復讐異世界旅行記   作:ダス・ライヒ

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今年最後が銀行強盗ツアーだなんてな…。

新キャラ登場です。


銀行強盗ツアーアジア編
東京編1


 宇宙世紀の世界で一年戦争の終結を見て、虚無の世界へ戻ったシュンはバリアジャケットを纏い、剣技と能力の修行に勤しんでいた。

 汗を流しながらスレイブを振るい、火を放って仮の標的を燃やす。次に氷の技を掛けて火を消す。

 

「まだまだだな。これじゃあ人間を燃やせねぇ」

 

 火力の具合を見てシュンは、まだ火力不足と判断する。氷の方も同様であり、完全に氷漬けに出来ないことが不満らしい。

 大剣の剣技は自分で納得するくらいに満足しているようだ。剣の稽古をしばらく続けた後、バリアジャケットを解除し、銃を使っての射撃訓練を行う。

 最初は拳銃からの訓練を行った。ここは虚無の世界だ。自分が望めば、アウトサイダーが目当ての品を直ぐに出してくれる。

 弾詰まり(ジャム)が起きない回転式拳銃S&WのM29の大口径モデルを持ち、安全装置を外してから的に向けて放つ。

 凄まじい反動が巻き起こるが、シュンの腕力でそれを捻じ伏せる。一発目は当たったが、二発目は逸れてしまう。

 

「やっぱこいつはねぇな」

 

 全弾撃った後は机に置き、自動拳銃のコルトM1911A1に切り替え、安全装置を外してスライドを引いて初弾を薬室に送り、的に向けて撃ち始める。

 初弾は的中央に命中、二発目も命中、三発目は少し逸れ、最後の七発目は再び的の中央に命中した。

 

「流石は45口径だ」

 

 シュンは気に入ってそう言った後、空の弾倉を排出するボタンを押して排出し、床に置いた。後で清掃するのだ。

 次にシュンはアサルトライフルの射撃訓練に入る。その次はライトマシンガン、ボルトアクションライフルでの射撃、散弾銃、重火器の射撃訓練と虚無の世界で思う存分に出せる武器を撃った。

 

「ここまでにしておくか」

 

訓練を終えれば、シュンは少し休むことにする。

コアに予め入れて置いていたソファーを出してそこに座り、横になって昼寝を始める。

 

「シュンよ、次なる水晶の場所が分かったぞ」

 

 暫く寝た後にアウトサイダーが現れ、次なる水晶の場所を告げる。

 水晶は今まで通り一つでは無く、三つの欠片に分かれている。一つ目は日本の首都である東京の銀行で、二つ目は韓国の首都ソウルの銀行、三つ目は中国の首都北京で支配者である共産党員御用達の銀行だ。

 なぜ水晶の欠片が三つとも銀行にあるのかを疑問に思ったシュンは、直ぐにアウトサイダーに問う。

 

「なんで三つとも銀行なんだ? 俺は銀行に行った事なんて二回くらいしか無いぞ」

 

「そうか。しかしその三つの欠片は議員と財閥当主、共産党員の物だ。厳重に保管されている」

 

「銀行強盗でもしろってか? 済まねぇが一度もやった事が無いんだ」

 

 銀行に対する質問を無視したアウトサイダーに対し、シュンは気にせず銀行強盗をしたことが無いと告げた。

 これにアウトサイダーは水晶の欠片がある銀行の住所と場所を記した資料を出し、あのガイドルフに頼ってみてはどうかと提案する。

 

「ならば、その道のプロに頼ると良いだろう。あの男なら、直ぐにでも方法を思い付くはずだ」

 

「ガイドルフか。あいつ等なら知っていそうだな。あんがとよ」

 

 資料を受け取ったシュンは、アウトサイダーに礼を言いながら虚無の世界を出た。

 

 

 

 虚無の世界を出たシュンは、現代の東京へ来ていた。

 服装も一般的な物に変え、周りに溶け込んで公園のベンチに座り、慣れない携帯を操作してガイドルフを呼び出す。

 都会特有の喧しい程の騒音を聞きながらじっと待っていると、久方ぶりと言うべきガイドルフがやって来た。

 

「よぅ、久しぶりだな」

 

