復讐異世界旅行記   作:ダス・ライヒ

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タイトルがモデルになった映画のままなのは、他に思い付かなかった為…


スピード

「おい、瀬戸は!? 瀬戸は何所に居る!?」

 

 神崎・H・アリア襲撃事件から翌日、地下で次の情報が出るまでスレイブで素振りをしていたシュンの元に、泰田が慌てた様子で入って来た。

 

「なんだよ、武偵殺しとか言うアホの新しい情報でも入ったか?」

 

 慌しく入って来た泰田に対し、シュンは素振りを止め、彼が武偵殺しの新たな情報を持ってきたのかどうか問うたが、彼が急いで伝えたいのは情報では無く、緊急要請であった。

 

「違う、緊急要請だ! 東京武偵校の通勤バスに爆弾が仕掛けられた! 仕掛けられた爆弾は一定の速度に達すると爆発するそうだ。現在、数名の武偵が解除に向かっている。全く、何所の映画を真似たのか…!」

 

「そうかよ、関係ねぇな」

 

 東京武偵校の通勤バスに一定の速度に達すると爆発する爆弾が仕掛けられ、その解除を手伝えと言う緊急要請に対し、シュンは「関係無い」の一言で蹴り、素振りを再開しようとする。

 

「貴様、自分の立場が分かっているのか!?」

 

「ちっ、わーたよ」

 

 緊急を要する事態に、自分を鍛えることを優先するシュンに対していつでも消せるように脅しを掛ければ、今、ここで放り出されたくない彼は、不本意ながらも要請を受け入れることにした。

 

「で、爆弾はどんなもんだ? 言っておくが、軍用品の解体の訓練しか受けてねぇぞ」

 

「爆弾か…それはわしにも分からん。それに軍用の爆弾にあんな仕掛けは無いと思うが…一応、自衛隊か対テロ部隊から爆弾処理に精通している者を送る。それに怪我人が出る可能性も含め、衛生科の隊員を一人乗せる。そしてヘリでバスに乗り込む。屋根の上に着地後、爆弾処理担当の隊員が落ちないよう、しっかりと支えてやれ」

 

「へいへい」

 

 泰田は最初のテストでシュンが軍事訓練を受けていると分かったが、爆弾解体の教練は低いと思い、処理に精通している隊員を対テロ部隊か陸上自衛隊より派遣すると告げる。それとけが人が出る可能性も含めてか、陸上自衛隊の衛生科の隊員を一人寄越すことも告げる。

 そう告げられたシュンは生返事をした後で、泰田になぜ自分が出る必要があるのかを問う。

 

「で、なんで俺が出る必要があんだ? 衛生兵ならともかく、爆弾処理の工兵一人で片が付くんじゃねぇか?」

 

「そうだと良いんだがな。だが、武偵殺しが無人のセグウェイにイスラエル製の短機関銃を括りつけて武偵を襲撃したと言う事例がある。もしかすれば、ドローンに機関銃を引っ提げて邪魔をしに来るかもしれん。その時にお前が二人の身を守るのだ。傷一つ付かせてはならん。急行した武偵も含めてな」

 

「ちっ、自ら殺さねぇとは玉の小せぇ野郎だ」

 

 完璧に戦闘要員なシュンが出る必要があるのは、イスラエルの短機関銃を付けたセグウェイが武偵を襲撃した事例があると説けば、彼は苛立ちながら、防衛に適した装備を選びに向かった。

 

「ドローン対策には散弾銃が打って付けだ。この時のためにアメリカの銃器会社から散弾銃を取り押せた。民間で広く流通している散弾銃であるが、ドローンなど鳥のように撃ち落とすことは可能だろう」

 

 対空戦闘に向いた装備を漁るシュンに、泰田はアメリカの銃器会社から輸入したモスバーグM500と言う民間に警察、軍にも多用されている散弾銃があることを告げた。

 この散弾銃は海上自衛隊にも採用されており、製造元からかなりの整備用パーツと弾丸が輸入されてきているので、いつでも交換することが可能だろう。

 その散弾銃を手にしたシュンは、もしもの時は役に立つだろうと思い、今回の任務の装備に加えることにした。

 散弾銃は決まった所で、次にシュンは弾詰まり(ジャム)が滅多に起こらないAKタイプの突撃銃を手に取る。彼が選んだのは、AK-47の頑丈性と信頼性の高さを受け継ぎ、同じ弾頭を使用しているAK-103だ。射撃訓練の際にもこの銃を持って行った。

