IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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ボツタイトルは「葵の初体験」です。
夏休み編も、現実の夏休みもそろそろ終了で御座います。


第82話 君がいた夏は

 八月のお盆週。その週末に、私はある神社の前にいた。

 その神社の名は――篠ノ之神社。私が転校する前の家であり、生家でもある場所だ。

 

(……はあ)

 

 だというのに。

 そんな場所に帰って来たというのに。

 私の心は、一向に晴れなかった。

 

 いや、ここにいい思い出がないと言っているわけではない。

 ここは一夏と一緒に剣術を学んだ場所だし、家族そろって暮らしていた場所なので、楽しかったことはたくさんある。

 

 だというのに、ため息ばかりが出る理由は一つ。

 ここにはいない、一人の男のことが頭にひっかかっているからだ。

 

 山代紅也。

 オーストラリア国営企業、モルゲンレーテのIS操縦者。

 学園における、私の剣の師匠のような存在。

 

 私は彼に会うために、姉さんに頼んでオーストラリアに連れて行ってもらった。

 そうして着いたは良かったものの、紅也が入院している病院の警備は非常に厳重で……正直、普通じゃないと思った。姉さんがいなかったら、私はすごすご引き返す羽目になっただろう。

 ……いや、あるいは、その方が良かったかもしれない。

 紅也が私達に隠していた秘密。

 それは私にとってはあまりに重く、大きいものだった。

 

 ――なのに。

 何で、紅也は私を怨まないのだろうか。

 

「……箒ちゃん、どうしたの?」

「……少しぼーっとしてました。すみません、雪子叔母さん」

「あら、いいのよ。そうよね、元々住んでいたところだもの。懐かしくて当然よね」

 

 声をかけてきたのは、四十代後半の女性。年齢相応の落ち着いた物腰と柔らかな笑みは、まるで相手を包み込むかのような安心感を与えてくれる。

 この人は雪子叔母さん。私達がここを離れた後、篠ノ之神社の管理を受け継いでくれた親戚の一人だ。

 

「それにしても、よかったの?夏祭りのお手伝いなんてして」

「め、迷惑でしょうか?」

 

 叔母さんの言葉を聞き、自然と身体に緊張が走る。

 ――私はまた、余計な事をしてしまったのだろうか?

 

「そんなことないわよ。大歓迎だわ。でも、箒ちゃん?せっかくの夏祭りなんだから、誘いたい男の子の一人もいるんじゃないの?」

「そ、そんなことは……」

 

 その言葉と共に、自分の脳裏を一人の少年の姿がよぎる。

 織斑一夏。

 箒の今なお続く初恋の相手であり、四月に劇的な再会を果たした……運命の人。

 でも……。

 

「……私は、そんなことをしてはいけない」

 

 小声で、そんな言葉が自然と発せられた。

 一夏のことを思い出すと、どうしてももう一人(・・・・)の方を思い出してしまう。

 そしてその度に、私の心は締め付けられるのだ。

 

「……箒ちゃん?」

「はっ、はい!」

「神楽舞は六時からだけど、大丈夫?今のうちにお風呂に入らないと間に合わないわよ」

「はい。では、入ってきます」

 

 確かに、急いだ方がいいだろう。

 私は自分の思考を放棄して、静かに風呂場へと向かうのだった……。

 

 

 

 

 

 

〈side:山代 葵〉

 

「……夏祭り?」

「ああ。箒の実家……あー、篠ノ之神社なんだけどな。そこで毎年やってるんだ。

 葵は日本の祭りって初めてだろ?良かったら来ないか?」

 

 オーストラリアから戻ってきて、数日。

 唐突に一夏からかかって来た電話は、祭りへの誘いだった。

 

 祭り……。昔、父さんに聞いたことがある。

 ミコシをかついでワッショイって言ったり、ヤクザがお店を出してたり、ミコが踊ったりするそうだ。

 正直、当時の説明だけでは分からなかったため、確かに興味がある。

 でも……もしつまらなかったら、はっきり言って時間の無駄だ。

 

