復讐異世界旅行記   作:ダス・ライヒ

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これで緋アリ編終了です、はい。


巨躯

「けっ、ツマラネェ雑魚ばかりだ」

 

 シュンが謎の薬を左腕に打って怪物となった富士原議員を暗殺、否、大剣で殺害したのと同時刻、奇抜な服装をした粗暴な男が、銃弾すら弾く甲冑を身に着けたワルキューレの騎士たちや管理局の武装局員、それに統制機構の衛士らを武器も持たず、己の両方の拳に付けたグローブのみで打ち倒していた。

 数十名が彼の身に着けているグローブによるパンチを受けて死亡しており、何名かは生きている物の、既に虫の息だ。彼らの身に着けている衣服や甲冑は、丈夫な素材で出来ているが、男のグローブはそれを貫ける威力を持っているようだ。

 動ける一人が強力な敵が新たに現れたことを知らせようと、近くに落ちている通信機を拾おうと身体を這いずらせる。

 

「し、知らせなくては…!」

 

 そう通信機に手を伸ばそうとする瀕死の隊員であったが、男に見付かり、頭を踏み潰されて殺された。

 

「なんだァ、こいつ等ァ? 張り合いのねェ連中ばかりじゃねぇか。俺を勝手に生き返らせた連中は、こんな奴らに手こずってたのか?」

 

 自分にとっては張り合いが無さ過ぎたのか、苛立ちながら自分を勝手に蘇らせた連中、即ちネオ・ムガルに対しての悪態をつく。この男は、過去に罪を犯して死んだ咎人と言う事だ。

 

「たくっ、こんな時にシーナが居ればなァ」

 

 生前、共に行動していた女性の名を口にしつつ、苛立ちながら自分の古巣へと戻ろうとした。

 そんな時に、彼が左耳に付けている小型無線機にネオ・ムガルに属する男からの連絡が入る。

 

「あァ? なんだァ?」

 

『ゲッテムハルトよ、我は貴様ら咎人を現世に蘇らせた死霊使い。ワルキューレやそれに組みする者達を倒したか?』

 

「あいつ等の事か? あぁ、みんなぶっ倒したぜ。何名か生きてる奴が居るが、その内クタバンだろ。で、今度は俺に何をさせるつもりだァ?」

 

 ゲッテムハルトと呼ばれた男は、自分に連絡を掛けて来た死霊使いと呼ばれる男に、ワルキューレが送り込んだ合同討伐隊を倒したのかと問えば、倒したと答えて次に何をさせるのかを問うた。

 

『リガル様の一人娘、ハバーム様と護衛達と共に勇者を討伐するのだ』

 

「なぁにィ、俺に子守をしろだァ? テメェ、いい加減に…グッ、グァァァ!?」

 

 ネオ・ムガルのリーダー、リガンの一人娘であるハバームと護衛達と共に、勇者、即ちルリを討伐するように指示を出す死霊使いに対し、ゲッテムハルトは子守を押し付けられたと思って断ろうとするが、咎人である彼らに拒否権は無く、従うしかない。

 その証拠に、ゲッテムハルトに激しい頭痛が襲い掛かって来た。これは、死霊使いの超能力であろう。激痛の余り、ゲッテムハルトは頭を抑え、苦しみ始める。

 

『もう一度言う、ハバーム様たちと共に勇者を討伐するのだ! 咎人である貴様に拒否権は無い!』

 

「く、クソッ! 分かった! 分かったからこいつを止めてくれェ!!」

 

『よかろう。貴様らは我らネオ・ムガルの奴隷なのだ。主人である我らに奴隷風情の貴様らが異議を唱えるなど以ての外だ。今の激しい頭痛で身に染みたであろう。では、早く取り掛かるのだ!』

 

「畜生…! 勝手に蘇らせた挙句、好き勝手に扱き使いやがって…!!」

 

 通信が切れれば、ゲッテムハルトは頭痛から解放されたが、自分を勝手に蘇らせて奴隷のように扱うネオ・ムガルに、生前以上の憎しみに駆られつつあった。

 そんな時に、彼の中に潜む生前に憎み、復讐の対象であった者が語り掛けて来る。

 

『何とも情けない。それでも我の憑代とする男か』

 

「う、うるせェ…! テメェは引っ込んでいろ…! これは俺の問題だァ…!!」

 

『フフフ、その様子では、長くは持ちそうもあるまいな。いっそのこと、我、ダークファルス・巨躯(エルダー)に身を委ねてはどうだ?』

 

 語り掛けて来るのは、ゲッテムハルトの死後に彼の分身とも言える存在ともなったダークファルス・エルダーだ。

 生前、ゲッテムハルトが身体と自我を取り戻したが、他のダークファルスと交戦した際に、エルダーと共に相手の同じダークファルスに呑まれて死亡した。

 そんな制したはずの相手に、「我に身を委ねろ」と言われたゲッテムハルトは、思うがままにされていた屈辱を思い出し、それに抵抗し始める。

 

「煩い、黙れェ! 俺の頭の中に入ってくるんじゃねぇ!!」

 

『ほぅ、このエルダーに頼りたくないとな。我とお前なら、ネオ・ムガル如き一捻りであろうに。まぁ、良い。深層の奥で貴様の醜態をじっくりと見物させて貰おう』

 

 宿主に怒鳴られたエルダーは、これに全く怯まず、深層の中へと消えた。

 自分に寄生しているエルダーが黙り込んだのを確認したゲッテムハルトは、任務を実行するために、左腕に付いてある端末を動かし、送られて来た座標を確認してからそこへ向かった。

 

「ここにもネオ・ムガルの魔の手が…! やはり、かの呪われた大剣を携えし男の存在ゆえか…! いや、ここにも連中の手が伸びることは明らか。これは回避しきれぬ事態だ」

 

 この様子を、ゲッテムハルトに気付かれることなく見ている年配の男が居た。

 その容姿は白人であり、髪には白髪混じりで、時代に似合わない服装をしていて何か道具を入れている手提げ鞄を大事そうに抱え込んでいる。

 

「こうなれば、英霊として現世に呼び戻された使命、果たさなくてはならんな」

 

 そう自分が強大な悪を倒すために現世に呼び戻された英霊であると語り掛ければ、年配の男は自分の能力なのか、その場から姿をまるで煙のように消して何処かに去った。

 

 

 

 富士原亭討ち入りより数日。

 シュンの姿は、横浜ランドマークタワーにあった。

 

「松方のおっさん、ここに餓鬼どもが保護者一人と一緒に来たビルか?」

 

 ビルの出入り口の前に立てば、シュンは背中の大剣と紐で吊り下げているAK-103突撃銃と言う完全装備のまま、携帯式無線機で松方にこのビルなのかを問う。

 

『そうだ。横浜の一番デッカイビルだぁ。ここの屋上で何やら怪しいことしそうだから、AK担いで職質に行ってこい』

 

「俺はポリ公じゃねぇんだけどな」

 

『良いからとっとっと行けってばよぅ。んで家に帰らせろ。高校生が外出する時刻をとっくに過ぎてるって言ってな』

 

「俺は見回りの補導になった覚えはねぇぞ」

 

 松方の返答でこのビルだと分かれば、彼はビルの屋上に居るとされるキンジ等を補導するように命じた。

これにシュンは苦い思い出を思い出しつつ、ビルへと入る。

 

「エレベーターとか待ってられねぇな。階段で良く」

 

『おい、階段で上がるとぁ、どういうこったい?』

 

「屋上まですげぇ高いが、訓練に比べれば余裕だな」

 

 ビルの屋内へと入ったが、エレベーターを待ってはいられないので、シュンは屋上まで階段で上がることにする。

 屋上まで凄い高さがあるのだが、シュンは特殊部隊に居た経験と連戦で培かった強靭な体力があり、汗一つ掻かずに屋上まで上がり切った。

 

