復讐異世界旅行記   作:ダス・ライヒ

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ここから原作…つっても外伝のAAのアリアが襲撃されるところだけど…

これが今年最後の更新でございます。


物語への介入

 後日、ハイぺリオンとの戦いで撤退、否、逃げ出したシュンは、超人相手に何も出来ない自分を恥じ、地下の訓練施設に籠り、重量挙げの選手でも持つことを躊躇いそうな重量を誇るバーベルで素振りをすると言う肉体の限界に近付いた修行を続けていた。

 あの後に中央即応集団の二部隊が来て戦闘が終わったが、禁じ手である自衛隊出動と言うカードを切ってしまった。爆発物処理のための化学部隊が出動したと言う事になっており、自衛隊の治安出動に伴い経済状況悪化は避けられたようだ。

 そんな防衛省や経済省、外務省などの諸々の者達が必死になって事実を隠ぺいしたことなどいざ知らず、シュンはただひたすらと鉄塊で素振りに打ち込んでいた。更に両手両足には、かなりの重りが入ったリストバンドを付けている。

 

「な、なんだこれは!? 漫画では無いんだぞ!! 直ぐに止めさせろ! あれでは死んでしまう!!」

 

 地下で現実離れした修行をするシュンを見た泰田は、どう見ても貴重な人材が確実に死ぬような物であるため、直ぐに部下たちに彼の修行を止めさせようとするが、誰も巻き込まれて死にたくないのか、行く者は居なかった。

 仕方なく泰田自身がシュンに修行を止めさせようと近付くが、護衛や秘書たちに止められる。

 

「事務次官、危険です! 終わるまで待つしか…」

 

「あのまま続けさせては腕が引き千切れるのだぞ! 止めんでどうすると言うのか!?」

 

 そう問われて返答に迷う部下たちであったが、この事務所の責任者である宇治宮が麻酔銃を持って現れた。

 

「皆さん退いてください! 麻酔銃で眠らせます!」

 

「麻酔銃か! 今のあいつにはそれしか効きそうにないからな!」

 

 麻酔銃を見た泰田は、獣同然であるシュンを止められるには、それしか無いと判断して宇治宮に期待を寄せた。だが、彼の声でシュンは自分の修行を妨害する者が現れたと判断し、この事務所の主に敵意を向ける。

 

「てめぇ、邪魔すんじゃねぇ!」

 

「き、来たぞ!」

 

「お任せを。一発で仕留めます」

 

 バーベルで攻撃しようとするシュンが近付く中、宇治宮は冷静に息を整え、照準を安定させてから頭に向けて麻酔弾を獣同然の大男に撃ち込んだ。

 麻酔弾はシュンの胸部に命中、それでも蚊に刺されたかの如く動いていたが、麻酔量は像でも眠らせる程の量なのか、段々と意識が遠のいてくる。

 

「ぐっ! こ、こいつは…!?」

 

「像でも眠らせる程の麻酔弾さ。これ以上、暴れられたら困るしね。暫くの間は眠っていたまえ」

 

 特注の麻酔弾であることを撃った相手に告げれば、撃った相手であるシュンは凄まじい睡魔に抵抗できず、床の上へと倒れ込んだ。

 

「急げ、確保しろ! 重りを外すんだ!」

 

 相手が無力化されたのが確認されれば、即座に護衛と他の者達がシュンの身柄を確保し、常人では耐え切れない程の重り入りのリストバンドを二人掛かりで悪戦苦闘しながら外し始める。その重さが入ったリストバントを四方に付けて無謀過ぎる修行していたシュンを見た泰田は、彼の思考の理解に苦しむ。

 

「全く、タダの馬鹿かそれとも無茶苦茶な奴か…人間では絶対に出来ん事を…昨日の化け物との交戦が原因か? あれは人で太刀打ちできる者とは思えん」

 

 シュンが修行を始めたのは、昨日のハイぺリオンとの戦いで全く歯が立たず、おめおめと逃げることを恥じて修行をし始めたことが理由と思った泰田は、それを口に出して絶対にあの人では神にも等しい力を持つハイぺリオンには適わないと断言する。

