復讐異世界旅行記   作:ダス・ライヒ

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ごめん、ジャンヌ戦は次回。
つっても、シュンが居るとジャンヌ直ぐに瞬殺されるから、例の二名と戦うことになるけど


狐と妖術師

 東京都の地下にある秘密の広い空間にて、中央に置かれた黒い亜空間を維持する装置の中から六人の男女が出て来た。四人が男性で女性が二人で、女性の内一人は少女であり、少し異様に長髪の金髪を持ち、頭には狐の耳のような物が生えている様に見えた。

 服装は動きやすい服装の上に、自分が属する組織の象徴を現してか、赤いジャケットを羽織っている。彼らを率いているのは、髪の左半分が白髪になっている黒髪の長身の日本人男性だ。

 

「時間通りだな」

 

 彼らを出迎えたのは、ラフな服装の上にタクティカルベストを身に着けたカナリスだ。

 何故この世界に居るのかは、ワルキューレに置いて捕縛対象にされているルリを確保するための協力であろう。彼の後ろには、同じように装備を身に着けた部下たちが控えている。

 

「そいつは重畳。ところで、あんた達が俺たちを呼び出したのか?」

 

「あぁ、我々はある少女の捕縛に対して君たちと共通点のある組織だよ。こちらの要請に答えてくれて感謝する」

 

「こちらが感謝したいほどだ。あの少女の居場所を特定して、更にこうして居る世界にまで案内してくれたことに感謝極まりない。何か、裏まであるのかと疑ってしまうほどにな」

 

 カナリスが腕時計を確認しながら亜空間より出て来た者達を率いる男に告げれば、時間通りに来られたことを知って満足した後に、自分たちをこの世界に呼び出した者達であるかどうかを問う。

 それにカナリスがそうであると答えれば、リーダーの男は疑ってしまうほどの好待遇であると感謝の意を込めて答えた。

 

「四つの世界の次元統合を阻止したと聞く諸君ら『森羅(しんら)』の力を得られるなら、協力は惜しまないつもりだ。それに阻止に尽力した二人も居る。これは一個師団以上の戦力を得られたと同じだ」

 

「そいつは重畳だな。俺たちはただ、やれることをしたまでだが」

 

 リーダーの男が答えを告げれば、カナリスは事前に調べたリーダーの功績を称え始める。

それに対し男は、やれる範囲でやって解決したと答えて煽てを受け流した。

 無駄に煽てて来るカナリスを怪しく思った狐のような少女は、リーダーに近付いて小声で耳打ちしてくる。

 

零児(れいじ)よ、こやつ怪し過ぎるぞ。あのどびっきりメンコイお嬢ちゃん捕まえたら、後で身包み剥される予感がするのぅ」

 

「黙れ小牟(シャオムゥ)、それくらい分かってる」

 

 その耳打ちしてくる小牟と呼ばれた奇妙な少女に対し、零児と呼ばれた男はカナリスが何かを企んでいることに気付いていると小声で中半苛つきそうに答えた。

 

「さて、ここで話しても疲れるだけだろう。奥の方にテントがある。この世界の同胞もそこでまっている。珈琲を飲みながら打ち合わせと行こうか」

 

「何から何まで助かるな」

 

 そんな小牟とやりとりをしている零児に対し、カナリスがテントを指差しながら言えば、彼は何事も無かったように応じて共にテントへと向かった。

 テントの中は、中央に会議用の折り畳み式テーブルが並べられ、人数分の椅子が用意されている。椅子には既に先客が居たのか、三人以上が座って零児達を待っていた。一人は三人のリーダーなのか、黒いスーツの中年男性が立ちながら待っている。

 それに椅子に座っている二人は、シュンと剣を交えた萩枝と双方の対決を素手で止めた愛澤だ。この世界の超常現象対策課も、ルリに関して何らかの目的を持ってワルキューレに協力しているのだろう。

 

「彼らは?」

 

「この世界において君たち森羅と同じ超常現象対策課だ。そこのお嬢さんと同じく、三人は人ならざる者達だ。課長は人間だがな」

 

「小牟とは大違いだな…仕事をサボってないように見える」

 

「何所がじゃ! わしの一生懸命働いておるぞ!!」

 

「何所かだ」

 

 先客の者達を見て、零児がカナリスに問えば、何の冗談も入れずに答えた。

 三人の落ち着きようを見て、小牟の怠けぶりを知る零児が比較して大違いであると口にすれば、隣に居る彼女は自分が働いてないと相手に思われてしまうと怒り出す。

 

「…おい、何故ここに妖の類が居る? まさか我々鬼を…?」

 

「控えなさい、萩枝殿。彼らは我々の協力者です」

 

 後から来た他の協力者たちを見た萩枝が、小牟が妖怪の類のものあると見抜き、敵意を向けながら自分の愛刀を収めている鞘に手を伸ばせば、愛澤が控えるように告げる。

 これに応じて萩枝は舌打ちして刀から手を離したが、敵意を消すことなく、零児の人ならぬ気配を感じ取り、それを口にした。

 

「そしてそこの半分白髪の男、こいつからも妖の匂いが漂ってくるぞ。異世界の超常現象対策課は妖が主力なのか?」

 

「うぅ、零児よ…鬼のイケメンが敵意丸出しでこっちを見とるぞぃ…本当にこやつらで大丈夫なのか? 今まで色んな奴らと会って来たが、共闘する前に敵意を向けて来た味方は初めてじゃぞ…」

 

「あいつ等が異常過ぎたんだ。この手の連中が俺たちを見れば、そう思われても仕方ない」

 

 敵意を消さずに高圧的な態度で接してくる萩枝に対し、味方であるはずの自分等にそれ程の敵意を向けられたことにショックを受けた小牟は、自分の戦友であって弟子であり、恋人である零児にここぞとばかりに抱き着く。

 そんな零児も小牟の企みを見透かしつつ、今まで出会って来た気の良い仲間たちや敵を思い出しながら、これが自分等に対して通常の反応であると告げる。

 今までに二人は、任務もとい冒険で様々な‟変わった者達‟を出会い、共に冒険して戦ってきたが、これ程までに自分等に対して敵意を抱く者は、敵とたまに見に来る政府要人以外いなかった。

