復讐異世界旅行記   作:ダス・ライヒ

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コロ落ち編終了です。

そんでもってガンダムらしからぬ戦闘シーンがあるのでグロ注意です。


コロニーの落ちた地で…

 要塞を落としたが、HLV基地への侵攻はこのままでは不可能なので、一旦基地へと引き返したホワイト・ディンゴであったが、予備の機体は無く、唯一稼働できるのはシュンが無断で乗ったガンキャノン重装型くらいだ。

 そんな彼らに、スタンリー大佐は最後の大舞台にうってつけな‟特大衣装‟を持ってくる。

 

「こんな状態じゃ、継続戦闘なんて無理だな…」

 

「いや、とっておきのが届いたぞ」

 

「ん、ミデア? こんな所まで」

 

 マイクがボロボロになった自機を見ながら言えば、レオンは滑走路に着陸して来るミデアを指差しながら告げた。

 ミデアに気付いたレイヤーが口にすれば、レオンは彼らに視線を向けながら、次の戦いが最後で、それにふさわしい物が届いたと告げる。

 

「最後の大舞台には、一帳羅で立つのが礼儀ってもんです」

 

 レオンの言葉通り、ミデアが運んできたのはホワイト・ディンゴに相応しい届け物であった。

 ミデアの近くに乗用車で駆け付けたホワイト・ディンゴの面々に、整備班長であるボブは、その届け物を自慢げに見せる。

 

「おう、来たな。スタンリー指令に感謝せんとな。RGM-79SP、ジム・スナイパーⅡだ。おろしたてだぞ」

 

 整備されている三機のジム・スナイパーⅡを見せながら自慢げに紹介すれば、二機にレイヤーとレオン向きの調整をしている事も伝える。マイクの機体はそのままで、通常の狙撃仕様だ。もっとも、ジム・スナイパーⅡは統合性能的にRX-78ガンダムを上回っており、狙撃に徹しなくとも十分にジオンのMSと渡り合える。

 

「レイヤー中尉とレオン少尉の機体には、狙撃装備を外していつものジムのようにしている。マイク少尉は狙撃仕様のままだ。なんたって専用の狙撃ビームライフルが一門しか届かなかったからな。これでも贅沢過ぎるってもんよ」

 

「まぁ、急すぎるからな。それでもありがたい」

 

「兵装はさっき言ったビームライフル以外の物は無い。と、言う事であり合わせの物でやりくりした。シールドは二重構造にして、中尉は陸戦用のビームライフル、レオン少尉は100mmマシンガンだ」

 

「なぁ、俺のは無いのか?」

 

 改装の為に兵装はレイヤー機がビームライフルでレオンが100mmマシンガンであることを伝えれば、シュンは自分の物はないのかと問う。

 だが、シュンには無断で乗り込んだガンキャノン重装型がある。シュンが近接戦を得意とするので、ボブは接近戦が出来るように、グフのヒートサーベルを腰に付けられるように改造したとだけ答える。

 

「お前さんのはヒートサーベルを付けただけだ。それで我慢しろ」

 

「なんでだ? なんで俺のが…」

 

「贅沢言うんじゃない。お前は無断で乗っただろ? 本来は懲罰物だが、スタンリー指令が不問としてさらに搭乗する許可を出してくれたんだ。乗っている奴は死んじまったからな。そいつで我慢しろ。それにガンキャノンも十分に強い。十分だろ?」

 

 これにシュンは何も言い返せなかった。確かにボブの言う通り、シュンは無断でガンキャノン重装型に乗り込んだ。本来なら懲罰物であるが、少しでも優秀なパイロットを確保したいスタンリー大佐の意志により、特別に許されたのだ。

 無論、スタンリーは粗暴なシュンにジム・スナイパーⅡを用意するなど考えてはいないが。

 整備も編成も済んだところで、レイヤーは敵の最後の砦であるHLV基地に攻め込む前に、最後のブリーフィングを行う。

 

「よし、整備も編成も済んだところでブリーフィングを行う。これが最後になるだろう。いや、最後にしなくてはならない。我々が目指すHLV基地はこの大陸においてジオン軍の最後の砦だ。それにアスタロスもある。要塞が陥落したことで、既に打ち上げの態勢に入っているだろう。無論、最優先目標はHLVだ。宇宙への脱出手段として、要塞以上の抵抗が予想される。心して行け」

 

 スタンリーから聞いた大方の事を伝えれば、次に情報部や現地抵抗組織から仕入れたHLVの発射台の位置を説明する。発射台は合計で四基あり、その内のどれかにアスタロスを積んだ物が含まれている。

 どう見分けるかが問題であるが、ジム・スナイパーⅡのセンサーで見分ける事が可能だ。

 だが、今後の事を考えてHLV四機すべてを破壊する必要性がある。終戦協定への交渉が続けられているが、それが終わるまでは戦争は継続される。

 

「以上だ。戦争が終わるまで、全員が死ぬことは許さん。全員、絶対に生き延びろよ」

 

「それじゃあ隊長、とっておきのを奢ってくださいよ!」

 

「もちろんだとも。全員に奢ろう。では、解散!」

 

 戦争が終わるまでレイヤーが生き延びるように言えば、全員が席から立ち上がって敬礼した。

 マイクが戦闘後の事で奢ってくれるように頼めば、レイヤーは笑って承諾した。部隊長が解散を命じれば、各々がそれぞれの配置に着き、待機状態に移る。

 レイヤーが新しい機体であるジム・スナイパーⅡのコックピットに乗り込み、起動させてハッチを閉めれば、無線機で出撃命令を出す。

 

『ホワイト・ディンゴ各機へ! 全機出撃せよ!』

 

