愛しの少女を求めて 前編
シュンが落下中に現れた次元の亀裂に落ちた頃、彼に自分が探している少女のことを尋ねた金髪碧眼で雪のように白い肌を持つ女は、何かしらの手掛かりを求めて別の世界を訪れ、その少女を探していた。
彼女が訪れた世界はガイドルフがシュンに語った二つの超巨大勢力、連邦と同盟の双方の大規模な軍事衝突が毎日のように行われている戦場だ。
かつては栄えていたような風景だが、二つの勢力の度重なる激突により荒廃し、人も動物も居なくなり、破壊された家屋やビル等が残されるのみであった。周囲には黒煙を上げる双方の兵器や将兵の屍で溢れかえり、再生不可能なほど大地は汚れきっていたが、連邦と同盟は互いにこの地を譲ろうとせず、今も尚争い続けている。
そんな危険極まりない地に、彼女は探している少女の手掛かりを掴んで訪れたわけだ。
「おい、女! そこで何をしている?」
彼女が来た場所は連邦軍の勢力圏内であったのか、完全装備の歩兵が呼び止め、近付いてくる。彼の同僚は下品な笑みを浮かべ、よからぬことを考えている様子だ。
「なぁ、物凄い美人じゃないか? それに金髪で巨乳だ。ここは一発ヤッちまおうじゃないか。 大金は持ってるし」
「馬鹿野郎、軍機違反だぞ。憲兵共に捕まるぞ」
下品極まりないことを口にする同僚を注意した兵士は、直ぐに彼女を難民キャンプへ送り込もうとしたが、彼女は差し出された手を払い除けた。
「なんだその手は!?」
「抵抗したぞこの女! 公務執行妨害だ、十分な理由になる。輪しちまぉうぜ!」
手を払い除ければ、まだ彼女を犯すことを諦めていなかった同僚は、あろうことか十分な理由が出来たと言い出してその兵士に茂みに連れ込んで
「それもそうだな、お前が悪い…あれ、お前、おかしいぞ?」
「お前もだぞ、ほら…」
それに応じて彼女を輪姦しようとした兵士であったが、彼が同僚の方へ振り向いたとき、互いの顔がおかしいことに気付き、互いに向き合ってそのことを告げる。
当の彼女は彼らを横切ってその場を立ち去っており、二人の兵士は全く気付いていない。それどころか自分の顔がズレており、失血死に至るほどの血が噴き出しているにも気付いていなかった。物の数秒後、二人は自分が死んだことにも気づかずにあの世へ召された。二人を殺害した彼女の手には、いつの間にか現れた殺人の凶器である剣が握られていた。
どうやって二人を死んだことも気付かせずに殺せたかは、彼らが感じない程の情人では出すことが出来ない速度で斬ったのであろう。つまり彼女は特殊な人間であると推測される。
剣の刀身は90㎝程で、取手も彼女が握り易い形となっており、彼女専用に作られたオーダーメイドの剣だ。形はバスタードソードに近く、長さは110㎝程である。重量は華奢な彼女には持てない程の重さであるとされるが、当の本人はそれをまるで軽い棒でも振り回すように使いこなしている。どうやら特殊な合金で軽量化されているようだ。その剣を右手に握りながら、彼女は二人の兵士が属している部隊の本部へと足を運んだ。
「同盟軍の連中の動きはどうなっている?」
彼女が目指している部隊の本部は師団本部クラスであり、多くの将兵が行き来している。
その中で師団長とされる初老の男が、長距離レーダーを見ている士官に敵が向かっていないことを問い掛ける。
「はっ、目下敵部隊は他の友軍部隊と交戦中。こちらの戦区には敵の小部隊どころか、迷子の敵部隊すら来ておりません」
「楽な物だな、出来れば今日はこっちに来てくれないと良いんだが」
「自分もそう願っております」
一切の敵が向かっていないことが分かれば、師団長は自分専用の天幕へ戻ろうとした。だが、その頃には既に彼女は来ており、警備兵が師団長を呼び止める。
「師団長、師団本部へ戻ってください。同盟軍かどうか分かりませんが、侵入者です」
「なに、侵入者? なんで気付かなかったんだ? 警戒態勢は厳のはずだぞ」
「それが…」
問われた警備担当の将校が訳を話そうとした時、その侵入者である彼女が師団長の前に姿を現した。
