魔法科高校の立派な魔法師   作:YT-3

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最近なぜかFate×カンピオーネ!の夢を見て、書きたい衝動にかられているYT-3です。

これ以外の作品を書くとペースが落ちるでしょうから、読者さんに申し訳ないんですよね。

関係ない話はここまでにして、それではどうぞ。


第九話 縮地法

 そして30分後。第三演習室にさっき生徒会室にいた全員が集まっている。

 ボクは、「場合によっては達也くんと仕事仲間になるかもしれないんだから、実力を見ておいたほうがいい」って渡辺先輩に言われてここに来たんだけど、生徒会の人は全員が来て大丈夫なのかな?

 

「それではルールを説明する。

 直接、間接を問わず相手を死に至らしめる、回復不可能な障碍(しょうがい)を与える、または相手の肉体を直接損壊する攻撃は禁止する。ただし、捻挫以上の負傷を与えない範囲での攻撃は許可する。

 武器の使用は禁止するが、体術による攻撃は可能だ。蹴り技を使いたければ学校指定のソフトシューズに履き替えるように。

 勝敗は一方が負けを認める、または審判を務める私が続行不可能と判断した場合に決することとする。

 以上だが、何か問題はあるか?」

「いえ、ありません」

「自分も大丈夫です」

 

 服部先輩は睨むように、達也くんは自然体で、相手を見ながら返答した。

 

「ならば、このルールに従わない場合はその時点で負けとする。いいな?

 それでは、双方白線まで下がり、試合開始の合図があるまでCADは機動せず、魔法の展開もしないこと」

 

 そう言って、渡辺先輩はボクたちの近くまで下がってきた。その顔には、おそらく達也くんに対する興味がある。

 周りを見渡すと、真由美お姉ちゃんも同じ顔をしている。

 市原先輩と中条先輩は、冷静にと心配しての違いはあるけど、達也くんが負けると思っている点では同じようだな。

 それに対して、深雪さんは一点の迷いもなく達也くんの勝利を信じているようだ。

 

 ボクは、この試合は一瞬で終わるだろうと思っている。

 

「始め!」

「飛べっ、え……!?」

「「「えっ!?」」」

 

 開始の合図と同時に服部先輩はCADを操作したけれど、それは達也くん相手には遅かった。

 その時には達也くんが目の前に接近していて、さらに一瞬で側面に回り込んでいたから。

 

「!そこかっ、あ?」

 

 それでも見失ってからすぐに見つられたのは鍛錬に裏打ちされた結果だったんだろうけど、既に達也くんはCADの引き金を一度引いていて、それが必倒の一撃だったらしい。

 ドサリ、と。服部先輩が倒れた。あの感じだと気絶したのかな?

 

「——しょ、勝負あり。勝者、()()達也(たつや)

 

 うん。達也くん、もう少し喜ぶなりなんなりしようよ。やりたくない風紀委員になるのが確定したから、仕方がないのかもしれないけどさ。

 勝ったのに平然と軽く一礼するだけって、逆に無礼だよ。

 深雪さんを見てみなよ。自分のことのように喜んでいるのが顔に出ているじゃない。

 

「待ってください。()()くん、今の動きは自己加速術式をあらかじめ展開していたのですか?」

「そんな訳がないのは、ここにいる皆さんにはよくわかっていると思いますが。

 今のは魔法ではありません。正真正銘、身体的な技術ですよ、市原先輩」

「ボクも証言します。アレは体術でした」

「ナギくんは何が起きたのか分かったの?」

 

 この場にいる全員が、信じられないっていう目で見てくる。あ、気絶している服部先輩は除いてね。

 

「うん。だけど、一応武術の秘奥のはずだから、勝手にしゃべることはできないよ」

「いや、俺の師匠のスタンスでは、この技術に関しては秘匿している訳でもない」

「師匠?達也くんは誰かに師事しているのか?」

「はい。兄は九重(ここのえ)八雲(やくも)先生に師事しているのです」

「あの九重八雲の弟子だと!」

 

 九重(ここのえ)八雲(やくも)って、あの古式魔法師で忍びの?

