復讐異世界旅行記   作:ダス・ライヒ

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今週のネタバレ

ブロリー「何所へ行くんだ…?」


銃にまみれた世界へ 後編

 やって来た確認の男を殺し、その男が出て来た方向に向かおうとしたシュンだが、微かに聞こえて来る女性の声を耳にし、そちらに視線を向ける。

 

『助けて…!』

 

「あの場で輪されてた女たちだな。鍵くらいは空けておてやっか」

 

 囚われていた女性たちの存在を知ったシュンは、その方向へ向かう。

 銃を構えながら向かえば、牢屋の中に複数の全裸の女性が囚われており、シュンを見るなり助けを求める声を止め、怯え始める。

 

「ひっ、ひぃぃ…!」

 

「当然ちゃ、当然だな」

 

 怯え切った女性達を見て、男である自分を見て怯えると分かっており、シュンは背中の大剣を抜き、牢屋のドアを破壊した。

 

「男の悲鳴が鳴りやんだら勝手に逃げな」

 

 そう怯えている女性たちに言えば、シュンは大剣を背中に戻し、手に入れた自動小銃を手にしながら元の持ち主がこの空間に来る際に通った道を行く。

 

『おい、なんか居たか!?』

 

「ここで合ってるな」

 

 自分の敵の声が聞こえれば、その方向が正解であると確信し、階段を上がる。

 

「お前確認して来い!」

 

「えっ、嫌だよ!」

 

「うっせぇ! テメェも殺すぞ!!」

 

 階段を上がり、ドアの近くまで来れば、声がはっきりと聞こえて来た。リーダー面をしている男が、手下の一人に確認するように怒号を飛ばしている。シュンはその男がドアを開いた瞬間に備え、銃剣で突こうと待ち構える。

 

「わ、分かったよ! だから銃口を…!?」

 

 銃口で脅され、男は先ほどの確認に向かった仲間の安否を確認しようとドアを開けた途端、腹を銃剣で深く突き刺され、血を吐きながら苦しみ始める。

 

「さ、刺された!?」

 

「な、なんだテメェは!?」

 

「さっきの男、俺が殺しておいたよ。テメェラもそいつの元へ送ってやっから、楽に死にたきゃ大人しくそこで突っ立ってろ」

 

 突き刺した男から素早く銃剣を引き抜き、倒れる前に胸倉を掴んで無理やり立たせ、銃身から手早くトリガーを持ち、無理やり立たせて盾にしている男の肩に重心を乗せてから、シュンはこの部屋に居る残り五人の男達に告げた。

 殺害を宣告された残り五人の男達は、盾にされて死に近付いている仲間を見て少しながら恐怖を覚えたが、自分の身を守るべく、恐怖に駆られた各々が、持つ密造されたか違法にコピーされた銃で盾にされている仲間ごと撃ち始める。

 

「う、うわぁぁぁ!!」

 

「ま、待ってくれぇ…! 俺がまだぁ…!!」

 

 叫び声を上げながら、男達は撃たないように訴える仲間の声を無視して滅茶苦茶に銃を撃ち始めた。放たれた弾丸は全てシュンが盾にしている男に当たり、当たった箇所から血が噴き出て来る。‟盾‟の耐久度がまだある内に、シュンは目前に居る男に照準を合わせ、引き金を引いた。

 銃声が鳴り響き、右肩に多少の衝撃が加われば、銃口から銃弾が放たれ、標的にした男の胸に命中し、肉と血管を突き破って出血させる。一人目が倒れたのを秒単位で確認すれば、次なる標的に照準を向け、引き金を引く。

 この間にシュンに見える全ての物がスローモーションに見えており、自分だけが通常の時間で動け、容易に相手が撃つよりも先に照準を向けて撃つことが出来た。

 わずか三十秒ほどで、シュンに銃を向けている男達は全滅した。何名かは急所を撃たれて蹲っているが、正確な場所を聞き出せる情報源が増えたと言って良い。

 早速シュンは、蹲っている男の髪を掴み、相手の頬にナイフを突き付けながら正確な場所を問うために尋問を始める。

 

「おい、ここは日本の何所ら辺だ? 言えば治してやっても良い」

 

 相手の問いに答えれば、直してもらえると聞いて男はシュンの問いに答える。

 

「東京の…新宿区の…自然公園近くの倉庫…」

 

「おぅ、そうか。ありがとな」

 

「えっ…!? ちょ、待てよ…! 治療するって…」

 

 相手から情報を得たシュンは立ち去ろうとしたが、相手が呼び止めた為、直ぐにその元へ戻る。

 

「おぉ、そうだったな。今楽にしてやるよ」

 

 そう相手に笑みを浮かべながら告げれば、瀕死の男が持っているトカレフ自動拳銃の中国製モデルである「黒星」を確認してからとどめを刺した。残っている者も、その黒星で射殺していく。全員を撃ち殺せば、マガジンキャッチボタンを押して弾倉を排出し、死体から回収した新しい弾倉を装填してから、シモノフSKSの残弾を確かめる。

 

「残り五発って所か。クリップは十発入りだしな。行くか」

 

 残弾を確認した後、クリップが十発装填であるため、そのまま次の部屋へと進んだ。

 

「武偵か!?」

 

「武偵が殺すもんかよ!!」

 

「絶対にぶっ殺せ!」

 

 次の部屋へと進めば、先ほどの銃声を聞き付けて現れた男達がシュンを見るなり撃ってくる。自分の事を「武偵」と呼んでいるので、その単語に少し首を傾げたが、素人同然の動きをする相手をただ殺すことに専念する。

 五人ほどを撃ち殺せば、直ぐに遮蔽物へ身を隠し、ボルトを引いて排出口を開き、そこに十発入りクリップを置き、手早く弾丸を押し込み、全弾を弾倉内に装填すれば、ボルトを手前に押して初弾を薬室に送り込む。

 装填を済ませれば、身を曝け出しながら銃を乱射している間抜けな男達に向け、再び銃弾を撃ち込み始める。

 

「ひっ!? お、お前らぁ!?」

 

