復讐異世界旅行記   作:ダス・ライヒ

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零児「俺の名は零児、その少女は狙われている!」


必勝への軌跡

 それから数週間後、東京武偵校にて、アドシアードと言う文化祭のような学祭が開かれていた。

 この学祭は、各国の武偵校で行われており、主に招かれる客は執行機関の関係者や軍関係者、民間軍事会社の関係者たちだ。

 その時期を狙ってテロリストが混じる可能性があるが、入る前に高性能な赤外線センサーで武器屋爆発物の類を即座に見付けられ、事を起こす前にお縄となる。

 そんな時期に、Sランクと言う高ランクの武偵を狙った誘拐事件が発生した。

 狙われた武偵は、星伽白雪(ほとぎ・しらゆき)と呼ばれる女子生徒だ。彼女はSランク武偵であり、伊・Uなる謎の組織に属する誘拐のプロによって拉致、いや、何かの脅迫を受けて東京武偵校がある学園島の端にある弾薬庫の方へ自ら向かったのだ。

 幼馴染である白雪が消えたと聞いた遠山キンジはその即座に誘拐のプロ「魔剣(ディランダル)」に囚われたと察知し、彼女を救うべく、単独で追った。

 これに気付いた同じパートナーを組んでいるアリアは、キンジを追うべく、追跡に長けたペットを飼っているルリと共に追跡に入った。カナリスと森羅、それにこの世界の超常現象対策課、思わぬ伏兵が待ち伏せているとも知らずに。

 

「そのハムスター、本気で役に立つの?」

 

「役に立つよ。この子のおかげで、私は逃げ切れたんだから」

 

 アリアがハムスターの嗅覚で追跡できるかどうか疑問に思い、その飼い主であるルリに問えば、彼女はワルキューレの騎士団に囚われた際の脱出に助けられた経験談を離し、懐から餌を出す。

 実際にルリは、このゴールデン種のハムスター、ハルトマンに寄って救われた。実の所、彼が連れて来たシュンに寄って助けられたのだが。

 それを自慢げに話しながら、餌をハルトマンにあげ、小さな手で頭を軽く撫でる。

 

「キンジは何所に行ったの?」

 

 頭を撫でた後、キンジが何所へ行ったのかを問えば、彼が行ったとされる方向へハルトマンは走り出す。これがハルトマンの返答だ。

 

「こっちだって!」

 

「他の餌に釣られてるんじゃないの?」

 

 ハルトマンを見失わないように、ルリは追い始める。まだ疑うアリアも、ハルトマンを追うルリを見失わないよう、ついて行った。

 その先に、カナリスでも森羅の零児や小牟、環境省の三人の鬼とは違う思わぬ伏兵が待ち受けているとも知らず。

 

「っ!? 危ない!!」

 

「え? わぁ!?」

 

 キンジの行方を知るハルトマンを追っているルリの後へついて行きながら、広い場所へと出たアリアだが、遠くの方で何かが光ったのが見えた。数秒間はただの太陽の光と思っていたが、武偵としての勘で、即座に狙撃銃の眼鏡と判断し、ルリを狙撃から守るために飛び込んで無理やり彼女を伏せさせた。

 それから物の数秒後で銃声が聞こえ、弾丸が近くに着弾する。

 

「スナイパーよ! 何処かに隠れなさい!!」

 

 狙撃されたと確信したアリアは、即座に太腿のホルスターから自分の愛銃であるコルト・ガバメントを素早く引き抜き、ハルトマンを抱えているルリに、遮蔽物となる場所へ隠れるように叫んだ。

 その直後に、数カ月前にシュンと戦っていたフィリピンの民兵等があちらこちらから飛び出し、二人を見るなり手にしている密造銃や粗悪なコピー品の銃を撃ってくる。

 これに拳銃だけで応戦する二人であるが、何分、相手の小火器は全て突撃銃の類であり、一発撃つだけで直ぐに無数のライフル弾のお返しが来る。それに素人に毛の生えたような民兵の中に、何名かAR15系統風味に魔改造されたAK系統の突撃銃を持ったプロが混じっていた。

 

「不味いわね…囲まれたわ…」

 

「これって、ディランダルの罠?」

 

「いや、あり得ないわ。ディランダルはこんな連中は使わない。絶対にね」

 

 背後から来た銃撃を伏せて躱せば、アリアは囲まれたと察してルリに告げた。

 ルリはこの伏兵たちが白雪を拉致したと思われるディランダルが配置した物だと思ったが、その誘拐のプロの手口を知るアリアは、それを即座に否定する。

 

「じゃあ、この人達は…?」

 

「知らないわね。分かるとすれば、こいつ等が私達を殺すために送られた刺客って所だけよ!」

 

 一体何者かがこの刺客たちを送って来たのか?

 そう問うてくるルリに対し、アリアは答えながら近付いて来た一人の脚を撃ち抜いた。

 脚を撃たれた民兵は、余りの痛みで悶え苦しむが、死ぬほどの怪我では無い。

 

「こいつ等を全部相手にするとなると…弾が全部足りないわね…」

 

 一人を無力化した後、続々と銃を撃ちながら向かって来る敵の集団を見て、アリアは勝機が無いと判断して絶望の表情を浮かべた。

 

 

 

「おい、これはお前の想定の範囲内か?」

 

 的確な位置に身を隠し、双眼鏡からルリとアリアが外国の民兵やPMC等に襲われているのを眺めている零児は、二人を襲っている集団が想定の範囲なのかを、無線でカナリスに問う。

 この時、零児と他の森羅の隊員等の服装は、PMCのオペレーターのような格好であり、ラフな服装の上からタクティカルベストを羽織っていた。手にはカナリスが支給した銃が握られている。

