復讐異世界旅行記   作:ダス・ライヒ

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今回はチーフ戦。

やはり戦闘描写はたやすいことではない…


串刺し世界Pat3

「まるで博物館のようだな…」

 

「あぁ、趣味の悪い物だがな」

 

 シュンが村を蹂躙した連邦軍の敗残兵部隊を一人で殲滅して数時間後、壊滅した侵攻部隊の生存者を探しているマスターチーフが属するアルファ分隊は、今まで惑星ワラキアに侵攻してきた自軍も含める敵勢力である同盟軍の将兵と兵器群が串刺しにされて立っている地域へと来ていた。

 この異常な光景を見た海兵隊員たちは、不快な表情を浮かべながら冗談を交わす。

 惑星侵攻は数年前から行われているようで、白骨化した死体が幾つか見られ、錆び付いている兵器も見られる。

 人型や動物型も含める機動兵器は、巨大な杭で串刺しにされている。陸上兵器や海上兵器、航空兵器すら串刺しにされ、野原に晒されている。

 その中には、UNSCの将兵らが良く知る敵であるコヴナント軍の将兵や兵器も含まれ、これを見た彼らは舌を巻いた。

 

「さしずめ、ここら辺は侵略者たちの串刺し死体を飾る地域だろうな。これを考えた奴は、相当イカれてる」

 

 周囲警戒しながら軽機関銃を持つ海兵隊員は、この地域に侵略者たちの将兵や兵器を串刺しにして飾ることを考えた者を異常な思考の人間と決め付ける。

 

「無駄口を叩くな。喋っていれば、敵の狙撃兵に見付かってその頭を吹きとばされるぞ」

 

 そんな部下たちに対し、中尉は静かに叱って彼らを黙らせた。

 マスターチーフに関しては、黙ったまま周囲を警戒しながら進んでいる。

 暫くこの不気味な平原を進んで行く中、歩きながら生存者を探すのは面倒だと判断した伍長階級の海兵隊員は、前方で地図を見ながら歩く中尉に車両をなぜ使わないのかを問うた。

 

「中尉殿、なぜワートホグを使わないので? それに探査範囲が広すぎます。軽装甲車両でも使わない限り、小隊単位でこれ程の探査は苦難ですよ」

 

「馬鹿者、降下前に聞いていなかったのか? 車両を使えばそれほど敵に見付かる可能性が高い。それにこの惑星には余り我々のような四駆は、敵軍以外に走っていない。分かったら脚を動かし、その口も閉じろ」

 

「イエッサー! 任務が終わり次第、戦術教本を読み直します!」

 

「そうだ伍長。何事も学べ」

 

 惑星ワラキアでは、民間の自動車はほぼ走っていない。それを考慮してか、海兵隊は探索に車両を投入しなかった。もし、探索に車両を投入していれば、交戦が多くなり、最悪の場合、惑星に降下した海兵隊員が全滅する恐れがある。

 それを理解した伍長は、中尉に謝罪してから任務を終えれば、戦術教本を読み直すことを約束する。

 

「さて、気味の悪い平原は抜けた。今度は森か…串刺し死体は無いだろうな?」

 

 数十分後に串刺し死体で飾られた平原を抜ければ、アルファ分隊は森の出入り口まで辿り着く。

 しかし油断は出来ない。こんな中世的な世界で、おまけに至る所で串刺しにされた死体が幾つもある。森に入っても、何らかの物が待ち構えているかもしれない。そう皆は警戒しつつ、彼らは森の中へと入る。

 

「狙撃兵に注意しろ。こんな森の中だ、何処かに潜んでいるかもしれない」

 

 森へと入った後、中尉は部下たちに狙撃兵に対して細心の注意を払うように告げた。

 それを聞いてか、彼らは額に汗を浸らせ、周囲警戒を行いながら森の中を進む。

 無論の事、街道は避けている。街道に沿って進めば、確実に頭を吹きとばされることは確実であるからだ。それに海兵隊員たちが着ている戦闘服は、森林戦闘用の迷彩服だ。わざわざ街道の上を歩いて的になる必要はない。

 

「美しい景色だ…ヴェクタ以上だな」

 

「これが任務じゃなきゃ、立派な観光になるのにな」

 

 彼らの言う通り、真に森林は美しい物であった。

 だが、森には恐ろしい物がある。それが理解できている海兵隊員たちは、森の中を警戒しながら進んだ。

 

「っ!?」

 

『前方に人影、街道を進んでいる』

 

 暫く森の中を進んでいると、前衛を務める背中に散弾銃を背負ったアジア系の海兵隊員が、停止命令であるハンドサインである左拳を上げてから身を屈んだ。それから自分が見た物を中尉に無線で報告し、それが来る場所に銃口を向ける。他の海兵隊員らも同様に周囲に目を配り、互いに戦友達の死角を守る。マスターチーフは自分がこの中で一番防御力が高いのを知って、街道の中央に出て人影が来る方向に銃を向ける。

 その数秒後、人影の正体が、アルファ分隊が良く見える方向に姿を現す。

 

「あ、あれは…!?」

 

『大剣を持った大男です! 腰には…男の首がぶら下がっています!』

 