 一分ほど的のように棒立ちしながら撃っている多数の素人と銃撃戦をしていれば、いつの間にか相手が一人になっていた。

 相手は持っている56式自動歩槍と呼ばれる中国製のAK47突撃銃を撃とうとしたが、馬鹿みたいに撃っている所為で弾切れを起こしており、その場で再装填を始めようと、弾倉を外そうとしていたが、この男は装填を自分の舎弟とも言える下っ端にやらせており、その下っ端もシュンに脳天を撃ち抜かれて即死しているため、再装填が出来ない。

 

「ど、どうやるんだよ!?」

 

 新しい弾倉を持ちだしたのは良いが、やり方なんて全く分からないため、男は全身から汗を吹き出しながら慌て始める。死の恐怖が目前に迫っているか、凄まじく老け始めていた。

 そんな男の元に、シュンは何気なく近付き、その中国製の突撃銃を弾倉と共に無理やり奪い、自分が手本を見せるように再装填すれば、初弾を薬室に送って男のしわくちゃな顔面に向けて銃口を向ける。

 

「こいつの装填はこうすんだよ。地獄で手に入れたら実施しな」

 

 再装填を見せれば、シュンは地獄で実施するように言ってから、引き金を引いて男を射殺した。

 糸が切れた人形のように男が堅い床へと倒れた後、男より奪った銃の予備弾倉を幾つか回収し、銃紐があることを確認すれば、シモノフSKS自動小銃の銃紐を肩に掛け、突撃銃を主兵装(メインウェポン)として使うことにして、先へと進む。

 

「あいつをぶっ殺せ!」

 

「ハチの巣にしてやる!!」

 

 途中、敵がいくつか出て来るが、わざわざ的になるように出て来てくれたため、容易に排除することが出来た。

 敵は連発(フルオート)で撃って来ているが、腰だめで滅茶苦茶な射撃であり、全く単独の敵には当たらず、逆に落ち着いて単発(セミオート)で撃っているシュンに、一方的に撃ち殺されるだけである。

 移動標的か、ゲームの雑魚キャラのように次々と出て来るチンピラたちを一発ずつ撃ち殺しながら進んでいくと、広い場所へと辿り着いた。そこにはシュン一人に壊滅状態にされている組織リーダーらしき男が、自分だけ高価な銃、ノベスキーN4自動小銃を安価な銃で武装している彼らに銃口を向けながら、自分の企てを滅茶苦茶にした男を殺すように怒号を飛ばしていた。

 

「お前ら行け! 行かねぇと殺すぞ!!」

 

「で、でも、俺らは…」

 

「うるせぇ! 殺されてぇのか! 早く行けクソ共!!」

 

 たった一人の男に恐れをなす手下たちに苛ついたのか、一人を数発ほど撃ち込んで殺した後、天井にむやみやたらに乱射すれば、もう一人に銃口を向けながら脅し付ける。リーダーもまた全くのド素人であり、弾を無駄にしていた。遮蔽物に身を隠して恐怖で手下たちを統括する男を見ていたシュンは、少し笑ってしまいそうになっていたが、何とか我慢してリーダーたちが居る場所の広さを確認する。

 

「プロの相手の後に、ド素人の相手は流石に呆れちまうが…ここは広いな。ちまちまと()るより、こいつの方が性に合ってるな」

 

 この世界に来るまで、多数の戦闘のプロや軍事訓練を受けた将兵らと戦って来たシュンは、流石に敵のド素人ぶりに飽きて来た。部屋の広さを確認して自分の得物であるスレイブを十分に振り回せる広さであると確認すれば、手にしている56式自動歩槍を銃紐で肩に吊るし、背中の大剣を引き抜いてリーダーたちの前に姿を現した。

 

「で、出てきました! あいつです!!」

 

「あぁ? お前ら、こんな馬鹿見てぇな奴相手に死にまくってたの? ダッセェー、マジでお前らだせぇわ。あんな馬鹿デカい鉄塊振り回してる奴なんかに負けるとか。殺す前に写メ撮っとくわ」

 

 手下の一人が怯え切った表情でシュンを指差しながら告げれば、リーダーは大剣を持っている彼を見て拍子抜けし、大笑いしながら鉄塊を持った一人の男に怯えている手下たちを馬鹿にし始めた。

 そんなリーダーが片手でスマートフォンを取りながらシュンを撮影しようとした時、被写体は大剣の刃を手近に居る男達に向けて振りかざした。

 

「あっ…」

 

 一番近い男は、目前に迫る鉄塊に叩かれても死にはしないと思っていたが、痛覚を感じるよりも早く周りの男達と共に肉塊にされた。

 勢いよく血が噴き出る中、余りの速さに斬られて胴体だけとなっても死んでいない男が叫ぶまで、リーダーたちは下半身だけになっている四人の仲間をずっと見ているだけだった。

 

「う、うわぁぁぁ!? なんだこりゃあ!?」

 

 床に落ちたその男が叫べば、リーダーたちは死の恐怖に怯えて無茶苦茶に銃を乱射し始める。

 

「来るな! 来るな来るな来るな来るな!!」

 

「や、やめぇ!?」

 

 先ほどまでスマートフォンで撮影していたリーダーが一番取り乱しており、目前に居る仲間ごと最新式の自動小銃を乱射する。

 他の者達も錯乱して銃を乱射し続けるが、仲間を誤射するだけでシュンには当たらず、鋼すら切り裂く鉄塊の如き大剣で斬られ、肉塊と化して行く。

 銃声と悲鳴、うめき声、肉が避ける音と鉄塊が振り翳されている音が鳴りやむころには、この場に立っているのは、叫び声を上げながら弾倉の中身を撃ち尽くしても未だに引き金を引き続けるリーダーと、血だらけで大剣の巨大な刃を肩に担ぎ、返り血塗れとなったシュンの二人だけであった。

 

「うわぁぁぁ!! あぁぁぁ!! あぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 未だに叫びながら引き金を引き続けるリーダーに対し、シュンはそっと近づいて声を掛けた。

 

「弾、切れてんぜ」

 

「わぁぁぁぁ!! あぁぁぁぁ!!」

 

