復讐異世界旅行記   作:ダス・ライヒ

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ここからタイトルが変わります。

それとベルセルク臭が増します。

ガッツの身長が、2m越えだなんて知らなかったよ…


ワラキアの領主 前編

 イオアン暗殺成功もとい、奇襲成功より翌日、ブラン城の城下町の正門に近い広場では、ある男の公開処刑が行われていた。

 

「貴様ぁ! 何をしているのか分かっているのか!? この俺を殺せば、リガン様が黙ってないぞ!!」

 

 往生際が悪いのか、無駄に抵抗して抑え付ける兵士達を振り払おうとし、自分を殺せばこの土地が自分の主によって滅ぼされると警告するが、この惑星の領主である公開処刑を行う天幕に居るショアラ・シルヴァニアは、全く耳を貸さない。

 男がネオ・ムガルの首領であるリガンの名を口にして抵抗する辺り、ネオ・ムガルの構成員であり、領主である彼女とイオアンに強化剤の類を渡した人物であると分かる。

 だが、もう用済みなようで、こうして処刑されようとしている。

 どうやらショアラは、ネオ・ムガルの傘下に入るつもりは一切ないようだ。

 その後も男は抵抗を続けるが、断頭台にあっさりと二名の死刑執行助手に首をくぼみに押し付けられる。

 

「今すぐ止めろぉ! お前らの土地が、我らのネオ・ムガルによって火の海に沈められるぞぉ!!」

 

 もう直ぐ斬首刑執行にも関わらず、未だに抵抗を続ける男であったが、頭巾を被った死刑執行人が振り下ろした斬首用の斧で首を切断され、飛ばされた頭は広場に集まる民衆の元に転がった。

 

「ひっ…!?」

 

 飛んできた首だけとなった男の顔が、恐ろしい形相であったため、女性は思わず尻餅をついてしまう。そんな彼女の元へ、飛んできた頭を回収する係を担当している槍を持つ兵士が近付く。

 

「はいはい。市民の皆さま、死刑人の頭には触れないでくださいね。係の我々共が回収しますので、一切触れないようにお願いしまーす」

 

 この気味の悪い係に慣れてしまっているのか、兵士は意気揚々と死刑人の首の回収に向かうが、黒いマントを付け、フードで顔を隠した男が先にその首を回収していた。それを見ていた兵士は臨戦態勢を取り、首を離すように男に告げる。いつものように告げる敬語では無く、威圧的な口調だ。

 

「おい、早くその首をこっちに渡しな。今なら多めに見てやるからよ」

 

 直ぐに首を渡せば罪を咎めないとして要求するが、男は一切兵士の言葉を聞いていないようだ。

 

「テメェ、いい加減にしないっ!?」

 

 苛ついた兵士は無理やりでも首を取り上げ追うとしたが、顔面を左手に着けられたメリケンサックで強く殴られ、地面の上に倒れ込む。兵士を倒した男は、マントのフードを取り、その顔を露わにした後に、専用の天幕から見ているショアラに告げた。

 

「よう、串刺し婆。宣戦布告だ」

 

 その男の正体は、シュンであった。彼は宣戦布告と言わんばかりに、ネオ・ムガルの構成員の首をショアラの天幕へ向けて投げ付けた。

 

「危ない!」

 

「ひっ!?」

 

 盾を持つ護衛の兵士がそれを盾で防ぎ、腰に差し込んである片手剣を引き抜き、他の兵士も集めて身を挺して主を守ろうとする。一方での高品質な軍服を着ている副官らしき初老の男は、飛んできた頭に驚いて尻餅をついていた。

 それから首の血痕から指で取った血で、首を切るように指でなぞり、赤い線を血で描く。

 これは「お前の首を取る」と現す宣戦布告だ。それを天幕から見たショアラは、男の首を手に取り、隣に立っている副官にシュンを捉えるよう指示する。

 

「アントネスク、あの男を直ぐに捕らえなえなさい」

 

「は、はっ! 鉄衛騎士団、出撃せよ!!」

 

「了解であります!」

 

 椅子に座りながら命じるショアラに、アントネスクと呼ばれる副官は、この公開処刑警備と領主の警護を兼ねている騎士団に出動を命じた。

 アントネスクの指示で周辺を警備している兵士たちが、宣戦布告をしてから広場を去るシュンの追跡を始める中、ショアラは落ちた首を取る手を強める。

 

「この私に宣戦布告と…?」

 

 宣戦布告をしたシュンに、ショアラは若干怒りを覚えたようで、強い力を込め、女性とは思えない握力で男の首をリンゴのように握り潰した。

 

「ひっ!?」

 

「串刺し刑にしてあげるわ…! 城へ帰りますわよ」

 

「はっ!」

 

 それを見た副官が怯える中、ショアラは恐ろしい笑みを浮かべて城へ帰ると部下たちに告げた。

 

 

 

「居たぞ! この不心得者め、ショアラ様に宣戦布告とは! 覚悟するが良い!!」

 

 一方、広場を後にして路地裏まで来たシュンは、追って来た鉄衛騎士団の兵士達に包囲された。追い付いた隊長らしき男が、シュンに向けて剣先を向けながら告げる。

 

「ゾロゾロと…」

 

 次々と現れ、刀剣類を向ける敵兵等に対し、シュンは面倒くさそうにスレイブを鞘から引き抜き、臨戦態勢を取る敵兵等に構えた。振り回せそうにも戦闘にも使え無さそうなその鉄塊のような大剣を見て、兵士たちは嘲笑い始める。

 

「ふははは! そんな馬鹿でかい剣でなにが出来ると言うのだ!」

 

「なんだ? それで肉でも焼くのか?」

 

 自分の愛刀を見て馬鹿にして来る兵士らに乗らず、シュンは挑発を掛ける。

 

「試してみるか? アンタ等の肉で?」

 

「ほぅ、面白い事を言う。弓兵が矢を射る必要も無い。この俺の剣の錆としてくれるわ!!」

 

 この挑発に、一人の兵士が乗り、手に持った両手剣で斬り掛かってくるが、剣を振り下ろした瞬間に大剣で刃を弾かれる。そのまま胴体を大剣の巨大な刃で切り裂かれ、血や内臓を撒き散らしながら息絶える。

 

「お、おぉぉ…!?」

 

「真っ二つだ…!」

 

「ひ、怯むな! 掛かれぇ!!」

 

『お、わぁぁぁぁ!!』

 