「の、能力者だ!」
「撃て! 撃ち殺せ!!」
姿を現した彼女に対し、師団長は驚きの声を上げ、将校はすぐに周囲にいる将兵らに彼女を撃ち殺すよう命じた。
命令通り周囲にいる将兵らは各々が持つ銃で一斉に彼女を撃ち始めたが、銃弾は後60㎝の所で一斉に止まり、その場で何かに捕まれているような感じで静止している。この光景を見た将兵らは身の危険を感じて一斉に逃げ出し、師団長の近くにいる士官は彼を掴んで共に逃げようとするが、彼女は誰一人逃さないため、周囲に静止している銃弾を周りにばら撒いた。
銃弾は放った主の元へ向かって飛んでいき、彼女を撃ち殺そうとした将兵らの命を奪う。何名かは生き延びたものの士気は低下しており、生き延びた将兵らは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。無事であった師団長も部下らと共に逃げようとするが、彼女の超能力のような力に捉えられ、部下共々落下死する程の高さまで浮かべ上げられる。
「お、降ろしてくれ!」
宙に浮いている師団長は命乞いをするが、彼女は全く耳を貸さず、師団長たちを宙に浮かべたままである。その隙を突いて散弾銃を持った兵士が彼女の背後へ回り込み、引き金を引こうとしたが、彼女に通じるはずもなく、引き金を引く前に一瞬であの世へ送られる。背後から迫った兵士を始末した彼女は懐から写真を取り出し、師団長に自分が探している写真に写る少女のことを問うた。
「ねぇ、この娘知らない?」
「し、知らない! 本当だ!!」
「そう。じゃあ、死ね」
「ま、待て! 最前線にいる我が軍のサイキックハンターが知っている筈だ!!」
大した答えが無かったため、彼女は師団長らを殺そうとしたが、死にたくない師団長はある情報を持ちかけてそれを止めた。それを耳にした彼女は、そのサイキックハンターが居る正確な位置を問う。
「で、最前線の何所にいるの?」
「同盟軍のここから北側10㎞の前哨基地の近くだ! そ、そこに連中は居るはずだ! 情報は喋ったんだ! 降ろしてくれ!!」
「ありがとう。じゃあ、降ろすわ」
「た、助か…」
情報を仕入れた彼女は師団長たちを文字通り‶地面に降ろした‶。地面に降ろされた師団長たちは、落下した衝撃で死亡する。まだ息のある士官が居たが、彼女が何所からともなく取り出した拳銃でとどめを刺された。
事を片付けた彼女は拳銃を仕舞ってから地図を取り出し、師団長が言っていた同盟軍の前哨基地へと足を運ぶ。直ぐに向かおうとした矢先、彼女を止める男の声が聞こえた。
「おい、待てよ。マリ・ヴァセレート」
先程消したばかりの拳銃、SIGP229自動拳銃を右手に召喚し、男の声がする方向へと銃口を向けた。
彼女の名、マリ・ヴァセレートと口にした男は両手を上げながら出て来る。その容姿は金髪の北欧系の顔立ちが整った美男子であり、エメラルドグリーンの瞳を輝かせていた。
身長は186㎝の長身で、マリの身長173㎝の13㎝の差がある。
「あんた誰?」
「これは失礼したよ、俺はあんたのファンだ。名前は…そうだな、ミカルって名乗っておこう」
北欧系の美男子は名を名乗ったが、おそらく偽名であると推測したマリは尚も銃口を向け続ける。
「そんな物騒な物を向けるなよ。別にあんたを取って食おうって訳じゃない。さっきあんたが殺した将軍よりも正確な情報を渡してやろうかと思って声を掛けたのさ」
気軽に声を掛けるミカルと呼ばれる美男子は、銃口を向けられているにも関わらず、彼女に近付き、懐から取り出した地図を差し出す。それを空いている左手で受け取ったマリは、銃口をミカルに向けながらその地図を確認する。見事なまでの正確差に、マリは関心の声を上げた。
「色々と細かいわね…」
「自慢じゃないが、幼少期の頃からこれが得意なんだ。大人になったら、いつの間にかこうなっていた。自由に使ってくれ。ファンからの贈り物だ」
