魔法科高校の立派な魔法師   作:YT-3

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祝10万UA突破!で喜んでいるYT-3です。

それでは本編をどうぞ。


第二十一話 京都神鳴流

 

 目を瞑っていた桐原は、いつまでも痛みが来ないことに違和感を覚えた。

 自分の、しかも高周波ブレードを展開していた剣が、あの少女の、何も()()()使()()()()()()大太刀に斬りとばされたのは、確かに覚えている。

 その後、彼女が振り下ろした剣が、いかなる理屈か十文字の張った障壁を()()()()()、自分に迫ってきたところで目を瞑ったのだ。

 ならば、自分は既に斬られているはず。

 しかしどこも痛みはしていないし、一瞬死後の世界かとも思ったがそれもない。なぜなら、ギギギと、刃同士が鍔迫り合う音がするからだ。死後の世界がそんな物騒な場所だとは思いたくもない。

 

 恐る恐る桐原が目を開けると、目の前には大太刀を頭上に構えている少女と——

 

 ———右手の五指から剣状の透明な何かを展開して叩きつけている、ナギの姿があった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 ナギは、少女の正体に気付いた時、ただ声をあげただけではなかった。右手で遅延していた『(エンシ)(ス・エ)(クセク)(エンス)』を解放すると、とにかく最速の瞬動で突っ込んだのだ。

 そして、なんとか桐原が斬られる前に、少女に攻撃をすることに成功した。

 

(エンシ)(ス・エ)(クセク)(エンス)』は、その性質上物理防御が意味をなさない攻撃。また、生半可な回避では剣の周囲の冷気に当てられてダメージを受ける。

 つまり、なんらかの魔法効果のある防御をするしかなく、少女も退魔の一族としての直感でそれを理解した。

 そして、彼女がとっさに出来る防御は、気で強化した()()()で受けることしかなく、桐原への攻撃を中断して防御に徹したのだ。

 

 こうして、防御を切り裂く不可視の刃と、防御をすり抜ける退魔の刀が鍔迫り合った。

 

「桐原先輩!十文字会頭!こちらへ来てください!」

 

 さすがと言うべきか、この状況で一番に立ち直ったのは達也だった。

 彼も自分の『視た』ものが信じられなかったが、何度視ても現実としてそれが起きてしまっている以上、そういうものがあると割り切って行動したのだ。

 武器を失った桐原が敵の目の前に残っているのは問題でしかなく、また彼の視たものが正しければ防御など意味をなさない以上、十文字が前線に居ても不利益しかない。ならば、司一がナギに驚いて固まっている今のうちに合流しておくべきだ。

 

 十文字と桐原もその声で我に返ったのか、混乱している様子ながらも、自己加速術式も使って敵二人から離れて達也のところに来る。

 それと同時に、鍔迫り合いをしていた二人が同時に後ろに飛び、少女は司一の前に、ナギは達也たちと相手の丁度中間ぐらいに、それぞれ構えたまま着地した。

 

「……おい」

「……なんでしょう?」

 

 張り詰めた空気の中、口を開いたのは少女だった。

 

「……お前は春原凪だな?私たち古式を裏切り、十師族に寝返った裏切り者の。

 その剣もそうだが、なかなか驚いたぞ、あの瞬動は。まるで『入り』を感じなかった」

「……裏切ったつもりはありません。七草さんには恩を感じてはいますが、それだけです。ボクは今でも古式魔法師のつもりです。

 ……そう言う貴女は、神鳴流の方ですね?それも、おそらく宗家の」

 

『シンメイリュウ』。その言葉を聞いて達也たちの頭に浮かんだのは、16世紀後半の人物、『抜刀の始祖』林崎(はやしざき)甚助(じんすけ)が起こした居合流派『神明夢想流』だが、すぐにそれを否定した。そもそも少女のあの技は、居合ではなかった。

 ならば何なのか、と思いつつ、その存在を知っているであろうナギと、『シンメイリュウ』であるらしい少女の会話に集中した。

 

「その通りだ。歴史の裏からも隠れた神鳴流の存在を知っていたことには驚きだが、知られているなら名乗ろう。

 京都神鳴流宗家、青山(あおやま)家が娘、青山萃音(あつね)だ。お見知り置きは結構」

「萃音さん、ですね」

 