「よし、屋上まであがったぞ」

 

『お、お前…息を切らしてねぇのか…?』

 

「あぁ? こんなの、余裕だろ」

 

 息も切らさず、汗一つ掻かずに屋上まで階段を上がり切ったシュンがそのことを報告すれば、本部でそれを無線で聞いていた松方は余りの凄さに言葉を失う。

 

『お、おめぇ、第一空挺団か…?』

 

「第一空挺団? あぁ、その前にそこに居た傭兵と戦ったことがあったな。かなり手強かったぜ」

 

 日本国内で、高層ビルの階段をシュンのように上がり切る事が唯一出来る人間である第一空挺団と彼に問い掛けるが、日本で生まれた訳じゃないので、元第一空挺団に属していた傭兵と戦った経験があると答えた。

 それに松方の返答は無かったが、シュンは気にせずに任務を始める。

 

「なんだ、揉め事か? あの小学生が新品のサブマシンガンを、二挺拳銃をやってるマセてる嬢ちゃんに向けてらぁ」

 

『マセてる…? 一体、どういうこってぃ?』

 

 屋上まで上がれば、そこで揉め事を起こしている一団を目撃して、本部に居る松方に報告する。

 その様子はこうだ。

 シュンが言うマセた少女が二挺のワルサーP99自動拳銃を、クリス・ヴェクターと呼ばれる最新式の短機関銃を持つアリアに向けている。

 アリアの御付き人であるキンジも、脅しのためか、愛銃であるベレッタM92F自動拳銃を向けていた。

 ルリは銃を抜かずにオドオドし、保護者としてついて来たあの犬屋敷でルリとアリアを助けに来たオーレリアンと思われるキザな剣士だ。

 彼も左腰に吊るしている剣に手を伸ばしていたが、少女を斬りたくない故か、抜こうともしない。

 

「なんか、一色触発状態だ。どうすんだ、おっさん」

 

『まぁ、全員お縄にしちまぃな。理由(わけ)は、所で聞けば良い』

 

「うぃーす」

 

 その様子を本部の松方に告げたシュンは、どうするのかを問えば、彼は全員を連れてこいと告げた。

 指示を受けたシュンは、屋上に居る全員を捕まえようと、吊るしてあるAKに手を伸ばそうとしたが、彼の視線に不審な男、それも東欧系の白人二名がルーマニアのAKモデルであるAIM突撃銃を抱えて何かの指示を待っている。

 

「おっ? なんだあいつ等ぁ?」

 

『どっちたの?』

 

「白人の男が二人、AKを抱えてらぁ。あいつ等もしめるか?」

 

『おぅ、しめてこい。ただし一人は生かしとけよ』

 

 再び松方の指示を仰いで出れば、シュンはそれを実行しに屋上の面々の者達を隠れて監視している二名の背後へ、ナイフを抜いて足音を立てずに近付いた。

 一人を一瞬の内に息の根をナイフで止めれば、もう一人の喉元にナイフの尖端を突き付け、何をしているのかを問う。

 

「おい、ロリコンの兄ちゃんよ。こんな所で身を隠して嬢ちゃんたちでも視姦してんのか?」

 

「ひっ、ひぃぃぃ…! お、俺はあの御方にここを監視しろと言われただけだぁ」

 

 ナイフを喉元に突き付けただけであっさりと吐いたが、自分の主人の名前までは明かさなかった。

 主人の名が分からないので、シュンは血が出たところまでナイフを突き刺して、主人の名を問う。

 

「で、あの御方って誰だ?」

 

「ぶ、ブラド様だ…! あの御方の名を聞いて、裏の世界じゃ怯えもしねぇ奴なんて一人も居ねぇ。あの嬢ちゃんたちも運がねぇ連中だ、あの御方に目を付けられれば、優秀な奴は最後の血の一滴まで搾り取られるぜ」

 

「おぅ、そうかい。そんじゃ死ね」

 

 ナイフを突きつけられ、主人の名を白状しながらも、男は自分の主人の恐ろしさを自慢げに語れば、シュンは少し苛立ったのか、ナイフを喉元に突き刺して息の根を止めた。

 そして、ルリ達の居る場所へと視線を向ける。

 目を離した隙に、状況は変わっていたようだ。それは眼鏡を掛けた顔立ちの整ったスーツ姿の青年が、シュンが言うマセた少女の口に片足を突っ込んでいるのだ。

 

「おいおい、どうなってんだ?」

 

『またどうしたってんだ? ションベンか?』

 

「いや、好かした面のセンコーが、マセた嬢ちゃんの顔に足を突っ込んでやがる」

 

『取り押さえろ。そんで足の一本でも圧し折れ』

 

「了解した」

 

 今、目前で起こっていることを知らせれば、松方の口調は怖くなり、それを受けたシュンは冗談も言わず、真面目に応じた。

 

 

 

「絶望が必要なんですよ、深い絶望がね…彼は絶望の唄を聞いて…どわっ!?」

 

 ルリやアリアたちの目前で、シュンが言うマセた少女、峰理子(みねりこ)の顔を踏みながら自慢げに自らの主人が来ることに喜びを青年は感じていたが、何者かが投げた重い物体を当てられ、床の上に倒れた。

 

「だ、誰だ!? ひっ!?」

 

 何かを投げ付けられた青年は、慌てながら周囲を見渡せば、自分に向けて投げられた物を見て表情が恐怖の物へと変わる。

 それはシュンが先ほど息の根を止めた白人の男の生首だ。青年の部下であり、保護者であるオーレリアンが何か行動を起こそうとした際の保険として忍び込ませていたが、二人揃ってシュンに殺された。

 青年に向けて生首を投げ付けたシュンが、笑みを浮かべながら一同の元へ姿を現す。

 

「貴様は、あの無礼な大男!」

 

「あ、あんた! 何所から湧いて来たのよ!?」

 

 オーレリアンがシュンを見て叫べば、アリアも何をしに来たと怒鳴る。

 それを気にせず、シュンはAKを握りながら青年、それも教師と見抜いてなぜ理子の顔を踏み付けていたのかを問う。

 

「おいおい、センコーよ。それが聖職者様のやることか? 生徒の顔を踏み付けるなんてよ」

 

「う、煩い! この無能がどうしたってと言うのだ!? ん、そうか、お前は…。ははは! お前の血を調べさせてもらったぞ! とんだ無能の塊じゃないか! それに知性も無いゴリラと同類だ! ただ単に殺すしか能が無い人殺しだ! この殺人鬼め!!」

 

「人の血を勝手に蚊みてぇに吸い取ってその言い草かよ。このモスキート野郎め。待ってろ、血が吸えないように、その減らず口を潰してじっくりと足の一本ずつ引っこ抜いてやらぁ」

 

 シュンからの問いに、青年は彼の血を勝手に調べ上げ、自分の言う無能であると蔑む。

 それを聞いて少しイラついたのか、AKの安全装置を外し、青年に向けて照準を向け、引き金に指を掛ける。

 青年へ向けてライフルを撃とうとするシュンの背後から、二匹の狼が襲い掛かって来る。

 だが、そんなことは気付いているので、AKを手放し、背中の大剣を素早く引き抜き、飛び掛かって来た二匹の狼を肉塊へと変えた。

 

「背後から飼い犬に襲わせるとはな」

 

「おのれぇ…! 次だ! そんな無能の肉の塊を八つ裂きにしてしまえ!!」

 

「あぁ? こいつら数日前の連中か。てっ、ことは小夜鳴って奴か」

 