 何故か小牟(シャオムウ)だけは、一人だけ大戦中の大日本帝国陸軍の一式装備であり、手には九九式短小銃を握っているが。

 

『あぁ、連中は私が瀬戸シュンを呼び出すために寄せ集めた。だが、数においては想定の範囲外だ。済まない』

 

 二人を襲っている民兵やPMC等が呼び寄せた者は自分であると正直に答えるカナリスであったが、その数においては想定の範囲外であった事を謝罪する。

 謝罪に対して何も反応せず、零児はどう対処するのかをこの作戦の指揮官であるカナリスに問う。

 

「で、どうする。このまま野放しにすると、事態が最悪な方向に動くが?」

 

『減らすしかあるまい。こちらも幾人か減らす。必ず来る奴のために、得物を残しておけよ?』

 

 零児からの問いに対し、カナリスは事態の悪化を防ぐためには民兵やPMCは減らすしか無いと思い、少しでも多く減らすように指示した。だが、後から必ず来るシュンのために、ある程度は残しておくようにする条件を付けて。

 

「そいつは重畳。なるべく残しておくように心掛ける」

 

『是非そうしてくれ。この世界の鬼たちにも告げておく』

 

 脅威に晒されている二人の少女を守る許可が降りた零児は、この上ない事であると礼を言えば、手にしているSG556自動小銃の安全装置を外し、ルリとアリアに向けて銃を撃っている民兵や傭兵たちの元へ向かった。この時、なるべく残しておくようにカナリスからの忠告を受けたが、彼は聞いていない様子だった。

 それを見越してか、監視役として付けられたワルキューレの女性士官が、カナリスと同じように零児らに再度忠告する。

 

「隊長の言う通り、なるべく敵を残しておいてください。目標が帰ってしまうかも…」

 

「言われなくても分かってる。それと小牟、なんだその服装は?」

 

「気合いじゃよ、気合い」

 

 その忠告に、零児は分かっていると返した後、小牟のその古臭い装備について問いただした。

 この装備を彼女は「気合い」とだけ答えたが、今の時代、そんな装備は式典か何かのイベント辺りでしか使用されない物だ。それに手にしている銃も、大戦期の日本陸軍の主力小銃であった九九式短小銃であり、今の時代の主力である自動小銃や突撃銃では無い。

 真正面からやり合えば、確実にハチの巣にされるのがオチだろう。

 

「お前、これはマジの銃撃戦だぞ。そんな古臭い小銃とそんな服装で勝てると思っているのか?」

 

「安心せぃ、いざとなれば、奥の手を…」

 

「残念ながら、一人での銃剣突撃はハチの巣にされるのがオチだ。諦めて隠れながら撃て」

 

「零児ぃ…少しはフォローしてくれぇ…」

 

 そんな装備で大丈夫なのかを問われた小牟は、奥の手があると豪語したが、直ぐに零児に銃剣突撃であると見抜かれ、その挙句に一瞬でハチの巣にされるだけであると告げられ、消沈した。

 そんな小牟を放って置き、零児は今まで受けた訓練の通りに、監視役も含めて自分のチームメンバーに向けて無言でハンドサインでの指示を出す。

 小牟以外の者達はそれを理解し、四名ほどが班を組んで別の地区への制圧に向かった。

 残された零児と小牟、監視役は、自分等でチームを組んでこの場に居る民兵や傭兵らの制圧に乗り出す。

 先に先行するのは、陸自のレンジャー訓練を受けた経験のある零児からだ。中央には古い小銃を持った小牟と、後衛に零児と同じSG556自動小銃を持つ監視役の女性士官が続く。

 

「まるでサバゲーじゃのぅ」

 

「これは実戦だぞ。遊びとは違う」

 

 直ぐ後ろに居る小牟がまるでサバイバルゲームのようだと言う発言に対し、零児はこれが正真正銘の実戦であることを告げる。

 確かに今聞こえている銃声は紛れも無く本物であり、スピーカーから流される録音された音でも無い。それに英語やフィリピン語の怒号まで聞こえて来る。今いる場所は日本であるが、アフリカのような戦場であろう。

 それを聞いてやや緊張した小牟は、周囲に目を配りつつ、零児の後をついて行った。

 

「待て。ここは銃を撃つよりも、ナイフが的確だ。そこで待っていろ」

 

 周囲に居る敵を避けながら進めば、自分等に背後を向けている民兵が見えた。

 これに小牟は手にしている小銃で背中を撃とうとしたが、零児に銃身を握られて撃つなと言われ、銃口を下げた。ここで撃ってしまえば、面倒なことになるからと零児の考えだからだ。

 

「ナイフキルか。まるでFPSゲームじゃのぅ」

 

「俺たちがやっていることは、本物の人殺しなんだがな…」

 

 その手のプロから教わっている零児の指示に従った小牟は、やっていたFPSゲームの事を思い出したが、またも零児からツッコミを入れられる。

 そんな彼は、自分に背後を見せている民兵に足音を立てずに近付き、口を左手で塞いでから右手に握られたナイフで喉を掻き斬って命を奪った。息絶えた民兵をそっとコンクリートの上に寝かせれば、ハンドサインで指示を出して合図を送る。

 

「流石は零児じゃのぅ。まるで映画のワンシーンみたいでカッコいいぞぃ」

 

「そいつは重畳。そんなこと言ってないで、早く進むぞ」

 

「ま、待っちくり~」

 

 まるで映画のワンシーンのようだったと褒める小牟に対し、礼を言った零児は、早く進むと告げ、監視役と共に進んだ。置いてきぼりにされたくない小牟は、ややふざけた口調で慌てて後をついていく。

 ルリとアリアを銃撃している敵兵等を攻撃できる十分な位置にまで着けば、零児は一番の射程距離を誇る小銃を持つ小牟に、倉庫の屋根の上でRPD軽機関銃を撃っている民兵を撃つように命じる。

