復讐異世界旅行記   作:ダス・ライヒ

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取り敢えず、観覧注意…かな?


犬屋敷

「おーし、ここを野営地にすんぞ!」

 

 シュンとルリが聖ヴァンデミオン騎士団に捕縛された頃、付近にある廃墟となっている洋館には、猟銃や密造された軍用銃などで武装した男達が、それぞれの場所へ腰を下ろす。

 

「汚ねぇ屋敷だなぁ。もうちょっとマシな所はねぇのか?」

 

「我慢しろ、我が大日本帝国に巣くう害虫共を駆除するため、我慢するのだ」

 

 この男達は新日本赤軍の者達では無く、日本を戦前の国家名である大日本帝国と呼んだところから、超国家主義を掲げる凶悪なテロ組織であるようだ。

 彼らはそこらに吸い終えた煙草の吸殻を放り捨て、銃を近くに置いて雑談を始める。

 

「なぁ、次は何所を襲うんだ? また老人ホームか? 爺や婆ぶっ殺して介護員の女を犯すなんて飽きたぜ。もっとさ、すげぇ所ところ襲わねぇか? 若い女がもっと居る場所とかさ」

 

 こんな発言をする辺り、彼らは盗賊同然の過激派集団であることには変わりないようだ。

 もっとも、銃火器を持っていて気が高ぶっており、自分等が最強であると思っている様子だ。銃と言うこの現代で主兵装とも言える武器を持った所為で破壊衝動が抑え込めないのだろう。

 

「あぁ、隊長に言ってるんだが、公安に目を付けられるとか何とかで聞かねぇんだよ。あいつ、威張るしか能がねぇよな」

 

「あぁ、マジで威張るしか能のねぇカスだよな。こっちは密造や密輸品とは言え、軍用銃だぜ? この国の寄生虫共の飼い犬如き、俺たちの敵じゃねぇーての」

 

 密輸か密造された軍用銃、もっとも、M14自動小銃を民間様にフルオート機能を排したモデルであるM1Aを見せびらかしながら、この国のありとあらゆる敵から守るための組織である公安も目ではないと自慢げに言う男は、その組織の介入を恐れる自分等の隊長を小ばかにしながら答えた後、在米軍の横流し品と思われるM16A2突撃銃を整備しながら、自分等に適う者が居ないと慢心していた。

 彼らは銃を手にする前や、この大日本帝国と呼ばれる超国家主義を掲げるテロ集団に入る前は、自堕落な生活や引きこもって親の脛を齧る者達であったらしく、この自分等が気に入らない者達を、この国に仇なす者と見なして殺すと言う大義名分を掲げるテロ組織が現れれば、彼らはこぞってそこへ入り、こうして傍から見ればただの盗賊、否、単なる畜生の集団として、自分等が国賊や売国奴、敵対国の人間を殺し回っている。

 自分等こそがその国に仇なす集団と化しているが、当の者達はそうとは思っておらず、自分等に反対する者こそ悪と決め付けている始末だ。

 

「おい、何してんだ?」

 

「犬だよ、犬! このワン公が俺を睨みつけやがったんだ! ぶっ殺してやる!!」

 

「おいおい、犬なんぞ鉄砲でもぶっ放せば逃げるだろぉ」

 

 大きな物音が鳴ったため、残りの者達は音がした方向へ駆け付けた。

 そこには子犬を睨んだと言う理由だけで苛ついて蹴り付ける男の姿があった。余りにもくだらな過ぎる理由で子犬を何度も蹴り付ける男に対し、M16A2を持つ男は銃を撃って逃がせばいいと告げるが、当の本人はそれを聞かず、何度も子犬を蹴り付ける。

 

「それ以上、止せよお前…犬になんか恨みでもあんのか?」

 

「うるせぇ! 黙ってろ!! こいつが、こいつが!!」

 

 問うた男が言う通り、犬に何か恨みであるのか、何度も子犬の腹を強く蹴り続ける。

 既に子犬は息絶えたが、男は気が済むまで既に骸と化している子犬を蹴り続けた後、満足したのか、唾を吐いて立ち去る。

 

「お前、最近おかしいぞ。どうしたんだよ?」

 

「うるせぇ、イライラが止まらないんだよ…! 何故だか知らねぇけどな…!」

 

 異常な行動を見せる男に、自動小銃を持つ男が問うたが、その男は苛つきながら答え、銃を持ちながら何処かへ立ち去ろうとした。

 

「オメェら、犬イジメたなァ」

 

 だが、その男も含め、一同を呼び止める声が聞こえる。それを聞いてか、他の男達は一斉に振り返り、銃口を向ける。

 

「なんだぁ、この犬顔ぁ?」

 

「朝鮮人かぁ? いや、その顔に低い背はどう見ても朝鮮人(チョン)だなぁ。ぶっ殺すか?」

 

 舌足らずな声を掛けた男の容姿は、太った体型に子供のように低い背、そして犬のような粗悪な顔と言う醜い外見であった。その男を見た大日本帝国、否、超国家主義のテロリストたちは、ユダヤ人根絶を掲げるナチスや東欧諸国よろしく、自分等が根絶を掲げている朝鮮人の特徴であると判断した。それを発した男は、生かすか殺すかを別の男に問う。

 

「ぶっ殺せ。警察に通報されたらたまらん」

 

「了解。銃弾がもったいねぇ、太刀とかスコップとかでバラバラにすんぞ!」

 

 隊長と思える男が答えれば、男達は残忍な笑みを浮かべながら、太刀やスコップを取り出し、その男を囲みこもうとする。

 だが、当の本人は泣き叫ぶことも怯えることもせず、犬を殺した者達の怒りに燃えていた。

 

「犬イジメル奴ァクズだァ。犬イジメル奴ァ、旦那様でも神様でも許されねぇだァ。オラはオメェラ食ってやるだァ」

 

「食うだとぉ? てめぇ、やっぱ朝鮮人だな! 地球のゴミが! 八つ裂きにしてやんぜぇ!!」

 

