復讐異世界旅行記   作:ダス・ライヒ

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祝! 劇場版リリカルなのは公開記念!(偶然だけど


リリカルなのは第一期編
今の英雄を救うため


「さて、今の英雄を救うために、過去に送る者は誰にしようか」

 

 何も無く、暗い世界で古めかしい服装をした怪しげな雰囲気を持つ青年が一人、強者のオーラを漂わせる二人の少女と死闘を演ずるシュンを、映し出された映像と思われる物で見ていた。

 青年はシュンだけでなく、自分が選んだ他の戦士たちが戦う様子を見て、その今の英雄を守るために、過去の世界へ送り出そうとする戦士をどれにするか、手に顎を添えながら悩んでいる。

 数分間、選ばれたことも知らずに戦い続ける戦士たちを見て、青年は人選が完了したのか、顎から手を離して過去に送る者を決めた。

 

「その少女の今を守るために、過去に行くのはお前だ。瀬戸シュンよ」

 

 選んだのは、その青年が言う今の英雄である少女と死闘を演じているシュンだ。彼は映像に映るシュンに向けて手を翳した。

 

 

 

 一方で、シュンは正体も分からぬ青年に、選ばれたことも知らず、阿吽の呼吸の如く、見事な連携で迫ってくる二人の少女に苦戦を強いられていた。

 まともに反撃も出来ず、ただ防戦一方であり、魔弾を撃ってくる栗毛の少女の攻撃を受け続けて体力を奪われ続ける。

 何故、彼女らが一思いにやらないのかは、殺人を躊躇っているからであろう。

 自分等をこの世界に呼ばせた指揮官であるユリアナはこれに苛立ち、拡声器で叱咤された。

 

『馬鹿者! 殺す気でやれ! そいつは腕や脚の一本でも吹き飛ばさない限り止まらんぞ!!』

 

「なのは、気にすることは無いよ。私たちは私達のやり方で」

 

「うん、フェイトちゃん。このままでも十分」

 

 叱咤される二人であるが、今のシュンの状態からして余裕であり、無理に四方を引き千切ってまで捕らえる必要はないと自己判断する。

 それが彼女らのやり方なのだ。四方を引き千切る行為は、なのはとフェイトと呼ばれる少女らの流儀に反する行いだ。

 これをユリアナは甘ったれた物として判断し、拡声器から口を離して部下にあれはどうにかならないのかを問う。

 

「なんて甘い連中だ。あれが過去に我が軍を恐れた白い悪魔と電光だと言うのか?」

 

「お嬢、あの嬢ちゃんたちは誰も殺しちゃいませんぜ。それに威張り腐った騎士共があーだこうだのいって付けた渾名でさ。そんでもって何言おうが、変わりもしませんぜ」

 

「そうか。だが、順調に進んでいるようだな。もしかすれば、上手くいくかもな。後で度胸試しに銃による射撃訓練に出そう」

 

 部下からなのはとフェイトのことを聞き、ユリアナは目前で行われている順調な成果に満足した。

 後で度胸を付けるために銃火器の訓練を受けさせようと言えば、捕縛が上手く進むように無言でハンドサインを出して、鎖の用意をさせる。

 屋上のブラドに対しては、封印術を込めた鎖で拘束しており、それをヘリコプターで輸送している所だ。

 シュンに関しては、ブラドと同じような魔法を施した鎖を使用する。

 こうして、徐々にシュンがなのはとフェイトの阿吽の呼吸による連携攻撃で追い詰められる中、包囲している大盾部隊が、捕縛用の鎖を持った将兵らをこの籠の中へ入れるため、道を開けて彼らを入れる。捕縛部隊が入ったのを確認すれば、大盾を持つ兵士らは元に戻るようにその籠を閉じた。

 

「よし、敵は虫の息だ! このまま一気にやれ!」

 

 もはや立つのがやっとの状態となったシュンを見たユリアナは、背後に控えている捕縛部隊に、一気にやれと命じた。

 このまま鎖を全身に掛けられ、拘束が出来ると思ったユリアナであったが、シュンは背後から迫る鎖を持った集団に気付いており、巨大な刃をそちらに振って前に出ている数名を惨殺する。

 

「わぁ…!?」

 

「っ!?」

 

