魔法科高校の立派な魔法師   作:YT-3

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二話連続投稿、二話目です

それではどうぞ。


第十二話 サイオン波酔い

 

「大丈夫ですか、光井さん」

「うん。もう大丈夫です。

 いろいろ急だったから驚いたけど、どのみち何かやりたい部活があったわけでもないし、雫と一緒ならいいかなって。

 あと、ほのかでいいですよ。私たちだけ下の名前で呼ぶっていうのもあれですし」

「うん。私も雫でいい」

「わかりました、ほのかさん、雫さん」

 

 これからは同じ部活の部員として一緒に頑張っていくんですから、できるなら親しくしていきたいですよね。

 

「!?狩猟部のみんなどうしたの!?大丈夫!?」

 

 大丈夫かな?五人ぐらいの人が座り込んでいるけど。

 

「あっ、五十嵐さん……?

 うん、一応大丈夫よ。10分ぐらい前に急に具合が悪くなったけど、だいぶ落ち着いてきたから」

「でも、ずいぶん顔色が悪いわよ?

 保健の先生を呼んできた方がいいと思うんだけど?」

安宿(あすか)先生早く、こっちです!」

 

 あっ、もう呼んできていたんですね。なら大丈夫かな。

 

「落ち着いて明智さん。

 サイオン中毒なんてものは滅多に起きないんだから」

「今がその『滅多に』だったらどうするんですか!」

 

 あれ?たしか……。

 先生を引っ張ってきている赤毛の娘。入学式で見た気がしたんだけど、狩猟部のユニフォームを着ているな。

 入学してすぐに部活を決めて、すぐに届出を出したとしたら不思議ではないんだけど……。行動が早いなぁ。

 

「ごめんなさい、五十嵐さん。

 そういうわけだから、場所を開けてもらえる?」

「あっ!すみません、安宿(あすか)先生。どうぞ」

「ありがとう。

 ちょっとごめんね……。

 ……うーん。やっぱりサイオン中毒ではないけれど、サイオン波酔いかしら?」

「?それってどういうものですか?」

「簡単に言えば、サイオン波酔いはサイオンの波を強く感じ取ってしまって、乗り物酔いと似たような症状が出るものだから、安静にしていれば良くなるけれど……。

 問題はどこから、なぜサイオン波酔いを起こすようなサイオン波が来たのかというところね。原因が分からなければ、どこで安静にしていればいいのかも分からないわ」

 

 そ、それって……。

 

「少し待っていてください」

「?ええ」

 

 とりあえず確認をとらなくちゃ。多分渡辺委員長なら知っているだろう。

 

「……もしもし、春原です。少し渡辺委員長にききたいことがあるんですが」

『どうした春原?あの二人なら見失ったから、まだ探している最中だが……』

「いえ、そのことではないんです。

 10分ほど前に、第二小体育館裏の近くで、達也くんが戦闘をしませんでしたか?」

『?ああ。ちょうど第二小体育館で、剣術部部員が危険魔法を行使したから拘束したと言っていたが?それがどうかしたか?』

 

 やっぱり。

 

「実は、第二小体育館裏でデモンストレーションを行っていた狩猟部五名が、10分ほど前に急に体調不良になったそうです。

 保険医の安宿(あすか)先生の診断によると、サイオン波酔いだそうです」

『……なるほど。それは風紀委員の失態だな。

 春原は狩猟部に謝罪と、安静にできる場所へ運ぶのを手伝ってやってくれ。あと、後日のデモンストレーションの時間を融通できないかも掛け合うと伝えてくれ。

 あたしは達也くんに、周囲のことも気にしてもう少し魔法の威力を弱めるように伝えておく。さすがに今回の理由だと処罰はできないがな』

「よろしくお願いします」

 

 はぁ。当たって欲しくない予想が当たっちゃったなぁ。

 

「すみません、理由がわかりました。

 先ほど風紀委員が、この第二小体育館で危険魔法を使用した剣術部部員を拘束する際に、無系統のサイオン波による攻撃を使った可能性が高いそうです」

「なるほど、それが原因なのね。

 それにしても、直接受けてないのにここまでになっちゃうなんて、狩猟部には感受性の強い子が集まっちゃったのかしらね」

「狩猟部の皆さんには、風紀委員会を代表して謝罪します。

 今回は、風紀委員の不手際でご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございませんでした」

「顔を上げてちょうだい。

 さすがにそんな理由だと、怒るにも怒れないわよ。

 今回のは、予測もできず、偶然起きてしまった事故みたいなものでしょう?仕方がないわ」

「ありがとうございます。

 今回切り上げてしまったデモンストレーションに関しては、後日に融通できないか、渡辺委員長が掛け合うそうです」

「わかったわ。よろしくお願いするわね」

 