礼を言わずに受け取ったマリは、それを懐に仕舞ってサイキックハンターが近くに居るとされる同盟軍の前哨基地を目指そうとした。だが、ミカルはまだ渡す物があったのか、彼女を呼び止めてある物を投げ渡す。
「ちょっと待ってくれ」
投げ渡したのは、耳に装着するタイプの小型無線機だ。
「この星の人工衛星をハッキングした。奴らが移動したら、俺が位置を知らせるよ」
それを受け取って耳に着けたマリは何の礼を言わずに立ち去り、サイキックハンターが居る前哨基地を目指した。
「まっ、極度の男性嫌いのレズビアンの女に相手をしてもらって十分か」
そう吐いたミカルは、両手をズボンのポケットに突っ込んでから何処へと去った。
ミカルから正確な情報を受け取り、北にある同盟軍の前哨基地を目指すマリであったが、連邦軍が高々数人の将兵と一人の師団長が死んだくらいで諦める筈もなく、直ぐさま近くにいる各旅団や連隊に追跡部隊を組織させ、彼女の始末に乗り出した。
「居たぞ! 能力者だ!!」
「遠慮はいらん! 撃ち殺せぇ!!」
だだっ広い場所を走っていたマリは即座に発見され、連邦軍の追撃部隊の銃弾が彼女に降り注いでくる。
並の人間ならば直ぐに挽き肉と化すが、彼女は詠唱のような言葉を早口で口ずさみ、周囲に魔法の障壁を張って銃弾を防いだ。
「銃弾が効きません!」
「だったら火力を集中しろ!」
銃弾が効かないことが分かれば、対物火器に切り替え、マリに向けて撃ち始める。
「弾種は榴弾! ぶっ放せ!!」
携帯式ロケット砲を持った兵士がロケットを真理に撃ち込んだが、彼女が張った障壁を貫けなかった。
その後の彼女は道行に出て来る敵兵らを無視しながら目標へと進んでいくが、敵はしつこく、執念深く追ってくる。歩兵戦闘車やVTOLまで動員してくる。更には道に地雷まで設置し、それに気付かずマリは踏んでしまう。
「地雷なんて設置しなきゃ、長生きできたのに」
地雷を踏んだマリは無傷であったが、着ている衣服がボロボロになり、豊満な胸元や太腿が露わとなる。
この場で肌を露出したくないマリは腹を立て、右手にスイス軍が採用しているSG550自動小銃を魔法を使って召喚し、銃を撃ちながら近付いてくる敵兵に向けて発砲する。射撃は正確であり、狙われた敵兵達は次々と倒れていく。まるで動く的のようだが、マリの射撃力と反射神経が異常なだけだ。
弾倉一つ分の三十発を撃ち込んだところで敵兵達は退いたが、この程度で諦める筈もなく、装甲車や歩兵戦闘車を盾にして前進してくる。再装填してから頭を出した装甲車の後ろに隠れる敵兵に向けて数発ほど発砲するも、直ぐに頭を引っ込め、装甲車の重機関銃に仕留めて貰おうとする。重機関銃の銃弾は魔法の障壁で防ぎ切れるものの、敵は撃ちながら前進してくる。
「面倒くさい…」
面倒になってきたのか、マリは向かってくる敵兵等を一気に排除するため、何らかの詠唱を始める。詠唱を口ずさんでから数秒後に、マリの周囲から無数の魔方陣が空中に浮かび上がり、そこからありとあらゆる武器が召喚される。剣に槍に斧、弓矢から銃や大砲と幅広い。当然のことながら、目の前で起きている摩訶不思議な光景に連邦兵たちは呆然としていた。
「な、なんだあれは…!?」
「ま、魔法じゃないのか!?」
「構うことはない! 撃ち続けろ!!」
戸惑いの声を上げる部下たちの混乱を防ぐため、指揮官は怒号を放って彼らを立ち直らせる。やがて召喚した全ての武器が魔方陣から完全に出れば、マリはこちらに向かってくる敵兵等に向けてそれ等を一気に放つ。魔方陣より放たれた全ての武器は星の速さで標的に向けて飛んで行き、標的に突き刺さる。原始的な武器である刀剣類と矢が装甲車や歩兵戦闘車の装甲に適うはずが無かったが、マリが召喚した全ての武器は、その装甲を容易く貫いた。
「そんな馬鹿な!?」
自分等の強力な装甲車類が原始的な武器で一方的にやられていく光景を見たVTOLのパイロットは、当然の如く呆然とする。無理もない、現実味の無い光景が広がっているからだろう。
「ぱ、パイロット!!」