 だが、ここに来て初めてこれから共に同じ任務を遂行しようと言うのに、自分等に敵意を向けて来る者が居る。それも小牟と同じ妖怪の類である鬼だ。

 彼女は入って来たと同時に先客の三人を見て同胞だと思ったが、若い鬼である萩枝に敵意を向けられ、その気が失せてしまった。

 それに対する謝罪なのか、代わりに愛澤が謝りに来る。

 

「申し訳ございません。これから同じ目的で動く者達であると言うのに…」

 

「いや、そう思われても仕方が無い。なんせこっちも似たように変わっているからな。邪険に扱われても仕方のないことだ」

 

「ほほぅ、貴方方も我々鬼の一族と同様の存在ですか。同じ悩みを持つ者同士、打ち解けそうですな」

 

「あのツンツン金髪イケメン鬼は、デレが無さそうじゃがのぅ」

 

「まぁ、彼は幼少の頃からああですから」

 

 代わりに謝りに来た愛澤に、零児は仕方の無い事だから謝る必要はないと答えれば、彼は同じ悩みを持つ者同士、打ち解けると思い、それを口にする。

 だが、小牟は萩枝の態度からして自分等と仲良くする気が無いと言えば、幼少の頃の彼を知る愛澤はその言葉の通りであると言う。

 それに名乗り忘れていたのか、萩枝やもう一人のスマホを弄っている鬼の紹介を始める。

 

「失礼、申し遅れました。私は愛澤営二と申す者でございます。そこの若いお方が、萩枝…」

 

 愛澤は自己紹介を終えてから、萩枝の紹介に移ろうとしたが、自分の過去を余り言われたくないのか、彼自身が名乗り始めた。

 

「萩枝沙慈(さじ)だ。覚えておけ、女狐と半妖怪」

 

「その言い方は失礼ですぞ、萩枝殿」

 

「こやつ、オトメゲーの攻略キャラの中で生粋のS枠じゃのぅ…」

 

「一体、どういう教育を受けてそうなったのやら…」

 

 過去に妖の類に傷を負わされた零児を半妖怪、小牟を見た目から女狐と表した萩枝に対し、小牟は少し怒りを覚えたが、零児は挑発と捉え、どのような環境で育って傲慢な性格に育ったのかが気になる。

 また愛澤に叱られる萩枝だが、詫びる気持ちなど一切見せず、両手を組みながらただ黙って座っているだけであった。

 次に、愛澤はスマホを弄って暇を潰している鬼の紹介に入る。

 

「そこでスマートフォンなる物を弄っている御方は…」

 

芳沢井伊之助(よしざわいいのすけ)、しくよろーっと」

 

「これこれ、そんな物を弄りながらそんな態度で…」

 

「うっせー爺だな。良いだろうが、どうせこれが終わったらさよならだし」

 

「まさか現代っ子な鬼がいるとは、驚きじゃわい」

 

 礼儀を重んじる愛澤に、いい加減な挨拶の仕方をして注意された芳沢は、苛ついて睨み付ける。いい加減すぎる芳沢の態度を見た小牟は、鬼の中に現代社会に良く居る若者が居ることに驚きの声を上げる。

 

「萩枝殿と言い、芳沢殿と言い、何故こうも初対面の人に…」

 

「愛澤さん、もう良いですよ。叱るならこの合同任務が終わってからにしてくれ」

 

「あっ、そうでしたな。お二方、この任務が終われば、後で礼儀に対してのお勉強を…」

 

「ちっ、神奈の奴に変わって降りようかな…」

 

 この芳沢の態度を更に注意をしようとする愛澤に対し、やや面倒なことになると思った零児は、任務が最優先であると説得してそれを止めた。

 これに芳沢は説教を食らわなくて済むと思って零児に感謝したが、任務が終了次第、後で礼儀に対しての講義を受けるようにと言われ、他の鬼に任務を変わって貰おうと小言で口にした。

 

「超常現象対策課には、他に鬼の一族の者、女鬼も数名を含めて合計で十五人以上が在籍しておりますが、他の用事があるとのことで私を含めて三人しか参加できません。そちらが六人以上のメンバーを派遣しているにも関わらず、申し訳ない」

 

「いや、謝る必要はありませんよ。こっちも大事な物を盗んだ小娘一人に六人…」

 

「怪盗超絶美少女ルリちゃんじゃ!!」

 

 三人しか来られなくて済まないとまた申し訳ない気持ちを告げる愛澤に対し、零児はたった六人だけしか来られず、自分等も申し訳ないと言おうとしたが、その自分が属する森羅に取って大事な物を盗んだルリを小娘呼ばわりすれば、小牟が余計に大声を出して口をはさんで来る。

 

「やかましい! 漫画とアニメと一緒にするな!!」

 

 そうルリに関して暴走気味な小牟を怒鳴りつけて黙らせた後、零児はようやくの所で自己紹介の気を得たのか、名乗り始める。

 

「申し遅れて済まない。俺は有栖零児(ありすれいじ)、そっちのふざけているのが小牟だ。残り四人は…」

 

 ついでに零児は小牟と四人の部下たちの紹介を終えた。商会が終えると、小牟はこの任務に余り乗る気でない気持ちを零児に明かす。

 

「わしは大真面目じゃぞ。わしはな、この任務がどーしても気に入らんのじゃ。一人の可愛い、可愛い美少女を寄って集って捕まえようとするなど…」

 

「任務に私情を挟むとは、数百年にも渡って森羅で第一線を立ち続けて来た妖狐とは思えんな」

 

「お、お主…!?」

 

「あんた、全部調べていたのか…俺たちは異世界の組織だぞ…!」

 

 その気持ちを明かせば、愛澤が属する超常現象対策課の課長と何らかの相談を終えたカナリスが割って入って来た。

 それに自分が妖狐であり、数百年も前から森羅に属していたことも把握しているカナリスに対し、零児は何故に異世界の組織である自分が属する森羅の事を知っているのかを問う。

 この問いに、カナリスは自分の席の上に資料を置いてからワルキューレの恐ろしい情報網のおかげであると答えた。

 

「我々ワルキューレの四軍の情報部は次元の領域まで行っている。私の知る限りではな。情報部に頼めば、ある程度の事まで提供してくれる」

 

 自分の知らない範囲まで情報網が広がっていることをカナリスが問い質した零児に告げれば、次にそれを聞いて視線を鋭くした愛澤が問うてくる。

 

「恐ろしい…もしや既にこの世界も?」

 