 

「よし、小牟。お前は一時方向の倉庫の屋根の上で軽機関銃(LMG)を持っている奴から片付けろ」

 

「えるえめむじー?」

 

「屋根の上で機関銃を撃ちまくってる奴の事だ! 早く撃て!」

 

「分かった、分かった! 深呼吸、しんこきゅー」

 

 LMG、軽機関銃の英語の略称が分からなかった小牟は、その意味を問い掛ければ、零児の指差した方向に居る民兵を見て意味を即座に理解し、小銃を構えて深呼吸して狙いを定める。

 狙いが定まった瞬間に、小牟は何の躊躇いも無く引き金を引いた。

 普通、人を殺したことも無い人間は、同じ人間を撃つことに躊躇いも無いが、彼女は七百年半分近く生きた妖狐であり、幾度もそのような経験があったがため、人を撃つことに対して何の躊躇いも無かった。

 銃声が響き、銃口からは7.7mm口径小銃弾が発射された。だが、弾丸は標的には当たらず、近くに居た56式自動歩槍を撃っていた民兵の頭に当たる。これに歓喜する小牟であったが、狙った標的には当たらなかったので、零児に頭を叩かれる。

 

「ヘッドショットじゃ!」

 

「馬鹿、そいつじゃない!!」

 

「いってぇー」

 

 頭を叩かれた小牟は、ボルトを引いて空薬莢を排出してから、撃つのを止めて仲間が撃たれたことに戸惑っている機関銃兵に向けてもう一発撃ち込んだ。

 頭には当たらなかったが、無力化に成功した。

 

「やったぞ!」

 

「GO!」

 

「おい待てよぃ!」

 

 それを気に、零児と監視役は隠れている場所から飛び出し、突然の銃声で戸惑っている民兵等を的確な射撃で撃ち始める。

 二人とも単発で撃っており、狙いも正確であり、一発で敵一人を次々と倒していく。それも移動しながらの射撃だ。零児は陸自レンジャー訓練を受け、監視役の女性士官はある程度の実戦経験の受けた賜物であろう。

 小牟の方はと言えば、小銃に銃剣を付けて着剣してから、次々と民兵等を無力化して行く零児らの後へ必死について行っていた。

 

「な、なんだこいつ等は!?」

 

「俺たちを撃ってるぞ!」

 

「構わねぇ、邪魔する奴は敵だ! ぶっ殺せ!!」

 

 次々と撃たれて死んでいく民兵等を見ていたPMCの傭兵たちは、標的を殺すのに邪魔であろう零児から先に仕留めることにし、標的をルリとアリアから彼らに切り替える。

 実戦経験豊かな傭兵らの正確な射撃に、流石の零児等も近くの遮蔽物に身を隠す。

 

「うぉ!? こっちに撃って来たぞ!」

 

「傭兵共だな。何所の誰かに雇われたか知らんが、邪魔をするなら排除するだけだ!」

 

 撃って来た傭兵らに対し、零児は邪魔をするなら排除する意を決め、遮蔽物から飛び出して近場に居る傭兵に向けて銃弾を撃ち込んだ。

 

「くっ、流石に実戦慣れはしてるか」

 

 狙った標的は直ぐに遮蔽物に身を引っ込めた為、零児は即座に近くの場所へ身を隠して反撃を躱す。

 

「アリアちゃん、こっちに撃ってくるのが少なくなってる!」

 

「誰かが助けに来てくれたって信じたいけど、このチャンスを逃したらまた逆戻りよ! 行くわよ!!」

 

 傭兵らが零児等に標的を集中した隙を逃さなかったアリアは、それを知らせたルリを引き連れてキンジが行ったとされる倉庫まで走って向かう。

 

「っ!? 零児よ! あの子らが逃げてしまったぞ!!」

 

「それで良い! 向かう先の場所は見当がついてる!」

 

 彼女らが向かって行ったのを見逃さなかった小牟は、直ぐに零児に知らせたが、彼はそれが狙いであり、居場所の見当がついていると大声で答えた。

 見逃してしまえば完全に逃げられるはずだが、ルリとアリアは白雪を追って行ったキンジの追跡を行っており、自ずと居場所は分かるのだ。それにキンジが入って行った倉庫は、事前に確認済みなので、周辺の敵をある程度一掃した後に向かえば十分に間に合う。

 

「死ねぇ!」

 

「来たかぃ!」

 

 それに答えた後に、零児は回り込んで銃を撃とうとする傭兵を返り討ちにする。

 女性士官の方も幾人かの傭兵を仕留めており、敵もやや戦意を喪失しつつあった。

 

「な、なんだこいつ等は!?」

 

「俺が知るか! こっちの数が多いんだ! 民兵共をもっと増員しろ!!」

 

 思わぬ敵の出現とその強さに、少し戸惑いを見せる傭兵たちであったが、数の多さを生かして叩き潰そうと戦意を向上させる。

 

「ふぅー、敵が多いのぅ。零児よ、少し本気出して良いか?」

 

「あぁ! やり過ぎるなよ!!」

 

「わーっとる」

 

 敵の更なる増員で少し苦戦しそうなためか、小牟が本気を出して良いのかと問えば、零児はやり過ぎないように忠告してから許可を出す。

 許可を受けた小牟はそれを承知しつつ、九九式短小銃を傭兵たちの増援に向けて投げ付けてから、腰に差し込んである二挺の拳銃を取り出した。

 右手に握られた拳銃は金色に染められた「(ゴールド)」、左手に握られたのはブレード付きの拳銃は「白金(プラチナ)」だ。

 

「にっひっひっ、覚悟しろよ、貴様ら」

 

