魔法科高校の立派な魔法師   作:YT-3

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一月ぶりの投稿です


第四十話 たとえ、何者であっても……

無事に九校戦の初日も終わり、本戦男女スピードシューティングでは一高が表彰台の頂点に立った。もちろん、女子の部の一位は真由美で、一つの撃ち漏らしもないパーフェクトゲームで完封している。

そんな九校戦の先頭を走る一高の夕食会場では、程よく気の抜けた空気が漂っていた。まるで緊張感がないのとも違うが、他の学校と比べれば、どこか余裕がある表情をしているのがわかるだろう。

 

「それで。何か言い訳はあるかしら、ナギくぅん?」

「ありません!すみませんでしたーー!!」

 

しかし、その中央。仁王立ちで微笑む本日の立役者、真由美と、地面に頭をついて離せないナギの周りだけは、なんとも言えない緊張感が漂っていた。チリチリと空気が弾ける様は、一高選手団の注目の的だ。

 

「べつに、私は怒ってないのよ〜? 雪姫さんのお師匠さまに偶々会ったんだものね〜? それは、私たちとのごはんの約束も忘れちゃうわよね〜〜?」

「ひ、ひぃっ?! ご、ごめんなさい〜〜!?」

 

合掌。一高代表が、達也も他の生徒も含めて、この時ばかりは全く同じ行動をとった。

例え、二科生のくせに皆の憧れの的である会長と仲が良くて羨ましくとも、これを見ては到底代わりたいなどとは思えない。むしろ、自然と同情的な気持ちになってしまう。

 

彼が正座で涙目になりながらも、ナギへの"お説教"は30分以上続いたのだった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「ううぅ……久しぶりにキツかったよ……」

 

涙目になりながら、取り皿に料理を盛っていくナギ。その姿を見た"お姉様"方が黄色い悲鳴を上げているが、達也には関係のないことだった。

 

「すまないが、まったく擁護できないな。会長との約束をすっぽかせば、こうなるのは分かっていたことだろう?」

「そうなんだけど……話が弾んじゃったというか、気付いたら時間が過ぎてたというか……」

「よっぽど仲が良くなったんですね? ナギ君のお師匠さまのお師匠さま、とのことでしたが?」

 

一応、あの場にいた友人たちには簡単な説明をしていたナギだったが、真由美の試合のため時間の余裕がなく、本当に軽く触れただけだった。だから、深雪が首を捻ったのも無理はないことだろう。

 

「うん。ボク自身は初めて会ったんだけどね。向こうはボクのことを聞いてたみたい」

 

嘘は言っていない。ただ、『並行世界で』ということを言わなかっただけだ。

そして、当然そんな空想じみたことに思い当たるわけもなく、深雪は別の気になっていたことを問いかける。

 

「でも、その……あの方は、人間、なのですか?」

「俺もそれは聞きたいな。とてもじゃないが、同じ人間だとは思えなかったが」

「うん。まあ、違うよ。

ダーナ大師匠は吸血鬼、それも真祖っていう上位種のね」

「きゅ、吸血鬼?!それってどういうことなのナギ君!?噛まれたりしなかったの!??」

 

横で聞き耳を立てていたのだろう。まあ、ナギたちも気付いてはいても気にしていなかったのだが、流石にエイミィが突然飛び出した衝撃の事実に飛びついた。

他の人間は、驚愕に口を半開きにしているか、もしくはとても"いい"笑顔でゆっくりと近づいてきているかの二択だった。

 

「ナギくぅ〜〜ん? そのお話、もう少し詳しく教えてくれる〜〜?」

「は、はいっ!分かりましたぁっ!?

え、えっと、大師匠は吸血鬼の真祖、ハイデイライトウォーカーって言うんだけど、この人たちは今は失われた秘術で"人間から吸血鬼になった"存在なんだ」

「人間から吸血鬼に?それはどういうことだ?」

「分からない。だって、もう存在しない秘術だからね。

だけど、元は人間だから日光を浴びても平気だし、心臓に杭を打たれても死ぬことはないんだ。血を吸うのも、よっぽど魔力が足りなくなるか、もしくは趣味でもない限りしないし、それで必ず吸血鬼になるわけでもない。気持ち的には献血みたいな感じなんだよ。ボクは噛まれてないけど。