「おそらく隅々まで広がっているはずだ。陸軍か海軍の情報部が何処かにあるとされる集積所に蓄えているかもしれない。森羅がある世界に関しても陸海空のどちらの情報部が情報収集に当たっている事だろう」

 

「わしのありとあらゆる秘匿情報も既に…通りで本部長がわしらの出動を命じた訳じゃ…」

 

 愛澤の問いに、カナリスが自分の知る範囲では陸海空軍のどちらかの情報部が情報を収集していると答えれば、自分の秘蔵の物が既にばれていると気付き、小牟は身震いし、自分の上司が異世界に行って協力しろと命じたことに合点が行く。

 そう小牟が口に出せば、零児は自分等を噛ませ犬か捨て駒に使うつもりでいるのかを問う。

 

「で、あんた等は俺たちを噛ませ犬か捨て駒に使うつもりで呼んだのか?」

 

「いや、やって貰う事は例の少女の仲間たちの足止めだ。出来れば捕縛を頼みたい」

 

 その問いに対し、足止めをしてもらうために呼んだとカナリスは答えた。

 

「さて、これ以上の質問は受け付けない。詳しい事はこれから行うブリーフィングで行う。みんな、席についてくれ」

 

 問いに答えた後、カナリスはこれ以上の質問は受け付けないと告げ、ブリーフィングを行うためにこの場に居る全員に席に着くように指示した。

 全員はこれに応じ、それぞれの席に付いてカナリスが行うブリーフィングを受ける。

 ボードの前に立ったカナリスは、零児ら森羅の者達に自己紹介をしていなかったのを思い出したのか、自分の名と部下たちの紹介を始める。

 

「我々以外の者達は自己紹介を終えたな? 森羅の者達のために名乗っておこう。私はカナリス・タールベルクだ。右からはフェジャニン曹長、ンジャイ少尉、ホン准尉、ガイラー大尉。他にも私の部下が幾人か参加しているが、先に現地入りして調査しているためにこの場には居ない。彼らの紹介は顔を合わせてからしてくれ」

 

 自身と部下の紹介を終えれば、本題に入った。

 

「まずは我々の共通標的であるルリ・カポディストリアスについてだ」

 

 最初に自分等が知るルリについての情報を、席に座る者達に説明し始めた。

 ワルキューレが知るルリの情報については、マリ・ヴァセレートなる人物が入隊当初からその存在を確認していた。

 彼女がワルキューレに入隊すると、ワルキューレが運営する孤児院に数年間ほど預かった後、自機を見てか陸軍に入隊、数か月間の訓練を受けた後に歩兵師団の後方部隊所属となり、前線の将兵に暖かい食料を運搬する隊に配属される。この時の階級は二等兵。

 しかし、過保護なマリが危険な運搬作業にルリが従事していると知り、佐官になった彼女の手によって僅か数カ月で除隊となる。予備役からも外され、マリが購入した土地にある物件で暮らす。マリが海軍や空軍に自主転換しても、すぐさまエースパイロットとなった彼女の圧力によって復帰は出来ず。

 マリの除隊後も、過保護な彼女はルリを人質に取って自分を操ろうと思い、復帰を望めず、自分の土地へ中半軟禁状態にして手放さなかった。だが、何日間か何週間ほどは外に出ていたようだ。

 それが何度か起こっていたようだが、ある日を境に数週間ほど失踪した。

 

 数週間ほど経てば、生存を確認できたが、いきなり近くにあった統合連邦軍の軍事施設を襲撃するなど、まるで別人のように変わっていた。魔導士の女性が仲間として参加した。

 その後は剣士を一人仲間に入れ、連邦の敵である惑星同盟の軍事施設を襲撃。ある物を強奪。そこでワルキューレが同盟を結んでいる統制機構が追っているどういう手段を用いてか、ラグナ・ザ・ブラッドエッジと合流、少年と少女二名を加え、別のある物を盗みに森羅の施設へ侵入、それを盗むことに成功するも、零児や小牟に見付かり、呆気なく捕まる。

 だが、スコーピオンと呼ばれる復活した悪霊がラグナと共に施設を真正面から襲撃を仕掛け、その隙に剣士の男と魔導士の女が見事にルリを奪還し、何処かへ去る。

 

 それから幾度かに渡って居場所を特定できた物の、その度に捕縛には至らず、追跡隊の指揮を担当していたカナリスは失敗続きのため、別の戦線へと送られ、代わりの指揮官が追跡を代行する。

 そしてここに来て、ようやくルリとその仲間たちの居場所を突きとめることに成功した。

 最初に追跡隊の指揮権を半ば強引に奪った聖ヴァンデミオン騎士団が補助部隊の女騎士団と少数の二級戦部隊と共に捕縛に乗り出すも、領主殺しとして新たに追跡対象となった瀬戸シュンと言うイレギュラーが、偶然にもこの世界に逃げ込んで来たため、イレギュラーの介入により被害を出すが、両者とも捕縛に成功する。

 だが、一時的な物であり、騒ぎに乗じて双方ともみすみすと逃してしまい、責任を持って、聖ヴァンデミオン騎士団は追跡の任を解かれ、最前線へと送られ、カナリスの隊が再びルリ兼領主殺しのシュンの追跡隊の指揮に返り咲く形となる。

 しかし、ここに来てこの世界の超常現象対策課と森羅の協力がなぜ必要なのかの理由が無い。

 その疑問を直ぐに、萩枝はカナリスに問い詰める。

 

「で、何故、我々の協力が必要なのだ? お前たちの力だけでやれば良いのでは無いのか?」

 

「その件に関しては、我が組織の兵員不足が理由と、その逃走犯についてだ」

 

 疑問をぶつけた萩枝に対し、カナリスは兵員不足とシュンであることが原因であると答える。

 

「瀬戸シュン、領主殺しと呼ばれる奴は、元陸軍の大尉だ。史上最低の成績の士官学校を卒業した男だが、士官学校に入る前は、かなりの戦果を挙げていた。士官になった後でも」

 

「ほぅ、英雄なんじゃな」

 

「いや、蛮勇だ。人として疑うくらいの戦果だ」

 

 断片的なシュンの戦歴しか知らない小牟が英雄と彼を表すれば、カナリスはそれを否定し、更に本当に人間なのかを疑うくらいの戦歴を叩き出した人物であると告げる。

 義務教育の一環である小学校を卒業したシュンは、十二歳でワルキューレ陸軍に入隊し、戦場、紛争地に派遣され、そこで厳しい洗礼を受け、立派な戦士となる。そこで彼は剣に出会い、それ以降、死んだ敵兵から奪った身の丈に合わない剣で戦う。