 後ろから鎖を掛けようとした数名が、たったの一振りで惨殺されたのを見て、二人は戦慄して攻撃を止めた。

 初めて人が、それも惨たらしく胴体が宙を舞ったのを見て、衝撃の余り吐いてしまう。

 これにはユリアナも、意味は違うがまだ動けることに驚きを隠せなかったようだ。

 

「ま、まだ動けると言うのか!?」

 

 もう少しで倒せるかと思っていたが、まだ動けたことに衝撃を受けた為、慌てて指示を出すユリアナだが、当のシュンはその隙を見逃さず、逃走経路を確保するために後ろへ逃げる。

 

「こ、こっちに来たぞ!」

 

「か、構えろ!」

 

 数名を惨殺したのを同じく見ていた包囲部隊は、シュンがこちらに来たことに怯え、足並みを崩し始めた。なのはとフェイトの方は、初めて見る惨たらしい死体のショックにまだ立ち直っていないのか、立てなくなっている。

 シュンは逃走経路を確保するためになのはとフェイトの攻撃で傷んだ身体に鞭を打ちながら、足並みを崩している包囲部隊に突っ込む。

 機関銃や狙撃による銃撃が始められたが、予想外に素早く動くシュンに当たらず、大盾部隊に大剣を振り下ろされた。

 

「ウワァァァ!? せ、戦車の砲撃を防ぐ盾が!?」

 

「戦車か。こっちは馬鹿デカいロボットをぶった切れる大剣でな!」

 

 防げると思った兵士たちであったが、振るわれた巨大な刃に居る兵士たちは盾ごと斬られ、血飛沫を上げながら宙を舞った。

 これに怯まずに、控えていたライフル部隊が射撃を開始したが、落ちている盾を拾い上げたシュンに防がれる。だが、大剣で斬った際に幅が減ってしまったので、数発ほど被弾する。

 

「(クソッ、食らい過ぎた)」

 

 当たり所が悪かったのか、地面に両膝を付けてしまい、血を流し過ぎた影響なのか、上手く立ち上がれない。

 

「血が足りねぇ…!」

 

「やったぜ! 首元に命中だ!」

 

「鎖を持って来い! 動き出す前に拘束しろ!!」

 

 立ち上がれなくなったことを良い事に、大勢の兵士等が集まり、自分に向けて無数のAR-15系統の銃口を向けている。

 下手に動けば、一瞬にしてハチの巣にされること間違いなしだ。

 ようやく立ち直ったのか、なのはとフェイトはお互いの身体を抱き抱えながらシュンの元に来る。

 

「(あの茶髪の嬢ちゃん、何処かで見た覚えがあんだが…?)」

 

 死の前触れなのか、抵抗することを諦めたのか、なのはを見て、見覚えのある人物であると分かり、思い出そうと過去を振り返る。

 数秒間、四年から七年の出来事を振り返ってみれば、任務中に作戦を無視して助けた少女のことを思い出す。

 

「あぁ、そうだ。あの嬢ちゃんは管理局に働かされて、死に掛けてた嬢ちゃんだ…まだ居たんだな」

 

 なのはが、かつて自分が任務を無視して助けた少女が成長した人物であると分かり、それを思わず口にした。

 

「なんだ、捕まる直前でオツムでもおかしくなったか? おい! 早く鎖を持って来い! こいつをお縄にするんだよ!!」

 

 近くに居る兵士に聞こえて来たのか、追い詰められたショックで狂ったと思われる。

 彼の指示で捕縛部隊の死体から鎖を回収した兵士たちが、それをシュンに掛けようとした。

 

「うわっ!? な、なんだこれは!?」

 

 だが、鎖を掛けようとした瞬間に、シュンの足元に謎の黒い空間が現れ、彼だけを連れ去る。右手に離さずに持っていた大剣も一緒だ。周りの兵士は誰一人連れて行かずに。

 

「て、転移魔法か…!? 本部に連絡しろ!」

 

 捕らえるのを一目見ようと、現場に来ていたユリアナは、無線機を背負っている女性通信兵に、転移魔法の類を使ったかどうかを確認しろと命じた。

 この命令を即座に実行した通信兵だが、彼女が期待している回答では無かった。

 