簡単に言えば、永遠に不老で、体を吹き飛ばされても復活するほどに不死で、血を吸えば魔力を補充できるだけの、ただの人なんだ」

「……それはただの人じゃないと思う」

 

雫の冷静なツッコミで、少し場の空気が弛緩する。どうやら、思っていたよりも危険な存在ではないようだ。

 

「なら、どうしてあそこまで警戒していた?」

「目的が分からなかったからね。強大な力を持つ彼女が現れた目的が。

『永遠の命』って聞こえはいいけど、それはつまり、そのうち全ての事柄に"慣れて"しまうってこと。だから、彼女たち吸血鬼の真祖は何事にも興味を持たず、基本的に自分の異界に閉じこもって、ただ何をすることもなくそこにいるだけなんだ」

「ふぅーん?なんか、私たちには関係ないみたいに聞こえるね?」

「事実、ほとんど関係ないんだよ。こう言っちゃダメかもしれないけど、殆ど引きこもりの種族だからね。

だからこそ逆に、大師匠が現れた時は驚いたんだ。暇潰しに血を吸いに来た、ってことがまかり通る存在だから」

 

エイミィの疑問に答えるナギ。そして、往々にして『基本的』というものには例外がある。

 

「なら、あの女の目的はなんだったんだ?」

「大師匠はその例外だったんだ。それが分かったのは実際に話してみてからだったけど。

大師匠は、興味がある事柄が"永遠に尽きないこと"だから、現世(うつしよ)に興味を持ち続けてる。だから、必要があれば普通に出てくるんだよ」

「永遠に尽きないこと?」

「"永遠の美"を求めてる、って言ってたよ。時代によって美の基準は変わるけど、それの中心にして核、ありとあらゆる時代でも通用する"究極の美"を手に入れたい。ってことみたい」

「へー。女の人の夢ですもんね。吸血鬼になってもそこは変わらないんですね?」

「吸血鬼って言っても、それ以外は人間の感性をしてるからね、少し生死観が薄いけど。だから、あまり怖がることはないですよ、ほのかさん」

「……なるほど、理由はあの女神か。コノハナノサクヤビメは日本神話において美で讃えられたほどの存在。だから彼女に会いに来た、といったところか」

「達也くん正解。ボクの顔を見たのはそのついでだったってこと」

 

ぽわん、と。直接彼女と会った達也たちの脳内で、あの傍迷惑な女神様と、存在感マシマシの吸血鬼が、美について討論しているシーンが浮かんだ。……絶対に、そこの間には入りたくない。

 

「うーん……こうなるとナギ君のお師匠さんが気になるなぁ?」

「いくら頼まれても教えないよ? (マス)(ター)も有名になることを望んでないし」

「そうだよねーー。吸血鬼と知り合いってだけで、もうヤバそうな空気がビンビンしてるもん」

 

()()()()落胆をつくエイミィを横目に、達也はナギにどうしても聞くべき事柄を、皆に聞こえないよう小声で訊ねた。

 

(ナギ。あの女性についてはそれでいいとして、彼女が言っていた『同類』とは何のことだ? まさか、お前も……)

(彼女たちと同じ魔法を使ってるから、で納得してくれる?)

(……同じ魔法?)

(うん。達也くんならもう気付いてると思うけど、ボクの魔法はちょっと特殊な物なんだ。春原家に伝わってたというのは本当だけど、今の魔法理論とはまるで違う理論で使う魔法で、多分もう伝えてる家は春原家しかないと思う)

(それが、彼女が使うものと同類だった、と)

(一応そうなるかな。ボクのは『魔法』であっちは『魔導』、レベルは向こうが10段は上だけどね)

(……なるほど、そういうことにしておこう。友人(ナギ)を信じてな)

 

ズキリと、胸が痛んだ。

確かに、同じ魔法を使っているのは間違いがない。確かにその意味でも『同類』と呼べるだろう。

しかし、その魔法が、自分を構成する最も重要な魔法が、先ほど言った『失われた秘術』を基にした物だということが、何よりの『同類』の証だった。

 

それを伝えることは、今は出来ない。

予想より早く発見されたとはいえ、未だ人(あら)ざる者たちの『人権』が認められていない今は、まだ。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「……ふぅ」

 

息を吐き、ベッドへと倒れ込む。

まさか、伝え聞いたことしかない、それも『向こう』の世界と同一人物である大師匠に出会うとは思わなかった。

 