 自慢の二匹の狼をシュンに肉の塊に変えられた青年は、次にあの大幅に身体能力が強化された人間を五人ほど繰り出した。

 その姿を見たシュンは、数日前の吸血衝動に駆られた超人たちを作り上げた人物が、目前に居る青年である小夜鳴(さよなき)であると分かる。

 

『ウェアァァァ!!』

 

 超人五名は口から唾液を流しながら、シュンを全方位から襲い掛かって来たが、この手の相手に慣れている彼は、的確に一人目の斬り付け攻撃を回避してから、大剣で肉塊に変え、その後に連続して攻撃してくる四人の超人を次々と大剣で一人目と同じ末路を辿らせる。

 

「すげぇってレベルじゃねぇ…化け物だ…!」

 

「アニメ見てる気分がしてきた…」

 

 僅か数秒ほどで、五人の超人を皆殺しにしたシュンを見たキンジと理子は、いま起こった事が現実とは信じられなくなる。それにアリアとルリは驚きの余り言葉を無くしていた。オーレリアンは、乱暴で大雑把な戦い方だと声に出さず避難していたが。

 圧倒的な強さを持つシュンを見た小夜鳴は、先ほどの威勢を無くして怯え始める。

 

「お、お前は何なんだ!? 下等な遺伝子しか無い筈なのに!?」

 

「俺か。まぁ、人をぶっ殺すしか能がねぇ畜生だ」

 

「あり得ない! あんな遺伝子でこれ程の力など…!! きっと何かの薬でも…」

 

「薬も何もやってねぇよ。ただ、生き残るために努力して学んだもんだ」

 

 予想外の力を見せるシュンに何者かを問う小夜鳴に対し、彼は自分は人殺ししか出来ない不器用な人間だと答えた。

 

「これは驚いたぞ…! 私は新たな天才を見付けてしまったようだ! しかもあの御方のお喜びになる遺伝子だ! 人殺しの天才のな!! はっはっはっ!!」

 

 その答えを聞いてか、小夜鳴は新たな天才を見付けて大いに興奮し始める。

 彼が高笑いを上げる中、空から数人ほどの男女が降りて来る。

 

「な、なんだこいつ等は!?」

 

「こいつ等、空を飛んでやって来たわよ!?」

 

「ハハハ、来たぁ…!」

 

 空を飛んでやって来たため、キンジ等は彼らが何者か理解でき無いようだ。

 ルリとオーレリアン、それにシュンはこの屋上に空を飛んでやって来た一団を知っているのか、顔を強張らせる。

 その一団のリーダーらしい少女が、自分を見て喜ぶ小夜鳴に問い掛ける。

 

「一体どういうことだ。私たちはただ見物しているだけで良かったのではないか?」

 

「良いじゃないですかバハーム様。遊びがいの良い連中が揃ってまさ」

 

「形勢逆転だ…! 絶望しろぉ! お前たちは死んだも同然だ!!」

 

 小夜鳴は答えず、頼もしい援軍が来たと思って大いに喜び始める。

 彼女の部下も、生きの良い連中と戦えることに喜びを感じ、自分の得物を出して臨戦態勢を取る。

 

「てめぇら、ネオ・ムガルの…!!」

 

「まさか貴様たちが絡んでいたとは…!」

 

「一体何なのよ!? ネオ・ムガルって!」

 

 シュンが第一声を放てば、オーレリアンは怯えるルリの盾になるような体勢を取る。

 ネオ・ムガルの事を知らないアリアがキンジ等を代表して問うが、二人は答えず、ルリも答えない。

 

「勇者一人と召使一人、それに父さまの言っていた大剣使いだな? 残りの者を捕まえたかったが、まぁ、勇者と大剣使いだけを捕らえられるだけで良しとしよう。残りは烏合の衆だ」

 

「お嬢さん、何者か知らないが、ルリもそこの筋肉ダルマもお嬢さんたちの手には渡さないよ」

 

 少女、バハームがルリとシュンを見て、一石二鳥と捉えれば、キンジは何か変わっているのか、王子様のような口調でそうはさせないと告げる。

 

「ほぅ、餓鬼の癖に一丁前の台詞を吐くじゃねぇか。このダルマババン様が試してやるぜ」

 

「止せぃ! 我々の任務は我がネオ・ムガルに盾突く勇者と大剣使いを捕らえることのみ! 他に手を出すな!!」

 

 キンジの言葉を聞いたダルマババンと呼ばれる大柄な血の気の多い戦士が面白がって前に出ようとしたが、バハームのお目付け役と思われる体長250㎝はあろう大男に止められる。

 

「けっ、頭の固い奴でぇ! そうは思わないか、ゲッテムハルトよ」

 

 これには面白くないダルマババンは、隣に立っているあのゲッテムハルトに問えば、彼も同意見だと答える。

 

「あぁ、餓鬼の子守をしろと無理強いをさせれば、あんな弱っちい奴の救援とはなァ。まぁ、俺はここで寝てるからよ。お前らの好きにしろや」

 

「全く、こいつ等と来れば…!」

 

 この二人のやりとりに、お目付け役は頭を抱えた。

 少し馬鹿にされていると思った小夜鳴であったが、形勢は逆転したので、調子に乗って自分が属している組織の事を語り始める。

 

「まぁ、何か言われているようだが、君たちの最後の講義と行きましょうか」

 

 小夜鳴は、自分の属する組織「イ・U」の事を語り始めた。

 イ・Uは能力を教え合う場所であるが、小夜鳴と主人であるブラドから見れば階級の低い者同士のままごとでしかない。

 そこで自分のブラドは、イ・Uで革命を起こしたと自慢げに話す。

 それにブラドが600年前の人物であることを明かし、その生き残り方は他人より生き血を啜り吸って他人の遺伝子を吸収して進化してきたと告げる。

 

「他人の能力から自分自身の能力へと派生して進化して行く! 能力を理解し、考え、自分の欲しい物へと変換して深めて行く! そこの男の血を採取すればイ・U、否っ! 我々は更なる高みへと昇れる!!」

 

「あんた、イ・Uを裏切るつもり?」

 

「裏切り? いや、見限るんですよ。異世界のネオ・ムガルと言う組織は大変素晴らしい物ですからね。そこへ行けば我々は限界を超えることだって可能なのだから!」

 

 大いに喜びながら語る小夜鳴に対し、アリアは元の組織を裏切るつもりなのかを問えば、彼は見限ると言って戻る気は無かった。

 そんな彼を否定するかの如く、新たな人物が一同の前に姿を現す。

 

『他人の血で自分の更なる高みを目指すと言うなど、恐ろしく自分勝手な男だな』

 

「自分勝手だと!? 誰だ! ブラドを侮辱する奴は!?」

 

「変な奴が来たのか!?」

 

「いや、こちらの味方らしい。あの格好は確実の物だ」

 

 小夜鳴はいきなり現れて自分の主人を侮辱した謎の人物に、何者かを問う。

 この謎の人物を敵だと思うキンジだが、オーレリアンは味方であると答える。

 そこに居た人物は、あの場違いな服装をした謎の年配の男であった。彼は自分に何者かを問う小夜鳴に対し、その考えが間違いであると説教を始める。

 

「君の主であるブラドは確かに賢い吸血鬼と言えるだろう。だが、他人の力を奪って己の物と豪語するなど以ての外だ。その力は元の持ち主が長い時間と努力を掛けて積み上げた物だ。それを我が物のように奪い去るなど、侮辱、いや、盗人以外他ならない」

 

 いきなり現れて説教するレジスに対し、少し怒りが込み上げて来た小夜鳴だが、冷静となって笑みを見せつつ余裕を見せる。

 

「いきなり現れて説教を垂れ、我が主のブラドを盗人呼ばわりするとは…なんともおかしな男だ。少し腸が煮えくり返りましたが、ここは敢えて怒らず、私の正体を明かしましょう。実は私自身、殻なんですよ。我が主は知性を保つために人間の血を定期的に採取し続ける必要がある。結果、遺伝子は上書きされ続け、そこで彼は私と言う殻を被ることが出来るようになった」