 一人目を無残に斬り殺せば、兵士たちはその無残な死体を見て怯み始めるが、隊長の一声で体勢を立て直し、数任せに雄叫びを上げながらシュンに斬り掛かってくる。

 

「同士討ちに注意せよ! 三名で同時攻撃だ!!」

 

 隊長の指示を的確に守り、三人同時攻撃でシュンに斬り掛かるも、あっさりと三名諸共惨殺され、一人目と同じ運命を辿る。続けて数名程が襲ってくるが、シュンが大剣を振るう度に、殺された三人と同様に肉塊にされる。

 

「な、なんて強さだ! 弓兵、射撃開始!!」

 

 数名の部下が惨殺されるのを見て恐怖した隊長は、近くの木造のバルコニーに配置していた四名の弓兵部隊に射撃を命じる。これに応じ、弓兵たちは射撃を行おうと、手に持っている矢が装填済みのボウガンを構え、シュンに向けて発射しようとする。

 

「おい、弓兵が発射するぞ!」

 

「た、退避だ、退避!!」

 

 巻き込まれるのを恐れてか、シュンに刀剣類を持つ兵士らは一斉に退避し始める。射線が確保されたことで、弓兵が一斉に矢を放ったが、この行動がシュンに弓兵の存在を知らせるようになり、スレイブの巨大な刃で防がれる。

 

「隙あり!」

 

 シュンが矢を防ぐ際に見せた隙を一人の兵士が見付け、ハルバートの槍で突き刺そうとするが、シュンの反応は異常なまでに早く、一振りでハルバートを切断され、二振りで頭の半分を斬られた。

 

「な、なんて奴だ!」

 

「なんであんな鉄塊を振り回せるんだ!?」

 

「こいつは俺が好きなようでな、片手剣みたいに軽くしてくれるんだよ」

 

 今まで片手剣のように大剣を扱う自分に対して見せる者達と同じ反応をする兵士たちに対し、何を思ったのか、自分がこのスレイブを持てば、軽くなることを告げる。それを聞いてか、周囲の兵士たちは同じ効果を持つ剣が自分達の陣営にあると知り、口々にシュンが魔法剣士ではないかと疑い始める。弓兵たちも、構えるのを止めてお互いの顔を見合う。

 

「こ、こいつ、魔法剣士か?」

 

「だったら魔法を使ってるはずだ。はったりじゃねぇのか?」

 

 自分を魔法が使えると疑い、警戒して誰も立ち向かわない兵士たちであるが、そんな彼らの元に、一番恐ろしい上司が訪れる。

 

「貴様らぁ! それでも鉄衛騎士団の騎士か!? 大剣を振り回すごろつき相手に情けない連中めぇ!!」

 

「こ、コドレアヌ隊長!」

 

「総員整列!! 鉄衛騎士団一番隊隊長、フシ・コドレアヌ様だ!!」

 

 フシ・コドレアヌと呼ばれるシュンより2cmは上の頑丈な鎧を全身に身に着けた大男が現れれば、兵士たちは各々の武器を胸の中心に構え、縦列隊形を取り、恐ろしい上司を迎える。兵士たちに迎え入れられながらコドレアヌは、シュンの姿を恐ろしい形相のバイザー越しから見て、大した人物でないと捉える。

 

「これが貴様ら三番隊を一人で圧倒した男かぁ? こんなごろつきに手こずるとは、貴様ら鍛錬不足だな! この男を我が大斧で叩き殺した後、鍛え直してやろう!」

 

 そう言いながら、コドレアヌはシュンを殺してから部下たちを鍛え直すと言い、目前の大剣を持つ男に自身の得物である大斧を向け、名乗るように大声で怒鳴る。

 

「貴様、その馬鹿デカい剣を振るう辺り、ただ者では無いな!? 名は何と申すのだ!?」

 

 図体に似合う声で名乗るように告げるコドレアヌであるが、シュンは答える義理も無く、早く終わらせるために挑発を仕掛ける。

 

「お前みてぇな馬鹿なおっさんに名乗る名なんてねぇよ」

 

「なんだと!? おのれぇ、この大熊を両断した我が大斧で叩き殺してくれるわ!!」

 

 案の定、直ぐにコドレアヌは挑発に乗ってくれたため、怒りを露わにして大斧で斬り掛かって来た。それに対しシュンは、相手の動きを見ながら何所から攻撃が来るか予想する。

 

「死ねぃ!!」

 

 勢いよく大斧を正面から振り下ろして来たので、シュンは相手を油断させようとして、防御が崩れて振りをし、弓兵等が居る木造バルコニーの近くまでワザと後退った。

 

「ふん、本当に大したことが無い奴だな!」

 

 そう自分がわざとよろけたのに気付かず、勝ったつもりでいるコドレアヌに対し、シュンは笑みを浮かべながらここまで来させてくれた礼を言う。

 

「ありがとよ、ここまで移動させてくれて」

 

「ん?」

 

 その意味を理解できてないコドレアヌに対し、シュンはバルコニーの柱に向けて大剣を振るった。それを上司より早く理解していた弓兵等は、直ぐに退避しようとしたが、間に合わず、柱を失って崩れ去るバルコニーと共に下へ落下する。落ちた弓兵に対し、シュンは背中に紐で付けているバトルライフルを空いている左手で取り、容赦なく弾丸を撃ち込んでとどめを刺す。

 

「ぬぉ!? 貴様ぁ!!」

 

 弓兵を殺されて怒りに燃えるコドレアヌは、相手が銃を持っているにも関わらずに突っ込む。それに対してシュンはバトルライフルの銃弾を三発、バースト射撃を行うが、彼が見に付けている鎧に弾かれるばかりであった。

 

「効かぬわぁ!!」

 

「わーてるよ、そんなこと」

 

 鎧で弾かれることが分かっていたシュンは即座にライフルを背中に戻し、大斧を今にも振り下ろさんと向かってくる敵に、大剣の柄を両手に持ち、相手が振り翳す瞬間を待つ。

 

「叩き殺してくれるわぁ!!」

 

「(今だ!)」

 

 相手が大斧を振り下ろした瞬間、シュンは大斧に向けて強い力を込めて振るった大剣を叩き込み、相手の武器を破壊した。振るう力が強かったのか、コドレアヌの不気味な兜も破壊する。

 

「ぐぇあ!?」

 