 人影の正体は、今から数時間前に村を蹂躙していた連邦軍の敗残兵たちを殲滅したシュンであった。その証拠に全身が返り血で赤く染まっており、手には盛田式アサルトライフルが握られ、戦利品であろう大型の背嚢が見える。幾つか傷が見られるが、全く致命傷になっていない。

 彼の姿を見たチーフは、ようやく堅い口を開いた。

 

「あいつはただ者じゃないな」

 

 そう呟いたチーフは、手にしている突撃銃の安全装置を外し、向かってくるシュンに構えた。

 

 

 

「あっ? また連邦の敗残兵共か?」

 

 マスターチーフを加えたアルファ分隊と遭遇したシュンは、攻撃されると見越してマントと背中の背嚢を地面に置き、持っている盛田式アサルトライフルの安全装置を外し、自分に銃を向ける海兵隊員たちに構える。

 この時にシュンは、連邦軍歩兵から剥ぎ取った戦闘アーマーをかき集めて自作したアーマーを身に着けていた。どうやら未来の防弾性能が高いところに目を付けた様だ。大剣の刃を立てにした際に、柄を握っている両手を狙われる対策か、ガントレットがやや分厚い。分解した連邦軍歩兵のヘルメットで出来ている。

 

「(何名か隠れているな。人数は、十三人って所か。特にあの緑色の奴、あいつはマジでやべぇ。こんな大量生産品の銃じゃ、歯が立ちそうもねぇな)」

 

 こちらに銃口を向けるチーフの姿を見たシュンは、他にも海兵隊員たちが隠れている所を見抜いた後、彼がただ者で無い事を理解して、持っている銃では歯が立たないと判断し、銃を下げてから背中の大剣を抜く。

 

「あ、あんなの持てるのか…!?」

 

『黙れ! 気付かれる!』

 

「いや、もう気付かれている」

 

 身の丈はある大剣を抜いたシュンに驚いた海兵隊員が声を上げれば、中尉は黙るように無線で告げたが、チーフが既に見抜かれていることを伝えた。

 彼が言うには間違いないと思ってか、海兵隊員たちは身を隠している場所から出て来る。

 出て来た海兵隊員たちを見たシュンは、彼らもまた良く訓練されて実戦経験のある兵士であると認識した。だが、チーフほどでは無いと判断する。

 

「(問題は緑色のアーマーの奴だ。あいつは今まで会った奴の比じゃねぇな。勝てるかどうか、分んなんねぇ。だが、やるしかねぇ!)」

 

 そう自分に決して敵わないであろうチーフに立ち向かうことを決心したシュンは、大剣を構えて相手の出方を覗う。

 同じくシュンを警戒するチーフも、相手が先に手を出してくるのを待っていた。

 数分ほどお互いが睨み合う中、一人のブニーハットを被っている海兵隊員が、銃を持っているチーフがなぜ撃たないことを問う。

 

「なんでチーフは撃たないんだ? 撃っちまえば済むことだろう」

 

 この問いに対し、中尉はチーフが撃てない理由を答える。

 

「違う、撃てないんだ。それにあの格好、たった一人で恐らく小隊規模の敵を殲滅した様子だ。微かにMSやゾイドに使われるオイルの匂いもする…機動兵器を二個小隊分全滅させた化け物だ…それにあの鉄塊のような馬鹿デカい剣をまるで棒きれのように振り回している…恐ろしい化け物を相手にしているんだ…俺たちみたいなのが立ち向かったら、途端に返り討ちだ…」

 

 その理由を聞いた海兵隊員たちは、シュンが自分等では敵わない敵だと分かれば、固唾を飲み、どちらかが先に出るのかを見守る。

 

「動いた!?」

 

 数十分にも及ぶ睨み合いの後、先に動いたのはシュンであった。

 彼は左手に握られている閃光手榴弾の安全ピンを素早く外し、それをチーフに向けて投げ付けた。

 直ぐにチーフはそれを閃光手榴弾と判断して宙に舞う手榴弾を射撃する。爆発する際に、シュンは目を瞑って強力な光から目を守る。難聴と耳鳴りからは身を守れないが、屋内ではないので症状は比較的に軽く、暫くすれば治る。

 チーフの被るヘルメットも、対閃光手榴弾対策がなされているが、彼は本の一瞬余り、シュンから目を離してしまった。歴戦練磨の戦士が見せた一瞬のスキを、シュンは逃さずに斬り込む。

 相手が対処できないであろう速さで大剣の刃を振り下ろすも、チーフはそれを紙一重で避けた。シュンは直ぐに二撃目を入れようとするが、チーフが持つライフルの銃座による反撃を左脇腹に食らう。

 チーフが身に着けているミニョルアーマーは、打撃攻撃を向上化させる機能も付いている。その為シュンは、脇腹に凄まじい痛覚を感じて表情を歪める。

 

「(くっ、痛てぇ! アーマーを見に付けてなかったら、脇腹を抉られたかもな)」

 

 凄まじい痛みを感じながらもシュンも反撃に転じ、左足でライフルを撃ち込もうとする同じ重量はあるチーフを蹴り込んで吹き飛ばし、一定の距離を取る。大剣が振れる距離まで取った所で、再び大剣でチーフを斬ろうとするが、彼が大剣を振るわせてくれるはずが無い。シュンが距離を取った所で、チーフは即座にライフルを構え、コンマ単位で引き金を引いて関節部に向けて銃弾を撃ち込む。