「おぅ、久しぶりだな。協力を頼めるか?」

 

「お安い御用だ。でっ、何を企んでる?」

 

「これだ」

 

 気兼ねなく挨拶を交わした後、ガイドルフにアウトサイダーから受け取った資料を渡して読んでもらう。

 それを読み終えたガイドルフは、三つの内一つの水晶を渡してくれるように、所持している国会議員に頼むのかと問う。

 

「それで、この野党の国会議員様にこの水晶を下さいと頼むのか?」

 

「あぁ、平和的に行きたいが、手持ちが無くてね」

 

「なるほど。ただで頂戴したいってか。それなら当てがあるぞ。来い」

 

 直ぐにガイドルフはシュンが銀行強盗を企んでいると見抜き、その伝手があると告げた。

 ついてくるように伝えれば、シュンは両手をズボンのポケットに突っ込んで金髪の浅黒い肌のヘビィスモーカーの男の後に続く。

 ガイドルフは一服しながら周囲を警戒しつつ、自分の車に乗り込み、無言でシュンに後部座席に乗るように告げた後、ドアを開けて運転席へと座った。これに従ってシュンも後部座席に座り、ガイドルフがエンジンを掛けて車を発車させるのを眺める。

 走行中、シュンはなぜ周りを気にしたのかをガイドルフに聞いた。

 

「なんで周りを警戒したんだ? 何所も平和ボケした奴ばっかりだろ」

 

「あぁ、もちろんそうだ。だが、これから向かう先は日本の保安機関、公安に目を付けられていてな。いわゆる極右だ」

 

 公安の尾行に警戒していると答え、その公安に目を付けられている極右のアジトへ向かうと答えた。

 暫く公道を走り、人気の無い場所へと出れば、また周囲を警戒して公安の尾行が居ないかどうかを確認し、スマートフォンを取り出して素早く指を動かしてメールを打ち込み、それを送信する。

 シュンも周りを見渡し、後をつけている者が居ないかどうかを確認してから欠伸をした。

 数分後、メールの返信が届いたのか、ガイドルフは再びエンジンを掛けて車を走らせる。

 

「どうした?」

 

「お前が一緒な事を伝えた。歓迎してくれるそうだ」

 

 メールの返信が何かを問えば、ガイドルフは向こう側の許可が出たと答えた。

 再度シュンは周りを見渡し、誰もついてこないことを確認してこれから向かう極右団体がどんな物かを問う。

 

「でっ、その極右団体ってのはなんだ? ナチスか?」

 

「お前はメロスのように政治が分からない奴だからな。日本なのに鉄砲がワンサカしている世界で色んなのと戦ってたのにな。まぁ、教えてやろう」

 

 ガイドルフはシュンの政治に対する知識の無さに呆れつつ、いま向かっている極右団体について説明した。

 読んで字の如く、極端な右翼政治団体であり、日本を生前の大日本帝国のような覇権国家に立て直そうと日々活動している。当然ながらヨーロッパの極右政治団体のように暴力的な手段で出る事もあり、政府関連施設や民間人への被害を抑えるために公安などのような対テロ組織が監視する必要がある。

 シュンが向かっている極右団体は、公安に重要監視対象として定められているほど危険な団体だ。過去に暴力沙汰を何度か起こしており、反社会的団体やテロ組織と言っても過言では無い。だが、その存在はネットに噂される程度だ。

 団体の歴史は半世紀以上前からで、バブル崩壊以前までは単なる右翼政治団体であったが、バブル崩壊後の二十一世紀に突入してからは過激な活動が目立ち、暴力団体のようにマークされ、現在に至る。

 銃が日本でも日常的に使われていた世界で、シュンは似たような物と戦っていたが、あれはもはや民兵や銃を持った盗賊だ。それより入る予定の団体はそれより可愛い分類である。

 

「おいおい、さっさと警察は踏み込まないのか? こんなのが銃なんて持ったら俺でもヤバいと分かるぞ」

 

「残念だが、そう簡単には動けんのさ。連中はヤクザと同じく上手くやっている。まぁ、やり過ぎれば、動くだろうが」

 