 二挺の拳銃を重ね合わせたポーズを取りながら、小牟は仲間の一人が突き刺されて死んでいることに驚いている傭兵たちに向けて告げれば、銃弾すら躱す勢いの速さで彼らに近付いた。

 

「は、早い!?」

 

「まさか、俺たちのしている相手は、武偵のSランクレベルか!?」

 

 凄まじい速さで向かって来る相手が、自分等が知る武偵の最高ランクであるSレベルの物であると思う。

 

「だが、この人数でこっちは連射力のある銃が五万とあるんだ! ハチの巣にしてやる!!」

 

 こちらには連射力のある銃が多い事で慢心している傭兵たちは、向かってくる前にハチの巣にしようとしたが、その銃である軽機関銃を持っている仲間を零児に撃ち殺された。

 

「え、援護射撃だと!?」

 

「うわぁぁぁ! き、来たっ!?」

 

 零児の援護射撃で傭兵たちに近付けた小牟は、飛び上がって手近に居る傭兵の頭を踏んで更に高く飛び上がる。

 

「全員、ロックオンじゃ!!」

 

 そして、傭兵たちの頭上高くに上がった所で、手にしている二挺の拳銃の引き金を引いた。

 地上に降りるまでの数秒間、小牟はたったそれだけの時間で数人の傭兵を仕留めた。だが、更に彼女の攻撃は続く。

 地に足を着けた瞬間に彼女は空かさず、自分に振り返って戦友の仇を取ろうとして来る傭兵らに向けて銃を撃ち続ける。

 全員が倒れるまで撃ち尽くせば、格好良く決めポーズを決めてから二挺の拳銃を仕舞い、傭兵の死体に突き刺さっている小銃を回収し、自分の背後から撃とうとする傭兵を撃つ。

 

「ふっ、雑魚め。わしの背後を取ろうなどと、千年早いわ」

 

「先に行くぞ」

 

 背後から撃とうとした傭兵に向け、決め台詞を吐く小牟に向け、零児は監視役と共に先へ進んだ。そんな零児の後を追おうと、小牟はまた置いてきぼりにされないように、必死に後へついて行く。

 それからは複数の民兵等と遭遇し、幾度か交戦したが、ここの土地勘も無く、更に練度も不足しているので、かなりの訓練を積んでいる零児達の前では単なる雑魚に過ぎず、一瞬で蹴散らされるばかりであった。

 余りの彼らの強さに恐れをなしたのか、民兵たちはこの場ではオーバーキルとでも言える火器であるロケットランチャー(RPG)を持ち出す。

 

「小牟! RPGだ!!」

 

「OK、狙い撃つぜ!」

 

 ロシアの携帯式無反動砲であるRPG-7を持った民兵が、倉庫の屋根の上でこちらに向けてロケット弾を撃とうとしているのを見た零児は、即座に撃たれる前に小牟に狙撃を指示する。

 これに応じ、小牟は照準器にロケットランチャーを持っている民兵に狙いを定め、引き金を引いて相手が撃つ前に仕留めた。撃たれた民兵はRPGを撃つ間もなく、叫びながら落下して息絶える。

 

「命中だ」

 

「うむ、もっと褒めて良いぞ」

 

 小牟が放った弾丸を受けて落下して息絶えた民兵を見て、零児は褒めながら銃の再装填を手早く行えば、彼女は胸を張ってもっと自分を褒めるように告げる。だが、そんな小牟に零児は付き合わず、銃を撃ちながら出て来た民兵の迎撃に入る。小牟もそれに合わせて民兵に向けて小銃を撃ち込む。

 だが、日本軍の九九式小銃の装填数は当時のボルトアクション式小銃と同じく五発であり、何発か連続で撃ち込むだけで本体に装填してある弾丸は無くなり、弾切れを起こす。

 

「リロード!」

 

 それを直ぐに確認した小牟は、近くの遮蔽物へ身を隠し、ポーチから予備の弾が詰まったクリップを取り出して再装填を行う。

 

「わしのリロードはレボリューションよ!」

 

 素早く再装填を終えられたのを自画自賛しつつ、小牟は再び射撃を続ける。

 

「さて、そろそろ奴が来てもおかしくないが…」

 

 民兵をある程度倒してから遮蔽物へ身を隠した零児は、残弾を確認しつつ、そろそろシュンが来ても良い頃合いだと思い、それを口にして左耳に付けてある無線機で、カナリスに来ているかどうか確認した。

 

 

 

「こちら、パパフォックス。ホワイトフォックス、どうした?」

 

『例の‟漆黒の剣士‟はもうついている頃か? このままだと全員倒してしまいそうだ』

 

「いや、まだ奴が現れたとの情報は無い。この騒ぎを聞きつけて出動したとの報告は受けたが、奴の姿を見るまでははっきりと断定できない」

 

 別の場所で民兵や傭兵らと戦っているカナリスは、零児よりシュンが来ているかどうかの連絡を受けた。

 これに出て来たのは確認できたが、着いたかどうかは不明と答え、現ドイツ連邦軍の正式採用されている突撃銃であるG36のカービンタイプであるKモデルを撃ちながら作戦本部に連絡を取る。

 

「今、作戦本部に確認を取る。暫し待て。こちらパパフォックス、マザーフォックス、奴の姿は確認できたか?」

 

『こちらマザーフォックス、付近で車を降りたところは確認できましたが、それ以降の行方は確認できません』

 

 作戦本部に居る女性オペレーターからの返答に、カナリスは追跡の手を増やして隈なく探せと指示する。

 

「ドローンをもっと増やせ。奴は戦闘のプロだが、空からの監視を増やせば必ず見付かるだろう」

 

『了解しました。ドローンを増員します』

 