 

 これにキンジは何かに気付いたのか、顔を強張らせた。アリアは何を言っているのか分からず、シュンに至っては全く理解できないでいる。レジスは既に気付いているが。

 そんな理解できない数名を見下しつつ、小夜鳴は続ける。

 

「隠れた我が主ブラドは私が興奮した時に現れるようになった。しかし私はありとあらゆる刺激に慣れてしまい、興奮しきれなくなりました…」

 

 興奮で自分と言う殻を破って主が出現することを明かせば、オーレリアンはその興奮を自分が嫌う女性を痛め付け、怯えさせることで快楽を得る恐ろしい性癖の物と見抜く。

 

「と、言う事は、貴様は女性を痛め付けるか怖がる表情を見て興奮する性癖を持つクズと言う訳だな?」

 

「少しイラつきますが正解です! 流石は教養のある貴族だ! この戦いが終われば貴方の血も我が主に捧げよう!」

 

 そうだと見抜けば、小夜鳴は依然に踏み付けている理子を更に踏み付けた。

 これにルリは助けようとするが、自分に取って恐るべき相手のバハーム達が居るためか、怖くて動き出せないでいる。

 

「このクズめ…! 早く峰お嬢さんから薄汚い脚を退けろ!!」

 

「そうだ! お前のやっている行動は下郎同然だ! 教養のある者のやる事では無い!」

 

「何とでも言いなさい。私はヒステリア・サヴァン・シンドロームのおかげで更に興奮できる! そして私の足元に居るこの人間の雌餓鬼と、そこで小動物のように震えているレズビアンの小娘のおかげであの御方を呼ぶことが出来る!!」

 

 更に怒りを積もらせるオーレリアンは怒りの声を上げ、レジスは直ぐに止めるように告げるが、小夜鳴は苦しみの声を上げる理子と、怯えるルリを見て更に興奮する。

 それと同時に、遠雷が一つ響き、稲妻が海に落ちる。

 

「さぁ、彼が来たぞぉ!!」

 

 落雷が落ちた後、小夜鳴の身体は膨張を始めた。全身が獣のような毛が覆い、身体が大男のように大きくなり始める。手足に鋭利な爪が生え、顔は狼と化し、狼男となる。

 身体全体に何か目玉のような模様があったが、それが何を意味しているのかは後々分かることとなる。

 それを見ていた一同は驚きの表情を浮かべていたが、シュンとレジスには見慣れた物であり、対して驚くことなく身構える。

 

「初めましてだな。話は小夜鳴から聞いている。俺たちは頭の中でやりとりするんでな。分かるだろ? 今の俺様はブラドだ」

 

 狼男と言うべき姿となった小夜鳴であったが、その狼男は彼でなく、主であるブラド本人であった。

 キンジ等を見て、自分の殻となっていた人物とのやりとりで知っていたので、軽く挨拶を行う。後ろを振り返り、イ・Uに黙って手を組んでいたネオ・ムガルの面々を見る。

 

「お前たちがネオ・ムガルとか言う連中だな。小夜鳴に聞いている」

 

「なんだ。てっきり恐ろしいバケモンになるかと思ったら、犬っころかよ」

 

「お前、初対面でその口は…ネオ・ムガルの連中は礼儀がなって無いようだな」

 

 ネオ・ムガルの面々を見て声を掛けるブラドであったが、ゲッテムハルトは期待した物とは違ったので、がっかりして失礼な口を出す。

 これにブラドは怒ったが、バハームのお目付け役の丁寧な謝罪の言葉でそれを水に流した。

 

「失礼、この者は咎人と言う物。礼儀がなっていないのだ。代わりにこの私が貴方に謝罪する」

 

「ほぅ、咎人か。まぁ、犯罪者ならそんなもんだろう。で、お前が小夜鳴の言っていた人殺しの天才か?」

 

 謝罪でゲッテムハルトを許した後、ブラドはシュンの方へ振り返り、その本人であるかを問う。

 

「あぁ、そうだ犬ころ。俺が殺すことしか能が無い馬鹿だ。てっきり蚊のバケモンに変身するかと思ったら、お喋りするデカい犬でガッカリしたぜ」

 

「貴様、そこの犯罪者と一緒に俺様を馬鹿にするか。人殺しの天才と聞いて苦しめないように血を採取してやろうかとおもったが、これは生きたまま血を吸い出すしかないようだな」

 

 問うたシュンにゲッテムハルトと同じく馬鹿にされたのか、サディスティックな笑みを浮かべながら告げる。

 そんな彼は気にせず、ブラドは下に居る理子を拾い上げ、物のように扱おうとしたが、キンジとアリアらに撃たれる。

 発射された弾丸は全て命中したはずだが、着弾した銃創は赤い煙を吹き出し、銃創を撃つ前の状態へ戻してしまう。

 撃ち込まれた弾丸は目標に当たった状態であり、撃った分の弾丸は下へと音を立てて落ちる。

 

「ほぅ、不死の魔術だな」

 

「正解だ、異世界の吸血鬼さんよ。俺様は魔術をほんのちょいと齧っているのだ。血を吸った奴のだがな。ブハハハ!」

 

 レジスが先の現象を魔法による物と言えば、ブラドは正解であると高笑いしながら返す。

 この瞬間に理子は、ブラドに裏切られた怒りをぶつける。

 

「ぶ、ブラドォ! 騙したなぁ! オルメスの末裔を渡せば、あたしを解放するって! イ・Uで約束したのに…!」

 

 涙を浮かべながら訴えたが、ブラドは邪悪な笑みを浮かべながら彼女の心を砕くような言葉を掛ける。

 

「お前は犬とした約束を守るのか?」

 

「おいおい、自分で犬って言うのかよォ」

 

「脳みそは小せぇようだな」

 

 その言葉が聞き捨てなかったのか、ゲッテムハルトが聞こえるような声量で悪態を付けば、シュンもこれに続く。

 

「黙れ! お前ら! まぁ、後で八つ裂きにしてやる。檻に戻れ子犬め。これがお前の最後の外の光景だ。しっかりと目に焼き付けておくんだぞぉ? ブッハハハ!!」

 

 シュンとゲッテムハルトに向かって怒鳴った後、ブラドは片手で理子の頭を掴み、高笑いしながらおもちゃのように彼女を上げた。

 これにバハームは、味方であるブラドに嫌悪感を覚える。レジスも同様であり、いつでもカノを助けられるように、上級吸血鬼の最大の武器である鋭利な爪を出す。

 

「ゲスが…!」

 

「えぇ。ですが、用済みとなれば始末すればいい事です」

 

「そうだな。いつでもやりたいところだが…」

 

 お目付け役もこれに苛立っていたのか、用済みとなれば殺せばいいと答えれば、バハームはそれまで我慢することにした。

 シュンとゲッテムハルトもこれに怒りを募らせる中、理子は視界に映ったキンジ等にか細い声で助けを求める。

 

「あぁ、アリアぁ、キンジ…ルリルリ…! 助けて…!」

 

 その表情と助けを求める声を聴いてか、キンジ等は行動に出る。

 

「その助けてと言うのが遅い! 行くわよ、キンジ、ルリ!」

 

「あぁ、助けてみせる!」

 

「私も、ビクビクしてられない!!」

 

「ダッコール! 将来有望な美少女を傷付ける犬畜生に、容赦はしない!」

 

 アリアが先導して前に出れば、キンジとルリ、呼ばれていないがオーレリアンが続いた。

 だが、彼女らが前に出る前に、大剣を携えたシュンが前に出て来る。

 