 

「(化け物かよ!)」

 

 この常人を上回る対応の速さに驚いたシュンは、大剣を振るうのを止めて遮蔽物となる木まで大剣の刃を立てにして銃弾を防ぎながら後退する。分厚い刃のおかげで完全に防ぎ切れることが出来るが、チーフは直ぐに柄を握る部分に銃弾を浴びせる。

 

「ぐっ…! やっぱりか…!」

 

 柄を握る右手を撃たれることが分かっていたシュンは、伝わってくる痛覚を我慢しつつ、遮蔽物となる木まで近付いたところで、そこへ飛び込み、右手に武器を持てない程に破損していないか確認する。

 右手の怪我の具合は、連邦軍歩兵の防弾性の高いヘルメットで作ったおかげで戦闘には支障が無い。精々痣が出来ている程度だろう。

 先頭に支障が無いと判断すれば、即座にチーフには通じない盛田式アサルトライフルに切り替え、安全装置を外して自分に向けて銃を撃ってくる緑色のアーマーの戦士に撃ち返す。

 

「(シールド付きか! クソッタレ!)」

 

 撃ち込んだ銃弾は十数発以上だが、チーフのアーマーにはありとあらゆる攻撃から身を守るシールドが備えられており、単に蚊が刺した程度のダメージしか与えられなかった。

 だが、チーフはここで突っ立っていては無駄なエネルギーの浪費と感じてか、近くの遮蔽物へと飛び込み、素早く手榴弾が有効だと判断し、シュンが身を隠している場所へ手榴弾を投げ込む。

 

「早過ぎるだろ!」

 

 彼が隠れて数秒後に投げ込まれた手榴弾を見たシュンは、即座にどこか別の方向へ投げ込んでから、森の奥深くへと逃げた。それを追うようにしてか、チーフはライフルの再装填を行ってから、シュンの後を追う。

 

「なんで追うんだ? そのまま逃がしちまえば良いのに」

 

「森なんかに入ったら、チーフでもヤバいんじゃないのか?」

 

この行動を見ていた海兵隊員たちは、「放っておけばいい」と大半の者が思ったが、中尉が追跡する理由を答える。

 

「いや、奴がワルキューレに報告するかもしれない。そうすれば俺たちの存在が明らかになり、任務の継続が困難になるだろう。それに…」

 

 自分等の背後から聞こえて来る草木を掻き分ける音が鳴り響いてくる茂みに視線を向け、その方向へ向けて銃口を向ける。

 

「六時方向より銃声を聞き付けて何者かが来ている…! 敵か味方かどうか分からん。もし、敵だとすれば、我々はその対処をすることだ」

 

 中尉が言い終えた後、同じく背後の茂みから迫る集団の存在に気付いている海兵隊員たちは、一斉に各々の銃の銃口を向け、いつでも撃てるように引き金に指を掛ける。

 敵か味方かの判断のため、中尉は茂みから近付いてくる集団に向けて合言葉を口にする。

 

「一度海兵となった者は?」

 

 この合言葉はアメリカ海兵隊のモットーの一つ、「一度海兵となった者は、常に海兵である」を使った物だ。彼らUNSC海兵隊がそれを使うのは、創設時に携わったアメリカ海兵隊の影響であろう。出撃前に、中尉達は誤射を防ぐために合言葉を使うことにした。

 答えは「常に海兵である」だが、茂みからはその答えが返ってこない。

 

「中尉、答えが返ってこない。敵だ」

 

「よし、発砲を許可する」

 

 答えが茂みから返ってこないので、部下の一人がそれを告げれば、中尉は発砲を許可した。

 許可が出れば、海兵隊員たちは引き金を引き、敵が居るとされる茂みへ向け、一斉に銃弾を撃ち込む。

 

『退避ぃ!』

 

「ほら、敵だ! アダムス、声の聞こえる方向に撃ちまくれ!!」

 

 自分等の聞き慣れない声、しかも女性の声が聞こえて来たため、ブニーハットの海兵隊員は、軽機関銃を持つ分隊支援火器手に向けてもっと銃撃を強めるよう告げる。

 それに答えてか、分隊支援火器手は茂みに銃撃を強めた。茂みに居る敵が何発か撃ち返してくるが、戦闘のプロのように鍛えられた海兵隊員たちには当たらず、次々と撃ち殺されていく。

 敵が撃ち返さず、退却したのを確認すれば、中尉は追撃に出ることを部下たちに告げる。

 

「追撃する! ここは奴らのホームグランドだ! 警戒しながら進め!!」

 

『イエッサー!!』

 

 警戒しながら進むように告げれば、士気の高い海兵隊員たちはそれに応じ、森の中を警戒しながら追撃に入った。

 

 

 

「さて、ついてきたか?」

 

 その頃、深い森の中へと逃げたシュンは、警戒しながら自分を追って来たチーフから身を隠しながら、急いで仕掛けた罠に掛かるかどうかを見た。

 仕掛けた罠とは、近くにある猟師の家で盗んできたトラバサミだ。鋼鉄のアーマーを身に着けているチーフに聞くはずもないが、少しの間だけ足を止められる。シュンはそこを突く気だ。敵に一切姿を見せることなく、シュンはチーフがトラバサミに引っ掛かるのを待つ。