 戦利品の煙草一箱で新品とは言わない物の、騎士よりツーハンデッドソードと交換。それで幾多の戦場を掛け、幾度かの戦果を挙げる。

 

 幾年か戦場を離れたことがあり、平和な世界へ行って学をある程度は身に着けたが、戦場を忘れられず、一年ほどで平穏な生活に飽き、戻ってメイソン騎士団の騎兵隊として復帰を果たす。

 だが、独断先攻を行ったがため、騎兵隊を追い出され、部隊を転々とする。

 そんなシュンに対し運命は無慈悲であり、半身とも言える長剣が凄腕の剣士との戦いによって折られる。

 自分の剣を折られたことにより、彼はやや戦意を失ったが、ワルキューレの試作兵器が盗まれる事件が発生し、その追撃の任にシュンは当たる。

 そこで、彼は長剣の代わりとなる新たな半身である対戦車剣と呼ばれる失敗作で、鈍刀の大剣と出会う。彼はその大きな鈍な剣で、試作兵器を盗んだ者達をまるで紙きれのように斬殺し、皆殺しにした。

 その大剣を手にして以降、シュンはもはや人として疑うくらいの行動に出て、並の人間には成すことが出来ない戦果を叩き出す。

 

 この頃から、彼は人間性を捨てた様だ。

 それからは言う物の、戦争の原因となったり、一人で二個小隊を敗走させたり、数々の人間離れした戦果を叩き出し、様々なことを経験してきたシュンだが、そんな彼も戦場から離れる時は来た。

 それはあのシュンに取っては忌まわしい記憶となったあの戦いだ。

 無論、これはちゃんとした理由がある。それはシュンの恐ろしさを知った敵軍の作戦行動だ。

 当時のシュン一人の戦闘力が一個歩兵中隊以上の戦闘力を秘めており、更に一人辺り兵卒一個分隊ほどの戦闘力を有すレンジャー一個中隊に随伴していたがために、彼一人を殺すため、奥の手である機動兵器一個連隊を持って殲滅を試みようとした。

 結果、シュンが率いる中隊の殲滅と彼が担当していた戦域の突破は出来たが、戦線崩壊を恐れるワルキューレの無差別砲撃により、投入した全ての機動兵器部隊は全滅する。

 自らも大損害を被ったので、これで殺せたと思っていた敵軍の参謀本部であったが、彼の悪運は強く、生き残っており、殺された部下の敵討ちと言わんばかりに倍返しを受け、結局のところ負けてしまう。

 だが、この戦いを最後にシュンはワルキューレを去る。皮肉にも、自分等の敗北後に作戦が成就してしまった。成功したとはいえ、負けたことには変わりなく、ワルキューレに何の痛手も負わせていないので、全くの無意味である。

 

 ワルキューレを去ったシュンは、戦争から少しでも離れるがため、多額の退職金で孤児院を開き、孤児たちとひっそりと暮らす。

 そんな彼に二度目の悲劇が襲う。

 ネオ・ムガルと呼ばれる古の帝国の名を継ぐ勢力による無差別攻撃だ。

 件の勢力は、狙った場所に居る者達を一方的な戦線服をしてから無差別に攻撃し、死体の山を作り出してから征服する。

 シュンの居る世界にもネオ・ムガルの魔の手が伸び、彼が養っていた子供たちを含め、その世界に居た者達の大半が殺され、占領された。

 彼もその勢力に抵抗するも、圧倒的な力の前には勝てず、敗北してネオ・ムガルの捕虜となる。それからどうなったのかは不明と記録には記されている。

 

 流石に死んだと思われていたが、統合連邦との戦いで前線区に指定されていた惑星「ワラキア」に何の前触れも無く出現し、禍々しい大剣を新たな得物として振るい、ワルキューレの将兵数十名を殺害する。

 ワラキアに降下した生存者を生死の確認のために来ていたUNSC最強の戦力で英雄であるスパルタンのマスターチーフと同じスパルタンと配下の海兵隊員等と合流。それからイオアンの部隊を待ち伏せして暗殺し、更に首都へ潜入してワラキアの領主であるショアラ・シルヴァニアを暗殺。味方殺しから領主殺しの大罪を犯したがため、シュンは指名手配犯となる。

 無論、生死は問わず、首だけでも持って来れば良いとのこと。

 

「まさか、俺たち助っ人組にその化け物染みた男の相手をしろと言うんじゃ無いだろうな?」

 

「まさか、そんなわけが無い。ただ相手をするときは注意しろと言いたいだけだ。それにこの男の対処は我々が行う。君たちは件の少女を捕らえ、その身柄を我々に引き渡してくれるだけで良い」

 

 先の説明で、シュンの化け物染みた強さを知った零児は、自分等がこの男の相手をしなければならないのかを問えば、その男の説明したカナリスは、元陸軍大尉の対処は彼の古巣であるワルキューレが引き受けると答え、零児達にはルリだけを捕らえて自分等に引き渡すだけで良いと付け加える。

 更にシュンに付いて言い忘れたことがあったのか、カナリスは彼の対処法について、念を押すかのように告げる。

 

「言い忘れていたことがあった。瀬戸シュン元陸軍大尉の対処法だが、集団戦では絶対に挑むな。奴に集団で挑むのは、餌を撒くような物だ」

 

「何故、奴に集団で挑んではいけない? 奴の武器は鈍い大剣だぞ。それに餌を撒いているような物だと? 一体どういう意味だ?」

 

 シュンに集団戦で挑むのが、なぜ禁句であのかが疑問に思った萩枝は、それについてカナリスに問い掛ける。この問いに対し、カナリスはその理由を答えた。

 

「奴は多数の敵を崩す方法に熟知している。それに敵を恐怖に陥れる方法にも長けている。戦うとなれば、手練れ三人以上の戦いで挑むことだ」

 

 かつてシュンに集団で挑み、その末路を知っているカナリスは、集団戦法が彼に通じない理由を述べた。

 

「奴相手に三人以上が妥当か。五人で挑んでも駄目なのか?」

 

「あぁ、五人以上では、三人以上が殺されれば瓦解する恐れがある。だから三人がベストなんだ」

 

「まるでベルセルクのガッツじゃのう」

 