 この出撃命令が出されれば、ホワイト・ディンゴ各機はHLV基地へと向かって出撃した。

 これが一年戦争で地球における最後の戦いとなる。この戦闘後に終戦を知らせる放送が流れるが、今の彼らは知る由は無い。

 だが、シュンの復讐の戦いは続く。ネオ・ムガルを倒すまでは…。

 

 

 

 数分後、オーストラリアにおけるジオン軍最後の砦、HLVへと到着したホワイト・ディンゴは、打ち上げ直前のHLVを発見する。

 

『まずい! 一基上がるぞ!』

 

『隊長、HLVの一機が打ち上げ体勢に入っています! ジェット噴射確認! 打ち上げに入りました! 直ぐに撃墜してください!!』

 

『ファング3、出来るか?』

 

『なーに、これくらい…』

 

『っ!? 危ない!』

 

 既に打ち上がったHLVに対し、マイクは自機の本来の装備であるビームスナイパーライフルを向け、狙撃して撃墜しようとする。

 だが、そのマイク機に向けて何所からかビームが飛んでくる。機体の高い反応速度と索敵能力で気付いたレイヤーは、飛んでくるビームから改造二重シールドでマイク機を守った。

 

『ビーム兵器! 向こうからか!』

 

 ビームが飛んできた方向は、直ぐにジム・スナイパーⅡのレーダーが教えてくれた。

 そのビームが飛んできた方向にカメラを合わせれば、左肩に稲妻の髑髏が描かれたMS-14ゲルググタイプのMSが立っていた。右手にはビームライフルが握られていることから、あの機体がマイクを撃ったのだ。

 狙撃から守られたHLVは、そのまま宇宙(そら)へと向けて飛んで行く。

 

「あのマーク!?」

 

『あの機体! 荒野の迅雷、ヴィッシュ・ドナヒューか!!』

 

『本命は無事に打ち上げられたか…残りは簡単にやらせて貰えんようだ。元よりその覚悟だがな』

 

 シュンが左肩のマークを見て叫べば、レイヤーはあのゲルググのパイロットが直ぐにヴィッシュ・ドナヒュー中尉であると分かった。

 そのヴィッシュは、もう一基の打ち上げ体勢に入っているHLVにビームライフルの砲口を向ける。

 

『な、何をするつもり!? 私はこの物資をジオンの勝利のために本国の為に持ち帰るのよ! 邪魔をすると言うの!?』

 

 無線機からヴィッシュが撃墜しようとしているHLVに乗っている者達の声が聞こえて来た。どうやら、彼らはホワイト・ディンゴやレオンが追っているマッチモニードの面々のようだ。

 

『愚かな。この戦争は、ザビ家の独裁を許した時点で、既に敗北していたのだ』

 

『なんてことを! 貴方! 国家元首のザビ家を愚弄したわね! しかも私たちマッチモニードの前で! これは国家反逆罪だわ! 誰か! この男を殺しなさい!!』

 

『哀れだな。そんな馬鹿げたもので、戦争を続けるなど…この戦争で死んでいった者達への冒涜だ!』

 

『ぬぅぅぅ! あの世に来たら覚えておきなさいよ! 絶対に私を殺したことを後悔…』

 

 そうヴィッシュが言った後、彼はビームライフルをHLVに向けて撃った。発射されたビームは真っ直ぐにHLVを直撃し、直撃を受けたHLVは乗員諸とも木っ端微塵に吹き飛んだ。一人、恨み辛みの言葉を吐いていたが、誰も気には留めなかった。

 

『さて、例の部隊か…これは骨が折れるな』

 

 ゲルググの一つ目がホワイト・ディンゴへ向けられた。このMSに睨まれた各機は直ぐに臨戦態勢を取ったが、そのゲルググに乗っているヴィッシュは暫くしてから、無線を全周波数にしてこちらに無線連絡を送る。

 

『聞こえるか、連邦のパイロット。これが我々の最後の戦いだ! 未来の勝利の為、この命、捧げよう!』

 

『来るぞ! 各機臨戦態勢!』

 

 その言葉を言い終えた途端、ヴィッシュのゲルググはホワイト・ディンゴに向けて攻撃を仕掛けて来た。

 戦闘の火ぶたが切って落とされる中、オアシスに乗るアニタより知らせが入る。

 

『こちらオアシス! 未確認の反応を多数確認! うち一機は大型のMAです! 他多数は、識別反応不明! おそらく例の連中かと思われます!』

 

『MAにシュンが言ってた例の異世界の連中だって!? 冗談じゃないよ、全く!』

 

 この知らせにマイクが悪態を付けば、そのMAと識別反応、即ちネオ・ムガルのMS隊が、こちらが見える距離まで迫って来た。

 データに無いザクの胴体を動力源にしているMAは、ネオ・ムガルのMS隊と交戦を始める。

 

『隊長、打ち上がったHLVはルナツーの艦隊が仕留めてくれます! 我々は残り二基のHLVと連中を!』

 

『全部後任せってのは性に合わないですが、こんなキツイ任務は早く終わらせて最後に一杯しましょうよ!』

 

『そうだな! では、ベストを尽くそう!』

 

 ホワイト・ディンゴの方にも敵部隊が迫る中、レオンは打ちあがった一機はルナツーの艦隊に任せれば良いと言って、マイクは早く終わらせて一杯やろうと言えば、レイヤーもまた交戦を始めた。

 向かって来るのは、ネオ・ムガルがこの世界に持ち込んだMSばかりだ。

 無人機や熟練に並のパイロットはここには回していないのか、殆どが雑魚ばかりであり、的同然で次々と撃破されている。

 と、言うか一年戦争で最高の性能を持つ連邦軍のジム・スナイパーⅡに乗った熟練のパイロット相手では無理も無いが。

 シュンのガンキャノン重装型の方にも来たが、プロのジオンのパイロットやガンダムタイプ相手に鍛え上げられた技量の前に撃破されるばかりだ。

 