 犬を虐めて殺したお前たちを食ってやる。

 そう告げる醜い男に、テロリストたちはこの男を朝鮮人と断定してスコップの刃を振り下ろした。

 

「ほへ?」

 

 普通なら男は床に叩き付けられ、自分等の手によって八つ裂きにされているだろう。

 だが、男には一切通じず、スコップの刃は途中で止まっており、それを見た男は間抜けな声を出して呆然とした。

 

「わ、わぁぁぁぁ!?」

 

 その瞬間、自分等が朝鮮人と見下していた男は、この世の物とは思えない別の姿となり、周りに居た男達を一瞬の内に肉塊にする。辺り一面が血で真っ赤となり、周囲に飛び散った肉塊が散乱する中、残っている男達は手にしている銃を突然現れた化け物に対して乱射する。

 

『効かねぇだァァァ!!』

 

 凄まじい弾幕を浴びせ、当たった箇所から血が噴き出ているが、当の本人はまるで痛みを感じず、恐慌状態となって銃を乱射する男達に近付いてくる。

 

「ひ、ひぃぃぃ!!」

 

「お、おい待て! ぶぇ!? ギャァァァ!!」

 

 一人が恐怖して逃げ出し、それに続いて続々と逃げ出し始める。他の男が静止の声を掛けるが、その男は化け物の触手に掴まり、巨大な口に放り込まれ、骨ごと肉体を噛み千切られて絶命する。

 逃げる男達も最後尾の方から触手に掴まって化け物に食べられていき、残りは中間部と最前列の者達となる。だが、最前列の者達はドアのある部屋へと入った瞬間、中間部に居る者達を締め出し、自分等だけでそこに立て籠もった。

 

「ふざけんな! 開けろよ!!」

 

「開けてくれ! 化け物に食われちまう!!」

 

 そう必死にドアを叩く男達であるが、中に居る者達は決してドアを開けず、開かないように何かで塞いでいた。

 

「や、止めろぉ! ぎゃぁぁぁ!!」

 

「う、うわぁ!? は、離せ! 嫌だァァァ!!」

 

 追い付いてきた化け物によって、中間部の者達は触手に掴まり、全員が化け物の餌食となった。

 

「なんだよあれ…なんなんだよ…!」

 

「夢だよな…これ、夢だよな…?」

 

 ドアの外側から聞こえる悲鳴や銃声、肉が裂け、骨が砕ける音を聞いて恐怖した男達は泣きじゃくり、ある者はこれが夢であると思い始める。

 それもその筈、自分が八つ裂きにしようとしていた醜い男が、あのこの世には決して存在しない奇形の化け物と化して自分を殺し回っているのだ。信じられなくなるのは無理も無い。

 

「お前だ! お前が子犬なんかを蹴り殺すから…!」

 

「うるせぇ! 殺されたいのか!?」

 

「お前犬を蹴り殺すのがいけないんだ…! ハハハ! そうだ、お前の所為だ! 俺がこんな目に遭ってるのはお前の所為なんだ!!」

 

「よ、止せ! やめっ!?」

 

 ドアの向こうに居る化け物の存在とその恐怖に耐え切れず、彼らは仲間内で殺し合いを始めた。一人目が犬を蹴り殺した男が撃った銃弾を腹に受けて床に両膝を着けば、それを合図に仲間内での撃ち合いが始まる。

 味方は居ない、この部屋に居る者全てが敵だ。信じられるのは己のみ。

 そう思考を支配されている者達は、お互いに殺し合い、一人になるまで仲間を殺し続ける。

 

「はぁ、はぁ…生きてるぞ…俺…」

 

 銃声が鳴りやんだ頃に立っているのは、あの子犬を蹴り殺した男であった。

 最初に仲間を殺した男が生存したのは不思議だが、ドアの向こうに居る化け物が居る限り、もう何でもありだろう。この男以外の男達は床に倒れて絶命していた。流石に無事では無かったのか、腹に一発の銃弾を受けており、そこを抑えながら男は床の上に腰を下ろす。

 

「これ、夢だよな…?」

 

 壁にもたれながら、既に息絶えている者達に問い掛けたが、聞こえて来るのは、化け物がドアを破ろうと何度も体当たりを仕掛ける音だけだ。

 最後までその男はこれが夢であると思っていたが、化け物はドアを破り、この部屋へと入って来た。

 

『見付けたゾォ…!』

 

「ゆ、夢だよな…? これって夢だよな…?」

 

 入って来た異形の化け物に、男は何度もこれが夢であると何度も問うたが、強く振り降ろされた触手が右腕を砕いた。右腕が砕けたことにより、目が覚める程の強い痛覚を感じ、現実であると気付く。

 

「グアァァァ!? なんで、なんで夢じゃないんだよぉ!?」

 

『オメエだけは、タダでは死なさないだァ』

 

 お前だけはただでは殺さない。

 そう告げる化け物の言葉に、男は失禁して更に脱糞し、凄まじい悲鳴を上げた。

 

「わぁぁぁぁぁ!?」

 

 その叫びの後、男はどうなったか分からない…。

 

 

 

 廃墟となった洋館で殺戮ショーが行われている頃、シュンとルリは聖ヴァンデミオン騎士団の野営地へと護送された。

 

「直ちに双方の捕縛成功の知らせを本部へ送る。作戦本部へ連れて行け!」

 

「はっ!」

 

 野営地へ着けば、自分の愛馬から降りたミルドレッドは、FN FAL自動小銃のイギリスのライセンス生産モデルであるL1A1を持っている女兵士に、シュンとルリを足ら得るように自分等に捕縛命令を出した陸軍総司令部への報告のため、二人を護送車から降ろして作戦本部へ連れて行くように指示する。