 似た暴力的な極右団体というか、テロ組織と交戦したシュンは直ぐにその極右団体を逮捕するべきだと言うが、ガイドルフはそう簡単には上手く行かないと答えた。

 公安には目は付けられているものの、物的証拠や裏が取れていないので、強制調査や逮捕には踏み切れないでいる。

 

「取り敢えず、お前は戦闘教育の為に雇われた傭兵だ。連中の機嫌を損ねるなよ」

 

「分かったよ。教官は一度だけやったことはあるが、愛国ごっこを立派な兵隊に出来るか不安だぜ」

 

 これ以上、政治の話をしてもシュンは理解できないと判断してか、ガイドルフは打ち切って教官役として振る舞えと告げた。

 普通の民間人に軍事教練を行った経験は一度だけはあるシュンだが、上手く教えられる自信は無い。シュンが不安を抱く中、ガイドルフは車を目的地まで走らせた。

 

 

 

「例の情報屋だな。そっちは?」

 

「雇われ講師だ」

 

 極右団体のアジトの本部へと案内されたシュンとガイドルフを待っていたのは、若い男女であった。

 政治団体の首領や幹部と言えば、老人たちを想像していたが、彼らはまだ二十代後半と言った所で、とっくに就職して働いているか、結婚しているかのどちらかのような年齢である。

 自分と年齢が近い事にシュンが驚く中、ガイドルフは気にせずにリーダーの若い男に隣の大男が軍事教練の教官であると紹介する。

 流石に予想外であった為、シュンは耳打ちでガイドルフに若い連中がリーダーや幹部なことに疑問を抱いて問う。

 

「おい、聞いてないぞ。俺みたいな年齢の奴が幹部だなんて」

 

「驚かせようと思って黙ってたんだ。まるで日本赤軍みたいだろ? カッコいいと言うだけで入っただけじゃない。国を良くしたいと思ってやってる、いや、親の七光りじゃないことを証明するためにやっているのさ。この坊ちゃん嬢ちゃんたちは」

 

「坊ちゃん嬢ちゃん?」

 

「あぁ、幹部連中はみんな富裕層出だ」

 

 ガイドルフは驚かせたくて黙っていたと答えれば、幹部はリーダーを含め、絵に描いたような富裕層であると明かす。しかも全員が一流大学を卒業している高学歴である。これだけ恵まれているにも関わらず、なぜ極右団体で政治活動をしているのかが疑問だ。

 直ぐにシュンは将来を約束されているのに、わざわざ危険を冒してまで七光りで無いことを証明したいのかを問う。

 

「なんでそこまでやるんだ? 十分すぎるくらいに恵まれてるじゃねぇか。そんなに親の七光りが嫌なのか?」

 

「孤児院育ちのお前さんには分からんと思うが、優秀な親を持つ子供の気持ちは複雑だ。周りからはいつも親と比べられ、成功しても、それは親の七光りだと揶揄される。あの若い奴らは、デカい事を成し遂げて自分達の実力を示したいのさ」

 

「分からねぇな…俺には」

 

 裕福な家庭にもそれなりのしがらみがあることをシュンに伝えたが、少年時代より家族や裕福な家庭に憧れる彼には理解し難い物だ。

 自分とは違って両方揃った親が居て裕福で将来も約束されているのに、なぜそれに感謝せずに危険な真似をするのか?

 そう聞かされてますます理解できないシュンに対し、ガイドルフは分かり易く理由を伝える。

 

「あいつ等は決められたレールの上で走り続けるのは嫌なのさ。だから脱線して別のレールを探している。そんな所さ」

 

 これにシュンは、若者たちが親に逆らう子供のように見えた。

 気持ちは分からないわけでは無い。あの若者たちからしてみれば、ただ親の言う通りにして、その道を歩むと言うか歩かされている気がしてならないのだろう。人は誰でも自分の道を決めたい物だ。殆どが親の言う通りにしているが。

 そんな彼らを見ていると、リーダーの男が自己紹介をして握手を求めて来る。

 

「私は桜田山戸。この憂国日本会の会長を務めさせて貰っています。出身はどちらで?」

 

 桜田と名乗り、右手を差し出してくる若い男性に対し、シュンはモンゴル人と名乗ってその手を取った。

 

