る砲撃に、シュンは気付いて足を止めた。目の前で砲弾が着弾したのだ。

 どうやら、双方の機甲部隊がお出ましのようだ。機甲部隊は戦車を中心とした物であり、双方はいつものように戦車戦を始める。

 

「戦車戦か。対戦車装備を出すのは一苦労だ。無視しよう」

 

 戦車戦に巻き込まれたシュンは、戦車とやり合うのは問題外として、無視して城を目指した。

 だが、戦車は逃してはくれず、どちら側の軍の戦車部隊がシュンの予想進路に向けて集中砲火を浴びせる。

 この集中砲火を受けたシュンは同盟側の陣地に吹き飛ばされ、何度かバウンドした後、同盟軍の戦車部隊の前まで飛ばされる。

 アーマーのおかげか、あれだけ撃たれて吹き飛ばされたにも関わらず、シュンは全くの無傷で、平然と立ち上がった。

 

「もう怒ったぞ。テメェら全員皆殺しだ!」

 

 立ち上がった自分にしつこく攻撃する双方の軍隊に堪忍袋の緒が切れたのか、シュンはコアから大きな武器を取り出す。それはレーザーガンであり、腰だめで連邦軍側へ構えれば、そのレーザーを発射した。

 一両目がレーザーを受けて爆発すれば、シュンはそのレーザーを横に素早く向け、数十名の随伴歩兵と数重量の戦車を両断する。これで左の陣形を全滅させれば、一旦レーザーを発射するボタンを離し、砲口を右に向け、直ぐにレーザーを発射して右の陣形を一掃する。

 

「こいつは貴重なんだ」

 

 シュンはレーザー砲をコアに戻し、連邦軍の戦車部隊を全滅させた自分に呆然とする同盟軍側の方を振り向き、得物である大剣を持ってまだ動けないでいる奇形な戦車に目にも止まらぬ速さで接近して破壊する。

 一両目を破壊すれば、次に二両目、三両目と混乱して動けないでいる同盟軍の戦車を続々と破壊していき、スクラップ場を築き上げる。

 八両目でようやく混乱から目覚めたのか、搭載しているプラズマ弾で随伴歩兵と共にシュンの迎撃を試みるが、全て当たらず、随伴歩兵共々に大剣で切り裂いてバラバラにしていく。

 十七両目を破壊したところで、同盟軍の戦車部隊は戦意を損失したのか、統率の執れない撤退を始める。

 

「けっ、おとといきやがれ」

 

 撤退する同盟軍の戦車部隊に向けて中指を立てた後、シュンは大剣の刀身に付いた油や血を振り払ってから城へと急いだ。

 

 

 

「さぁ、お宝は何所だ?」

 

 城内へと入ったシュンは、自分が求める水晶を探す為、懐よりその水晶を探すための探知機である心臓を取り出した。

 何者かの心臓か分からず、見た目が不気味ではあるが、これが水晶への道しるべである。鼓動が早くなるにつれ、水晶のありかが分かるようだ。

 

「場内はドンパチ賑やか。取り敢えず、死体関連の怪物が居ないだけマシか」

 

 心臓の鼓動で水晶の位置を確認すれば、場内から聞こえて来る連邦や同盟の銃声を聞き、戦闘の規模を確認する。

 怒号や爆音がここまで聞こえて来るからして、かなりの戦力が入っていると見えるだろう。

 元々ここが魔法関連の世界であったと言え、城内に魔物の類が居ないと分かれば、シュンはAA-12自動散弾銃を取り出し、心臓の鼓動の強さを頼りに進んだ。

 

「誰だ!!」

 

 心臓の鼓動に沿って死体や血塗れの城内を進む中、連邦軍の兵士がシュンを見るなり手にしているライフルを連発で撃ち込んで来た。

 もし民間人ならと言う発想は、この惑星全体が戦場となり、戦場漁りか脱走兵くらいしか居ないとの事だろう。

 飛んできた銃弾を食らったが、アーマーのおかげで全くの無傷で、直ぐにシュンはお返しに散弾を浴びせて射殺する。

 