「オラぁ!」

 

 ビームサーベルを抜いて近接戦闘を挑んで来るストライクダガーに、シュンの青いガンキャノンは空いている左手でパンチを敵機の頭部に繰り出せば、敵機の顔面は拉げる。

 その衝撃で地面に倒れ込めば、起き上がる暇も与えることなく右手のビームライフルをコックピットに撃ち込んでパイロットだけを殺す。

 

「おっ、すげぇ!」

 

 次に両肩の二門のキャノン砲を撃ち込み、リーオーとジンを纏めて撃破する。一度に二機を撃破したことに、シュンは驚きの声を上げる。続けざまに四機目を撃破し、五機目を左手で抜いたヒートサーベルを頭部に叩き込んで撃破した。

 シュンがこれ程までに敵機を撃破する中、ホワイト・ディンゴの方は更に多くの敵機を撃破していた。

 レイヤーはビームライフルを的確に、しかも素早く撃ち込んで三機の敵機を撃破してバズーカ砲で一機を撃破する。

 レオンはマシンガンで手近な敵機を撃破すれば、腰のビームサーベルを抜いて斬り掛かる敵機を切り裂き、更に背後から迫る三機目に振り返ってサーベルを振り下ろして切り裂いた。

 マイクは貴重な狙撃用ビームライフルを温存し、副兵装のマシンガンで、部隊一の的確な射撃を駆使して四機の敵機を瞬く間に撃破していた。

 

『さっすが新型! もうこいつ以外に乗れないや!』

 

「俺も乗りたいな、畜生!」

 

 五機目を温存していた筈の狙撃用ビームライフルで撃破したマイクが得意げに言えば、シュンは三人が乗っているジム・スナイパーⅡに乗りたくなる。

 そんな事を思っても、乗れるわけが無いので、シュンは向かって来る敵機を掃討しつつ、HLVの撃破に向かう。

 

『大型のMAより高出力のビーム発射を確認! 識別不明機を複数撃墜!』

 

『バストライナーだな。あのMAはバストライナーを搭載しているようです。射線に入らないように注意しましょう!』

 

『おいおい、マジで七面鳥になっちまうじゃないか!』

 

 交戦を続ける中、ジオンの正体不明のMAが搭載している強力なビーム砲を発射し、複数のネオ・ムガルのMSを消し飛ばした。

 オアシスのアニタからの知らせでレオンが連邦より奪ったバストライナーを搭載していると分かり、注意するように告げる。最後のマイクの悪態は無視しつつ、シュンはその強力なビーム砲を搭載したMAに注意を払いながら戦闘を続ける。

 そんな中、ヴィッシュのゲルググが続けざまにネオ・ムガルのMSを撃破しながらシュンのガンキャノンの方へ近付いてくる。

 

『ファング4、あのエンブレムのゲルググが向かって来るわ! 注意して!』

 

「言われなくとも!」

 

 向かって来るゲルググに気付いたシュンは、コックピットを潰したリーオーを盾にしながらビームライフルを撃つが、ヴィッシュが駆るゲルググはそれを回避しながら接近する。

 

「っ!」

 

 三発目を避けた後に、ゲルググはスラスターを吹かせて一気に距離を詰めて来る。

 これにシュンはリーオーの残骸を投げ、それを爆発させようとライフルの照準を向けたが、ゲルググはそれを払い除けて一機に近付き、体当たりを食らわせた。

 凄まじい衝撃がコックピット内に振動し、機体が倒れ込む中、ヴィッシュのゲルググは倒れたガンキャノンの胴体を踏み付け、ライフルを向ける。そして無線連絡まで送って来る。

 

『貴様、あの時の先行型のパイロットだな。アリス・スプリングスよりも更に腕を上げたようだが』

 

「誰が!」

 

 無線機よりヴィッシュの声が聞こえ、ビームライフルが向けられた。これにシュンは両肩のキャノン砲を至近距離から浴びせようと撃ったが、ヴィッシュの反応が早過ぎて避けられてしまう。

 

『中々の的確な判断だ。だが、まだまだ遠い。それで私には勝てんよ!』

 

「こいつ…!」

 

『機体の特性も知らず、この私に接近戦を挑もうとは。まさに蛮勇だな!』

 

 キャノン砲でゲルググを引き離し、直ぐに態勢を整えたシュンだが、ヴィッシュはまだほど遠いと言われる。

 この挑発に乗り、シュンは特異な接近戦を挑もうと腰のヒートソードを抜いた。だが、ガンキャノン重装型は接近戦型では無く、中距離支援型だ。万能型のゲルググに接近戦を挑むなど愚の骨頂である。

 そんな機体の特性も知らずに挑もうとするシュンを止めようと、レイヤーはゲルググにビームライフルを撃ちながら接近した。直ぐにヴィッシュはこれに気付き、ビームを回避しながら反撃する。

 

『この動き! やはりお前か! やはり最後の相手はお前にふさわしい!』

 

『ファング4、そいつは中距離支援型だ! こいつは俺がやる! 無理をするな!』

 

「…了解!」

 

 生身では自分の方が分にあるが、MSの腕ではヴィッシュに格下と判断されたシュンは少し怒りを覚えるも、良く考えればその通りなので、部隊長であるレイヤーに任せた。

 レオンとマイクと共に、レイヤーの支援に回ろうとするが、あのMAが向かって来る。どうやらヴィッシュの邪魔をしないようにしているらしい。

 

『うわっ!? 例のMA!』

 

『こいつは…!』

 

『ヴィッシュ中尉! こいつ等の相手は私が! 貴方は好敵手と!!』

 

『助かる! では、存分に戦おうか!』

 