 表面上は、ただ会話をしているだけに見える。しかしその裏では、一瞬でも隙を見せたらやられるとお互いが理解し、それゆえに相手のわずかな隙を探すという激しい駆け引きが繰り広げられている。

 

 だが、そんな中で声をかける男がいた。

 

「青山さん。どうやら後ろの御三方は神鳴流のことを知らないそうだ。

 これから殺される剣のことを知らないというのも可哀想です。せめてもの情けで説明してあげなさい」

 

 阿呆の類ではない。ナギと萃音の駆け引きを理解していて、ゆえに声をかけたのだ。

 ナギの後ろには、三人の仲間がいる。彼らは神鳴流のことを知らず、そしてその技を知らずに勝てるほど神鳴流は甘くない。そのことが分かるナギの、三人の命を背負っているという認識を強くすることでプレッシャーを与え、気負わせように仕向けたのだ。

 

「そうですね、司さん。

 ……全ての始まりは、京に都があった頃まで遡る」

 

 そのことを萃音は理解して、一切の油断を見せず説明を始めた。

 

「当時京の都では、まだ魔が蔓延(はびこ)っていた。だが、腕のある陰陽師や呪術師は帝や金持ちに雇われ、民を守る者は居なかった。

 それゆえに神鳴流は、民を護り、魔を斬る剣として産声をあげたのだ。

 しかし、裏の同業者の中にはそれをよく思わない者もいた。次第に神鳴流は裏からも疎まれ、一部の志を共有できる呪術師たちを除いて裏からも隠れ、魔を斬り民を護ってきた。日本で最後に確認された魔物の自然発生が1400年前とされているのも、それ以降は裏の人間も気がつかない内に私たちが退治してきたからだ」

 

『魔物』と言われ、達也は思考する。

 魔法が発見されてから、それまで世界各地で報告されてきた幽霊や伝説の類の多くは魔法で解明されてきている。鬼や悪魔といった魔物も、多くは『化成体』などであったとされた。

 しかし、それでもなお説明のつかない、本当の意味での『魔物』も存在したと言われている。有名なところで言うと、西洋魔法師の間で今尚伝説的な恐怖の象徴として伝えられている吸血鬼『(ダーク)(・エ)(ヴァン)(ジェル)』がある。彼女の言っているものも、それに類するものなのだろう。

 

「しかし、時代は私たちの敵となった。

 魔法が発見され、現代魔法と剣技の融合などというままごとが表で名を上げたことによって、私たちの門下も次第に減っていき、二年前の時点で、各地の魔物被害を未然に防ぐことが難しくなっていた」

 

 魔法と剣技の融合、それは剣術のことだ。つまり、隠れていたがゆえに、堂々と名前を売った『千葉家』に弟子が集まり、名のない『神鳴流』が廃れていったということだろう。

 

 自分の使うものを『ままごと』だと言われ、桐原が突っ掛かりかけたが、直前で思いとどまった。自分が受けた彼女の剣は、一度だけ観たことのある千葉流剣術師範の本気の剣より、数段以上は上だったからだ。そんな彼女からしたら、剣術など所詮『おままごと』なんだろう。

 

「それゆえに、神鳴流は起死回生の一手に打って出た。

 丁度その頃、鞍馬山の奥地で大規模な魔物の自然発生、霊災が起こりかけていた。六年前に関東近郊の地脈の流れが僅かに変わったことと、三年前の沖縄で莫大なエネルギーが放出されたことが遠因となったらしいが、今となってはどうでもいい」

 

 その原因に心当たりのあるナギと達也が、ピクリと反応したが、ごく僅かだったために誰にも気付かれず話が進む。

 

「神鳴流は、その霊災を自分たちの手で鎮め、その手柄を持って現代社会に名を上げることで再興を果たそうとした。当時十二の私ももちろん参加するつもりだったが、歳を理由に両親に止められ留守を任されることとなった。

 ……結果は失敗だったよ。

 霊災自体は鎮められたが、戦いに参加した、十五歳以上の主だった剣士のほとんどが討ち死に。私の両親や親戚もそこで亡くなり、私は孤児院に預けられた」

 

 その声に悔しさを滲ませて、萃音は語る。

 知らず知らずのうちに手に力が篭り、ギリッ、と音がした。

 

「それでも、神鳴流の名を上げることが出来たなら、まだ彼らもあの世で浮かばれたはずだ。

 ……しかし、そうはならなかった!