「嘘だろ!?」
そんな彼が乗るVTOLにも、強力な槍が飛んできた。ロケット砲にも耐えられるはずのキャノピーは容易く貫通してパイロットを突き殺した。パイロットを失ったVTOLはバランスを失って地面に墜落する。
数秒間ほど魔方陣から召喚した武器を目前の動いている物に放っていれば、彼女に向けて銃を撃ってくる敵兵は居なくなった。装甲車や歩兵戦闘車は黒煙を上げるガラクタと化し、空に飛んでいるVTOLも全て地面に墜落するか、空中爆発して残骸の一つとなっている。
他に敵影が居ないことを確認したマリは、武器を仕舞ってからその場を離れ、目的の場所へと向かった。数mほど進んだところで前線に入ってしまったらしく、連邦軍の将兵等と人型の機動兵器が向こう側にいるとされる同盟軍と撃ちあっている光景がマリの青い瞳に映る。そのビームやレーザーが飛び交う光景は、さながら映画で見るような未来の戦場だ。
幸いにして連邦軍の将兵らと機動兵器のパイロットたちは目の前の敵に夢中であり、マリの存在に気付かずただ目の前の敵に向けて攻撃を続けていた。
「楽な物ね」
自分の声が掻き消されるほどの激戦であった為、誰にも存在を気付かれずことなく目的地へ容易に移動できるので、マリは目的地の最短ルートを計算し、そこに沿って目的地へと向かった。
戦闘の影響で崩落した地下通路を行く彼女の頭上では、銃弾やミサイル、ビームやレーザーが飛び交い、爆発音や銃声に混じって双方の将兵の断末魔が耳に入ってくる。稀に吹き飛ばされた兵士の死体が地下通路に落ちてきたが、マリは気にすることもなく進む。鼠の一匹や二匹は居るはずだが、死の危険を感じて何処かに隠れたか、逃げ去ったようだ。
そんな戦闘地域の地下通路を進んでいけば、広い場所へと出た。
「でっかいロボット…」
地下から出た彼女は一旦足を止めて、身を隠せるほどの大きさはある残骸に潜み、目の前に見えるありのままのことを口にした。
マリが言った通り、デカいロボット、モビルスーツと呼ばれる全高18mはある人型機動兵器が前線へと向かっているのが見えた。その数は後続を含めて四十機以上であり、人工的な地震が起きる程であった。彼女の存在に気付くことなく前線へと向かっているが、あの中を通るのは至難の業だ。
統合連邦の参加国である地球連合が運用するストライクダガーの後継機として開発された。現在はウィンダムと呼ばれる高性能量産機の配備が進み、他の参加国や勢力にレンドリースか、ライセンス生産されている。今、彼女の目の前に動いているダガーLは、レンドリースされた物か、ライセンス生産された物だ。
それを証明しているのは、本来ダガーLが使っている携帯兵装であるビームカービンが、銃身が長いストライクダガー用のビームライフルに変わっていることだ。
一機を盗もうと考えているマリであったが、センサーに引っ掛かって発見され、即座にダガーLの頭部に搭載されている対人用機銃で挽き肉にされるのがオチなので、大人しく過ぎ去るのを待つ。
多数のMSが過ぎ去るのを眺めていると、ダガーLの巨体の足元に戦車が混じっているのが見えた。戦車の形は全高2m半、全長10mと現代
「な、なんだお前は!?」
「あっ…」
周りを見ずに出てしまったために、後続の歩兵部隊に気付かなかったようだ。
そればかりかダガーLとは違うMS、全高が1m程高い地球連邦軍のジェガンまでが居た。
左腕にグレネードランチャーを装備し、バーニアを通常型よりも増設した派生型のR型だ。便宜上はAタイプと呼称されている。この機体もダガーLと同様、払い下げられるか、ライセンス生産された機体だ。
『手を挙げろ!!』
まだ報告が行っていないのか、部隊の指揮官がマリに手を挙げるよう勧告してくる。無論、彼女はそれに応じず、両手に五十発弾倉のMP7短機関銃を出し、まだ引き金を引いていない連邦軍の歩兵たちに向けて発砲した。
「ぎゃあっ!?」