「相変わらず良い銃だぜ」

 

 顔が誰だか分からなくなった連邦兵の遺体を見て、シュンは物言わぬAA-12を褒めた。

 この簡単な構造で、重量のおかげで散弾を連発できる自動散弾銃はシュンのお気に入りのようだ。

 咄嗟の遭遇で二発ほどを撃ち込んだので、残弾を確認しつつ、心臓の鼓動が強い方向へと足を進めた。

 

『援護しろ!』

 

『リロードする!!』

 

「おぉ、やってるな」

 

 心臓の鼓動が強くなる方へと進んでいく中、銃撃戦が激しい区画へと辿り着いた。

 銃撃戦を行っている連邦と同盟の双方の将兵は、薬物でも投与しているのか、共に殺気立っており、自分の姿を見れば、即座に銃弾の雨を浴びせて来ることだろう。

 しかも両軍を合わせれば、一個大隊の戦力を相手にすることになる。

 単独で戦車部隊を片付けたシュンなら殲滅できるが、大隊規模の歩兵の相手は時間が掛かるので、ここは敢えて敵に見付からないルートで、お目当ての水晶がある場所を目指した。

 ここで銃撃戦をしている全員が敵を殺すのに必死で、匍匐前進しているシュンの存在を誰も気にも留めない。

 そのおかげで容易に、地下へと行くことが出来た。

 

「誰も来ていないな?」

 

 戦闘で破壊された地下へと続く扉の前にある足跡や血の跡を見て、数年ほど前の物と判断し、ここ最近に地下へ誰も入っていないことを確認すれば、水晶へと続く地下に入った。

 

「ここまで逃げても、生き延びることは出来ずか」

 

 地下へと続く階段を下って行く中、シュンは逃げ延びた者達の屍を見付けた。

 死因は出血死か、傷による物だ。階段を下って行けば、餓死した遺体が幾つか見付かるだろう。そんなことを気にせず、シュンは地下一階へと降り立ち、心臓の鼓動が強い方へ進む。

 案の定、地下一階には逃げ込んだ城の者か、戦火を逃れてここに避難して来た者か、負傷してここに辿り着いた者と思われる亡骸が転がっていた。

 大半は白骨化した遺体だが、数カ月前に死亡したと思われる腐敗した遺体が幾つか見える。その腐敗した遺体は幾つかは、連邦軍の歩兵の装備か同盟軍の歩兵の装備を身に纏っている。負傷した際に仲間に置いて行かれ、入り口にあった遺体と同じようにここへ逃れて息絶えた様子だ。

 

「将校か? しかも少佐だ、珍しいな。どっちも将校を前線には出さない物だが。さて、少佐殿。前線に何の御用ですか?」

 

 連邦軍の歩兵と同じ戦闘服を着た遺体を見付けたシュンは、袖にある階級章で佐官クラスの将校と見て、物珍しそうに持ち物を探る。

 服のポケットを手当たり次第に調べていると、機密文書と思われるファイルが見付かった。どうやら彼はこの大事な書類を持ったままここで息絶えたようだ。

 

「死体の腐敗から見る辺り、半年前か数カ月前に死んだ奴だな。なら、この機密文書は紙屑以下か」

 

 遺体の腐敗具合で将校は死んでから大分日が経ったと分析し、手に入れた機密文書は情勢が目まぐるしく変わるこの戦線ではもう既に価値を無いと判断して、そこらに捨てた。

 他にも調べ回ったが、どれも意味を成さないので、水晶探しを再開することにして、心臓の鼓動が強くなる方へと進む。

 

 

 

 それから数十分間、心臓の鼓動が強くなる方に従って進んでいけば、宝物庫の前に辿り着いた。

 宝物庫を守る門番は、とうの昔に城主と共に逃げた様だ。流石にここまで辿り着いた者は居らず、死体すら見当たらない。居るとすれば、鼠くらいだ。

 

「やっぱり宝物庫だな」

 

 水晶がある場所が、予想通り宝物庫であったことに呟けば、何十年も閉ざされている扉のドアノブを引こうとした。案の定、鍵が掛かっており、押しても駄目だった。

 