 

「やっさんよぃ、化け物を倒すのはいつだって人間だ。だからこうしてあいつはこんな無茶な修行をしてあいつに対抗できるような力を持とうとしてるんだ」

 

「化け物を倒すのはいつだって人間? 馬鹿者、あれは神の類だ。我々人間が到底適うはずが無い」

 

 そんな泰田の横から、松方が現れ、化け物を倒すのは人間であると意味深な言葉を吐く。

 それを聞いた泰田は反論し、ハイぺリオンが神の類であり、自分たち人間では敵わない相手だと説いた。

 

「全く、お前は昔から物分かりの悪い奴だよ。俺ぁ、あいつが昨日の化け物見てぇな奴をいつか倒すって賭けるぜ」

 

「ふん、勝手に言っていろ。私が昨日の件で色々と回らねばならん。それと私がここに来たのはこれだ。お前が代わりに渡してくれ」

 

「ご苦労さんっと」

 

 いつかシュンがハイぺリオンのような強敵を倒すと予言する松方に対し、泰田はそれを戯言と受け取る。それから昨日の件でかなり忙しいのか、シュンが目覚めるのを待てず、立ち去る際にその彼に次ぎにやらせようとする指令書が入った封筒を松方に渡す。

 

「では、私は行く。奴に無茶な修行は絶対にやらせるなよ?」

 

「分かってますってばよぃ。お前こそ身体に気ぃ付けろぉ」

 

 地下から立ち去る泰田に健康に気を付けるように言えば、松方は床で眠らされているシュンに近付き、彼が目覚めるまで煙草を吹かし続けた。

 

 

 

 場所は変わり、ワルキューレの陸軍総司令部のダウンゼンのオフィスにて、ある男が直陸不動状態で彼の座るデスクの前に立っていた。

 

「小官に何用ですか? 侯爵閣下」

 

 武人肌の軍人である白人の男はダウンゼンに問い掛ければ、彼は命令書を引き出しから出しながら用件を告げる。

 

「カリウス大佐、以前、貴官は例の少女の追跡にあったっていたな? 名誉挽回の時だ」

 

 命令書を手に取ったカリウスと呼ばれた大佐クラスの将校は、記載されている内容を読みながら、捕獲対象であるルリのおかげで顔に泥を塗られた挙句、最前線送りとなった経緯を告げ、なぜ自分に追跡の任を与えるのかを問う。

 

「はい、閣下。小官はその娘のおかげで顔に泥を塗られた挙句、最前線送りとなりました。ですが何故に私にまたその娘の追跡を?」

 

「貴官が適任だと私が判断したまでだ。前に追跡と捕縛を担当していた聖ヴァンデミオン騎士団は一度捕縛に成功したが、逃がした挙句、醜態まで晒した。まぁ、領主殺しの元陸軍将校が居た所為でもあるが」

 

「はぁ、ワラキアの領主を殺した瀬戸シュン元陸軍大尉ですね。彼の戦歴を確認しましたが、全く人間と疑うほどです。ただのお嬢様騎士団では荷が重すぎますね、この男は」

 

「あぁ、だから予定通り全員、最前線送りだ。ティーダー家が騒いでいるが、名誉挽回をして貰わんとな」

 

 ミルドレッドの聖ヴァンデミオン騎士団が敗北したのは、シュンが居た所為とカナリスが指摘すれば、ダウンゼンはそれに納得して前任の聖ヴァンデミオン騎士団全員を最前線送りにしたことを告げる。

 

「負けた理由は、相手をただの少女と侮った事と、イレギュラーの介入を予想していなかったことですかね。私も最初はただの少女と烏合の衆と思っていましたが、侮った結果がこれです。次こそは負けませんよ」

 

「その言葉、期待しているぞ」

 

「ご期待にお答えします」

 

 期待を寄せるダウンゼンを落胆させないように答えた後、カナリスはオフィスを後にしようとしたが、他にも何か用があったのか、呼び止められる。

 