 それに応じ、細身の女兵士は敬礼して指示を実行するために護送車に走る。

 聖ヴァンデミオン騎士団の野営地は、自然公園の一部を貸し切っており、少々ながら広い。

 野営地は天幕が幾つかあるだけだが、銃などの小火器を装備した中隊規模の本部を一緒くたにされており、その中隊が聖ヴァンデミオン騎士団の装備の輸送と警備を担当しているようだ。

 中隊は自転車部隊であり、移動手段の大半は名前の通りに自転車で、トラックは輸送用を含めて六両しか保有しておらず、装備も主力であるアサルトライフルが少なく、ボルトアクション式の小銃が主な装備であることから二級戦部隊だ。

 

「ほら、歩け!」

 

 そんなことはさておき、首枷を付けられたシュンは半裸にされ、銃剣の付いたリーエンフィールド小銃や槍を向けられながら護送車であるトラックの荷台から降り、作戦本部へと徒歩で移送される。

 

「んー! んんー!!」

 

 ルリは猿轡を銜えさせられたまま両手に手枷を付けられるだけで済まされ、姫騎士に抱き抱えられながら作戦本部の天幕へ連れて行かれる。

 作戦本部の天幕へ二人を入れれば、壁際に置かれている巨大なディスプレイの前に立たせる。

 

「陸軍総司令部に繋げ!」

 

「サー!」

 

 ミルドレッドが告げれば、オペレーターは機器を操作してディスプレイの画面を表示した。暫く砂嵐の映像が続くと、画面にオフィスのディスクの椅子に座る初老の男が高画質で映し出される。映像通信のようだ。

 

『例の少女は捕らえたか? サー・ティーダー』

 

「はっ、ダウンゼン侯爵閣下! 一行の者達である戦乙女の者や貴族剣士、貧民街出身の少年と少女、業火の戦士スコーピオン、凶悪犯のラグナ・ザ・ブラッドエッジ、ダークファルス・ルーサー、他数名の捕縛は出来ませんでしたが、代わりにワラキアの領主の暗殺し、脱出の際にメイソン騎士団の騎士を数十名と将兵数名を殺害した漆黒の剣士である元陸軍大尉、瀬戸シュンを捕縛致しました!」

 

 ルリ以外の勇者一行を捕らえることに失敗したことを報告すれば、代わりとして捕縛したシュンの事を、画面の向こう側に居る口元に白い髭を蓄えた白髪の初老の白人男性に伝える。

 

『ほぅ、早期における予言の乙女の捕縛成功に、漆黒の剣士と言う思わぬ獲物を捕らえることに成功したな。卿はティーダー家の運に恵まれたようだ』

 

「はい、ありがたき幸せ!!」

 

 自分に取って予想外である漆黒の剣士であるシュンの捕縛の成功を聞き、ダウンゼン侯爵と呼ばれる初老の男は、思わぬ獲物を捕らえたミルドレッドに称賛の声を送る。これを聴いてか、彼女は地面に膝を着き、画面の向こうの男に向けて頭を下げて礼を言う。

 

『サー・ティーダー、面を上げろ。それは画面では無く、人前でやる事だぞ』

 

「あっ、済みません! 侯爵閣下!!」

 

 画面の前で頭を下げるミルドレッドに注意すれば、シュンを捕らえるために犠牲となった女騎士の遺族に対して戦士通告書を送ったかどうかを問う。

 

『そう謝るな。かの漆黒の剣士を捕らえるために、卿の幾人かの部下が犠牲となったであろう。彼女らの遺族には、戦死通告は送ったかね?』

 

「いえ、まだです。正直言って、予想外の男を捕らえるために犠牲になったと正直に書いて良いか…」

 

 幼さが残る一人の少女を捕らえようとしたら、予想外に現れた大男の手によって死んだと戦士通告書に書いて良いか分からないミルドレッドが書いてないと答えれば、ダウンゼンは正直に書かないように釘を刺す。

 

『サー・ティーダー、これは非正規任務だ。卿ら聖ヴァンデミオン騎士団は正式的に対惑星同盟軍戦線であるサンジュリオ戦線に配属されたことになっておる。たかだか幼い少女一人を捕まえるために死にましたと通知書に書けば、それを受け取った親がどう反応するか卿には分かるかね?』

 

 それと同時に一人の少女を捕らえるために、従軍している子が死んだと聞いて親がどう反応するかを問えば、彼女は額に汗を浸らせ、緊張しながら答えた。

 

「は、はい…余りにも…故人や遺族に対しても残念極まりなく、騎士の名誉も無いと…」

 

『そうだとも。くだらない理由で死んだと報告すれば、卿も遺族に会わせる顔が無いだろう?』

 

 くだらない理由で死んでしまっては、愛する我が子を自軍に入隊させてくれた遺族には申し訳ない。

 そうミルドレッドに告げたダウンゼンは、自分に対して緊張している彼女の返答がないと確認すると、この任務を終えた後の次の派遣先を告げる。

 

『二人の身が陸軍省に護送されたのを確認されれば、卿の聖ヴァンデミオン騎士団はサンジュリオ戦線に移って貰う。安心したまえ、貴殿の騎士団の配置先は前線より遥か後方だ。あの戦線の最前線には歴戦練磨のアガサ騎士団一部隊や、陸軍の精鋭機動兵器部隊であるヴァレルヘルム装甲軍団が居る。卿は安心して、後方で錯乱を企てようとする敵兵共を排除していたまえ』

 

「はい、必ずや武勲の一つでも…」

 

『後方で武勲を挙げるのはそう無いと思うがな。そちらに護送部隊を送る。明日頃にはついている筈だ。二人の身柄はその者達に渡せ。では、期待しているぞ』

 

 緊張していたのか、後方に配属と決まったのに武勲を挙げると答えてしまったミルドレッドに、ダウンゼンは苦笑いしながら明日に護送部隊が来ることを知らせた後、最後に期待していると告げてから映像通信を切る。

 

「映像通信、切れました」

 

「そうか…感謝する…」

 