 破壊された大斧は破片を撒き散らし、その破片がコドレアヌの顔面に突き刺さる。幾つかの破片が顔面に突き刺さったコドレアヌは、激痛の余り、そこらでのた打ち回る。

 

「お、大熊も叩き殺す程の大斧を…」

 

「破壊しやがった…!?」

 

 大熊ですら叩き殺すことが出来る大斧を、大剣で破壊したがため、周りの兵士たちは恐れおののき始める。

 

「だ、だが、こっちの数が多い! 数で圧倒するんだ!!」

 

 これで戦意を挫くことに成功したが、敵の数は依然として多く、更に銃火器などを装備した歩兵部隊まで来ている。

 

「不利だな、こいつは」

 

 続々とやってくるルーマニアモデルのモシン・ナガンライフルやMP40短機関銃を持った将兵らを見て、シュンは数に押されて叩き殺されると認知し、脱出口を探そうとする。

 だが、脱出口は探す間もなく現れた。目の前に誰の自家製なのか、煙球が幾つか投げ込まれ、真っ白な煙で覆われて行く。

 

「え、煙幕!?」

 

「逃がすなぁ! 奴を撃ち殺せぇ!! ハチの巣にしろぉ!!」

 

 煙で周りが覆われて行く中、痛みの余りで怒りに燃えるコドレアヌの怒号が聞こえ、銃弾が飛んできたが、煙のおかげか見当違いな場所へ撃ち込んでいた。響き渡る銃声の中で、自分を呼ぶ声が聞こえて来る。

 

「こっちだ! 早くしろ! 煙が消える前に!!」

 

「誰だか知らねぇが、助かるぜ!」

 

 そう煙球を投げ込んでくれた人物の声に従い、シュンはその声が聞こえる方向へ逃げた。

 逃げた方向には棒きれのような義足を両脚に付けたボロを纏った男が居り、手には武器では無くバランスを支えるための杖が握られている。フードの下には、顔全体を覆うほどの包帯が巻かれている。酷い言い方だが、その下は醜いと言っても過言ではないだろう。

 

「あんたは…?」

 

「そんなことはこいつ等を撒いてからだ! ひっ!?」

 

 自分を助ける謎の男に問うシュンであるが、当の本人は逃げてからと告げてアジトらしき場所がある方向へ行こうとした。だが、何名かの敵兵の射程距離に居たらしく、銃弾が飛んでくる。

 

「伏せろ!」

 

 シュンはそう叫んで、大剣を鞘のラックに取り付け、バトルライフルを手に取って銃を撃ってくる敵兵等に向けて撃ち込んだ。引き金を一度退くと、三発の大口径のライフル弾がばら撒かれ、狙った敵兵に三発中、二発が命中して相手の命を奪う。

 

「ひっ!?」

 

 戦友が血飛沫を上げながら死んだのを見れば、小銃を持つ女兵士は慌てて遮蔽物へ身体を引っ込める。

 続けて短機関銃を持つ兵士が飛び出して撃とうとしてきたが、シュンは空かさず撃ち込み、自分にとって厄介な敵を排除する。

 

「さっさっと案内しろ!」

 

「あっ、あぁ! こっちだ!」

 

 続けて数名の敵兵を無力化すれば、助けてくれた男に早くアジトまで早く案内するよう怒鳴り付ける。それに応じてか、男は自分が先頭に立って、自身のアジトまで向かう。その後を、シュンはバトルライフルを手にしながらついて行く。

 

「こっちに居た!」

 

「うわっ!?」

 

「邪魔だ! 退いてろ!!」

 

 アジトまで続く路地裏を駆けまわる中、運悪く五名の小銃や短機関銃を持つ女兵士たちと遭遇する。今にも撃たれようとする銃口を前に怯える男を無理やり退かせ、シュンはバトルライフルを連射して一気に四名を片付ける。

 

「こ、この!」

 

「くそっ、弾切れか!?」

 

 しかし、MP40短機関銃を持つ敵兵を逃してしまう。直ぐに生き延びた兵士を片付けようと、バトルライフルを撃ち込もうとしたが、ここに来て弾切れだ。再装填をしている暇は無いだろう。

 

「だったらこいつだぁ!」

 

 そう判断したシュンは、大剣を即座に抜いて縦に刀身を振り下ろし、機関銃を撃とうとした女兵士を一刀両断にした。凄まじい音を立てて半分に両断された女兵士は、左右に倒れ込み、血と肉片を撒き散らした。

 

「ひ、ひぇ~」

 

「いつまでそうしてる。早くしろ。次はこうはいかねぇぞ」

 

「分かってる。分かってるとも!」

 

 それを見た男は呆然とするが、大剣を戻して銃の再装填を行っているシュンは、早く行くように急かす。それに応じてか、男は慌てて自分のアジトへ向かう足を速める。

 街中に響き渡る路地裏の中を、敵兵に遭遇せずにアジトへ向かう男の後に続くシュンであるが、通りに男が出ようとした時、戦車のエンジン音が耳に入り、片を掴んで止めた。

 

「何をする!?」

 

「お前、聞こえないのか? 戦車までうろついてやがる」

 

「っ…?」

 

 近くにある大きな箱らしき物に身を隠せれば、通りにパンター戦車G型が随伴歩兵を引き連れて通り過ぎるのが見えた。もし迂闊に飛び出して居れば、戦車の機銃で引き裂かれていたであろう。

 

「あ、ありがとう…」

 

「礼は良い、アジトは直ぐなのか?」

 

「あぁ、もう直ぐそこだ。あいつ等、全然目もくれちゃいねぇ」

 

 男の礼の後に問えば、アジトは直ぐそこだと知り、シュンはコートを羽織った随伴歩兵が通り過ぎるのを待つ。

 

「通り過ぎれば一気に駆け抜ける。あんたのその足じゃ、無理そうだしな」

 

「悪いな」

 

 通り過ぎるのを待つ間、シュンは男を抱えて駆け抜けると告げれば、男はそれを承諾する。

 随伴歩兵の最後の列が通り過ぎるのを確認すると、シュンはその男を抱えて一気にアジトまで走り抜ける。

 

「誰もついてきてないか?」

 

「あぁ、いねぇ」

 

「よし、入れ!」

 

 通りを走り抜け、アジトまで到着すれば、男は誰もついてきてないことをシュンに確認を取る。後ろを振り返って誰も居ないことを確認したシュンが告げれば、男は周りを気にしながら彼を自分のアジトへ招き入れた。

 

