魔法科高校の立派な魔法師   作:YT-3

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祝‼︎お気に入り千件突破!で浮かれているYT-3です。

それでは本文をどうぞ。


第十話 風紀委員会

 

 達也くんが模擬戦で使ったCADを返却しに行って、生徒会室に帰ってきた瞬間に、扉の前で待ち構えていた渡辺先輩に腕を捕られた。

 なんと言うか……御愁傷様(ごしゅうしょうさま)

 

「さて、いろいろ回り道をしたが、そろそろ委員会室本部に行こうか?」

「……もう色々と諦めましたから、腕を組まないでください。妹の視線が痛いです」

「うん?

 ああ、わかった。……逃げるなよ?」

 

 深雪さんの視線が刺さっているのに気付いたのか、渡辺先輩は腕を離した。

 

「正直に言うとやりたくはないんですが、さっきのでもう逃すつもりはなくなったでしょう?俺の意思は関係なく」

「そうだな。入学以来模擬戦で負けなしの服部に勝ったんだ。これで逃したら勿体なさすぎる」

「しょ、正直ですね……。

 まあ、達也くん。ボクもやるから、一緒に頑張ろうよ。

 週に1・2回ぐらいらしいしさ」

「……まあ、そのぐらいなら、深雪が生徒会を終えるまで時間を潰す方法が増えたと好意的に考えるしかないか」

「そうそう。やることが決まったんだったら、前向きに考えないと損だよ」

 

 というか、深雪さんと一緒に帰ることは確定なんだね。先に帰ってるという発想はないんだ……。

 

「それじゃあ、ナギくんも達也くんもいってらっしゃい。

 ……摩利も、部屋に入れたら引かれるだろうってことは理解しておくこと」

「「?」」

「余計なお世話だ。

 さて、春原、達也君こっちだ。部屋の奥のあの扉から階段に出れる」

 

 真由美お姉ちゃんが言ったことの意味が分からないんだけど。達也くん……も分からないんだね。

 一体どういうことだろう?

 

◇ ◇ ◇

 

「………」

「………」

「まあ、少々散らかっているんだが、気にせず適当な席に掛けてくれ」

 

 少々、なのかな?

 確かに、椅子に荷物が載っていて座れないとか、足の踏み場もないとかはないんだけど……。

 でも、机の上にCADとか書類とか、いろんなものが雑に積み上げられているのを見ると、少しとはとても言えないと思うんだけどなぁ……。

 

「風紀委員会はほぼ男所帯なんでね。一応、整理整頓を心がけるように言ってはいるんだが……」

「まあ、普段二人体制で、しかもその二人も巡回しているから仕方がないのかもしれませんけど」

「そうだとしても、これは俺には耐え難い……。

 すみませんが、まずここを片付けさせてください。説明はそれからにしてもらえませんか」

「あっ、ボクも手伝うよ」

 

 確かに、少しは片付けたいしね。飲み物を置くスペースもないし。

 

「それは別に構わないし、むしろ頼みたいぐらいなんだが……。いいのか?」

「魔工技師志望の身としては、CADが乱雑に放ってあるのは耐え難いんですよ。これなんかサスペンド状態にしてあるだけで、電源も入れっぱなしじゃないですか」

「そういえば春原が、君は魔工技師志望だと言っていたな。

 しかし、アレだけの腕を持っているのに勿体ない」

 

 確かに。あれだけの腕があれば警察や軍から引く手数多だろうにな。

 

「ええ。俺の才能では、どう考えてもC級ライセンスまでしか取れませんから。『魔法力』がないという意味では、服部先輩は間違ってませんでしたし……。

 というか、このCADの方が勿体ないですよ。エキスパート仕様の高級品じゃないですか」

「それはボクも分かるかな。魔法力という意味ではボクも似たようなものだし。

 っと、ここの書類は時系列順にまとめて、あの棚に入れればいいんですか?」

「ああ。それにしても、二人とも手馴れているな。

 なぜかあたしが片付けようとすると、逆に散らかってしまうんだがな……。

 何か手伝うことはあるか?」

 

「「そこで大人しくしててください」」

 

 なぜ、その話をしてから手伝えると思ったんだろう。

 

◇ ◇ ◇

 

「さて、早速片付けてくれてすまないな。

 それで、君たちに期待している役割だが……。よく考えたらさっき話してしまったか」

「ええ。ナギは例の捕縛魔法を用いた違反者の鎮圧を、俺は主に起動式を読み取っての正確な罪状の確定をとのことでしたか。

 それは別に構わないのですが……。もう一つのイメージ対策の方はむしろ逆効果になるんじゃないかと」

「うーん、まあそうだね。そうなるかも」

「? なぜそう思うんだ?」

 