「……ちょっと考えさせて」

「え?あ、そうだな。予定とかがなかったらまた電話してくれ。じゃあ」

 

 一夏との電話を切り、私は別の相手に電話をかける。

 アメリカと日本では時差があるけど、この時間なら通話できる……はず。

 数回のコールの後、電話が繋がった。

 

「もしもし、葵?どうした?」

「……久しぶり、紅也」

 

 私が相談を求めた相手は、紅也。

 先日退院したのはいいけど、リハビリのためとか言ってすぐに国外へ行ってしまった、私の兄。

 

「何か、緊急事態か?でなければ、後にしてほしいんだけど……」

 

 どうやら、取り込み中のようだ。

 電話の向こうからけたたましいサイレンの音や、銃声が聞こえる。

 ついでに、聞くに堪えないようなスラングだらけの英語も。

 ……ただのホームステイじゃなかったの?

 

「……緊急、じゃない」

「アルマンド!そこを右に曲がれ!

 ……そうか。でも、電話してきたってことは何かあるんだろ?話してみなさい」

 

 今度は大きなブレーキ音。

 ……本当に何をやってるんだろう?

 

「……祭りって、楽しいの?」

「え、祭り?そうだな……スピード上げろ!ベリックの野郎、もう追いついてきやがった!」

「Shit!急げアルマンド!」

「でめえもしっかり撃て、ヘンリケ!……くそっ、警察は何をやってやがる!」

「お兄ちゃん!?」

 

 警察?外国に行って警察沙汰って、何やってるのよ!?

 

「悪い、余裕が無くなった!気になるなら行ってこい!ただし、デートだったらおにーちゃん許しま……」

 

 爆音。そして、電話が切れる。

 ……まあ、ISも持ってるし、大丈夫でしょ。紅也なら。

 とにかく、方針は決まった。

 再び一夏に電話し、誘いに応じることにする。

 それにしても……デート?あの一夏が、そんなことするわけないでしょ。

 心配しすぎだよ、お兄ちゃん。

 

 

 

 

 

 

「よっ、おつかれ」

 

 ほら、ね。

 

 場所は篠ノ之神社、境内。その中の、アミュレットを売ってるところ。

 一夏とは入り口で待ち合わせ、ミコさんの舞い(神楽舞、というらしい)を見に行った。

 そしたらそのミコさんの顔に見覚えがあったため、一夏に尋ねたところ、やはり神楽舞をやってたのは箒だったそうだ。

 どうやら一夏はもともと箒に会いにいくつもりであり、そのついでに、いつぞやの勉強会のお礼を兼ねて私を誘ったのだそうだ。

 

 ね?デートじゃなかったでしょ、お兄ちゃん。

 

「葵?何で夜空に向かって話しかけてんだ?」

「……なんでもない」

 

 星になった(推定)紅也に話していた様子が、一夏に気付かれたらしい。……ちょっと恥ずかしい。

 

「それにしても、すごいな、箒。様になってて驚いた」

 

 そうそう、言い忘れてたけど、私達の目の前には巫女服を着た箒がいて、アミュレットを売ってる。どうやら、予期せぬところで一夏と会ったから動揺して石化してるみたい。

 

「それに、なんていうか……キレイだった」

「っ――!?」

 

 石化→赤化。

 箒の顔は、いまや赤い彗星もかくやという勢いで真っ赤になり、巫女服を着たその姿はクラースナヤや真紅の稲妻を連想させる。

 ……自分で言ってて意味がわからない。紅也に感化されたのかも。

 

「夢だ!」

「な、なに?」

「……邪眼?」

 

 どうやら箒は、一夏の瞳術にでもかかってたらしい。

 ジャスト一分……ってところかしら?

 一夏は箒のバインドヴォイスを直撃し、間の抜けた声を上げてる。

 

「これは夢だ。夢に違いない。はやく覚めろ!」

 

 ここで「おい、マジかよ。夢なら覚め……」とか言ったら、空気読めない子扱いなんだろうな、私。

 ……え?臨海学校で紅也が同じネタをやってた?