 

「掛かった!」

 

 チーフがトラバサミに足を挟まれたのを確認すれば、シュンは隠れている倒木から上半身を出し、弱点となるはずの関節部に向けてライフルを撃ち込む。

 流石にトラバサミは効果を成さず、刃が欠けてしまったが、数秒ほど足と止めることは出来た。

 銃弾を受けているチーフは、シールドのおかげで無傷であるが、このまま受け続ければシールドのエネルギーが切れ、殺されてしまう。直ぐに右足を挟んでいるトラバサミを、なんと左足だけで破壊し、自分に向けて銃を撃ってくるシュンに向けて反撃した。

 

「化けもんかよ!」

 

 銃弾が頬を掠めたところで、シュンは遮蔽物である倒木に身を隠し、腰の鞄に入っている手榴弾を取り、それを近くの遮蔽物となる場所まで撃ちながら退避しているチーフへ向けて投げ込む。早く投げ過ぎたために、破片でチーフを傷つけることは出来なかった。仕留めてないだろうと思って別の場所へ移動して、チーフが身を隠している場所を何所だか探す。

 

「何所だ、何所に居る?」

 

 別の遮蔽物となる場所へ隠れ、一番近い遮蔽物となる場所に身を隠したチーフを探すシュンであるが、相手が身に着けているアーマーは濃い緑色であり、この場において戦術的優位に立っているのは、相手であるチーフだ。シュンは何の迷彩効果も無い自前アーマーを着ているため、大剣を抜いて迂闊に飛び出せば、一瞬でチーフに撃ち殺されてしまう。

 そう痺れを切らして相手が出て来るのを待つシュンであったが、いつの間にか背後に回り込んだチーフに銃口を向けられ、投降するよう告げられる。

 

「動くな」

 

「ちっ、いつの間に…!?」

 

 背後に回り込んだチーフに銃口を弱点となる後頭部に向けられていることが分かっているシュンは、逃げられないと判断して手にしている銃を離し、両手を上げた。直ぐに見付かって後ろを取られた敗因は、この場において森林迷彩も成していない自作鎧を身に着けている所為だろう。

 改めて自分が身に着けている自作のアーマーが、何の迷彩効果も成していないことを認知して、銃口を向けるチーフに向けて正面を向ける。

 尚、なぜチーフが直ぐに撃たなかった理由は、この惑星の情報を持っていると思ったからだ。

 正面を自分にライフルの銃口を向けているチーフに向けたシュンは、敗因が分かっているので、相手の名前となぜ撃たないのかを問う。

 

「なぁ、あんた何者だ? そんでなんで撃たねぇ? 撃てば直ぐことだろ?」

 

「撃たない理由は、お前が共通言語である英語を話しているからだ。名前の件に関してはマスターチーフ。スパルタンだ」

 

「スパルタンね…そんな物を着て戦場に出て来る辺り、ヤベェ連中だろうな」

 

「お前の想像する物とは違う。敵から見ればそう見えるが、スパルタンは皆狂人では無い」

 

 スパルタンと言う初めて聞いた言葉に、シュンは連邦軍の強化兵士で戦闘狂染みた連中だと言えば、少し仲間を軽蔑された感覚を覚えたチーフは、想像とは違う物であると告げる。

 自分に銃口を向けるチーフの背後で、動き回る人影が見えた。敵である海兵隊員では無く、第二次世界大戦以下の装備なワルキューレの軽歩兵や、この場に合うような恰好をしている剣士が見えれば、勝ち誇った笑みを浮かべて彼女らが攻撃してくるのを待つため、時間を稼ぐ。当然ながら、相手に悟られていない。

 

「何がおかしい?」

 

「まぁ、あんたも戦うために育てられたって感じだな。俺と同じ無地の穴って奴だ。あんたも一生戦場に身を投じなきゃ、自分じゃ自分でいられなくなるって感じだぜ、お前」

 

「俺はそれほど戦争中毒(ウォーズ・ジャンキー)じゃない…」

 

 お前は戦争中毒者だ。

 そう戦争中毒者になり掛けているシュンに告げられたチーフは、声を曇らせてやや動揺する。

 確かに任務に身を投じることで、守護天使であり、半身とも言えるコルタナの事は一時的に忘れることは出来た。しかし、失った損失感は中々埋めることは出来ない。

 他の同期や後輩のスパルタン達から何か趣味を始めた方が良いと告げられたが、どれもが損失感を埋められず、長続きはしなかった。

 痛いところを突かれたチーフは、何かシュンを動揺させるような言葉を考えるが、その言葉は浮かばない。

 

「(よし、今だ。早く撃て)」

 

 少し動揺を見せるチーフに聞こえぬよう、心で相手の背後から小銃を向けるライフル兵に撃つように念じると、彼女は期待通りにリーエンフィールドNo4小銃の引き金を引いてくれた。