「大佐、まだ用件はある。新しい部下に関してだ」

 

「新しい部下? 私はこれ以上、部下を持つつもりはありませんが…」

 

 要件はカナリスの部隊に新しい兵員を補充する事であったが、今の人員でも十分な彼はそれを断ろうとするが、ダウンゼンは考えを変えさせようと、その兵員のリストを見せる。

 

「君をがっかりさせる人材では無い事を保証しよう」

 

「ほぅ、優秀な女性前線指揮官に歴戦練磨の参謀ですか。予想外の行動を取る連中とまともにやれそうだ」

 

「そうだろう。私の方でピックアップしておいた。これで失敗するなら私は無能だ」

 

 リストを見たカナリスが新しい部下に期待の言葉を呟くと、ダウンゼンはこの人材を選んでも捕縛が失敗すれば自分が無能である現しと言う。

 

「では、貴官に神のご加護を」

 

「神に振り向かせて見せますよ」

 

 リストを受け取ったカナリスがオフィスを後にしようとすれば、ダウンゼンは彼に任務の成功を祈った。それにカナリスはチャンスを物にしてみせると答えてからオフィスを後にした。

 

 

 

「っ…クソッタレ…!」

 

「目覚めたかい」

 

 数時間後、麻酔銃で撃たれて眠らされたシュンは目覚めた。目覚めて早々、自分に麻酔弾を撃ち込んだ宇治宮を殴ってやろうと探したが、何所にも居らず、代わりに近くで床に座って煙草を吹かしている松方が居るだけだ。

 

「あいつは何所だ?」

 

「止めとけ。それよりお前さんよぉ、漫画に影響受けたかもしれんが、あれは無ぇだろう。現実と二次元の区別はついてっか? このスットコドッコイ」

 

「うっせーよ。それくらい付いてらぁ」

 

 身を亡ぼすような修行をする自分に対して注意する松方に対し、シュンは面倒くさそうに判別が出来ると答えた後、身体の汗を流す為、立ち上がってシャワー室へと向かおうとする。 だが、向かおうとした直前に松方が泰田より受け取った指令書が入っている封筒を前に出す。それを少し疑いながらもシュンは無言で受け取り、中身を空けて書類に記載されている内容を確認する。

 

「これ、あのおっさんからの命令書か?」

 

「そうだ。ちょいと中身は確認させてもらった」

 

 シュンが泰田からの命令書と問えば、松方はそれであると答える。

 

「武偵殺しを逮捕せよ? おい、俺の仕事は殺しじゃねぇのか? そんで武偵殺しってなんだ?」

 

 指令書に書かれているのが武偵殺しを逮捕しろと書かれているため、シュンは殺しの任務では無く、なぜ逮捕なのかと、それと武偵殺しが何なのかも渡して来た松方に問う。

 

「お次は殺しとは限らねぇ。そんで武偵殺しは最近、巷で騒ぎになってる事件だ。既に数名が殺され、何名か巻き添えを食ってる。防衛省の連中も、とにかくヤベェ感じだと思って来た様子だ」

 

「餓鬼共やその武偵って連中に任せとけきゃぁ良いだろうが。なんでこんな面倒なことを俺に押し付けんだ? 警察とかそういうのはどうしたんだ?」

 

 武装探偵殺し、通称武偵殺しに巻き込まれる一般人の被害が多くなっているのか、防衛省が動いたと言う事を松方がシュンに告げれば、彼は泰田が面倒な仕事を押し付けたことに苛立ちを覚える。

 

「まっ、無差別テロと思ってんだろう。餓鬼と民警共、警察とかじゃ解決できねぇかと思って、お前さん見てぇな暴力男が妥当だと思ってだろ。とにかくだ、こんなお仕事でおまんま食えるだけマシだと思えやぃ」

 

「まっ、飯食わせて貰ってるから、文句も言えねぇがな」

 