「ま、魔力反応…無しです…」

 

「魔力反応が無いだと!? ば、馬鹿な…!? あれはどう見ても魔法だぞ…!」

 

 報告で魔法では無いと分かれば、ユリアナは更に困惑する。

 

「謎の転移魔法、消えました!」

 

「直ぐに解析班を呼べ! 奴を連れ去った正体を確かめるのだ!」

 

 シュンを何処かへ連れ去った黒い空間が消えたとの報告が入れば、ユリアナは直ぐに解析班を呼ぶように通信兵に指示を出す。

 彼女がその命令を実行すれば、ユリアナはシュンが消えた方向を見ながら親指の爪を噛む。

 

「一体、何が起こったと言うのだ…!?」

 

 苛立ちの言葉を吐き、持って来た水を飲んでいるなのはとフェイトを見た。

 上官とも言うべきユリアナに睨まれた二人は、震えながら彼女に振り向いたが、分からないと首を横に振る。

 自分等よりも魔法に長けている管理局も知らない魔法と分かると、ユリアナは更に苛立ちを増させた。

 

 

 

「なんだここは…?」

 

 何所の誰か?

 追い込まれた場所から何者かの手によって救い出されたシュンは、目前に広がる光景を見て驚きの声を上げた。

 そこは、自分が良く知る街、それも過去で生まれ育った街が、細切れとなって廃墟のような物となって虚無の空間に浮かんでいる光景だ。

 それだけでなく、自分が今までに身を投じて来た数々の戦場がまるで等身大のジオラマのように時が止まった物まで浮いている。これには数々の超常現象を見て来た流石のシュンも、言葉を失う他なかったようだ。

 大剣を握らず、前の世界より持って来たFNハイパワー自動拳銃をホルスターより取り出して握り、安全装置を外してから道となるように浮かんでいる瓦礫の上をシュンは歩いた。

 

「今度は一体どの世界だ?」

 

 段差を上がりながら、足元より落ちないように歩きつつ、周りの景色を眺め、次はどんな世界に来たのかとシュンは思いを巡らせた。

 彼が最初に来た世界はネオ・ムガルによって麻薬漬けにされた人々が暮らす街。その次は第二次世界大戦の運命を分ける戦いである西暦1941年十二月のモスクワの戦い。三番目の世界は未来的な文明の殆どを排除し、中世ヨーロッパの文化を重んじる惑星ワラキア。

 四つ目はこの虚無のような世界に訪れる前に、ワラキアより次元断層で来た武装探偵と呼ばれる者達が治安を担う自分の知る世界によく似た銃で溢れた世界だ。

 そして今は、自分の良く知る光景がジオラマのように浮遊島のように浮かんでいるシュールな世界に来ている。

 辺りに広がる光景を目にしつつ、シュンはベンチのある島まで辿り着いてから、そのベンチに迷わず腰を下ろした。

 

「どうなってんだ? この世界はよ」

 

 意味が分からない世界観が広がる光景に対し、シュンはそう問うが、答える者は誰も居ない。

 何かしようと思って大剣からラックを外して、地面に置こうとした瞬間に、この世界の住人とも言えよう人物がシュンの目前に現れた。

 

「っ!? 誰だテメェ!?」

 

 即座に現れた謎の人物に対し、置いていた大剣を拾い上げて剣先を向ける。

 剣先を向けている先に居るのは、眼が黒い古めかしい服装をした青年だ。剣先を向けられているにも関わらず、怖気づくことも無く、ただずっとシュンを見ている。それだけでない、彼は地に足を着けずに浮いているのだ。

 そんな摩訶不思議な青年に対し、シュンは警戒を緩めず、ずっと剣先を向けているが、青年は気にせずに話しかけて来る。

 

「まぁ、当然の反応だな。ここは虚無の世界だ。お前の目には、かつて訪れた二名と同じ光景に見えているようだが」

 

 ベンチに座ってから呟いた問いに、青年が答えれば、シュンは剣先を向けながら名を問う。

 

「場所の事は良い。で、あんた何者だ?」

 

「これは失礼した、瀬戸シュンよ。私の名はアウトサイダー。神と悪魔の融合体とでも言っておこうか。少なくとも、お前の敵では無い」

 