 乾いた音が森の中に響き渡り、チーフの背後に放たれた銃弾が命中する。弾かれて全く効果は無かったが、自分から注意を逸らすことが出来た。

 撃たれたチーフは、自分を撃ったライフル兵が居る方向を振り向き、即座に銃弾を撃ち込んだ。

 アーマーに銃弾が跳弾したことに驚きを隠せないでいた女ライフル兵は、頭を撃ち抜かれて一瞬のうちに絶命する。これに合わせて他のワルキューレの軽歩兵らが、一斉にチーフへ向けて銃弾を撃ち込む。シュンに何発か当たるが、自作の鎧のおかげでほとんど無傷で済む。

 

「(今だ…!)」

 

 完全にチーフが自分から注意を逸らした所で、シュンは背中の大剣を素早く抜き、思いっきり力を入れて巨大な刃を相手に叩き込んだ。

 

「っ!?」

 

 背後から来る巨大な刃に気付いたチーフだが、避ける間もなくその巨大な刃を食らう。

 このままバターのように切り裂かれるであろう。

 そうチーフに向けて大剣の巨大な刃を叩き込んだシュンであったが、どんな攻撃でも防ぐシールドの所為か、爆発のような音を立てて勢いよく吹き飛ぶだけであった。

 巨大な刃を受けて吹き飛ばされたチーフは、進行方向にある木を薙ぎ倒しながら吹き飛び続け、岩場に激突して止まる。並大抵の人間なら、既に死んでいるレベルだ。

 

「斬れた感触がしねぇ…やっぱ、シールドって奴なのか」

 

 斬った感触を感じなかったシュンは、シールドの所為でチーフを斬れなかったと判断する。

 直ぐにチーフが死んでいるかどうか確認しようとするシュンであったが、周囲から出て来るワルキューレの将兵らに取り囲まれてしまう。その存在を忘れてもいなかったシュンは、大剣を背中に戻してから両手を上げる。

 

「クソッ、こいつ等忘れてた」

 

「動かないで。そんなデカい大剣使ってるところ見ると、あんた、騎士じゃないわね?」

 

 後から出て来て、自分の頭にエンフィールドN02回転式拳銃の銃口を向ける分かり易いように士官帽を被った隊長らしき女性士官の問いに対し、シュンは周囲を囲まれていると判断して、その問いに素直に答える。

 

「あぁ、そうだ。次元漂流者って奴だ。こんな薄気味の悪い世界から、どっか別の世界へ送ってくれ」

 

「次元漂流者? こんなに派手な事やってるのに? まぁ、あんたに運命は不法侵入罪で串刺しか火刑が決定って感じだから、諦めてね」

 

「んだそりゃあ?」

 

 ワルキューレに掴まっても、どう足掻いても死ぬしかないと言う答えを突き付けられたシュンは、目的のために生きるためには彼女らと一戦交えるしかないと判断した。

 木の枝の上には耳が人間よりやや長いエルフと呼ばれる亜人が数名ほど居り、自分をいつでも射殺せるよう矢を引いている。地にも数名ほどが弓矢を持ち、腰の辺りには護身用とも言える短剣が納められた鞘をぶら下げていた。全員が、ワルキューレの将兵と同様に女性であり、この風景に違和感なく溶け込んでいた。

 他は森に似合いそうな格好をしている刀剣類を携えている女騎士たちだ。ワラキア公国の兵士が身に着けていそうな甲冑を身に着け、いつでも抜けるように待機している。

 

「(ちっ、こいつ等を一掃すんのは、ちょいと骨が折れそうだな)」

 

 人数は二個小隊程であり、流石に機動兵器を二個小隊ほど壊滅させたシュンでも、この人数を相手にするのは無謀と見えた。

 だが、その心配は復帰してくる敵で無くなる。

 

「死んでる…よね…?」

 

 小銃に銃剣を付けた若い女兵士は、岩場に激突してピクリとも動かないチーフの胴体に、銃剣を突きながら、返事も無い彼に問う。

 

「死んでた。ねぇ、運んでくれない?」

 

「うん」

 

 数かい突いても返事が無いので、仲間を呼んでチーフを起き上がらせようとした。

 

「ちょっ、重っ!?」

 

「鎧の比じゃないんですけど!」

 

「もっと集まって! こいつ重過ぎる!」

 

 しかし、ミニョルアーマー着用時のチーフの総重量は0.5tだ。とても女性二人で持ち運べるほどの重さでは無い。ビクともせず、十人以上を呼んで人海戦術で運び込むことにする。だが、それがチーフを目覚めさせる切欠となる。

 

 

 

 シュンの気合の振り下ろしをシールドのおかげでアーマーが少し削れた程度で済んだチーフは、ワルキューレの将兵らに持ち上げられる寸前で目を覚ました。

 シールドのエネルギーは気を失っている間にチャージは完了しており、アーマーの機能も殆ど異常が見られない。

 

「こ、こいつ! 死んでない!?」

 

 目を覚ました所で、敵に生きていることが悟られてしまったが、チーフにとっては関係の無い事だ。目覚めて早々、チーフは一番近くに居る女兵士の頭に向け、成人男性の頭部を意図も容易く粉々に砕くほどの拳を振りかざし、頭を吹き飛ばす。

 凄まじい勢いで殴られたためか、頭が飛ばされた死体は、その場で立っているままであった。

 

「ひっ!? こ、この!」

 