『さぁ、お前たちの相手はこの俺だ!!』

 

 MAに阻まれた三機は、機銃やミサイルを避けるために散開する。

 それぞれ各個に遮蔽物となる場所へ機体を隠し、そこから手持ちの兵装で反撃を行うが、敵MAの装甲は厚く、中々貫通しない。

 このMAの名はライノサラス、英語のサイ読みだ。現地で作られた試作大型機動兵器であり、当然ながら型式番号は存在しない。拠点防衛用に製作され、連邦軍寄り奪取したバストライナーを右肩に搭載している。

 

『凄い重装甲だ!』

 

「ビームも弾くぞ!」

 

『マイク、こちらが囮になる! そのライフルを撃ち込め!』

 

『了解! しっかりと当ててやるっての!』

 

 敵が重装甲であると分かれば、レオンは自分等が囮になってマイクに狙撃用ビームライフルを撃ち込むように指示を出す。

 これに合わせる形でシュンも遮蔽物から身を出し、引き付けるために様々な攻撃を行う。ガンキャノンの両肩のキャノン砲を撃ち込むが、やはり重装甲は伊達では無い。

 

「ちっ、なんて装甲だ!」

 

 ライノサラスはガンキャノンのキャノン砲でも貫通できなかったものの、引き付けることに成功した。注意は十分に引けることに成功したが、倍返しと言わんばかりの攻撃が来る。

 機関砲やビームによる攻撃だ。更に随伴のザクⅡ改が加わり、シュンのガンキャノンは集中砲火に晒される。

 

『無事か!?』

 

「くそっ、なんで俺ばっかり撃たれるんだ!」

 

 ライノサラスの左側面のザクを撃破したレオンに無事かどうかを無線で問われたシュンは、悪態を付きながら無事であると答え、反撃にビームを何発も撃ち込んでザクをようやく撃破する。

 

『照準完了! 発射!』

 

 注意を引き付けたおかげか、マイクがライノサラスに狙撃用ビームライフルの照準を完了し、直ぐに引き金を引いてビームを放った。

 ビームは確実に命中したが、撃墜には至らず、ライノサラスの戦闘力を奪うには後一発ほど撃ち込まなければならないようだ。

 だが、敵がそんな隙を与えてくれるはずが無く、こちらを近付けまいと残りの火器を全て使用して弾幕を張る。ただし、バストライナーは撃たない。どうやら連発が効きそうにないらしい。

 

『くそっ、しぶとい奴だぜ!』

 

『やはり急造兵器か』

 

「急造兵器? まぁ、色んな部品を使ってるな」

 

『その通り、慌てて完成させたようだ。その証拠にバストライナーを撃ってこない。これは何処かに穴がある』

 

 レオンがバストライナーを連発しないのを見て、ライノサラスが急造兵器だと見抜けば、何処かに弱点があると推測する。

 そのことを直ぐに、オアシスのアニタやヴィッシュと戦っているレイヤーに知らせる。

 

『隊長にオアシスへ。敵MAの弱点がもう少しで掴めそうです。隊長の方は?』

 

『今は対応できない。荒野の迅雷が強くてな。気を抜けばやられそうだ。すまんな』

 

『了解、こちらで対処します。オアシス、敵MAの弱点は何か分かるか?』

 

 レイヤーはヴィッシュとの戦いで忙しくて来られないと判断すれば、次にレオンはアニタに弱点が掴めるかどうかを問う。

 

『側面や後方に随伴機が居るからして、確証はないけど、敵MAの背後が弱点じゃないかしら?』

 

『そう言えば、あいつは後ろを見せないな。きっと弱点は背中だ! 誰かがそこを突けば!』

 

『ちょっと、決め付けるのは止しなさい! 敵の罠かもしれないわよ!』

 

「後ろか…! 囮を頼む!」

 

『えっ! 俺たちが囮だって!? おい! そこはこのマイク様が! わっ!?』

 

 背後が弱点かもしれない。

 ライノサラスの背後に随伴機が一機いる事から確証が無いにしても思うアニタに対し、マイクは自分の感からして背後が弱点だと思う。それに反応してか、シュンはレオンとマイクに囮を頼み、単機で背後へと回り込むべく移動を開始する。

 

『アッザムを落としたあいつだ。とにかく、俺たちは奴を引き付けよう。背後の一機くらいはガンキャノンでどうとでも出来る』

 

『くそっ、折角の大物だってのに! まぁ、その代り、良いのを奢って貰うからな!』

 

 レオンがマイクを説得すれば、彼は条件を出してそれを承諾し、ライノサラスを引き付けるべく攻撃を始めた。

 凄まじい弾幕でライノサラスの注意が二機に向く中、シュンは急いでライノサラスの背後へ回り込み、背後を警戒しつつ、レオンとマイクを攻撃している随伴機に向けてキャノン砲の照準を向け、トリガーを引いた。

 敵機は動かずにその場にいた為、キャノン砲は見事に敵機に命中して胴体が吹き飛んだ。

 二門のキャノン砲から同時に発射された二発の内一発が命中したが、もう一発がライノサラスの背部に命中した。

 これにより、レオンとマイクが囮だとライノサラスの操縦手たちに悟られてしまう。

 

『気付かれた!』

 

『不味い! 早く退避しろ!』

 

「まだ間に合う!!」

 

 二人から直ちに逃げるように言われるシュンであるが、ライノサラスが完全に旋回するまで時間があると判断し、スラスターを吹かせて突っ込んだ。

 ビームライフルを撃つ間もなくライノサラスのザクの胴体の部分に張り付けば、ライフルを棄てて至近距離からキャノン砲を撃ち込むが、振り落とそうとライノサラスは暴れ回り、二発の弾頭は地面に着弾する。更には衝撃で吹き飛ばそうと、バストライナーまで撃とうとしていた。