 映像通信が切れたことを女性オペレーターが告げれば、緊張を解いて机に置いてある水の入ったコップを飲んで一息ついた。

 

「牢に戻す前に、二人に対して手短な尋問を始める。私の天幕まで連れてこい!」

 

 それから自分の天幕に、私的な尋問を行うためにシュンとルリを連れて行くように指示を出した。

 

「危険な男が一人居ます。団長一人では…」

 

「良いから連れて行け。これは命令である!」

 

「畏まりました! 直ちに!!」

 

 だが、自分の上司と言える女騎士団長を危険な男であるシュンと一緒にするのは安全性が欠けることを尉官クラスの士官が告げたが、先ほど画面越しの老人を前に緊張していたとは思えないミルドレッドの睨みで、口答えを止めて指示を実行した。

 連行している男と少女を作戦本部である天幕から出した後、担当しているその士官は、私的な尋問が終わって双方を何所に収容しているかをミルドレッドに問う。

 

「尋問が終わった後、双方はどちらに収容なさるので?」

 

「少女は私の天幕に。漆黒の剣士は外の牢に入れておけ」

 

 ルリは自分の天幕に、シュンは外に置かれているあのライオンでも入れるような牢に入れておくように指示を出せば、担当の士官はそれを疑問に思い、二人とも同じ牢に入れないのかを聞く。

 

「えっ? 二人とも一緒の牢では無いんですか?」

 

「馬鹿者! 幼気な少女だぞ! その少女をあの男と一緒の牢に入れるなど、襲われたらどうするつもりだ!?」

 

「す、すみません!」

 

 幼気な少女を、あの凶悪な男と一緒の牢に入れるのか!?

 そう怒鳴られた士官は直ぐに頭を下げて謝罪する。

 そんなやり取りを見ていたシュンは、一緒に連行されているルリのその外見に見合う性的魅力も無い身体つきを見ながら、鼻で笑ってミルドレッドを挑発する。

 

「へっ、誰がこんな餓鬼なんかに欲情すっかよ」

 

「煩いぞ貴様! 早く連れて行け!!」

 

「はっ! 来い!!」

 

 その挑発に反応しながらも、何とか乗らずに連れて行くように担当の将兵らに告げた。

 指示を受けた将兵らは、鎖を引っ張りながらミルドレッドの天幕へとルリと共にシュンを連れて行く。

 

「よし、貴様らは出て行ってよし。小姓、貴様たちもだ」

 

 ミルドレッドの天幕の中まで二人を移送すれば、連行した兵士三名と、自分の小姓である少女二名に天幕から出て行くように告げる。

 自分と捕虜の二人を含めて三名以外になれば、机の上に置いてある鞭を手にし、ルリの方へ視線を向けながらシュンに近付く。彼女が手にしている鞭は尋問用であり、縄の部分が鉄で出来ている。これに殴られれば、血が出ることは間違いなしだ。

 

「これより手短な尋問を行う。予言の乙女よ、大人しく仲間の居場所を吐くと良い。さもなくば…」

 

 ミルドレッドはルリに対し、仲間の居場所を吐くように告げれば、見せしめにシュンの鋼鉄のような身体に鞭を打った。幾度も戦場を駆け抜けて来て出来上がった男の肉体に、更に新しい傷が増え、そこから小量の血が流れ始める。それを見たルリは、シュンの鋼鉄のような肉体を傷つける鞭の威力を間近で見て震え始める。

 

「この鋼の鞭を貴様に打ち付ける。貴様にこの鞭を打ち付ければ、肉が削げることは確実だろう。か弱き乙女の身体に鞭を打ち付けるのは気が引けるが、仕方の無い事。さぁ、吐くのだ。吐かねば次は貴様の番だぞ」

 

 次はこの鞭をお前の身体に打ち付ける。

 そうミルドレッドに告げられたルリは、自分を守るために仲間の居場所を吐くか、仲間を守るために目前の男と共に鋼の鞭を耐え切れるか迷い始める。

 

「どうしよう…? あんなので叩かれたら…私…でも、みんなの居場所を吐くなんて出来ないよ…!」

 

「何を迷っている? 決めろ! この鞭で打たれたいか!?」

 

 額に汗を浸らせ、困り果てた表情でどちらを選ぶか迷うルリに対し、早く決断するようにミルドレッドは再びシュンの身体に鞭打ちながら問う。

 そんなルリを見兼ねてか、鞭を打たれているシュンは、彼女に仲間の居場所を吐くように告げる。

 

「言っちまえ。あれ程の大群に囲まれて誰一人助けに来なかったんだ。そんな薄情な奴らなんぞ守る意味あんのか?」

 

「き、貴様は黙っていろ!!」

 

「ゲロッちまえよ。そうすりゃあ、俺見てぇな身体にならなくて済むぜ? 馬鹿見てぇに薄情なお仲間を守るか、自分の身体を守るかどっちかにしな」

 

 自分の許可なく口を開いたシュンに鞭を当てて黙らせようとするが、彼に取って鋼の鞭よりも痛い攻撃を受けてきた経験なのか、余り痛覚を感じず、ルリに自分を助けに来ない仲間を守るために居場所を吐くか、喋って自分の身体を守るかの二択の選択肢を与える。

 これに戸惑うルリであったが、シュンの言う通り、自分の仲間は一向に誰も来ない。

 

「えっと…エジプトの死者の山に行くって言ってた…行ったのは、スコーピオンさんにラグナ、キロット君にモカちゃん、ヴァルチカ御婆ちゃんとマルクさん、渡壁(とかべ)君…」

 

「真か! 嘘を着いてはいないだろうな!?」

 

 後者を選んだルリに対し、ミルドレッドは少女の制服の襟を掴みながら嘘をついていないかどうかを凄い剣幕で問い詰めれば、それに負けて彼女は無言で頷く。

 

「よし、お前の仲間はエジプトの死者の山を目指しているのは確かだな? おい、衛兵! 直ちに通信部隊に報告せよ! 奴らの居場所が分かったぞ!」

 