「モンゴルだ。バートル、バートル・バーウガェ。自営業だ、戦争関連のな」

 

「バートルですか。依頼を受けてくれてありがとうございます。他の会員も紹介しましょう」

 

 偽名を名乗ったが、どうやらガイドルフがその名で彼らに紹介したようだ。今しがた名乗った名が偽名だとは気付かず、桜田はメンバーの紹介を始める。

 

 最初に名乗った桜田は元総理大臣の息子であり、容姿端麗で高学歴だ。親のおかげで国会議員の肩書を持っているが、国会には出ず、ここで右翼的な政治活動を行っている。絵に描いたようなエリートであるが、彼はそれを良く思っておらず、自分だけの力で野望を成し遂げようと日々切磋琢磨している。

 次に安原大知と言う若い男。この男もまた政府に顔の効く企業の御曹司であるが、桜田と同じく日本を自分たちの手で憲法改正に再軍備化を目指し、アメリカに頼る事が無い完全なる独立国家とするために参加した。

 三人目は木下栗尾、彼は左派系政党の議員の息子であるが、親の政治家としての無能ぶり反発して極右団体に参加した口だ。無能で左翼な親とは違い、右翼な自分は有能であることを見せたいのだろう。

 紅一点である真栄田聖子。彼女は大企業のご令嬢であり、ここでは似つかわしくない程の容姿端麗で才色兼備であるが、自分の優秀さを証明するべく、女性のみでこの極右団体に参加する。

 最初は門前払いを受けたようだが、男にも負けない優秀さを見せ付け、物の見事に幹部クラスまで昇進した。以降、誰も女だと思って馬鹿にしていない。女だからと言って馬鹿にするのは、自分が無能であることを証明しているからだ。

 最後の中年男は憂国日本会の古株。桜田達が入ってくる前から居たが、前幹部と会長のやり方に不満を抱いており、若い彼らならばやってくれると思い、前会長等を暴力的な手で抹殺して桜田達を幹部と会長の座に推薦し、思惑通りに若者たちはこの団体のトップとなった。

 

「我々に戦闘訓練を受けさせてもらいたい。既に軍事顧問を雇っているが、あれは危険と言うか…」

 

「なに、俺の前に教官が居るのか? なんで俺を指名する? そんなに嫌なのか?」

 

 自分等に戦闘訓練を受けさせてほしいと言う桜田だが、シュンの前にも軍事顧問が居る事を明かす。

 その軍事顧問の事を話す桜田が嫌そうな表情を浮かべたので、自分を指名した理由を問う。他の者達の表情を見る限り、現在雇用中の軍事顧問は相当なまで異常なのだろう。

 

「あの軍事顧問ははっきり言って異常です。見れば分かりますよ」

 

 桜田は実態を見せる為、軍事顧問が居る訓練所までシュンを案内した。

 訓練所は公安の監視と衛星からの監視を逃れるために地下にある。射撃場も地下に設けられている。外で射撃訓練などすれば、周辺に銃声が響いてしまい、警察に通報されるおそれ、自分等が検挙される可能性があるからだ。

 それにここは桜田達の私有地である。前は地下に訓練所を儲けられるほど広くなかったが、桜田達の財力によってここまで拡大した。

 話を戻し、訓練所に着いたシュンは、恐ろしい光景を目にしていた。

 

「おいおい、なんだこいつは? 狂戦士でも育ててんのか?」

 

 戦場で幾つかの残忍な光景を見て来たシュンは慣れ切っており、目の前の光景に呆れていた。

 そこで行われていたのは殺し合いだ。十代後半から五十代までの男達が、それぞれ凶器を手にして殺し合っている。殺し合いは自分が来る数時間前から行われていたようで、無数の死体が転がっている。床を見れば、軍事顧問が来てから行われていると思われる。

 殺し合いをしているのは借金を抱えた男達だとシュンは思ったが、大部分が痩せ細っている。どうやら何かしらの事情を抱えた男性たちの様だ。

 彼らが殺し合っている様子を、優雅に楽しんでいるのが件の軍事顧問だろう。私物の椅子に座り、近くに置いている机の上のドリンクを飲みながら殺し合いをまるで試合のように楽しんでいる。