 ここで追い出されてしまっては、この世界で食う当ても無いので、仕方なくシュンは自分にとっては面倒な仕事を受けるしかなかった。

 そんなシュンに、松方は武偵殺しについて何が知りたいかを問い掛けて来る。

 

「詳細は? 俺の知ってる限りなんでも教えちゃうぜ」

 

「いや、ここいらに書いてある」

 

「防衛省の情報が当てになるとは限らんぞぃ」

 

 そんな自分を拒否して出て行くシュンに対し、防衛省の情報が当てにならないことを告げたが、彼は無視して地下の訓練所を後にした。

 

「お前さんのためなんだぜ、全く」

 

 自分の意見を聞かずに出て行ったシュンに対し、少し文句を言いながら紫煙を吐いた。

 

 

 

 後日、シュンは平服に身を包み、街中で武偵殺しの標的にされていると思われる神崎・H・アリアを尾行していた。スレイブは布で覆い隠し、周りからは楽器か何か大きな道具を背負っている様にしか見えない。

 

「(なんであんな餓鬼を狙うんだ、貴族の娘だからか?)」

 

 周りに溶け込みながら、シュンは尾行しているアリアをなぜ標的にしたのかを疑問に思う。

 指令書には標的にされているアリアのプロフィールで彼女がSランク武偵で貴族の娘であり、狙われるのは当然である。だが、彼女と戦闘経験があるシュンは、自分からしてみれば甘すぎる何故にアリアを標的に選んだ武偵殺しに対して疑問に思っていた。

 それに彼女を尾行しているのはシュンだけでない。背後からは怪しげな一台のコンパクトカーがゆっくりと走行している。更にもう一人、同じ武偵校の制服を着た小学生のような小柄な少女も彼女をつけていた。

 しかし、コンパクトカーに乗る男達は尾行しているアリアからは見抜かれており、まんまと誘い込まれているとは知らず、ずっと追い回すようにつけている。彼女の注意が車に引いているおかげか、シュンの尾行はばれていない様子だ。

 そんな少女をつけるシュンに、左耳に付けている小型の無線機から指示を出す指揮官の声が響いてくる。

 

『お前が例の男だな?』

 

「あっ? 誰だあんた?」

 

 今回は泰田の声でなく、別の男の声だ。泰田では無い事に疑問に思ったシュンは、無線で連絡を掛けて来た指揮官に何者かを問う。

 

『盗聴の可能性がある為、陸自に属する二等陸佐と言うだけで答えておこう。なんでお前のような風来坊に、防衛費と税金を使わなくてならないと言う文句があるが、事務次官にとってはお前のような人間が困るから敢えて言わないでおく。しっかりと、与えられた仕事をこなせよ?』

 

「ちっ、いきなり掛けて来てそれか。あの嬢ちゃんは、間抜けな馬鹿が乗ってる車に注意を取られて俺に気付いちゃいねぇ。安心しろ、しっかりとその武偵殺しって奴をフン捕まえてやるから」

 

『その時は周りを巻き込まないようにな。お前の存在は一部を除き、警察も公安も知らん。やる時は人気の無い場所でやれ』

 

「へいへい」

 

『クソッ、本当に大丈夫なのか…?』

 

 武偵殺しを捕まえるときは、人気の無い場所で捕まえろと釘を刺す二佐に対し、シュンは生返事をしながら応じる。それを聞いてか、不安がっていた泰田と同じ反応を見せ、二佐は通信を切った。

 煩い連絡が聞こえ無くなれば、シュンは仕事をこなすべく、人気の無い場所へ車に乗る男達を誘おうとするアリアの尾行を続ける。

 

「動いたな」

 

 尾行すること小一時間、遂に人気の無い場所へ誘うことに成功したのか、アリアは完全に人気の無い倉庫群の方へと走り始めた。それを見てか、コンパクトカーはスピードを上げ、倉庫群へと入ろうとしたが、シュンが早々見逃してくれるはずが無い。

 

「っ!?」

 

「この、ロリコン共が!」

 