 シュンは自分の名を何故か知っているアウトサイダーと名乗る青年に、警戒を強めたが、彼は敵対する気は無いと告げる。

 

「で、何の用で呼んだ? 俺をこんな不気味な場所に呼び出したのはあんただろ?」

 

「如何にも、お前をここに呼んだのはこの私だ。ある用件を果たしてもらうためにな。その用件を受諾するか? シュンよ」

 

 敵対する気が無いと分かれば、シュンは大剣を元の位置に戻し、何の用件でこの世界に呼び出したのかをアウトサイダーに問えば、彼はある用件を果たしてもらうためと答えた。

 受けるか否かを問うてくるアウトサイダーに対し、シュンはこの不気味な青年の用件を断れば何をされるのか分からないので、要件を呑んだ。

 

「あぁ、良いぜ。あの状況から救ってもらった恩もあるしな。で、俺に何させようてんだ?」

 

「恩義を重んじる義理堅い男か。良かろう、お前にやって貰う事は、過去へ行き、今の英雄を守る事だ」

 

 用件を呑んだシュンは、何を自分にやらせるのかを問えば、アウトサイダーは過去に行って今の英雄を守れと告げる。

 

「あっ? 今の英雄を守れ? 何言ってんだ?」

 

「失礼した。今の英雄とは、管理局の白い悪魔と異名を持つ最強の魔導士、高町なのはの事だ。かつてお前が死の淵より救った少女であり、この世界に呼び出す前に、お前と戦った少女の名だ」

 

 今の英雄を守れと言われ、意味が理解できないシュンは、もう一度問えば、アウトサイダーは今の英雄は高町なのはと呼ばれる少女である事と、かつてシュンがワルキューレに居た時に、任務を無視して命を救った少女であると明かす。

 名前が分かった後、シュンはどういう経緯で過去に行って彼女を助ける意味をアウトサイダーに問う。

 

「そういう名前だったのか。で、なんだ? 過去に行って助けろって言うのか?」

 

「左様、過去へ行き、命を狙う者達から彼女を守るのだ。何名かの助っ人も用意している」

 

「命を狙う? なんでわざわざ過去に行って殺そうとするんだ? 一体何所の馬鹿だ?」

 

 助っ人も用意していると答えるアウトサイダーに対し、シュンは次に誰が過去に行ってなのはを殺そうとしているのかを聞いた。

 

「ネオ・ムガルだ。彼らは今の高町なのはを倒せんと判断してか、まだ魔導士としては半人前で、魔導士となったばかりの九歳の頃の彼女を暗殺せんと刺客を送ったようだ」

 

「ネオ・ムガル…!」

 

 まだ魔導士として未熟だったころの九歳の時のなのはを暗殺しようとしているのが、ネオ・ムガルだと分かれば、シュンは表情を強張らせた。

 どうやら今の彼女が倒せないと踏んで、邪道に走ったようだ。そんなシュンを見てか、アウトサイダーは更に続ける。

 

「禁忌とされている魔法を使い、過去へ行ったようだ。おそらくたった一度のチャンスに賭けたのだろう。だが、彼女を殺して今と未来を変えるなどご法度だ。シュンよ、過去へ行き、今と未来を守るのだ。最低限だが、お前に力を授けよう」

 

「応、良いぜ。自分の都合の良いように捻じ曲げるような奴は嫌いでな、そいつ等を皆殺しにしてやるぜ」

 

 今と未来を守れとアウトサイダーから言われたシュンは、仇のネオ・ムガルの計画を邪魔できると意気込み、その用件を受けた。

 

「交渉成立だな。では、お前に管理局の言うデバイスを授けよう。古い物だが、空中戦になるかもしれん。持っていた方が良いだろう。それと、他に人知を超え、物理法則を捻じ曲げる超能力をお前は欲するか?」

 

 シュンが意気込んで用件を受け入れたのを確認すれば、アウトサイダーはこれから必要不可欠となる管理局で主に戦闘用に使用されるデバイスを授けた。

 彼が旧式のデバイスを手に取れば、次に人知を超える力を欲するかどうかを問う。

 普通の人間なら、この力が手に入るのであれば首を縦に振るが、シュンは自分の力だけで復讐を果たすつもりなので、首を横に振った。

 