 ふう。狩猟部の皆さんが、優しい方でよかったな。

 

「それじゃあ、安静にできる場所へ移動しましょうか。

 できるだけ刺激は少ない方がいいから、校舎の中の部屋を取るわね。

 ……はい。実技棟の二階、第8演習室を取っておいたから、そこで休んでるといいわ。

 鍵コードは、えーと、明智さんに渡しておくわね」

「あっ、はい」

「じゃあ、私の方もあまり保健室を離れているわけにはいかないから戻るけど、一時間たってもまだ具合の悪い人がいたら連絡してね。それまでには良くなっていると思うけど」

「「ありがとうございました」」

 

 ほんとうに、ご迷惑をおかけしました。

 

「あっ!運ぶの手伝うわよ」

「でも五十嵐先輩。バイアスロン部のデモは次ですよね。さすがにそれは頼めませんよ。

 それに全員がダウンしているわけでもないんですし」

「それでも、五人に対して五人だとキツイでしょう。

 その倍はいないと……」

「ボクも手伝います。

 もともとは風紀委員のミスが原因ですから、責任は取ります」

「あのっ!私たちも手伝います。

 私たちは部活も決まりましたし、かといって新入生なのでデモンストレーションは手伝えませんから。

 いいよね、雫?」

「もちろん」

「それはいいけれど……、それでも8人でしょう?

 これじゃあ運ぶのは——」

「すみませんっ!」

 

 あれは……。

 

「えっ!?森崎くん?」

「風紀委員の森崎です。

 渡辺委員長から大体の事情は聞きました。

 この(たび)は、狩猟部の皆さまにご迷惑をおかけしてしまい——」

「ああ、謝らなくても大丈夫よ。もうすでに春原くんから謝罪は受けているし」

「そうですか?ありがとうございます。

 それで、皆さまを安静にできる場所へお運びするのを手伝うように言われてきたんですが……」

 

 これで9人目。

 

「ありがとう。これで9人ね。あと一人いれば……」

「いや、これで大丈夫です。これなら運ぶことができますから」

「えっ?どうやって?」

「こうすればいいんですよ。

 少し失礼しますね」

 

 よっ、と。

 

「えっ?きゃあっ!?」

「「きゃあー‼︎」」

 

 うわっ。そんなに大きな声をどこから出しているんですか!驚いて落としちゃうじゃないですか!

 

「お、お姫様抱っこ!?」

「あのナギ様に!?」

「いいなー部長!」

「これなら運べますよね?

 あっ!部長さんは大丈夫ですか?」

「は、はい……」

「それはよかったです。

 それでは行きましょうか」

 

 えーと、実技棟の二階にある、第8演習室だっけ?

 

「……張り合ってお姫様抱っこやったりはしないの?」

「……さすがにアレは僕には似合わないことぐらい、北山にだって分かるだろう」

「……まあね」

 

 森崎くん。そんなに悲観しなくても、こういうのは誠意があれば様になりますよ。大丈夫です。

 

◇ ◇ ◇

 

「狩猟部の先輩方も付き添っていますし、鍵コードは部長さんに渡していましたし……。

 他に何か必要なことはありますか?」

「ないと思うよ。そうだよね?」

「うん」

「それにしても、三人ともありがとね。おかげで助かっちゃった。

 ほんとは森崎くんにもお礼が言いたかったんだけど、予定があるってさっさと行っちゃうし〜」

「いえ、ボクと森崎くんは風紀委員としてするべきことをしただけですよ」

「いいの!結果として助かったんだからそれでも‼︎

 ……って、あっ!自己紹介もまだだったよね?

 私は明智(あけち)英美(えいみ)。正式にはアメリア=英美(えいみ)=明智(あけち)=ゴールディ。日本とイギリスのクォーターなの。

 エイミィって呼んでくれると嬉しいかな」

 

 へぇ。イギリスの。元イギリス人としては感慨深いものがあるなぁ。

 ……ん?ゴールディ?