 通りで、歩法が楓さんと被ったわけだ。

 

「まあ、一応そうですね」

「それで、その師匠に許可を取らないで武術の秘奥を教えて大丈夫なのですか?」

「ええ。師匠のスタンスはさっき言った通りですし、理屈が分かっても簡単にできるものではないですから。

 もちろん、他人に口外しないという条件はつけさせてもらいますが」

「……分かったわ。教えてくれる?」

 

 真由美お姉ちゃんに続いて、まだ気絶している服部先輩以外の全員も秘密にすることを約束した。

 

「そうですね。まずはどこから話しましょうか」

「『気』による強化からが分かりやすいんじゃない?」

「そうだな、そこからがいいか」

「気というと、古式魔法での想子(サイオン)のことだろう?

 それを使っての強化というと、つまり魔法技術ということではないのか?」

 

 あー。そこらへんは分かりづらいですよね。

 ボクも前世での『気』について考えた時に、どういう理屈だったのか悩みましたもん。

 

「いえ、違います。

 これからお話しするものは、強化というよりかは身体能力を十全に生かし切るための技術ですから。

 魔法式は存在していないので、せいぜい無系統がいいところですね」

「? 魔法式がなくて、どうやって強化できるんですか?」

 

現代魔法の常識から言えば、魔法式を用いずに強化をするなんて言われてもピンとはこないかな?

 

「今回使った技術を正確に言うと、神経ではなく(サイ)(オン)で身体を動かす、が近いです。

 まず、自分の情報構造体(エイドス)(サイ)(オン)を満たします。

 そして、満たした(サイ)(オン)によって各筋肉の情報構造体(エイドス)の活動を活性化させることによって筋肉を動かし、それによって身体を動かすという仕組みです。

 イメージとしては、モーターを使い歯車を挟んで回転させていた車輪を、それ以上の出力のエンジンを使って直接回転させる感じに近いでしょうか」

 

 ちなみに体の内側から活性化するのは気による場合で、魔力による身体強化は外側から活性化することによって動かしている。

 ただ、どうやら体外にある(サイ)(オン)を操作するのは、『仙術』と呼ばれる古式魔法の一種でもない限りできる人は少なくて、さらにそれでも使えるようになるまで長い時間がかかるらしい。もったいないなぁ。

 

「そのような技術があるんですか」

「はい。しかし、この技術にも問題点があります。

 一つ目は、動かす肉体の保護をしていないため、ある程度慣れて思い通りに動くからと調子に乗っていると、肉体の限界を超えてしまって骨折などの負傷に繋がりますし、場合によっては脳が激しく揺さぶられることで死亡する危険性もあります。

 二つ目は、あくまで身体の挙動を制御する技術ですので、自己加速術式のように身体の挙動を無視した加速や移動はできないという点です。移動するには、必ず地面を蹴るなり何かを押すなりしなければならないということですね」

「なるほど。つまり、達也くんの言う『気』による強化とは、肉体をスペックの限界近くまで動かすことができると言うだけの技術で、その状態で体術を用いることによってあの速度で移動できたというわけか」

「そうです。体術のほうは『縮地法』と言います。

 仙術での、極めることにより数キロの距離を一歩で移動したと伝わっている『縮地』ではなく、武術の歩法の一種としての『縮地』です」

 

 あ、あはは……。

 数キロどころじゃなくて、『縮地』を極め過ぎて星から星へ移動していた忍者を知っているんだけど。

 

「武術での『縮地』?

 ていうことは、中国拳法の中にもあるの、ナギくん?」

「そうだね。例えば代表的なのだと、八極拳に『活歩』という縮地法が伝わっているよ、真由美お姉ちゃん。

 そうだなぁ……。歩法だけならそろそろ教えようと思ってた頃だし、強化は無しでやってみせようか?」

「そうね……お願いしてもいい?