「いや、この復讐は俺の力だけでやるつもりだ。んなちゃちな能力は犬か鼠にでもくれてやりな」

 

「ほう、自らの力のみで復讐を果たすのか。それも良かろう。では…」

 

「おっと、そいつは待った。こいつを丁度いい重さにしてくれねぇか? それと鞘は必要ねぇよ。一々仕舞うのが面倒くせぇ」

 

 自らの力のみで復讐を果たすと答えるシュンに、アウトサイダーは大変感心して早速、彼を過去の世界へ送り込もうとしたが、待ったが掛かる。

 それはシュンが自分の大剣であるスレイブの重さを、丁度いい重さにしろと言う頼みだ。

 これに疑問を抱いたアウトサイダーは、何故に自分の得物を重くするのかを問う。

 

「変わった男だな。その大剣はお前を気に入り、片手剣のように震えるような重さをしているのに。本当に良いのか?」

 

「良いんだよ。こんなに軽々しく振るえたら調子狂うだよ」

 

「そう言うなら仕方が無い。どのような重さにするのだ?」

 

「あぁ、そうだな。ツーハンデッドソードって言うのがあるだろ? あれの六本分だ」

 

 問いに対し、シュンは軽過ぎて調子が狂ってしまうからと言う理由で答えた。

 自分が授ける力を欲さないシュンが代わりに出した頼みが、スレイブを重くすると言う物なので、アウトサイダーはそれを承諾してどのような重さにするかを問う。

 これにシュンは、実戦向きのツーハンデッドソードの六本分の重さにしろと注文を付ける。

 その重さは、自分がスレイブを使う前に使用していた失敗作と言う烙印を押された剣「対戦車剣」より重い代物で、幾ら大柄のシュンでも振るえるかどうか不明な程の重さだ。

 そんな重さにしろと言うのだから、アウトサイダーは理解しかねなかったが、言われた通り、スレイブを注文通りの重さにする。

 

「お前の剣を、言われた通りの重さにした。元の重さより半分ほど軽いが、片手で振り回せるのか?」

 

 元より半分近く軽いとはいえ、それでも重い大剣を片手で振るえるかどうか疑問に思うアウトサイダーであったが、シュンは迷いなく柄を利き手で握り、それを両手剣のように振り回した。

 

「おぉ、この位の重さだ。サンキューな、黒目」

 

「ほぅ、少々知能は常人より劣るようだが、体力と筋力だけは常人より遥かに優れているようだな」

 

「良く言われるぜ」

 

 自分の思った通りの重さになったことを、無礼に自分が付けた渾名で呼びながら礼を言えば、アウトサイダーは気にすることなく、皮肉を込めた返しを含めつつ、体力と筋力は常人より優れているとシュンを褒める。

 次にシュンは、この大剣を懐へ仕舞えるほどに、小さくできないのかを頼む。

 

「んで、次はこいつをポケットの中に仕舞えるくらいにしてくれねぇか。こんな物騒なもんを持っては流石に外なんてうろつけねぇ。戦う時だけに元に戻すことなんて出来るか?」

 

 これにアウトサイダーは理由を聞かず、シュンの注文通りにスレイブを自在に小さくしたり、大きくできるように魔法をかけた。

 

「お安い御用だ。お前の意思で、その大剣はポケットに仕舞えるほど小さくなり、必要な時は元のサイズに戻せる」

 

「おぉ、ありがとな。で、餞別のこいつだが…」

 

 自由に大剣を収縮自在に出来るようになったのを確認すれば、手渡された古いベルト型のデバイスをどうやって使うかを問う。

 

「このベルトはどう使うんだ? 着けるだけか?」

 

「うむ、お前は着けるだけだ。そのベルトがお前に魔力を授ける。少し弱いが」

 

 着けるだけ魔力が得られるとアウトサイダーが答えれば、シュンは腰にそのベルト型のデバイスを着けた。

 

「で、着けてどうする? 何も感じねぇが…」

 

「それで良い。そのベルトから与えられる魔力で、お前は強敵とある程度は戦うことは出来る。ただし、魔力は無尽蔵では無い。魔力的な物で定期的な補給が必要だ。それに注意しろ」

 

「そう都合が良い話はねぇか。で、どうやって魔力的なもんを見付けるんだ?」

 

