魔法科高校の立派な魔法師   作:YT-3

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第二十五話 司会者

 

『さあテレビでご覧の皆様!はたまた会場で生でご覧の皆様も!まもなく全日本魔法技能者競技大会五日目の午後の部が始まります‼︎

 司会は変わらず私(あか)(みず)さくらと……』

(しお)(かわ)()()でお送りいたします‼︎』

『いや〜、午前に行われたバトルボード個人決勝で、(にい)(でら)ジョニー選手が前人未到の8連覇‼︎会場のボルテージも上がりに上がっております‼︎

 午後も各会場で激戦が予想される中、注目の選手は……男子SSボード・バイアスロン個人出場、第一高校一年「春原凪」選手‼︎』

『ついさっきまでここにいましたよね⁉︎』

『その通り‼︎

 その甘いマスクと貴公子然とした物腰でお茶の間の奥様方の人気者!テレビなどでもおなじみの春原選手は、並み居る先輩を押しのけて出場枠を勝ち取った期待の新星でもあったのだーー‼︎』

『わー‼︎』

『午後の部三番を走る彼ですが、なんと手元のマル秘資料によると……えーとお風呂は烏の行水派!じゃなくて……趣味は骨董品集め!でもなくて……ああそうです‼︎なんと部活内の試合で世界新記録を叩き出したとか‼︎』

『世界新記録‼︎それは期待できますね‼︎』

『……まああくまで噂なんですが』

『って噂ですか‼︎?』

『はい噂です!しかし事実だったとしても他の選手も歴戦の強敵ぞろい‼︎そう簡単には勝たせてくれないでしょう‼︎熱い戦いが繰り広げられそうです‼︎

 もちろん熱いのはバイアスロンだけではありません‼︎マーシャル・マジック・アーツ男子ではなんと四天王「(ごく)(とう)象海豚(ぞういるか)選手」「(いち)(やま)(しい)(たけ)選手」「(ぷち)(いの)大悟(だいご)選手」「村田(むらた)勝奈也(かつなや)選手」が揃って初戦敗退と大混迷をしております‼︎これはオッズが荒れる‼︎』

『試合で賭け事はしないでください‼︎』

『そのほかの試合も盛り沢山‼︎無料放送だと全ては紹介しきれませんが、有料会員なら全試合の観戦も可能‼︎わずか3分のお手軽登録!今すぐ会員登録ページへ‼︎』

『しかも広告ぶっ込んで来ました⁉︎』

『それではインターマジック、午後の部の始まりです‼︎』

 

  ◇ ◇ ◇

 

「……なんでこんなにテンションが高いんだ……」

 

 達也は思わず溜息をこぼす。

 いや、『その情報はどこから手に入れたんだ?』とか『四天王の名前はそれで合ってるのか?』とかいろいろあるのだが、そもそもの時点でついていけていないのである。

 

「そう?あたしは好きだよこーゆーの」

「だな。なんか、こう、内輪ノリっつーのか?この感じが他のアナウンサーと違ってお高くとまってねーから楽しめるぜ」

「……そういうものか?」

 

 疲れた視線を左右の友人たちに向けたが、達也の意見に同意を得られなかった。妹の深雪も含めて。

 

「……はぁ。俺がおかしいのか……」

「おかしい、ってわけじゃないんですけど、なんか彼女たちの掛け合いって楽しいじゃないですか?」

「……まあ、不思議と嫌な感じはしないが」

 

 それでも、『ニュースや実況は情報を届けるもの』という大前提に則ると、無駄な情報が多すぎる気がするのだが。

 

 達也が周囲とのギャップに悩み、友人たちが苦笑しながらそれを見ていると、後ろから声が掛けられた。

 

「後ろに座っても大丈夫?」

「はい、大丈夫です……よ?」

 

 半ば反射的に答えを返そうとした達也は、次の瞬間何かに気づいたかのように勢いよく振り向いた。

『後ろに座ってもいいか?』などというあまり聞かないセリフもそうだし、何より聞き慣れた声質だったからだ。

 

「……会長?」

「そうよ。奇遇ね達也くん?」

 

 そこにいたのは真由美だった。

 いや、真由美だけではなく、ニヤニヤと底意地悪い笑みを浮かべた摩利と、いつも通り(いかめ)しい表情の克人。そして初見でも真由美に似ていると分かる、同じ顔の少女たちがいた。

 