『はっ! 畏まりました!!』

 

 確かな情報であると確認すれば、ミルドレッドは外に居る衛兵に通信部隊に報告するように告げた。

 

「で、死者の山に向かった者達以外の者の貴族剣士と戦乙女は何所に居る?」

 

「そ、それは…」

 

 他に仲間が何所に居るのかをルリに問えば、彼女は危険に晒して良いのか迷い始める。

 

「どうなのだ!? 言え!」

 

「わっ、分かりません…! 私に居場所を告げずに言ったから…」

 

「ちっ、余ほど仲間に信用されてないのだな、貴様は」

 

 他の仲間の居場所は知らない。

 そう答えるルリに対し、ミルドレッドは舌打ちしながら彼女が余ほど仲間に信頼されていない勇者であると思い、天幕の出入り口の近くに居る士官を呼び出し、シュンを牢へ連れて行くように命じる。

 

「尋問は終わった。他の仲間の事を問うたが、予言の乙女は知らされていないようだ」

 

「そこまでしなくてもよろしいのでは? 我々の任務は予言の乙女一人を捕らえよと…」

 

 勝手に仲間の居場所を捕虜に吐かせたミルドレッドに対し、士官は不安そうな表情を浮かべながら自分等の本来の目標を告げる。

 

「上層部は予言の乙女一人を捕らえれば、瓦解すると思っているようだが、あの小娘は仲間の居場所を知らされていなかった。今後も奴らは我がワルキューレに歯向かい続けるだろう。徹底的に排除せねばならんのだ」

 

 リーダーの少女一人捕らえても意味が無い。本気で殲滅させる気なら、全員を対象とするべきだ。

 そう自分の考えを告げるミルドレッドに対し、士官は少し困り果てた表情を浮かべながら、考え抜いた答えを相手に返す。

 

「貴女のお気持ちは良く分かります。確かに殲滅すべきでしょうが、それは後の部隊がやってくれるでしょう。我々は目標を達しているので、これ以上の深追いは止した方が良いかと」

 

「貴官が言うのも確かだ。我々のような戦に不慣れな集団がやるべきではないな。後の事は他の者達がやってくれるだろう。さぁ、早くあの男を牢へ入れろ。それと小姓、その小娘に囚人服を着せておけ。衣服に何か仕込んでいるかもしれん」

 

「了解です、騎士団長殿!」

 

 自分等は目標を達しているので、後の事は他の部隊がやってくれる。

 そんな答えを聞いて自分ら聖ヴァンデミオン騎士団の練度の低さを実感していたミルドレッドは納得し、引き下がった。それからシュンを早く牢へ入れるように命じ、士官はそれに応じて部下を引き連れて騎士団長の天幕へ入る。小姓も入れ、ルリに着替えさせるように指示した。

 

「おい、あれ嘘か?」

 

 牢へと連れて行かれる前に、シュンはルリが出した答えが本当か嘘なのかを確かめるために問い掛ける。問われた彼女は暫し上を向いて考え込んだ後、シュンに苦笑いを浮かべさせる返答をする。

 

「本当の事だよ。でも、ゲントゥルさんとオーレリアンさんの居場所は知らないってのは嘘だよ。後、ルーサーさんも」

 

「おいおい、砂漠へ行った連中の方は嘘ついとけよ…」

 

 ルリ以外が聞いていないことを確認すれば、シュンは彼女に向けて脱出の算段を問う。

 

「で、仲間は来んのか? まさか信用されてないってことは無いよな?」

 

「大丈夫、オーレリアンさんが多分、私が捕まったことを聞いて馬を飛ばして来てると思う。綺麗な人に目移りしてないと良いけど…」

 

「大丈夫かよそのオーレリアンって奴ぁ…俺が抜け出して助けに行った方がマシだぜ」

 

 ルリの話を聞く限り、そのオーレリアンなるワルキューレから貴族剣士と呼ばれる男は、美人に目が無いらしい。

 それを知ってシュンが自力で牢から抜け出してルリも助けた方が良いと言うが、彼女は余ほど彼の事を信頼しているのか、期待して待っていた方が良いと告げる。

 

「心配ないよ。あの人は女の人は絶対に斬ったりしない人だけど、必ず私たちの事を助けに来てくれるから」

 

「そうだと良いんだがな。お前も脱出手段を考えておけ、知恵絞らねぇと二度と仲間の元へ戻れなくなるぞ」

 

 オーレリアンの事を信頼しているルリに対し、シュンは彼女にも自力で脱出するように告げた。

 

「何を話している!? こっちに来い!」

 

「小っちゃい脳ミソで良く考えな」

 

 それから移送を担当する散弾銃を持った二名の女兵士が、自分の肩を掴んで外へ連れ出そうとすれば、シュンはルリに向けて自力で脱出することをよく考えておくように告げた。

 そのまま天幕の外へ連れ出されれば、首枷に付いてある鎖を引っ張られながら、牢へと向けて移送される。

 

「余り彼女をからかわないでくれないか?」

 

「あっ? 元疾風騎士団のナンバー2様が俺に何の用だ?」

 

 鎖を引っ張られながら牢へと移送されようとする中、近くの天幕に腕組みしながらもたれ掛かっているノエミに声を掛けられたシュンは、従軍時代に彼女の事を良く知っていたため、この二級戦部隊のような騎士団に居る彼女に対して元の騎士団に属していたころの渾名を口にしながら何の用かを問う。

 

「あの御方は見た目通りに繊細なんだ。この騎士団の団長となってからは、大分疲労が溜まってきている。少しは配慮してくれ」

 

「けっ、何を言い出せば、あのお嬢さんに配慮しろだぁ? ふざけたこと抜かすな」

 

 突然、声を掛けて来たノエミからミルドレッドには配慮してくれと告げられた為、シュンは地面に向けて唾を吐きながら「世迷言を抜かすな」と返して移送する兵士の後へ続こうとした。