「周囲に漂う魔力を触れて集めれば良い。だが、それでは時間は掛かる。かなりの魔力量を高めたいのなら、かなりの魔力を秘めている物をベルトのコアに近付ければいい」

 

 問いに対して着けているだけで魔力が得られるが、定期的な魔力の補充が必要であると答える。これにシュンは、その魔力的な物をどうやって手に入れるのかを問えば、アウトサイダーは補給方法まで答える。

 

「そうか…で、これ着けてるだけで飛べんのか?」

 

「いや、飛べない。飛びたければ、そのベルトをこのメダルを差し込み口に入れ、ダイヤルを回し、バリアジャケットを身に着けなければ、お前は鳥のように自由に空を飛ぶことは叶わない」

 

「へぇ、このメダルをここにか…。やべぇ女装かだっせぇ衣装にならないか心配だな」

 

「女装? だっせぇ衣装? 何を言っているのだ?」

 

 最後にシュンは、どうやって空を飛ぶのかを聞いた。

 この条件を、アウトサイダーはベルトの中央にある差し込み口にコインをはめ、中央の左側にあるダイヤルを回せば、バリアジャケットを身に纏い、空が飛べると答える。

 シュンはバリアジャケットを身に纏った際に、なのはやフェイト、それに他多数の着ているバリアジャケットのようにならないかと心配の声を上げたが、これにアウトサイダーは理解できなかったようだ。

 そろそろ行かねば、まだ未熟ななのはが殺される可能性があるので、シュンは過去への道を開くように、アウトサイダーに頼む。

 

「さて、後は俺のバリアジャケットの心配が残るが、ぼちぼち行かねぇとな」

 

「あぁ、早く行かねばまだ幼い高町なのはを、ネオ・ムガルの刺客たちが殺めてしまう可能性がある。急いだ方が良いな」

 

「そう言う事だ。さぁ、タイムトラベルしてくれ。あんたの用件を果たしてくる」

 

「承った。期待するぞ」

 

「期待ね。安心しな、ネオ・ムガルを徹底的に叩いてくるぜ」

 

 過去への道を難なく開いたアウトサイダーに期待を寄せられば、シュンはそれ以上の働きを見せると答え、まだ魔導士としてなったばかりの高町なのはの居るかこの世界へと旅立った。

 彼が過去へ続くトンネルへと消えたのを確認すれば、アウトサイダーは先にその世界の状況を確認するために、映像を空間に浮かび上がらせる。

 

「瀬戸シュンよ、これからの次元世界の未来はお前の双肩に掛かっている。過去と現在(いま)、そして未来を守るのだ」

 

 そう自分が見ている過去へ向かったシュンに言えば、アウトサイダーは、目にしている映像に映る未来より来たイレギュラー達に襲われているまだ魔導士としては未熟で、幼い高町なのはを見守った。

 

 

 

「良いぞ! 暗殺作戦は予定通り進んでいる! このまま行けば、後数カ月後で我がネオ・ムガルの勝利は永劫の物だ!!」

 

 渦中の問題となっている過去の世界にて、一人の懐中時計を持ったおかっぱの男が、空を飛ぶ四名、おそらくネオ・ムガルの魔導士が件の人物で暗殺の対象である九歳の高町なのはを追い込んでいるのを見て、自分等の勝利を確信していた。

 当時のなのははまだ偶然の成り行きで魔導士になったばかりであり、上手く魔法を扱えていない時期だ。

 この時より強大な魔力を秘めていたが、扱えなければ意味が無い。

 後にこれを我が物とし、最強の魔導士となったわけだが、同時は魔導士になったばかりで、今のなのはは倒せないと判断したネオ・ムガルに、その時を狙われたのだ。

 

「なのは! クッ、こいつ等は何なんだ!? 僕の知らない魔法を使って!」

 

「お前も死ね! ユーノ・スクライア!」

 

 地上で彼女のサポートと務めているフェレット、本来は人間の少年であるが、魔力不足と治療のために動物の姿となっている。

 そんな彼は、管理局の物でも無く、失われた魔術でも無い知らぬ魔法を使うネオ・ムガルの魔導士たちの攻撃に困惑し、巻き込んでしまったなのはを救えず、一人の魔導士に追い詰められる。