 振り落とされまいと、シュンは操縦桿を必死に動かしてしがみ付き、右のバストライナーを掴み取り、それを引き千切ろうと両腕の操縦桿を動かす。

 

『おい! 止せ!!』

 

『えっ! なんだよ!?』

 

『ファング4! それは引き千切っちゃダメ! 誘爆しちゃうわ!』

 

 チャージ中のバストライナーを引き千切っては誘爆の恐れがあるのか、止めるように無線機から告げる一同であるが、凄まじい衝撃を受けて正常な判断が出来ないシュンには聞こえておらず、彼は必死に操縦桿を動かし、ガンキャノンのパワーでバストライナーを引き千切り、それを棍棒代わりにしてライノサラスに叩き込んだ。

 結果、ライノサラスは引き千切られたバストライナーを叩き込まれて大破。バストライナーは臨界寸前であった為に叩き込んだ直後に爆発を起こし、シュンのガンキャノン重装型はその爆発に巻き込まれた。

 

『ファング4、反応喪失…! そんなっ!』

 

『応答しろ! ファング4! 応答しろ!』

 

『まさか、そんな…! 何かの冗談だと言ってくれ!』

 

『まさか…! こんな所でお前が…!!』

 

 シュンが爆発に飲みこまれ、乗っていた機体の反応が喪失した後、ホワイト・ディンゴの面々の声が声を上げた。

 

 

 

 バストライナーの爆発に巻き込まれ、吹き飛ばされたシュンのガンキャノン重装型は、下半身を完全に吹き飛び、両腕も無くなっていたが、奇跡的に上半身だけが残り、基地の近くに横たわっていた。前面は爆風で拉げていたものの、コックピットには達しなかったようだ。

 機内で気絶しているシュンは、直ぐに目を覚まして辺りを見渡す。

 計器や機器の類は全て爆発で死んでおり、火花を散らすだけでモニターは全て割れていた。次に自分の身体を見れば、モニターのガラスの破片が幾つか突き刺さっており、あばらも何本か折れている感覚も感じる。更には右腕があらぬ方向へと向いている。

 

「くそっ、あばら数本に右腕が…ふぅ!」

 

 自分が負傷していると分かれば、折れている右腕を左手で無理やり元に戻し、ガラス片も引き抜き、更には折れていない両足で思いっ切り、拉げて開かないハッチを蹴り破る。

 それから右腕が十分に動くのを確認すれば、外へ出て戦況がどうなっているか辺りを見渡す。

 戦闘は未だに続いており、レイヤーとヴィッシュの戦いもまだ決着がついていないようだ。それにネオ・ムガルのMS隊もまだ残っており、レオンとマイクがその掃討に当たっている。連邦軍の増援も到着し、直ぐに戦闘にケリがつきそうだが、予断を許さない。

 使えないヘルメットを棄て、護身用に持っている自動拳銃をホルスターから抜けば、使えるかどうか確認し、安全装置を外した。

 

「さて、俺の目的を果たすか」

 

 改めて自分の目的を思い出し、目的である水晶を探しに基地へと向かった。

 徒歩で移動する最中、ベルトのコアよりAKS-74u突撃銃を取り出し、安全装置を外して基地の内部へと向かう。向かう先はコンパスの針が指す方向、そこに目当ての水晶がある。

 通路を突っ切る中、シュンは基地の中でジオン兵が一人も見当たらないことに疑問を抱く。

 

「基地に誰一人も居ねぇ。一体どうなってんだ?」

 

 この時、既にジオン軍は基地を放棄しており、残っているのは囮に志願した者ばかりであった。シュンは後に知った事であるが、水晶を見付けて割れば良いので、考えずに鼓動が強くなる方向を目指す。

 

「奴だ! 撃ち殺せ!!」

 

「お前らは居るのかよ!」

 

 通路を警戒しながら進む中、自分の足音に気付いてか、ネオ・ムガルの咎人らがシュンを見るなり撃ってくる。

 直ぐに近くの遮蔽物となる壁へ身を隠し、カービン仕様の突撃銃を壁越しに狙わずに撃って反撃する。

 一人の悲鳴が銃声に混じって聞こえれば、直ぐに敵方の射撃は止む。これは遮蔽物となる壁に身を隠したと言う証拠だ。シュンは弾倉がまだ重いのを確認した後、壁から出て身を隠している咎人を撃ち殺す。

 三発ほど撃ち込んで完全に死んだのを確認し、鼓動が強い場所へと急いで向かう。

 

「あいつ等、割ってねぇだろうな?」

 

 途中で再装填をしながら、ネオ・ムガルの咎人らが先に水晶を見付け、割っていないかどうかが心配になる。

 水晶を見付けだすための心臓の鼓動がするからして、どうやら撤収の際、それらしい物は持って行かなかったようだ。

 それが分かって安心したシュンは、ここでは有効な武器であるオート5自動散弾銃をコアから取り出し、遭遇する咎人を撃ち殺しながら水晶の元へ急ぐ。

 

「見付けたぞ! ぶっ殺せ!!」

 

 水晶を目指して通路を進み、広い場所へ出れば、待ち構えていた咎人らの銃撃を受けた。

 数発ほどが頬を掠ってシュンは僅かな痛みを感じ、即座に遮蔽物へと引っ込んで回り込もうとして来る敵兵に向けて散弾銃を撃ち込む。

 

「回り込め! ハチの巣にするんだ!!」

 

「MSの支援が欲しいな!」

 