 

「誰だ、俺の身体をベタベタ触ってる女は…っ!?」

 

「あらぁ~、凄い良い肉体ですわ…はぁ、この身体に抱かれてみたい…!」

 

 だが、自分の身体に女の手に触れられた感覚がし、そちらの方へ視線を向ければ、妖艶な表情を浮かべているエルミーヌが気付かぬ間に近付いており、そればかりか自分の身体を押し付ける形で抱き着いていた。直ぐにシュンは、身体を揺さぶって引き剥がそうとする。

 

「エルミーヌ殿、今宵の相手は私であったのでは?」

 

「おっと、ごめんあそばせ。ちょっと濡れてたのでついうっかり」

 

 これにエルミーヌの今宵の相手を務める予定のノエミは直ぐにシュンから彼女を引き剥がし、そのことを問えば、彼女は我慢できなかったと答え、傷だらけの肉体を持つ彼の身体を性的な目で暫し見た後、自分を好みに合う男から引き剥がした女の手を取る。

 

「この手は何だ?」

 

「直ぐにしますわ」

 

「はっ? 夕食がまだですぞ」

 

「だから今すぐですわ。食べながらできるでしょ? 早くしないと冷めちゃいますわ」

 

「冷める? 性交渉は昼間からする物では…!?」

 

 シュンの身体に抱き着いた時に伝わった並々ならぬ感覚を忘れないようにするため、エルミーヌはノエミの手を取って自分の天幕へ向けて走り去った。

 

「俺をオカズにしてんじゃねぇよ」

 

「何をしてる? 早く行け!!」

 

 エルミーヌに対して自分を出汁に使うなとぼやけば、シュンは護送を担当する兵士に背中を押され、牢へと連れて行かれた。

 牢へと連行される中、周辺にある天幕と周囲に居る銃火器を持った兵士の装備を確認する。装備はこの世界の時代で言えば、古過ぎる物ばかりであり、最新や連邦に同盟と戦えるほどの増備を持つ部隊は全て前線に取られているようだ。

 

「(どう見ても前線で出て来るような装備じゃねぇな。車両が殆ど見られねぇ。ワルキューレの兵器不足が酷くなってるな)」

 

「何をしてる!? 早く歩け!!」

 

 周囲に居る将兵らの装備で、ワルキューレの兵器不足を垣間見たシュンであるが、護送を担当する兵士に背中を押され、牢へと歩かされる。

 

「そこで大人しくしていろ!」

 

「ちっ、マジで豚小屋だな、こいつは」

 

 狭苦しい牢屋に閉じ込められたシュンは、そこを豚小屋と表し、見張り以外の兵士が去ってから、脱出を妨げる要因が無いかどうか確認する。

 

「(居るのは見張りの女が一人…武器はFAL、じゃなくてL1A1か)」

 

 看守を担当している女兵士の持っている武器をL1A1自動小銃であることを確認すれば、次は使える物が無いか周囲を探し始める。

 

「(何も無し…枝が一本あれば、あの女から鍵を取れるんだがな。仕方ねぇ、夜を待つか)」

 

 使える物が無いと分かれば、シュンはルリが何らかの行動を起こすと予想してか、夜を待つことにした。

 

 

 

 日が暮れて夜になった頃、夜に備えて仮眠を取っていたシュンは目を覚まし、何か変わったことが無いか辺りを見渡した。

 

「(看守が夕食食って居眠りしてるだけか)」

 

 変わった事と言えば、周囲にランプやトーチ用スタンドなど未だに明るく、夕食を済ませた看守が、軍用レーションに入っていた食べ終えたセットの容器をそこらに捨てて居眠りしているだけだ。ライフルは隣に置いているものの、警戒心は全く無いと言える。そればかりか、自分用の食事すら勝手に食べられ、その食べ残しがビスケットの袋や容器と同じように雑に捨ててあった。

 

「あのアマ…!」

 

 自分の唯一の食事を勝手に食べた看守に対し、余りの怒りで声に出してしまうが、ここで騒ぎを起こせば近くに居る兵士が駆け付ける可能性がある為、ここは抑えてルリが何かの行動に出ることを期待する。

 暫く腹を空かせながら待っていると、常闇に隠れて小さな物体が看守の近くで蠢いているのが見えた。

 

「なんだありゃ?」

 

 暗闇の中で目を凝らして良く見れば、ハムスターが看守の腰に付けてある鍵を取り外し、自分の方へ向かってくるのが見える。

種類はゴールデンハムスターであり、隊長は17㎝ほどだ。大型で知能があり、人に慣れやすくて多少の事では噛まないが、人間を敵と認識すると、積極的に攻撃してくる気が強いところがある。

 

「ネズミか?」

 

 近付いてくるハムスターを鼠と言ったシュンはそれに驚きながら、ハムスターが持ってきた牢屋の鍵を受け取った。

 

「お前、あの嬢ちゃんのペットか?」

 

 そう牢の鍵を持ってきたハムスターに問い掛ければ、そのハムスターは二回無言で頷く。

 

「あの嬢ちゃん、鼠を飼うとは変わった思考をしてんな。でもありがとな」

 

 未だにハムスターの事を鼠と言うシュンは、牢の鍵を持ってきたハムスターの頭を豆だらけの大きな手で軽く撫で、牢の鍵を開けて豚小屋のような牢屋から出た。

 

「さて、装備を回収する前に、色々と持って行かないとな」

 

 牢屋から出ることに成功したシュンは、少し体を慣らしてから、居眠りをしている看守からライフルと予備弾倉を収めたポーチ、FNハイパワー自動拳銃を銃剣と共に盗み取れば、ポケットに入ってあるビスケットも拝借してから、起こさないように再び寝かす。

 

「じゃあな、間抜け」

 

 ある程度の物を盗んだシュンは、そう看守に別れを言ってから、自分の装備を回収するため、作戦本部へと歩哨の目を盗みながら進んだ。時には進路上の邪魔となる歩哨を無力化したが、殺しはせず、気絶させてそこらに眠らせる。