「なんだぁお前は? この子犬とは関係ないはずだろぉ?」

 

「あぁ、関係ねぇな。だが、ちぃーとばかしイラついてな。八つ当たりをさせてもらうぜ」

 

「クックックッ、面白い事を言う奴だ! まずはお前から搾り取ってやる!!」

 

 前に出て来たシュンに、理子とは関係ないと問うブラドだが、彼はその行動にイラついたと言って、大剣を引き抜き、刀身を床へ着ける。

 そんなシュンに対し、ブラドは手始めに殺そうと思って、空いている左手の爪で切り裂こうと振り下ろしたが、その左腕は一瞬の内で宙を舞っていた。

 殺されるはずであったシュンは、既に巨大な大剣を振り回しており、刀身にはブラドの左腕を斬った際に真新しい血が付着している。

 あっさりと自分の攻撃も避けられず、左腕を斬りおとされたブラドを見て、シュンはこの世界に来た時に戦った場違いな魔物より弱いと呟く。

 

「なんだこの犬ころ。犬のバケモンより弱ぇーじゃねぇか」

 

「ウギャァァァ!?」

 

 左腕を斬りおとされ、余りの痛みでうめき声を上げ、理子を掴んでいた右手も離してしまう。

 この隙に、理子はキンジやルリ達の元へ駆け寄る。直ぐに理子を、ルリが回復魔法の類を唱え、応急処置を行う。

 

「あれは…ウィッチャーの古い剣か…! いや、あの禍々しいオーラは、呪物だな」

 

 ブラドの左腕を斬りおとした大剣を見たレジスは、シュンの持つ大剣「スレイブ」のことを知っていたようで、ゲラルドとは違い、その大剣を即座に魔剣と見抜いた。

 

「うぅ、クソォ…! お、俺の左腕を、俺の左腕を持って来い!」

 

「あの、どうしますかぃ? 生えてきそうもありませんし…」

 

「取って来てやれ。そいつにも戦って貰わなければならん」

 

「へぃ、お嬢!」

 

 左腕を斬りおとされたブラドは、味方である者達にネオ・ムガルの者達に左腕を持ってくるように叫ぶ。

 これにダルマババンがどうするのかを問えば、バハームが取ってくるように指示を出す。

 それを受けてダルマババンが近くに落ちている左腕を掴み、乱雑に元の持ち主であるブラドの方へ投げた。

 

「おら、おめぇのおて手だ!」

 

「こ、この野郎…雑に扱いやがって…! まずはお前からぶち殺してやる!!」

 

「トカゲかよ。まぁ、良い。中国か韓国の犬鍋にでもしてやっか」

 

 投げ出された左腕を掴み、元の付け根に着けて完全に左腕が動くようになったのを確認すれば、ブラドは冗談を口にするシュンを全力で殺そうと向かって来る。

 それを止めようとしてか、銃を持つキンジにアリア、ルリ、それに予備の銃を渡された理子がブラドに一斉射撃を浴びせる。これにシュンは巻き込まれ掛けたが、なんとか床に伏せて銃弾を躱した。

 

「なんて餓鬼共だ! てめぇら射線確認してから撃て!!」

 

「そんな豆鉄砲じゃこの俺様は殺せんぞ…!」

 

「やっぱり弱点じゃないと!」

 

 シュンが銃を持っている少年少女らに怒鳴れば、ブラドは怒り心頭に銃弾では倒せないと告げた。これにキンジは、弱点と思われる目玉に当てなければ意味が無いと言う。

 

「弱点? あのヘンテコな目ん玉の部分か?」

 

 その言葉が聞こえていたのか、シュンはブラドの模様のある部分に大剣を振ろうとしたが、何者かがブラドを押し退け、グローブをはめた手で大剣の刀身を押さえた。

 

「っ!? なんだテメェ! お呼びじゃねぇぞ!」

 

「けっ、この犬っころとのじゃれ合いが退屈そうだからこの俺がテメェと遊びに来たわけよ!」

 

 ブラドを押し退けてシュンに挑んで来たのはゲッテムハルトであり、彼の戦闘力を見て、戦闘狂の性分が身体を動かしたようだ。

 

「あいつを助けた?」

 

「て、テメェ! 何を勝手に!?」

 

 理子がブラドを押し退けたゲッテムハルトを見て助けたと思ったが、ブラドの方が怒り心頭なようで、自分を押し退けた咎人を怒鳴り付けた。

 だが、ゲッテムハルトの自分の知らない恐怖と悍ましい殺気を込めた一睨みを見て、一瞬、犬のように怯えてしまう。

 

「あぁ? まずはテメェから始末してやろうかァ?」

 

「ひっ!?」

 

「あ、あのブラドが一瞬だけど震えた…!? な、なんだよあいつ…」

 

 ブラドが振るえなかったのを見逃さなかった理子は、自分の恐怖の対象を震え上がらせる程のゲッテムハルトに対しての恐怖心を覚える。アリアもキンジも同様で、ルリに至っては声に出さずに怯える始末だ。

 

「よし、まずはその男を殺さない程度で痛め付け、次にあそこの英霊を始末すれば、後は雑魚ばかりだ。やってしまえ、ゲッテムハルト!!」

 

「うるせェ! 俺は食いがいのねぇ餓鬼共なんぞに興味はねェ! そこの犬にでもやらせておけ! 俺はこいつと戦う! そんで言われた通りに次はそこのおっさんだ!」

 

 怯えるルリ等を見て、バハームにゲッテムハルトに指示を出したが、彼は反攻の意思を見せた。だが、言われた通りにシュンとレジスとは戦うつもりであり、最初の相手である大剣使いに恐ろしい威力を誇る拳を高速で打ち付ける。

 

「魔剣使いよ、手を貸そうか?」

 

「いや、こいつは俺との戦いたがってる戦闘狂だ! 吸血鬼のおっさんは自分の心配でもしときな!」

 

「余所見してんじゃねェ!!」

 

「うぉ!?」

 

「ほぅ、あのアークス、いや、ダークファルスを内に秘めている男を相手に挑むとはな」

 

「あの英霊を始末しろ!」

 

 ゲッテムハルトの猛攻に耐えるシュンに対し、レジスは加勢しようと思ったが、本人は自分の心配をしろと言われ、手を出さずにそこで戦うことを決める。

 宇宙を滅ぼしかねない力を秘めているゲッテムハルトに果敢に挑む彼の事が心配になるが、背後よりネオ・ムガルの兵等が来たので、レジスも交戦に入る。

 ジェットパックも無しに空を飛ぶネオ・ムガル兵から無数の銃弾が浴びせられるが、レイズはブラドなど足元にも及ばない特別な吸血鬼であり、少し被弾はするも、両手に出した鋭利な爪と目にも止まらぬ速さで、一瞬にして自分を撃って来た敵兵等をバラバラに切り裂いてしまう。

 

「お、おぉ…!? 空中攻撃兵が!?」

 

「ひ、怯むな! 相手は吸血鬼一人に男一人、そして餓鬼共だけだ! 咎人共を前に出せ!!」

 

 数名の味方が一瞬にして全滅したので、恐れおののく兵士たちに対し、慌てる指揮官は死兵扱いである咎人等を前に出すように指示を出す。

 これに合わせ、法も秩序も無い世界に居そうな無法者らを何所からともなく召喚し、レジス一人に向かわせた。

 

「ヒャッハー!!」

 

「死ねぇ! そこのおっさん!!」

 

 雄叫びを上げながら大勢で向かって来る無法者らに対し、レジスは臆することなく恐ろしい速さで鋭利な爪を振るい、無数の無残な屍の山を築き上げる。

 

「全く、あのガッツ擬きと言い、あの吸血鬼と言い、本当に滅茶苦茶な奴ばっかりだな!」

 