撃たれた敵兵等はドミノのように倒れ、指揮官も多数の銃弾を浴びて倒れる。彼らが身に着けているボディアーマーにMP7の4.6×30mm弾が通じる筈もないが、マリが魔法で強化したのだろう。まるでベニヤ板のように貫通する。
「一体なんだってんだ!?」
味方の歩兵が瞬く間に全滅したのを機体のカメラ越しで見ていたジェガンのパイロットは驚きの声を上げながらも、目の前の金髪の女を敵と判断し、機体頭部の左側に搭載されている大口径のバルカンポッドで挽き肉にしようとトリガーを引いた。
「なっ! 居ない!?」
トリガーを引いて数発ほどマリに撃ち込み、挽き肉になっているかと思ったが、血煙は上がらず、それどころか影も形もない。驚いたパイロットは全天周囲モニターの全てのカメラを使ってマリを探してみたが、何所にも居なかった。
一方の消えたマリはと言えば、なんとジェガンのコクピットの近くに張り付いていた。あの時の攻撃の時にマリは自分の高速魔法の類でコクピット近くまで瞬間移動していたのである。「流石にコクピットの近くに居るわけがない」と錯覚しているパイロットは、全く違う場所にカメラを向けてマリを探していた。
「さて、この機体をいただこうかしら」
そう呟いてから右手にスタンガンのような物を召喚して、それをコクピットの近くに当てた。
「な、なんだ!?」
マリがそれを当てた途端、全方位にある全てのモニターが「異常発生」の警告文章を表示した。コクピットの照明は赤く点灯し、何が起きたのかを理解していないパイロットはそれが収まるまで待つ。何か来るかもしれないと思い、護身用の拳銃に手を添えるのを忘れなかった。
「一体何が…あっ、なんでハッチが勝手に…!?」
物の数秒後で異常事態が収まったが、コクピットのハッチが開閉ボタンを押していないにも関わらず勝手に開いた。直ぐに開閉ボタンに手を添えて閉めようとしたが、先にマリが入って来ていきなり冗談交じりの挨拶をパイロットに行った。この時、彼の手には拳銃が握られていたが、入って来た侵入者に銃口すら向けていない。
「ハロー。早速だけど、降りてもらうわね」
「お、お前! 何所から!?」
ようやく拳銃の銃口を向けたが、向けるのが遅く、彼女の魔法で宙に浮かべられ、コクピットの外へ放り出された。
「ウワァァァァァ!!」
「さて、設定変えなきゃ」
悲鳴が聞こえてから数秒後に骨が砕ける音が鳴った後、マリはハッチを閉めてシートに座り、キーボードを叩いて操作設定やOSの変更などを行う。
「なにこいつ、性能頼りで何も秀でたとこ無い雑魚パイロットじゃん。最初から乗るなっての」
捜査設定やOSの変更を行っている最中、先程コクピットから放り出したパイロットが性能に頼り過ぎ、特に秀でた技術もないパイロットと分かった為、既に故人である彼を蔑みながら変更を続けた。
「よし、出来たと。これで私に馴染むわね」
機体の操縦とOSを自分に合うように変更したマリは操縦桿を掴み、機体を動かして目的地の場所へと移動した。画面に表示した地図を確認しながら目的地の場所にマークを付け、それを頼りに進んでいると、無線のチャンネルを繋ぎぱっなしにしている所為か、前の持ち主の上官の声が聞こえてくる。
『タングステン5、そこはお前の担当じゃないぞ。直ぐに持ち場へ戻れ』
「あっ、忘れてた」
『女の声!? おい、タングステン5、何をして…』
マリの声を聴いた向こう側にいる男は、もう既にいないパイロットに何をしているのかを問おうとしたが、彼女は無線機のボタンを切った為、消えず仕舞いに終わった。無論、直ぐに異常事態と判断したので、確認のための人員を送り込んでくる。送り込んだ人員は、人では無くMSのダガーL二機であり、手には本来の携帯兵装であるビームカービンが握られている。その銃口はマリが乗るジェガンに向けられており、いつでも撃てるようにされている。撃つ前に拡声器での警告を行う。
『タングステン5、聞こえているならさっさと機体から降りて下に居る憲兵に身柄を渡せ。自首するなら罪は軽くなるぞ』
「罪なんて軽くならないでしょ」
