魔法科高校の立派な魔法師   作:YT-3

27 / 77
90181UA&1260件のお気に入りありがとうございます!

説教を書くのに書いていた時間の実に7割を費やしたYT-3です。

今回は、試験的に全体を通して第三者視点に挑戦してみました。
それではどうぞ。


第十八話 襲撃

 

 4月22日、朝。

 学内一斉メールで、公開討論会の案内が流された。

 内容は、前日に話題となった有志同盟との会談の結果、翌日23日に講堂で緊急の討論会を行うこと。

 対決するのは、有志同盟代表四名と七草真由美生徒会長。

 

 つまり、一連の騒動の終わりの日が決まったのだ。

 

  ◇ ◇ ◇

 

「さて、どうくるのかな」

 

 そして、『決戦』の日の放課後。

 春先だというのに首に長いマフラーをしたナギは、正面出入り口前に待機していた。

 

 これは、彼の魔法の特性からだ。

『精霊魔法』は、主に火星に創られた広大な異界『魔法(ムンドゥス)世界(・マギクス)』で使用された魔法。魔法があるのが当然の世界で発展したため、戦争において兵器として創られることも多かった。

 つまり、強力な魔法の多くは大多数を殺傷するために創られたため、広域殲滅魔法など室内や敵味方入り混じった状況では使いづらいものが多い。

 もちろん、今回の講堂のような状況で使える魔法もあるにはあるが、それには『魔法師』の方が向いている。

 それ故に彼は、ここに来るであろう強襲部隊を待ち構えることにしたのだ。

 

「それで、なんでレオくんたちもいるの?」

「まぁ講堂のほうも興味あるけどよ。どう考えても囮だろ?」

「そうそう!

 それに、ほのかたちも襲われたんでしょ?だったら生徒の目が行動に向いてる隙に乗り込んでくるかな〜って」

「ここじゃなくてもいいんじゃない?」

「裏門も見てきたけど、出入り口が狭いし十文字会頭がいたからね。

 こっちのほうが出入り口が広いから、乗り込んでくる人も多くて手が足りなくなるんじゃないかなと思って」

「武器は?」

 

 これからくる相手はおそらくテロリストだ。丸腰で挑めばどうなるかなど目に見えている。

 もちろん、三人はそのことも分かっていた。

 

「CADは返してもらえなかったから、事件が起きたってことを確認してから足の速いあたしが走ってもらってくる。

 CADがなくても呪符で魔法が使えるミキが時間を稼いで、こいつはその護衛」

「……ムリはしないでよ」

 

 説得を諦めたナギのその言葉に、三人は笑って返すだけだった。ちなみに美月は美術部の活動に行っていて、三人がここにいることすら知らない。

 

 ナギは溜息を吐いて、この時代では珍しいアンティークの懐中時計に目を落とす。

 すでに討論会が始まってしばらく経つ。来るとしたらそろそろだろう。

 工場に張り込んでいるチャチャゼロさんからは念話で、昨日から計四台のトラックを含む何台もの車が出て戻っていないことを聞いている。おそらく、こちらに来るのはトラック三台+αぐらいだろうか。

 

 丁度そう思っていた時、こちらに来るエンジン音が風に乗って聞こえてきた。

 

「来たね」

 

 それはその場に居たほとんどの人間が思っていたのだろう。既に各々が戦いに備えて構えていた。

 

 しかし、襲撃犯は大方の予想の上をいった。

 

 最初に入ったのは一台のトラック。その後ろにトラックが二台並走し、その他数台が後ろに続いている形だ。

 そして校門を越えてすぐ、先頭のトラックが、いっそ見事と言っていい鮮やかなスピンを決める。

 一高生徒の集団約150メートル手前で、丁度積込口が校舎のほうを向くように急停車したトラックの扉が勢いよく内側から開けられた瞬間、一高陣営に悲鳴が木霊(こだま)した。

 

「フレミングランチャー‼︎?」

「そんなっ!?」

 

 予想外の兵器を持ち出された一高生徒の狼狽を見て、荷台に乗っていた砲手は口もとに笑みを浮かべると、無言で引き金を引いた。

 

 フレミングランチャー。

 フレミングの法則により亜音速で砲弾を射出することのできる大型兵器だ。火薬を使わずに射出することができるため、自動小銃(マシンガン)にも匹敵する高速での連続砲撃ができる。

 さらに問題なのはその弾だ。その仕組み上誘爆の恐れが非常に少ないため、爆薬を弾にすることができるようになっているのだ。

 設備の都合で歩兵への応用はできていないが、それでもその威力は、たとえ通常の銃弾を軽々防ぐ魔法師といえど致命的なものだ。

 