 作戦司令官であるカナリスの指示に応じ、オペレーターは指示を実行するために無線を切った。

 それからカナリスは、空を見上げて多数のドローンがシュンを探しに行ったのを確認すれば、背後から自分を撃とうとする二名の民兵に即座に対応し、それぞれ一発ずつ撃ち込んで倒す。

 

「待たせたな。奴はここに着いたかどうかは不明だ。大量のドローンを飛ばして探している」

 

 邪魔な物を片付けた後、カナリスは零児に向けてまだシュンの所在がつかめてないことを告げる。

 

『まだ見付からないのか? もう全部片付けちまうぞ』

 

「いや、何名か残せ。その内、奴は姿を現して…」

 

 カナリスの返答を聞いて、零児は来ない場合は全て片付けると言って苛立ちを覚える。

 そんな彼を宥めるように、カナリスは辺りを見渡しながら待つように説得を始めようとすると、シュンの到来と思われる光景が偶然にも目に映った。

 

『おい、どうした?』

 

「奴だ、奴が来た…スナイパーの傭兵の狙撃銃を奪って、下に居る民兵や傭兵を撃っている…!」

 

 その光景を見て黙ったカナリスに対し、零児は何があったのかを問えば、彼はシュンが来たと答えた。

 彼が見ている方向には、一番高い倉庫の屋根の上で敵の狙撃手から奪った狙撃銃で、民兵や傭兵らを撃つシュンの姿があった。

 

 

 

「畜生! なんで当たりやがらねぇんだ!!」

 

 カナリスや零児らの捕獲部隊とは違う、別の物に雇われた思わぬ伏兵たちの一人であるフリーの狙撃手、ブローニング・マーカスは、アリアを狙ったはずの初弾を外してしまい、かなりの苛立ちを覚えて滅茶苦茶にSR-25自動狙撃銃を乱射して標的を殺そうとしていた。

 彼は元アメリカ海兵隊の特殊部隊に属する選抜狙撃手であるが、狙撃手の基本中の基本である「一発撃ったら別の場所へ移動する」を、余りの怒りで忘れてしまっているのか行わず、ただ標的へ向けて撃つだけであった。尚、彼は選抜狙撃手であるので、本物の狙撃手では無いが。

 

「畜生が! 畜生、畜生! クソ、クソクソクソ、クソぉぉぉ!!」

 

 我を忘れたかのように銃を乱射するも、既に遮蔽物へと身を隠している標的へは一切弾は当たらない。

 銃の弾倉を全て撃ち尽くせば、即座に新しい弾倉へ取り換えて再び狙撃とも言えない射撃を再開する。再装填の仕方はまさにアメリカ海兵隊仕込みであるが、この無茶苦茶な狙撃の所為で台無しであろう。

 

「クソ見てぇなマフィアと似たような仕事じゃねぇかぁ! 全くっ! 湾岸戦争の頃が懐かしいぜぇ!!」

 

 銃を乱射しながら、ブローニングはこの仕事に余り乗る気でなかったことを呟く。

 彼はその言葉の通り、海兵隊員として湾岸戦争に従軍した選抜狙撃手であった。狙撃して奪った命、もとい、記録は四十六名である。

 他に爆薬やアラビアやインド公用語、日本語や中国語などのアジア圏の言語に精通している。

 また、プロとして過剰なまでのプライドを持っているのか、それを傷付けられればヒステリックの如く激しく怒り、更にその手に銃を握っていれば、激しく乱射する危険な男だ。

 

「おい、狙撃手は撃ってから移動しろとか教官様に言われて無かったか?」

 

「あぁん!?」

 

 そんな彼を刺激するかの如く、何者かが背後から現れ、ブローニングに対して挑発的な問いを投げ掛けて来た。

 確かに狙撃手は、自分の居場所を悟らせないため、ある程度撃ってから場を移すのだが、彼は選抜狙撃手、つまり分隊を支援する分隊支援火器を持つ機関銃手と同じ支援を主にする支援兵科だ。

 彼がそれをしないのは、当然の事だが、これがブローニングを怒らせてしまったようだ。

 手にしている狙撃銃を、自分を怒らせた相手に向けようとしたが、頭に巨大な鉄塊が叩き込まれ、その衝撃で両目が飛び出し、ブローニング・マーカスはこの日を持って息絶えた。

 生涯の狙撃成功記録は、海兵隊従軍時代とフリーの狙撃手としての記録を含め、六十二人…。

 

 

 

「こいつ、狙撃兵じゃねぇな」

 

 この場に遅れて到着したシュンは、目前の選抜狙撃手の男の頭に叩き込んだ大剣「スレイブ」を引き抜き、刀身に着いた血を振り払った。

 尚、彼がカナリスの監視網を抜けてここまで潜り込めたのには、歴戦の勘で何らかの罠を嗅ぎ付けたからだ。

 第二次世界大戦後半のフランスのノルマンディーにおける戦いにおいて、ドイツ軍の力戦部隊が、連合軍の戦闘爆撃機の攻撃から逃れるため、茂みや生垣を利用して空の目を掻い潜りながら作戦地域へと向かった。

 シュンは劣勢のドイツ軍と同じ手を使い、ドローンによる空の監視網を辺りの空から身を隠せる場所で身を隠しながら監視の無い倉庫群まで潜り込んだのだ。

 頭が無残な形となって死んだ狙撃手から、アメリカの自動狙撃銃「SR-25」を回収し、残弾と銃身の具合を確認する。

 

「無茶苦茶に撃ち過ぎだろ。選抜狙撃手でもこんなには撃たねぇよ」

 

 既に死んでいるこの銃の持ち主を罵倒しつつ、シュンは撃てるかどうかを確認するため、カナリスや零児等を殺そうと躍起になっているRPD軽機関銃を持つ民兵に向け、試し撃ちとして狙撃した。

 

