復讐異世界旅行記   作:ダス・ライヒ

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あ・け・お・め

新年早々、いきなり人殺してる二次SSって、俺の所しかねぇんじゃねぇの?
そんでAKの信頼性を語ってるのも。


東京編2

 後日、アフリカのとある紛争地域にて、武器の取引が行われていた。

 買い取り側はアフリカの武装勢力であり、それに属する民兵たちの武器は主にAK-47突撃銃、あるいは中国製の56式自動歩槍、密造された物だ。売る側もAKシリーズであるが、西側のように近代的なカスタマイズが施されている。

 武装勢力のリーダーでベレー帽を被った黒人の男は、仕立て上げたスーツを着ている武器商人の白人の男に武器の類は用意しているかと問う。

 

「補給品はちゃんと用意しているな!?」

 

「用意しているとも! そちらは!?」

 

「揃っているぞ! 収穫したばかりのドラッグだ! アヘンにマリファナ、その他諸々もある! 捌けば数千ドルは稼げるぞ!」

 

 武器商人が箱に入っている装備と弾薬一式を見せれば、武器調達費用は用意しているのかと問う。

 これに対し武装勢力のリーダーは大量にある様々な麻薬を見せびらかし、これをブラックマーケットに流せば数千ドルは稼げると豪語する。金では無く麻薬で物々交換するリーダーに、武器商人は眉をひそめた。

 

「勘弁してくれ。ヤクはマズいんだ。警察や地元のマフィア共にも目を付けられる!」

 

「なに? ならお前を殺して根こそぎ奪うだけだ。それに白人やアジア人共も麻薬で取引してるだろ! 言われた通りに捌けば良い話だ!」

 

 先進国での麻薬取引には、相当なリスクを伴う事を告げる武器商人であるが、リーダーは聞く耳を持たなかった。

 そんな彼らの元に、空からバリアジャケットを纏ってやって来たシュンは、武器商人側の背後へ回り、コアから消音器付きのコルト・ガバメント自動拳銃を取り出し、一人ずつ静かに殺していく。

 銃を使わないで済む位置に居る傭兵に対しては、ナイフを使うか、首を折って始末する。

 それから積まれた箱の中身を確認して、装備一式が十分にある事を確認した。

 

「これくらいあれば、訓練には困らないな」

 

 四つほどあれば、お釣りが来るくらいである。それを丸ごとコアに入れ込み、持ち帰ろうとした。

 

「あっ! 誰だお前!?」

 

「しまった!」

 

 思わぬ伏兵、民兵に見られてしまった。直ぐに民兵は手にしているAK系統の突撃銃の安全装置を外し、シュンに向けて撃ってくる。シュンは四つほど箱を入れた後、手にしている自動拳銃で民兵を撃ち殺して、その場から飛び立つ。

 双方は銃声が聞こえたことで、飛んで行ったシュンには目もくれず、お互いに撃ち始める。

 

「っ!? 貴様!」

 

「お、おい! 我々はまだ…!」

 

「どうやら取り引き先を変える必要があったようだな! 皆殺しにしろ!」

 

 武器商人は武装勢力が自分等を騙したと判断し、待機していた傭兵部隊に皆殺しにするように命じた。

 傭兵部隊と武装勢力の民兵による銃撃戦が始まる中、シュンは気にすることなく日本への帰路に着いた。

 

 

 

 必要な物を調達というか盗み終えたシュンは、早速それらを自分が地下で作った武器庫に置き始める。

 ガンラックや弾薬箱もそこらの廃材で作り上げた物で、ラックに中国製の56式自動歩槍や密造以外のAK-47にAKM、東側社会主義政権が崩壊した際に流失したAKコピーを掛けて行く。

 小口径弾を使うAK-74系統に関しては、自分と優等生専用のラックに掛けた。無論、粗悪品は排除して壊してある。

 

「うーむ、十分な数だな」

 

