IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第81話 事件は、リアルタイムで起こっていた

 さて、翌日、土曜日。

 俺は、自分の甘さを思い知った。

 

「嘘だろ……こんなに混んでるなんて……」

 

 念には念をと、ウォーターワールドの開場1時間前に来たにもかかわらず、チケット売り場には長い行列ができていた。

 

 とりあえず並んではいるものの、この人数だ。

 チケットを買うことができるだろうか?いや、できない。

 しかも……。

 

(もうセシリア来てるし……)

 

 先程、どこかで見たような白い高級車がゲート前に止まり、中からセシリアが出てきた。

 待ち合わせは10時だったのに。まだ30分くらい時間があるぞ!?

 気まずい思いをしながら、俺はひたすら前だけを見ていた……。

 

 

 

 

 

 

「はい、本日のチケットは完売です!ここより後ろの方、残念でした~!」

 

 そう言って係員さんが看板を立てたのは、俺の目の前……だったら、どんなに良かったか。

 あいにく、声は遥か前方から聞こえてきた。

 つまり、ギリギリセーフでもアウトでもなく、完全なアウト。J1に昇格したいのにJ2最下位みたいな状態だ。

 ちなみに、現在時刻は10:20。既に鈴もゲート前に着いていて、微妙に距離を開けながら待ち人――つまり俺――を待ち続けてた。

 

 どうしよう……。

 このままノコノコ顔を出して、一緒に行けないなんて言ったら、鈴にボコされるに決まってる。

 かといって、何も言わないのは論外。そもそも鈴には、セシリアも一緒に行くことを伝えてなかった気もするし。このままだったら、二人とも長い時間待つことになるだろう。

 

 よし、決めた。

 とりあえず、電話で話そう。

 

 携帯を取り出す。

 ……って、あれ?シャルから着信があったのか?全然気付かなかった。

 まあ、後でかけ直そう。今は鈴への言い訳が最優先だ。

 メモリから鈴の名前を呼び出し、コール。

 

「もしもし!?あんた何してんのよ!今どこ!?」

 

 なんと、ワンコールで出てきた。

 

「あー、それより、今日は急用が入って……」

「急用って何よ!そんなものが、あたしとの約束より大事なの!?」

「いや、その、だな。実はキサラギって企業が、俺に新開発の射突型ブレードを試して欲しいって言ってきて……」

「嘘おっしゃい!そんな変態企業、この世界にあってたまるか!」

 

 う……。とっさに嘘が出ちまったけど、全然通用してないし。

 つーか、鈴。声がここまで聞こえてきたぞ。周りの人も何事かと注目してるじゃないか。

 

「……って、あれ?何で、あたしの声がそっちから聞こえんのよ!」

 

 ……what?

 

「さてはあんた、近くにいるわね!?」

 

 ……バレた。

 頭の中で、警報が鳴り響く。

 慌ててキョロキョロと周囲を見渡し、逃げられそうな場所を探す。

 が……その動作が、逆に人目を引いてしまったようだ。

 

 たまたまこっちを見てたセシリアと、ばっちり目が合ってしまう。

 

 見過ごしてくれるかとも思ったが、あろうことかセシリアは一直線に俺の所へ歩いてきた。

 当然、鈴もその動きを見てるだろう。つまり……詰んだ。

 

「……見つけた」

 

 ぷつっ、と無情な音をたて、電話が切れる。

 ……はあ。覚悟を決めるしかないか。

 せめてもの意地で、セシリアと鈴の方へ自分から歩いていく。

 

「よ、よう……鈴、セシリア。おはよう」

「おはようございますわ、一夏さん。それで、これはどういう状況ですの?」

 

 どうやら、セシリアはまだ何がどうなってるのか分からないようだ。

 問題は、鈴。

 

「い、ち、か~っ!何でセシリアがここにいて、何でアンタがここにいるのよ!」

「あら、鈴さん。わたくしは一夏さんに誘われてここに――」

「そのチケットは!あたしが一夏のために用意したものなのよ!」

「――鈴さん。それは、どういうことですの?」

「どういうこともなにも、一夏はあたしが誘ったってこと」

 

 うお、やばい。

 これ以上続けさせたら、ISでも持ち出して暴れそうだ。

 

「だから、一夏にチケット返しなさいよ。そうすれば、あたしと一夏の二人で遊べるから!」

「そういう鈴さんこそ、チケットを差し上げてはどうですか?なにせわたくしは、一夏さんの方から誘われたのですから」

「なあ、二人とも。いったん落ち着けって……」

「貴方のせいですわ!」「あんたのせいよ!」

 

 バチーン!

 二人の平手が、俺の頬を打った。

 

「ふん。なんだか、馬鹿らしくなっちゃった。怒鳴ったら喉も乾いたし」

「それでしたら、中で何か飲みませんか?せっかくチケットがあるんですから」

 

 痛みにもだえる俺を放置して、二人はウォーターワールドへ行ってしまった。

 いや、説明する前にぶたれるって。

 確かに俺が悪かったんだろうけど、ひどいな。

 しかも……。

 

「あの子、二股かけてたみたいよ」

「えー。サイテー」

「男の敵だな、リア充め」

「女の敵よ」

 

 ……何だか、誤解されてるし。

 

 

 

 

 

 

 結局その後、俺は寮に戻った。

 早起きと理不尽な暴力によって疲れ果てていた俺は、私服のまま二度寝を開始。

 そして気がついたら、時刻は3時。

 

 ……寝過ぎたな。

 とりあえず、朝方着信があったことを思い出し、シャルに電話してみるも、繋がらない。

 忙しいのかな?