 機関銃を持った一団がシュンに向けて制圧射撃を掛ける中、敵の指揮官らしき者が指示を出している。

 遮蔽物に大きな体を隠しつつ、シュンは散弾銃の再装填しながらMSの援護が欲しいと口にする。

 だが、ここは屋内であって外からじゃこちらの様子は見えない。シュンはバリアジャケットを身に纏い、得物であるスレイブを引き抜いて遮蔽物から飛び出し、目に見える敵兵、もとい悪党共を切り裂き始める。

 左手には散弾銃を持ち、機関銃を撃っている集団に向けて放って二人同時に仕留める。手にしているオート5は自動小銃のように散弾を撃てる代物だ。これにシュンの筋力とバリアジャケットのパワーアシストが加わり、片手でも拳銃のように扱える。

 瞬く間に大剣に続いて散弾で撃たれて肉塊となった死体が、オーストラリアのジオン軍の基地内に溢れ出す。

 屋内はこれまでに言ってきた同様に、血で真っ赤に染まり上がっていた。後から来た連邦兵達は、この惨状を見れば嘔吐するに違いない。

 五発全弾を撃ち切れば、即座に大剣を近くの死体に突き刺して(シェル)を素早く装填し、初弾を薬室へと送り込んで水晶がある場所を目指す。

 

「ちっ、調子に乗り過ぎたか」

 

 遭遇する悪党を殺しながら進んでいけば、巨大な刀を持った不気味なお面を付けた巨漢に遭遇した。

 直ぐに散弾銃を撃とうとするが、巨漢は見た目に合わない速度で迫り、散弾銃を巨大な刀で破壊される。距離を取り、恐ろしい速さで振るわれる刀を大剣で受け流しながら弱点を探す。

 

「くそっ、なんだこいつは!?」

 

 大剣で連続して振るわれる斬撃を防ぎつつ巨漢に対し恐怖を抱く中、更に巨漢は増える。今度は電動丸ノコを持った三人だ。電動丸ノコの電源を入れ、丸ノコを回転させながらシュンの背後から向かって来る。

 これにシュンは目前の連撃を繰り出してくる巨漢に対して右手の大剣でその連撃を防ぎながら閃光手榴弾を片手に取り出し、地面に投げ付けて目晦ましを食らわせる。

 凄まじい光と耳鳴りが起こるはずだが、シュンは銃声を防ぐために耳栓をしており、目も瞑っていたためにそれを食らう事は無かった。前の一人の後ろの三名は防ぐことが出来ず、一時期感覚が麻痺する。

 この隙に、シュンは刀の巨漢から距離を取り、邪魔な丸ノコの巨漢を片付ける。

 

「まずはテメェだ!」

 

 一人目の腹を大剣で掻っ捌けば、そこから内臓が飛び出し、巨漢は丸ノコを手放して内臓を戻そうと必死でかき集める。

 そんな巨漢にシュンは容赦なく首に向けて大剣の刃を振り下ろし、首を切り落した。

 麻痺からの回復は早く、二名の巨漢は雄叫びを上げながら丸ノコを振り下ろそうと向かって来る。更には刀を持った巨漢も襲って来る。

 

「薬でもやってんのか?」

 

 閃光手榴弾からの回復の速さに、残り三体の巨漢は薬物でも投与されているのかと考え、コアから破片手榴弾を三つ取り出して丸ノコを手に向かって来る二体の巨漢に向けて投げ付ける。

 直ぐにピンを抜いて投げ付けた為、爆発には数秒が掛かるが、シュンは即座に持っていた拳銃を素早く引き抜き、安全装置も解除して手榴弾に向けて何発も撃ち込む。

 放たれた弾丸は何発も外れるが、一発は手榴弾に命中してもう二つの手榴弾に誘爆して周囲に破片を撒き散らした。

 破片を撒き散らすタイプであるため、二体の巨漢は破片が突き刺さった程度だ。だが、怯ませることには成功し、シュンは直ぐに近付いて一体目を両断して、続けざまに二体目に一撃を食らわせ、更に両足を切断する。

 腹を斬られ、両足も切断されたのに巨漢はまだ生きていた。シュンはとどめに巨大な腹に大剣を突き刺してとどめを刺す。直ぐに引き抜き、巨大な刀を振るう巨漢の斬撃を防ぐ。

 

「後はお前だけだ」

 

 巨漢の斬撃を弾き、そう宣言した後にシュンは大剣を振るってこちらから攻撃に出る。敵も攻めようとするが、その隙を与えずに連撃を打ち込んで防戦一方にする。

 敵が反撃の隙を作ろうと蹴りを入れ、それを諸に受けて転倒したシュンだが、直ぐに起き上がってコアから取り出したC4爆弾を巨大な刀の刀身に付け、一定の距離まで離れてから起爆した。

 

「ちっ、頑丈だな」

 

 爆弾で刀を破壊しようとしたシュンであるが、刀は爆弾では破壊できなかった。でも、刀身にはヒビが入っており、力を込めて自分の得物を打ち込めば破壊できそうだ。

 直ぐにシュンは飛び掛かり、敵が防御の構えを見せたところで思いっ切り力を込めて大剣を振るい、巨大な刀を破壊した。巨大な鉄塊のような刀身を受けた片刃の刀は砕かれ、床に破片と共に散乱する。

 自分の得物を破壊され、動揺する巨漢にシュンは空かさずに右腕を切り落し、身体を回転させて更に右脚も斬りおとして頭部に刀身を叩き込む。

 返り血が顔や身体に飛び散る中、相手が完全に死亡したのを確認してからシュンは大剣を引き抜き、刀身に付いた血を払い除けてから背中のラックへと戻す。

 

「さて、もう出てこないだろうな?」

 

 周囲を見渡し、もう出て来ないのを確認すれば、水晶がある部屋を目指した。

 

「おい、これが例のブツか?」

 

「これらしい。ようやくここから出られるぜ」

 

「これで昇進間違い無しだ」

 