 撃っても大丈夫な物を厳選した結果、三百挺はあったAK突撃銃は七十挺まで減った。

 大口径の7.62×39mm弾を使う47シリーズは六十挺で、小口径の5.45×39mm弾を使う74シリーズは十挺と言うことになる。

 残りは広く流通している中国製や密造銃、あるいは壊れかけの物であった為、使えそうな部品を抜いて後は全部叩き壊した。

 他にもPKMやRPDがあったが、これも粗悪品が混じっていたのでごく少数であった。お馴染みのRPG-7対戦車発射器もあるが、使い道が無いので弾頭を抜いて保管してある。

 

「これなら一個小隊は編成できそうだ。まぁ、やらんがな」

 

 全部あわせれば重装備の一個小隊が編成できるが、シュンは編成する気も無いので、それらは参加者らの訓練に使われる。

 後日、予定通りにシュンが調達した東側の小火器は参加者らの射撃訓練や銃器分解訓練、更には戦闘訓練に使用された。

 軍隊訓練も銀行強盗計画も順風満帆に進む中、ブランの素性を調べ終えたガイドルフがアジトにやって来た。

 シュンは訓練参加者らに各自に自習を命じた後、ブランの正体を聞く。

 

「でっ、どんな奴だ? 生まれてからの悪党か?」

 

「いや、そうでもない。人が狂人になるのは何らかの理由があるのさ」

 

 そうシュンに語ったガイドルフは、ブランの生い立ちを語り始めた。

 

 ブラン、本名ブランス・ハルフォースはアメリカ合衆国のテキサス州出身の白人男性だ。彼の祖先はアイルランドからアメリカに移住してきた移民であり、アイルランド系アメリカ人ということになる。長男坊で弟が一人、妹が一人と言う家族構成。

 祖先はテキサスがアメリカの二十八番目の州に併合されて十年後当たりで移住し、農業で成功を収めて中産階級となる。

 南北戦争の終結後、労働の担い手であった奴隷を失い、一時期は路頭に迷う寸前であったが、二十世紀初頭のテキサス石油ブームで中産階級に戻ることに成功した。現在も中産階級を維持している。

 これだけの過程に関わらず、二度目の大戦や冷戦後も、何不自由なく暮らしていたブランであるはずだが、彼はそんな生活に退屈し、退屈凌ぎの際に殺人衝動に駆られたようだ。

 地元のハイスクールでいじめっ子だった自分より金持ちの同級生を懲らしめる、否、余裕だった表情が恐怖に染まるのを見たくて半殺しにしたのだ。無論、学校が黙っている筈も無く、ブランは軽い罰である停学処分を受ける。だが、これは始まりに過ぎない。

 そこからブランは本性を隠して地元のハイスクールを卒業し、州の一大大学には弟と妹が進学したようだ。ブランは人を殺してみたいからと言って海兵隊に入隊して厳しい訓練に耐え、立派な海兵隊員として一級戦の部隊、第1海兵隊師団の所属となる。

 彼が入隊して訓練を終えた時期は西暦2002年10月、この五カ月後にイラク戦争が始まる。

 

 イラク戦争開戦後、アメリカ海兵隊は最前線に真先に投入され、ブランもまた前線に身を投じた。

 二十一世紀の最新装備に身を包んでライフルマンとなった彼は、目に見えるイラク軍の将兵らをM16A4突撃銃で撃ち殺す。人は初めて人を殺した後、ショックと後悔、罪悪感を覚える物だが、ブランは全く感じなかった。何故なら合法的に人を殺せるからだ。ここからブランは殺人中毒となる。

 戦争で同期や後輩、軍曹(ガニー)、将校らが疲弊して早く故郷に帰りたいと思い始める中、殺しを楽しんでいるブランだけはもっと戦争が長引かないかと思っていた。

 その所為か殺人中毒のブランは戦闘員のみならず、捕虜や民間人にまで手を出し始める。試合でも感染する感覚で、殺し合いまでさせていた。女子供ですら殺害の対象であり、無差別的であった。

 最初は目立たないようにやっていたが、他の海兵隊員等に目撃され、以降、海兵隊の面汚しと周りから蔑まされる。だが、彼は全く反省せず、隙を見付けては無差別な殺人を楽しんだ。