 

 ……いいじゃん、別に。

 

「まあまあ箒ちゃん。大きな声を出してどうしたの?……あら?」

 

 奥から出てきたおばさんが、箒と一夏、そして私を見渡す。

 そしてなにやら考えるようなそぶりを見せた後、「ああ」と言いながらぽん、と手を打った。

 ……何か、誤解を受けた気がする。

 

「箒ちゃん、あとは私がやるから、夏祭りに行ってきなさいな」

「なっ!?……くっ、さすがは夢だ。あり得ないことばかり起きる。ならば……」

 

 邪眼、継続中。

 あるいは明晰夢?夢魔に浸食されないようにね。

 ……と、まあおふざけはここまでにしておこう。

 なぜだか、箒は私の存在に気付いてないみたいだし。

 

「『篠ノ之、これは現実だ』」

「「!?」」

 

 織斑先生をまねた私の声を聞き、ビクッと体をこわばらせる一夏と箒。

 ……躾けられてるわね、二人とも。

 

「なーんてね。……いい夢見れた?」

「えっ!?なんだ、葵か……。……って、葵!?」

 

 私の姿を見て、急に箒がテンパり始める。

 私、箒を動揺させるようなことをしたっけ?

 記憶を探ってみるも、そんな覚えはない。

 

「雪子叔母さん、着替えてきます。後を頼んでもいいですか?」

「もちろんよ、行ってらっしゃい」

 

 私から目を逸らし、箒が去っていく。

 ……もしかして、私と一夏がデートしてるようにでも見えた?

 安心して、箒。一夏はとらないから。

 

 ……まあ、それはそれとして。

 

「……一夏。一つ聞きたいんだけど」

「えーと、なに?」

「……不幸を遠ざけるようなアミュレット……お守りって、ある?」

 

 

 

 

 

 

 時間にして30分くらいか。お守り売り場から離れ、鳥居のところで箒を待ってた私達は、とうとう待ち人の姿を発見した。

 

「おーい。遅いぞ、箒」

「い、一夏。それに葵も……。待たせてすまなかったな」

「……別にいい。準備に時間がかかるのは当然」

 

 箒の今の服装は、臨海学校のときのように浴衣だった。

 それなら時間がかかるのも頷ける。シャワーまで浴びたんだから尚更だ。

 特に、髪は洗うのに時間かかるもんね。

 

「へえ、浴衣か。似合ってるな」

「そ、そうか!?……嬉しいぞ」

 

 一瞬はしゃぎそうな表情を見せた箒。でもその表情は、私の顔を見たとたんに曇る。

 ……やっぱり誤解してる?

 

 ――いや、違う。

 この、箒の目を、私は知ってる。

 

『……ごめんな』

 

 あのときの紅也と同じ、強い後悔を宿した目。

 私の顔を見て、後悔する理由……もしかして。

 

 ……いや、考えすぎよね、きっと……。

 

「……それより、時間」

「っと、そうだな。さて、色々見て回ろうぜ。いやー、しかし夏祭りに来るのも二年ぶりか。去年は受験勉強してたしなあ」

「あ、ああ、回ろう!三人で行こう」

 

 妙な雰囲気の箒と、それに全く気付かない一夏。そして、それらを無視する私。

 どこかいびつな三人組は、こうして神社を歩きだした。

 

「わたがしに焼きそばに焼きもろこしに、一通りあるな。さすがは篠ノ之神社」

「……射的もある」

 

 そう言って私が指さした先には、「射的JUDAS」の看板が。

 もっとも、ハトがやたらと集まってるせいで、どういう景品があるのかは分からないけど。

 

「お……カタヌキか。こんなものまであるんだな。な、箒」

「……………」

「箒?」

「な、なんだっ!?」

 

 先ほどから黙りっぱなしだった箒を気にかけ、一夏が顔を覗き込む。

 それに動揺した箒は慌てて一夏から距離を取り、周りの人にぶつかりそうになっていた。

 

「こら、暴れるなよ。人にぶつかるぞ」

「う、うむ。すまん」

「……それより、どこへ向かってるの?」

「そうだな。箒、どっか行きたいところはあるか?」

「わ、私は……別に……」

 