 倉庫群へと入ろうとしたコンパクトカーに対しシュンは、前に飛び出して大剣を覆い隠している布を手早く解き、巨大な刃を車体の真正面に叩き込んだ。

 未来の兵器の装甲ですら平然と紙屑のように斬る大剣の刃を民間のコンパクトカー如きが防げるわけが無く、真っ二つに叩き斬られ、左右に別れながら横転する。

 自分達が乗っている車が半分に叩き斬られたと言う非現実的な行為に出くわした男達は、何が起こっているのか理解できず、とにかく車から脱出するためか、ドアを蹴り開けて外へ飛び出す。

 だが、武偵殺しの正体を知りたいシュンが逃すはずが無く、一人が捕まって額に大口径の自動拳銃であるコルト・ガバメントの銃口を突き付けられる。

 

「おい、お前が武偵殺しか?」

 

「ち、違います! お、俺はただ、変な奴に金で雇われてただけです!」

 

「直ぐにゲロっちまうとこ見ると、ただの雑魚かよ。ちっ」

 

 あっさりと口を割ったため、シュンは捕まえた男は武偵殺しで無いと分かり、項に自動拳銃のマガジンの部分で殴って気絶させる。

他の男達に対しては、警察かアリアが何とかするはずだと思い、シュンは他に尾行している者が居ると思って、倉庫群の方へ向かおうとしたが、背後より銃撃を受ける。

 

「クソッ、他にも居んのか!?」

 

 少し掠ったが、大した怪我では無いので直ぐに近くの遮蔽物となる場所へ身を隠し、発砲音がする方向を覗く。

 銃声がする方向には、僅かながらフィリピン語が聞こえ、それから数名の突撃銃なので武装して予備弾倉を入れるポーチが付いているベストを身に着けた男達が現れる。

 突撃銃は言わずと知られたAK-47、ではなくコピー製品である56式自動歩槍であり、それを撃ちながらシュンが身を隠している遮蔽物へ突っ込んで来る。撃ち方と動きを見る辺り、武装勢力の民兵だろう。

 

「なんでこんな国に外国の民兵が居るんだ!? どういう事だおい!」

 

 外国の民兵がこんな国に出て来たのかを問い詰めるため、シュンは本部に居る二佐に連絡を行う。

 しかし、本部の二佐も同じく問い掛けて来た。シュンも本部に居る者達に取って予想外の事態が、同時に起こっているようだ。

 

『どういうことだ!? 標的にされている神崎・H・アリアが銃撃戦を行っているぞ!』

 

「はぁ!? 何言ってんだ!? こっちだって外国の民兵に撃たれてんだよ!」

 

『外国の民兵!? 何を言っているんだ!? 標的の武偵校の少女はFN社のP90やH&K社のMP5やMP7などのPDWで武装した女子高生や女性と交戦しているんだぞ!』

 

「なんだと…!? じゃあ、あいつ等は囮だってんのか!? クソッタレが、俺が罠にハメられた見てぇじゃねぇか!!」

 

 最新の銃火器で装備した女性らと戦っていると本部より知らされたシュンは、即座に自分に向かってくる民兵等が囮であると理解する。

 アリアと交戦している女たちがワルキューレの手の者であると判断して向かおうと思ったが、自分の方には多数の殺気立った外国の民兵たちが向って来ており、向かうことなど不可能に近く、全滅させるしかないだろう。幸い、相手は数に頼るド素人の集団だ。歴戦練磨の自分なら、油断しなければ勝てる見込みはある。それに民兵たちは十八番である地の利などここでは使えない。

 そう意気込んだシュンは、遮蔽物から自動拳銃を撃ちながら飛び出す。

 撃った回数は四発以上で、二発ほどが二人の民兵に命中、一人を射殺することに成功し、もう一人を負傷させることに成功した。

 だが、敵は数に任せて軽機関銃の支援を受けながら突っ込んで来る。直ぐに次の遮蔽物へ身を隠し、そこで手近に居る民兵に向けて再び自動拳銃を撃ち込む。

 

「クソッ、拳銃だけじゃ不利だな」

 