 魔法関連ということで出張ってきた十師族が!ろくに調べもせずに『古式魔法師が、なんらかの儀式を失敗した』などと的外れなことを言って!社会不安を煽るとか言う理由で、彼らの闘争を!命懸けで民衆を護った健闘を!全てを揉み消してなかったことにしたんだ!」

 

 その声に込められた怨嗟は、合理的な判断()()()()()()達也をしても、同情を禁じ得ないほどのものだった。

 

「……だから、私は許さない。

 表の世界で、ただぬるま湯に浸かりながら名だけを馳せている千葉家を。

 自分たちの利益にしか興味がなく、私たち古来の存在を無下に扱う十師族を。

 そんな奴らのことを、疑いもせず盲目的に付き従う魔法社会全体を!

 その為には、司さんの言う通りになればいいんだ!お前たちが邪魔をすると言うのなら、この剣で切り開いてやる!」

 

 その目に鬼のような気迫を宿らせて、萃音は吼える。しかしその姿は荒々しくあれど、一分の隙もない、剣のような構えを崩すことはない。

 

「……違う、そんなことはない!」

 

 誰もがその慟哭に当てられて固まる中、ナギだけは強い意志を持って、彼女に反論した。

 

「確かに、神鳴流が関わっていたことは知らなかったけど、二年前に謎の複数人死亡事件があったことは知っている。それを、魔法関連ということで十師族が調べていたのも事実だ。それは認める。

 でも!どうでもいいなんて考えていたわけじゃない!」

「黙れ!お前に何が分かる!?」

「分かるさ!

 君がどれだけ苦しんだかは、ボクには分からない。

 でも、その時どれだけ七草さんが大変だったのかは知っている!

 事件からひと月は、ろくに眠れもせずに動き回り、一週間徹夜して過労で倒れもしていた!古式魔法師が関わっている可能性が出てきてからは、十師族を嫌悪している古式魔法師に頭を下げてまで情報を得ようともしていたらしい!

 最終的には事件の全容が見えず、また観光名所でもある鞍馬山で大量死が起きたなんて知られたらまずいと言う観光庁の指示で揉み消すことになったらしいけど、それも望んでしていたわけじゃなかった!

 ボクも実際に見たし、真由美お姉ちゃんたちからも何をしているのか聞いたから間違いない!」

 

 その様に言われて、十文字は自分の父を思い出す。

 二年前、まだ第一線で動いていた父が、一ヶ月ほど忙しく動き回っていた時期が、確かにあった。

 何が起きたのかは聞いていなかったが、おそらくその事件のことを調べ廻っていたのだろう。

 

「そんな馬鹿な!上から目線の十師族がそんなことを気にするはずがない!」

「確かに、人が死んだからじゃなくて、何をしていたのかを探る為かもしれないし、古式魔法師の技術が失われるのが惜しかったのかもしれない。

 でも、適当に関わったわけじゃない!関わったからには真実を解き明かすつもりでいたんだ!

 それに、千葉家に関してもそう。

 確かに神鳴流からしたらおままごとみたいなものかもしれないけど、彼女たちは彼女たちなりに必死に鍛錬を積んであの地位にいるんだ!ただ名前を売っている訳じゃない!」

「そんな……でも、司さんは……」

 

 その、蝋梅しながらも頑なに司一の言葉を信じようとする様子を見て、ナギたちは、彼女も被害者であることを確信する。

 

「青山さん、彼は敵ですよ。あなたを混乱させる為に有る事無い事を言ってくるのは当然でしょう?」

「……そうだ。あれは敵なんだ。司さんの言っていることが、間違っているはずがない」

「そうです。彼らを倒す。そう契約して雇ったではないですか。彼らを倒せたら、約束通り新しい世界が待っていますよ」

「新しい世界……もう二度と名誉が貶められない世界……。

 その為なら、この剣に斬れぬはずがない!」

 

 しかし相手も策士。上手く思考を誘導することで彼女の混乱を収めた。再び言葉で迷わすのは不可能になったと言ってもいいだろう。

 

「達也くん、十文字さん。ボクが彼女を抑えます」

 