 零児が五人では駄目なのかを問えば、カナリスは三人以上を殺されれば、戦意が落ちる可能性があると答え、三人が妥当であると改めて強調する。このシュンの強さに、小牟がある漫画の主人公に例えたが、誰もそれに関して何も言わなかった。

 

「よし、これで二名の標的に付いての詳細な情報についての説明を終了する。次は、作戦を行う場所についてだが、この世界の秘密結社に属する誘拐のプロが監禁の際に使用するとされる倉庫群で行う。場所はここだ。もし、違う場所を使うなら、第二候補で行う」

 

「この世界の秘密結社、伊・Uか…」

 

「伊・うー? なんじゃその組織は?」

 

「その組織については、後でこの世界の超常現象対策課の者達にでも聞いてくれ。今は作戦が優先だ」

 

 小牟のそれを流しつつ、カナリスはある秘密結社に属する誘拐のプロが使用すると思われる場所を、示し棒で差しながらここで二名の標的の捕縛作戦を行うと告げた。

 秘密結社と聞いて萩枝は心当たりがあったのか、その秘密結社の名を口にする。

 それについては、カナリスは萩枝が属する超常現象対策課について聞けと告げれば、作戦に対して使用する装備の説明を始める。

 

「装備についてだが、そのままの装備では駄目だ。こちらが用意したPMCなどが使用している装備類を使ってもらう。服装はなるべく動き易い物で頼む。銃はスイスの銃器会社であるSIG社の法執行機関向けの自動小銃であるシグ556を使う。モデルはオリジナルのSG550や89式小銃に似ている物だ。有栖零児、君には見慣れた物だろう?」

 

 使用する銃は、スイスのシグ556自動小銃を使うと言えば、零児に使い慣れた89式小銃に見慣れた物ではないかを問う。

これに零児は素直に似ていると答え、似たような銃を選択してくれたことに感謝の意を表す。

 

「そいつは重畳。89式はレンジャーで散々使って馴染んだ物だしな」

 

「それは良かった。わざわざ経歴を調べた価値はある」

 

 零児の感謝の意を受けて、カナリスは喜んでくれたことに満足すれば、件の誘拐プロが、標的を誘拐する時期についての題に入る。

 

「件の誘拐犯は、東京武装探偵高校が行う文化祭のような行事が行われる時期を狙って拉致するようだ。対象を監禁する場所は、先ほど説明した第一候補と第二候補で行われると思われる」

 

 カナリスが‟餌‟である誘拐犯が使う監禁場所の候補を、示し棒で差しながら説明すれば、小牟は誘拐される対象を先に救出していいかどうかを問う。

 

「その誘拐対象を、その誘拐犯が拉致する前に、助けては駄目かのぅ?」

 

「駄目だ、餌をみすみす手放す訳にはいかん。綺麗事では作戦は成功しない。当然、事前に助けようとするのも無しだ」

 

 当然ながら却下される。

 作戦に手段など選んでいられない。例えどれだけ非難されようとも、カナリスにとっては結果が全てなのだ。

 綺麗事ばかりでは何も解決しないことを、小牟に告げれば、カナリスはミーティングの終了を宣言する。

 彼の言葉に、彼女と共に数々の修羅場を潜り抜け、幾度も世界を救って来た零児も少し腹が煮え切ったが、任務が優先であると斬り捨て、平静を保つ。

 

「誘拐犯の拉致決行まで、数週間の有余しかない。各員、それまでにしっかりと頭に叩き込むように。それと後日、仮装訓練を開始する。以上、これでミーティングを宣言する。解散」

 

 有余が数週間と、後日の仮装訓練をすると告げてから、いつもの癖でミーティングの終了を宣言した。

 それを受け、各々は指定された宿舎まで帰ろうと席を立つ。その場で雑談を交わす者も居れば、直ぐに宿舎に帰った者も居る。

 そして一同と同じく席を立った小牟は、直ぐに零児の元へ寄り添い、カナリスの冷酷さに、これまで戦って来た敵と同等な物を感じ取ったことを告げる。

 

「零児よ! あの男、今まで出会って来た敵と同じ匂いがするぞ! この任務、降りた方が良いんじゃないのか?」

 

「それが出来れば苦労しない。だが、あれをまだ取り戻せていない。あれをあの嬢ちゃんから取り戻すまでは、奴に協力するしかない」

 

「じゃが零児よ、わしはこんな悪党のするようなこと…」

 

「良いか小牟、この任務は今までとは違うんだ。俺たちは組織に属する者だ。目標を達成するためには、どんな手を使おうとしなくちゃいけないんだ。例えそれがどんなに気に食わない物でもな」

 

 そんな小牟に対し、零児はルリが盗んだ物を取り戻すまでは協力するしか無いと答えた。

 この答えに、小牟はどんな手段でも問わないカナリスのやり方が気に入らず、その気持ちを零児に告げるが、当の相棒はあの男のやり方でなくては、作戦が成功しないと答える。

 

「零児、お主、変わったのぅ…前のお主なら、この任務に反対意見を出した所じゃが」

 

「人は、いつの日か変わる。それに沙夜(さや)の奴より先に、あの嬢ちゃんを捕まえなくちゃならん」

 

 自分が知る零児がこの手段を問わない任務に何の反対意見も出さなかったことに、小牟は中半失望していたが、彼は宿敵である妖狐の名を口にしながら、その宿敵よりも先にルリを捕まえなくてはならないことを告げる。

 

「まさか、沙夜がルリちゃんの身体を乗っ取るとでも? うーん、あのロリロリのキュートボディに乗り移るとは思えんが、とにかくそれだけは阻止せねばな! うん!」

 

「…そんな理由じゃ無いがな…」

 

 宿敵が身体を乗っ取って何度も復活していることを知っている小牟は、ルリの身体を乗っ取る可能性があると思ってのことだと思い、賛同はしたが、零児はそれが理由で無いと呆れた表情を浮かべながら告げた。

 本当の理由は、ルリが不老不死であることをカナリスの標的の解説で確証を得てのことであり、宿敵の沙夜が不老不死になることを防ぐためのことだが。

 そのことは小牟も理解してのことであり、場を少しでも和ませようと、わざとそんな冗談を混ぜて言っているのだ。

 そんな小牟を気にせず、零児はワルキューレがルリに固執する訳を、ある理由であるからだと言う仮説を立ててそれを口にする。

 