「それに……」

 

右手を光にかざす。そこに渦巻く『闇』を見つめるかのように、掴むかのように、手を軽く閉じた。

 

「達也くんにはバレてるかもなぁ……」

 

なにせ、知覚系の魔法が使えるのは分かってるのだ。それの内容によっては、自分の『闇』も勘付かれた可能性がある。

それだけではない。あの時、一瞬とはいえ皆の前で『本気』を出してしまった。勘のいい彼らなら、得体の知れない"異物感"に気がついたことだろう。……自分の(いも)(うと)も含めて。

 

「…………」

 

ほんの一瞬だけ目を閉じ、再び開く。そして、その視界に再び滑らかな人間の腕が映……らなかった。

そこにあったのは、キチキチと硬質な音を立てて鋭利な爪を噛み合わせる、魔物の腕。普段は抑えている、自分が人外である証。

どう足掻こうが、変えられようもない真実。力を抑え、擬態することはできても、結局のところ"ヒトではない"ことに、未来永劫変わりはない。人から魔の存在に転生する方法は自分も通ってきたが、その逆の道があれば、不死者が死ねないことに苦悩したりなどしないのだから。

 

「…………でも。それでも……」

 

そう。それでも、人の世界で生きると決めたのだ。

——仲間の最期を看取り、自分だけ永久を生き続けることになろうとも。

——種が異なることを隠し、発覚した時に友になんと言われようとも。

それでも、その全てを覚悟して生きていくことを決めたのだ。孤独に怯える必要のない、社会に迫害されることもない、自分と彼女の理想の未来のために。

そのためならば、社会というシステムすらも利用してみせよう。例え友を騙すこととなろうとも、その先に、きっと、笑いあえる未来があると信じて。

 

「……よしっ!」

 

なら、差し当たっては目の前の大会に集中しよう。

自分のためだけではなく、チームみんなのために。そして、自分が大切に思っている義理の姉に、後世まで残る栄光を授けるために。

 

そんな、決意も新たに翌日へ思いを馳せようとした丁度その時、コンコンと部屋の扉がノックされた。

 

「ん?はーい、誰ですか〜?」

『ナギくーん?今大丈夫ー?』

「真由美お姉ちゃん?どうぞー?」

 

ガチャリと扉が開き、そこから義姉がひょっこりと顔を出した。唐突といえば唐突な訪問だが、姉弟の関係なのだから別に不思議はない。……寝巻きで廊下を彷徨(うろつ)くのは少々不用心だと思うが。

 

「どうしたの? こんな夜遅くに」

「ん〜……。その、ナギくんの雰囲気がね? 何か思いつめてたようだったから、力になれないかな〜って思ってたんだけど……その様子じゃ必要なかったみたいね」

 

ドキリと心臓が跳ねる。

 

「や、やだなぁ。何を言ってるの?」

「別に隠さなくてもいいのよ、どうせ分かっちゃうし。何年もナギくんの姉をやってるのは伊達じゃないわよ?」

「…………すごいなぁ……隠してたつもりだったのに、バレちゃうんだ?」

「ナギくんだって私や香澄ちゃんたちが隠し事したら分かるでしょ? お互い様よ」

「……うん、それもそうだね」

 

はぁ、と溜息を吐く。姉弟という関係はこの世界に来てから初めて得られたものだが、これがどうして中々厄介だ。

隠し事をしたくとも気づかれてしまうし、逆に少しでも雰囲気がおかしければ気になってしまう。かといって、それに踏み込むかどうかはまた別の話だが、それが原因で悩んでいるようだったら力を貸すことを躊躇わない。それも善意100%で。

親子ではありえない、本質的に対等な力関係で、でも力を合わせられる家族というのは"きょうだい"だけだ。……いや、三姉妹と自分が対等かどうかは疑問が残るところだが。

 

「で、悩んでたのはダーナさんって人に何か言われたから?」

「……うん、そうと言えばそうだし、違うといえば違うかな? ちょっと、このままでいいのかなって考えちゃったんだ」

「…………それは、ナギくんが人間じゃないから、私たちと一緒に居ていいのかなってこと?」

 

…………………………………………え?