 背後に迫った恐怖に気付いたリーダーは、そちらに銃口を向けて引き金を引いたが、弾が出る筈も無く、カチカチと言う音が鳴るだけで銃声も鳴らず、銃弾も発射されない。

 そんな先ほどの男の同じく、恐怖の余りに急激に老化して未だに引き金を引き続けるリーダーに対し、シュンは大剣を背中に戻してから彼が唇に付けているピアスを掴み、強引に引き抜いて我に戻す。

 

「ぐぁぁぁ!! い、イテェェェェ!!」

 

「まだ戻ってねぇようだな。もう一個抜くか」

 

 ピアスを引っこ抜かれて凄まじい痛覚を唇に感じたリーダーは蹲り、必死に出血する唇を抑えながら絶叫する目前の男に対して、シュンは更なる痛覚を与えるため、頭を掴んで空いた手で左耳に突けてあるピアスも引っこ抜く。

 

「ギャァァァァ!!」

 

「よし、もう良い頃だろ。で、テメェは金持ちとか政治家とかの息子か? 良いもん買ってもらってんな。お小遣いはさぞかし億単位だろうな」

 

 顔面中血だらけなリーダーに、シュンは嘲笑いながら問い掛ければ、耳と唇から来る痛覚に悶絶して答えることが出来ない。痛みがマシになれば、リーダーはこれ以上嬲殺しにされたくないのか、正直に話し始める。

 

「しょ、そうです! 俺、大物議員の息子で小遣いいっぱい貰ってるんっす! だから殺さないでください! お願いしますぅ!!」

 

 喚き散らしながら必死に命乞いをするリーダーであるが、輪姦された女性達を見て苛立っているシュンの鬱憤はまだ晴れていないのか、まだ息のある男が鼻の穴に付けているピアスを引き抜き、男が上げる絶叫で、更にリーダーを怯えさせる。

 

「あぁぁぁぁ!!?」

 

「ひぃぃぃ!! わ、分かりました! 俺らオヤジが揉み消してくれるのを良いことに色々してましたぁ!! もうしませんから許してください!! 絶対にしませんからもう!!」

 

 いたぶられて絶叫する手下の声を聴いて必死に許しを請うリーダーであったが、それもでもシュンはまだ物足りないのか、絶叫する男の頭を掴んで、リーダーの前まで持っていき、男の頭を凄まじい力で踏み付けて粉々に潰してから、武器庫の場所を問う。

 

「スイカみてぇに頭潰されたくなかったら、武器庫の場所を吐け」

 

 目の前で手下の一人の頭が粉々に踏みつぶされたのを見て、リーダーは更に恐怖し、武器庫の場所を吐き始める。

 

「あぁぁぁ!? わ、分かりました!! あちらを曲がって…」

 

「案内しろ。嘘ついてる可能性があっからな」

 

「分かりましたぁ! しゅ、しゅぐに案内しますぅ!!」

 

「よし、頼むぜ。それと、その高価な銃はお前に相応しくねぇ」

 

 武器庫の場所を案内させることに成功すれば、シュンはリーダーからノベスキーN4を予備弾倉と共に強引に奪い、彼の後について行く。武器庫へと続く道へ進む中、最新式の自動小銃の再装填を忘れずに済ませれば、ハンドガードに指を添えていつでも撃てるように準備しておく。

 

「あっ、ボス。奴の始末は終わりぐぇ!?」

 

 見張りの男が自分等のリーダーに気付き、声を掛けた瞬間、シュンは片手で自動小銃を股間に撃ち込んだ。

 

「わぁぁぁ!! あぁぁぁイテェェェェ!!」

 

 股間を撃たれ、性器を5.56mm小銃弾によって破壊された男は、股間を抑えながら悶絶し始める。これにリーダーは更に怯え、シュンに反抗する意思を消して服従することにする。

 男性器を破壊された男が凄まじい激痛で絶叫する中、シュンは気にすることなくリーダーにドアを開けるように告げる。

 

「開けろ」

 

「お、俺…鍵なんて…」

 

「ちっ…」

 

 武器庫に使用されている倉庫まで来れば、シュンはドアを開けるようにリーダーに告げる。だが、リーダーは武器庫の鍵の管理をそこで絶叫している男に任せっきりであり、自信は鍵すら持っていないことを告げる。それを聞いたシュンは舌打ちし、脅しを掛けるように絶叫する男を片手に握っている自動小銃を撃ち込んで黙らせ、鍵を取るように無言で指示する。

 

「取れ」

 

「は、はい…!」

 

 大人しくシュンの指示に従い、リーダーは死んでいる男から武器庫や様々な鍵の束を取れば、武器庫の鍵穴に手当たり次第に突っ込む。

 

「早くしろ」

 

「わ、分かってますよ!」

 

 シュンに急かされる中、リーダーはようやく武器庫のドアを開けることに成功し、自分でドアを開けて彼を中に招き入れた。そこで周囲に見える武器で、シュンを殺せると思っていたのか、反逆の意思を表し、偶然にも近くにあった56式自動歩槍を素早く取り、銃口をシュンに向けて引き金を引こうとする。

 

「死ねコラァァァ! って、あれ?」

 

 そう格好良く叫んで引き金を引くリーダーであったが、彼はとんだ間抜けであり、安全装置が掛かっていて全く引き金は引けなかった。ノベスキーN4の安全装置は、手下が外していたようだ。

 

「へっ?」

 

「アホ過ぎだろ、お前」

 

 目前に居る外見が派手なだけで、中身は間抜けな男にシュンは呆れた表情で告げれば、ストックをリーダーの額に打ち込み、気絶させた。

 それからそこら中にある爆薬をリーダーの身体中に巻き付け、両手両足を拘束できる物で縛り付けてから、一緒に保管されている火炎瓶用の酒瓶、その殆どがこの男の馬鹿集団によって飲み干されて空き瓶となっていたが、残っている酒瓶に火を点けるための布を挿入する。

 

「ちょっと飲んでも良いだろ」

 