 

「ユーノ君! わぁっ!?」

 

「うっひゃっひゃっひゃっ! よそ見すんなよお嬢ちゃん!」

 

 一方的に攻撃されるユーノのことが心配となり、彼の居る方向へ視線を向けるなのはであるが、彼女を付け狙うネオ・ムガルの魔導士は、未来の彼女に散々やられてきた経験があるのか、下品な笑い声を上げながら銃型の魔導具で攻撃する。

 連射力は凄まじく、それに毒も含んでいるので、幼いなのはに掠れば致命傷となる。それをユーノのサポートで知った彼女は、必死にそれを避けながら反撃を見出そうとするが、他の三名が邪魔をしてくる。

 

「おい! 俺にも楽しませろよ! その女には散々やられてきたからな!」

 

「うるせぇ! 俺が先だ!!」

 

「なんなの、この人達!?」

 

 邪魔をした三人のうち一人が自分にもやらせろと言ったが、追い込んでいた魔導士は入るなと怒鳴る。それを見ていた幼いなのはは、困惑して戦意を損失し始める。

 これは地上に居る懐中時計の男も目撃しており、いたぶってなのはを殺そうとする四名に喝を飛ばす。

 

「お前たち! 嬲殺しにしてないので早く殺せ!! 早くしなければ、推定九十分後にこの時代の管理局のパトロール部隊に嗅ぎ付けられる可能性がある!」

 

「九十分? まだあるでしょ!」

 

「喧しい! これが十分や五分になる可能性があるのだ! 早くやってしまうのだ!」

 

 懐中時計の男が出した管理局が駆け付けて来る時間を聞けば、四名の魔導士はまだ余裕がると調子に乗り出したが、予想を遥かに上回る時間で駆け付け来る可能性があると言って早く殺してしまうように怒鳴り告げる。

 

「ちっ、輪してやろうかと思ったが、つまらねぇ野郎だ。おい、お前ら! 早く殺して…」

 

「なんだ、過去まで行って餓鬼相手一人に遊んでもらってんのか。お前らは?」

 

『っ!?』

 

「な、何者だ!? 九歳の高町なのはの暗殺が約五分の遅れが生じてしまうではないか!?」

 

 怒鳴る指揮官である懐中時計の男に、落胆しながらも、魔導士は早くなのはを殺そうとしたが、突如となく乱入してきた男の声が聞こえた為、手を止めて聞こえた方へ見た。指揮官も、五分の遅れが生じるが出ると言いながら同じ方へ振り返る。

 そこに居たのは、アウトサイダーの手でこの過去の世界へやって来た異世界を渡り、復讐の旅をする男、瀬戸シュンの姿があった。

 

「お、お前は!? 捕獲対象の瀬戸シュン! 何故にこの世界に!? 奴にタイムトラベラーの能力は無い筈だ!」

 

 

 

 懐中時計を肌に離さず持っている指揮官は、シュンの情報を把握して居たようだが、彼がこの過去の世界に現れたことに驚きを隠せないでいた。

 どうやら、ネオ・ムガルはアウトサイダーについて何も知らないようだ。

 突然に現れたイレギュラーに対し、指揮官は近くで獲物を片手に雑談を交わしているモヒカン頭の咎人らに、直ぐにシュンを殺すよう指示を出す。

 

「お、お前たち何をやってる!? 早くその男を殺せ!!」

 

 これに応じ、モヒカン男達は危険な得物を振り回しながらシュンを殺しに来る。

 向かって来る複数の無法者らに対して、シュンはポケットに収まるほどの小さくなったスレイブを懐から出し、右手に握る。

 

「さぁて、ぶっつけ本番と行きますか…!」

 

 目前より迫り来る格好の獲物たちを見てそう吐けば、シュンはスレイブを等身大の大きさへと戻した。

 右手に柄が握られれば、恐ろしい重さが右手に襲ってくるが、シュンに取っては望んでいた重さであり、これにより彼は存分に戦うことが出来るのだ。

 

「きゅ、急に大剣が!?」

 

「構わん! 殺してしまえ!!」

 