「よし、もう安全だ」

 

「で、なんで俺を助けた?」

 

 ドアを固く閉じれば、男は一息ついて何か飲もうとキッチンへ向かおうとしたが、壁にもたれ掛かっているシュンに助けた理由を問われ、足を止める。

 

「そりゃあ、あんたが領主様の公開処刑で啖呵を切ったからさ。あれには驚いたぜ、あんな行動を取る奴ぁ、余程の馬鹿か、頭のイカレタアホしか居ないからな。でも、俺ぁあんたならあの女を倒せると見込んでここまで連れ込んだわけさ」

 

 シュンを助けた理由を述べれば、男に次の問いを掛ける。

 

「お前、都市同盟とか言う連中の手先か?」

 

「都市同盟? 馬鹿言え、あんな連邦や同盟の傀儡共なんかと一緒にしないでくれ。第一、ブラン城周辺に奴らの拠点なんか一つも存在しねぇし、あいつ等は連中から貰ったおもちゃを持って盗賊行為しかできねぇクソ共だ。昔は期待してたが、どいつもこいつもあんたみてぇな戦士なんぞ一人も居ねぇ、だからここに戻ったってことさ」

 

「待ってたのか。俺みてぇな馬鹿が来ることを」

 

「あぁ、そうさ」

 

 男は毛嫌いする都市同盟の一員で無い事を示した後、シュンが自分のような命知らずが来ることを問えば、満面な笑みでそれに答える。

 

「で、俺みてぇな馬鹿が来ることを期待して待ってたんだろ? あのアマが居る城まで一気に行ける方法とかあるんだろな?」

 

「あぁ、あるぜ。ずっと用意して待ってたんだ。四年間もな」

 

 シュンの期待通りに応えれば、男は彼が来ることを四年間も待っていたことも告げた。

 

「さぁ、ここじゃあ窓から誰かが覗き込んでるかもしれねぇ。詳しい事は地下でしよう。ここらの連中は、不穏分子と分かれば自分の命欲しさに通報する連中だからな。こっちだ」

 

 周りに感づかれて通報されてしまうかもしれないと判断すれば、男は松明を握り、本棚の中にある一冊を引けば、本棚がまるでドアのように開き、そこから隠し扉が現れる。そこが地下へ続く出入り口となっていた。男はその扉を開き、シュンを地下へと案内した。ちゃんと戸締りをすれば、松明に火を点けて地下へ続く階段を下る。

 下っている間、少しでもこの惑星がどのような状況であるかを伝えたいがためか、相手が聞くよりも先に語り始める。

 

「あんたに取ってはどうでも良いことかもしれんが、この星がなんでこうなっちまったかを話してやろう。元々この星は中世的な暮らしが伝統的だったんだが、今のようにあんなには酷くなかったんだ。あれ程酷くなったのは、確か五年くらい前だ」

 

 シュンが聞かずに自分の後をついてくるのを確認しながら、ワラキアが何故、おぞましい状況になった理由を語る。

 

「あんたも知ってそうだが、百合帝国の残党からこの惑星を分捕ってから数百年間、この星に住まわされた一部の連中を除いて中世みたいな生活を法律で定められたんだ。領主はそれ以降、ずっとシルヴァニア家だが、今から五年前に、ここは死神ですら逃げ去っちまうほどヤバい状況になったんだ」

 

 階段を下りながら、男は更に語る。

 今より五年前、惑星ワラキアの領主であるシルヴァニア家に取って悲惨な事件が起きた。

 当時の領主の長男、あのイオアン・シルヴァニアの妻子が、夫が他の世界の前線に居る間に、この惑星に潜む反政府組織である都市同盟に掴まり、数カ月もの間に監禁された。

 ただ人質にするためならいい。だが、彼の妻子は構成員らの恵み物とされ、目を覆うほどの屈辱を受け、父であるイオアンに解放されるまで醜い性欲を発散させる道具として送る。

 娘であるジルは無理に犯され続けたがために病で亡くなり、妻であるローゼは精神を病み、後を追うかのように自殺した。

 これ以降、イオアンは連邦や同盟が持つ高度な文明に異常なまでの嫌悪を抱くようになり、最前線に派遣されれば、勝利の際に得た双方の捕虜を階級も構わず虐殺するようになり、性格も偉大で有望なる戦闘指揮官から、か弱き者達ですら平然と殺す冷徹で残虐な指揮官となる。

 敵の文明を手にしようなら、部下ですら処刑する程、双方の高度な文明を憎んでいたようだ。更に自分の部下だけでは飽き足らず、傘下ではない部隊や逃げた敗残兵を受け入れた集落にも及び、ワルキューレの上層部が危険視するほどの人物であると男は語る。

 情報部が自分等にイオアンを始末させたのは、これ以上の暴走行為と、敵対行動を取るのを止めるための物であろう。

 

「なるほど、だから情報部の連中は、イオアンを俺たちに始末させたってわけか」

 

「お、お前…! イオアン様を殺したって言うのか…!?」

 

 イオアンを自分達に始末させたのは情報部だと分かったシュンが呟けば、男は未だに知らされていないイオアンの死に、驚きの声を上げて足を止めて問い詰めて来る。

 

「あぁ、俺が殺したよ。あいつが憎む連邦のクソ共の一緒にな」

 

「ほ、本当か…!? それなら、あの女にも勝てるぞ…!!」

 

 シュンが連邦の海兵隊と共にイオアンを討伐したことを告げれば、男は確実にショアラに勝てると舞い上がる。

 それから少し落ち着き、イオアンが変わり果ててしまったことは仕方が無い事を察していたことも話す。

 

「死んじまったイオアン様が変わられたのは分かる。俺も都市同盟の奴らを憎んださ。あんなに美しい妻と娘を恵み物にしやがったからな、奴らが潜む都市に毒ガスをばら撒いたくなるほど腸が煮えくり返ったよ。だが、あの女もそれと同じように変わった…」

 

 彼の妻子を恵み物にした都市同盟を共に憎んでいたことを語った後、なぜショアラが変わってしまったことを語り始める。

 

「最初はイオアン様の妻子、ローゼ様やジル様の弔いと思い、あの女の指示に従い、捕らえた都市同盟の連中のクソ共を様々な拷問や人体実験に掛けたさ。都市同盟の構成員は女子供だっていたが、関係ねぇ、怒り任せにやったもんよ。当然の報いだぜ。だがな、ショアラ様はそれを楽しんでいるかのように見えた…あの女も夫がそいつ等に殺されたと聞いて復讐のつもりでやってたと思っていたが、死んでから数日後に訪れたあいつ等が渡した強化剤の所為だろうな…」