 

「その顔、やっぱりそうなんだ」

「い、いつから気づいてたのっ?!」

「うーん……確信を持ったのは今日、大師匠様が吸血鬼ってことを聞いてからだけどね。違和感を持ったのは、初めて会ってから暫くしてかな?」

 

意外とバレバレだったわよ、と笑う姉の顔は、いつも通りの、とても優しい表情だった。

 

「ナギくん、どう考えても子供の思考回路してないもの。大人に混じってても違和感がないってゆうか、むしろ同級生と遊んでる方が不自然なぐらいだったわよ?」

「……そんなに?」

「うん。それに、身体能力も偶に人間離れ、というか物理法則離れしてるしね。初めは何か特殊な魔法か技術を使ってるんだと思ってたけど、いくら観察してもそういうものはなかったし」

 

これで同じ人間だと思うほうが難しかったわよ、と肩を竦める。

自分ではかなり気をつけていたつもりだったのだが、共に過ごす時間が長かっただけに、小さな綻びが積み重なって勘づかれたのだろう。

 

「ま、初めは古式魔法師の伝承にあるような混血、人外の血を伝えてる一族じゃないかって思ってたんだけどね。それも半信半疑だったけど、あの女神様に気に入られた辺りからまさかと思って、今回のがトドメだったわね。他人に興味のないっていう吸血鬼が、弟子の弟子とはいえ赤の他人に興味を持つのかなぁって」

「……そうだったんだ」

 

本当は興味を持ったのは別口からなのだが、それは今はどうでもいい。結局のところ、人外であるということに辿り着かれたという事実には変わりがないのだから。

 

「……ひとつ、聞いてもいい?」

「なに?」

「……真由美お姉ちゃんは、ボクが怖くないの?」

「ん?何が?」

 

あっけらかんと、本当に欠片も思っていないその顔に、完全に不意を突かれた。

かなりマヌケな顔をしてるであろう自分に向かって、愛しの姉は、本当にいつもと変わらない様子で語りかけた。

 

「別に、実は人間じゃなかったとしても、ナギくんの性格は変わらないし?今更怖がる必要もないでしょ? なに?もしかして怖がって欲しかったの?」

「え? いや、そうじゃないけど……」

「ならいいじゃない。例えナギくんが人じゃなくても、ナギくんは私の弟で、私はナギくんの姉。それは変わらないんだし……ん?もしかして、実はナギくんのほうが年上だったりする?弟じゃなくて兄さんなのかな?」

「……ううん。年下だよ、一応」

 

涙が出そうになるのをこらえ、事実(うそ)に塗り潰された真実を答える。

今は、この姉弟という関係が必要なのだ。利害の問題ではなく、信頼を寄せられる家族として。

それに、自分に自覚のない、というよりも前の世界で"生まれ変わった"時以降成長しない精神年齢的に、目の前の少女は自分の姉であることには変わりがないのだから。

 

「一応、ね……。まあ、詳しいことはそのうち話してくれればいいわよ。何もかも知る必要があるのは……えっと、その、夫婦ぐらいだもの! 姉弟といってもプライベートを持つべきよね!」

「……それを言うならプライバシーだと思うけど」

「えっ、あっ! そ、そうよね!プライバシーよね!」

「…………」

「…………」

「……ぷっ」

「……ふふっ」

「「あははははっ!」」

 

余りにもいつものやり取りすぎて、思わず二人して笑い出してしまう。

それが、今の自分には有難かった。

 

結局のところ、何かが変わったということはないのだろう。(じぶん)は隠し事が一つ減り、姉は疑念が確信になっただけ。二人の間にある関係性には、何一つとして変わりがない。

ただ、どこにでもいる、仲のいい姉と弟。それだけの関係で、それが全て。種族だとか、魔物だとか。そんなものは、たった数年の姉弟の絆に比べても、とてもちっぽけなものだったというだけの話だ。

 

でも。だけど。

それでも、それが、それだけが、自分にとって何よりの幸せだった。

前世で直接的に家族の愛に恵まれなかったからこそ分かる、繋がりの大切さ。無条件で助けになってくれる存在のありがたみ。そして、それらを失わなかったことによる、最大級の安堵。

だからこそ声を上げる。流れる雫を誤魔化すように。それが決して、哀しみから溢れたものではないと教えるために。

 