 

「俺の大剣はあの天幕…ん? なんだ、どうした?」

 

 突然、ハムスターが自分の素足に体当たりを仕掛けて来たため、シュンはそのハムスターに問い掛ける。ゴールデン種はシュンの問い掛けには答えず、近くの天幕へ入り込む。

 

「ついてこいってか?」

 

 そのゴールデン種の行動で、シュンはハムスターの後に続いて天幕の中へ侵入した。

 中に入れば、肉同士が激しく混ざってぶつかり合う音と、女の喘ぎ声が耳に入ってくる。

 聞こえて来る声が同性であることから、どうやら同性同士での性行為を行っているようだ。そんな状況下にある天幕の中でも、ゴールデン種はシュンが来るまで待っており、彼が天幕へ入れば、持ってもらいたい物でもあるのか、それがある場所まで案内する。

 

「あの女と女漢か。けっ、気に入らねぇが、今は邪魔してる暇はねぇな」

 

 同性同士で性行為を行っているのが、ノエミとエルミーヌであることを確認すれば、シュンは邪魔をしたい気持ちを抑え、ゴールデン種が向かった先へ行く。

 ノエミが攻めで、受けのエルミーヌの極上の女体を激しくむしゃぶり付き、受け側の彼女は伝わってくる性感で淫らな声を上げて喘いでいる。その声がシュンの足音を消してくれ、楽にハムスターが持って欲しい物がある場所まで来ることが出来た。

 

「こいつか?」

 

 ノエミかエルミーヌか、誰の天幕か分からないが、机の上に置かれている小型の自動拳銃であるSIG P232を手に取り、それなのかを確かめる。それがハムスターの持ってもらいたかった物であり、二回ほど頷いたのを確認すれば、入っているホルスターごと予備弾倉と共に掴み取り、喘ぎ声や肉同士がぶつかり合う音で自分の足音を消しつつ、その天幕を出た。

 

「ん…?」

 

「どうした?」

 

 少し物音が聞こえていたのか、エルミーヌがその音に気付いて声を出せば、ノエミが反応して腰を動かすのを止めて問い掛ける。

 

「なんでもありませんわ…」

 

「そうか」

 

 本当はシュンが忍び込んだのを分かっていたエルミーヌであるが、ここは敢えて見逃し、ノエミとの性行為を再開した。

 エルミーヌに見逃してもらったことを知らず、そのまま作戦本部の天幕に忍び込んだシュンは、自分の大剣と装備が無い事に苛立ちを覚える。

 

「クソッ、何所に持って行きやがった?」

 

 八つ当たりに支柱に拳を軽く打ち付けるシュンであるが、行く先はハムスターが知っているらしき、その者の後へ続く。

 

「あっちか」

 

 来たのはミルドレッドの天幕であり、出入り口には見張りの騎士が二人ほど左右に立っていた。物陰に隠れながら、ハムスターが天幕の隙間から中へ入って行くのを確認すれば、その後へ続いて歩哨の目を盗み、天幕へ忍び込む。

 

『吐け…! 知っているんだろ?』

 

『い、嫌…!』

 

 中に入れば、ミルドレッドの声が聞こえ、ルリの嫌がる声が耳に入ってくる。

 物陰から様子を探ってみると、上半身を曝け出したミルドレッドが、全裸にして張り付けにしたルリに、鞭を撃ち込もうとする光景が目に入った。

 

「とんだ変態だな。これで配慮しろって言われても、配慮できねぇよ」

 

 ノエミに配慮しろと言われたが、ミルドレッドの恐ろしい性癖を見てしまったシュンは配慮など出来る筈も無かった。ルリとミルドレッド以外の者の気配がこの天幕に居ないことを確認すれば、そっと彼女の背後に近寄る。

 

「よぅ、お嬢さん。素敵な趣味をお持ちなようで」

 

「貴様っ!?」

 

 上半身裸のミルドレッドの注意を引くため、わざと声を掛ければ、彼女が大声を出す前に、項に当て身を行い、気絶させる。それから張り付けにされているルリの拘束を解く。

 

「お、お兄さんは…?」

 

「お前のペットに案内されてここに来た。服を着ろ。逃げるぞ」

 

「成功したんだね、ハルトマンにご褒美しなきゃ」

 

 問い掛けて来るルリに対し、シュンは彼女のペットであるハムスター、ハルトマンに助けられたことを知らせれば、自由になった彼女は後で褒美を与えることを考え、自分の衣服と装備がある場所まで向かう。

 そこに自分の大剣と装備があると思い、彼女と共に向かう。

 

「おい、別の場所で着替えろ」

 

「ふぇ? は、はい!」

 

 その場で着替えようとするルリに、別の場所で着替えるように指示したシュンは、彼女が下着を着けてから向こうへ向かったのを確認してから、自分の衣服を着込み、靴下とブーツを履き、大剣(スレイブ)が収まっている鞘を背負い込み、しっかりと紐を結んで解けないようにする。

 

「よし、これで完璧だ」

 

 銃も装備して完全装備であると確認すれば、シュンは着替え終えている筈のルリの元へ向かう。

 

「おい、忘れもんだ」

 

「ふわっ!?」

 

 自分の剣を何処かへ仕舞い、自分の銃であるスターリングMk7短機関銃を持つルリに、シュンは回収した彼女の拳銃であるP232を投げた。投げられたそれを慌てながら受け取れば、ルリは自分の銃を回収してくれたシュンに礼を言う。

 

「あ、ありがとう…」

 

「礼はお前の鼠に言え。そいつが俺にそいつを回収させた」

 

「そ、そっか。またご褒美しないと」

 

 ハルトマンがシュンを導いて回収してくれたと知れば、ルリは自分の元へ帰って来た彼の頭を優しく撫でた。

 

「よし、行くぞ」

 