「それにしても、君にも弱点があったんだな。意外だよ達也くん」

「……無駄なハイテンションというものについていけない、というだけですよ委員長」

「会長もナギくんの応援ですか?」

「ええ。ナギくんはウチの学校の代表だし、そうじゃなくても弟だしね」

「……お姉さま。そろそろ紹介してくださりませんか?」

 

 いい加減話についていけなくて痺れを切らしたのだろう。双子のうち、髪の長い大人しそうなほうが割って入ってきた。その目がチラチラと深雪の方を向いている理由は理解できないが。

 

「ああ!ゴメンね、いつもの癖みたいなものだったから。

 彼がナギくんと同じクラスで風紀委員の司波達也くん。その隣が妹で生徒会書記の深雪さん。深雪さんの隣の二人がナギくんと同じ部活の一年生で、左から順に光井ほのかさんと北山雫さん。その隣から順に、千葉エリカさん、柴田美月さん、吉田幹比古くん、西城レオンハルトくん。彼女たちはみんなナギくんと同じクラスね。

 それで、こっちの二人が私の妹で、髪の短いほうが上の妹の香澄ちゃん。長いほうが末の妹の泉美ちゃん。まあ、双子だからあまり上下は関係ないんだけどね」

「七草香澄、中三です!よろしく〜!」

「こら、香澄ちゃん!年上の方たちなんですから敬意を持ちなさい!

 ……姉が失礼いたしました。七草泉美です。よろしくお願いします先輩方」

「ああ、よろしく」

「よろしくお願いしますね」

 

 双子のコントじみた挨拶に、司波兄妹が口元を緩ませながら応える。ちなみに、残りの面々は一高三巨頭に加えて十師族第2位の七草家直系が二人も加わったことで萎縮しており、ただ会釈することしかできていなかった。

 

「それにしても、さすがは会長ですね。俺たち全員の名前を覚えているとは。もしかして、全校生徒ですか?」

「さすがにそれは無理よ。覚えていたのは、単にナギくんと仲が良かったからってだけ。

 弟の交友関係を知っておくのも姉の(つと)めでしょう?」

「……姉バカだな」

「なるほど。それには全面的に同意します」

「お兄様⁉︎」

「……兄バカもここにいたか……」

 

 とかなんとか。摩利の頭を悩ますだけ悩ましながら三巨頭+双子も席に着いた。

 お陰で今まで深雪たちの美少女パワーで山ほど集めていた視線がさらに数倍になり、1-E男子勢の居心地の悪さも数倍になったのだが、これは余談であろう。

 

「でも、よかったわ。なんとか間に合って」

「本当だな。まさかクラウド・ボールでトラブルが起きて遅れるとは」

「だが、実際に間に合ったのだ。特に問題もあるまい」

「会長たちは、すべての競技を回っているんですか?」

 

 今の話が気になったのだろう。深雪が真由美に話しかけた。

 

「さすがに全部じゃないわね。出来るだけウチの学校の生徒が出ているところは見て回ってるけど、時間的に被っちゃってるところもあるし」

「それでも春原のだけは譲らなかったけどな」

「もう!いいじゃない!結果論だけど、遅れちゃっても間に合ったんだから!元のギッシリ詰めてた予定じゃ破綻してたわよ!」

「よく言うよ。クラウド・ボールの試合中、『ナギくんのに遅れちゃう!』って内心ハラハラしてたのに」

「香澄ちゃん⁉︎」

「ここに着いてからも、マルチスコープまで使っていい席が空いてないか探してましたしね」

「泉美ちゃんまで⁉︎」

 

 思わぬところからの裏切りに、真由美は顔を真っ赤にしながら慌て始める。

 その様子を、後列の女子三人はニヤニヤと、前列の兄妹は同志を見つけたような視線で見ている。他の人物は——萎縮してか天然でかは兎も角として——現在競技中の第二走者の試合に集中してたりする。

 

 そんな状況で、助け舟を出したのは深雪だった。『家族想い』の真由美がからかわれているのに、思うところがあったのだろう。

 

「ところで、何故わざわざ席取りを?会長たちでしたら貴賓室にも入れそうなものですが……」

「それがね、貴賓室は貸切なのよ。それに、いくら十師族とはいえあの家系に『出ていけ!』なんて言えないわ」

「……そんな家系は思いつかないんですが、なんという家ですか?」

「日本で唯一苗字を持たない家系、って言ったらわかる?」

「それは……確かに貸し切られますね」

 

 確かに、いくら十師族と雖も確実に上位に当たる家系だ。文句の一つとて言いようがない。

 