「そんなこと言ってる場合!? こっちにもモヒカンが来たわよ!」

 

「あっちは男一人で後は女子供ばかりだ! そいつ等からやれぇ!!」

 

 キンジがシュンやレジスの異常なまでの強さを見て呟けば、アリアはこちらにも無法者達が向かってくることを知らせた。

 自分等は銃を持っているが、武偵の法で殺人は禁じられ、そればかりか撃っても弾が足りないので、焼け石に水だろう。

 

「異界の無法者共! ここは貴様らの世界では無い! 大人しく地獄へ帰れ!!」

 

「ほべっ!?」

 

「あらまっ!?」

 

 そんな時に、オーレリアンは無数の無法者相手に勇敢に挑み、目にも止まらぬ速さで次々とサーベルで斬り捨てる。

 物の数秒ほどで、向かって来た無法者らが全て物言わぬ屍と化した。

 

「ルリ、あんたの仲間もね」

 

「えぇ、なに!?」

 

 ブラドと戦いながらも、アリアは無数の無法者らを一瞬で斬り捨てるオーレリアンの力を見て、ルリの仲間もシュンやレジス以上の異常な者達と告げる。

 

「神崎殿たち! 背中はこのオーレリアンが引き受けた! 貴殿らはそこの凶暴な犬の相手を! 無礼極まりない野蛮な連中は私にお任せを!!」

 

「これで背後の心配はなくなったな」

 

「うん、これでブラドの相手に…」

 

「ルリちゃん、後ろ!!」

 

 オーレリアンがネオ・ムガルの召喚した無数の無法者らを担当すると告げれば、キンジ等は安心してブラドの相手に集中しようとしたが、ルリの背後より、あの小夜鳴が作り上げた化け物たちが襲い掛かって来た。

 奇声を上げながら襲って来る化け物に対し、理子が知らせたが、時すでに遅く、化け物の手がルリの喉元まで迫っていた。

 

「えっ…?」

 

 迫り来る手に、ルリは何も分からないまま死ぬと思ったが、寸での所でこの場に駆け付けて来た新たな男によって救われた。

 ルリを殺そうとした化け物の首が飛べば、その瞬間にもう一体は心臓がある個所を刺されて即死し、三体目は最初に殺された者と同じ末路を辿る。

 

「あ、あんた…!」

 

「祖先を苦しめた羅刹(らせつ)…もう既に国内より消したと思ったが、戻ってきたと言う訳か…」

 

 レジスの次に駆け付けて来たのは、この世界の住人である萩枝沙慈であった。

 小夜鳴が作り上げた化け物を殺した後、沙慈はその化け物を祖先から聞いた名称である羅刹と呼ぶ。

 

「羅刹って?」

 

 羅刹と聞いて気になったのか、ルリが問えば、沙慈は羅刹の一体を斬り殺した後に問いに答える。

 

「まぁ、一応話してやる。この吸血鬼の出来損ないは、百四十年以上前の日本にも居た。祖先が一匹残らず追い払ったか始末したと祖父より聞いたが、まさか元凶が来ていたとはな」

 

 ルリの問いに答えれば、アリアとキンジが放った銃弾を浴びていたブラドの方へ向く。

 彼はそれが聞こえて来たのか、遠い昔を思い出し、沙慈の方へ振り返りながら自分がその羅刹の根源であると答える。

 

「羅刹…? おぉ、そうだ。思い出した。ここじゃエリクサーのことを変苦水(おちみず)とか言ってそれを使った奴の事を指す意味だな。確か百五十年くらい前に日本に来た事があった。俺が作った人を吸血鬼に近いくらいにするもんがオランダを通じて日本に入ったと聞いてな。良い遺伝子探しをしていたら、お前みたいな面構えの鬼にいきなり襲われた挙句に追い出されたぜ。まぁ、あの時の俺様は優秀な遺伝子を集めてかなり強くなってる。鬼のお前なんぞ敵じゃねぇぜ…!」

 

「そうか…ならばこの場で俺が祖先の代わりに…」

 

 変苦水と呼ばれる人を羅刹と言う吸血鬼の偽物にする薬の根源を、祖先の代わりに知った沙慈は、ブラドを殺そうと斬り掛かったが、戦いを見て我慢できなくなっていたダルマババンに襲われ、彼と戦わらずおえなくなる。

 

「っ!? 何者だ貴様!?」

 

「おい、兄ちゃんよ! おめぇは強そうだな! そんな犬っころとじゃれ合うより俺と戦おうぜ!」

 

「お前と関わってる暇は…!」

 

「そう言うなよ! 俺の方が強い!」

 

 ダルマババンを切り抜けてブラドに向かおうとするが、彼の力が思いのほか強過ぎ、根源の元へ向かえない。

 

「鬼のお兄ちゃん!」

 

「勇者! お前の相手はこの私だ!!」

 

 ダルマババンに続いてか、バハームも戦闘に加わる。その相手はルリであり、自らの手で武勲を上げようと言う物だ。

 手にしている自分の得物である槍を、ルリに向けて突く。一撃目を避けられるが、予想通りであり、次は目にも止まらぬ速さで連続の突きをルリに向けて放つ。

 

「どうした!? 逃げるだけか! この臆病者!」

 

「いきなりはキツイよ!」

 

 逃げ回るだけの自分に向けて攻撃を続けるバハームに対し、ルリはいきなり攻撃を受けたので、戦えないと答える。

 

「バハーム様も戦闘に加わったか。では、このグルムン・アルトムルク。味方の損害を抑えるため、出陣いたす!」

 

 バハームのお目付け役も、次々と味方の兵を殺し回るオーレリアンやレジスを倒すべく、自分の名を口にしてから戦いに加わった。

 

「どうやら、私達だけでやるしかないみたいね」

 

「あぁ、そのようだ」

 

 頼りになる仲間たちがそれぞれの強敵たちと戦う中、アリアにキンジ、理子は、三人だけでブラドと戦うしかなくなる。

 

「よし、行くぞ!」

 

「うん!」

 

「えぇ、あいつを逮捕するわよ!」

 

 キンジが仕切れば、理子、アリアが続いた。

 

 

 

 屋上で戦闘が開始された後、ゲッテムハルトと戦うシュンは、自分の有利な場所で戦うために、床を大剣で破壊して最上階へと逃げた。この際に、シュンは自分にとって不要なAK-103をキンジに向けて投げたが、使うかは彼次第だ。

 

「待ちやがれェ!!」

 

 床を破壊して下の階に逃げたシュンを追うため、ゲッテムハルトは足元の床を拳で破壊しながら追う。

 十階以上まで降りて床を壊そうとした時に、シュンはゲッテムハルトに追い付かれる。

 追い着けたゲッテムハルトが即座に特別なグローブを付けた拳で殴り掛かって来たが、シュンはこれを予期しており、振り返り際に大剣を殴り掛かってきた相手に叩き込んだ。

 バラバラになると思っていたシュンだが、ゲッテムハルトはこれを両手だけで防御した。

 衝撃は耐え切れなかったらしく、近くの壁まで吹き飛ばされるが、無傷に近いのか、突っ込んだ壁から抜け出てシュンの躊躇いの無さを褒める。

 

「おめぇ、すげぇじゃねぇか! ゼノのお人好しとは大違いだぜ!」

 

「ゼノ? なんの話してんだテメェは!?」

 

「俺が生きてた頃の気に入らねぇ野郎の事だァ!!」

 

 躊躇いの無さを相手が知る人物に対して例えた為、シュンは何の話をしているのか分からずに問えば、ゲッテムハルトは気に入らない人物と答えてから攻撃に出た。

 恐ろしい速さで迫り、シュンに向けて強烈で速い拳を打ち込む。これを鍛え上げられた反射神経で防ぐシュンだが、ゲッテムハルトの攻撃は今までの倍以上に強く、窓のある部屋まで吹き飛ばされてしまう。