 

「最新式で無くても良いのか?」

 

「いや、こいつで良い。こいつの方が信頼できる」

 

「それもそうだ。AKは命中精度が悪いが、頑丈性と壊れにくさが売りだからな」

 

 AEK-971で無くても良いのかを問う泰田に対し、シュンはAK系統の突撃銃が信頼できると答えれば、彼は納得した。

 

「そろそろ時間が無い、近くの陸自の駐屯地でヘリが一機待機している。今さらになって嫌だとは言わせんぞ」

 

「拒否権は無いって事だけは分かるぜ」

 

「よし、行ってこい!」

 

 泰田が腕時計を見て、出撃が近い事と拒否権が無い事をシュンに知らせれば、彼はそれに納得して装備を整える。もしもの時のために備えてか、大剣(スレイブ)も装備に加えておく。全ての準備が出来れば、この地下の訓練所を後にした。

 そしてヘリが待機している近くの駐屯地に向かう車に飛び乗り、正体がばれぬように車内で黒いバラクラバを被り、ヘリボーン用の装備を身に着けた。

 

 

 

 それから数分余り、車体下部に爆弾を仕掛けられ、武偵殺しによりバスジャックされた武偵校の通学バスの屋根の上に、東京武偵高の二人が同じ所属のヘリよりロープを使って降り立った。

 降りた武偵はあの神崎・H・アリアと、シュンの背後から奇襲を掛けてあっさりと返り討ちを受けた遠山キンジの二名だ。二人の装備は、自分たちが制圧予定だった過激派のアジトの時に身に着けていた戦闘用の装備だ。

 

「よし、降りた! 爆弾の位置は?」

 

 走行中のバスの屋根の上に降りたキンジは、左耳に付けている小型無線機で仲間の居る本部へ報告した後、車内に居る武偵達に爆弾が何所にあるかどうか聞く。この時に彼の武器はベレッタM92F自動拳銃一挺であり、これでは武装した複数の敵を相手にするのは苦戦を強いられる物だ。アリアの方も同様で、自動拳銃が二挺だけだ。

 

「アリア、爆弾は車体の真下だ」

 

「そうね。早速行くわよ…っ!? 陸上自衛隊のヘリ? なんで出動してんのよ!?」

 

 車内に居る仲間より爆弾の位置を聞いたキンジがアリアに知らせれば、そう聞いた彼女はバスの車体に固定させたロープをベルトに取り付け、直ぐに作業に取り掛かろうとしたが、上空より武装探偵が保有するヘリとは違う陸上自衛隊所属のUH-1ヒューイが現れてことに驚く。

 降下用のロープが三つほど垂れ下がり、そのロープから一人の男が降りて来る。

 降りたのは泰田が送り込んだシュンであり、彼は突撃銃を構えながら周囲の安全が取れれば、待機している二名にそれを知らせる。当然、聞かされていないアリアは怒り、バラクラバを被るシュンに問い詰める。その間に、陸自の衛生課の隊員が横窓から車内に入り、けが人が居ないかどうか確認する。

 

「どういう事!? 自衛隊の出動は無いんじゃ…」

 

「おらおらッ! 餓鬼どもは下がってろ! 爆弾処理は大人、いや、自衛隊の仕事だ!」

 

「ちょっ!? 離しなさいよ!!」

 

 先に降りたシュンに問い詰めるアリアであったが、後から降下した陸自から派遣された爆弾処理担当の隊員に無理やりベルトを外された挙句、小さな身体を持ち上げられて脇に下げられた。

 アリアから爆弾解体用装備を無理やり奪った隊員は、自分のベルトに安全ロープを付ければ、彼女の代わりに後方から逆さ吊りになり、車体下部に仕掛けられた爆弾が何所にあるか調べ始める。

 

「おい、あったか!?」

 

「あぁ、えーと…あった! 二つほどくっ付いてるぜ!」

 