「銃身はひん曲がってねぇようだな。よし、後三発撃ったら移動だ」

 

 銃身が過度な狙撃による熱の影響で曲がって居ないことを確認すれば、残りの弾倉分の弾を撃ってからこの場が移動することにして、指揮官や対物兵器を持つ民兵や傭兵に向けて狙撃を続ける。

 その様子をカナリスに見られていたが、シュンは気付かず、残り残弾である三発を撃ってから元の持ち主の死体を弄って予備の弾倉を回収し、別の狙撃地点へと移動する。

 彼は従軍時代、狙撃手でも無ければ選抜狙撃手でも無かったが、訓練の様子は見ていたようで、やや手慣れている様子だった。

 移動しながら再装填を済ませれば、持って来たここで大剣に次ぐ一番信頼できる銃であるAK-103突撃銃に切り替え、自分を見掛けて撃とうとする民兵や傭兵らに向けて撃ち込む。

 

「賞金首が居たぞ! ぐわっ!」

 

 カナリス等と同じく幾多もの戦場を駆け抜けて来たシュンに取って、大規模な戦闘を経験したことが無い傭兵らが勝てるはずも無く、返り討ちにされて全滅する。

 ちなみに、傭兵らと民兵の狙いはシュンである。理由は彼が最初にこの世界に来た時に爆殺したあの大物国会議員の息子の仇を取る為、その大物国会議員が、シュンを殺すために差し向けた物であろう。

 カナリスはそれを利用し、シュンを誘き出すためにこの場に集めさせたと言う訳だ。数に関しては、彼の全くの予想外であったが、結果的にシュンを誘き寄せることに成功した。

 一番の賞金首のシュンが現れたと聞いてか、傭兵たちは一斉に目前の敵を放置し、彼が居る方向へ向けて走り出す。

 

『賞金600万ドルの獲物が出て来たぞ!』

 

『600万は俺のもんだ!!』

 

「俺が賞金首? なんかやったかな? それにこの前の民兵共まで居やがる」

 

 盗聴機能を備えている小型無線機から、自分がいつの間にか賞金首になっていると聞いて、シュンは身に覚えが無く、首を傾げる。

 そんな彼に、泰田と共に対策本部に居るガイドルフが、最初に来た時に殺したあの男の事ではないかと指摘してみる。

 

『お前が最初の世界に来た時に殺したあのドラ息子の事じゃないのか?』

 

「あぁ、確かそんなことをほざいてたような気がすんな。てっ、ことは…」

 

 ガイドルフに指摘されて断片的な思い出したシュンは、自分を殺そうと向かって来る傭兵たちが、その親父が息子の仇を取るために、送り込んだ刺客だと思う。

 

『こいつ等はお前を殺すために送り込んだようだ。大方、武偵がお前の情報でも流したんだろう』

 

「ちっ、余計なことしやがって。こうなったらしゃーねぇ、全員ぶっ殺して俺を殺そうと送り込んだ飼い主もぶっ殺す」

 

『何を言っておるのだ貴様は!? その大物議員が誰かは知らんが、裏が取れるまで殺すことは許さんぞ!!』

 

「へいへい」

 

 この民兵や傭兵らを送り込んだ飼い主を後で殺すと言うシュンに対し、本部に居る泰田は怒鳴り付けた。これにシュンは生返事をして、自分に襲い掛かる傭兵らを次々と撃ち殺していく。

 時に狙撃手や対物火器を持つ民兵や傭兵に対し、手に入れた狙撃銃に切り替えて一発で仕留め、徐々に数を減らす。

 地上へと降りれば、突撃銃に切り替え、自分を殺しにあちらこちらから来る民兵や傭兵らを迎撃する。

 

「おぅ、集まってるな…! だったらこいつの出番だ…!」

 

 民兵や傭兵が集まっているのを確認すれば、多数の敵に恐怖を与える代物である大剣を抜き、手近な敵に斬り掛かった。

 大剣を抜いて向かって来る一人の大男に対し、民兵や傭兵たちは弾丸の雨を浴びせるも、見た目とは裏腹に素早く動くシュンに掠れる程度であり、纏めて大剣に惨殺される。

 

「ひっ、ヒィィ!?」

 

「怯むな! ハチの巣にしちまぇ!!」

 

 目前に居た数名ほどが惨殺されたのを見た民兵等は怯むが、傭兵に一人が撃ち殺され、背後から迫る恐怖心で目の前から来る恐怖の存在に立ち向かうしか無くなる。

 だが、それは無意味であり、次々と大剣の錆となって肉片へと変わる。

 

「し、死にたくねぇ!」

 

「こんな化け物相手にやってられるか!!」

 

 次々と肉片へと変わる味方を見て、傭兵らは戦意を損失して逃げ始めた。

 ここから指揮官が抑えるべきだが、傭兵たちの指揮官はカナリス等にやられるかシュンに狙撃されているので、抑え付ける者が全く居ない彼らは次々と脱走して行く。

 

「臆病者が! たかが大剣を振り回して…」

 

 賞金に目が眩み、勇気ある傭兵が自分の得物でシュンを仕留めようとするも、彼が左手から素早く引き抜いたスチェキンAPS自動拳銃で撃たれて息絶える。

 民兵等に至っては瓦解しており、悲鳴を上げて逃げ回るだけであった。

 そんな彼らに対し、シュンは逃げようとする傭兵の一人を捕まえ、雇い主が誰であるかを問い詰める。

 

「おい、お前らを雇った奴は誰だ?」

 

「こ、この国の大物の国会議員だ…! 名前は確か、富士原宰三(ふじわらさいぞう)だ!」

 

「そうか。ありがとな」

 