 

 当初はイオアンの妻子と、その数日後に都市同盟に暗殺されたとされるショアラの夫の弔い戦と思って残忍な拷問や人体実験に参加していたと語る。だが、領主である彼女の顔付きが、まるで人が苦しむ姿を楽しむサディストと見えた。

 その原因が、ネオ・ムガルの構成員がもたらした強化剤であると語る。

 それを聞いてか、シュンが話の間に割って入ってくる。

 

「おい、そのネオ・ムガルのクソは、公開処刑で首を落とされたカスか?」

 

「いや、あいつは腰巾着の方だ。直接あの女に強化剤を渡したのは、一目見たら忘れられない目付きのヤバい男だ。それとその助手みたいな以下にもマッドな白髪の白衣の男がイオアンに渡していた。まぁ、俺が実験に参加して半年ほど経てば、二人とも来なくなり、代わりにあの腰巾着が定期的に来ていたようだがな。多分、用済みになったんだろうな」

 

 公開処刑されたのは、二人の科学者の腰巾着の男であると答えれば、既に地下室へとついた後だった。地下室は何かの不気味なような物が保管された瓶を並べている棚が幾つもあり、シュンは顔をしかめる。奥には、ブラン城の見取り図らしき物が敷かれた大きなテーブルが見える。

 

「さぁ、ここが秘密の作戦室だ」

 

「不気味な作戦室だ。お前の趣味か、これ」

 

「俺も医者の端くれでな、ついつい集めたくなるのさ。それとなんで生き残れたか、こいつを見ればわかるだろう」

 

 男は瓶の中に詰め込まれている奇妙な物体を見ながら問い掛けて来るシュンに対し、医者の端くれであると答えれば、自分がどのようにしてブラン城から生きて出て来た理由を分からせるため、フードを取り、包帯まみれの顔を露わにすれば、顔全体を覆うほどの包帯を解き始める。

 

「っ!?」

 

「これが答えさ…あの女は、復讐が目的じゃねぇ。相手を苦しむさまを見て殺しを楽しんでやがるんだよ。死刑囚に都市同盟や侵略軍の捕虜なんかに留まらず、領民にまで及んだ…もう弄んで殺すのは、誰だってよかったのさ。あの女にとってわな。それに嫌気がさして、妻子を連れだそうとした結果がこれだ…!」

 

 その包帯の下にあったのは、シュンが予想した通りの恐ろしく醜く、まるで顔面を何かに食い千切られ、皮を剥がれたかのような男の顔であった。包帯で隠している顔を露わにした男は、怒りを露わにして生き残ってショアラに対して復讐を計画した理由を述べる。

 

「あの女は、俺の目の前で女房と息子を生きたまま手足を引き千切り、その苦しむさまを見て楽しんでいやがった…! 二人が死んだ後もそうだ! 人形みたいに女房の目玉を引き抜き、あまつさえ俺に食わせやがった!! 内臓も食わされたんだぞ!! 息子はまるでオモチャみたいに分解され、それを並べて俺に見せて綺麗に並んでるでしょなんてほざきやがる!! 許せるわけがねぇ…例え神様が許せって言っても、俺は絶対にあの女を許しはしねぇ!!」

 

 怒鳴り散らしながらショアラに復讐する理由が、自分の妻子を自分が見ている目の前で弄んで殺したことであると告げれば、どのようにして自分が生き残ったかを語る。

 

「俺も無傷で済まねぇ、逃げられないように、麻酔も無しに両脚を切断され、さらに顔面の半分の皮を生きたまま剥された…今でも生きているのが不思議なくらいだ…俺は隠し持っていた薬で死を装い、命からがらあの魔城を抜けた訳さ…」

 

 生き残った理由を語れば、次はワラキアで活発的に串刺しが行われたかを語り始める。

 

「さて、あの女が串刺し刑にこだわる理由でも話してやろう。暇ならそこの茶を飲みながら聞いてくれ」

 

 茶が入ったやかんを指差しながら告げた後、シュンがやかんに入ってある茶をカップに注ぎ込んだのを確認すれば、ショアラが串刺し刑に固執する理由を語り始める。

 

 串刺し刑は、元々重罪を犯した囚人や虐殺行為を犯した侵攻部隊の捕虜や自軍兵士に対して行われていた重い死刑方法であったが、五年前ほどから活発に行われ、捕虜のみならず、不穏分子にも至り、各地で串刺し刑に処された遺体が、朽ち果てて塵になるのを棒に串刺しにされながら待っている。

 このためか、それが惑星ワラキアの日常風景となり、人々は領主の恐怖政治に怯える日々を送る。そこに配属された将兵も同様であり、惑星唯一の宇宙港があるバカウ市にも及び、ショアラに怯える日々を、市民と共に怯える日々を送っていた。

 幾度か侵攻軍がワラキアに眠る資源を求めて侵攻してきたが、その度に大損害を被って敗退を繰り返している。これは、ワラキア防衛軍の指揮官の手腕の良さであるが、五年前を境に防衛の指揮権が領主であるショアラにゆだねられると、侵略者はみな串刺しにされ、野原に晒された。

 この行為は侵略者たちに対する警告と高度な文明を持ち込むなと言う意味であるが、逆に敵のプロパガンダに使われ、ワルキューレが以下に残忍で極悪な軍隊であると言う認知を広めてしまっている。

 

 それと高度な文明を嫌い、制定されてから続く中世的文化に拘る理由は、肉体的にも精神的に強く育ち、命の尊さを知る者達を、高い科学力で命の尊さが薄れた集団から守るためであると語る。

 自分も医学に発展した惑星に住んでいたが、喧し過ぎる社会にうんざりして、数十年前に妻子と共にワラキアに移民したことを男はシュンに打ち明けた。あの日までは何事も無く暮らしていたが、嫌気がさして逃げ出し、妻子を死なせてしまって後悔したことも打ち明ける。

 この星には、他の惑星から自分と同じく高度な文明に疲れ切った者達が、ビルも便利な機械も無いこの惑星にたまに移民してくると言う。中には来たことを後悔して、帰ってしまう者達も居るとか。

 

「これがワラキアの事情だ。前は串刺し刑も無くして平和で自然豊かな惑星にするって話が出たが、あの女が領主に就任してからパーになっちまったよ」

 