 首都が陥落して大規模な戦闘が終了すれば、戦争に託けて好き放題していたブランは即座に不名誉除隊、つまり海兵隊より追い出されたのだ。

 正規軍でなくなったブランは、コネを通じてアメリカ国内の民間軍事会社(PMC)にオペレーターとして再就職したが、正規兵でなくなった彼はそこでも殺人を楽しみ過ぎ、やり過ぎて会社は信用を失い掛け、役員会議で会社は全ての責任をブランに押し付け、彼は退職金無しの解雇となる。

 それでもブランは殺人や戦争から足を洗うことなく、フリーランスとして世界各地の紛争地帯を渡り歩き、充実した日々を送り、と言うか行き過ぎた無差別的殺人行為で雇用主から厄介払いされることが多く、現在に至る。

 

「トンデモねぇ野郎だな…人の事は言えねぇが、まさかの殺人中毒とは…!」

 

「しかも暴力的な快楽から来ている。今は自分で殺していないが、その内、他人が殺し合っているのに飽きて誰かを殺すか分からん。早い所、計画を実行した方が良さそうだ」

 

 戦うしか能が無いシュンでも、殺す人間は選んでやっているし、無抵抗な人間を無暗に殺したりはしていない。対してブランは無差別であり、自分が殺したいと思えば殺すような人間だ。そんな彼に似たような人種であるシュンでも嫌悪感を覚える。

 そんな殺人中毒のブランに、ガイドルフは銀行強盗の計画を前倒しにした方が良いと提案する。

 

「どれくらい進んでいるかだな。桜田たちと相談するか」

 

 アウトサイダーより信用するなと言われているガイドルフであるが、こういう時の彼の感は信用できるし、何よりブランがこの銀行強盗計画を知れば、何をして来るか分からないので、シュンは桜田に前倒しの相談に向かった。

 他の訓練者達と共に、AK-47突撃銃を分解し、汚れなどを落とす清掃を行う桜田を見付ければ、彼が清掃を終えてAKを組み立てるまで壁にもたれながら待つ。

 

「何か?」

 

「あぁ、話がある。まずはそいつを組み立てろ」

 

「了解であります!」

 

 パーツの清掃を終え、AKの組み立てに入ろうとする桜田はシュンに気付き、何か用だと思って手を止める。これにシュンは組み立ててからにするように言えば、桜田は仕込んだ通りの返答をしてAKの組み立てに入った。

 AK系統のライフルは反動が大きいのと命中率が悪い分パーツが少なく、文字の読めない者でも何度も説明して行っていれば目を閉じたままでも、組み立てることが出来る。

 あのアメリカですら真似て使うほどの物だ。高学歴な桜田達に数時間もかけて仕込めば、学習力の高い彼らは半日ほどでAKを身体の一部のように物にした。

 

「でっ、ご用は?」

 

「あぁ、例の計画についてだ。ここじゃあのイカレポンチに聞かれている可能性が高い。面貸せ」

 

「はい」

 

 五十秒でAK-47Ⅲ型を組み立てた桜田が問えば、シュンは銀行強盗計画の事を隠語で答えた。

 これに桜田は直ぐに理解し、シュンと共にブランの目が届かない場所へ移動する。

 

「銀行強盗計画は順調に進み、後はどう突入して素早く撤収するかですが、何かご不満でも?」

 

 計画が順風満帆であり、後はどう突入する素早く金を回収して撤収するかを練るだけだと桜田は答える。

 そこまで進んでいたことにシュンは眉を顰めて少し驚く中、ブランに気付かれていないかどうかを問う。

 

「あいつに気付かれていないな?」

 

「もちろん、気付かれていませんよ。もし気付いていたならば、煩いことこの上ありません」

 

「だろうな。奴は人殺しが好きだからな。この計画を知れば、マッポーや人質を何人殺すことやら」

 

「人殺しが好き…? それほど危険なのですか、奴は?」

 

「お前ら、知らずに雇い入れたのか。よし、奴との契約を早く切れるよう話してやる」

 

 ブランが危険人物なのは分かっていたが、想像を斜め上に行くほど危険な男であるとは桜田達は分かっていなかったようだ。直ぐに契約を解除させるべく、シュンはガイドルフより聞いたブランの素性を明かした。

 