 シュンがバスから落ちないように踏ん張りながら問えば、逆さ吊りになっている隊員は車体下部に仕掛けられている爆弾を見付けた。爆弾は一つだけでなく、二つも付いていた。更に仕掛けられた爆弾は悪い事に、かなり強力なタイプであるプラスチック爆弾だ。

 

「うわぁ…カジンスキーΒ型だ! 二つで電車を木っ端微塵に吹っ飛ばせらぁ! こんなの生で見たのは初めてだ!」

 

「武偵殺しの十八番よ! 聞く限り、3500立体㎝はあるわね!」

 

「嬢ちゃんは黙ってろぃ! こいつは大人の仕事よ!」

 

 強力なプラスチック爆弾であることを見た隊員が知らせれば、それを聞いたアリアが武偵殺しの良く使う爆弾だと告げた。だが、素人からの横やりを受けたくない隊員は黙るように怒鳴りつけてから、作業に入ろうとする。

 しかし、その数十秒後に、思わぬ邪魔が入ることなど彼は思っていなかった。

 

『解体業者、バスのケツに金魚のフンみたいについてくるスポーツカーが居るぞ!』

 

「んだとぉ? 仕事の邪魔だ! 警告か威嚇射撃でもして下がらせろぃ!!」

 

『威嚇射撃何て出来るか!』

 

 バスの後ろから着々と近付いてくるスポーツカーに気付いた上空を飛んでいるヘリのパイロットが、それを解体業者と言うコードネームを持つ隊員に知らせれば、彼は威嚇射撃をして下がらせろと怒鳴る。

 しかし、陸上自衛隊にそんな権限は無いので、ヘリのパイロットは出来ないと返した。

 

『マジで撃つな!』

 

「ちっ、甘すぎんだよ」

 

 シュンは本気で威嚇射撃を行うつもりであったが、ヘリのパイロットから注意を受け、外していた安全装置を掛け、舌打ちしながら銃口を下げた。

 実態が急変したのはそんな時であり、スポーツカーが何の前触れも無くスピードを上げ、バスに向けて突っ込んできたのだ。

 

『おい、スポーツカーがスピードを上げたぞ!』

 

「なんだとぉ!? 早く撃て! 殺されちまう!!」

 

 スポーツカーをマークしていたヘリのパイロットが知らせれば、一同は突っ込んで来るスポーツカーに視線を集中させる。

 それを聞いた逆さ吊りになって無防備な状態になっている解体業者は、直ぐにでも威嚇射撃をするように告げる。

 だが、時すでに遅く、スポーツカーはバスの後部に体当たりし、無防備な解体業者に殺しはしなかったものの、意識不明の重傷を負わせた。体当たりしたスポーツカーはバスから一旦距離を取り、側面に回り込もうとする。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 ぶつかった音を聞き、逆さ吊り状態となって意識不明の重傷を負った解体業者に向け、衛生課の隊員と共に窓から車内に入っていたキンジは、横窓から身を乗り出して彼に呼び掛けるも、意識を失っているので当然ながら返事は無い。

 このままにしておくと、引きずられて死んでしまう可能性がある為、キンジは彼を助けようと、逆さ吊りになっている解体業者の身体に手を伸ばす。

 

「おい! 発砲許可は!?」

 

『俺が出せるわけないだろう!』

 

 側面に回り込んだスポーツカーに向け、シュンは発砲許可が無いかヘリのパイロットに問えば、彼は出せないと返す。

 そうしている間に、横に回り込んだスポーツカーは、座席から無理やり取り付けたイスラエルの短機関銃であるUZIが無人で動き、バスに銃口を向けて発砲を開始した。どうやらリモコンで操作されているようだ。そのイスラエル製の短機関銃が銃口を自分たちのいる方向に向けたのを確認したキンジは、車内に居る者達に伏せるように叫ぶ。

 

「みんな伏せろ!」

 

 その叫びの後に、イスラエル製の短機関銃が火を噴いた。

 連続した銃声がして物の数秒後に窓ガラスが割れ、銃口からばら撒かれた9mmパラベラム弾が車内に居る者達に襲い掛かる。

 

「終わったか?」

 