 壁を突き破りながら吹き飛ばされる中、外へ吹き飛ばされるのを防ぐため、床に大剣の刃を突き立てて吹き飛ばされる勢いを殺した。

 

「畜生、なんて野郎だ…! 今までの比じゃねぇぞ!」

 

 ゲッテムハルトのような男とは、今まで戦った経験が無いため、シュンは苛立だって言葉を吐いたが、その相手は容赦なく追撃の手を撃ってくる。

 

「ボケっとしてんじゃねぇぞ!!」

 

「っ!?」

 

 先よりも恐ろしい速さで迫って来たため、防御が間に合わず、遂に屋外へ吹き飛ばされた。

 その高さは六十階以上、落ちれば衝撃でバラバラになること間違いなしだ。

 そんな高さのビルの窓から落とされたシュンは、落下して行く中、必死に生き延びようと、壁まで近付く。

 

「死んでたまっかよ!」

 

 そう叫びながら、シュンはビルの壁に向けて大剣の刃を突き刺した。

 窓ガラスやコンクリートを砕きながら落ちて行く中、シュンの落下速度は徐々に低下して行く。

 約二十階の高さまでビルの窓ガラスやコンクリートを抉れば、ようやくの所で止まった。

 地上までは後十階分の高さまであり、油断はならない。飛び散った破片で擦り傷を負っているシュンは、割れた窓ガラスの部屋へ入ってから、大剣を引き抜いて地上を目指す。

 

「畜生! 二度とビルから飛び降りねぇぞ!!」

 

 そう階段を降りながら苛立ちを吐けば、シュンは急いで一階まで降りた。

 

『何所だァ!? 生きてんのは分かってんだぞォ!!』

 

 一階へと降りた時に、ゲッテムハルトの怒鳴り声が響く。それにシュンは答える形で、大声で自分の居場所を叫んだ。

 

「俺はここだぁ!! 表に出てこいクソッタレ!!」

 

『表だなァ!? よしッ!!』

 

 叫んでから外へ出れば、ゲッテムハルトの返答が聞こえた。

 それから物の数秒後、ゲッテムハルトはビルの壁と滑りながら降りて来る。命綱も無しにだ。彼が並の人間とは違うと言う事が分かる事だろう。

 壁を蹴って飛び降りたゲッテムハルトは、地面に大きなクレーターを創りながら着地した。

 

「お前、人間かよ?」

 

「人間…? あぁ、見た目はそうだが、俺はアークスだからよ。色々と中身をいじくり回されてんだ」

 

「改造人間って事かよ…!」

 

 かなり高い場所から平然と降りて来たゲッテムハルトに対し、本当に人間かどうかをシュンが問えば、彼は中身を色々といじられたと答えた。

 

「さぁ、第二ラウンドと…うっ!? て、テメェは引っ込んでいろ! お前は出て来るんじゃねぇ!!」

 

「どうしたんだこいつ?」

 

 答えた後に、ゲッテムハルトは第二ラウンドを始めようとしたが、自分と共存している人格が身体を乗っ取ろうとしてきたため、抵抗を始める。

 これを知らないシュンは、ゲッテムハルトの身に何が起こっているのか理解できず、この隙に近付いて殺そうとするも、物の数秒で彼は共存している人格に則られてしまったようだ。

 彼の身体は共存している人格に乗っ取られた際に、体格は大男のような物に変わり、髪の色も禍々しい紫色へと変わる。

 名乗り上げたその声は元の持ち主の声にエフェクトを掛けたようで物であり、それがより一層に恐怖心を上げる。

 

「畏怖せよ異界の剣士よ! 我が名は巨躯(エルダー)! ダークファルス・エルダー!」

 

 ゲッテムハルトの身体を介して現れ、名乗り上げたエルダーに対し、シュンは思わず後退んでしまう。

 そんなエルダーはシュンが自分を見て畏怖の感情を示したのを見逃さず、指差しながら自分と戦えることを名誉に思えと告げる。

 

「喜べ異界の剣士! 現世に蘇りし我の初の戯れの相手は、貴様に与えよう!」

 

「何が何だか分からねぇが、俺をぶっ殺そうとしているに違いねぇ! 死ねや!!」

 

 名誉に思えと告げるエルダーに対し、シュンは自分を殺そうとしていることは変わりないと判断して、大剣で斬り掛かった。

 エルダーはその巨大な刀身を避けず、左手で軽くその数々の強敵や魔の類を斬り捨てて来た刀身を受け止めた。

 

「嘘だろ…!?」

 

「脆弱! この程度の剣の腕で、我の肉体を傷つけられると思っているのか!?」

 

 渾身の斬撃を軽く受け止めたエルダーの巨大な手を見て、シュンは一瞬何が起きたのか分からないでいた。

 期待していたのに損した気分になったエルダーは、怒りを覚えてシュンを吹き飛ばす。その力の強さはゲッテムハルトの比では無く、恐ろしい勢いで吹き飛ばされる。

 

「それにこの醜態! ウォーミングアップにもならん!! 奴はこの程度の者を相手と遊んでいたのではないか!?」

 

 あっさりと吹き飛ばされ、気を失ってしまったシュンを見て、エルダーは戦い甲斐の無さに更に怒りを覚えた。

 

「我が直接手を出すまでもあるまい! 我が眷族に…ぐぉ!? 貴様…!!」

 

 自分は手を汚さず、自分の眷族を作り上げて弱いシュンを殺そうとしたが、元の身体の持ち主であるゲッテムハルトが身体を取り返そうとして来る。

 

「うぉぉぉ! あのそびえ立つビルには我が求める強さの者が居る! 奴と戦うまで、奴と戦うまでは…!」

 

 レジスと戦いたいと思っていたエルダーであるが、それは叶わず、元の身体の持ち主であるゲッテムハルトに身体の主導権を奪い返され、再び心の奥深くへと戻された。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…! 二度と出てくんじゃねぇぞ、このフザケタクソ野郎め…!!」

 

 そう隙あれば出て来ようとして来る共存している人格であるエルダーに言い聞かせれば、吹き飛ばされた衝撃で吹き飛ばされたシュンの元へ近付き、彼を無理やり起こそうと身体を揺さぶる。

 

「おい、起きろ! 起きて俺ともう一回戦え! 聞いてんのかァ!?」

 

 もう一度戦うために、気絶している相手に攻撃せず、ゲッテムハルトが身体を揺さぶりながらすれば、シュンは目を覚ました。

 初めて死の恐怖を感じた人格を秘めているゲッテムハルトが目前に居たのを確認したシュンは、直ぐに彼から離れ、近くに落ちている大剣を拾い上げて構える。

 

「おぅ、おはようさん。さぁ、邪魔物は消えた。俺と再び…ん!?」

 

 いざ戦闘を再開しようとした時に、自分等に強力な光が浴びせられた。

 

「な、なんだァこの光は!? 何所のどいつだァ!?」

 

「機動隊でも来たのか!?」

 

 目が眩むような強力な光、それもサーチライトが自分等に当てられたので、ゲッテムハルトは何者かを問い、シュンは警察の機動隊が騒ぎを聞き付けてやって来たと思っていたが、来たのは警察でも無く、自分等と同じ異世界の者達であった。

 

『包囲しろ! 残りはビルの上に居るぞ!!』

 

 拡声器より女性の声が聞こえれば、二人の包囲するように大盾を持った集団が展開された。サーチライトの強烈な光ではっきり見えるのか、銃身が短い軍用ライフルを持った一団がビル内部へと突入していくのが見え、遥か上のビルの屋上には、ヘリが何機も飛んでいる。