「あいつ等がルリの生け捕りに拘る理由は、あのマリって女を利用する為だろう。奴の話を聞く限り、マリと言う女は俺たちが今までに戦って来たどんな強敵よりも想像を絶するらしい。俺の勝手な仮説だが。まっ、ガッツ擬きに関しては、連中に任せておけばいいだろう」

 

「うわぁ…ヤバいヤンデレじゃのぅ…その仮説が合っていたら、マリと言う女は最強のヤンデレじゃぞ」

 

 最悪なことに、その零児の仮説は合っているのだが、今の二人はマリがどのような女性であるかどうかはまだ知らない。

 この零児の仮説に小牟は、マリが余ほどルリを溺愛している事と、今まで自分等が出会って来たどんな強敵たちを遥かに上回る力を持つ女性であることが分かり、今後そんな女と戦わなくてはならないと思って落胆した表情を浮かべる。

 シュンに関しては、零児たちには全く関係ない男なので、かの男の古巣であったワルキューレに任せておけば良いと判断して放っておいた。

 それから辺りを見渡し、自分なりのルリの捕獲方法が誰にも聞かれていないことを確認すれば、小牟の耳元に顔を近付けながら、ルリを捕まえた後、マリに引き渡すと告げる。

 

「とにかく、カナリスの奴にルリを引き渡す前に、マリに渡して元の生活に戻って貰う。これは内緒だぞ? この世界の超常現象対策課の連中も、ルリを使ってマリを利用するなんて考えを持っているかもしれん」

 

「分かっておる。そんな悪党がするようなやり方など、この765歳の小牟が絶対に許さん」

 

 零児が提案した作戦に、小牟はルリを人質にしてマリを利用しようなどと言う手段を使う連中などに、彼女を絶対に渡さないと胸を張ってその作戦に同意した。

 この二人の小声でのやり取りを、ワルキューレと超常現象対策課の面々が見ていたが、間違って森羅もルリを狙って何かを企んでいると思われるだけで、マリにルリを引き渡すと言う理由を聞かれずに済んだ。

 かくして、ルリを人質に取ってマリを利用しようとするワルキューレや、早くこの世界から一刻も早く厄介事を招くルリを追い払いたいこの世界の超常現象対策課と、ワルキューレよりも先にルリを確保し、マリに引き渡そうとする良心的な森羅の思考が交錯する中、各々は作戦決行の時を待ちながら、その日までにミーティングと予行演習を繰り返した。

 

 

 

『日本解放戦線の諸君! 諸君らの活躍のおかげで、我が国に巣くう在日朝鮮人や支那人どもの数が劇的に減少した! 働けぬ老人共や、売国奴共の数もだ!! この調子で削減が続けば、いずれは日本の治安を乱すものは消え、戦前の大日本帝国のような栄光が取り戻せるだろう! 諸君、この調子で頼むぞ!!』

 

「おい、あいつの戯言を聞いてると耳が痛くなってくるぞ。もう撃っていいか?」

 

 一方で、泰田の指令で極右テロ組織のアジトに潜入していたシュンは、銃火器を持って整列した男達を前に、壁に掛けられた旭日旗を背に演台で演説する組織のリーダーの男を見ながら、排除していいかどうかを本部に居る泰田に問う。

 

『お前が付けているカメラから、机の上に置かれた朝鮮人や中国人の首で十分な証拠が取れている。いつでも撃っていいぞ』

 

 これに泰田は、シュンが付けているカメラから見える演台の左側に置かれた机の上に並べられている四つの首を見て、十分な証拠が取れたので、射殺命令を出した。

 

「あぁ、あんな戯言垂れ流してる奴にイラついて来たところだ。派手にやらせてもらうぜ」

 

 許可が取れれば、シュンは直ぐに大剣(スレイブ)を背負っている自作ラックから取り出し、壁を突き破って演説している男に向けて突き刺した。

 

『大日本帝国が再建された暁には、軍を増強してから我が国に工作員を送り込んだ三カ国を侵攻し、我が大日本帝国の領土に…なんだお前は!?』

 

 壁を突き破って突如となく現れたシュンに対し、リーダーと他の将兵は気付いたが、対応は間に合わず、リーダーは大剣に串刺しにされる。

 

「う、うわぁぁぁ!?」

 

「て、敵だ!」

 

 串刺しにされたリーダーを見て、配下の者達は一斉にシュンに向けて手にしている銃を撃とうとしたが、シュンが左手に持っているスチェッキンAPSと呼ばれるロシアの連射が可能な拳銃だ。無論ながらそれをフルオートで撃ち、多数の敵に弾丸の雨を浴びせる。

 当然の如く、銃身が暴れ、その反動が左手を襲うが、シュンは左手も利き手と同様に鍛え上げているので難なく反動を制御し、次々と銃を持ったテロリストたちを殺害して行く。

 弾が切れる頃には、数名のテロリストの死体が転がっていたが、まだ敵は残っており、急いで銃の安全装置を外して撃とうとして来る。

 そんなテロリストたちにシュンは反撃の隙を与えることなく、既に息絶えたテロリストのリーダーの死体を左手に居る銃を撃ってくる者達に向けて投げ付けから、演台から飛び降り、巨大な刀身を振って慌てふためく男達を惨殺し始める。

 今までに彼が行って来た物と同様、殺戮ショーの開幕だ。悲鳴と断末魔、肉が裂ける音で音楽が奏でられ、舞台が血で真っ赤に染まって行く。時には贓物や目玉や脳髄まで飛び散っているが、直ぐに惨たらしく惨殺された仲間を見て戦意を失って逃げ惑う男達によって踏み潰され、真っ赤に染まり上がる。

 再装填を終えた機関拳銃で撃ち殺された死体も幾つか見られるも、これも逃げ惑う者達によって踏み潰され、無残な死体への仲間入りを果たす。

 

「おい! なんで進まないんだ!?」

 

「詰まって動けねぇ!?」

 

 数秒間にも及ぶ凄惨な殺戮ショーが開かれる中、出入り口に殺到したテロリストたち余りの勢いで迫ったために全員が抜け出せず、詰まってしまった。自力で抜け出せるものは即座に抜け出すも、シュンが逃すはずも無く射殺される。

 

「や、止めろ!」

 