 衛生科の隊員が顔を上げ、おそらく五十発分の銃撃が止んだのを確認して立ち上がれば、皆はそれに倣って安心して立ち上がったが、バスはずれ始めた。

 バスの運転手は運転しているので、伏せることは出来ず、被弾してしまったようだ。

 それに何名かが被弾しており、うめき声を上げている者も居る。更に悪い事に、バスの速度も落ちつつある。このまま速度が落ちれば、仕掛けられている爆弾が爆発してしまう。

 

『有明コロシアムの角を右折しやがれてあります』

 

「武藤、運転を代われ!」

 

「何を言っているんだ君は!? 高校生が大型車を運転出来るわけが無いだろう!」

 

 追い打ちを掛けるが如く、誰かの携帯から武偵殺しが出しているとされる人工音声が指示を出してくる。

 これを聴いたキンジは、武藤と呼ばれる同級生に指示を出したが、衛生科の隊員が反対する。しかし、武藤と呼ばれる武偵校の生徒は、自分は武偵校の車両科に属する者であり、車の運転ができると告げる。

 

「自衛隊の人よぉ、俺ぁ車両科(ロジ)の所属だぜ! こんなバス程度、運転できるっての!」

 

「ろ、ろじ…? 何を言ってるのか分からんぞ! って、おい! 人の話を聞け!!」

 

 流石に説得は不可能であったが、事態は急を要するので、武藤は反対する彼を押し切り、バスの運転席に着く。

 

「全く近頃の子供は!」

 

「待ってください! 彼の言っていることは本当です! 貴方にはあなたの仕事があるでしょう!?」

 

「う、うぅ、分かった! 今回だけだぞ!」

 

 隊員は引き離そうと思って近付いたが、キンジに説得され、自分の仕事を行う。

 武藤の運転ぶりは彼の心配とは裏腹に、こんな高校生が居るとは思えないと思わせる程の物であり、何とか納得させることが出来た。

 

『発砲許可が降りた! 相手は無人車だ! 遠慮は要らん!!』

 

「だったら早く降ろしとけ!」

 

 その間、ようやく発砲許可が泰田から降ろされた。

 相手は無人の車であるため、遠慮なしに発砲していいと許可が出たので、シュンはお言葉に甘えて大口径の突撃銃をバスに向けて搭載している短機関銃を撃ち込もうとする無人車を撃ち始める。

 狙うのはタイヤであり、単発でタイヤに向けて数発ほど撃ち込めば、一発程がタイヤに命中し、前輪の一つを失った無人車は制御を失い、スピンしながら横転する。

 

「この!」

 

「馬鹿! 頭伏せてろ!!」

 

 途中から乱入した男が一両をスクラップに変えたのを見て、アリアも二挺の大口径の拳銃で車を撃とうとしたが、頭を掴まれて無理やり屋根の上に伏せらされる。

 立ち上がって撃っていれば、ハチの巣にされてしまうからだ。当然の判断だろう。

 

「ハチの巣になりたくなかったら、黙って伏せてろ!」

 

「…!」

 

 自分の役割を奪って役立たず扱いするシュンに怒りが積もるアリアであったが、彼の言う通り、自分には接近してくる無人車に対して有効な武器は無い。冷静に考えた彼女はそれに納得し、自分に役立つことが無いか車内を見て探し始めようとする。

 

『十時方向より無人車だ!』

 

「一台だけじゃねぇのか!」

 

 一方でシュンは、上空を飛んでいるヘリからサポートを受け、バスに向かってくる無人車に向けて射撃を続けていた。

 バスに向かって来る無人車の数は、サポートを務めているヘリの報告によれば、後、九台以上で、その全てが短機関銃などで武装されている。一台でも近付ければ、ハチの巣にされるのは確実なので、無人車が照準を定める前に、突撃銃の射程距離の長さを生かして駆逐する。

 狙う箇所は一両目と同じく前輪のどちらかであり、そこに銃弾を撃ち込めば、勝手に制御を失って横転してくれる。単発で正確に撃ち続ければ、楽に片が付くだろう。

 

『後、一両だ!』

 

 八両ほど前輪を撃って横転させてスクラップにすれば、最後の一両である無人車が近付いてきた。

 今までスクラップにしてきた無人車と同様に、前輪を撃って横転させようとしたが、ヘリのパイロットから悲鳴のような音声が聞こえて来た。

 