 ちょっとどんな感じなのかイメージが湧かなくて。達也くんのは残像しか見えなかったし」

「いえ。恐らく自分のとナギのは全く一緒ではないですよ、七草会長。

 あくまで歩法ですので、発展が収束された先にある共通点はあるかもしれませんが、完全に一緒ということはないですから」

「まあ、そういうものがあるっていうのをきちんと見ておきたいってだけよ、達也くん。それに、そのうち習うことでしょうし」

「それじゃあやるよ、真由美お姉ちゃん」

 

 みんなから4メートルほど離れたところに移動して、精神を軽く落ち着かせる。

 

 最高のイメージは既に持っている。

 (クー)老師の、洗練されたあの動き!

 

「ハッ!」

 

 タンッ、とその場で左足を踏み鳴らし——

 

「ッ‼︎」

 

 ———震脚と同時に飛び滑るように移動する!

 ……まだまだあの背中は遠いな。

 

「っと、こんな感じだけど、見えた?」

「なんとか見えたは見えたけど……。

 すごいわね、5メートル近くは移動しているわよ。

 それで強化無しなんでしょう? 強化ありだったら7〜8メートルはいきそうね」

 

 古老師は強化無しで8メートル近く移動できていたけどね。やっぱり彼女にはそうそう追いつけそうにないなぁ。

 

「そうですね、これであの移動の理屈は納得がいきました。

 では服部君を気絶させたあの魔法も忍術の一種ですか?私にはサイオンの波のようにしか見えなかったのですが」

「忍術ではありませんが、魔法としてはその通りですよ。

 あれは振動系単一の魔法でサイオンの波を作っただけです。

 服部副会長はその波動を感じ取ってしまったことで揺さぶられていると錯覚してしまい、激しい船酔いと同じ症状が出て気絶してしまったということですね。

 本当はここまで長く気絶するほどではないんですが……なまじ実力があったために強く感じ取ってしまったのでしょう」

 

 魔法師は、サイオンを可視光線とかと同じように感じ取れるからね。強い波動だったらそんなこともあるのかもしれないけれど……。

 

「理屈はわかったけど、どうやって?

 戒めの風矢(アエール・カプトゥーラエ)もサイオン波で相手を酔わせるけど、気絶したことなんて今までなかったよ?」

「ナギくんの言う通りよ。魔法師は普段からサイオン波に曝されているのよ。無系統魔法はもちろん、起動式も魔法式もサイオン波の一種だもの。

 ナギくんのやっているように直接流し込んで酔うならわかるけど、気絶するほど強い波をどうやって——」

「波の合成、でしょうか?

 服部君と重なる位置で合成されるように振動数の異なるサイオン波を連続で複数作り出して、三角波のように強い波動を作り出した、といったところですか?」

「お見事です、市原先輩」

 

 なるほど、それなら強い波動を服部先輩だけに当てることができる。

 

「よくそんな精密な演算をできるな。

 しかし、どうやってあの短時間に複数回も振動魔法を発動した? それだけの処理速度なら、実技の成績が悪いはずがあるまい。

 いや、そもそも達也くんは引き金を一度しか引いていないように見えたんだが」

「それは——」

「‼︎()()くん!もしかしてそのCADって『シルバー・ホーン』ですか‼︎」

「あーちゃん?一体どうしたの、そんなに興奮して」

 

 うん。こんな急に声を荒げるなんて。

 大人しい人だと思っていたんだけど……。

 

「興奮するのも当然ですよ!シルバー・ホーンですよ、シルバー・ホーン‼︎

 フォア・リーブス・テクノロジー所属、本名・姿・プロフィールの全てが謎に包まれている奇跡のCADエンジニア、トーラス・シルバー‼︎

 世界で初めてループ・キャスト・システムを実現させた天才プログラマー!

 あっ、ループ・キャスト・システムって言うのはですね、通常の起動式が魔法発動の(たび)に消去されるので、同じ術式を発動するのにもその都度CADから起動式を展開し直さなければならなかったのを、起動式の最終段階に同じ起動式を魔法演算領域に複写する処理を加えることで、魔法師の演算キャパシティが可能な限りにおいて何度でも連続で魔法を発動できるように作成された起動式のことで、理論的には以前から可能ではないかと言われていたんですが魔法の発動と起動式の複写を両立させるための演算量のバランスが難しかったものを、シルバー様は——」

「あーちゃん、ちょっとストップストップ!ループ・キャストは知っているから、ね?」

 

 な、中条先輩はどうしちゃったのかな、急に豹変しちゃったんだけど。達也くんと深雪さんも引いているし。

 先輩方は驚いていなくて、むしろ呆れているってことはいつものことなのか……。

 

「そうですか?