 一人目の頭が吹き飛んだところで、銃剣が付いている小銃を持っている女ライフル兵がチーフの身体に銃剣を突き刺してきたが、アーマーの装甲に突き刺した瞬間に圧し折れる。

 無論、銃剣を突き刺したライフル兵は、自分を掴んだ勢いで起き上がったチーフに、素手で腹を貫かれて息絶える。ミニョルアーマーを身に着けているチーフならたやすいことだ。

 

「ひっ、ひぃぃ!」

 

 数秒辺りで二人の戦友を殺したチーフに恐れおののく彼女らであるが、直ぐに持ち直し、手にしている銃を撃ち込む。多数の9mm弾やブリティッシュライフル弾がアーマーに当たるが、弾かれるばかりだ。それもシールドすら発生していないのである。

 

「それで終わりか?」

 

「う、嘘…!?」

 

 撃ち終わったワルキューレの将兵らにジョークを交えてか、チーフはジェスチャーを取りながら問う。これを見た女性兵士らは、更に恐れを抱き始め、戦意を損失し始める。

 そんなチーフの背後から、エルフが魔法で強化された矢を放つ。

 魔法で強化された矢は、連邦軍が持つどの重装甲を容易く貫くほどの威力を誇っている。

 幾らこのシールドで守られたアーマーを着ているチーフとはいえ、無事では済まないだろう。

 だが、チーフは背後を振り向き、高速で飛んでくる矢を左手で受け止めた。

 並大抵の人間が振れれば、手が弾け飛んでしまうが、チーフはアーマーだからこそ無事であったのだ。

 

「今度はこちらから行くぞ」

 

 敵のターンが終われば、今度は自分の出番だと宣伝してか、チーフは矢を握り折ってから丸腰の状態で一番近い距離に居る分隊程の人数に襲い掛かった。

 

「来ます!」

 

「撃ちなさい!」

 

 凄まじい勢いで迫ってくるチーフに対し、彼女らは銃弾を撃ち込むが、弾かれるだけだ。

 ステンMkⅤ短機関銃を持つ女兵士まで近付いた際、チーフは手で刀の形、手刀を作り、それで喉元を切り裂いた。アーマーのパワーアシストのおかげで本当に刃物のように斬れるので、喉を裂かれた女兵士は首から血を吹き出しながら息絶える。

 次にチーフは、瞬時に首を切り裂いた女兵士の近くに居たライフル兵の頭を掴み、右腰のホルスターに吊るしてあるサイドアームの回転式拳銃を取って、素早く安全装置を外してその兵士を盾にしながら、射線上に居る女兵士らを撃つ。この間に経過した時間は僅か数秒ほど。

 狙いは正確であり、撃った弾丸分の人数、六人の眉間に銃弾を撃ち込んだ。

 

「い、いや…!」

 

 ブレン軽機関銃を持つ機関銃手が、恐怖の余り、盾にされている味方諸とも撃ち込んだ。

 軽機関銃なので連射性は高く、数秒間くらい引き金を引いた所で残弾は切れた。直ぐに弾倉を交換しようとする機関銃手であるが、慌てているので弾倉交換が覚束ない。

 敵がモタモタしている間にチーフは、盾にしている女兵士の被っていた皿型のブロンディヘルメットを脱がせ、それを投げナイフのように、再装填に手こずっている機関銃手の胸に向けて投げ込む。勢い良く投げ込んだため、投げられたヘルメットは胸に突き刺さり、彼女は息絶える。

 

「ば、化け物…!」

 

 周囲に居る女兵士たちは、チーフのことを化け物と表した。

 正確には悪魔であるが、これはコヴナント軍が、圧倒的な強さを持つチーフに対する恐れとして評した物だ。

 数秒ほどで八人を始末したチーフは間も開けることなく、自分に向けて銃を撃ってくる数名を素早く抜いたM6Gピストルの早撃ちで片付ける。

 

「いやぁぁぁ!!」

 

 二名を早打ちで片付けたところで、両手剣、ロングソードを持つ女騎士が背後から斬り掛かって来たが、気付いたチーフに顔面に向けて拳を打ち込まれ、首の骨を折られる。その際に、女騎士の手からロングソードが離された。

 ロングソードの長さは柄と刃を合わせて120㎝ほどであり、鍔の部分は打撃攻撃を行うために丸くなっている。

 チーフはロングソードの特徴を一瞬で理解して取り、飛んでくる矢をそれで弾いた。飛んでくる矢の速さは拳銃弾に近い速さであるが、非人道的とも言える肉体改造で得た恐ろしい反射神経を持つチーフは、それを容易く弾いている。

 対戦車擲弾発射器「ピアット」から対戦車砲弾も発射されるも、チーフに容易に避けられ、左手に握られた拳銃で射手と装填手諸とも撃ち殺される。矢を射っているエルフたちも、浮足立ったところを狙われて次々と排除される。

 圧倒的な強さを誇るチーフに次々と殺されていく味方の兵士たちを見て、死の恐怖を感じ始めた。

 

「な、なにあれ…」

 

「あんなの…勝てるわけ無いじゃない!」

 

 恐怖が伝染し、彼女らは戦意を失い始め、いつ逃げ出してもおかしくは無かった。

 

「(あの野郎、普通ならミンチだぞ。ピンピンしてやがるぜ。だが、ありがとな!)」

 