 なんと、三人ともノープランだった。

 三人寄れば何だって?だからことわざは当てにならない。

 

「……あれ」

 

 とりあえず何か面白いものはないか、と思って周りを見てみると、一つの屋台が視界に入った。

 食べ物を扱っている屋台ではない。

 なにか、子供が集まって、どことなく楽しそうな雰囲気の場所。

 

「お、金魚すくいか。そういえば、箒って金魚すくい苦手だったよな」

「い、いつの話だ!いつの!」

「……金魚すくいって、難しいの?」

 

 あんな子供も挑戦してるくらいだし、簡単そうに見えたんだけど。

 

「お、葵は初めてか。まあ、実際に体験する方が早いぜ」

「そ、そうだぞ。私がおごってやろう」

「……自費でやるから、大丈夫」

 

 まったく。ただの学生と違って、こっちは給料貰ってるんだから。

 馬鹿にしないでね、箒。

 ……そういえば、篠ノ之博士の研究費用って、誰が調達したんだろう?

 いえ、それこそまったくどーでもいいことだったわね。

 話しながらも私達は、金魚すくいの屋台へと向かう。

 

「なあ箒。勝負でもするか?負けたほうが食べ物おごりな」

「いいだろう。望むところだ」

 

 どうやら一夏と箒で、どっちが多く金魚をとれるか勝負するみたい。

 ……面白そう。そこで初心者である私が二人より多くの金魚を取っちゃったら、どんな顔をして悔しがってくれるのかしら。

 屋台のおじさんにお金を渡し、三人一緒にポイを受け取る。

 

「じゃあ、勝負!」

「望むところ!」

 

 ふふ、覚悟しなさい。二人とも!

 

 水面を見つめる。

 金魚の数はざっと20匹以上……よりどりみどりだ。

 その中で、特に目を引く存在がいる。

 他のやつらより一回り大きい、黒いデメキン。

 ……あれなら、動きも遅くて、狙いやすそうね。

 

 さりげなくそいつのそばに移動し、ポイを構える。

 ちらり、と一夏たちを見ると、小物ばかりを狙っていて、しかものろのろとポイを水につけている。

 そんなにトロいと、逃げられるわよ!

 

 私は感覚を総動員して、デメキンの行動を予測。

 その進路上に向け、水面を切るようにしてポイを走らせる――!

 予測は完璧。

 ポイはデメキンの目の前に現れ、それに気付かぬデメキンはまっすぐに罠へと突き進み……そのまま通過した。

 

「……あれ?」

 

 ポイを引き上げる。

 張ってあった紙が溶けていた。

 

「……おかしい」

 

 とりあえず、もう一回やってみよう。……今度は負けない。

 

 

 

 

 

 

「……今度こそ」

「まだ居たのか……」

「おーい、葵。もうやめとけって」

 

 背後に聞こえた箒と一夏の声に驚き、私はまたも紙を破ってしまった。

 ……おかしい。何で、正面にいたはずの箒たちの声が、背後から聞こえるんだろう。

 

 顔を上げる。

 箒も一夏もいない。

 代わりに、小学生くらいの子供たちが、私の方をじーっと見ていた。

 

「いや、だからこっちだって」

 

 後ろを振り返る。

 そこには、焼きそばを食べている一夏と、何故か顔を赤くした箒の姿が。

 

「……ワープ?」

「「いや、違うから」」

 

 二人同時の、驚異のシンクロナイズドツッコミだった。

 

「……コホン。とりあえず時間を見てみろ、葵」

 

 箒に言われるがままに、時計を見る。……なぜか、最後に見たときから15分も経っていた。

 

「……あ、ありのまま今起こったことを「話さなくていいから」……むぅ」

 

 一夏に先を越された。

 

「葵。祭りの楽しみは金魚すくいだけではないぞ?他の所に行こう」

「……分かった」

 

 まただ。

 また、箒の態度に違和感を覚える。

 

「いやぁ、しかし……ハハッ」

 

 私を見て、一夏が不快な笑い声をあげる。

 