 それでですね、シルバー・ホーンっていうのは、そのシルバー様がフルカスタマイズしたCADのモデル名なんですよ!

 ループ・キャストに最適化されているのはもちろん、CAD内でのロスが少なくて最小の魔法力でスムーズに魔法を発動できるのも高い評価を受けていて、特に警察関係者からは凄い人気なんですよ!現行の市販モデルなのに、プレミアム付で取引されているんですから!

 しかも()()くんのって、通常のシルバー・ホーンじゃなくて銃身が長い限定モデルですかっ!?いいなー、どこで手に入れたんですか!?」

「いや、少し伝手がありまして……」

「達也くん、律儀に受け答えしなくてもいいわよ。

 あーちゃんも、少し落ち着きなさい」

「それでも、おかしいですね。

 ループ・キャストは、あくまでも全く同一の魔法を連続発動するための技術です。

 いくら同じ振動魔法といっても、波動の振動に合わせて起動式は微妙に異なります。同じ起動式を作り出して繰り返し使用するループ・キャストでは、『波の合成』で必要とされる振動するの異なる波動は作り出せないはずですよ。

 ……一応、振動数を定義する部分を変数にしておけば作り出せるかもしれませんが、合成の計算を自分で行う必要がありますし、座標・強度・持続時間にくわえて振動数まで変数化しているとなると……。

 まさか、それを実行したと言うのですか?」

「ええ、まあ。

 多変数化は、処理速度でも演算規模でも干渉強度でも評価されませんからね」

 

 うわ、凄いな〜。ボクには絶対にできなさそうだ。

 

「……なるほど、実技試験が本当の能力を示していないとは、そういうことか」

「はんぞーくん?大丈夫ですか?」

「はいっ大丈夫です!中条が暴走していた頃には気がついたんですが、今まで起き上がれなかっただけです」

「はうぅ」

 

 ……恥ずかしがるなら、少し抑えればいいと思いますよ、中条先輩。

 それと、服部先輩は顔をそんなに赤くして……。もしかして真由美お姉ちゃんのことが?

 

「……()()さん。先ほどは身内贔屓などと失礼なことを言ってしまい申し訳ない。

 どうやら目が曇っていたのは俺の方だったようです」

「いえ、分かっていただけだのでしたら、わたしから言うべきことはありません。

 むしろ、わたしの方こそ生意気を申しました、お許しください」

「謝らないでください、()()さんは正しいことを言っていたのですから。

 ……それと()()

「なんでしょう服部先輩」

 

 ああ、達也くんのことか。

()()』が達也くんで、『()()さん』が深雪さんのことっていうことかな?

 

「俺はお前に対して生徒会役員として相応しくない侮辱をした。それを謝らせて欲しい。

 今でも二科生が魔法力が劣っていることは事実だと考えていることに変わりはない。

 だが、それが実力の全てではないことを忘れていた」

「そうですか。

 しかし、俺から言うことはありません。

 俺が服部先輩から言われたことには何も思うところはありませんでしたから。

 俺としては深雪への侮辱を謝罪して欲しかっただけで、それをされたのでしたら、話はそこで終わりです」

「そうか。

 それでは会長、先に生徒会室に戻っています。

 ()()春原(はるばら)も、風紀委員として頑張れよ」

 

 服部先輩、かっこいいな。

 間違いに気づいたらそれをすぐに受け入れて、謝れるのは凄いことだ。

 

「……そうか、風紀委員になることになるのか」

「えっ!?達也くん気づいていなかったの!?」




——誰だお前!?

そういうわけで、服部先輩をただの噛ませから卒業させることを目標に書いた九話でしたが、いかがでしたか?

今回の縮地法は『気』の設定集に載せますね。分かりづらかったらそちらを見てください。

それでは、今回はここまでにします。
次回、『風紀委員会』も見てください。

・・・この作品に飽きているわけではないですよ。まだまだ続きます。

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