『ウワァァァ!! ど、ドローンだ! 機関銃を付けたドローンだ!!』

 

「おい、どうした!?」

 

 それを聞いたシュンは、兵のパイロットに直ぐに問う。だが、上を見れば問うまでも無かった。

 泰田が警戒していた短機関銃などで武装したドローンに、サポートのヘリが襲われていたのだ。数は四機ほどであり、無人車と同様に全てが短機関銃などで武装されている。搭載されている短機関銃は、UZIでは無く、キャリンコM900Aだ。

 百発以上の弾丸を収めることが出来る筒型の弾倉を使っているので、UZIとは違って長いこと撃ち続けることが出来る。その短機関銃を搭載しているドローンは十分に脅威だ。

 

「ど、ドローン!? 前例が無いわ!」

 

「こいつの出番が無いわけでもねぇな…!」

 

 武偵殺しがドローンを使った前例が無かったのか、それに戸惑うアリアであったが、出番が無いと思っていた散弾銃の有効性がある相手が出て来てくれたため、にやつきながらシュンは散弾銃を取り出し、安全装置を外してから、ヘリに向けて機関銃を撃ち続けるドローンに向けて撃ち込んだ。

 発射された弾は拡散するので、ドローンを容易に撃墜できた。

 一機目が墜落して行くのが確認できれば、ポンプを引いて空薬莢を排出し、次の弾丸を薬室へと送り込む。二機目に即座に照準を合わせ、引き金を引いて散弾を発射する。

 

『こ、これ以上はいられん! 離脱する!!』

 

「ちっ、ガッツのねぇ野郎だ」

 

 残り二機からの攻撃を受けているヘリは、これ以上、被弾すれば墜落の恐れがあるのか、離脱し始めた。それを見たシュンが悪態を付いたが、墜落すればかなりの被害が出る可能性があるので、ヘリのパイロットの判断は正しい。

 ヘリが離脱したことで、ドローンはシュンに向かって来る。それと同時に無人車がバスを射程内に捉え、搭載されている短機関銃を撃ってくる。

 

「クソッ! おい嬢ちゃん、無人車を撃て!」

 

「はっ!? さっき何にもするなって言ったじゃない!」

 

「前言撤回だ! お前も十分な戦力だ、その45口径で無人車を撃て! 早くしねぇとテメェを先に殺すぞ!」

 

「っ!? 分かったわよ! 今から撃つから!!」

 

 無人車も来たので、一人では対処しきれないシュンは、伏せながらアリアに無人車を撃つよう指示する。

 だが、アリアは拒否するが、シュンが散弾銃を向けて脅せば、彼女はそれに応じて無人車を撃ち始める。45口径弾は強力であるが、二挺拳銃での射撃のため、余り当たらず、四発目あたりでやっと無人車の前輪に当たり、無力化することが出来た。

 これにシュンは苛ついたが、邪魔な無人車を片付けてくれたのは代わりないので、ドローンを撃墜するのに集中できる。

 散弾銃の有効範囲までドローンが近付けば、即座に引き金を引いて撃ち込み、三機目を撃墜する。最後の四機目が近付いてくれれば、素早く照準を合わせて散弾を撃ち込み、撃ち落とすことに成功した。

 

「終わったな…」

 

 最後の一機が火を噴きながら道路の上に墜落して爆発するのを確認すれば、銃口を降ろしてようやく終わったことに実感するが、問題はまだ残っている。車体下部に仕掛けられた爆弾の解除だ。

 

「さて、後は爆弾だけだな」

 

「そうね、あんたじゃここに…」

 

「っ…!?」

 

 最大の問題である爆弾のことをシュンが口にすれば、アリアは自分の目的であったが爆弾解除に向かおうとするが、上から彼女の背後に‟何か‟が姿を現した。

 その何かは大柄の肥満体系の男であり、顔には鬼のようなお面をつけ、丸太のような腕には、巨大な棍棒が握られている。

 

「伏せろぉ!!」

 

「えっ…?」

 

 それに気付いたシュンは、アリアに伏せるように叫んだ。

 背後に居る大男には気付くことが出来たものの、反応が遅く、振るわれた棍棒を避け切ることが出来ず、額に先の辺りを食らって吹き飛ばされた。

アリアの小さな体が棍棒を受けて吹き飛ばされる中、シュンはバスから落ちる前に彼女の身体を掴んだ。

 