 

「北山雫、よろしく」

「光井ほのかです。よろしくね、エイミィ」

「うんっ!こっちこそよろしく〜、雫、ほのか‼︎

 それで……」

「春原凪です。ボクもナギでいいですよ、エイミィさん…だとおかしいですね。エイミィって呼ばせてもらいますね」

「うん、知ってるよ〜。有名人だもんね!いっつもテレビで観てるよ〜!」

「ありがとうございます。

 それで、失礼ですが。ゴールディっていうことは、『サー』であらせられるあの(・・)ゴールディ家の方ですか?」

「わぁっ!良く知ってるね!

 そうだよ。祖母(グラン・マ)が今の当主の伯母さんでね〜。

 サーに任命されているっていうのは、本家の自慢話の一つなんだ〜。まあ私はこうして日本人してるから、あまり関係ないんだけどね」

 

 やっぱり!すごい偶然だ。

 

「いえ、実は春原家はゴールディ家と深い関わりがあるんですよ。

 だから気になって調べていたって感じですね」

「えっ?そうなの!?」

「はい。春原家の初代当主である春原魔技(まぎ)はイギリス人で、本名はマギ・スプリングフィールドというんですけど、イギリスでその当主を雇っていたのがゴールディ家だったそうなんですよ。

 初代の手記によると、ゴールディ家の魔法の改良を手伝っていたそうですね」

「なにそれ初耳なんだけど!?」

 

 まあそれは、暗号化されてた初代の手記を読み解いたのはボクですし、春原家がイギリスから来たということは伝わってても、あまり『スプリングフィールド』という家系だったことは知られていませんから。

 

「でもそれって、なんかすごい運命だね!昔、主従として共に過ごしていた人たちの子孫が、今になって遠い異国の地で、同級生として再会するなんて!」

「そうですね!なんかラブロマンスの始まりって感じがして、ドキドキしますね!」

「ほのか。そうだとしても私たちがヒロインじゃない」

「ボクからすると、かつての主人(あるじ)の家系のかたと友人になるというのは、恐れ多い気もしますけれどね」

「そんなこと気にしなくていいよ〜。

 こうして出会ったからには、友人として接してよね!敬語も禁止!」

「そう?それじゃあ、これからよろしくね。

 ……っと、すみません」

 

 端末に風紀委員専用コードで連絡だ。何か問題が起きたんだ!

 

「もしもし、春原です」

『今特に問題を抱えてはいないか?

 大丈夫なら、今すぐ校庭に行ってくれ。大規模な乱闘が起きている。森崎もいるんだが、抑えきれていない状態だ』

「了解です、すぐに向かいます」

 

 ここから校庭に行くんなら……、窓から行ったほうが早い!

 

「ごめん!風紀委員で呼ばれたから行かなくちゃ!

 みんなも、悪質な勧誘に引っかからないように気をつけて!」

「ってどこに行くの!そっちは窓——って、えー‼︎?」

 

 まずは瞬動で校舎の上空に()んで、そのあともう一度虚空瞬動で跳んで校舎の反対側の校庭に行く!

 

「空を飛んだー!?」

「というより、跳躍した?魔法を使った感じはしなかったけど」

 

 ……雫さん。自分で言うのもなんですけど、もう少し驚いてくれませんか?

 

◇ ◇ ◇

 

「あっ。達也くん、お疲れ様」

「ああ、ナギもな」

 

 風紀委員の巡回が終わったから、今日あったことを報告書にまとめにきたんだけど……、師匠(マスター)に連絡をしてたら流石に遅くなっちゃったかなぁ。

 遅れるって伝えてたのに、『遅い!どこをほっつき歩いてる‼︎』って怒るんだもんなぁ。

 

「他の人たちは?」

「だいたい終わったらしくて、もう全員帰ったよ。

 渡辺委員長だけは部活連本部のほうに行っているらしいが」

「……達也くんが終わってないのに?」

「……俺は悪目立ちしすぎたらしくてな。

 ある意味予想通り、『二科生なのに生意気だ!』という感じで絡まれまくったからな……。量が多いんだ。

 ナギのほうにもあったんじゃないのか?」

「まあ、あったね。対応するのが大変だったよ。

 でも、そこまで迷惑はしなかったかな?」

 

 さて、いつまでも話しているだけじゃなくてボクもまとめなくちゃ。

 

「迷惑といえば、 俺のほうもナギに迷惑をかけてしまったらしいな。すまない」

「いや、大丈夫だよ。あれを予測しろっていうのは無理だからね。

 それにたまたま居合わせただけだし、達也くんが関係していなくても手伝っただろうからね」

「それでもだよ。結果的に迷惑をかけたのは変わらないんだから」

 

 エイミィも似たようなことを言っていたなぁ。意外と相性がいいのかも?