「通りで直ぐに雇えたわけだ…! 契約解除を言い渡したいところですが、殺すしかないですね」

 

「殺す? ただ契約を切って、手切れ金を渡して出て行かせれば済む話だと思うが?」

 

 ブランの素性を知った桜田は、手切れ金を渡さずに殺すつもりであったようだ。シュンに問われた桜田は、その理由を答える。

 

「考えてみてくださいよ。奴は我々の事を知れば、直ぐに行動を移す可能性があります。貴方から聞いた話で、奴は契約違反を起こし、ここで自分の軍隊を作っている事が分かりましたよ。自分の意のままに動く兵隊をね。手始めに我々を殺して資金を奪い、自分の部隊と共に各地の紛争地を渡り歩くことでしょう。無論、殺されるつもりはありませんよ。この計画を実行する前に、奴とその兵隊共を始末します」

 

 どうやらブランが勝手な行動を取った時点で、桜田達は殺す算段を立てていたようだ。

 士官学校を出ているのに、小卒以下のシュンより優れた知識で、ブランは契約に違反である自分の軍隊作りをしていると気付き、その軍隊で自分たちを殺し、資金を奪って傭兵部隊を立ち上げるつもりであると推理する。

 無論、シュンの知らせで確証を得た桜田は、銀行強盗の実行前にブランを殺すことを決めていたようだ。

 理由を明かした桜田は、自分等を鍛えてくれたシュンにブラン暗殺計画の概要を語り始める。

 

 彼が来て二カ月余り、隙を幾つも見せて来たが、決定打には至ってない。ブランはその気になれば、桜田達を殺すことが出来たはずだが、契約の関係上、せっかく見付けた金蔓を失う訳にはいかないのか、手を出してこない。

 隙というのは、他人が殺し合っている所を見ている所である。この瞬間、相手がどう殺すのかが気になり、ブランはそれに夢中になる。これが現時点で桜田達の分かっているブランの弱点である。

 暗殺の決行は、連れて来た男達を殺し合わせている瞬間だ。奴の兵隊は寝ている間に殺すか、訓練中の合間にするようだ。

 

「なるほど、試合の観戦中に殺すのか。失敗したらどうする? 俺は戦ったことが無いが、奴はプロだ。瞬きする間に皆殺しにされるぞ」

 

「その心配は御無用。私は貴方に鍛え上げられました。身を挺してでも必ず殺します。もし自分が死んだ場合、代わりの者が計画を遂行します」

 

「…これが大和魂って奴か」

 

 暗殺の概要を聞かされたシュンは、ブランが危険であることを伝えたが、桜田達は承知であり、身を挺してでも奴を絶対に殺すと宣言した。

 それを自信に満ちた表情で語る桜田の表情はやや緊張しており、額には冷汗が見える。どうやら心の中では自分に言い聞かせ、絶対に成功させようとしている。

 熟練の戦士であるシュンは、実戦経験の無い桜田達ではブランに太刀打ちできないと思い、暗殺計画に一枚噛ませろと告げる。

 

「無論、貴方の手は煩わせません。我々だけで…」

 

「いや、俺も参加させろ。俺もあの下衆野郎が気に入らん」

 

「いえいえ、我々だけで出来ますよ! 貴方に契約外の仕事を…」

 

「それなら、マッポーに通報するまでだ。それで良いな?」

 

「くっ、分かりました…貴方が言うのなら…」

 

 シュンが暗殺計画に加担することを拒否する桜田に対し、我が儘で公安に通報すると脅せば、彼は渋々と参加することを認めた。

 自分等の尻拭いに、敬愛する教官殿は巻き込みたくなかったようだ。無論、シュンの知った事では無い。

 あのような人殺しを趣味とする男を野放しにしておけば、第三次世界大戦でも始めかねない。シュンはそう思ってブランを殺すのだ。

 あくまで桜田は自らの手で殺そうかと思っていたが、今まで自ら手を下したことが無い桜田達では躊躇うと思ってか、シュンは自分にブランを殺させろと告げる。

 

「では、奴は我々が…」

 

「いや、お前らは人を殺したことが無い。例え殺して良い奴だとしても、殺したことが無い奴は何処かでブレーキが掛かっちまう。ここは俺が殺る。お前らは、奴の兵隊を銃殺刑に出もしておけ」