拡声器から自首するよう勧告してくるが、マリが大人しくお縄に着くはずもなく、ビームで勧告に返答する。
まさか撃ってくるとは思っていなかったのか、僚機をやられたダガーLのパイロットは拡声器をオンにしたまま本部に通報した。
『う、うわぁ!? や、やりやがったな! グラスホッパー2より
彼が本部に言い終える前に、マリがビームライフルのトリガーを引いてあの世へ旅立たせた。ビームを撃たれて倒れたダガーLが爆発した後、下で待機していた憲兵たちは蜘蛛の子を散らすようにわらわらと逃げて行く。さっさと目的地へ移動しようとした時、ミカルから貰った小型の無線機から連絡が入る。
『早速派手にやらかしたな。連邦の奴らは大慌てだ、予備戦力からあんたを倒すための部隊を編成してる。直ぐに小隊規模の機動兵器が来るだろう。まぁ、なんでも出来るあんたには、二個大隊じゃないと足りないと思うがな。目的地に居るサイキックハンター共は、同盟軍の前哨基地をアーマード・トルーパー部隊と共に制圧した。マップにマーキングしておく。奴らが移動したらまた連絡する』
ミカルからの連絡が切れた後、マップに目的のサイキックハンターが居る位置に表示された。
直ぐにそこへ向かおうとしたが、ゾイドと呼ばれる恐竜や動物の姿をしたギアとモーターに似た器官を持つ金属生命体を中心とした部隊が彼女の目の前に現れた。
「犬ころ?」
マリが犬と評したゾイドは、オオカミ型のゾイドであるコマンドウルフであった。
中型クラスのこの機体は、統合連邦の参加国家の一つであるヘリック共和国が有する高速戦闘型ゾイドだ。防御力は乏しいが、小回りが利いて扱い易く、ロールアウトから長きに渡って火力を強化されつつ第一線に立ち続ける共和国屈指の名機である。
その扱い易さが功を奏してか、統合連邦参加国家全てがこの中型高速戦闘型ゾイド、コマンドウルフを採用している。盗賊やマフィアなどの非合法組織もコマンドウルフを使っている。
彼女の目の前に現れたのは、250mmロングレンジキャノンと機動力低下対策のアシスタンスブーストを装備したアタックカスタム仕様のコマンドウルフだ。直ぐに背中のロングレンジキャノンを撃ち込んでくる。四機編成の小隊がマリのジェガンへ向けて集中砲火を浴びせたが、彼女は操縦桿を巧みに動かして軽やかに避ける。
「こんなのキャンディー舐めながらでも避けれるわ」
画面越しの相手を舐めつつ、マリは足を止めているコマンドウルフへ向けてビームを撃ち込んだ。
『味方が!?』
『動き回って的を絞らせるな!』
「なんで敵の声が聞こえるのかしら?」
無線機から敵の通信が聞こえてきた為、マリは黙らせるために散会して背後に回り込もうとする手近な一機を仕留めてから、ミカルに連絡してそのことを問う。
「ねぇ、この無線機盗聴機能があるんだけど?」
『あぁ、便利だと思ってな。取り敢えず付けておいた。気に入らなければオフにしてくれ。ボタンを二回押せば良い』
連絡して盗聴機能をオフにする方法を聞いたので、ボタンを二回押して機能を切る。
それから残り二機となったコマンドウルフの排除を行った。鉄器の域再起を予想して、そちらの方向の照準を向け、未来予測射撃を行う。敵は吸い込まれるようにそちらの方向へ向かい、発射されたビームを受けて地面に倒れる。
残る一機のパイロットはパニックを起こしてロングレンジキャノンを乱射するが、マリは無慈悲にもビームを撃ち込み、彼を他の戦友達が待つ場所へと送る。
「ちょっと時間掛かったわね、ショートカットしようかしら」
追跡隊を排除したマリは、排除に少し手間が掛かった為、最短ルートを通って目的地まで向かうことにした。
その最短ルートとは、戦場のど真ん中を突っ切る事である。かなり危険な道であるが、数分で着くのでマリは迷わず戦場の中に飛び込み、目的地である前哨基地を目指す。連絡が行っているのか、前線に居る歩兵や通常兵器、機動兵器がマリの乗るジェガンへ向けて撃ってくる。雨のような弾幕であるが、彼女はそれを意図も容易くかわし、スラスターを全快に吹かせて目的地の場所へ飛ぶ。ミサイルも飛んでくるが、彼女は多数のミサイルを容易く避け、進路の邪魔となる敵機を破壊しつつ目的地を目指した。