「さすがに御一家揃って、てわけじゃないけどね。

 ただ、今年は長男様が『日本を代表することになる人々を応援するのも公務の一環』ということでいらっしゃってるらしくて……」

「それでですか。納得です」

「……む?」

「……えっ?」

「なに?」

 

 唐突に、試合を観戦していた克人と美月、雫が頭を上げる。

 

「どうした十文字?」

「美月と雫も。どうかしたんですか?」

「いや、今一瞬、こう、結界のように世界が区切られた感じがしたのだが……柴田と北山はどうだ?」

「いえ、それが、なんというか赤色でもあって水色でもあるような、そんなオーラが見えた気がして……」

「私の方は、地面が揺れた感じが……」

「ふむ。言っていることが見事にバラバラだな」

「でも、三人も何かを感じたんだから、なにもないってこともないと思うけど……」

 

 一同が首を傾げるなか、達也は手元で実況を流していた端末を操作して、あるサイトをチェックした。

 

「ああ。北山さんの言っていたことは正しいみたいですよ。ついさっき、富士山で火山性の地震が観測されています」

「火山性地震?大丈夫なのか?」

「ええ。半月ほど前から微弱なものが観測されていますが、地下のマグマの量から噴火したとしてもごく小規模なものになると予想されています。登山客ならともかく、ここだと少し火山灰が降る程度でしょう」

「なら、柴田さんの視たものも、それに触発された精霊なのかもね。赤は火の色だし、水色っていうのは分からないけど、火の反対ってことでなにかしらの因果関係もあるかもしれないし」

「吉田の予想が正しいとすると、十文字の『区切り』というのだけが残るな。一体なんなんだ?」

 

 そう言うと、再び黙考し始める。克人の感覚が間違っているなどとは誰一人として思っていない。十文字家の空間認識能力は折り紙付きだからだ。

 

「まあ、分からないことを議論しても仕方がないですよ。

 っと、情報が更新されましたね。三十分以内に宝永火口付近でごく小規模な噴火の可能性あり、ですか」

「ナギくんの試合に影響がないかしら」

「大丈夫だと思いますよ。止めるにしても競技と競技の合間でしょうし」

「それに、ナギくんのスタイルは——」

『さあ皆様お待ちかね‼︎春原凪選手の入場だーー‼︎‼︎』

 

 ほのかが説明を始めようとしたところで、周囲から先ほどのアナウンサーの声が木霊した。どうやらこの場での視聴率はかなりいいらしい。

 

「あっ!ナギくんの番ね」

「そうだな。さて、春原は雰囲気に呑まれず結果を残せるか……ってあれは⁉︎」

「スノーボード⁉︎スケボーじゃないの⁉︎」

 

 驚きの声は摩利や香澄だけでなく、会場のあちこちから上がり、どよめきになった。

 確かに、ルール上は『規定サイズのスケートボードかスノーボードを使用すること』とありルール違反ではないのだが、雪道ではなく地面を走る分にはスケボーのほうが楽なのは明確だ。

 

「ナギくんの場合はこれでいいんですよ」

「ほんと、反則的」

『Ready……Go!!』

 

 そう、()()()()()()()()、だ。

 バイアスロン部二人の呆れた声と同時に、開始の音が響き渡り、次の瞬間会場が驚愕に包まれた。

 

「浮いている……?いえ、飛んでいるのですか……⁉︎」

「そうよ泉美ちゃん。ナギくんが大急ぎで春原家の飛行魔法を改良した、非精神干渉型飛行魔法。路面の状態とは無関係にスピードを出せるから、浮いている、ってだけでかなり有利ね」

『な、なんと‼︎春原選手、飛んでおります⁉︎まさかこれは飛行魔法なのかーー⁉︎』

「そうだとしても、あのスピードは自信を持っていい。時速100kmはゆうに超えてるぞ」

『おおっと!飛行中の春原選手の前方にほぼ直角のカーブだぁーー⁉︎これは減速するしかないぞ⁉︎間に合うのかーー⁉︎』

 

 そう言った裏事情も知らずに、もう既に『飛行魔法』の驚愕から立ち直ったこの司会者はいったい何者なのか。達也はそう思わずにはいられなかった。

 