 いや、確かに渡辺先輩の考えるように動く可能性もあるんだけど、ヒトっていうのはそんなに好意的に受け取るだけじゃないんですよね……。

 

「二科生の先輩方からしたら、自分たちは今まで口出しできなかったのに、一、二年前の自分と同じ立場のはずの後輩から取り締まられるのはいい気分じゃないってことだよね?」

「ああ。それに当然一科生からは、先輩も同級生も問わずに、歓迎に倍する反感がくると思いますよ」

「そうか? 同じ一年からは歓迎されそうなものだがな。入学して時間の経っていないこの時期なら、まだそれほど差別意識に毒されてはいないだろう」

 

 そうかなぁ?

 

「それはどうですかね?

 昨日は一年の一科生から、『お前を認めないからな』と言われたんですが」

「ああ、森崎くんだっけ? そんなこと言ってたんだ」

「ほう? その森崎だがな、教職員推薦枠で風紀委員になることになっている」

「えっ?」

 

 へぇー、そうなんだ。あのCADを構えるまでのスピードを考えたら、あながち人選ミスってほどでもないかな?

 

「……春原が驚かないのも意外だが、達也君がそこまで驚くのも意外だな。てっきり逆だと思っていたんだが」

「俺も人間ですから、驚くこともありますよ」

「ボクは、そんなこともあるのかなー、と」

 

 ボクなんて、テロリスト(フェイト)に自分の生徒を任せたこともあるぐらいだし。あれは信用できると思ってのことだったけど。

 

「まあいい。

 本当は、昨日あの騒ぎを起こした時に推薦を取り下げるつもりだったんだが、昨日の一件に関しては達也君も当事者だったからな。

 当事者と言っている達也君をスカウトするのに、彼を断るのは難しいだろう?」

「……いっそのこと、どちらも受け入れないという選択肢はなかったんですか」

「なかったな。君が起動式を読み取れるとわかった瞬間から、引き抜くことは確定していた。

 それとも、まだ不満か?」

「……不満は不満ですが、ここまできたら引き下がれないでしょう」

「そうか、それならいい。

 では話は以上だ。二人とも、これから風紀委員としてよろしく頼むぞ」

 

「「はい!」」

 

◇ ◇ ◇

 

「……ここって、風紀委員会本部であっているわよね?」

「また随分と酷い言われようだな」

 

 真由美お姉ちゃん。下りてきて開口一番にその発言はどうかと思うよ。いや、気持ちはわかるけど。

 

「いや、だって、一体どうしたのよ摩利。風邪でも引いてるの?

 リンちゃんがどんなに注意しても、あーちゃんがどんなにお願いしても全く片付けようとしなかったのに、こんなに綺麗にするなんて」

「それは違うぞ!

 片付けようとしても、片付かなかっただけだ!」

「……摩利、あなたも一応女の子でしょう?女の子としては、そっちの方が致命的だと思うんだけど。

 って、冗談よ冗談!だからそんなに落ち込まないで。

 多分、新しくスカウトした二人が、早速働いてくれたってところでしょう?」

「あはは、そんな感じかな」

 

 達也くんはまだ、さっき途中で切り上げてた固定端末の点検をしているけどね。あっ終わったみたい。

 

「委員長、点検終わりました。痛んでいた部品を交換しておいたので、これで問題ないはずです。

 あと、会長もどうも」

「そうか、ご苦労だったな」

「……達也くん、ちょっといい?

 おねーさんに対して、対応が少しぞんざいな気がするんだけど?」

 

 それは、真由美お姉ちゃんが、達也くんを(いじく)ろうとしているからじゃない?

 

「……会長、念のために確認しておきたいんですが、会長と俺は、入学式の日が初対面でしたよね?」

 

 ……達也くん、それは真由美お姉ちゃんに対しては悪手だったね……。

 

「そうかぁ、そうなのかぁ……ウフフフフ」

「はい?」

「達也くんは、実は私たちはもっと前にあったことがある、と思ったのね?

 入学式の日のあれは、運命の再会じゃなかったのかと!」

「いや、あの、会長?」

「かつて私たちは出会っていたのかもしれない。世界のいたずらによって引き裂かれた二人が、再び巡り会ったのは運命だったのだと!