「ジェガンR型をあれだけ動かすだなんて…」
「俺たちはあんな真似できねぇぞ…」
同型機に乗る自分達よりも遥かに凌駕する操縦技術を持つマリの腕前を見て、呆然としていた。続けて三機以上の連邦軍機を撃破したところで、マリは同盟軍の前線区へと入った。当然ながら敵である連邦軍機が入って来たので、同盟軍の機動兵器がマリの乗るジェガンR型に向けてビームや砲弾を浴びせて来る。
「やっぱ撃ってくるわよね!」
モノアイタイプのMSと、スティラコサウルス型の動く要塞のように火器を満載したゾイドの集中砲火を回避しつつ、着地したところで敵に向けて撃ち返す。
敵機はまるで的のように立っており、面白いようにマリの攻撃を受けて次々と大破していた。これは単に乗っているパイロットの問題ではなく、マリが凄過ぎるという原因であると言えようか。
次から次へとくる攻撃を避けながら、棒立ちのままでビームを撃っている敵機に当て、敵の戦力を削り取っていく。彼女にとっては作業のように見えるが、敵側からすれば、悪夢その物である。対機動兵器用の携帯火器を持つ歩兵ですらマリが駆るジェガンに当てれず、頭部の左側についているバルカンポッドで挽き肉にされる始末であった。彼女が乗るジェガンに立ち向かった同盟軍の機動兵器部隊は僅か数分ほどで壊滅。生き延びた全ての将兵は何の攻撃もせずに撤退する。
一個中隊規模の機動兵器部隊を壊滅させたマリは再び目的地へと向かおうとしたが、同盟軍が諦める筈がなく、次なる部隊を送り込んできた。
「やっぱりこの程度で済むはずないよね!」
そう言いつつも、向かって来た敵機を迎え撃つ。撃ちながら向かってくる一機を撃墜した後、そのまま目的地まで行こうとしたが、周囲から近接兵装であるビームアックスを持ったモノアイタイプのMSが四機ほど飛び出してきた。
「接近戦に弱いと思ったら大間違いよ!」
斬りかかってくる敵機に対し、大型のビームライフルを目の前の敵機に投げ付けてから両腰の近接兵装であるビームサーベルを抜き、ビームの刃を展開させて左右の敵機を同時に切り裂いた。
胴体を斬った為、上半身が地面へと倒れ込む。その最中に背後から迫る敵機に左手に握るビームサーベルを突き刺し、足で蹴って引き抜く。最後の敵機に関しては、左腕に付いてあるグレネードランチャーを撃ち込んで破壊する。
後一機がマシンガン状のビームを乱射してくるが、彼女は冷静にシールドのミサイルを撃ち込んで撃破した。また敵の部隊が来ないうちにマリは機体のスラスターを全快に吹かせ、空を飛びながら急いで目的地へ急いだ。
「もう目的地かしら?」
上空を飛ぶ中、目的地である前哨基地が近くなった所でマリはマップを確認する。
「ちょっと!」
そのマップを見ている最中に、地上から対空砲火を受ける。余所見をしていたので真面に受けてしまい、機体は地面へと墜落する。崩れた建造物に激突して止まった所で、マリはコクピットを無理やりこじ開けて機体の外へ出た。
「あいつらかな」
機体を捨てて外へ出たマリはSG550自動小銃を召喚し、自分を撃墜したのは前哨基地に居るサイキックハンターであると推測する。
銃の安全装置を解除して、自分を地面に叩き落としたサイキックハンターの元へ徒歩で向かった。
新キャラのミカルのモデルは、海外ドラマ「リベンジ」に登場するノーラン・ロス。
演じてる俳優がやたらイケメンでやたら金髪であった為、吹き替えの人が三木眞一郎さんだったので、イメージも三木さんにしようかな…
それと今回登場するMSは、連邦側がジェガンR型にダガーL、同盟軍側がギラ・ドーガとゲイツR。
そして初登場となるゾイドは連邦側がコマンドウルフACで同盟側がレッドホーンです。
タイトル通り、前編と後編に別れていますので、後日に後編を投稿したいと思います。