 捕まった傭兵は、目前の獲物に対しての抵抗は無駄だと判断してか、自分の雇い主の事を包み隠さず話した。

 雇い主の事が分かったシュンは、珍しく殺さず、その傭兵を解放して一番大きな銃声、それも重機関銃の銃声のする方へと向かう。

 

『富士原宰三? なんと、国会議員では無いか! 良からぬ噂は聞いていたが、まさか本当だったとは…』

 

 そのシュンの尋問を無線で聞いていた泰田は、彼を殺すために外国の民兵や傭兵を差し向けた富士原と言う国会議員であった事に驚きを隠せず、茫然としていた。そんな国会の中枢にそんな議員が居たことに驚きを隠せない泰田は、暫し沈黙の後に富士原の黒い噂を語り始める。

 

『富士原議員は襲撃から守る為、アメリカやロシアのPMCと契約したと聞いたが、まさかフィリピンの反政府組織や傭兵まで雇っていたとは…一体、公安の連中は何をしていたのだ…!』

 

 自分の不甲斐無さと、公安の情けなさに泰田は怒りを吐く。

 そんな泰田を気にせず、シュンは重機関銃の銃声がしてくる方向へと走った。

 

 

 

 その頃、アリアとルリは、ソ連の古い重機関銃であるDShk38重機関銃を装備したテクニカルに追い回されていた。

 

「走りなさい! ズタズタにされるわよ!!」

 

「わわわっ!」

 

 広い場所を走っているため、重機関銃の標的にされ、足元には常に人間を肉塊にするほどの大口径の弾丸が当たっている。射手はその気になれば、当てられるはずだが、嬲殺しにするためか、笑いながらワザと外している。

 

「はっはっはっ! 泣けぇ! 叫べぇ!! 怯えろぉぉ!!」

 

 テクニカルの重機関銃の射手をしている男は、逃げ回る少女らに機関銃を撃ちながら狂気じみた笑みを浮かべて叫んでいた。

 この男の名は、秋葉安治(あきばやすじ)。

 元自衛官でレンジャー資格を持つエリートであるはずだが、過去にかなりの犯罪歴があり、除隊後に暴力団を立ち上げたり、国外逃亡してフィリピンに民兵組織を作り上げたりするなど、レンジャー資格を持つ元自衛官なのかどうか怪しい。

 腰にはイスラエルのIMI社のUZI(ウージー)短機関銃に、コルト・ローマン回転式拳銃を収めたホルスターがぶら下がっている。

 そんな悪党は、目前の少女二人を嬲殺しにしようと、わざと当てないように重機関銃を撃つ。

 

「オラぁ、逃げろぉ! 逃げないと当たっちまうぞぉ! あひゃっひゃっひゃっ!!」

 

 狂ったように笑う秋葉は、そのまま重機関銃を撃ち続けていたが、そんな彼にも死の時が来る。

 

下郎(ゲス)が」

 

「あん!? 今なんて…!?」

 

 銃声に混じって男の声が背後から聞こえ、それに気付いた秋葉は機関銃を撃つのを止めて声がした方向へと振り返った瞬間、テクニカルが横転した。当然の如く、秋葉は荷台から投げ出され、硬いコンクリートの上に叩き付けられる。

 

「クソッ、なんだ!? この元陸自レンジャーの秋葉安治様に向かって!」

 

 コンクリートに叩き付けられても、まだ無事である秋葉は、腰にあるUZIを抜いて所彼処に数発ほど撃ち込んだが、倉庫の壁に弾丸がめり込んだ程度だ。

 

「おい、車を起こして…っ!?」

 

 テクニカルがある方向へ振り向き、自分の手下に車を起こすように告げたが、そこにあったのは、首や胴体を斬られて息絶えている手下の屍であった。

 

「ひっ、ヒィィィ!!」

 

 それを見て恐怖した秋葉は、情けなく泣き叫んで辺りに短機関銃を乱射する。

 無論、死体や横転したテクニカル、倉庫の壁に当たるだけで全くの無意味である。

 弾倉の中身を撃ち尽くすころには、カチカチと引き金を引く音しか聞こえ無くなる。

 

「た、弾を…」

 

 銃の弾が無くなったので、新しい弾倉を取り出そうと、ベストへ手を伸ばそうとしたが、視界が横転するテクニカルから突然、宙を舞う物の視界へと移り変わった。

 そう、彼はテクニカルと自分の手下を斬った何者かに、首を刎ねられたのだ。余りにも素早く斬った所為か、脳がまだ死んでないことに気付かず、その数秒間の間に秋葉を生かしているに過ぎない。

 

「あれぇ? これ、なんだぁ?」

 

 秋葉はまだ自分が首を刎ねられたことも気付かず、突然変わった視界に何が起きたのか理解できないでいる。

 そんな彼に死んだことを気付かせようと、一振りの刀身が宙を舞う彼の頭部に向けて振り落とされ、一刀両断にして頭部を左右に別れさせた。

 

 

 

「例の連中が追っていた悪党はこれで始末出来たな」

 

 秋葉を斬ったのは、環境省の超常現象対策課に属する鬼の一人、萩枝沙慈と言う青年であった。彼は愛刀に着いた悪党の血を振り払い、刀身を腰に差し込んである鞘へと戻す。

 身に着けている服装と装備もまた、カナリスや零児らと同じくPMCオペレーターのような物だ。

 

「なんて奴なの…!? まさかこんな奴が居たなんて…」

 

 一瞬の内に、テクニカルを破壊して数名の乗員を殺害し、更には敵の大将首を討ち取った鬼の強さを見て、アリアは驚愕の声を上げる。

 

「そこの小鬼、先に行け。星伽の巫女をそのディランダルと言う者から救い出して来い」

 

「なっ!? 小鬼ぃ!? あんたいきなり!?」

 