「そうかい」

 

 前はワラキア独自の処刑方である串刺し刑も廃止し、平和な惑星を強調することにする法案があったが、新しい領主としてショアラが就任してからより一層に過激になったことを告げた。

 

「さて、飽きてきたことだろうし、作戦会議でも始めるか」

 

 先ほどから無言のシュンが、長話に飽きて来たことを察し、男はフードを被ってブラン城の見取り図が敷かれたテーブルへと移動した。

 

 

 

 一方、シュンがショアラにネオ・ムガルの事を問い詰める事と、助けた男の復讐を兼ねてブラン城へ侵入する手はずを整えている頃、医務室にて、彼に重傷を負わされたコドレアヌは復讐に燃え、怒りと痛みで手術台の上で暴れ回っていた。

 

「うぅ! あの男、絶対に殺してやるぅ! 殺すぅ! 今すぐ殺してやるぅ! ううぅ!!」

 

「抑えろ!」

 

「コドレアヌ様、落ち着いてください! これでは治療が!!」

 

 部下たちも混じり、暴れ回るコドレアヌを抑え付けようとするが、暴れ回る大男を抑え付けるのは至難の業だ。何名かが吹き飛ばされ、負傷者を増やしてしまっている。

 

「鎮痛剤も麻酔も多めに打ち込め! そいつはそれだけしないと収まらんぞ!!」

 

 鉄衛騎士団の団長なのか、麻酔薬や鎮痛剤が入っている注射を持つ医師らに、もっとそれらを打ち込むように指示を出す。

 確かにこれ程の体格の男には、成人男性で投与される量では足りないだろう。

 

「憎い! あいつが憎い!! 今すぐにも殺してやりたい!!」

 

「手に負えられません! 麻酔弾の使用をお願いします!!」

 

 暴れ回る大男が抑えられないのか、医師が騎士団長に像などを眠らせる程の麻酔弾の使用を許可する。それを承諾しようとしたが、危険な場所となっている医務室に、領主であるショアラが訪ねて来る。危険な場所に領主を入れるのは危険であり、直ぐに立ち去って貰おうと、騎士団長が対応する。

 

「領主様! ここは危険です! 今近付けば奴に!!」

 

「その必要はありませんわ。貴方たちが部屋を後にしなさい」

 

 何を言っているのか、彼女は自分等が出て行くように命じた。

 

「いえ、しかし…」

 

「早く出て行きなさい。この程度の私の命令、絶対でしてよ」

 

 これに領主の身を守るべく、断固反対する騎士団長であるが、ショアラの口調から何か危険な予感を察知したため、団長は部下たちと共に医務室を後にしようとする。

 

「わ、分かりました。お気を付けてください、今の奴は貴方にも手を挙げる事でしょう。お前たち、領主様とコドレアヌだけにしろ!」

 

「え、ですが…」

 

「馬鹿者! 領主様の命令が聞けんのか! 早くしろ!!」

 

 怒鳴り声で部下たちが応じれば、医務室はショアラとコドレアヌだけとなる。

 

「う、うぅ! 憎い!! 奴が憎い!!」

 

「それほどあの大剣の男が憎いのですか?」

 

 手術台の上で拘束され、痛みと憎しみで暴れ回るコドレアヌに、ショアラは怖がること無くシュンの事が憎いかどうかを問い始める。

 

「憎い! 憎い!! 奴を殺せるなら、なんだってやってやる!!」

 

 復讐のためなら、なんだってやる。

 そんな答えを聞き、ショアラは不気味な笑みを浮かべ、ある物を懐から取り出した。

 

「良い答えですわ。さっ、なんでもすると仰いましたわね? これをお飲みになりましてよ」

 

 ショアラが出したのは、何かのカプセル型の錠剤だ。それをコドレアヌの口の中に落とせば、彼は凄まじい叫び声を上げながら全身を痙攣させた。

 

「うっ!? うぅぅ! グゲェアァァァ!!」

 

 何らかの副作用を受けたコドレアヌは暫く痙攣した後、まるで死んだかのように動かなくなった。

 

「ふむ、成功ね」

 

 これが成功の印なのか、ショアラが満足げに言えば、コドレアヌの手足を拘束している縄を外し、彼を自由の身にした。

 それからコドレアヌは無感情で無表情のまま立ち上がり、医務室の出入り口へ向かう領主である彼女を後に続く。

 

「あっ、領主様! ご無事であられましたか!?」

 

 主の無事を団長が安心すれば、ショアラはコドレアヌをどう対処したのか告げる。

 

「えぇ、私が特別な薬を処方すれば、この者は落ち着きましたわ」

 

「は、はぁ。まるで別人のようですな…」

 

 人が変わったようにコドレアヌが大人しくなって領主に従順となった為、団長はかつての部下の姿を見ながら呆気にとられる。

 そんな自分の身を守る騎士団の団長の心中を察せず、ショアラはシュンを見付けることが出来たのかを問う。

 

「それで、例の大剣の男は見つけ出すことは出来たのかしら?」

 

「はい。その件に関しては、ドローンを飛ばして見付けました!」

 

「ドローン…?」

 

 ドローンを飛ばしてシュンと逃亡に協力した男の潜伏先を見付けたと迷彩服を着た将校が報告すれば、自分が嫌う高度な文明であるドローンで見付けたと聞き、ショアラは額に眉を寄せる。その表情を見た将校は、額に汗を浸らせながら、少し謝ってから続ける。

 

「失礼しました。潜伏先が判明したので、独立都市であるバカウ市より呼び寄せた対テロ部隊に排除させようかと思いますが…」

 

「その必要はありません、あの男相手に贅沢な装備の兵士数名を失うのはこちらが大損ですわ。相手はこの大男一人で十分ですわ」

 

「ですが…騎士一人でどうこう出来る相手では…」

 

「くどいですね、良いから命令通りにしなさい」

 

「分かりました。念のため、何名か予備の兵員を送ってください」

 

 もっともな意見を領主に述べる将校であるが、彼女は自分の命令が聞けないのかと同等な言葉を掛けた為、将校は折れて命令に応じた。

 

 

 

 ドローンに上空から追跡されて潜伏先を割られたとは知らず、シュンは男より一気にブラン城の本丸へ行けるルートの説明を受けていた。

 