 一人が死体から取った手榴弾の安全ピンを外して投げようとするシュンに向け、投げるのを止めてくれるように叫んだが、彼が聞くはずも無く、複数の手榴弾を投げ込まれ、殆どの者達が破片で肉を裂かれて死んだ。

 何名かは失った手足と腹から飛び出た内臓をかき集めながら呻き声を上げていたが、ゆっくりと死神の如く近付いてくるシュンに命を駆られ、僅か数分程で出入り口に詰まった者達は皆殺しにされる。

 

「うわぁぁぁぁ!!」

 

 運よく詰まらずに逃げ延びた者達は、蜘蛛の子を散らすようにあちらこちらへ逃げるが、シュンが死んでいる男から拝借したM14自動小銃の狙撃で背中を撃たれる。

 もう誰も、瀬戸シュンと言う名の死神からは逃れることは出来ないのだ。

 一つの弾倉分、約二十発を撃ち尽くす頃には、逃げた者達は頭を大口径のライフル弾で粉々に潰されるか、足を砕かれて死んでいた。

 

「呆気なかったな…」

 

 手にしているライフルを捨てた後、シュンは最後に撃った男が生きているかどうか手にしている機関拳銃で撃って確認すれば、その拳銃を腰のホルスターに戻し、背の自作ラックに大剣の刀身を固定して、血と肉と贓物塗れと化した惨劇の劇場を後にしてからこの世界における家路へと戻ろうとした。

 だが、帰りに使う乗用車に向かう最中に、妙な感覚に襲われ、思わず足を止めてしまう。

 

「なんだ? いつもの感じじゃねぇ…! しかも別の世界に居る感覚だ! こいつは一体…?」

 

 妙な感覚に襲われた直後、シュンは先ほどまで居た場所とは違う感覚を覚え、辺りを見渡した。

 辺りを見渡した結果、極右テロリストのアジトに潜入した時に通った場所と同じように見えたが、この世界の感覚とは何処か違った。それに遠くから聞こえて来るはずの東京の騒音が、感覚を覚えた時から全く聞こえて来ない。まるで何処か違う場所へと迷い込んだ気分だ。

 

「お前が例の男だな?」

 

 それを裏付けるように背後から声が聞こえ、青いベレー帽を被った奇抜なデザインの制服を纏った集団が現れた。

 正面からは厚手のコートを羽織った者達が空から飛来し、シュンの逃げ道を防ぐ。

 空から浮遊しながら来た厚手のコートの集団を知っているシュンは、ワルキューレに属していた頃に戦った勢力の者達であると即座に見抜く。

 

「コート…青ベレーの連中は分からねぇが、管理局の職員共だな? これはテメェラの仕業か?」

 

「そうだ。我々時空管理局は、この管理外世界に被害を与えないように、固有結界に貴様を閉じ込めたのだ」

 

 厚手のコートの集団が時空管理局と呼ばれるかつてワルキューレの敵だった勢力であることを見抜けば、それに応える形で局員は、外に被害を及ばないように、この結界に閉じ込めたと告げる。

 これに青いベレー帽の者達は、管理局に対しての対抗心なのか、結界を張らずにすれば、気付かれずに殺せたのにと悪態をつく。

 

「はっ! こんな結界を張らずとも、我らの術式で直ぐに殺せたものを!!」

 

「黙れ、統制機構! 場を弁えない貴様らの所為でこんなことになったのだ!!」

 

「喧しい! 貴様らのその甘っちょろい思想の所為で、幾度も獲物を逃して来たんじゃないのか!?」

 

「なんだとぉ!?」

 

「(なんだ、仲間割れか?)」

 

 自分を差し置き、悪態を付いた統制機構の者達と管理局の局員たちは突然言い争いを始める。この隙に逃げ出そうとするシュンであったが、一人が気付いて魔法攻撃の詠唱を始めた。

 

「逃がすか! 俺の術式を食らって死ね!!」

 

 逃げるシュンに気付いた統制機構の隊員は、何も無い手元から魔導書を召喚し、詠唱を唱えて火の玉を撃ち込んだ。

 弾丸のように、火の玉が飛んできたのに気付いたシュンは、背中の大剣を即座に引き抜き、それを叩き斬った。自分の渾身の魔法を難なく叩き斬ったシュンを見た隊員は驚愕し、他の者達は、彼が持つ大剣を自分等が恐れるある兵器では無いかと恐怖して疑い始め、混乱する。

 術式により放たれた火の玉を叩き斬った当のシュンも、偶然ではないかと疑っていたが、大多数の敵が混乱しているので、これを好機と見て統制機構の部隊に突っ込む。

 

「ひっ、ひぃぃぃ!? 俺の術式を叩き斬った!?」

 

「ま、まさか! 事象兵器(アークエネミー)か!?」

 

「何言ってんだこいつ等?」

 

 事象兵器(アークエネミー)と言う単語が気になったシュンだが、今は一期に敵を倒すことが出来るので、彼らがまた術式による攻撃を行う前に、全力疾走で近付く。

 

「クソッ、混乱しやがって! 非殺傷設定だ! 撃ちまくれ!!」

 

 混乱した統制機構の隊員、即ち衛士らの混乱ぶりに目を当てられない局員らは、彼らを援護する為、魔導弾による攻撃をシュンに浴びせる。

 しかし、巨体に合わない脚力を持つシュンに一発も当たられない。

 

「ひ、怯むな! 奴は一人だぁ!! 各々の術式でハチの巣にしろぉ!!」

 

「(ちっ、持ち直しやがって)」

 

 衛士たちの隊長が怯んでいる彼らを立て直させたのを見たシュンは、折角のチャンスを失ったことに舌打ちした。持ち直して物の数秒ほどで、雨のような術式、いわゆる魔法による雨のような攻撃が来る。

 先ほどの火の玉を斬ったように、シュンは飛んでくるありとあらゆる攻撃を大剣を振りながら弾いて行き、恐怖する衛士たちに斬り掛かる。

 

「このぉ!」

 

 勇気ある二名が、近付いて来たシュンに対し、二振りの槍で同時に串刺しにしようと突き刺したが、一瞬の内に槍の矛を切り落され、その二名も一瞬の内に惨殺され、更に近場に居た数名も纏めて斬り殺されて肉塊へと変えられる。

 殺された二名を見た衛士たちは、それに恐怖して我先にと逃げ出し始める。僅か数名を殺しただけで、次は自分が肉塊にされると彼らはそう判断して恐怖したのだ。

 