 

「さて。俺は終わったが、まだ掛かりそうか?」

「そうだね。もう少しはかかりそうかな」

「そうか。

 報告書は、とりあえずここのデータサーバーに入れておけばいいんだそうだ。

 とりあえず、ということは最後には何かをしなくてはいけないんだろうが、聞きそびれてしまってな。これから部活連本部に呼ばれているから、渡辺委員長に聞いてくるよ。場合によっては渡辺委員長が直接くるだろう」

「ありがとう。お願いしてもいいかな?」

「ついでだし、何の問題もないぞ。

 それじゃあな。とりあえず、また明日な」

「うん。また明日」

 

 ……ふう。

 それじゃあ、さっさと終わらせようか。

 

◇ ◇ ◇

 

「お疲れ様。どうだった、風紀委員の活動は?」

「さすがのナギくんでも疲れちゃったかな?」

「……あ、渡辺委員長、真由美お姉ちゃん」

 

 いつ来たのか気がつかなかった。

 終わって少し休んでいたら、ぼーっとしちゃってたかな?

 

「そうですね、思っていたより大変でしたよ。なんでこうも至る所で問題が起きるのかと思うぐらいに」

「そうよね〜。おかげで生徒会も忙しくて忙しくて」

「風紀委員は、現場に鉢合わせない限り通報を受けてから現場に向かって走り回る羽目になるからな。

 その上人で溢れているせいで走りづらいから、なおさらキツイんだ」

 

 そうですね。人を避けながら走らなくちゃいけないのがきつかったなぁ。

 

「そうだ!その巡回の報告書はどうすればいいんですか?

 とりあえずデータサーバーに入れておけばいいと達也くんは聞いたみたいなんですけど」

「あいつら……。説明ぐらいきちんとしろとあれだけ言ったのに、これか。

 ……まあいい。そうだな、早速だが覚えてもらおうか。

 といっても、大したことはない。

 出てきた報告書をメモリーに写して、そこのブックに入れて上に持っていき、そこで真由美か市原に渡してブックに承認印を貰えばいい。それだけだ。

 後で達也くんと、森崎にも教えないとな」

「今日は私がこっちに来たからここでやっちゃうけどね」

 

 そう言うと、渡辺委員長が説明しながら準備していたものを受け取って、端末をかざして承認したみたいだ。

 

「それじゃあ、私たちも帰ろうか」

「そうだな。さすがに遅くなってしまっているし」

 

 あっ!そうだ!

 ちょうど二人ともいるしあれを聞いてみよう。

 

「すみません。

 実は明日からの風紀委員の巡回に関して、生徒会長と風紀委員長にお願いがあるんですけど」

「なに?もしかして急な仕事が入っちゃったとか」

「いや、そういうわけではないんだけど」

「ならばなんだ?

 巡回に関してあたしたちに頼みたいこととは?思い当たる節はないんだが」

「実はですね——」

 

 このままじゃ、渡辺委員長の言う通り、風紀委員が後手後手になってしまう。

 それをなんとかできたら、ボクだけじゃなくて風紀委員全員が楽になると思うんだ。

 

「ある魔法の使用許可をもらいたいんです」




大黒竜也「俺でもミスをすることはある」

はい。というわけで二話連続投稿でした。

この作品では、一部では原作ブレイカーとよばれている『魔法科高校の優等生』の設定も、原作ライトノベル『魔法科高校の劣等生』に明らかな矛盾が起きない限り使用することにします。ご了承ください。
ラノベ>>漫画≒優等生>>アニメの順で設定を優先します。WEB版は含みません。
なので、エクレールさんと、その友人二人もいます。彼女たちは原作で描写されなかっただけかもしれませんからね。矛盾している部分は調整します。

それでは次回です。
果たしてナギくんが使いたい魔法とは?
次回も読んでいただければ幸いです。

・・・アンタッチャブル分家「それでは困るんだ!」

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