 布を刺し込んで行く中、最近飲んでいない酒の誘惑に惹かれてか、少しほど飲んでから布を挿入した。合計で四本くらいを確保すれば、武器庫にある物で作った即席のベルトに装着し、同じくあるタクティカルベストも着込み、ポーチにN4の予備弾倉を入れ込み、手榴弾用のポーチにRGD-5破片手榴弾を出来るだけ入れ込めば、人間爆弾と化して気絶しているリーダーを担ぎながら外へ出る。

 無論、いらなくなった突撃銃は捨ててある。

 

「おい、一体どうなってがわっ!?」

 

「武偵が来まし…」

 

 途中、外を見張っている手下たちが中に居る者達に知らせようと、シュンの前に出て来たが、容赦なく銃弾を撃ち込まれて無力化される。

 数名程を撃ち殺していくうちに、この建物の外へ出ていた。

 外の様子は晴れた青い空が見え、遠くの方ではコンクリートジャングルである東京の街が見える。どうやら本当にシュンが居る場所は東京であったようだ。

 

「マジかよ…」

 

 自分が嫌悪している日本と言う国に来てしまったシュンは、更に苛立ちを覚えたが、来てしまった物はしょうがないので、爆弾人間を抱えながら何所か別の場所へ向かおうとしたが、聞こえて来る拡声器を使った警告で足を止めることになる。

 

『我々は東京武装探偵だ! 君たちは既に包囲されている! 大人しく武器を捨てて出てきなさい!!』

 

「東京武帝警察? なんだそりゃ」

 

 聞き覚えの無い言葉にシュンは少し首を傾げたが、まだ外に居る見張り達の言葉を聞き、彼らがどれだけその東京武装探偵を恐れているのかを知る。

 

「武偵だ! どうする!?」

 

「ぼ、ボスにどうするか相談しよう!!」

 

 ボスに指示を仰ごうとする男達であったが、そこへシュンは容赦なく火炎瓶を投げ込み、何名かを火達磨にした。

 

「わぁぁぁぁ!! あぁぁぁ!! 熱い! 熱いよぉぉぉぉ!!」

 

「ひっ!? だ、誰だぁ!?」

 

 何名かが火達磨になって獣のような絶叫を挙げる中、シュンは何気なく近付き、失禁して腰が抜けて動けない者や、恐怖の余り幼児退行しているまだ無事な男達に問い掛ける。

 

「おい、東京武装探偵ってなんだ?」

 

「だ、誰だお前は!? そ、それにリーダー!?」

 

 当然ながらの反応を見せ、更にシュンが爆薬を巻き付けているリーダーに気付いてさらに驚く。そんな驚きの余り質問に答えない男達に、シュンは容赦なく一人の耳を自動小銃の小口径弾で吹き飛ばす。

 

「グエァァァ!?」

 

「ひぇ!?」

 

「だから何なんだ、東京武装探偵ってのは? ナチの武装親衛隊みたいなもんか?」

 

 苛つきながら問い掛けて来るシュンに対し、男達は悲鳴を上げながら素直に答えた。

 

「が、餓鬼がサツの代わりに俺たち見てぇな鉄砲持ったのをトッ捕まえようとしている連中です! 確か、殺し回る武装検事とかが…」

 

「あぁ、もう良い。テメェら死んでろ」

 

 この世界に来るまで戦闘続きであったため、少し疲れているシュンは、これ以上の脳内に様々な情報を入れたくなかったのか、火炎瓶を投げ込んでから自動小銃を連射し、残りの男達を皆殺しにする。

 

「あっ? あっ!? な、なんだこれぇ!?」

 

「おっ、起きたか。まだお前には付き合ってもらうぜ」

 

「お、降ろしてくれぇ!」

 

 全員を皆殺しにした後、リーダーが起きて皆殺しにされている自分の手士たちを見て恐怖して暴れ回ったが、シュンは再装填するために乱暴に爆薬塗れなリーダーを降ろし、最新式の自動小銃の再装填を行う。

 自動拳銃のようにマガジンキャッチボタンを押して空の弾倉を排出し、ポーチより取り出した新しい弾倉を叩き込み、左側のボタンを押して初弾を薬室へ送り込む。

 再装填が済まされれば、再びリーダーを片手で持ち上げ、このアジトを包囲している東京武装探偵なる者達が良く見える場所まで向かい、彼らに恐怖を与える行動に出る。

 

「どうなってんだこりゃあ。ポリ公や機動隊の代わりに軍用銃を持った餓鬼どもがここを包囲してんぞ」

 

 良く見える場所である屋上まで来れば、その東京武装探偵と言う組織の構成員達が、十代後半の少年少女ばかりであることに驚きを隠せなかった。

 手にしている銃器類は殆どが西側諸国であり、中には自衛隊からの払い下げなのか、M1A1トンプソンやM1カービンなどが含まれていた。

 

「そこを動くな! その男も離すんだ!!」

 

「(どう見たって殺すつもりの装備だな…脅しにはなるが、こいつ等はアフリカの餓鬼共とは違って殺す覚悟も無さそうだな)」

 

 自分の姿を見たM1カービンを持つ隊長と思われる少年が警告しながら上がろうとしてくる中、アジトに突入しようとする武偵たちの装備や顔付きを見れば、緊張する表情で少年少女たちは人を殺した経験が無く、自分を殺すつもりは無いと判断した。

 近くに爆風から身を守れる鉄板があることを確認すれば、抱えているリーダーを投げる準備をする。投げるフォームを行うシュンの姿を見た先行しているポイントマンが、手にしているイタリアの散弾銃であるベネリM4を向けながら、投げようとしている男を下ろすように叫ぶ。

 

「その男を離せ! 撃つぞ!?」

 

「撃てよ。一緒に吹き飛びたかったからな」

 

「た、助けてぇー!! 俺は国会議員の息子なんだよぉ!! 助けたら幾らでも褒美はやるからよぉ!!」

 

 撃つと警告する武偵に対し、シュンは挑発を仕掛ければ、盾にされているリーダーは泣き叫びながらその少年に助けを求める。

 目の前に居る人物を助けなければ!