 

「何所まで勝手なんです? 我々では不満なのですか?」

 

 そんなに自分等が信用ならないのかと問い詰める桜田に対し、シュンは自分の気持ちを正直に伝えた。

 

「そうだとも。大体、奴に連れて来た奴らを押し付けたのは、お前らが人を殺すのが怖いからだろう。だから血塗れの俺がやるのよ。ここは黙って経験者の言う事を聞け」

 

「…分かりました。では、銃殺隊のメンバーを選別します…」

 

 自分の親たちより説得力があるシュンに、頭ごなしに自分等を否定された桜田は何も言い返せず、承諾して銃殺隊の人選するために戻った。

 

「間違って無けりゃあ良いんだが…」

 

 立ち去った桜田の背中を見て、シュンは自分の選択に間違いが無いか心配になる。

 

 

 

 数日後、銀行強盗計画が実行できるほど進んだ所で、ブラン暗殺計画が先に実行された。

 桜田が当初の予定通り彼が求める‟試合‟の人数を用意させ、試合を観戦している間に殺すと言う物だった。元々はシュンが認める訓練者の中で上位者がやる予定であったが、訓練教官であるシュンが割り込んで入った。

 試合と言っても、単なる手軽な凶器を使って、連れて来られた者達に殺し合いをさせているだけだが。

 ブランがベンチで優雅に殺し合いを観戦している間、シュンは平然を装って彼の背後に近付く。暗殺には殺気を出してはならない。出すなら確実に殺せると思った瞬間である。シュンは出来るだけ殺気を抑えながらブランに近付く。

 

「おや、君も観戦かぁ? 後輩くん」

 

 少し殺気が漏れていたのか、ブランに気付かれた。これは想定済みであり、シュンは動揺せず、平然と彼に近付いて会話を交わす。

 

「相変わらず、悪趣味だな。こいつ等はお前が連れて来させたのか?」

 

「いやぁ、桜田君たちが勝手に連れて来たのよ。もうこれで最後にしてくれって。なんか裏がありありなんですけど。まっ、脅せばゲロるでしょ。日本人だし」

 

 この暗殺計画の為、罪も無い彼らを桜田達は連れて来たが、彼らは働かずに他者に寄生し、従わなければ暴力を振るって来た男達だ。桜田達やシュンには何の罪悪感も無い。桜田達は国家の寄生虫を一匹でも始末できて良いと思っている。むしろ初めて役に立っていると思っている。

 シュンも同意見であり、この世界で最も危険な男を始末するには、安すぎる代価だと思っているのだ。

 チャンスは一瞬、ブランが桜田達、というか日本人を舐め腐った発言をして殺し合いの視線に戻した瞬間に、シュンは恐るべき速さでナイフを抜き、殺し合いを楽しんでいる彼に向けて振り下ろす。

 

「っ!?」

 

「おやおや、駄目じゃない。殺気を出すのが後0.9秒早いよ。殺す瞬間はもっと殺気を抑えなきゃ!!」

 

 これで殺せると思っていたシュンであったが、ブランは殺気に気付き、振り下ろされたナイフを持っている手を受け止め、自分を殺そうとした大男を殺し合いの会場に投げ飛ばした。

 自分の体重は投げ飛ばせない程に重い筈だが、勢いで会場まで投げ飛ばしたブランの怪力にシュンは驚いていた。直ぐにシュンは、床に落ちる寸前に受け身を取って態勢を整える。

 殺し合いをしていた者達はその手を止め、落ちて来たシュンに視線を集中させた。

 ブランは自動拳銃、ウィルディ・ピストルと呼ばれるマグナム弾を発射できる拳銃を抜き、会場に居る者達にシュンを殺すように命じる。

 

「みんなぁ! レイドボスがご登場だよぉ! そいつを殺したらみんな合格だぁ! さぁ、殺して兵隊になろう!!」

 

 ブランがシュンを会場に投げ飛ばしたのは、選手たちに殺させるためだ。

 その言葉を聞いてか、試合前に薬物でも投与された選手たちは、一斉に雄叫びを上げながらシュンに襲い掛かる。

 