 バラララ、という音とともに撃ち出された()()は、固まっていた一高生徒に狙い通り着弾した。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 ドドドド、という爆発音が15秒ほど続いた頃だろうか。

 持ってきた()()の約半数を撃った砲手は、当初の計画通り、後から来る教師を撃つために砲撃を止めた。

 フレミングランチャーの砲撃は並の魔法師に防げるものではない。十師族の一つであり『鉄壁』の異名を持つ十文字家の『ファランクス』ならば可能かもしれないが、最優先警戒対象である長男の十文字克人はあの中にはいなかった。つまり生徒(やつら)は肉片になっているはずだ。

 そう考えていた砲手は、爆煙が晴れた時に自分の目に映った光景が信じられなかった。

 

 腰を抜かして倒れこむ生徒、耳を塞いで爆音を耐えていた生徒、そして——

 

 ———手をこちらに突き出して、魔法師になり損なった自分でも分かるほど強力な障壁を張っている、赤毛の男子生徒を。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 ナギのとった方法は簡単だ。

 ファランクスレベルの障壁がないと防げないのなら、ファランクスレベルの障壁を張ればいい。

 

(クラテ)(ィステ)(ー・ア)(イギス)

 魔法(インデ)大全(ックス)登録名称『アイ(アイギ)ギス(ス・シ)の盾(ールド)

 この魔法は、世界唯一の『相乗型』多重魔法群だ。

 半年前までの現代魔法の常識では、魔法式は魔法式に干渉できない、となっていた。

 しかし、それはおかしいのだ。なぜなら同一の対象に複数の魔法を掛けた時に起こる『相克』は、魔法式と魔法式がぶつかり合って起きる現象なのだから。

 ならば、相克を起こさず互いの効果を高めあうように魔法を緻密に組み合わせられたならば、『相乗』されてより強力な魔法となるだろう。

 ナギが『解放』したこの魔法は、実に八枚もの対物・対魔法障壁魔法で互いに相乗を引き起こし、『最強』の名に相応しい防御力を得る魔法だ。

 ファランクスとは違い防御可能な方向は一方向だけ、撃ち出すこともできないが、これを見聞した十文字家当主曰く、『単純な強度だけなら、ファランクスにも勝る最強の防護障壁魔法群』。

 それほどの障壁が、たかが爆薬程度で突破されるはずもない。

 

「エリカさん、レオくん、幹比古くん」

 

 魔法師ならば誰もが驚愕するレベルの障壁を維持し続けながら、少しの言葉の揺らぎもなくナギは友人に話しかける。うち二人は驚愕に口を開けて固まっていたが。

 

「なに?」

「トラックが一台と自動車が半分、実技棟の方に向かった。

 ここはボクがなんとかするから、三人はそっちに手伝いに行って」

「りょーかい。ホラ、行くわよ二人とも!」

「あ、ああ」

「じゃ、じゃあ、ナギも頑張ってね」

 

 そう言って、三人は本校舎の中に入っていった。事務室でCADを受け取ってから実技棟に行くのだろう。

 それと同時に、錯乱した砲手が早まり、砲撃が再開された。

 

 しかし、最強の盾は微塵も揺るがない。

 

 十数秒後、砲撃が止まった。フレミングランチャーは速射性が高いのが売りだが、それが仇となり弾切れを起こしたのだ。

 

 ここからは、攻守交代。盾で防がれた直後には、矛での反撃が待っている。

 

「ラス・テル マ・スキル マギステル」

 

 既に襲撃犯は全員車両から降りて、砲手も含めてこちらに向かってきている。接近すれば障壁もどうにかできると考えたのだろう。

 ここで車両を放置して、逃走用の足を残しておくのは好ましくない。

 

(ロコ)(ース)(・ウ)(ンブ)(ラエ)(・レ)(ーグ)(ナン)(ス・)(スカ)(ータ)(ク・)(イン)(・マ)(ヌム)(・メ)(アム)(・デ)(ット)(・ヤ)(クル)(ム・)(ダエ)(モニ)(ウム)(・ク)(ム・)(スピ)(ーニ)(ス・)(トリ)(ーギ)(ンタ)——」

 

 バチバチッ、という音とともに、空中に電気が迸り槍の形を成していく。

 

 

「———【雷(ヤクラーテ)の投(ィオー・フ)擲】(ルゴーリス)‼︎」

 

 