 向かって来た三名を射殺した後、即座に再装填を行って拳銃一挺だけでは心持たないと思う。

 近付いては直ぐに殺されてしまうと思ってか、民兵は誰一人として近付いてこず、何所か適当に遮蔽物となる場所へ隠れてそこから銃撃を行う。

 しかし、民兵等は自分がまだそこに居ると思っており、ずっとシュンが隠れている場所を撃ち続けている。それに回す人数も居ないので、自分がそこに居ると思わせて回り込ませるには十分な状況が出来ている。

 

「やっぱこれは有効だな」

 

 この戦法を使い、シュンは二発ほど撃って自分がそこに居ると相手に思わせた後、敵から見えないルートを通って敵の背後に回り込もうとした。

 先ほどまで自分が隠れている遮蔽物に敵が回り込んだ頃には標的の姿が無く、居ないと言う知らせを聞いたリーダーと思われる男が射撃中止をフィリピン語で叫んでいた。

 だが、滅茶苦茶に撃っている民兵たちは銃声で余り聞こえていない所為か、中止命令を聞かず、ずっと引き金を引き続けている。

 

「ほんと、民兵ってのは…」

 

 命令を聞かずにずっと銃を撃ち続けている民兵たちを見てそう呟いた後、標的を撃つのに夢中な機関銃手の背後へ素早く回り込み、アーミーナイフを抜いて静かに近付き、口を押えて喉を掻き斬り、息の根を止めた。

 軽機関銃はベルト式のRPDであるが、民兵等が持つ銃と同じくコピー製品のようだ。

 それを手に取ってちゃんと撃てるかどうか確認し、弾が何発かあるか確認した後、自分に向けて背中を見せている民兵等に向けて撃ち始めた。

 いきなり味方の軽機関銃で撃たれた民兵等は次々と気付く間もなく、次々と薙ぎ倒されていく。気付いたリーダーが部下たちに知らせたが、その指揮官もシュンに取っては無防備であったがため、真先に撃ち殺された。

 指揮官を撃ち殺された民兵たちは正規の軍人で無いがために混乱し始め、散り散りに逃げ始めるが、シュンは誰一人逃すことなく、容赦なく背中に銃弾を撃ち込む。

 

「よし、これで全滅だな」

 

 ドラムマガジンの銃弾を全て撃ち尽くすころには、民兵らは重傷を負ってうめき声を上げるか、死体となって異国の地に横たわるだけであった。

 次なる標的に備えるべく、シュンは機関銃の再装填を行ったが、パトカーのサイレン音が聞こえて来たため、それどころではなくなる。それに無線機からは、本部の二佐が直ぐにその場から逃げるように告げる連絡が入ってくる。

 

『直ぐにそこから逃げろ! 警察と武偵が駆け付けて来ている! 向かってくる者達はお前のことなど誰一人知らん! 捕まれば一環の終わりだ!!』

 

「んなもん、分かってる!」

 

 当然ながら分かっているので、シュンは機関銃を捨て、直ぐにその場から逃走を始めた。

 パトカーのサイレン音が近くまで聞こえて来るが、逃げ切るには十分な時間がある為、全力疾走で人気の無い場所まで走り抜ける。

 それから数分後、警官や武偵に見られることなく逃げ切ることに成功したため、シュンは少し息を整え、誰にも追い付かれず、見られていないことを本部に連絡する。

 

「逃げ切ったぞ…」

 

『よし、迎えの車を寄越す。場所は無線機のGPSで分かる。それと絶対にその場から動くなよ、警察や民察がうろついている』

 

「分かってるよ、そんなもん」

 

 逃げ切ったことを報告すれば、本部は迎えを寄越すと告げ、近くに駆け付けた警官や武偵が居ることも伝え、絶対に動かないように指示を出す。言われなくても分かっているシュンは、その場で座り込み、迎えが来るまで息を潜めた。

 

「なんで外国の民兵がこんな国に居るのか理解できねぇな…」

 