「本丸へ行けるルートがある、城の極わずかな人間しか知らない脱出路だ。このルートを行けば、こそこそして潜入ルートを見付けるより、本丸に行ける。だが、問題がある」

 

 秘密の脱出路を通れば、潜入ルートを見付けるよりも早く本丸へ行けると告げる男だが、ある問題点を告げる。それは脱出路のドアを開ける鍵の事だ。一部の者にしか知らされていないため、持っている者も極わずかだ。

 

「鍵が必要だ。俺も持っていたんだが、こうなっちまった後から取り上げられちまってな。あの扉は内側から開けることは出来るんだが、死を装ってあの城から出た際に、生きていることを悟られないため、閉めちまったんだ。クソッ、鍵の形をちゃんと覚えていれば…!」

 

 鍵の形を覚えていれば、ショアラの暗殺を成功させることは出来たのにと悔しがる男であったが、鍵と聞いてシュンは、イオアンが死ぬ間際に渡した鍵を取り出し、それを男に見せる。

 

「これのことか?」

 

「あぁ、それだ! 本当にイオアン様をやっちまったようだな! その鍵さえあれば、本丸へ行けるぞ!! 四年間もこうして鼠のように逃げ回ってた甲斐があるもんだ!!」

 

 シュンが見せた鍵を見て、男は四年も待っていたことも無駄では無かったと歓喜し、彼の手を取りながら、醜くなった顔で必ずショアラを殺してくれるよう祈願する。

 

「頼むぞ…! 必ずあの女を、家族の仇を取ってくれ…! 俺が万全な状態なら、自分で出来るが、こんな形だ…! 足手まといにしかならねぇ! 後は頼んだぜ…!!」

 

「うるせぇ!」

 

 そう必死の思いで祈願してくる男に対し、シュンは何らかの嫌悪感を覚えたのか、彼を突き飛ばした。

 

「あんたのためにあの婆を()りに行くんじゃねぇ! 俺は俺のために行くんだよ! テメェの復讐を勝手に押し付けてんじゃねぇ! このゲテモノ野郎が!」

 

 そう突き飛ばして罵倒してくるシュンに対し、男はなんの反論もせず、ただ杖を使って何とかして立ち上がる。

 

「へっ、良いさ。こんな形の奴にせがまれれば、誰だって気味が悪いさ。それに勝手に人に復讐を押し付ける自分勝手な奴さ…だが、あの女を殺してもらえるなら、どんな奴だって良い…どうせ俺には何も残ってないんだ…」

 

 男は俯きながら自分の勝手さと外見の醜さを恥じた後、シュンは罪悪感が無かったかのように、続けて罵声染みた言葉を浴びせる。

 

「へっ、自分の不甲斐無さを弁えてるならそんで良いさ。あの婆よりあんたの方が、よっぽど化け物だぜ」

 

「何を言われても良いさ…殺してくれるならどうでも良い…それと報酬だったな、あんたの役に立つかもしれねぇ。領主からくすねたもんだ」

 

 何を言われようとも、男は言い返す言葉も無く、ただ憎き領主を殺してくれるシュンに感謝の意を表するばかりであった。それと復讐の報酬を渡し忘れていたことを思い出したのか、城から脱出する際、領主より盗んだ物をシュンに渡した。

 

「なんだこりゃあ?」

 

「何か分からねぇ。だが、あの領主が大切にしてたもんだ。何かの役に立つかと思うが…」

 

 渡された報酬は卵のような形をしており、上には首掛けるための紐が付いていた。

 ショアラが大切にしていたので、余程大事な物だと男は思うが、その正体を考察している最中に、地上からまるで家が取り壊されているような木を砕く音が響いてくる。

 

「な、なんだ!?」

 

「どうやら追跡されていたらしいな…!」

 

「まさかドローンに!? あの女がそんな高度な技術を使う訳が無い筈だぞ!?」

 

「何が何でも、俺をぶっ殺したいようだな。あの婆は」

 

 この音を、敵襲であると察知したシュンは、背中のスレイブを抜いて臨戦態勢を取った。

 男は高度な文明の産物であるドローンを使うはずが無いと断言するが、シュンはそれを否定して木やレンガを破壊しながら地下へ降りて来る敵に警戒する。

 

「おいでなすった…!」

 

 出入り口のドアを破壊しながら出て来たのは、先ほどの戦いで打ち倒した筈のコドレアヌであった。屈辱的に倒した敵が早々と復活してきたので、シュンは自分に対する復讐として来たと思い、大剣を構える。

 

「へっ、こいつも復讐か…!」

 

「見付ケタ…! 殺ス、絶対ニ殺シテヤルゥ!!」

 

「あの婆に何か飲まされたようだな。良いぜ、付き合ってやるよ!」

 

 自分の得物である大斧の柄を両手に握り、怒りに混じった表情で人とは思えない声色で叫び、襲い掛かるコドレアヌに対し、シュンは振り翳してくる斧に備えた。

 凄まじい勢いで振り下ろされる瞬間に、シュンは弾こうとしたが、相手が予想外にも程があるほどの力であり、防御の姿勢を取ってしまう。

 

「(くっ!? こいつ、力が何倍も強くなってやがる!)」

 

 前よりは違って余りにも強い力であるため、連続で人間離れしたスピードで振るわれる斧に対して、防戦一方となる。凄まじい音を立てて火花が飛び散る中、シュンは斧を持つコドレアヌの腕がから、血が噴き出しているのを見た。

 

「怒りが身体についてきてねぇようだな…!」

 

 相手の身体全体から噴き出る血で、シュンは長くは続かないと認知し、腕が耐えきれなくなって引き千切れるのを待つ。

 

「グギィ!?」

 

「今だ…!」

 

 一発一発が重たい凄まじい連続攻撃を耐えていれば、コドレアヌの両腕は耐え切れなくなって引き千切れた。その際に出来た隙を逃さず、シュンは大剣を胴体に向けて叩き込む。

 力を込めて叩き斬ったためか、コドレアヌの胴体が斬れ、床の上に倒れ込んだ。それからまだ立っている下半身の切り口から勢いよく血が噴き出し、天井を真っ赤に染める。

 

「やっ、やった…!」

 

「いや、まだだ…!」

 

 胴体が斬れて相手が死んだため、男は勝ったと思ったが、シュンは確かな手応えを感じなかったため、再び大剣を構えて警戒する。

 彼が言った通り、胴体を斬られて死体となったはずのコドレアヌの身体は再び動き、斬られた個所から奇妙なゼリー状の液体のような物が溢れ出し、それを引き千切れた両腕と胴体を再び繋ぎ合わせようとしていた。その際に、コドレアヌの怒りの声が微かに聞こえて来る。