 いきなり現れて早々に、自分の事を小鬼と呼ばれたアリアは怒って拳銃を抜こうとしたが、やって来た民兵等が見付け次第に撃って来たため、慌てて遮蔽物へとルリと共に隠れる。

 

「フン、異国の雑魚共め。貴様らの相手をしている場合ではないと言うのに」

 

 現れた邪魔者に、萩枝は中半イラつきつつ、再び腰の太刀を抜いて、手近な民兵を斬り捨てる。

 一人目が血飛沫を上げながら息絶えれば、二人目、三人目と連続で斬り捨て、一気に四人目の頭を飛ばす。

 

「なんて強さ…!」

 

「先に行け混血児! この雑魚は俺が止める!! そこの異国の小娘は…」

 

「分かった! あんたが何所の誰かは知らないけど、行くわよ、ルリ!!」

 

「うん!」

 

 アリアが萩枝の強さに驚く中、彼は先に行くように告げ、ルリを呼び止めようとしたが、彼女も一緒にアリアの後へ続いてしまった。

 

「おい、お前はここに…! クッ、邪魔をするなぁ!!」

 

 対象であるルリを目前でみすみす見逃してしまったため、萩枝は追おうとするも、湧き出て来るように、民兵が彼に向けて銃弾の雨を浴びせて来る。

 これに萩枝はカナリスから支給されたMP7短機関銃で応戦するも、焼け石に水であり、更なる倍返しが来るだけであった。

 

 

 

「こっちだったか? 聞こえなくなっちまったが…」

 

 一方で、重機関銃の銃声を頼りにアリアとルリが居るとされる場所へ来たシュンだが、重機関銃の銃声が途絶えてしまった為に、自分が何所に居るのか分からないでいた。

 

「あぁ、済まねぇ。迷っちまった」

 

 仕方なく、無線機でガイドルフに連絡して自分が何所に居るのかどうか確認する。

 

『迷子ってか。元空挺のお前らしくも無い。まぁ、急な出動だったしな。待ってろ、今居場所を特定する』

 

 連絡を受けたガイドルフは、シュンの居場所を特定するため、暫く待機するように告げてから無線を切る。

 自分の居場所が分かるまで、シュンはそこで警戒しながら待機していれば、奇妙な感覚を感じ、大剣の柄に利き手を伸ばしてその感覚がする方へ視線を向ける。

 

『お前の居場所が分かったぞ。南東の方だ。嬢ちゃんたちはその近く…おい、どうした?』

 

「この世界のもんじゃねぇ連中が近くまで来てる…!」

 

 シュンの居場所が分かったので、所在地を伝えるガイドルフであったが、彼の様子に気付き、何が起こったのかを問えば、シュンはこの世界の者ではない敵が来ていると答える。そんな彼が警戒している方向から、その人物が姿を現す。

 

「やれやれ、とんだ貧乏くじを引いちまったようだな…」

 

「まさか、本当にベルセルクのガッツにそっくりな男とわな…」

 

 シュンが身構えている方向から来たのは、あの零児と小牟であった。

 カナリスの連絡を受け、ルリが居る方向へと来たつもりであったらしいが、運悪くシュンと鉢合わせしてしまったようだ。

 

「誰だてめぇら? その様子からして、この世界の(もん)じゃねぇな」

 

「そうだ、俺たちはこの世界の住人じゃない。お前と同じく異世界の住人だ」

 

「うむ、今流行りの異世界転移してきたぞぃ。メチャクチャ可愛い美少女を求めてな」

 

「ロリコンか…」

 

 姿を現した零児や小牟に対して問えば、二人は同じ異世界から来たものであると答え、ルリを捕まえに来たことも答える。この返答にシュンは、ロリコンであると思ったが、直ぐに零児からのツッコミが入る。

 

「俺は断じてロリコンじゃない。それにこの駄目狐はもうそう呼べる歳でも無い」

 

「ぬぅ、酷いぞ零児ぃ。わしはまだ妖狐で言えば、ピチピチの十代じゃ! 胸はそうでも無いが…」

 

 ついでに小牟が少女と言える歳では無いと言えば、彼女はまだ成人では無いと訴える。

 これに少しシュンは呆れた様子を見せたが、二人の実力は相当な物であると判断して、背中の大剣を抜いて臨戦態勢を取った。

 

「おぉ!? マジでドラゴンころしみたいな大剣じゃぞ! ほれ、見ろぉ!」

 

「そんなことは良い! お前も本気を出せ! そうでなければやられる!!」

 

「分かっておるわぃ!」

 

 シュンが構える大剣を見て、漫画の主人公が持つ大剣と似ていると小牟がはしゃぐ中、零児は真面目にやれと怒鳴れば、彼女は杖を出す。

 零児もまた、部下から投げられた日本刀や脇差二本に散弾銃が交わった複合武器を手に取り、それを腰に付けてシュンに構える。

 

「(なんだあの武器? 見たところ、複合武器って所か。久しぶりに見たな)」

 

 大変ややこしそうな複合武器を身に着ける零児の姿を見て、従軍時代に似たような武器を身に着けていた者を知っているシュンは、少し懐かしく思った。

 だが、今はそんな気分に浸って入られない。目前の敵に集中しなくては、一瞬であの二人にやられてしまうだろう。

 そう思ったシュンは、先攻を取る二人に大剣を構えて防御の姿勢を取った。




ごめん、後書きコーナーはネタが思い浮かばないのでナッシング。

そんでもって今回でシュンを零児と小牟と戦わせようかと思ったけど、尺の都合で次回に持ち越し…

必殺技食らいまくっても、シュンは死なないと思う、多分…

さて、次回に敵の増援、つか第三勢力でも出してやろうかと思うけど、ややこしくなるから無いと思う。
でも、出さないとシュンとルリが詰むんだよな…つか、この二人毎回詰んでそうな…

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