 シュンは今日を振り返り、なぜフィリピンの武装勢力の民兵が居ることに疑問に思っていたが、また彼らと戦うことになるとは夢にも思わず、少し疲れているのか、そこでただ迎えが来るのを待つ。

 

「おい、その大剣は…お前か?」

 

「っ!?」

 

 それから数十分後、迎えと思われる車が近くに止まり、日本警察の特殊部隊であるSATの装備を身に着けた男が、MP5短機関銃の日本警察仕様であるMP5Jを抱えながら問い掛けて来た。

 警察の特殊部隊の格好をした男を見たシュンが驚き、直ぐに自動拳銃の銃口を向けた。これに迎えの男も驚き、反射的に引き金に指を掛け、いつでも撃てる姿勢を取る。

 いつ撃ってもおかしくない状況となったが、ある人物が車から出て来てこの場を仲裁する。

 

「お前ら落ち着けっての」

 

「あんたか…」

 

 ある人物とは松方であり、彼の姿を見た双方は銃を収める。

 

「さて、お前ら、とっととズらかるぞ。お巡りさんたちがいっぱいいますからなぁ」

 

「ちょ、イテっ!」

 

 互いが銃を降ろしたのを確認した松方はシュンの腕を取り、無理やり車へと引きずり込む。これにシュンは痛みを感じたが、彼は容赦なく車中へ引き摺り込み、見張りが同時に乗り込めば、車は速やかに現場より離れた。

 この二つの銃撃事件は、アジア系マフィア同士の銃撃戦の末の相打ちで片付けられ、アリアたちを襲ったワルキューレの方は、銃を持った不良達を武偵が制圧したと言う物に塗り替えられ、彼女たちに捕まったワルキューレの暗殺部隊は、自分等の存在を世界に知られることを恐れている駐屯部隊指揮官の根回しで全員が釈放された。




後書きコーナー

ダス・ライヒ「さて、今年最後の後書きコーナー。今回は新キャラがまた出て来てますけど、シュンとルリと対峙するのは…ジャンヌ戦くらいかな? 次回は題名を忘れたが、あの映画のような追跡劇です。そんで今回のゲストは、一年終わり繋がりでザビ家三兄弟の長男、ギレン・ザビです!」

ギレン「この私を、こんな場所にゲストとして呼んだお前の真意が分からん」

ダス・ライヒ「まぁまぁ、そう言わず。所でア・バオア・クーの最終決戦で負けた理由はやはり…?」

ギレン「敗戦を前にして死んだ指導者に問うとは愚問だな。敢えて言えば、キシリアの行動だ。あれが無ければ、我がジオン軍はソーラ・レイによって戦力の大半を失った連邦艦隊に勝利することは出来ただろう。ふん、負け犬の言い訳にしかならんな」

ダス・ライヒ「流石は感情を表に出さない御方だ…負けても冷静に物事を判断する…」

ギレン「戦争と言うのは冷酷な物よ。故に冷静に冷酷に物事を判断せねばならん」

ダス・ライヒ「流石はデギン公にヒトラーの尻尾とか言われることはある…」

ギレン「ヒトラーの尻尾? ふん、あの男も天才であったが、私には遠く及ばんよ。それに軍事知識も浅い。伍長で退役したなど以ての外だ。せめて士官階級になってから退役していれば、少しはマシになったであろう」

ダス・ライヒ「ほぅほぅ、流石は総帥殿だ…で、選民思想は?」

ギレン「選民思想? それは増えすぎた人口を減らすために必要な事だよ。大量虐殺を行った理由は人口調節をするためだ。あのまま増え続ければ、いずれ共食いを始めるだろうからな。それに人類は選ばれた者達によって管理運営されなければならん。分かるだろう? 優秀たる者達によって管理される安心感は?」

ダス・ライヒ「確かに安心できますね…でも、それは…」

ギレン「やはり常人には理解できぬか。では、早いがこれで済ませよう」

ダス・ライヒ「あぁ、ハイ…ここで終わりましょう」

ギレン「では、この小説を読んでいる者達よ、良いお年を」

ダス・ライヒ「良いお年を…」

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