 そんな人助けの善意溢れる精神に駆られた十代後半の少年は、手にしている最新式の散弾銃を握りしめながら覚悟を決める。後続のM1A1トンプソンやM1カービンを持つ仲間が二名ほど来ているので、結城を振り絞ってゆっくりと近付く。

 

「(ちっ、こんなクズを助けるために正義感丸出しで来やがってよ。こいつ等は褒められるためにやってる馬鹿か? 人間の肉塊なんて見たことがねぇこいつ等に取っちゃ、ちょっと刺激が強過ぎるが、やるしかねぇな。まっ、どうせこいつはクズだしな。どんな大物の御坊ちゃまかは知らねぇが、殺したって何の罪悪感も湧かねぇよ)」

 

 迫ってくる武偵たちに対し、シュンは強硬手段に打って出た。

 

「おい、止めろ!!」

 

「うわぁぁぁ!! た、助けてくれぇぇぇ!!」

 

「地獄で閻魔様かサタン様に親の分まで叱って貰いな!!」

 

 武偵が静止の声を聞かず、シュンは泣きじゃくって失禁する過激派のリーダーに対して地獄で閻魔かサタンに叱って貰うように告げてから、やって来る少年少女たちを怯ませる手を使うため、勢いよく力を込め、利き手でその男を投げた。

 

「わぁぁぁぁ!! イヤダァァァ!!」

 

 空高くに投げられたリーダーは泣き叫んでいたが、誰も彼を助けることが出来ない。男が十分な高さまで上がったのを確認すれば、爆風から身を守るための鉄板を立ててそこに身を隠した。それから起爆装置を取り出し、スイッチを押して男が身体中に巻き付けてある爆弾を起爆させた。

 

「た、退避…」

 

 C4爆弾四つ分の凄まじい爆風が巻き起こり、シュンや周囲に居る者達の鼓膜を破る。

 彼が爆風から身を守るために盾にしている鉄板には肉片か爆弾の破片なのか、それが当たる音が鳴っているが、爆風で鼓膜が破れているシュンには聞こえない。

 爆発が起こって数秒後、完全に爆風がなくなれば、シュンは盾にしている鉄板を退け、周囲を見渡す。

 

「木っ端微塵だな」

 

 空高くに投げ飛ばしたリーダーが、木っ端微塵に吹き飛んだのを確認すれば、鼓膜が破れて両耳を抑えているか、あるいは目の前で助けようとした男が吹き飛んだのを間近で見て固まっている武偵たちの方へ目をやった。

 

「ひ、人が…」

 

「吹き飛んだ…!?」

 

「無理もねぇ、人が吹っ飛ぶのを間近で見ちまったからな。だがよ、俺は十二の時から戦場でそれを間近で見せられちまったんだからよ」

 

 初めて人が吹き飛んだのを見て、震えている武偵たちの姿を見たシュンは、戦場で育った自分より日本のような平和に近い国で育った彼らは恵まれていると言い、震える彼らを横目にその場を立ち去ろうとした。だが、殺気を感じて足を止める。どうやら彼らはシュンの事を怪物か人の形をした何かと敵視しているようだ。

 

「こ、この化け物め…!」

 

「あっ? なんだテメェら、あれを見て俺にまだ歯向かう気か?」

 

 勇気と言うべきか、蛮勇と言うべきか、震える手で銃口を向ける少年に対し、殺気を込めた眼つきで睨みつけながら問う。その見たことも無い殺気染みた眼つきで睨まれた少年は、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなる。

 

「ひっ…!?」

 

「へっ、死にたくなけりゃあそこで震えてろ、餓鬼」

 

 睨まれて動けなくなった少年に吐き捨てた後、シュンは階段がある方向へと向かった。通路に入れば、自分に銃口を向ける者が居たが、一睨みすれば怯え切り、銃口を下げて自分を恐怖の目でシュンを見る。

 

「(それで良い、そう怯えていれば早死にせずに済む。何より後味が悪くて済む)」

 

 階段を下りながら自分に銃を向ける者達を睨み付けて震える少年少女らに対し、撃ってこない彼らに向けて心の中でそう告げれば、シュンは階段を下って地上に出た。

 先ほどの爆発の所為か、肉片か破片が周囲に撒き散らされている。怯えている少年や少女、それに機動隊員も居たが、誰もシュンには歯向かってこない。

 

「これなら戦わずに済むな。疲労がやべぇな…早く休める場所を探さないと…」

 

 無駄に戦闘が済んだことに感謝すれば、連戦の影響で身体に限界が来ているのか、感じて来る疲労感に危機を覚え、急いで安全な場所を探し始めた。

 だが、休む間もなく次の手が来る。

 目前に桃色の髪を靡かせるツインテールの髪型をした小柄な少女が姿を現した。

 小さな両手には二挺のコルト・ガバメント大型自動拳銃が握られ、背中にはサイズに似合うであろう二本の太刀を収めた鞘を背負っている。

 数々の戦場を駆け巡って来た歴戦練磨の戦士から見れば笑いものであるが、シュンはそのふざけた装備をした者達に苦戦してきた経験もある為、先の少年少女たちとは違ってより一層警戒心を増させ、背中に背負っている大剣の柄に利き手である右手を添える。

 

「ワルキューレの刺客か…!? いや、殺気を感じね…!」

 

 その小さな両手には似合わない二挺の大型自動拳銃が握られ、安全装置が外されていたが、殺気を感じなかったため、シュンは大剣の柄から手を離した。

 この手の相手をした時、通常なら並々ならぬ不気味な気配と殺気を放つ物であるが、目前の小さな少女からは殺意を一切発しておらず、ただ単にシュンを生かして捕まえようとする意志が見えて来る。

 どんなマジックを仕掛けて来るかシュンが見る中、先に少女からが逮捕すると宣告した。

 

「連続殺人に遺体損壊、並び公務執行妨害であんたを逮捕するわ。痛い目を遭いたくなかったら、大人しくそこで手を挙げて降参する事ね」

 

「(何言ってんだこのチビ。そんな殺す気満々の装備で痛い目だと? ふざけやがって、アニメの見過ぎじゃねぇのか?)」

 