 自分を囲んでいるワルキューレの将兵らが、ほとんど自分の存在を忘れていると睨むと、シュンは背中の大剣を抜き、周りを包囲している将兵らに向け、大剣を振り回す。

 注意が全てチーフに向いているため、周囲を囲んでいる将兵らは一気に惨殺された。

 凄まじい肉の避ける音が鳴り響き、肉塊と化した彼女らの血が、雨のようにシュンの頭上に降り注ぐ。部下たちが斬り殺されたのに気付いた女隊長はシュンの方向へ振り向き、拳銃を撃ち込もうとしたが、凄まじい殺気に満ちた眼光で睨まれ、引き金を引く指に力が入らなかった。睨まれた所為なのか、失禁までしている。

 

「い、いや…来ないで…!」

 

 怯える余り涙目となって命乞いをする彼女に対し、シュンは腹に柄を撃ち込む程度で済ます。それから槍を拾い上げから自分に矢を射ろうとして来る女エルフの弓兵が上っている木を大剣で斬り、枝から弓兵が落ちたところで、落下中の彼女の身体を一突きにした。

 息絶えたところでシュンは彼女を突き刺している槍を捨て、邪魔をしてくる女兵士らを大剣で斬り殺しつつ、数秒前に敵を全滅させたチーフに斬り掛かった。

 斬り掛かってくるシュンに気付いたチーフは振り下ろされた刃を避け、相手の腹を剣で斬り付けた。

 しかし、ただ表面だけを斬り付けた程度だ。直ぐに二撃目を振ろうとするチーフであるが、シュンもまた二撃目を振りかざして彼の攻撃を中断させる。これにチーフは三撃目を諦め、左手に握られた拳銃で頭に撃ち込むため、至近距離に撃ち込もうとするが、持っている左手を思いっ切り蹴り付けられ、拳銃を手放す。

 通常、アーマーを身に着けている左手を蹴れば、骨折してもおかしくないが、シュンは足にも分厚く防弾チョッキを付けているため、骨折せずに済んだ。

 数秒も経たないうちに、シュンとチーフとの斬り合いとなる。正確にはチーフが刃を避け、シュンが繰り出される相手の刃を防いでいるだけだが。

 一進一退の攻防が続いているように見えるが、シュンの動きがやや鈍って来た。

 どうやら、一睡もせずに戦い続けているシュンの体力が限界に達しようとしているようだ。額に汗を浸らせ、大剣を必死に振り回しているが、自分が弱っていることに気付いたチーフに攻められ、防戦一方になってしまう。

 

「(クソッ、視界がどんどんボヤケてきやがる…! 今のペースを続けるので精一杯だぜ)」

 

 疲労でめまいが起き始め、大剣を握る手が段々と弱くなり、おまけに耳も聞こえなくなっている。

このまま戦い続ければ、いずれは負けてしまうだろう。

そんな気力で今の状態を保っているシュンの脳内に、チーフでも先ほど海兵隊員でも、ワルキューレの将兵でもない声が聞こえて来た。

 

『身をゆだねろ…』

 

「(なんだ? ついに幻聴まで聞こえて来たか?)」

 

 周囲の音とは違ってハッキリと聞こえて来る声を聴いたシュンは、遂に幻聴まで聞こえるほど疲労が溜まったのかと思いながら、チーフから繰り出される剣撃を防ぐ。

 しかし、幻聴は止まらず、意識を失いそうなところで繰り返される。

 

『我に身をゆだねろ…さすれば奴に勝てる…』

 

 我に身をゆだねれば、目の前の相手(チーフ)に勝つことが出来る。

 彼にとってはありがたい話に思えるが、誰かも分からぬ者に、シュンは身を任せるわけには行かない。頭を振って幻聴を掻き消そうとしたが、幻聴は止まらない。

 

『奴に勝ちたいのだろう? お前にはありがたい話のはずだ。最初に手にしたように、我に身をゆだね、敵を斬るのだ』

 

 最初に手にした時から身をゆだねていた?

 その言葉を聞いたシュンは、この大剣を最初に手にして時の感覚を思い出す。

 ブラスコヴィッチに手渡されたとき、最初はアルミかステンレスで出来ているかと思ったが、試し斬りした木が斬れたことで、魔法剣のような物と認識する。

 これに胸騒ぎを覚えたシュンであったが、圧倒的な切れ味の良さに心を惹かれ、大剣の魅力に取り付かれる。

 

 最初の敵である麻薬中毒者らに向けて大剣を斬った際、少しばかり記録が飛んだ事があった。シュンはこれをコンバットハイのような物だと思ったが、どうやらこの時から、気付かぬ間に大剣に身体を乗っ取られ始めていたようだ

 続いて戦車を斬った際の事を思い出した。

 戦車に向けて大剣の刃を振り下ろした際に、何か妙な違和感を抱いていた。本当に斬れるかどうか疑わしかったが、どうやらこの大剣が、折角の寄生するシュンを死なさないために、真の力を発揮したみたいだ。

 ゾイドやMSもそうだ。こんな鉄塊のような大剣で、鋼鉄の兵器が斬れるわけが無い。これは自分の悪運の強さでも自分の血から出も無く、大剣の中に潜む魔の力だ。

 

「通りでおかしいと思ったぜ」

 

「何がだ?」

 