「よし、ぶっ壊すか」

 

 扉が開かないので、シュンは大剣で扉を破壊して宝物庫に入った。

 

「こいつは良かったぜ。前の城主は命欲しさに宝物庫の物は全部置いて行ったようだ」

 

 宝物庫にある宝物が、何一つ手付かずで置かれていることに、シュンはホッとした。

 もっとも、無ければ心臓が脈打つはずが無いが。

 早速、目当ての物がある場所へと行って大事に置かれている水晶を手に取り、それを何の躊躇いも無しに破壊した。

 すると、割れた水晶から紫色の煙がシュンの全身を覆い尽くした後、ベルトのコアにその煙が全て吸い込む。

 これでシュンが持って居る魔術関連のアイテムが強化されたようだ。

 

「これで、ここにはもう用は無いな。さて、出るか」

 

 水晶さえ手に入れてしまえばもうこの惑星に用は無いのか、持って居る異界を渡り歩くことが出来る次元転移装置をコアから出してその惑星から別の世界へ行こうとしたが、つけられていたのか、室内用に銃身を切り詰めたカービン型のライフルや短機関銃を持つ特殊部隊が、宝物庫へと突入して来た。

 

「財宝目当てか!?」

 

 シュンは急いで次元転移装置を急いでコアに戻して遮蔽物となる場所に身を隠し、SCAR-L突撃銃を取り出して突入して来る特殊部隊に撃ち返す。

 装備からして、連邦軍の特殊部隊のようだ。

 占領地や植民地で半ば強制的に徴兵され、質が悪過ぎる訓練を受けた使い捨ての歩兵とは違い、特殊部隊員の訓練にはかなりの金を掛けているようで、動きは天と地の差だ。

 自分が撃ち返して一人を射殺すれば、直ぐに近くの遮蔽物に身を隠して倍返しを食らわせて来る。

 

「おいおい、マジか!」

 

 特殊部隊と銃撃戦を行う中、僅か数秒ほどで悪い事がまた起きた。

 壁を突き破って、同盟軍の特殊部隊までこの宝物庫に突入して来たのだ。

 この城が両軍がどれだけの犠牲を払ってでも手に入れようとする理由は、戦略的な意味であると思ったが、本当は城に眠る財宝の物であったようだ。

 

「あれだけの犠牲を生んでいる原因が、まさかお宝の所為だったってな!!」

 

 城を巡る戦いが、まさか財宝の為だったと真実を知ったシュンは、銃弾や低出力な歩兵用プラズマ弾を防げるアーマーを全身に纏ってから、背中の大剣を引き抜き、自分も含めて銃撃戦を行う両軍の特殊部隊に襲い掛かった。

 ここには外と同じく自分の味方は居ないので、思う存分に暴れられる。思い付く味方と言えば、良く城を見張らせる崖から自分の戦いぶりを、葉巻を吹かせて見ているガイドルフくらいだ。

 そんなことを考えながら、シュンは目に見える銃を持った敵兵を手当たり次第に斬り掛かり、次々と惨たらしい惨殺死体へと変える。

 

「距離を取れ! 奴はS級の化け物だ!!」

 

 ただシュンに斬られるだけの特殊部隊員では無い。

 両軍の特殊部隊員である彼らは自ら軍に志願し、そこらで半ば強制的に徴兵され、真面な訓練を受けることなく前線に使い捨て同然に投入される歩兵とは天と地の差もある訓練と装備を与えられた精鋭兵たちだ。

 何名かはシュンの斬撃を躱し、足や頭部に素早く銃弾を撃ち込む。

 だが、大剣を持つシュンは歴戦練磨の戦士だ。初の実戦は十三歳からで、長きに渡って戦場を駆け巡っている。

 おそらく、この場で殺し合っている誰よりも実戦経験が上なのはシュンだろう。

 そんなシュンは、大剣を投げ付けて一人をその重量差で殺してから、銃紐に吊るしてあるSCAR-Lを左手に持ち、肩を抉るような反動を片手だけで支え、遮蔽物より身を曝け出して撃とうとする敵兵達を次々と撃ち殺す。