 完成した七つの雷の槍は、ナギが人差し指に指輪をはめた左手を振り下ろすと、それに付き従うように宙を駆ける。

 そして狙いに従い、放置された七台の車両に突き立った。

 続く爆音。

 雷の槍が燃料タンクを突き破り、その火花で引火したのだろう。

 その音に襲撃犯が驚いている隙に、ナギは固まっている周囲の生徒をおいて、襲撃犯のほうに走りだした。

 

 脱出用の車両を破壊されて動揺していた襲撃犯たちは、かなりのスピードでこちらに向かってきているナギを確認すると、嘲りの笑みを浮かべて各々の(ぶき)を構えた。

『障壁魔法は確かにすごい。そのスピードから見ても魔法を併用した近接戦闘もある程度自信があるんだろう。が、その力に驕ったな』、と考えたのだろう。

 そして、残り20メートルを切ったとき、襲撃犯の策が実行される。

 

「キャストジャミングだ、くらえっ!」

 

 今回の襲撃において、正門から侵入した本校舎破壊部隊50人、実技棟破壊部隊及び機密情報入手部隊40人、裏門から回り込んだ講堂及び部活動強襲部隊30人の計120人のうちそれぞれ約半数が、古式魔法師や魔法科高校の入試に失敗した()()()など『魔法技能があり現代魔法に恨みを持つ』者たちだ。

 そうした者たちには一人一人アンティナイトの指輪が手渡され、またキャストジャミングに慣れることでキャストジャミング下でも魔法を使えるように訓練されている。キャストジャミングが、サイオン波で乱すことで魔法を発動()()()()するもの、と言う構造の穴をついた作戦だ。

 さらに、念には念をと銃は全て対魔法師用のハイパワーライフル、付け焼き刃に近いが近接戦闘の訓練も積んでいる。

 魔法に頼りきっている学生に、これで負けるはずがないと油断しても仕方がないかのもしれない。

 

 キャストジャミングに呑まれたナギに、十丁以上の銃口が向けられる。

 

 ——しかし、その程度で倒されるのならば、英雄などになってはいない。

 

「……なあっ!?」

 

 必殺を期した銃弾は、ナギが首から解いて手に持った布一枚(マフラー)に弾かれたのだ。

 

 ——布槍術。ただの布を操り槍として使うその技は、熟練した使い手であれば弾丸をも切り裂いてみせる。

 

「う、撃て!撃てぇっ‼︎」

 

 その光景(いじょう)を目の当たりにした本校舎破壊部隊の指揮官は、目の前の()()に攻撃を集中させる。襲撃犯たちも本能的にそれに従い、ロケット砲などを装備している者以外、我先にと銃を向けて発砲する。

 

 しかし、それでも弾が当たることはない。

 

 歩みこそ止まったものの、長布をまるで生き物のように自在に操り、またそれで弾ききれない弾はバランスを崩さずに体勢を変えることで避け続ける。

 

 撃つ、撃つ、撃つ、撃つ。

 

 弾く、避ける、弾く、避ける。

 

 お互いに決定打を与えられずに、膠着状態に陥ったこの状況を打開したのは、ナギだった。

 

「ラス・テル マ・スキル マギステル」

 

 お互いの距離は約15メートル。これなら、十分に彼の魔法の射程圏内だ。

 

「【氷結(フリーゲランス)———武装解除(エクサルマティオー)】‼︎」

 

 効果は絶大だった。

 まず、襲撃犯の約三分の一の衣服が凍りつく。

 水分を付着させずに乾燥凍結(フリーズドライ)された服は脆く、少しの衝撃で粉々に砕け散った。

 そして、凍りついた直後に、まるでその分の熱エネルギーを移動エネルギーに変えられたかのように、手に持っていた武器が遥か後方に弾け飛んだ。

 残ったのは、アンティナイトの指輪と、辛うじて人の尊厳を守る下着のみ。

 

 ——襲撃犯の時間が止まった。

 

()ッ!」

 

 その隙をナギが逃すはずがない。

 瞬動でゼロ距離まで肉薄すると、武器を持っていて指輪をしている人物から優先的に(殴って)気絶させていった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 忘我から舞い戻って参戦した一高生徒と協力して襲撃犯を捕まえていく中、ナギは敵味方問わず目立っていた。

 

「【氷結(フリーゲランス)武装解除(エクサルマティオー)】‼︎」

 

 ——男女問わず次々に半裸にして無力化していくためだが。

 

((絶対に、あいつの前では悪さをしないようにしよう))

 

 参戦した一高生徒は、そう固く心に誓ったという。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 本校舎前で襲撃犯50人を無力化したナギは、駆けつけてきた教師に襲撃犯の拘束と見張りを任せて、実技棟前での乱戦に参加。

 そこでも戦果を上げつつ畏怖を植え付けているうちに襲撃犯全体の無力化が終了。

 