 おととい帰って来たときも、結構疲れた顔してたし。

 きっとモルゲンレーテの方から、何か言われてるんだろうなぁ……。

 がんばれ、代表候補生。

 

 ヒマだったので、とりあえずテレビをつける。

 

「……えー、では、現場から中継します。佐久間さん?」

「はい、こちらは@クルーズ前です。ただいま、こちらには銀行強盗が立て籠っており、それを警察が包囲しています」

「現場の状況はどうですか?」

「先ほど、大きな銃声がありました。それから……と、店内に何か動きがあったようです!」

 

 ダダダダダンッ!

 

「またしても銃声です!一体、中で何が起こっているのでしょうか?」

 

 うわ~……大変なことになってるな。

 中のお客さん、無事だといいけど。

 

「……速報です。未確認情報ですが、今月オープンしたウォーターワールドにて、IS二機が暴走を起こした模様です。詳しい情報が入り次第、続報をお伝えします」

 

 ……何やってんだ、あいつら。

 学園内のノリで暴れたら、人様に迷惑がかかるに決まってるだろうが!

 

「おっと、人質が解放されていきます!やはり、店内で何かがあったようです!」

 

 画面は再び、強盗のニュースを映し出す。

 どうやら、怪我人はゼロだったらしい。

 しかも、なんか美少女メイドと美少年執事が強盗たちを無力化したとか……。

 まるで漫画だな。綾崎ハ○テでもいたのか?

 

 

 

 

 

 

 それから数時間後。

 俺は、シャルとラウラの部屋の前にいた。

 

 実は、あれから何度も電話をかけてみたんだけど、一向に繋がらなかったのだ。

 そのため、用件を聞こうと思ったわけだが……。

 

「ラウラ可愛い~っ!写真撮ろう!ね、ねっ!?」

「き、記録を残すだと!?断固拒否する!」

「そんなこと言わずにさ~」

 

 ……なんか、楽しそうだな。

 正直、この雰囲気の中に入っていくのは気が引けるけど……ええい!男は度胸だ!

 

 コンコン。

 

 とりあえずノック。

 

「はーい、どうぞ~」

 

 許可は下りたみたいなんで、入室。

 ドアを開けると、ニコニコ笑顔のシャルと、困惑顔のラウラがじゃれあってた。

 

 沈黙。

 

 シャルの表情が笑顔から一転、パニックでも起こしたかのように真っ赤になる。

 

「おっす。お、なんか変わった服着てるな。黒猫と白猫だ」

 

 そう。二人の服装がそれだった。

 シャルは白猫パジャマで、ラウラが黒猫パジャマ。両方とも着ぐるみパジャマで、パジャマから顔だけ出てる状態だ。

 いくら夜に近いとはいえもうパジャマを着て、パジャマパーティでもしてたのか、白猫パジャマのシャルは黒猫パジャマのラウラを膝にのせて、それはそれは嬉しそうだった。

 しかし、ラウラの黒猫パジャマの目は、なんていうか……ネコ○ルク・カオスみたいだな。

 にしてもラウラって黒いパジャマが似合うし、シャルも白いパジャマがぴったりで……って、いかん。パジャマって字がゲシュタルト崩壊しそうだ。

 ところでみんな、『パジャマ』って十回言えるか?俺は途中で言えなくなったけど、それこそどうでもいいな。

 

「あ、え、う……」

 

 おっと、いかん。ラウラはともかく、シャルがいっぱいいっぱいな感じになってる。

 早く用件を済ませたほうがいいよな……。

 

「今日、なんか電話してくれたみたいで、出れなくてごめんな。ちょっと……まあ、いろいろあったんだよ。出かけたり、二度寝したり。……ともかく、何度かかけ直しても繋がらなかったから、こうして用件を聞きに来たんだ」

「そうか。うむ、理由は感心できんが、心がけは感心だ」

「それはどーも」

 

 シャルから逃げ出したラウラは、腕を組んで仁王立ちしてそう言う。

 たち振る舞いは偉そうだが……格好がそれを台無しにしていた。

 なんていうか……可愛らしい?子供が無理してカッコつけてるみたいなちぐはぐさだ。

 

「あ、け、ケータイね。ま、ま、マナーモードにしたまま、カバンに入れっぱなしだったみたい。あ、あはは」

 

 シャルが携帯電話を取り出しながらそう言った。

 うーん、まだ正気とは言い難いかなあ?

 しかも、普段しっかりしたお母さんタイプのシャルが、白猫パジャマって。

 

「ぷっ。なんか、二人揃って面白いっていうか、可愛いな」

「か、可愛い……」

「わ、私もか……?」

 

 シャルもラウラも、顔を赤くしてそう呟く。

 うーん、二人のこういう表情はレアだな。特にラウラは、普段からキリッとしてるし。

 

「で、結局用件はなんだったんだ?」

「う、え、えーとね、一緒に出かけようかと思って電話したんだけど……」

「結局私と出掛けたのだ。これも今日買ったのだ」

「へえ。そういや、知ってるか?」

 

 ――今日、強盗事件があったらしいぜ。街、騒がしくなかったか?

 

 俺がそう言った途端、二人の表情がこわばる。

 

 ――な、なにもなかったよ。

 ――う、うむ。いたって平和な一日だった。

 

 その返事を聞いて、深くつっこむのは止めようと思った俺であった……。

 




二人ともいないときは、特に変わった出来事が起こらないですね。

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