 事ここに至って、交渉の可能性はなくなった。

 残りは、己が信念を剣で語り合うのみ。

 

「分かった。俺たちは司一の相手だな」

「うん。神鳴流を雇うという事は、彼は呪術使い。前鬼後鬼という式神で時間を稼ぎ、術者が強力な術を使うのが基本。

 神鳴流と違って十文字さんの障壁は効く筈ですが、発動に時間をかけられると強度で上回られて攻撃を受けてしまいます。式神を早く倒すか、ちょくちょく攻撃をしかけて集中を途切れさせる事が有効です」

「了解した」

 

 (えもの)を失った桐原は、まともに戦闘に参加できない。彼のCADの中身のほとんどは、剣術の為の術式に占められているからだ。

 足手纏いである事を自覚している桐原は、素早くこの部屋(せんじょう)から去る為に自己加速術式を準備する。

 

「さて、作戦会議は終わったかい?」

 

 そう言って、両手に呪符を持った司一は、口元に笑みを浮かべると——

 

 

「それじゃあ始めようか!正義を決める為の戦いを!」

 

 

 ———開戦の狼煙を上げた。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 最初に仕掛けたのはナギだった。

 瞬動で接近すると、その右手を広げたまま、指先の『(エンシ)(ス・エ)(クセク)(エンス)』に僅かな時間差をつけて横薙ぎに動かす。

 

「ふっ!」

 

 萃音は剣を振り上げる動作でそれを全て難なく弾くと、攻めに移ろうとして、右側から迫り来る極寒の刃に気がついた。

 咄嗟に振り上げていた剣を防御に回し、ナギの左手五指から伸びる『(エンシ)(ス・エ)(クセク)(エンス)』も弾く。

 それによって、ナギは両手を広げた格好で、大きな隙を晒すこととなった。体勢的に足がくることもない。

 

「これで……っ!?」

 

 普通の人間なら、ここで詰みだ。体勢を立て直す前に、頭と体が別れている。

 ——しかし、彼は魔法使い。体を動かさずとも攻撃する手段など、腐る程持っている。

 

「【魔法の射手(サギタ・マギカ)(セリ)(エス)()()23()()】‼︎」

 

 ナギの背後から体を掠めるように無詠唱で放たれた光弾が、弾幕となって萃音に殺到する。

 

「くそっ!」

 

 再び攻撃のチャンスを潰された萃音は、弾幕を避けるように上に跳びあがる。

『神鳴流には飛び道具は効かない』と言う話もあるが、これは、その超人的な反射神経と正確さで斬り落とすことが出来るからだ。

 しかし、何事にも限度がある。これだけ近距離で放たれた20以上の光弾に対処することは、さすがの神鳴流と(いえど)もできない。

 

 故に回避をするのは正しい選択であるし、それをナギが読むのも難しくはない。

 

「はあぁぁっ!」

 

 萃音と同時に飛び上がったナギは、萃音が天井に着地したタイミングを狙い右手を振るう。そしてタイミングをずらして振るわれた五本の刃が弾かれたと同時に、左手での攻撃をしつつ光弾を待機させる。

 

「ええい!鬱陶しい!」

 

 神鳴流の技は様々だ。

 巨岩をも斬り裂く『斬岩剣』。魔を斬る『斬魔剣』。剣に雷光を纏わせ、振り下ろしながら爆発させて広範囲を破壊する『雷光剣』。

 それら一つ一つの奥義が必殺の威力を誇るが、さらにその先に、宗家のみに伝わる秘奥がある。

 それが『弐の太刀』。全ての障害物をすり抜けて、斬りたいもののみを斬り裂く防御不可能の剣。

 

『弐の太刀』の理屈を現代魔法的に言うならば、完全な『無』の情報で刀やそれに付随する魔法式の情報体(エイドス)全てを上書きし、存在を無くす技だ。

 存在が無ければ防御することなど出来ないし、斬りたくないものまで斬ることもない。

 当然、そこに何かの情報が『ある』はずなのに『ない』などという極大の矛盾を、世界が許すはずもない。実際に無くなっているのはほんの一瞬だろう。

 しかし、その一瞬で防御をすり抜けて、斬る直前で現れるようにすれば、あらゆる防御が不可能の一撃となる。

 