 その後ナギは、今回の襲撃に深く関わっていたらしい壬生紗耶香の取り調べに参加していた。

 そこには、生徒会長、風紀委員長、部活連会頭といった生徒首脳陣が揃っている。集団犯自体は警察に引き渡すために教職員が拘束・監視しているため、生徒という立場の彼らが詳細を知るためには、未だ拘束の際気絶させられた司主将が目を覚まさない以上、彼女から聴きだすしかないのだから当然と言えば当然だが。

 ……しかし、捕縛に貢献したらしい達也、深雪、エリカ、春原家当主として周辺地域の管理をしているナギが呼ばれているのは分かるが、なぜレオと幹比古、剣術部の桐原もいるのだろうかとナギは考えていた。答えは『ついて来た』だったりする。

 

 彼女は、拘束された際に怪我をした右腕の治療を受けながら、ポツリポツリと語り出した。

 彼女が入学した直後に司主将から誘われ、その当時にはすでに同調者や思想教育サークルなど下準備が始まっていたことには全員が驚いたが、彼女の口から次に語られたことが、彼女がこうなってしまった原因らしい。

 彼女の記憶では、入学当初に渡辺委員長に剣技の稽古相手を頼んだところ、すげなくあしらわれて、それが二科生だからと思い込んでしまったからだ、と言うのだ。

 だが、渡辺委員長の記憶では違うらしい。

 

「待て壬生。去年の勧誘週間、あたしは確かにお前に稽古相手を頼まれて断ったし、それを覚えているが、すげなくあしらってはいないぞ!」

「え?」

「あたしの剣は魔法の併用を前提として修練してきたものだ。剣のみでは、純粋に剣のみで積み重ねてきたおまえの練習相手にもならないだろうから辞退したい、と言ったんだ。

 剣技という面では数段劣るあたしが、『おまえでは相手にならない』というはずがないんだ」

「そんな……。

 …………なんか、バカですね、あたし……。

 勝手に先輩を憎んで……自分を貶して。

 くだらない逆恨みでこの一年、無駄にしちゃって……」

「無駄なんかじゃ!……無駄ではないと思いますよ」

 

 その言葉を聞いた時、ナギは反射的に口を挟んでしまった。

 ナギと壬生の間にはほとんど関わりがない。直接会話するのも今回が初めてだ。

 それでも、口を挟まずにはいられなかった。

 

 その場の全員の視線がナギに集まるなか、壬生はさらに自らを傷つける。

 

「でも、あたしの剣は汚れちゃったのよ……。恨んで、嫉妬して、呪って、そうやって振り続けたんだから……」

「汚れたからどうだって言うんです。

 誰かを恨んでつけた力でも、誰かに嫉妬して手に入れた力でも、それは自分が努力して手に入れた実力には変わりがないじゃないですか」

「……え?」

「人は綺麗なままでなんて居られません。誰だって、必ず汚れた感情は持っているんです。

 それから目を背け自分は綺麗だと言い聞かせて汚れないよう怯えながら過ごすのか、それともそれを受け入れて飼いならしていくのかはそれぞれの自由です。

 でも、始まりは勘違いでも、壬生先輩は汚れてでも力を手に入れようと努力したんですよね?ならその力は否定するんじゃなくて、誇り、受け入れるべきです」

「誇り、受け入れる……」

「『泥に塗れてでもなお、前に進む者であれ』

 ボクの恩人が教えてくれた言葉です。

 汚れたことを気にして立ち止まっていても、いつまでも未来は来ません。

 汚れたなら、それすらも自分の一部として進み続けるぐらいじゃないと、望んだものは手に入れられないんです」

「泥に塗れてでもなお……前に進む者であれ。

 …………そうよね。最初は、そんなくだらない勘違いだったとしても、あたしが頑張ってきたことまで、無駄には、ならない、よね」

 

 ポロ、ポロと壬生の目から雫が落ちる。

 近くにいた達也がハンカチを差し出したが、泣き顔を皆に見られなくなかったのだろう。胸もとを掴むと、顔を埋めるように泣き出した。

 

 まるで、この一年で自ら傷つけてきた痛みを受け入れるかのように。




女テロリスト「きゃああぁぁ!?」

お読みいただきありがとうございます!
さて、第三者視点いかがでしたでしょうか?
何かございましたらアンケート②の結果報告の方までお寄せください。

さて、武装解除の有用性と恐怖(とラッキースケベ)が改めて示されたところで、次回です。
それでは、次回『廃工場』でお会いしましょう。

・・・男テロリスト&男子生徒「「見えたっ!」」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。