「たくっ、世話の焼ける嬢ちゃんだぜ! おい、しっかりと掴んでやれ!」

 

「うわっ!? なんて奴だ!」

 

 落ちないように掴めば、片手で空いている窓に向け、軽々と持ち上げたアリアを放り込んだ。これにキンジは幼気な少女を投げ込んだシュンを酷い男だと罵ったが、彼はそれを聞かず、目前で棍棒を振り下ろそうと、獣のような雄叫びを上げて突っ込んで来る男に向けて散弾銃を撃ち込んだ。

 

『グォォォ!!』

 

「馬鹿野郎が!」

 

 一発、二発、三発と続けて向かって来る大柄の男に撃ち込むが、男は身体中から血が流れ出て居るにも関わらず、怯まずに突っ込んで来る。

 

「こいつ、ヤクでもやってんのか!?」

 

 散弾を受けても痛みも分からずに突っ込んで来る男に、シュンは何らかの薬物をやっていると思い、今度は顔に向けて散弾を撃ち込んだが、つけている仮面は鉄製であったらしく、余り効果が無かった。

 再装填を行おうと、ポーチにある予備の(シェル)を取ろうとするも、大男がそれを待ってくれる筈も無く、シュンに向けて巨大な棍棒を振り下ろした。

 何とか避けることは出来たものの、モスバーグM500は破壊されてしまった。即座にAKに切り替えようとするも、大男は間髪入れずに棍棒を振るってくる。

 

「仕方ねぇ…大剣(こいつ)の出番か…!」

 

 振るわれる棍棒を回避しつつ、出番が無いと思っていた大剣を鞘から手早く引き抜き、振り下ろされた棍棒を防いだ。だが、相手は臆することなく連続で棍棒を打ち込んで来る。

 棍棒を打ち込むスピードはワラキアで戦った強化状態のコドレアヌと同等か、かなり速い速度で打ち込むが、彼との戦闘経験のあるシュンはそれを全て防ぎ切り、隙を見て押し込んで相手を怯ませる。

 

「おらぁ!」

 

 押し込みで相手が怯めば、即座に大剣を振るう。振るわれた大剣は鉄仮面に当たり、相手の仮面を引き剥がした。

 

「すげぇ顔だな…」

 

 引き剥がされた顔に隠れていた大男の素顔は、とても醜い物であった。

 火傷で酷く焼き爛れ、眼球が飛び出しており、左目は潰れて鼻は跡形も無くなくなっている。そのまま外へ出れば、間違いなく怖がられるだろう。

 仮面を失った大男は、それを気にすることなく棍棒を振るってくる。

 

「どうやら気にしてねぇみてぇだな!」

 

 冗談を交えて冷静さを保ちつつ、シュンは大男の振るわれる棍棒を防ぎ続ける。

 重い鉄仮面を失った大男の打ち込みとパワーは更に早くなり、あの強化状態のコドレアヌを上回っていた。星の速さに近いほどであり、パワーも重機関銃並であるが、隙の方も更に上回ってしまったようだ。

 

「脳みそもハイになっちまったようだな! ありがとうよ!!」

 

 二度も同じ手を使う大男に対し、相手に礼を言いつつ、シュンは振るわれた直前に弾き、渾身の一撃を大男に打ち込んだ。

 渾身の力を込めて振るわれた一撃は、棍棒を握る両手を斬りおとし、大男の戦闘力を奪った。両手を斬りおとされ、斬りおとされた個所から致死量に至るほどの血が川のように流れ出ているが、大男は薬物のおかげでまだ生きており、常人のように動いていた。

 

『グォォォ!』

 

「この野郎、まだ生きてんのか…」

 

 渾身の一撃で両腕を斬りおとされたにも関わらず、まだ戦意を失わず、獣のような雄叫びを上げながら突っ込んで来る大男に対し、シュンはとどめの一撃を躊躇いも無しにお見舞いした。

 大剣を横に振るえば、大男は半分に切断され、足を失った上半身はバスの屋根の上に落ちた。まだ大男は下半身を失いながらも動いていたが、血を大量に失い過ぎたのか、暫くジタバタと撥ねた後、ようやくの所で息絶えた。