 このような光景にシュンは腹を立てることなく、どうやって死体の処理をしているのか、桜田に痩せている男達は誰なのか、それと殺し合わせているのかを聞く。

 

「でっ、あいつが軍事顧問か? なんで痩せっぽっち共を殺し合わせているんだ? 最初は体力作りをするんじゃないのか?」

 

「あぁ、奴らは寄生虫です。いわゆるニートですよ。引きこもりも何人か含まれています。親や家族から安値かただで引き取り、将来は兵士にするべく軍事訓練を科しています。まさか殺し合いさせるとは思いもしませんでした…! 生き残った者を兵士として訓練を受けさせるようです。自分等はあの軍事顧問には逆らえません…! あの男はこれを楽しんでいるのですよ…!」

 

 桜田の返答に痩せているのは無職の引きこもりで、後は親のすねかじりや迷惑を掛けている男達であると分かった。中にはヒモなどが居るらしい。

 そんな男達を軍事顧問が殺し合わせる理由はただ一つ、自分が楽しむためである。もっとも、生き残った者には訓練を施しているようだ。

 流石に桜田達が止めようとしたが、軍事顧問は数々の死地を乗り越えて来た百戦錬磨の強者であり、彼がその気になれば自分等は瞬きする間に皆殺しにされるおそれがあるので、逆らえない。

 

「優秀なのは間違いありません…! ですが、あれでは我々の方が持たない…! だからこうして真面な貴方を呼んだのです!」

 

「理由はわ-た。いわゆる試験をやってるんだな、あいつは。でっ、合格者を兵隊にすると。実に合理的だな、あれなら最強のチームが作れそうだ。死体処理の事を考えれば同情するが」

 

「合理的? 自分から見れば、あいつが楽しむためにやっているようにしか見えませんよ! 最初はどうせ殺されるのは社会のゴミだと思っていい様だとは思いましたが、あいつは一度で満足できず、更に要求してきて今がこの現状です! おまけに脅し付けています!」

 

 大勢を殺し合させ、生き延びた者に訓練を受けさせることが合理的であると言うシュンに対し、桜田はこの大男にも異常性を感じているのだ。おまけに死体処理もしない、自分等にその処理を押し付けているのである。

 軍事顧問が桜田たちを脅し付け、底辺の男達を集めさせていることを知ったシュンは、どうして殺し合いをさせているのかを聞くべく、彼の元へ向かう。

 

「よくもまぁ、それで愛国とか再軍備化とか目指してんな。まぁ、聞いてみるか」

 

 自分達が雇っている男に脅されて従っている桜田達の不甲斐無さを知ったシュンは、さっそく彼に近付いたが、近付くにつれてこれまで戦って来た戦士たちと同等の殺気を肌に感じた。

 

「(なんだこいつは!? 俺が今まで戦って来た奴らと同等、いや、あの金髪の女以上の殺気だぞ! 他所の人間じゃねぇのか?)」

 

 マリと同等、あるいはリガンと同等の殺気を持つ軍事顧問に、シュンは額に汗を浸らせながら声をかける。

 

「よう、先輩」

 

「ん~? あれ、新人君? 君も愛国とか目指して入っちゃった?」

 

 その男は白人であり、シュンより10cmも背が高かった。大柄であり無駄な脂肪は付いていない。全身が筋肉で出来ているかの如く、並の男なら素手だけで殺せそうだ。

 短髪の色がオレンジで顔はやや整っているが、目付きは完全に狂人である。シュンの接近に気付いた、この訓練所に足を踏み入れた時点で気付いていた様子で話し掛けて来る。

 

「いや、お前と同じ軍事顧問だ。幹部の坊ちゃんと嬢ちゃん等はあんたの訓練を嫌っているらしい。なんかやったのか?」

 

「へぇ、俺と同じ傭兵なんだね。君からは人殺しの匂いがプンプンしてるね。消臭剤を掛けても消せないくらいに臭うよ。殺した数覚えてる?」

 

 どうやら最初からシュンが兵士であると見抜かれていたようだ。目前の不気味な男は、シュンから放たれるオーラで兵士と気付いたようだ。

 同じ軍事顧問として雇われたと言えば、男は殺した人数を聞いてくる。これにシュンは殺した数は覚えていないと答える。

 