「……何?」

「いやぁ、葵って何でもできる完璧超人だと思ってたからさ。苦手なこともあるんだなーって思って」

「……完璧?私が?」

 

 その認識は間違いだ。

 確かに、私はISの扱いや勉強面は良く出来る方だろう。

 でも、決して完璧ではない。いや、完璧な人間なんていない。

 

「まあ、確かに。ここまで負けず嫌いだとは思わなかった」

「……箒まで」

 

 今度は二人して笑う。

 その様子が『いつも通り』で、私は少し安心した。

 

「ふふふ……。と、喉が渇いたな。一夏」

「ははは……。そうだな。葵も行こうぜ」

「……うん」

 

 まあ、こういうのも悪くは無い。

 去り際、あの黒デメキンを睨みつけた後、私は先を歩きだした二人についていった。

 そして、しばらく他愛のない会話をしていると――

 

「あれ?一夏……さん?」

「お?」

 

 私の背後から、一夏を呼ぶ声。私の記憶には無い声だ。

 ……一夏の友達?

 気になって振り返ってみると、そこにいたのはヘアバンドをつけ、短くは無い髪を結いあげた、可愛らしい浴衣の女の子だった。

 

「おー、蘭か」

「き、奇遇、ですね……」

「そうだなー。案外、知り合いに会わないと思ってたらばったりだったな。弾は?」

「さ、さあ?家で寝てるんじゃないですか?」

 

 蘭、という名前らしいその女の子は、顔を赤くしながら一夏と話している。

 弾というのは兄弟か何かか。

 ……ははーん。紅也にとってのセリアと同じようなパターンの子ね。

 一夏、すごいわ。流石は恋愛原子核。

 ……あれ、違う?まあいいや。似たようなものでしょ。

 

 そうこうしてる間に、女の子の背後にいた友達らしき四人がキャイキャイとはしゃぎだし、狙ったかのようなタイミングで去っていった。

 その後も一夏と女の子は楽しそうに話し続ける。

 ……はあ。一緒にいる子をほったらかして、別の女の子と会話なんて。

 私はいいけど、ほかの子だったら怒るわよ。

 例えば……一夏の隣にいる和服姿の武士娘とか。

 

「あー……ゴホンゴホン!」

 

 とうとうしびれを切らした箒が、わざとらしい咳払いで自分の存在をアピールする。

 

「お、悪い。紹介がまだだったよな。えっと、こっちが五反田蘭。ほら、前に話した弾ってやつがいただろ?あいつの妹」

「五反田蘭です」

 

 そう言って、私と箒に事務的なお辞儀をする蘭。

 

「で、こっちが篠ノ之箒。俺のファースト幼なじみ。

 こっちは山代葵。オーストラリアの代表候補生で、頼りになる友達だ」

「し、篠ノ之箒だ。よろしく」

「……山代葵。平仮名みっつであおい。呼ぶときは葵ちゃん」

「え?えーっと……よろしく」

 

 とりあえず、某ぼんやり天才少女の真似をして自己紹介してみる。

 すると効果てきめん。蘭は混乱したみたいだ。

 

「……冗談。普通に葵でいい」

「わ、わかりました……」

 

 そう言った後、数秒、気まずい沈黙が流れる。

 

「………………」

「………………」

 

 箒と蘭は、何かを期待してるかのように一夏に視線を向ける。

 でも、そこはさすがの鈍感一夏。

 

「な、なんだよ」

 

 多少の狼狽を見せながらも、なぜ睨まれてるのかは気付かなかったようだ。

 

「いや」

「別に」

 

 そう簡潔に答えた二人だったけど、相変わらず視線は鋭い。

 特に蘭。その目で私を見ない方がいいわよ?うっかりアレしてああなっちゃうわよ。

 そして、そんな中……。

 

「お」

 

 何かを思いついたように、一夏が手を打つ。

 

「一緒に回るか?」

 

 その言葉を聞いて箒はがくっとうなだれ、蘭の表情は輝いた。

 

 かくして。

 奇妙な三人連れは、人数を増やし、祭りを回ることになったのだった……。


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