「お、お前ら! 逃げるなぁ!! 敵は一人…」

 

 隊長が逃げる部下たちを止めようとするも、誰も耳を貸さずに逃げるだけであり、その隊長も殺しながら迫って来たシュンに惨殺され、立て直しは不可能になる。

 

「う、うぅ…!?」

 

「これ以上はやらせるか!!」

 

 地上で次々と惨殺されていく味方を見て、黙って見ていられなかった空に居る局員らは、更に弾幕を熱くするが、シュンが落ちた槍を投げ込み、一人が串刺しにされる。

 

「バリアジャケットが!?」

 

「わぁぁぁ!? 殺される!!」

 

「クソッ、殺せ! 殺傷設定だ!!」

 

 一人を殺されただけで恐怖する隊員を見て、自分等も統制機構の二の舞を防ぐためか、局員らの隊長はシュンの生け捕りを諦め、殺すつもりで魔弾を大量に放つも、一発もシュンに当たることなく大剣で弾かれるばかりであった。

 

「一体奴はどんなロストロギアを…!?」

 

 統制機構の物と同じように、自分等が恐れる兵器の名を口にした隊長であったが、飛んできた槍で腹を貫かれ、地面へと落下した。

 

「隊長がやられた!!」

 

「て、撤退だ! 撤退しろ!!」

 

「退けぇ! 退かないと統制機構の奴らと同じ運命を辿るぞ!!」

 

 隊長がやられたのを見て、戦意を損失した残りの局員らは、蜘蛛の子を散らすように逃げ始めた。逃げる彼らに対し、シュンは容赦なく落ちている無数の槍を投げ続け、出来るだけ多く殺そうとする。

 固有結界を張っていた局員を貫き殺したのか、結界が解除されて元の現実の世界へ戻ることが出来た。

 それと同時に、遮断されていた通信が回復し、泰田の怒鳴り声が左耳に付けてある小型無線機から響いてくる。

 

『やっと繋がったか!? 一体何が起こったのだ!? 説明しろ!!』

 

「うるせぇーな。俺にもちょっと分からねぇよ。だが、また変なのに遭遇した」

 

『変な奴ら? 一体そいつ等は何者なんだ? 答え…』

 

 管理局と統制機構の刺客たちを変な奴らと表したシュンに対し、彼らを知らない泰田は問い詰めようとしたが、彼は大剣を背中のラックに戻してから無線を切り、乗用車に戻り始めた。

 ハイぺリオンと同じ異世界の刺客であり、彼とは違って勝利したシュンであったが、自分に向かって来た二つの組織が、自分の力量を図るためのカナリスが送り込んだ‟噛ませ犬‟とは知る由も無い。

 次の戦いでそのカナリスと森羅の零児と小牟、萩枝らと戦うことになろうとは、まだ夢にも思わなかった。

 

「フフフ、ちょっとは出来る男みたいね」

 

 そんなシュンに対し、近くの建造物の屋根の上から一部始終を見ていた銀髪の妖艶な雰囲気と怪しさを漂わせる女性が、彼ら強さを見てそう呟き、何処かへ去る。

 無論、シュンは彼女の存在に気付いず、ただ乗用車に向かって行くだけだ。

 そしてカナリス等との戦いで共闘しようなど、思いもしていない。

 こうして、シュンは更なる強大な敵が来ていることとは知らず、この世界における家路に帰るのであった。




~今回の後書きコーナー~

ダス・ライヒ「さて、前回は戦闘回と言いつつ、今回は前半クロスシリーズのお笑いコンビとエージェントカラスなカナリスによるミーティング、後半はシュンによる殺戮ショー。次回からはジャンヌ戦では無く、連合部隊と交戦です」

零児「そいつは重畳。で、俺たちはそのガッツ擬きと戦うのか?」

小牟「やじゃのぅ。幾ら黒い剣士時期のガッツとは言え、強いのに変わらん。ゴッドハンド以上の戦闘力を身に着けんといかんのぅ」

ダス・ライヒ「ちょっ、本編のみならずなんでここに出て来てんですか! お笑いコンビが!?」

小牟「わしと零児がお笑いコンビ? 違うぞ、最強夫婦じゃろうが」

零児「まだ席を入れたつもりじゃないが…」

小牟「それよりもなんでわしらをあんな悪党やドS鬼と組ませたのじゃ? それに敵として出す? 普通は正義の味方として、ルリちゃんと共闘させるのが普通じゃろう?」

ダス・ライヒ「それじゃあ、なんか面白くないんで、敵として出させて頂きました。アリアと戦う事もあり…かな…?」

零児「俺はあんな子供と戦うつもりは毛頭も無い。それと、フィリピンの民兵組織が前に出て来たな? 奴らも出すつもりか?」

ダス・ライヒ「はい、出します。つか、ここで出さないと出る場面がねぇ」

小牟「やれやれ、三つ巴のバトルフィールドになりそうじゃわぃ。これは、わしの装備を一番良い物に変えんと、イーノックになってしまいそうじゃ」

零児「これで奴の用意した銃が役立つな。柊樹(ハリウッド)(ゴールド)をぶち込まなくて済む。あの二つは人に使う物じゃ無いからな」

小牟「やれやれ、遠慮なしに使っていた奴とは思えん台詞じゃ」

ダス・ライヒ「それ言っちゃ駄目ぇ!」

小牟「おっと失礼。で、わしの武器は? なんでも良いぞ。カラシコニフ、アーマーライト、ヘッケラー&コッホ、なんでもござれじゃ!」

ダス・ライヒ「あぁ、それ…決めてない…サーセン」

小牟「なんで決めてない! なら、零児とお揃いのをくれ! これで最強の夫婦の誕生じゃ!」

零児「まだ席も入れてないし、指輪も買ってないぞ…」

ダス・ライヒ「じゃあ、SIG556のカービンモデルを…まぁ、撃つ的は殆どシュンに叩き殺されてると思うけど」

小牟「構わんよ、一発撃てれば、それだけで本望!」

零児「…」

ダス・ライヒ「さて、これ以上はグダるので、閉めさせてもらう! 閉廷ッ!!」

小牟「ちょっ、待てぃ! まだわしの…(ガシャン!)コラぁ! 勝手に閉めるなぁ!!」

零児「行くぞ、駄・フォックス、これから仕事だ」

小牟「零児まで! うぉぉぉ! あァァァんまりだァァアァ!!」

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