「さぁ、覚えてないな。最初は気分が滅入ったから…」

 

「だよね~俺たち傭兵友達、略して傭友だよ。あっ、これ日本のハイスクールガールで流行ってる略語って奴。あっ、興味ない?」

 

 馴れ馴れしく話してくる男に、シュンは無表情で無言のままだ。

 そんなシュンに対し、男は椅子から立ち上がって自己紹介を始める。

 

「おっと、自己紹介忘れてた。ごめんご、ごめんご。俺、ブランジャルーンって言うんだよ。略してブラン。あっ、これ偽名ね。本名なんて名乗ったら家族に迷惑掛かるじゃん? あっ、俺家族居ないけど。そう言うオタクも偽名っしょ? なんか日本語上手いし。日本人っしょ?」

 

 偽名であるが、男はブランジャルーンであると分かった。そんな彼はシュンも偽名を名乗っている見抜き、本当は日本人であると告げた。無邪気に話し掛けて来るブランジャルーンことブランに、シュンは気味の悪さを覚える。

 このままでは彼のペースに呑まれると思ってか、なんで殺し合いをさせるのかを問う。

 

「でっ、なんで殺し合いなんかさせるんだ? 殺しあわせなきゃ、歩兵一個中隊が編成できたはずだぞ」

 

 疑問をブランに問うたシュンであるが、問われた本人は眉を顰めたものの、にやついた表情を浮かべ、映画とかアニメの真似をしていると答える。

 

「あぁ、それね。雇い主にも言われたけど、あれは‟趣味‟なんだよ。主にバトルロワイヤル系が好きかな。ちなみに映画もアニメも趣味よ、主にグロイの見てる。でさ、あれ真似したくなるのよぇ。良い大人が映画やアニメの真似なんかしてなんて思ってるでしょ。でもさ、リアルで人が死ぬところとかバラバラになるところ見たくなるでしょ? だから俺は傭兵とかやってるの。それを見たり真似するためにね…!」

 

 自分が見た映画やアニメのグロテスクなシーンを、リアルで再現しようと思ってやっている。これには流石のシュンも引いた。子供のように残忍な事を真似しようなど、通りで桜田達に恐れられる訳だ。そんなシュンにお構いなしに、ブランは続ける。

 

「俺はさ、殺し合いのゲームの中では無敵だと思ってる奴、嫌いなんだよね~。あいつ等リアルじゃ何にもできないくせしてゲームじゃ粋がるんだよ。それでさぁ、俺はそいつ等をリアルに引きずり出して殺す訳よ。ただ殺すだけじゃつまらないからさ、底辺同士で殺し合わせてるわけ。でも非効率って思われるから、生き残った奴だけを兵隊として教育してるのよ、俺は。分かる? 俺って立派な教師でしょ? 生き残った奴は立派に俺の試験を合格できたんだから、感謝して欲しい、周りからは理解してほしいよ」

 

 ブランの口から語れたのは、常人には理解し難い恐ろしい理屈だった。あの殺し合いはブランにとっては試験に過ぎない。一人残った者だけが合格者なのだ。だから自分は教師としてふさわしいと、ブランは思っている。

 常人とはかけ離れているシュンも、この男の理屈に戦慄すら覚えた。

 桜田達は、ブランに同志たちで殺し合いをさせられるのではないかと恐れているのだ。だからこそ自分を呼んだのだろうと、シュンは思った。

 これ以上、ブランの持論を聞いていれば殺したくなるので、シュンはここで彼と話すのは止めることにした。

 

「取り敢えず、お前が‟立派な教師‟なのは分かったよ。それと金貰ってんだ、雇用主の言う事は少し聞いて置け。それと死体処理は自分でやれ」

 

「あぁ、ありがとね。でも、後輩なのに生意気だな~。センパイ文化知ってる? この国の常識だよ? まっ、俺は心が広いから許すけど。プフッ」

 

 最後にお世辞を言って、雇用主を脅すのは止めるように注意した。

 ブランはこれに対しセンパイ文化などと持ち出して来たものの、自分は心が広いなどと言って承諾した。がっ、はっきり言って嘘であり、表情は笑っているが、目は笑っていない。本当はシュンをどうやって殺すかを、何通りも考えている。