 容姿に似合う愛らしい声で自分に降伏勧告をする小柄な美少女に対し、シュンは呆れ返り、殺気がこもった眼つきで睨みつけ、ドスの効いた声で告げて追い払おうとした。

 

「退け、殺すぞ」

 

 普通の子供なら怖がって逃げている筈だが、目前の少女はそれに動じず、意気揚々と再び口を開く。

 

「その様子だと、中に居る構成員達を皆殺しにした様子ね。これじゃあ死刑も免れないわ。死刑を免れなかったら、大人しく降参する事よ。じゃなきゃ風穴開けるわよ? 言っておくけど、脅しじゃないわ。マジで無事じゃすまないから」

 

「この小学生が、戯言をダラダラと、いい加減にしねぇとマジでキレっぞ! 俺はてめぇらクソ餓鬼どもと遊んでる暇はねぇんだ! 退かねぇとぶっ殺すぞ!!」

 

「しょ、小学生!? わ、私は高二だぁ!!」

 

 自分からすれば、世迷言を垂れ流す少女に苛ついた疲労感が増して怒りっぽくなっているシュンは、再びドスの効いた声で脅しを掛けたが、小学生と言ったことが不味かったのか、自分のコンプレックスを馬鹿にされたと受け取った少女は堪忍袋の緒が切れたのか、右の45口径の自動拳銃を撃った。

 放たれた弾丸はシュンの頬を掠め、彼は少女の射撃の腕に驚いたが、自分の額を撃ち抜かったことに更に呆れ、目前の少女を睨み付けながら心の中で説教する。

 

「(っ!? 狙いは正確か。だがよ、殺したくないって気持ちがいっぱいで甘ぇぞ。俺見てぇな危険な奴には、弱ってるうちにド(たま)を直ぐにぶち抜くべきなんだよ)」

 

 そう心の中で目の前の少女に向かって言えば、自分を生かして捉えるためにわざと外した少女をあざ笑うように笑い始める。

 

「何笑ってるの!? また小学生なんて言ったら本当に風穴開けちゃうわよ!?」

 

「けっ、何が高二だよ。思いっクソ餓鬼のまんまじゃねぇかよ。殺す気で来な、女子小学生ちゃんよ」

 

「い、言ったわね! 頭に来たわ!! もうどうなっても知らないわよ!!」

 

 もう一度、目前の少女の事を小学生と小馬鹿にして挑発すれば、あっさりとその挑発に乗り、桃色髪の少女は二挺の自動拳銃を撃ちながら近付いてきた。

 これに挑発を仕掛けたシュンは、即座に背負っている鞘のラックに固定してある大剣を盾にするために抜き、小柄な少女とは思えない程の45ACP弾を防ぐ。

 

「(あんな細い腕でどうやって45口径を撃ってんだ? 特注品か?)」

 

 反動が強い自動拳銃を、それも二挺も乱発してくる少女の腕力に驚きながらも、似たような人物と戦ってきた経験のあるシュンは、大剣の巨大な刃で防御しつつ、左手で最新式の自動小銃であるノベンスキーN4を取り、片手で少女に当たらないように撃った。弾は当然のように外れたが、その時に幻聴なのか、頭にスレイブに潜む魔が語り掛けて来る。

 

『どうして外した? 当たれば早く終わるのに』

 

「(うるせぇ…!)」

 

 聞こえて来る大剣に潜む魔を抑えつつ、シュンは避けながら近付いてくる小柄な少女に向けて撃ち続ける。

 威嚇にはなるようだが、相手からは自分が殺す気が無いと悟られ、そのまま一気に近付かれた。これにシュンは大剣を振って追い払おうとしたが、彼女はそれを軽やかに飛んで避け、飛んでいる間に二挺の拳銃を両方の太腿のホルスターに納め、素早く引き抜いた背中の二本の太刀の刃をシュンに向けて振り下ろす。

 

「(見た目以上にすばしっこい嬢ちゃんだぜ…!)」

 

 目にも止まらぬ速さで、二本の刃を振り下ろそうとして来る少女に驚いたシュンであるが、これを何とか避けることに成功した。完全とはいかない物の、本の掠り傷程度なので大事には至らないが、疲労の影響か、身体が自分の思うように動かない。

 左手に握られた自動小銃を威嚇代わりに撃とうとしたが、いつの間にか銃身を目前の少女の太刀によって斬りおとされ、使い物にならなくなっていた。無用の長物と化した武器を捨て、大剣の柄を握り、何とか体勢を維持する。

 

「(クソッ、身体が重い…! いつもの調子なら、こんな餓鬼に…!)」

 

 身体の疲労で思ったように、自分からしてみればお遊び感覚な少女相手に対処できない自分の歯痒さに悔しながらも、シュンは重い身体を何とか動かし、一旦自分から距離を射て身構える少女に向けて臨戦態勢を取る。

 

「どうしたの? そんな大きな物を振り回してる辺り、物凄くヤバい奴だと思ったけど、見掛け倒しね」

 

「うるせぇ、クソガキ。今日はちょっと調子が悪ぃーんだよ。手加減してくれよ…」

 

 巨大な鉄塊のような大剣を振り回すシュンにかなり警戒していた少女は、彼が披露しているとも知らず、自分の思っていた強さとは違ったのか、肩の力を抜いて二本の太刀の刃先を地面に下げ、挑発的な口調で語り掛けて来る。

 そんな少女の挑発には乗らず、シュンは冗談を交えて返した。疲労で調子が悪いことは事実であるが、相手の少女は手加減無しで攻め立てる。

 

「そう、だったら大人しく捕まりなさい!!」

 

 地面を蹴って一気に距離を詰めて来る少女の迎撃に備える中、シュンにまたスレイブに潜む魔が語り掛けて来る。

 

『さっきの連中と同じように、斬ってしまえば良い物を…まだあの時の事を引きずっているのか?』

 

「(テメェ、勝手に人の頭ん中を覗いてんじゃねぇ!!)」

 