 大剣のからくりを今知ったために、シュンは思わず声に出してしまったので、剣を構えるチーフに問われた。

 

「あぁ、こっちの話だ」

 

 相手に気にしないように告げれば、シュンは大剣を構えようとしたが、突然、大剣が元の重量に戻り、得物を地面に落としてしまう。

 どうやら大剣に魔の仕組みに気付いたことを知られ、自分を殺すために重量を元の鉄塊のような重さに戻したようだ。

 

「(クソッタレ! 今さら駄々こねやがって!)」

 

 突如となく重くなった大剣に対して、そこに潜む魔に対してシュンは心の中で怒鳴り付けるが、怒鳴った所で大剣は機嫌を直さず、持ち主に対して元の重量を維持したままだ。

 無論、この様子は相手のチーフに見られており、彼は遠慮なしに斬り掛かってくる。

 このままでは殺されてしまうだろう。

 そう思ったシュンは、力を振り絞って持ち上げようとするが、大剣はビクともしない。

 

「(こんな所で、俺は死ぬのか…!?)」

 

 剣を持ちながら迫ってくるチーフに殺され、こんな不気味な世界で力尽きてしまうと思ってしまうシュンであったが、彼はまだ諦めず、大剣の刃を持ち上げようとしている。

 無駄だと分かっているが、シュンはこんな所で朽ち果てるつもりはない。必死に大剣の柄を両手で持ち上げようとする。

 

「こんな所で、こんな所で…死ねるかぁぁぁ!!」

 

 彼が生への執着を見せたところで、奇跡が起こった。

 なんと、もはや鉄塊と化している大剣を、シュンが高く持ち上げたのだ!

 いわゆる火事場の馬鹿力と言う奴だ。流石に持てないと思っていたチーフも、これには驚きを隠せず、思わず足を止めてしまう。

 

「死ねおやぁぁぁ!!」

 

 叫びながら渾身の力を込め、高く上げられた大剣の刃を、チーフに向けて振り下ろすシュンであったが、当たらなければ意味が無い。

 

「っ!?」

 

 渾身の力で振り下ろされた大剣の刃は、地面すら叩き割るほどの威力であったが、チーフはそれを寸での所で右側面部のスラスターを使って緊急回避を行い、地面を蹴って一気にシュンの背後を取り、剣を首に向けて振るおうとする。

 背後に回って剣で自分の首を斬ろうとするチーフを見て、もはや戦う力も残されていないシュンは、死の覚悟をしたが、彼は自分を殺さず、剣の柄の部分を後頭部の部分に叩き込むだけで済ませた。

 思いっきり力を入れれば、シュンの頭が砕けてしまうため、ある程度の力を入れる程度にする。

 なぜ、チーフがシュンを気絶させたのかは、この惑星の情報を探るためでもある。シュンがこの惑星の情報を持っているとは限らないが、大剣を振り回している辺り、元ワルキューレと断定しての事であろう。

 さじ加減な柄打ちを後頭部に受けたシュンは脳震盪を起こし、白目を浮かべながら失神して地面の上にうつ伏せ、腹臥位の状態で倒れ込む。大剣の上に倒れ込まなかったため、事故死は避けられる。

 この戦いの勝者は、シュンが倒れたところでチーフの物であった。

 勝者であるチーフは、シュンが失神しながらも手放さなかった大剣を、握っている手を払い除けた後にそれを手に取って確かめてみる。

 シュンが大剣に選ばれた時と、火事場の馬鹿力を発揮した時にしか持てない大剣であったが、ミニョルアーマーのパワーアシストを受けているチーフは、それを選ばれていた時のシュンと同じように軽々しく持ち上げた。

 

「重量は…俺が今着ているアーマーと同じくらいか…」

 

 大剣の刃を見ながら、重量が自分のミニョルアーマーと同じくらい物であると認識する。

 それと、どうやってシュンが疲労や潜む魔に見放されるまで、この大剣を軽々しく振り回していたのかが気になったが、戦闘音を聞き付けて近くに居る敵兵達が集まってくると思い、大剣を背中のマグネットの部分に引っ付け、同時に落ちている自分のアサルトライフルも拾い、大男を左腕に抱き抱えたまま、この場を後にしようとする。

 

「忘れる所だった」

 

 敵が集まってくるこの場から去る際、まだ息のある先ほどシュンが気絶させた女隊長に気付き、ライフルを背中に引っ付けてから、彼女を右腕に抱き抱えて共に連れてここから立ち去る。

 チーフらが去ってから残された物は、複数の斬殺された女兵士たちの死体と、戦闘の余波で斬られた真新しい倒木と池のように流された血痕、そして地面に転がる無数の空薬莢であった。




取り敢えず、今回やりたかったのはオリ主があんまり強くないってことです、はい。

戦闘力は黒い剣士のガッツ以上で、防御力はブラスコヴィッチ以上を誇るシュンですが、六歳の頃から従軍してるマスターチーフには勝てません。

そしてチーフに対して与えられたダメージは、精神的ダメージ6とアーマーを少し削った程度…

チーフに勝つことなど、たやすいことではない…(二回目

次回からは、マリマリが登場予定っす。
まぁ、戦闘はしないけど。
さて、夏のエロ短編SSでも書こうかな…

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