 それと同時に屋上から逃げる者が幾人か見える。一人はパラシュートを使い、二人はビルから何も無しに飛び降りている。うち一人は小柄な少女を抱えていた。おそらくルリであろう。

 

「やぁやぁ我こそグバッ!?」

 

 自分等の方には、時代を間違えているとしか思えない武士の一団が差し向けられた。

 一団の長と言うべき戦国時代の甲冑を身に着けた一人の武士が腰に差してある自分の得物の太刀を引き抜きながら名乗って来たが、シュンが投げた投げナイフが額に刺さり、名乗り終える前に即死する。

 

「卑怯者!」

 

「この不心得者め!」

 

 名乗り終える前に殺してしまったのか、周囲に居る武士たちはシュンに向けて罵声を浴びせる。

 

「なんだァ、こいつらァ?」

 

「こいつは驚いた。日の本の帝国と戦争中じゃ無かったのか? いつの間に手を組んだんだ?」

 

 周囲に現れた場違いな集団を見て、ゲッテムハルトが問えば、シュンはそれに答える形であの日の本の帝国がワルキューレと手を組んだことに驚きの声を上げる。

 

「我が主の仇! 取らせて貰う!!」

 

「こいつ等、敵かァ?」

 

「敵だ。見りゃわかるだろ?」

 

 長の仇を取ろうと、数名の武士が槍で突き刺そうと突っ込んで来る。

 これにゲッテムハルトが敵であるシュンに問えば、彼は一目瞭然だと答えて、手近な一人を大剣で肉塊へと変えた。

 

「そうかァ! だったらこいつ等を血祭りに挙げてから…な、なんだァ!? 俺はまだ戦えるぞォ!!」

 

 敵だと分かれば、ゲッテムハルトはこの武士たちを一掃してからシュンとの戦いを再開しようとしたが、ネオ・ムガルは思わぬ敵の襲来に戦意でも損失したのか、退却を始めたようだ。

 その際にネオ・ムガルは優秀な戦士であるゲッテムハルトを失いたくないのか、転送装置を使って強制的に連れて帰ろうとする。これに抵抗するゲッテムハルトであるが、抵抗むなしく連れて帰られた。

 

「ちっ、贅沢なもん持ってんな。また俺一人か…」

 

 ネオ・ムガルに連れて帰られたゲッテムハルトを見て、彼を囮にこの場から逃げようかと思っていたが、転送装置で連れて帰られたので、仕方なくこの多勢に無勢な戦いを余儀なくされる。

 たった一人となったシュンに対し、武士の一団は容赦なく各々の得物で斬り掛かって来る。

 

「キエェェェ!!」

 

「クソ、デジャブ過ぎるだろ。だが、数は少なさそうだな…!」

 

 奇声を上げながら斬り掛かって来る一人の剣士に対し、シュンは大剣でバラバラにしてから、最初にこの世界に来た時にやって来た女騎士団よりも数が少ないと判断して、次々と休みを与えることなく向かって来る武士の集団を斬り続ける。

 四十人以上の武士が居るが、それでもシュン一人からすれば数が多い事には変わりない。

 再び多数の相手をすることになってしまったシュンの元に、松方や泰田からの連絡が耳に付けている無線機から来る。

 

『どうしたぁ!? 一体何が起こってんのか言え!』

 

『報告しろ! 何が起こっているのだ!? 突然、映像が途切れて何が起こっているか分からない!』

 

「なんだ、あんた等でも分からねぇか? ここに来て…」

 

 この連絡に、戦いながら答えようとしたシュンであったが、無線機は狙撃によって破壊された。

 

「ちっ、狙撃まであんのか!」

 

「馬鹿者! これは我らの戦い! 手出しは無用…」

 

 包囲された挙句、狙撃まで来たので、シュンを取り巻く環境はより一層に悪くなる一方であった。

 邪魔立てされた武士の一人がこの狙撃に抗議したが、背中を見せた瞬間にシュンに寄って真っ二つに叩き下ろされる。

 

「よし、半分か…!」

 

「ヒィィィ…! よ、四十人が二十人に…!?」

 

 僅か数分程で、四十人以上の武士を半分に減らしたシュンは、戦意を損失しつつある武士の一団を見て、逃げ切れる確証を得たが、狙撃は容赦なく浴びせられる。

 銃声が鳴った瞬間に即座にその場から離れようとするも、今度は連続した狙撃であるため、回避しきれず、二発ほど被弾してしまう。

 

「ちっ、左手と右脚に食らったか…!」

 

「う、うぅぅ…掛かれ!!」

 

 動きを鈍らせる部分に狙撃を受けたシュンは、傷の具合を確認しながらも、遮蔽物も無い子の場所での狙撃を回避するため、武士の一団に突っ込み、乱戦に持ち込む。

 これで狙撃兵らは味方の誤射を恐れて狙撃は出来ないが、ここに居る武士らを全滅させてしまえば、再び狙撃に晒される。しかし、盾になる武士らを殺さなければ、自分も殺されてしまう。故に、選択肢は限られているのだ。

 死体を盾にすると言う案もあるが、背後からの狙撃もあり、それに逃げようにも、周囲には大盾を持った兵士たちが包囲している。ここで大人しく捕まるほかないだろうが、シュンは捕まるわけには行かない。最期まで足掻き続けるのみだ。

 

「ひっ、ヒィィィ!? 止めてくれ!!」

 

 十名ほどを殺し、尻餅をついて命乞いをする一人を殺そうとしたが、ビームらしき物を受けて吹き飛ばされた。

 

「クソッ…今度は誰だ…?」

 

 吹き飛ばされたシュンは、狙撃を避けるために即座に上体を起こして自分に向けてビームを撃ち込んだ人物を確認した。

 そこに居たのは、栗毛のポニーテールの十代後半の少女に、金髪のツインテールの前者と同じ歳の少女の二人だ。

 二人はそれぞれ違う服装をしているが、手にしている杖や刀身が黄色に光るおお振りの斧の得物からして、管理局の局員であることが分かる。

 

「栗毛の方はなんかどっかで見たことがあるような女だが、やるしかねぇな…!」

 

 強者の雰囲気を漂わせる二人の女性に対し、シュンは栗毛の女性に何か見覚えのような言葉を吐いたが、今は敵であることは限りないので、痛む全身に鞭を打ちながら大剣を構えた。




これで緋アリ編は終了し、次の章へ突入します。

それにしても緋アリ勢、全然目立ってねぇな。リメイク前より扱いが…。
つっても、俺が書いてるんだけどね。
最初、見たときは面白いな~と思っていた時期はあったけど、軍事物やジョーカー・ゲームなどの硬派な物を見て行くと、段々にツッコミどころしか無くなって来たので、こうなってしまった。
キンジの扱いは不遇過ぎて、アリアは二挺拳銃で戦わず、自国製傑作ライフルで戦う。
マジで緋アリファンの方々、ガチムチ兄さんとおっさん、漫才夫婦にちー様そっくりの鬼しか活躍して無くてごめんなさい!

変苦水を作り上げたのはブラドだって事になり、ちー様の血を引いている沙慈に、殺されそうになったが、ネオ・ムガルのおかげもあって、殺されずに済む。
ぶっちゃけ、ブラドは緋アリ編に突入して最初に出て来た犬の使徒みてぇな奴よりも弱いことに。
シュンなんかと戦わせたら犬鍋にされるので、勝手に蘇らせら内にエルダーおじさんを秘めているPSO2のゲッテムハルトと戦わせることになった。
シュンがイ・Uと戦うことになれば、確実に皆殺しにしてしまうからね…。

それと誰か薄桜鬼と緋アリのクロスとか書かないかな?
まぁ、誰も書かない思うが…期待しないでおこう。
さぁ、次はネタバレしてたリリカルなのは編だ。張り切って行こう!

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