『おおぉー⁉︎なんと速度を落とさず曲がりきったーー⁉︎

 それになんか電気の塊が浮き始めたぞーー⁉︎』

「カーブの曲がりかたも上手ですね。波に乗る、いえ空気に乗るようにして減速を最小限に曲がりきりました」

「そうだな。それに、ナギに追随するように浮いているアレは……あれが【(ゲイ・)(ボルグ)】か?」

「ナギくんは【雷(ヤクラーテ)の投(ィオー・フ)擲】(ルゴーリス)って呼んでるけどね。

 動かない(まと)相手だったら、【魔法(まほう)(しゃ)(しゅ)】よりもあっちの方が精度がいいみたい。『火』みたいに誤爆が怖くて使えないのもあるし」

「なるほど」

 

 そのような会話をしながら、達也の『眼』は、ナギの飛行魔法の解析に挑んでいた。

 

(予想通り、極小規模・極短時間の加重系魔法をコピーして連続発動しているな。無駄もほとんどない。これなら、ループ・キャストで魔法式を大きくするよりも、CADの方で機械的に起動式を連続出力させたほうがいいか……?)

『第二射撃ゾーンを抜けたここまで、信じられない記録を叩き出している春原選手‼︎しかし前方には伝説のいろは坂をも凌駕する、大会名物【魔の連続ヘアピン坂】が待ち構えているぞーー⁉︎』

「だから、飛んでるナギくんに上り坂なんて関係ないのよねぇ」

(まったくその通りだ。これは来年禁止になるな飛行魔法)

 

 真由美の呟きに内心全面同意しながら、しかしその『眼』はナギが小さく「モービテル」と呟いたのを見逃さなかった。

 

『曲がる曲がる曲がるぅーー⁉︎なんと春原選手、大きく減速することなく坂に突っ込み、高速でUターンを連続して難所を軽々乗りきったーー⁉︎』

「あれは……まさか、軌道変更部分のリミッターを解除して高速機動を実現させたのか……?

 なんて無茶な。そんなことをしたら体にかかるGは半端なものじゃなくなるぞ」

 

 思わず、といった感じで達也は口に出していた。同時に、自分の作る飛行魔法にはそんな危険なものはつけないようにしよう、と固く心に誓った。

 ……ちなみに、その呟きを聞いてしまった某三姉妹は黒い笑みを浮かべていたのだが、隣に座っている摩利以外、試合に集中していて気づくことはなかった。

 

『最終射撃ゾーンもパーフェクトで抜けて、残すはラスト直線一本道のみ‼︎この時点で既に世界記録は確定的と言ってもいい……って、まだ加速するのーー⁉︎』

「……ねえ摩利。ナギくん何キロぐらい出してると思う?」

「え?あ、ああ、そうだな……150、いや180は固い。200近くいってるんじゃないか……?」

「そうよねぇ?……まったく、事故が起きたらどうするつもりなのかしらねぇ?うふふふふ……」

「そうですわね。先ほどの高速機動といい、もう少しお体を大事にしてもらいませんと……ふふふ」

「だよね。これは、帰ったらお仕置きが必要かなぁ……?あはは」

「怖い!この三姉妹怖すぎるぅ!」

 

 某三姉妹の方から摩利が若干キャラ崩壊を起こすほどの負のオーラが漂っているが、十文字と一年生は決してその方向を見ようとしない。トラウマになるのは分かりきっているのだから。

 

『ゴール‼︎なんと春原選手、高校一年生にして世界記録を二分以上縮めるという快挙です‼︎これはもう優勝確実と言ってもいいでしょう‼︎

 見た目だけじゃない‼︎たとえ学校では二科生でも、実力は別のところにあると証明するかのような走り‼︎わたくし、明日からコメンテーターとして隣に座らせることに申し訳なさを感じ始めております‼︎

 えーと、インタビューはいけますでしょ——』

 

 

 

 グワン、と。

 

 空間全てを飲み込むかのように景色が変わり——

 

 

「……なんだ、これは……」

 

 

 ———世界は、『火』と『水』に彩られた。




主人公「⁉︎な、なんか死亡フラグが立った気が……」

さて、皆様如何でしたでしょうか?
結構ヒントが出ましたので、『世界』がなんなのか気づいた人もいらっしゃると思いますが、次の話が投稿されるまで心の中にしまっといてください。バラされたら、この話唯一の盛り上がりがなくなってしまいますので;;

ちなみに、今回名前が出た全てのオリキャラの方にビジュアルイメージがあります。全員ネギま!由来の名前ですので、その方々とほぼ同一と思ってください。敢えて誰と誰が対応しているかは言わず、皆様の推理にお任せします。少なくとも、TSしてる、なんてことはないです。

それでは次回にお会いしましょう!

・・・主人公(笑)「……ってあれ?もしかして、一言もセリフがなかった……?」

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