 その道中、アスタロスのサンプルを持った無法者たちと遭遇した。これを運ぼうとしたジオン兵等を殺害して手に入れたようだ。

 無論、シュンは見逃すわけはない。得物を抜かずに気付かれずに接近し、自分に背中を向けている無法者の首を折り、無法者のナイフを奪ってそれで二人目の口を抑え、喉を掻き切る。

 

「おい、何か答え…あっ!? お前…」

 

 掻き切った瞬間にサンプルを持っていた男に気付かれ、ナイフで投げ付けて銃を撃つ前に殺害する。次にサンプルを持って逃げようとする男を追い、足元に落ちていた銃を拾い上げて走って逃げる男の両脚を素早く撃つ。

 倒れてサンプルを落とした所で、まだ生きている男の頭を踏み潰してから、容器が割れてないかどうかケースを開けて確認する。

 

「よし、無事だ」

 

 割れてない事を確認すれば、それを手にしてコンパスの針が指す場所、即ち水晶のある部屋へと入る。

 そこは司令官の執務室のようで、その部屋に入ったシュンは司令官が忘れたと思われる水晶を手に取り、直ぐに床へ叩き付けて割った。

 

「さて、どんな能力が手に入ったんだ?」

 

 ケースを床に置き、試しにジオン軍の総帥ギレン・ザビの肖像画に向けて手に入れた能力を放つ。すると、肖像画が凍り始める。どうやら氷系の能力を手に入れたようだ。

 

「冷たい物を飲みたいときに使えそうだな」

 

 肖像画の凍り具合からして、今はこの程度しか凍らせられないと判断すれば、前の世界で手に入れた炎に続けて練習しなくてはならないと思う。

 

「後で火と氷の訓練しないとな」

 

 アウトサイダーの居る虚無の世界へ変えれば、火と氷の修行をしなくてはならないと口にすれば、基地の外へ出るために壁をスレイブで破壊して外へ出た。

 

「これは…戦闘は終わったのか?」

 

 外へ出たシュンはバリアジャケットを解き、大規模な戦闘が終わっていることに驚いた。二機目のHLVは、シュンが屋内で戦っている間に破壊されていた。

 遠くの方を見れば、両膝を地に付けたヴィッシュのゲルググの姿が見える。直ぐにシュンは死んでいる敵兵から無線機を奪い、それを身に着けてヴィッシュの最後の言葉を聞く。

 

『なぁ、レイヤー中尉…俺の死で兵たちが降伏することになっている…無駄死にしないよう、してやってくれ…戦争なんてなけりゃ、お前とは…良い酒が飲めたかも…しれない、な…』

 

 この言葉を最期に、ヴィッシュの声が聞こえなくなった。

 これにシュンはゲルググに向けて軍隊式の敬礼を取り、しばしの沈黙を続ける。銃声は完全に消え去り、後からやって来た連邦軍の部隊に次々と投降した。

 ネオ・ムガルの咎人らは、死んだか逃げた様子だ。シュンにとってはどうでも良い事であり、敬礼を終えればホワイト・ディンゴに合流するべく、ジム・スナイパーⅡを探す。

 そんな時に、終戦を知らせる放送が無線機より聞こえて来た。

 

『勇敢なる連邦軍兵士の皆さん。そして、勇猛なるジオン軍兵士の皆さん。お互いに取って、長くて辛い戦争は終わりました。昨日、宇宙世紀0080、一月一日十五時。連邦政府とジオン共和国の間で終戦協定が結ばれました…』

 

『なんで…なんでもっと早く…! 馬鹿野郎! この放送は、もっと早くやっているべきだったんだ! そうすれば俺たちは戦わずに…!』

 

 放送の間にシュンはホワイト・ディンゴのジム・スナイパーⅡを発見した。三機とも僅かながらの損傷はあったが、無事にこの戦争を生き延びることは出来たようだ。

 コックピットのハッチが開いたジム・スナイパーⅡからレイヤーの姿が見え、ヴィッシュのゲルググを見て泣いている姿が見える。どうやらこの放送がもう少し早く始まっていれば、戦う必要は無かったのだ。レイヤーはその悔しさの拳を近くにぶつける。

 

「隊長、シュンの奴が生きていたようです!」

 

「お前、あの状況で良く助かったな!」

 

「まだ死ねないんでね。それに目標も果たした」

 

 生きているシュンの姿を見たレオンとマイクが伝えれば、レイヤーは涙を浮かべながら礼を述べる。

 

「ありがとう、生きていてくれて」

 

「あっ、あぁ」

 

 これにシュンはヴィッシュのゲルググを見ながら返事をした。次にレオンが調査結果の報告をレイヤーに伝える。

 

「隊長、調査班からの報告です。ヴィッシュ中尉が撃破したHLVからアスタロスが回収されました」

 

「…そうか」

 

「それと、シュンも回収したようで。あの異世界の無法者が持っていたようです」

 

 これにレイヤーは無言だったが、次にレオンはアニタより聞いた事を伝える。

 

「最初に打ち上がったHLVですが、艦隊の到着前に再突入したようです」

 

 これにレイヤーは眉を顰め、次のアニタからの報告に耳を傾ける。

 

「降下地点は、アフリカ大陸ね。先ほど、司令部から連絡があり、北部ダーウィン、南部メルボルンで敵部隊が同時に降伏したそうです。それで…その直前に、初期に制圧したはずの大陸中央で潜伏していた多数の部隊が一斉に東に移動し、アフリカ方面に脱出したことが確認されました」

 

「やれやれ、ここは陽動だったのか…」

 

 アニタからの報告を聞いて、シュンは自分達が攻撃したこの基地は、陽動であったと口にする。

 