 ——だが、それを防御に使うことはできない。

 

「【魔法の射手(サギタ・マギカ)(セリ)(エス)()()19()()】‼︎」

 

 最強の剣を持つが故に、神鳴流の対処法は『攻める隙を与えない』ことだ。

 故に、ナギは得意の拳打を封印し、手数重視の『(エンシ)(ス・エ)(クセク)(エンス)』で攻め続ける。

 

「「はあぁぁあ‼︎」」

 

 ナギは左右の冷刃、無詠唱による光弾だけでなく、両足の蹴りや肘打ちを織り交ぜて、萃音に攻める隙を与えない。

 

 萃音はナギの猛攻を剣のみだけではなく拳や足も使い捌きつつ、一瞬の隙を待ち続ける。

 

 ——戦況は、高速での打ち合いと膨大な集中とともに膠着した。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 ナギと萃音が打ち合いを始めると同時に、もう一つの戦場も動き始めた。

 

「札よ札よ!我が身を守り給へ!」

 

 司一が両手の呪符を宙に投げ詠唱すると同時に、二枚の札を中心にサイオンが渦巻き、肉体を形成し始める。そのスピードは予想を上回り、現代魔法と比べても遜色はないだろう。

 

(化成体か……)

 

 ナギから式神の話を聞いていた時点で予想はしていたが、実際に『視て』、達也は予想通りだとこれからの作戦をたてる。

 

 しかし、予想通りだったのはここまでだった。

 

「……なに?」

 

 達也の『眼』には、札の中心の空間が歪んだのが視えた。

 歪み自体は一瞬だったし、それ自体で攻撃をしたわけでもない。

 だが、ここで思わぬところに影響が出た。

 

「うぐぅ!?」

「会頭っ!?」

 

 突然十文字が頭を抑えてふらつき、それを見て桐原が逃げようと踏み出していた足を止めた。十文字の高い空間認識能力が仇となり、突然の歪みに酔ってしまったのだ。

 幸い、多少ふらついただけで命に別状がある様子ではない。しかし、すぐには十全の力は出せないだろう。

 

「なんやなんや?急に呼び出されたかと思うたら、目の前にはガキが弐匹と男が壱匹。まさか、あんなんを縊り殺すために呼んだんかいな」

 

 そんな()が聞こえて、達也は十文字のほうを向いていた目を、恐る恐る正面に戻した。

『眼』では、司一と化成体が二体いるだけだ。今の音も、振動系魔法で空気を震わせているだけということも分かっている。

 しかし、その声には、間違いなく『感情』が混じっていた。魔法が作り出したものではない、魂が震わせた色があったのだ。

 

「そうですよ。

 それに、彼らを甘く見ないほうがいい。特に大柄な彼は、この国で最強の一角であると()()していますから」

「まあ、喚ばれたからには殺らせてもろうけど、なんや、また歯ごたえのなさそーな召喚やな」

 

 浅黒い肌、鋼のような筋肉に覆われた巨体、右手に握られた金棒と申し訳程度に腰に巻かれた虎の腰布。

 何より特徴的なものは、その頭部に生えた鋭い二本の角。

 ——そこには、『鬼』がいた。

 

「まあまあ兄貴。このご時世、召喚されただけでも儲けもんですわ。精々ボロボロになるまで遊んで、還ったら自慢してやろうや」

 

 鬼だけではない。鬼の肩に乗っているあれは……『天狗』だろうか。

 鬼に比べれば小柄な肉体に、カラスのような羽。手には刀を持ち、顔には面を着けている。

 

「それもそうやな。

 そういう訳や。徹底的に痛めつけさせてせもろうけど、恨みはせんどいてな、にーちゃん」

 

 鬼はそう言うと、凄惨な笑みを浮かべて歩き出した。




メガネリーダー「誰が噛ませだって?」

はい、達也たちが地味にピンチになったところで次回に続きます。

なんか魔法科を読んでいると勘違いしそうになるんですけど、ブランシュ>無頭竜なんですよね。つまり格で言えばブランシュ日本支部≧無頭竜日本支部な訳で。
そんな関係なのにどの二次小説を読んでも『噛ませ』なのはおかしいと思い、超強化しました。

それでは次回もご期待ください!

・・・あ、関西弁テキトーなので、何かありましたら教えてください。

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