 数名を殺せば彼らは遮蔽物から出て来なくなるが、それがシュンの狙いであり、手榴弾を数名の敵が身を隠している場所へ投げ込み、この隙に大剣を拾い上げ、近場の敵の方へ向かう。

 

「グレネード!」

 

「投げるのが早かったか」

 

 大剣を拾い上げた頃には、敵は既に手榴弾を投げ返した後であり、それが自分の元へ飛んでくる。

 直ぐに身を屈んで飛んでくる破片を避けた後、こちらに向けて撃ってくる敵兵の排除を続けた。

 

「うっ!? はぁぁ!!」

 

 特殊な徹甲弾を使って来たのか、右脇腹に銃弾が届いた。

 シュンが身に付けているのは魔法の甲冑であり、殆どの弾を防ぐのだが、連邦や同盟の特殊部隊が使うライフル弾の徹甲弾は、魔法の鎧を貫通する鉱物か素材で出来ているようだ。

 撃たれたシュンは激痛に耐えつつ、得物である大剣で自分を撃った隊員を惨殺する。

 惨殺した隊員の返り血を浴びる中、シュンは目に映る敵兵を次々と大剣で惨殺し、宝物庫にある財宝を双方の特殊部隊員の血で赤く染めて行く。

 

 

 

「て、撤退だ! 撤退しろ! 奴は危険だ!」

 

 これ以上の犠牲は壊滅に繋がると判断してか、双方の特殊部隊は撤退を始めた。

 撤退していく彼らに、シュンはその判断に感謝しつつ、大剣を隣に置いて医療パックとウォッカの一瓶をコアから取り出し、道具を出して傷口の手当てを行う。

 

「こんなのをやたらめったら撃たれたら堪らねぇな」

 

 痛みに耐えつつ傷口から例の徹甲弾を摘出すれば、今度はこれをやたらに撃ち込まれることに頭を悩ませ、近くの金色の杯に向けて投げる。

 止血剤を撒き、未来の治療器具を使って傷口を塞いでから自分の痛み止めであるウォッカを一気に飲み干す。

 傷が完全に塞がり、痛みが消えるまでの間、宝物庫で自分が惨殺した両軍の特殊部隊員の亡骸を見て、彼らに哀れみの気持ちを抱く。

 

「こんな金を掛けてちゃんとした訓練を施した連中をこんなクソつまらねぇ財宝争奪戦に使うとは、ここの戦線の両方の指揮官の頭は腐ってるな」

 

 事実、宝物庫の為だけに特殊部隊の投入は無駄であった。

 彼らには彼らに適した任務があるのだが、この惑星における両軍の戦線指揮官は、それが分かっていないようだ。

 

「さて、痛みは大丈夫だ。一個師団で突撃されないうちに、早く脱出するか」

 

 痛みも治まり、傷口が完全に塞げば、大剣を背負っているラックに取り付けたシュンは、この世界から脱出するために次元転移装置をコアから出した。

 装置を起動させようとした途端に殺気を感じ、直ぐに次元転移装置をコアに戻して殺気が来る方へ大剣を構える。

 次の御客は連邦軍や同盟軍の特殊部では無く、レーザー銃などを装備した宇宙海賊たちであった。どうやら、先の戦闘を嗅ぎ付けてここまで来たようだ。

 そんな海賊団に、シュンは宝物庫にある財宝は血を浴びて価値が低下していると告げる。

 

「またお客さんか。今度は海賊団か? ここらの宝は、血を浴びて価値が薄くなってるぞ」

 

「ここまで案内してくれて助かったぜ。分け前はお前の命だ。命が欲しかったら、持って居る物を全部出しな!」

 

「はぁ、傷の手当てを終えたばかりなのにな…たく、傷口が開いたらどうするつもりだ」

 

「何言ってんだてめぇ! 死にたくなかったら持ってる物を全部出せってつってんだ! 早く出せ!」

 

 シュンの言葉に海賊たちは聞く耳を持たなかった。

 一難去ってまた一難。

 治療を終えたばかりなのに、また戦わなくてはならないとため息をつき、自分に銃を向けて怒鳴り付ける海賊たちを見た。

 