「ミルドレッド様! 捕虜が脱走…貴様ぁ!?」

 

 それからルリと共に脱出しようとした時、出入り口から伝令の騎士が入ってくる。

 報告しようとした脱走した捕虜が目前に居た為、女騎士は驚いて腰の剣を抜こうとしたが、抜く前に兜を被ってない顔面に一撃を受けて気絶する。

 

「どうやらあのお嬢さんにご同行願うしなねぇようだな」

 

「ご同行って?」

 

 知らせに来た騎士を打ち倒してしまった為、シュンはこの場で最適な選択肢であるミルドレッドにご同行、つまり人質にして野営地から脱出すると言う物だ。その意味が分かってないルリは、シュンに問い掛ける。

 

「人質だよ、人質。お前、それが分からねぇのか?」

 

「人質って…駄目だよ、この人は…」

 

「そう偽善ぶってちゃ、二度と仲間の元へ戻れなくなるぞ」

 

「そんな…」

 

 人質を取る手段に出るシュンに対し、意味を理解したルリは反対意見を述べるが、偽善ぶっていては二度と仲間の元へは戻れなくなると返され、泣く泣く納得させられる。

 

「おい、何やってんだ? 行くぞ」

 

 だが、半裸状態の女性を外へ出すのは行けないと思ってか、ルリは隠せそうなミルドレッドのマントを持って、気絶した彼女を担いで外へ出ようとするシュンの後へ続く。ルリの準備が出来たと確認してか、シュンは隣に置いてある火が灯っているトーチ用スタンドを倒し、松明を持って天幕に火を点けから外へ出た。

 外へ出れば案の定、既に包囲されており、各々の得物を持った女騎士たちや銃を持つ将兵らに銃口を向けられ、サーチライトまで向けられていた。

 

「貴様ぁ、どうやって抜け出した!?」

 

 大振りのハンマーを持ちながら問い掛けて来るドミニクに対し、シュンは何も答えず、抱えている気絶した彼女の尻に、松明を近付けて周りに退くように指示する。

 

「さぁな、鼠が間抜けから鍵を盗んだ。そんだけだ。それと早く退け、こいつの尻が燃えちまうぞ!」

 

 松明の火をミルドレッドの尻に近付けて燃やすと脅しつけながら告げれば、助ける手段が無いので迂闊に手を出せないドミニクは、彼らを渋々通すしかないと思い、部下たちに道を開けるよう告げる。

 

「ふ、婦女子を盾に使うとは…! ぬふぅ、やもえん。皆、道を開けよ」

 

「えっ!?」

 

「悪いな、おばはん」

 

 道を空けるように告げれば、周囲に包囲している者達はそれに驚いたが、自分等も人質、それも傷付けてはならない人物を人質に取られているため、迂闊に手を出せず、渋々道を開けることにする。

 仮設の馬小屋まで来れば、一番早そうな馬を見付け、その馬にルリと気絶しているミルドレッドを先に乗せれば、他の馬たちの尻に松明を当てる。動物は必然的に火を嫌うので、高温度を尻に当てられた馬は興奮し、散り散りに走り始める。

 これで暫く追跡を止めることは出来た。自転車もあるようだが、馬に追い付けるとは思えない。

 

「なんてことを!?」

 

 常人からすればとんでもないシュンに対し、ルリは馬を降りようとしたが、大きな手で無理やり戻される。それからシュンはルリの後ろの方へ跨り、手綱をしいて馬を走らせた。

 

「追跡の手を緩めるためだ。お前、そんなことも知らねぇのか?」

 

 相手の追跡手段を断ち切るのは当然の事とルリに告げれば、シュンは何所か身を隠せる場所まで馬を走らせる。

 

「逃げた馬を追え!」

 

「燃え移る前に消化しろ!!」

 

「自転車中隊、貴様ら早く追跡しろ!!」

 

 聖ヴァンデミオン騎士団は追跡しようとしているが、唯一の追跡手段である馬がしりに火を当てられて逃げ出し、その上に天幕が燃えているので混乱している。

 

「ど、どう! どう!」

 

「おのれ、このドミニク一生の不覚! 捕虜まで逃がし、団長まで人質に取られるとは!! 急ぎ馬を回収せよ! 残りの者は火を消すのだ!!」

 

 自分の不甲斐無さを悔しく思い、ドミニクは混乱する騎士や将兵らに的確な指示を飛ばす。

 指示に応じて彼女らは燃え上がる天幕の消火活動を始め、逃げた馬を回収しようとするが、思うように進まないようだ。

 

「ぬぅ、まだか!? のわっ!?」

 

 苛々と馬一頭が確保されるのを待っていると、彼女の隣で何者かが乗った馬が通り過ぎた。

 

「だ、誰だ…? ぬぁ!? 子供ではないか!? 幼き少女よ! これは遊びでは無いぞ!!」

 

『子供じゃない!!』

 

 通り過ぎた馬に乗っているのが桃色の髪の小柄な少女と分かれば、直ぐに降りるように注意したが、馬に乗る少女は自分を子供呼ばわりしたドミニクの言葉に反応し、怒鳴りつけてから奪った小銃を片手に馬を掛けて逃げ去ったシュンとルリの後を追う。

 

「全く、この世界の子供の教育はどうなっておるのだ? おっ!? ノエミ殿も追跡に当たってくれるか!」

 

 先の少女を地元の子供と勘違いしながら嘆くドミニクであったが、更に自分の脇を馬が通り過ぎた。

 今度は白馬に跨ったノエミであり、腰には剣が差してあったが、手にはM4A1カービン、否、カナダのライセンス生産モデルであるC8A1カービンが握られていた。

 平服である物の、颯爽と追跡に当たるノエミをドミニクは期待しつつ、自分も追跡するため、馬の確保へ向かった。




次回はベルセルク2016年アニメ版の第三話みたいにやる予定。

アークスのオモチャ、ルーサーが参戦したからPSO2を参戦枠に出さないとな…」

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