 

「やっと死にやがったか…」

 

 息絶えた大男の死体を軽く蹴って生きていないことを確認すれば、シュンは捨てた大剣の鞘を拾い上げ、その刃を鞘の中に収めた。

 

「さて、後は爆弾…」

 

 レインボーブリッジに出てから、シュンは爆弾をどう解除するか悩んだが、追尾している武偵高所属と思われるヘリからスコープの光が見えた。物の数秒で発砲音が聞こえ、バスの下から何かが命中した音と、外れた音が彼の耳に入る。

 

「嘘だろ…!?」

 

 シュンは爆弾を遠距離から狙撃を行ったことでは無く、爆弾を爆発させずに車体下部から外したことに驚いた。狙撃で外された爆弾は東京湾の海の中に落ち、数秒後に爆発して水飛沫を上げた。

 

「あの遠距離で狙撃した奴の凄さは認めるが、外れたのは一つだった…まだ一つ残ってるぜ、狙撃手さんよ」

 

 爆風より身を守るために直ぐに伏せていたシュンは、まだ爆弾が残っていることに気付き、自力で解除するためにアリアが残したワイヤーで解除しに行こうとしたが、その必要は無かったようだ。

 彼が気付かない間に銃声が鳴り響き、車体下部からまた何か命中した音が聞こえ、爆弾が外れた。しかし、落ちたのは橋の上であり、爆発すれば道路が損傷してしまうだろう。だが、爆弾は爆発することなく、まるで時が止まったかのように爆発などしなかった。

 

「あんな事が出来る連中は、あいつ等しか居ねぇな…!」

 

 こんな現実離れした奇跡を起こせるのは、あの英霊達しか居ない。

 そう断言するシュンは、何かのバリアの物で覆われ、朽ち果てて行く爆弾を見ながらかの者達がこの世界に来ていることに気付き、爆弾が完全に解除されたことを運転している武藤と車内に居るキンジらに知らせた。

 かくして、バスジャック事件はキンジ達とシュン、影ながらの活躍した英霊達の手によって解決された。




後書きコーナー

ダス・ライヒ「遅くなりなりましたが、あけましておめでとうございます。今年もまた、復讐異世界旅行記をお願いします。さて、今年一発目のゲストは、コール・オブ・デューティーのモダンウォー・フェアーシリーズより、ソープ・マクダビッシュ大尉です」

ソープ「ソープと呼んでくれ。年明けにゲストとして呼んでくれてありがとう。呼んだ理由は、あれか?」

ダス・ライヒ「はい、CoD4のリマスター版発売記念です。MWはあれから始まりました」

ソープ「あぁ、マカロフとの戦いはあれが始まりだった。俺は結末を迎えることなく、途中で退場してしまうがな」

ダス・ライヒ「ネタバレは止してください、大尉殿。それより、貴方から見て緋弾のアリアはどう見えます?」

ソープ「どうって…俺は日本のラノベって奴ぁあんまり詳しくないんでな。日本好きの隊員の話によれば、感情移入と読み易さが売りって事だけしか知らない」

ダス・ライヒ「はぁ…それで、このバスジャックで陸自の衛生科の隊員が武藤に運転を止めさせようとしましたが…これは間違いない?」

ソープ「間違いのはずが無いだろう。大体、なんでシックス・フォームかパブリック・スクールの餓鬼が走行中の爆弾解除だなんかに出てるんだ? 普通なら、対テロ部隊の爆弾処理班が動くはずだ。それなのに餓鬼がしゃしゃり出ている。よって、あのメディックの行動は間違ってないさ」

ダス・ライヒ「流石はプロの軍人だ…でっ、次回は毒物を扱うテロリストの元へシュンを突っ込ませますが、これも間違ってない?」

ソープ「あぁ、そいつも間違ってない。テロリストの制圧は訓練された大人の隊員の仕事だ。民察の餓鬼がヒーローを気取るために出しゃばる物じゃない」

ダス・ライヒ「うわぁ…これ、ファンから結構苦情が…では、早いですけどこの辺で」

ソープ「もう終わりか…それじゃ、読者のお前ら、良い年過ごせよ!」


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