「どうせ、俺の言う事なんぞ聞かねぇだろ。城から離れるか」

 

「あっ!? てめぇ、俺たちに向かって舐めた口を! 野郎共、ハチの巣に…あら!? 一体どうなって…?」

 

 リーダー格の海賊が指示を出す前に、シュンはその海賊を大剣で高速で切り裂いた。

 宙を舞うリーダー格の上半身はまだ生きており、なぜ自分が宙を待っているのか理解できず、地面に落ちてからようやく自分が死んだことに気付いて息絶えた。

 

「撃て…」

 

 リーダー格の男が死んだのと同時に、一同は戦闘準備に入ろうとしたが、レーザー銃を撃つ前に次々とシュンに惨殺されていく。

 僅か数秒で十数人もいた海賊たちは宝物庫に散らばる無残な特殊部隊員の仲間入りを果たし、略奪に来た金品や財宝を自分たちの血で赤く染めた。

 それからシュンは、敵が来ない場所で次元転移装置を使うべく、城の地下通路を駆ける。

 

「馬鹿デケェ剣を持った男が居るぞ!」

 

「ぶっ殺せ! 連邦軍や同盟軍でも関係ねぇ! 殺すんだ!!」

 

 城の地下は既に海賊たちで埋め尽くされ、シュンを見るなりに手にしている銃を撃ち込んで来た。

 海賊たちが溢れているからして、城内における両軍の戦闘は終わったようだ。

 無数の海賊がひしめき合い、銃弾やレーザーの雨を浴びせられているのにも構わず、シュンは大剣を振るい、目の前に居る敵を惨殺しながら前進を続けた。

 

 

 

 さて、話を妨げるようだが、ここでシュンと言う名の大男を紹介しよう。

 お前は誰だとみんなは思っているだろうが、そんな話は、この物語を読んでいれば分かる事だ。いつの機会か自己紹介をさせて貰おう。

 して、この大男のフルネームは瀬戸シュン。身長190㎝の粗野で暴力漢のクズ共の虐殺者であるが、これでも少しばかりのフェミニズムを持っている大男だ。ちなみにフェミニズムな理由は、単に子供を殺した時にトラウマを抱いているからである。ただし、引っ叩いたり、殴る事はある。

 成人した女性は殴らないが、男性と同じように惨たらしく殺すことは出来る。故に男女平等主義者とも言える。

 

 この復讐の旅に出る前は、巨大な軍事組織に属して数多の戦場を掛け抜け、数々の武勲や汚名を上げ、味方や敵からかなり恐れられていた。初の実戦経験はなんと十歳からだ。

 二十三歳になるまで戦場を回っている内にPTSD、戦闘ストレス障害を患ったか、単に戦争に飽きたのか、軍を辞め、その退職金を使って孤児院を開院した。孤児院は暴力的な大男が経営しているにも関わらず、虐待も無ければいじめも無い絵に描いたような平和な物であったそうだ。

 シュンが経営していた孤児院は、開院開始三年目に復讐の対象としている組織からの襲撃を受けた。

 その話は後で行おう。

 

 彼の得物である大剣にまつわるエピソードは、彼が十八歳の誕生日の時に、戦場で手に入れた自分の誕生日プレゼントから始まる。

 それ以降はシュンの銃よりも信頼できる相棒となり、数多の戦場を共に駆け抜け、そして軍を辞めた時も一緒に大剣も群を辞めた。正確には、退職金と共に持って行っただけだが。

 その大剣は彼が殺戮の為に振り回している鉄塊のような大剣では無く、大男が十分に振り回せるほどの物であった。だが、復讐の対象である人物との戦いで圧し折られ、今の大剣に変わった。

 

 さぁ、話を再開しよう。

 まずは、ここに至るまでの経緯だ。長くはなるが、忍耐と言う物は大事だ。

 偉人の言葉に「鳴くまで待とう時鳥」と言う言葉がある。首を長くして待とうじゃないか。




第一話は、適当に書いた短編集に載せます。

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