「ふふふふっ!あー、笑った笑った! こんなに笑ったのは久し振りよ」

「ん、んんっ! そうだね、本当に久し振りだ」

「……ふふっ。でも、ナギくんがこんなに笑うところは初めて見たかも。いっつも、何が罪悪感を感じてるような顔だったから」

「そうかも。この秘密を話したのは、人間だと真由美お姉ちゃんが初めてだよ。だからかな?」

「……ふーーん、ほーーん?」

「……真由美お姉ちゃん?なんで急に雰囲気が怖くなってるの……?」

 

正直、急展開すぎてついてけない。

 

「"人間だと"、ねぇ? じゃあ、人間以外には話してるんだ? 例のダーナさんとか、雪姫さんとか」

「えっと、そうだね。ダーナ大師匠は元から知ってたみたいだったし、(マス)(ター)はボクが人間をやめる理由になった魔法の開発者だから。すぐにばれちゃった」

「……人間をやめる理由になった魔法……」

 

それを聞いた姉は、何やら顎に手を当てて考え込む。何が引っかかったのだろうか?

 

「……ナギくんは、寿命ってどうなってるの?」

「寿命? 大体17,8歳ぐらいまでは普通に成長するけど、そこから急に遅くなる予定。そのあと40歳ぐらいで20歳相当の体になって、そこで完全に止まるね。一応不死ってことになってるから、余程のことでもないと永遠に()()()()かな」

「……そう」

 

空気が変わった。間違いなく、明らかに。

つい先程まで安心する微笑みを浮かべていた顔は伏せられ、その表情を窺い知ることは出来ない。それでも、弟の直感で、姉が何かを深く思考していることは理解できた。

 

カチ、コチと、時計の針が進む音と——部屋に備え付けられていたのは現代では珍しい文字盤式の時計だった——、二人分の息遣いだけが空間を満たす。

 

これは、真由美と出会ってからナギにとって初めての経験だった。

いつも明るく、元気で、少女らしいバイタリティを持ちながらも、姉として、そして日本の未来を背負う魔法師の一員として、頼りになる存在。静寂なんて言葉はまるで似合わず、なんだかんだで触れ合う人みんなを明るくさせていた。

 

それが、どうだ? 自分の姉は、こんなにも華奢でか弱そうな少女だったのか? それを必死に押し殺して、ただ『みんな』の求めるようになろうと足掻いていただけではなかったのか?

社会の期待を背負い、支えるべき家族からも長女として頼られる。その重圧を取り払った先にあるものが、こんな、どこにでもいる一人の少女だということを、みんなが忘れて。

 

自分も、すこし頼りすぎていたのかもしれない。

『計画』のため。当主としての責務。そうやって言い訳して、『姉だから』というだけの理由で、支え返すことをしてこなかった。それは、男だとかは関係なく、一人の『家族』としてするべきことだったにも関わらず。

よく言えば、それだけ信頼してるということ。でも、一方的に信頼だけして、向こうから頼られないというのはダメだった。

 

……かといって、今までやってきたことを訂正などできない。カシオペアがあれば別かもしれないが、あったとしてもそんなことをするつもりはない。

ならば、これから返していくしかないだろう。支え、支えられる。それが、家族の在るべき姿なのだろうから。

 

「……ナギくん。一つお願い、いいかな?」

「うん。なんでも言って」

 

顔を上げた姉の姿は、見たことのないものだった。

十師族の七草家当主の長女でもなく、春原凪の義理の姉でもなく、ただ一人の七草真由美としての顔。

 

そして、その表情には、隠されることない決意。

かつて、何度も見た顔と被る。

 

——共に伝説の吸血鬼に挑むと言い切った彼女のように。

——未来(かこ)を変えるために時を超え、天空で相対した彼女のように。

——一つの世界を救うために、世界を滅ぼそうとした彼のように。

 

言い聞かせても決して曲げないような、確固たる意志を持っている、その姿。

 

そして。

真由美は、ゆっくりと口を開いた。

 

 

 

 

 

「私にも、その魔法を掛けて」

 

 

 

 

 




まだ未完成ですが、作成中の挿絵をあらすじに投稿しました。完成までは程遠いですけどね(^_^;)

ついでに、一つお知らせを。
活動報告にも書きましたが、絵師さんを募集します。自分じゃ作れそうにないので……(^_^;)
上手くなくても構いませんので、宜しければお力をお貸しくださいm(_ _)m

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