 自分の事を知らせた桜田達も、どうやって殺すかも考えているだろう。自分の意に反する者は殺す。ブランはそう言う男なのだ。

 桜田達の元へ戻ったシュンは、一応は言っておいたと報告する。

 

「一応は言っておいたぞ。奴が何をしでかすか分からんが」

 

「ありがとうございます。これで少しは大人しくなるでしょうが、あいつがいつ反乱を起こすか分かりません。こちらも対応策を考えねば」

 

「あいつは危険な男だ。何か仕出かす前に殺した方が良さそうだな」

 

「奴の兵隊もな。奴の考えに染まっている可能性が高い」

 

 報告を聞いた桜田達はホッとしているようだが、ブランの癪に触ったことは変わりないので、何か仕出かすのではないかと考え、対応策を講じる。

 次にシュンは桜田達の訓練を、いつから始めるかどうかを問う。

 

「でっ、いつ訓練を始める? 訓練をするならそれなりの装備が必要になるが」

 

「装備の方はある程度の程は揃っています。明日にでも始めたいところですが、スケジュールを組まないと」

 

「あぁ、それか。よし、さっそく取り掛かるか」

 

「聖子、軍事顧問殿を部屋に案内してくれ」

 

「待ってくれ。ガイドルフ」

 

 訓練の日程は明日だと桜田が言えば、シュンはスケジュール作りに取り掛かった。

 自室に案内される前に、シュンはガイドルフにブランについて調べるように伝える。

 

「ガイドルフ、奴について調べてくれ。あいつは危険だ」

 

「任されて」

 

 シュンはこの世界の住人とは思えない程の殺気立ったオーラを持つブランを危険視していた。

 調べれば何か弱点が分かるかと思い、ガイドルフに調査を依頼したのだ。お気に入りの男からの依頼に対し、ガイドルフは無償で引き受ける。

 

「それじゃあ、俺は用事があるのでこれで」

 

「ありがとう。では、軍事顧問殿。明日は一同揃ってよろしくお願いします」

 

「おう、覚悟しろよ」

 

 ガイドルフはブランの素性を調べるためにアジトを後にすれば、桜田達はシュンに向けて頭を下げた。

 これにシュンは笑みを浮かべて告げれば、自室を案内する聖子の後に続いた。

 

 

 

 後日、シュンの訓練は昼頃に外の空き地に開始された。水晶の欠片を保管してある銀行に対する情報収集に関しては、構成員の情報担当が行う。尚、情報担当はシュンの訓練には参加しない。

 人数は昨日より多めの中年を含めた五十人と一個小隊程度で、ブランよりも信頼できるシュンの訓練を受けた方が良いと判断したようだ。当のブランの試験を合格した極少数は、人間とは思えない訓練を行っている。

 最初は軽い運動を行い、どれくらい動けるのか確かめる。高度な教育の一環で体育も優秀であったらしく、体力もそれなりにあるようだ。

 三十分くらい続ければ、本格的な軍隊式の訓練に入る。軍隊式と言えば射撃訓練と思われるが、体力練成を目的とした体力向上訓練から始まる。

 いくら小学生から大学卒業まで優秀な成績を収めたエリートたちとは言え、軍隊式の訓練は流石にきつかったようだ。

 

「どうした、お前ら。この程度でへばってちゃあ、米国からの脱却や強い日本には出来ないぞ!」

 

「は、はい! 教官殿!!」

 

 倒れ込んだ日本を憂うる若者たちに対し、共に訓練をしていたシュンは鼓舞する言葉を投げ掛ける。

 これに若者たちは奮起して立ち上がり、常人とは体力がかけ離れたシュンの後に続いて体力向上訓練を行う。スケジュール通りに行ったが、やはり脱落者が出た。脱落した者は医務室へと訓練を受けていない構成員らに運ばれていく。