 大剣に潜む魔の語りで、知らぬ間に記録を探られていたことを知って激怒するシュンであったが、少女から繰り出される素早い二本の太刀の打ち込みを防ぐ。

 今までの全力で殺しに来た相手とは違い、少女からの一発一発の打ち込みはどれも殺意も無く、まるで相手を生かしたまま無力化する物であり、疲労困憊の自分にも容易に防げるものであるが、脳内に目前の少女を殺すように語り掛けて来る魔に冷静さを奪われる。

 

『あれはあの餓鬼が悪いんだ。声を殺して隠れて居れば良い物を、わざわざお前の前に姿を現して殺されに行くなんて』

 

「(黙れ! あれは俺の所為だ…! 俺が見逃がしていれば、殺さずに済んだんだ…!)」

 

 自分の心の傷を抉ってくる魔に対し、あの時、自分がああしていればトラウマにならずに済んだと返すシュンであるが、自分の心の中に入り込んで来る魔はそれを否定してくる。

 

『いや、違うな。あれは隠密任務だ、あの場にはお前は居ない設定で、誰にも見られてはいけないんだ。お前は正しい判断をした、任務に従順で無感情な特殊部隊の兵士としてな』

 

「(俺の記憶を勝手に覗きやがって…! あれは俺が悪いんだ! 過ぎたことを生し返させんな!!)」

 

 何とか魔に抵抗しながら、目前の少女の攻撃を防ぐシュンであるが、両方で防戦一方な彼に容赦なく畳み掛けて来る。

 

『全くお前と言う奴は…あの時までは普通に子どもなんて殺せただろうに。あれがお前を殺戮兵器から、子供を殺せない不完全な兵器と変えてしまった。この際だ、あのトラウマを払拭するために、目の前の生意気な餓鬼を我で叩き斬れ。そうすれば、お前も…』

 

 どうやら大剣に潜む魔は、シュンがトラウマになる前の誰彼構わず斬り殺していた殺戮兵器の頃に戻そうとしているようだ。だが、過去の自分と決別しているシュンは、今さら殺りく兵器には戻るつもりは無く、自分の頭に入り込んで来た魔を追い払う勢いで叫んだ。

 

「俺は! 殺戮兵器なんかじゃねぇ!!」

 

「な、なにこいつ!? 急に叫び始めた!?」

 

 声に出してしまったのか、その叫びは現実で戦っている相手にも聞こえ、それを聞いた少女は警戒して距離を取る。

 一旦、攻撃が止んだことで、シュンは大剣を杖代わりにして何とか体勢を維持し、乱れている息を整え始める。

 

「っ…! はぁ、はぁ、はぁ…クソッ、また駄々こねやがって…」

 

 大剣の剣先を地面に突き刺しながら杖代わりにしていると、先ほど自分が魔の言う事に耳を貸さなかった所為か、チーフと戦った時と同じくスレイブは元の形に戻ったように鉄塊の如く重くなり、右腕の力を抜けば、その大剣に押し潰されそうだ。さっきの叫びで警戒している少女は、距離を取りながらも臨戦態勢を維持している。

 自分の得物である大剣は元の重さに戻り、使い物にならない。手榴弾を取り出そうにも、相手の少女は太腿の拳銃を直ぐに引き抜けるよう、収めているホルスターが付いてある太腿の近くに手を置いており、取り出そうと物なら早撃ちで弾かれてしまうだろう。

 残っている武器とすれば、安全装置が無い自動拳銃であるトカレフ自動拳銃、それも中国モデルの黒星だけだ。

 

「(早撃ちは自信がねぇが、やるしかねぇ!)」

 

 実戦経験や戦闘技術の面は自分より劣るが、早撃ちだけは勝っている目前の少女に、相手の得意分野で勝負を挑むことにしたシュンは、空いている左手で素早く黒星を抜いた。

 だが、早撃ちで彼女には勝てず、左手に拳銃を握らせたのを彼女に見せた瞬間、拳銃を少女が目にも止まらぬ速さで引き抜いた大型自動拳銃で撃ち抜かれて弾かれてしまう。

 

「クソッ、こんな小学生に負けちまうとは…!」

 

 何もかも自分に劣る小柄な少女に、早撃ちで負けたシュンは悔しがる。

 大剣を杖代わりにしているからして、もうシュンには戦う力が無いと見た少女は、警戒を解いたのか、ゆっくりと近付いて来ながら語り掛けて来る。

 

「疲れているようね。その様子だと、寝る間も惜しまず戦い続けたって様子ね。無理も無いわ。牢の中でゆっくりと休めるから、大人しくその大きな両手に手錠を…」

 

 戦う余力が無いと見た少女は、背中の鞘に二本の太刀を収め、ポーチから手錠を取り出してそれをシュンの大きな両手に付けようとしたが、思わぬ抵抗を受けてしまう。

 

「っ!?」

 

 なんと、チーフの時と同じく、シュンはまた元の重さのままであるスレイブを馬鹿力で持ち上げ、少女に向けて振り下ろそうとしたのだ。

 

「こいつにそんな力はもう…!?」

 

「らぁぁぁ!!」

 

 雄叫びを上げながら、馬鹿力で持ち上げた大剣の刃を、驚いている少女に向けて振り下ろすシュンであったが、チーフの時とは違って容易に敵に読める程に遅く、少女は軽やかに飛んで振り下ろされた巨大な刃を避けた。

 羽が落ちるようにゆっくりと少女は地面に叩き付けられた巨大な刃の上に絶妙なバランスで着地し、背中から抜いた一本の太刀の剣先を、シュンの顔に突き付け、降参するよう告げる。

 

「これでもう終わりね。さぁ、大人しく降参して、留置所か刑務所で終身刑か死刑を待つのね」

 

「留置所か刑務所で待てだと…?」

 

 大人しくお縄となり、留置所か刑務所で刑が執行されるのを待てと告げる少女に対し、まだネオ・ムガルとの復讐中のシュンは聞き捨てならなかったのか、自分の大剣の刃の上に立っている少女に向け、まだ捕まるわけにはいかない理由を告げる。

 

「俺は豚箱であぐら掻いてる暇はねぇんだよ…! それにな、両手両足塞いだくらいで安心してんじゃねぇよ…」

 

「…?」

 