 大剣がシュンの右手から出て来たことに驚くも、指揮官は構わずに殺せと命じる。

 それに合わせて三名が獲物を振り翳さんと飛び掛かって来たが、シュンは巨大な鉄塊を横に一振り振っただけで、その三名は血煙を上げて肉塊と化した。

 

「お、おぉ…!?」

 

「あの黒目野郎、切れ味が良すぎじゃねぇか。勝手に強化しやがったな。まぁ、これは良いが」

 

「死ねやぁ!!」

 

 瞬く間に三名が肉塊と化したのを見て指揮官は驚愕すれば、シュンは自分の期待通りの重さに感心したが、切れ味の良さに中半納得が行かなかったようだが、軽過ぎるのは良くないので、これはこれで良しとして、背後より鉤爪で斬り掛かって来る二名をその大剣で纏めて叩き斬る。

 

「あいつが何でこんな場所に!? それに噂よりも強いぞ!」

 

「こ、今度は誰なんだ…!?」

 

 この光景をユーノも見ていたのか、自分を嬲り殺そうとしていた魔導士と同じ方向を見て、彼も驚きの声を上げていた。

 突然現れては、下に居る五人のモヒカン男を大剣で肉塊へと変えた男の存在は、空中でなのはをいたぶっていた魔導士らも、地上を見て驚きの声を上げる。

 

「赤い…煙…? 今度は一体なに…?」

 

 なのはも同様に見ていたが、良く地上の様子が血煙の所為で見えていないのか、何が起きたのか理解できないでいる。

 そんな助けるべき少女に怖がられているとは知らず、シュンは次なる行動に出る。

 自分のバリアジャケットを身に纏おうと言うのだ。ベルトを腰に着け、メダルを挿入口に入れ込み、ダイヤルを回そうとする。

 

「よし、次は魔導士の一張羅だ。確か、このメダルをここに居れて、ダイヤルを回すんだっけな」

 

「魔導甲冑を身に着けるつもりか!? させるな! 撃つのだ!!」

 

「りょ、了解!」

 

 シュンがバリアジャケット、ネオ・ムガルで言えば魔導甲冑を身に着けると分かった指揮官は、上空や地上に居る魔導士らに、纏う前に殺してしまえと命じる。

 先の五名を同じ運命を辿るかもしれないので、魔導士らはそれに応じ、優先順位をなのはからシュンに切り替え、バリアジャケットを纏おうとするシュンに魔弾による集中砲火を浴びせた。

 凄まじい雨のような魔弾がシュンに浴びせられ、その衝撃で煙が巻き上がり、彼の生死が不明となる。

 

「やったか!?」

 

 あれほどの攻撃を受ければ、単なる肉塊へと変わったと思い込んでいる指揮官は、シュンを殺したと思ったが、煙が晴れた後の成果を見て、表情が勝利を確信した勝者の顔から、絶望へと突き落とされた表情へと変わる。

 指揮官をそんな表情に変えた煙が晴れた先に見えたのは、動きやすく設計された黒い甲冑を身に着け、黒いマントを纏い、大剣を利き手に握った大男の姿だ。

 彼の名前は言う訳でも無く瀬戸シュン、アウトサイダーより与えられたデバイスで、この漆黒の剣士のような姿となったのだ。

 初めて身に纏うバリアジャケットに、周りを忘れて少々驚いているシュンだが、今は戦場なので、自分が変身したことに驚きを隠せないネオ・ムガルの魔導士らに殺意を向ける。

 

「バリアジャケット…!? 管理局の物じゃない…何者なんだ…!?」

 

 更にバリアジャケットまで身に着けたので、ユーノは既に混乱の極みであった。

 なのはも同様で、自分と同じだが、何か違う別の、それも邪悪なような物をシュンから感じて怯え始める。

 

「黒い…バリアジャケット…? でも、なんか怖い…!」

 

 護衛対象にまた怖がらせる原因を作り出しているとは知らず、シュンは初めての経験である空中戦をしようと、足を踏ん張らせた。

 

「おっしゃ、空中戦、初めてだがやってみっか!」

 

 そう意気込んでから、シュンは地面を思いっ切り蹴り込み、空を飛んでいる四名の敵の魔導士に向けて空を飛んだ。




シュンのバリアジャケットのイメージ。

ベルセルクの黒い剣士のガッツです、はい。

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