 ……でも残念だけど、間違いなくあの日が初対面よ」

「……知っていましたが……。あの小芝居はなんなんですか……」

「諦めて達也くん。真由美お姉ちゃんはこういう人だから」

「……ナギも苦労してきたんだな」

 

 そうだね。でも、香澄ちゃんと泉美ちゃんがいないだけマシなんだよ。

 あの二人も一緒だと、さらに疲れるんだから。

 

「どう?もしかして運命感じちゃった?」

「いえ、全く。

 もし、これが運命だと言うのなら、『(Fate)』ではなく『凶運(Doom)』でしょうね」

「そっかぁ……。そうなのかぁ……」

 

 ……真由美お姉ちゃん、いい加減に達也くんには効果がないって気づきなよ。深雪さんしか見えてないっぽいから。

 

「……ちぇっ。そろそろ冗談はやめようか。達也くんノリ悪いし」

「……俺も会長のことが分かってきましたよ」

「はははっ。服部のようにはいかないな。真由美の色香も達也君には通じないか」

「人聞きの悪いことは言わないで頂戴!

 それじゃあ、私が下級生を次から次に弄んでるみたいじゃない!」

 

 まあ、真由美お姉ちゃんは正式に男の人と付き合ったことがない、というかあの二人が遠ざけてるみたいだから、そういう目で見られるのは納得がいかないんだろう。

 

「それで、結局のところ、俺への態度が違うのはなぜなんですか……」

「たぶん、達也くんのことを認めているか、何かしら気になっているんだと思うよ。

 真由美お姉ちゃんは基本的に猫被りだからね、どうでもいい相手には素顔を見せないんだから」

「ナギくんひどい!まあ否定はしないんだけど。

 なんか、達也くんはナギくんと似ている気がしてほっとけないのよねぇ」

 

 そうかなぁ?

 達也くんと顔を見合わせてみるけど、よくわからない。

 

「あくまで、私の勘よ勘。

 っと、意外と長居しちゃってるわね。

 もうすぐ生徒会室を閉めるって伝えにくるついでに、二人の様子を見に来ただけだったのに」

「その本題も、たった今聞いたところだが?」

「ごめんなさいね。お話が楽しかったものだから、つい忘れちゃった。

 それじゃあ、私は上に戻るわね」

 

 そう言うと、真由美お姉ちゃんは直通階段で上がっていった。

 はあ。真由美お姉ちゃんと一緒にいると楽しいは楽しいんだけど、疲れるんだよなぁ。今日は達也くんが被害を受けてくれてまだ楽だったけど。

 

「それじゃあ、あたしたちもそろそろ終わりにしようか。

 明日からは勧誘週間だ。忙しくなるだろうから、少しでも英気を養っておかないといけない——」

「ハヨーッス! おや、(あね)さん、まだいらしてたんですかい?」

「オハヨーございまっス!」

 

 !ビックリした〜。

 風紀委員の先輩方かな?体育会系って感じだけど。

 

「委員長、巡回終了しました!本日の逮捕者はありません!」

「……ところで(あね)さん。この部屋を片付けたんは(あね)さんですかい?」

「フンッ!」

「ってえ!」

 

 へぇ、渡辺先輩、綺麗な太刀筋だな。

 それにしても、あのノートはどこから取り出したんだろう?

 

「鋼太郎!(あね)さんと言うなと!何度言ったら分かるんだ!お前の頭は飾りなのか!」

「あね……いえ、委員長。そんなにポンポンと叩かねぇでくだせぇよ。

 それで、そこの二人は新人ですかい?」

 

 結構強めに叩いてたと思うんだけど、アレで『ポンポンと』なんだ。結構鍛えているんだな。

 

「そうだ。先に紹介しておくか。

 1-Eの司波(しば)達也(たつや)春原(はるばら)(なぎ)だ。司波(しば)は生徒会から、春原(はるばら)は部活連からウチに来ることになった」

司波(しば)達也(たつや)です。よろしくお願いします」

春原(はるばら)(なぎ)です。ナギと呼んでください」

「ほお、二科生ですか」

「腕の方は大丈夫なんですかい?」

 

 まあ、急に二科生が二人も入るとなると、実力を疑いたくもなるよね。

 

「お前ら、そんな目で見ていると驚かされるぞ。

 春原(はるばら)の方は捕縛魔法という珍しい魔法をもっていて、昨日もさっそくトラブルを起こしそうになった一年五人を一発で押さえ込んだし、これは他言無用だが、司波(しば)のほうは、さっき正式な試合であの服部を下してきたところだ」

「五人を一発で、ですかい?

 しかもそっちのはあの服部の足元をすくったと?」

「何と!あの入学以来負け知らずの服部が、新入生に負けたと言うことですか!」

「声がでかいぞ、沢木!他言無用と言っただろう」

 

 先輩たちはボクたちの方を、驚いた様子で見ている。

 うぅ。こうもマジマジ見られるのは、さすがに少し恥ずかしいな。

 

「そいつは心強ぇっすね」

「ええ、逸材ですね」

 

 ……へぇ!