 捕まるわけにはいかない理由を話した後、この状態で安心するなと言うシュンの言葉に少女は理解できないでいた。その物の数秒後に、目前の大男が示す行動で、身を持って分かる事となる。

 

「分かって無いようだな…まだ安心で来ちゃいない理由ってのわな、こういう事だ!!」

 

「っ!? 刃に噛み付くって!? きゃっ!?」

 

 なんと、シュンは目前で向けられている太刀の剣先に噛み付き、引き剥がす勢いで顎を動かした。凄まじい力で自分の右手に握られていた得物を引っ張られた少女はバランスを崩し、自分が足場にしていた大剣の刃の上に落ちようとしていた。

 

「(し、死ぬ…!)」

 

 刃の上に落ちれば、確実に自分は死んでしまうだろう。

 そう思って死を覚悟して目を瞑る少女であったが、寸での所で止まり、自分の身に何が起こったのか理解できず、辺りを見渡す。相手が居た方向に視線を向けると、そこには自分の服を掴んで持ち上げるシュンの姿があった。どうやら敵である彼に助けられたようだ。

 

「あれ、私…死んで…って、あんた!? 離しなさい…グッ!?」

 

「今、死なれたら胸糞が悪いんでな」

 

 敵である大男に掴まれていることを知り、暴れ回ろうとする少女であったが、目前で少女が死ぬのは見るに堪えないシュンは、彼女の腹に強い拳を打ち付け、気絶させてから地面に落とした。

 

「餓鬼の御遊びには付き合ってられねぇぜ」

 

 そう気絶して地面に横たわっている桃色の髪の小柄な少女に吐き捨てた後、軽くなったスレイブを地面から引き抜いて持ち上げ、背負っている鞘のラックに固定させ、休める安全な場所を目指して移動を開始しようとした。

 だが、先ほどの小柄な少女とは違うが、シュンの前に先ほどの少女と言うより別格な美少女が前に立ち塞がる。

 

「あぁん? 全く、俺はロリコンじゃねぇぞ。うちに帰んな、嬢ちゃん。そこにぶっ倒れてるおチビちゃんを連れてな」

 

 次に挑んで来る相手がまた先ほどの少女と7㎝近くは身長が高いやや桃色が混じった腰まで届くくらいはある金髪で、スカイブルーの瞳を持つ白人の美少女であったため、二度も愛らしい少女と戦わなければならないシュンは呆れ返り、足を小鹿のように震わせる少女を睨み付けて追い返そうとする。

 だが、勇気を振り絞って立ち塞がる少女は、幾千、幾万もの人間を殺して来た男の恐ろしい眼力には怯まず、銃紐でぶら下がっているイギリスの短機関銃であるスターリングMk7を取ることなく、何所からか取り出した長剣を鞘から抜き、震える手で柄をしっかりと握り、剣先をシュンに向けて構えた。

 

「(なんだこの嬢ちゃん!? ぶら下がってる銃なんか取らず、どっからともなく出した剣を向けやがった! それにあの構え方、あの金髪女と同じ構え方…! まさか…!?)」

 

 これには流石にシュンも警戒しなければならず、大剣の柄に利き手を添えながら、相手の戦闘スタイルを観察する。

 数秒で敵の戦闘スタイルを診断すれば、自分相手に本気を出さずに剣を交えたマリと同じ構え方と知り、更に最初に彼女と会った時に見せた写真の美少女と、目前に居る少女が同一人物とよく似ていることに驚きを隠せない。

 

「嬢ちゃん、一つ聞くが…」

 

『見付けたぞ! 予言の乙女とその一行の者達!!』

 

「っ!?」

 

 マリが最初に見せた写真と同一人物であり、彼女の事を知っているかどうかを聞き出そうとしたシュンに、新たなる敵が現れた。

 指揮官らしき女性の声が響けば、シュンと少女の周囲を包囲するかの如く、中世イギリス、それもイングランドの甲冑を身に着け、刀剣類を持った多数の女性兵士が現れる。中には鎧を身に着けているとは言い難い少し肌の露出が多い女騎士が幾人か混じっていた。

 この見慣れた服装を身に着けている彼女たちに見覚えがあるシュンは、即座にこの女騎士の大群が、ワルキューレの手の物であると即時判断する。

 

「この現代世界に甲冑に刀剣類…それにふざけた格好の女共…! もうワルキューレ共に嗅ぎ付けられてんのか…!?」

 

 領主殺しの罪を勝手に付けられたシュンは、既に居場所をワルキューレに嗅ぎ付けられたと思って目前の少女を睨むが、彼女もこの女騎士たちの登場は予期しておらず、何が起きているかも理解できていない様子で、不安な表情を浮かべている。

 

「(あの嬢ちゃんが通報したわけでも無いらしい…と、なると…)」

 

 目前の少女がワルキューレの手の者で無いと知れば、高価な装具を身に着けた馬に乗っている騎士団長と思われる金髪でエメラルドグリーンの瞳を持つ女性を睨んだ。

 

「既に貴様らは包囲されている! 大人しく我ら聖ヴァンデミオン騎士団に投降し、我がワルキューレの軍門に下るのだ、予言の乙女よ!」

 

 女騎士団長は腰に差してある高価な鞘から剣を抜き、剣先を少女に向けながらワルキューレの軍門に下るように告げる。

 

「上等だ…スレイブ(こいつ)の機嫌直しには丁度いい得物だぜ…!!」

 

 一難去ってまた一難。

 周囲に居る女騎士団の大群を敵と判断したシュンは、自分の得物に潜む魔の機嫌直しが出来ると判断し、重い体を動かしつつ、大剣の柄を利き手である右手で握りしめた。




次回も殺戮回…? と、思うけど、シュンはロスト・チルドレン編が終わった後のガッツさんみたいにすげぇ疲労困憊なんだよ…

最初の相手は大斧振り回す大男に、次は絶対チートのマリ、そんでドラゴンズドグマオンラインに出てきそうな一角竜、キルゾーンのISA、転移先の鉄砲持ったDQNの集団…

こんなに相手して、疲れないわけが無いだろう…?

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