 

「殺ス…絶対ニ殺スゥ…! ヤツヲコロサナイト…!」

 

「ちっ! いってぇ何のヤクを飲まされたのかが知らねぇが、テメェみてぇに完全な化け物になっちまったクソにいつまでもかまってられねぇんだ! いい加減に、地獄へ行きなぁ!!」

 

 いつまでもこんな相手に時間を割いている訳にはいかない。

 そう思ったシュンは、大剣の巨大な刃を再生途中のコドレアヌの身体に叩き込み、ケリを付けようとしたが、大斧に防がれてしまう。

 

「クソッタレが! 怨念でまだやるつもりか!!」

 

「コロスゥ…! ゼッタイニィ! ゼッタイニィィィ!!」

 

 怨念混じった声を発しながら、コドレアヌは憎い相手であるシュンに向け、再び重い連続攻撃を仕掛ける。今度はまるで機関銃のような速さであり、通常の人間では細切れにされてしまうだろう。だが、シュンは…。

 

「ぜ、全部受けきってやがる…!? あ、あの機関銃のような連続攻撃を…!!」

 

 男が目の前でその機関銃のような連続攻撃を全て受け止めるシュンを見て、驚きの声を上げる。シュンより10cm以上はある大男ですら、その速さに耐え切れなかったのに対し、彼の肉体は速さについて来ているようで、受けきって反撃の隙を伺っていた。

 

「(斧は普通のようだな。ここからが本番だ)」

 

 コドレアヌが持つ大斧は連続攻撃に耐え切れず、刃にヒビが入っており、シュンはこれを見逃さず、相手の武器が壊れるまで連続攻撃を受け止め続ける。

 やがて斧が耐えきれなくなり、刃が砕け散ると、シュンは凄まじい力を込め、大剣の刃を振るって再び胴体を切り裂いた。

 

「オラァァァ!!」

 

 そこから叫び声を上げながら、相手が再生できないくらいに細切れになるまで大剣を振るい続ける。出血量は生きている頃より少ないが、血は部屋全体に撒き散らされる。

やがて、肉や鉄を斬る音が聞こえなく頃になる頃には、あの大男の肉体は鎧と混じって細切れの肉塊となっていた。

 

「やっとくたばったか…!」

 

 シュンは無傷のように見えるが、少し無茶をし過ぎたのか、大剣を持つ腕から血が噴き出ていた。大剣の刃に付いてある血を振り落とせば、鞘のラックに取り付ける。

 

「や、やりやがった…! あんた、マジで何者だ…!?」

 

 あの並の人間では勝つことが出来ない化け物を、余りダメージを負わずに倒したシュンに対し、コドレアヌは驚きの声を上げながら、シュンが何者であるかと問い掛けて来る。

 

「あんたと同じ、適いそうもねぇ連中相手に復讐しようって言う馬鹿の一人さ」

 

 男の問いに対してシュンはそう返せば、今は細切れの肉塊となっているコドレアヌが入って来た出入り口からブラン城の秘密の脱出路を目指そうとする。だが、男は追手がコドレアヌだけとは限らないので、シュンを呼び止める。

 

「ま、待て! 追手が先ほどあんたがバラバラにした奴とは限らねぇ! ここにはもしもの時に用意した脱出路がある! そこを通って行くんだ!!」

 

 緊急時の脱出路があると聞き、シュンはそれに反応して男が案内した場所へ向かう。

 

「ここだ! ここを通れば、人気の無い場所へ出られる!」

 

「あんたはどうする気だ?」

 

 脱出路があるドアを開ける男に対し、シュンは自分を脱出させてからどうするのかを彼に問う。

 

「俺が来たって、足手まといになるだけさ…こいつで突入してくる連中の足止めをする。後の事は、頼んだぜ?」

 

 自分では足手まといになると思った男は、四年の間に集めたであろう連邦軍や同盟軍の起爆式の爆弾を見せびらかし、シュンが入った脱出路のドアを閉じた。

 

「へっ、言われなくてもやってやるさ」

 

 それに応えるようにシュンは前を向き、外へ続く先へと進んだ。

 中間辺りまで来れば、背後の方から爆発音が聞こえた。どうやら突入してきた後続を巻き込んで自爆したようだ。その爆発音に反応して背後を振り返ったシュンは、無表情ながらも申し訳ない気持ちを浮かべ、再び前を向いて外を目指した。

 

 

 

「報告いたします! 例の男を見付けましたが、先に突入したコドレアヌ様は既に肉塊となっており、二度の突入を行った突入部隊は、協力者の男の自爆に巻き込まれ、壊滅状態です!」

 

「ご苦労、下がりなさい」

 

 シュンが脱出路を通ってアジトを脱出している頃には、報告は既に領主であるショアラにもたらされていた。報告を聞いたショアラは、伝令に下がるように命じ、領主の間に誰も居なくなり、一人になれば、自分を殺しに来る侵入者対策は万全に出来ていると、独り言で呟く。

 

「例え、この城に乗り込んでも、対策は出来てましてよ」

 

 彼女の言う通り、自分を殺しに侵入してくるシュンに対しての対策は出来ていた。

 その証拠に、上階にある領主の間に行く際に必ず通らなければならない通過点には、椅子に座って侵入者を待つ金髪碧眼の女の姿があった。女はテーブルの上に置いてある洋菓子を口にし、いずれ来るとされる侵入者を退屈そうに待ち、背中にはバスタードソードと同じ形状の両手剣が収まっている鞘を背負っている。

 

「まだかな…?」

 

 そうスプーンで取ったイチゴを口に含みながら呟く女は、呟いた後にイチゴを噛み砕いて果汁を口全体に広がらせた。

 そのイチゴを口に含んで果肉を噛み千切る女の正体は、ワラキアの宙域で連邦艦隊を一人で混乱状態に陥らせたマリ・ヴァセレート本人であった。

 何故、彼女がワラキアの領主に協力している理由は、ルリ関連の事であろう。

 口の中のイチゴの果肉を全て噛み砕き、それを呑み込めば、今度はケーキのスポンジをスプーンで救い、口に含んだ。




ガッツさん2m行ってますけど、シュンは変わりないんでよろしこ。

次で串刺し世界編が終わる予定です、はい。

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