 

「意外だろう?

 私は正直、一科(ブルーム)二科(ウィード)だと、くだらない肩書きで優越感だとか劣等感を覚えているこの学校の奴らにウンザリしているんだ。

 幸いなことに、真由美の十文字もあたしの性格は理解してくれているからな。生徒会枠と部活連枠は、そういう意識の少ない奴らを選んでくれた。

 さすがに教職員枠まではそんなことにはならなかったが、いままで徹底的に指導してきたからな。風紀委員には、優越感がゼロとは言えないが、実力で評価できる奴らが揃っていると思っているよ。

 だからここは、君たちにとっては居心地のいい場所になると思うよ」

「3-Cの辰巳(たつみ)鋼太郎(こうたろう)だ。腕の立つヤツなら大歓迎だぜ、よろしくな」

「2-Dの沢木(さわき)(みどり)だ。風紀委員会は君たちを歓迎するよ、司波(しば)君、春原(はるばら)君」

 

 握手を求められたので、沢木先輩から順に握手していく。

 沢木先輩は妙に力を込めていたようだけど、どうしたんだろう?今、沢木先輩としている達也くんも、怪訝な表情をしているし。

 

「それと、くれぐれも自分ののことは名前で呼ばないでくれよ。沢木と、苗字で呼んでくれ」

 

 ああ、それの忠告のつもりだったのか。

 さすがに、先輩を名前で呼びはしないんだけどなぁ。

 

「心得ました、沢木先輩」

「ボクも、分かりました」

 

 達也くんとともに、理解したという返事をする。達也くんは同時に、握手(・・)をし続けていた沢木先輩の手を解いたようだ。

 

「ほお。二人とも大したもんだな。沢木の握力は100キロ近いってのに顔色ひとつ変えねぇとは」

「……それ、本当に魔法師の握力なんですか?」

 

 随分と個性的な先輩たちだけど、ここなら楽しくやっていけそうかな。がんばろう!

 

◇ ◇ ◇

 

「ただいま戻りました」

「ああ、おかえりぼーや。

 また、随分と遅かったな。何かあったのか?」

「実は、学校で風紀委員をやらせてもらうことになったんですよ。今日は、説明を聞いてました。

 それで、基本的には週に1・2回なんだそうですけど、しばらくは忙しいらしくて、来週の火曜日まではこのぐらいの時間になりそうです」

「それは別に構わないが……。また随分と急な話だな。

 ぼーやも、無理はするなよ。ただでさえ忙しいんだからな」

「……師匠(マスター)。それはそれとして、ソファの上で寝っ転がりながら足を広げてないでください。

 淑女として恥ずかしい格好ですよ」

「む」

 

 ……あれ?

 

「チャチャゼロさんはどうしたんですか?」

 

 彼女だったら、『ケケケ、弟子ニ突ッ込マレルトハ、情ケネーナゴ主人』にみたいなことを言ってきそうなんだけど。

 

「ああ。あいつなら、町外れの工場に張り込んでるよ。メシはテーブルの上にでも置いておけばいいそうだ」

「町外れの工場?っていうと、ウチから土地を借りている例のバイオ燃料工場ですか?」

 

 あそこは、別に業績が行き詰っていたわけでもないのに、急に撤退することになったから、不審といえば不審だったけど……。

 

「ああ、そこだ。

 どうもチャチャゼロの話だと、機械の類を持ち出してはいるが、代わりに何か持ち込んでいるらしい。

 その上、関係者には見えない若い奴らが来ているそうだ」

「……怪しすぎますね。内部の様子は?」

「いや、どうもその若い奴らのリーダー格のそばにに侍っている女が、かなりのやり手らしい。夜は夜でセキュリティが厳しそうだと言っていたし、しばらくは様子見に徹するつもりそうだ。

 私たちからは以上だな。何か進展があったら教えるさ」

「はい。よろしくお願いします」

 

 あのチャチャゼロさんが、様子見に徹するほどの使い手……。

 一体、あそこでは何が起きているんだ。




——本当に誰だ!?

というわけで、原作解離の気配が漂ってきましたが、そこまで解離はしませんよ。
ナギくんが存在することによるバタフライエフェクトってやつです。簡単に言うと、敵に補正がかかっただけです。

それでは、今回はここら辺で締めましょう。
次回もまたみてください。

・・・二話投稿&設定集の改稿を同時に行ったために、八話が消えてしまい、申し訳ございませんでした。

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