「すると俺たちは、敵の陽動にまんまと引っ掛かったて訳か? 月の階段ってのは何だったんだ?」

 

「月の階段?」

 

「お前は寝てたから方面軍司令官の演説を聞いてなかったんだな」

 

 マイクが言った月の階段に対し、シュンが問う中、レオンは寝ていた時にジオン軍オーストラリア方面軍司令官の演説に出ていたと伝える。

 月の階段と東と聞いて、この大陸の出身者であるレイヤーはオーストラリア大陸東部のブルーム地方の海岸の事を思い出す。

 

「東…そうか! 脱出部隊の集結地はブルーム地方。あそこの海岸では、月夜に月への階段のように光が反射するって自然現象があったそうだ。昔、お袋が聞いたことがある。俺もすっかり忘れていたよ。まさか宇宙出身のジオンがこれを知っていたとは…」

 

 レイヤーは自分の母から聞いたブルーム地方海岸の自然現象の事を思い出し、自分も忘れていた事を宇宙のジオン軍が知っていたことに驚く。

 

「つまり、アスタロスなんかここのジオン軍には全く関係無かったんですね…」

 

「偶然ながら、敵ながら見事と言うしかありませんな」

 

 アニタはジオンのオーストラリア方面軍にはアスタロスなど全く関係無い事が分かれば、レオンは敵の方が一枚上手で、敵ながら見事と言うしかないと告げた。

 それにレイヤーはこの大陸の事を、自分たちよりもジオンが知っていたことに感心する。

 

「そうだな。奴らが俺たちよりもよほどこの大陸の事を知っていたんだな…」

 

「しかし、アスタロスが脅威だったのは間違い無しでその脅威は無くなった! ジオンの奴らも居なくなった! これは確かに、我々の勝利ですよ!」

 

 終わりよければ全てよしと言う事なのか、マイクは勝ったのが自分たちであると皆に伝える。

 これにレイヤーはあらゆる想定を考えたが、今は戦争が終わり、勝ったのは自分たちであることは事実であり、勝どきを上げる。

 

「そうだ! 俺たちは確かに勝ち、この土地を取り戻したんだ! さぁみんな、帰って祝杯を挙げようじゃないか!」

 

 そう全員に伝えれば、シュンを除く全員が歓喜した。次にレイヤーは、戦死したヴィッシュに向けて伝える。

 

「なぁ、ヴィッシュ。あんたにも一杯、奢らせて貰うよ」

 

 物言わぬゲルググに伝えれば、レイヤーたちは祝杯を上げるべく、基地へと帰投した。

 

 

 

「さぁ、祝杯を挙げよう」

 

「いや、俺の戦争はまだ終わってない」

 

「おいおい、戦争は終わっただろう? 一体どこの馬鹿が戦争をおっぱじめるつもりだ。ジャクリーンちゃんが終わったと言ったのに」

 

 基地へと帰投したホワイト・ディンゴとシュンであったが、まだシュンの戦争、復讐の戦いは終わっていない。

 これに水を差すように告げたシュンに対し、マイクは茶化しながら注意する。レイヤーは彼の戦いが終わっていないと分かれば、グラスを差し出してそれに酒を注ぐ。

 

「そう言えば、お前の戦争はまだ終わっていなかったな。では、一杯だけ付き合え」

 

「そうだ、俺が終戦まで取っておいた秘蔵のウィスキーだ。飲まなきゃ罰当たりだぞ」

 

「それじゃあ、頂こう」

 

 グラスを渡されたシュンはウィスキーを飲むつもりは無かったが、レイヤーやボブに勧められて一気に飲み干した。

 

「良い飲みっぷりだ。でっ、いつ終わるんだ?」

 

「また異世界で戦うんでしょ? 疲れないの?」

 

 一気に飲み干した後、次にレオンやアニタに問われた。その問いにシュンは、休む暇が無いと笑みを浮かべて答える。

 

「休んでる暇はないんでな。ここを離れたら修行だ。それで、少し休憩してから奴らと戦う」

 

「忙しいようだな。では、貴官の健闘を祈る」

 

 シュンの答えを聞いたレイヤーは部下たちと揃って彼に向けて健闘を祈り、敬礼を送る。

 

「あぁ、そっちも達者でな」

 

 その敬礼にシュンは同じく敬礼で返せば、笑顔でホワイト・ディンゴに別れを告げた。

 シュンの戦争はまだ終わっていない。復讐対象であるネオ・ムガルを完全に潰すまで終わる事は無いだろう…。

 

 宇宙世紀0080一月。この日、地球圏で人類史上最大の犠牲者と破壊をもたらした一年にも渡る人類初の宇宙戦争が終結した。

 だが、一年後に地球に潜伏していたジオン残党軍による紛争が各地で勃発。更に終戦から二年後にオーストラリアのトリントン基地の襲撃を機にデラーズ紛争が勃発。紛争が終結すれば連邦軍内において独立治安部隊ティターンズが結成され、地球連邦による宇宙への圧政はより強固となり、毒ガスでデモを鎮圧すると言う暴挙にまでエスカレートしていく。

 その暴挙に遂に軍内でも反発が繋がり、軍内においてティターンズ打倒を目指す反連邦組織エゥーゴと地上の反連邦組織であるカラバを結成まで至ってしまう。

 この後も血で血を洗う闘争は宇宙世紀0115年まで続いて行くこととなる。その五年後に火星圏でジオン残党との戦闘が発生し、三年後の宇宙世紀0123年には宇宙戦国時代にまで発展する。

 宇宙世紀における血の闘争は、全て一年戦争から始まったのだ。

 後に起こる紛争や抗争、戦国時代の到来など彼らが知る由も無いが、今は終戦の喜びに浸らせて置いてあげよう。




終わった…。
そんで次回は未定。
どうするか迷ってます。

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