 この体力向上訓練は夕暮れを持って終了し、予定通り後日の早朝から二日目が開始される。シュンの訓練は厳しく、怪我をする者まで出た。

 二日目の体力向上訓練が終わる頃には、五十人いた若者たちは三十七人にまで低下していた。中年の構成員はほぼ全員が脱落し、幹部はなんとか全員残った様子だ。

 初日と同じく夕暮れで終わり、シュンは脱落した者や最後まで残った者達に向けて労いの言葉を掛け、訓練はスケジュール通りに三日目に突入する。三日目も早朝から開始された。

 

「よし、お前ら聞け。お待ちかねの戦闘訓練だ。だが、お前らの大好きな銃はまだだ。格闘訓練を行う。近接格闘術は重要だ。軍隊を知らんお前たちは銃を使えば良いと思っているようだが、銃が無ければどう戦うんだ? まさか降伏するとは言わねぇだろうな? それで愛国者と名乗れるか? いや、名乗れない! お前らは敵に強力な武器を使わす程の危険な奴になるんだ! 銃を持たなくとも格闘術で人を殺せる人間になれ!」

 

 近接格闘訓練は、なぜ訓練を行うかと言う講義から始まった。シュンは集まっている訓練参加者らに対し、熱く格闘術の重要性を説く。何名かは理解できなかったが、若い者達の何人かは理解したようだ。

 これもまた厳しく、数名が怪我を負った。当のシュンは余裕を残しており、最初に組み手をやって全員を地面に叩き付けた。

 それから近接格闘訓練を行い、訓練参加者らの身体に身に染みるまで丸一日を掛けて続ける。この訓練だけで、シュンは三日以上も費やした。

 六日目に突入したところで、ようやく射撃訓練に入る。

 

「よく耐えたと褒めてやろう。ここで街に待った射撃訓練だ。最初は拳銃から行う。この回転式拳銃だ」

 

 最初の射撃訓練は地下で行われる。銃を撃ったことも無い者達に配慮し、拳銃、弾詰まりが起こらない回転式拳銃で行われた。

 使われたのはアメリカで投げ売りされていた民間用、それも護身用の22口径モデルの物だ。

 何所にあったと言えば、倉庫に実包を抜かれた状態で保管されていた物を引っ張り出して来たのだ。アメリカで大量購入し、税関を誤魔化すためにばらした状態で日本に持ち込み、数カ月間ほど保存してあった為、訓練に参加していない者達が射撃訓練までに四日間で全て清掃した。

 実包の22口径弾の方は、シュンが二日ほど前に、誰も見ていない場所でバリアジャケットを纏ってアメリカまで飛んで保管庫から盗んだ物で、一箱で千発分はある。

 最初に反動を吸収する姿勢の取り方を行い、反動がやや少ない22口径拳銃弾での射撃訓練は滞りなく進み、全員分の射撃力の高さは確認できた。

 

「よし、自動拳銃(オートマチック)だ。全部で十挺はある。十人ずつ撃て」

 

 次にシュンは自動拳銃での射撃訓練を行う。今度の口径は欧州ではポピュラーな9mmパラベラム弾を使う自動拳銃だ。無論、民間で販売されている物である。

 シュンだけは軍用のスチェッキン・マシンピストルで行う。無論、シュンはスタミナ重視で使っているので、フルオート機能は使わない。

 最初の拳銃で反動の吸収の仕方を教えていたが、やはり軍用や警察組織で使われる拳銃弾の反動は民間販売用に比べて大きく、拳銃を撃ったことが無い何人かの手が痺れていた。

 

「次は…いや、止めておくか。よし、使った銃の清掃をする。その後は、いつもの体力練成訓練だ」

 

 軍隊式でやっているので、次は突撃銃か自動小銃でやろうと思ったが、桜田は十分な数は持ち込めてないと言っていたので、参加者らに銃の清掃をするように命じ、その後にいつもの体力練成訓練をするように命じた。

 当のシュンは、訓練に必要な自動小銃か突撃銃、素人でも扱い易く分解が簡単で頑丈の三拍子が揃ったAK-47突撃銃とその実包である7.62×39mm弾を調達しに、バリアジャケットを纏って世界中を飛び回った。要するに盗み回ったのである。

 件の銀行の見取り図も手に入り、銀行強盗計画への準備は着々と進んでいる。後は構成員らを鍛え、必要な人選をして選んだ者に訓練を施すだけだ。


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