「予定が狂ったな」

 

 暗殺の計画は完全に狂ったが、シュンは動じることなく襲い掛かる男の顔面を殴り付け、工具用の金槌を奪えば、次々と襲い掛かる男たちの攻撃を避け、素早く頭部に打ち付けて殺していく。十数秒余りで、六人の男が頭に金槌を打ち込まれて死んだ。

 バリアジャケットを纏えば、この程度の数は瞬きする間に皆殺しに出来るが、生身でも十分に殺せる数なので、敢えて使わずに生身で戦った。

 六人を殺したシュンの見事なまでの無駄な動きの無さに、ブランは舌を巻く。

 

「面白いじゃない」

 

 銃を握りながら言えば、狂気による攻撃を避けつつ、確実に急所を狙って殺していくシュンの姿を眺める。ここ最近は素人の殺し合いを見ているブランだが、久方ぶりに見たプロの動きに、興奮して夢中になっている。例えるなら、自分が応援する選手が最高の動きを見せ、勝とうとしている所だ。

 少し振るい過ぎて金槌の柄の部分が壊れてしまった。直ぐにシュンはそれを放棄して落ちている別の凶器、バールを拾い上げ、群がって来る男達を殺し始める。

 一体、何分経っただろうか?

 シュンは目前の男の頭に突き刺し、素早く引き抜いてから思った。ブランの暗殺に失敗した際、時間を数えるのを忘れてしまったようだ。

 だが、そんなことは関係ない。今は自分を殺しに来る男達を、居なくなるまで殺し続けるだけだ。殺した後も周囲を警戒し、バールを振るって確実に殺す。急所では無い個所ではだめだ、それではまだ敵は殺しに来る。

 敵は薬物を投与されており、完全に痛覚が麻痺している。何所でブランがそのような薬物を調達してきているのか疑問に思うが、今はそんな事を考えている暇はない。殺すだけだ。全員を殺した後、次はブランを殺すだけ。ただそれのみ。

 

「おいおい、九十秒…!? 二十人が九十秒で全滅…!? あんた、何所のガンダムですかッ…!?」

 

 確かめるために殺し合いの会場に投げ飛ばしたブランであったが、予想を遥かに上回るシュンの殺しぶりに魅入られて夢中になった。

 しかし、九十秒で二十人を皆殺しにしたシュンを見て、その選択は街が居であったことに気付く。あれほどの人数を殺したにも関わらず、汗一つも掻いてない。汗だと思って滴り落ちているのは、返り血だ。この世の物とは思えないシュンに、ブランは戦場で感じてきた死の恐怖を思い出し、足を震わせる。冷汗も掻いている。手を振るえてきた。

 

「これの五倍以上の数を、生身で相手させられた経験があったからな。あの時の数よりはマシか」

 

 顔に着いた返り血を拭うシュンは、百人よりはマシであると呟く。

 これを聞いたブランは失禁し、錯乱状態になってマグナム弾を発射する自動拳銃の銃口をシュンに向けた。

 

「あっ、あぁぁ貴方ぁ! 何所の漫画の主人公ですかァーっ!? 漫画から出て来たんですかァ!?」

 

「うぉ!?」

 

 シュンにとっては訳の分からない質問をするブランは、直ぐに引き金を引いて発砲を開始する。初弾は足元に当たれば、第二射目が来る前にシュンは的を絞らせないように走り回り、敵に銃弾を無駄にさせる。動き回るシュンに対し、錯乱状態のブランは拳銃を撃ち続ける。

 放たれた弾丸は強力なマグナム弾であり、死体の頭部や四肢は直ぐに吹き飛ぶ。これを見たシュンは流石に冷汗を掻き、何か飛び道具になる物が無いか走り回りながら探す。

 

「畜生、拳銃を用意するんだった!」

 

 拳銃を用意しなかったことを後悔しつつ、包丁を見付け、相手が再装填している隙にそれを投げナイフのように、勢いよく助走を付けてブランに向けて投げた。

 

「ガァァァ!?」

 

 投げられた包丁は見事に拳銃を握るブランの右腕に刃先が貫通するほどに突き刺さり、余りの激痛に拳銃を手放す。拳銃は床に落ちたが、シュンの方へは落ちなかった。思わぬ反撃を受けたブランは、思わずこの場から逃げ出し始める。

 

「逃がすかっての!」

 

 死の恐怖に駆られて逃げるブランに対し、シュンはここで温存していたバリアジャケットを身に纏い、空を飛んで逃げる殺人中毒を追跡する。

 ほんの数秒ほどでブランに追い付き、そのまま体当たりを食らわして地面に叩き付けた。

 地面に叩き付けられ、全身の骨を砕かれて二度と動けなくなった上、内臓に折れた骨が突き刺さったにも関わらず、まだ息のあるブランはシュンが何者かであるかを問われる。

 

「うげぁぁぁ…! あ、貴方は、異世界の人ですかぁ…?」

 

「あぁ、その通りだ。でっ、質問はそれだけか?」

 

「貴方、なんでこの世界に…? 俺TUEEEしたくて来たんですかぁ? この世界でぇ…」

 

「違うな。そんなつまらねぇことするために来たんじゃねぇ。来た理由は復讐の準備の為だ」

 

 問われるシュンは、この世界に来たのはネオ・ムガルに対する復讐の為だと答えた。

 何故答えたかは、これから殺す相手であるからだろう。復讐と聞いたのか、ブランは全身に激痛を感じているにも関わらず、笑い始める。

 

「ふ、復讐…プハハ…そ、それ、ただの自己満、いや、オナニーじゃないっすかね…? ブフフ…」

 

 不気味な笑みを浮かべ、血を吹き出しながら自分を貶すブランを、今すぐ殺してやろうかと思ったが、シュンは殺さず、バリアジャケットを解いて立ち上がり、その場から離れる。

 早く楽にして貰おうと、挑発したブランであるが、それに乗らなかったシュンに、なぜ殺さないのかと問う。

 

「あ、あの…あれ殺すところでしょォ…? な、ななんでこ、殺さないの…? 僕ちゃん苦しいのぉ。は、は早くこ、殺してぇ? ねぇ、殺してぇ…! い、痛いよぉ…!」

 

 そう言って自分を殺すように訴えるブランであるが、シュンは無視して立ち去るだけだ。

 なぜブランを放置するかは、己の犯してきた罪を反省させるためである。がっ、当のブランは自分のやって来たことに一切省みる様子を見せず、早く楽になりたいからって、シュンに侮辱的な言葉を掛けて自分を殺すように仕向けるばかりだ。

 

「お、おい…! 殺せよチンカス…! お前のやってる事なんて自己満足なんだよぉ! どうせ勝てない相手なんだろぉ!? だから雑魚狩りしてレベル上げしてんだろぉ!? なぁ…!? もう誰かが倒してるんじゃないかなぁ? それともお前がくたばるのが先かなぁ? あははは…!」

 

 死ぬ間際のブランの姿は、酷く見っとも無く、下品な最期だ。

 

「ちょっ、お願い…! ここ、殺すところって…! こ、殺して。お願い、殺してぇ、殺し…ぶっ、ブゴゴホ、プハッ…!」

 

 そのまま誰にも看取られることなく、ブランは自分が殺して来た者達に対して、一切の反省を思うことなく、喉に溜まった自分の血で溺れ死んだ。

 想定外の事が起きたが、ブランを殺すことには成功した。

桜田の銃殺隊も、ブランの教え子たちを誰一人逃すことなく全員の拘束に成功し、見事に銃殺刑に成功させたようだ。

 拘束の最中に複数の負傷者を出したようだが、一人の犠牲者は出なかった。しかし、負傷者は銀行強盗計画に参加するメンバーであったため、代わりの人員を探す羽目になった。

 参加者の内の誰かを入れなくてはならないだろうが、プロの殺人鬼を相手に安い損害で済んだのでマシな方である。

 後は人選の再編を行い、銀行強盗計画を実行して水晶の欠片の一つを入手するだけだ。




新キャラ死亡確認…!

シュンが着いた途端、イキリ始める愛国者たち。

そんで大剣使って無かったな…てか、この章で使う所がね。

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