IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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一夏サイドは基本的に原作準拠なので、ところどころ省いています。


第80話 それぞれの夏休み。ある日の一夏

 オーストラリアに着いた私達が最初に向かったのは、紅也の病室だった。

 シャルロットと二人でドアの前に行き、ノックをする。

 最低限の礼儀……ってわけではない。もし紅也が着替え中だったり、アレを使ってなかったら、困るからだ。……主にシャルロットが。

 

「……入っていい?」

 

 念押しで、言葉をかける。

 紅也なら、もう私達の気配に気づいてるはずだけど、念のためだ。

 

「いいぜ。二人とも、入ってくれ」

 

 肯定の意を受けて、私はドアを開ける。

 「何で二人って分かったんだろう……?」って、シャルロットが呟いてたのが面白かった。

 そして、そんなシャルロットを見て、紅也は不思議そうな顔をしてた。

 

「久しぶりだな、二人とも」

 

 右腕を上げ、紅也が挨拶する。

 その表情は、どこかほっとしたような感じで……。

 何かあったんだろうか?

 

「久しぶり、紅也。入院してるってわりには、元気そうだね」

「まあな。元々検査入院だったし、今となってはいつでも退院できるからな」

「へえ。じゃ、何でまだ病院(ここ)にいるのさ?」

「ここの方が、職場に近いんだよ。おかげで、毎日仕事漬けだ」

「……早く退院したら?」

 

 シャルロットと言い合いをしている紅也は、見事なまでに「いつも通り」だった。

 そのわざとらしさに不安を感じつつも、私は本題を切りだすことにした。

 

「……レッドフレームは?」

 

 ぴたり。

 紅也の動きが、止まった。

 

「……9月までの修復は困難だ」

「……じゃあ、グリーンフレームに乗るの?」

 

 もしグリーンに乗るなら、そろそろパーソナルデータを入力しなきゃいけないはずだ。

 

「……断られました」

「……え?」

「だ・か・ら!断られたんだよ!『グリーンフレームには俺以外を乗せる』ってよ!」

「えーと、それってつまり……今の紅也には、専用機が無いってこと?」

 

 私の発言に対し、紅也がふてくされた表情で答える。

 そしてシャルロットの核心をついた言葉により、とうとう紅也はそっぽを向いてしまった。

 ……子供か。

 まあ、いつまでもこの空気なのはいたたまれない。何か、別の話題を探すことにしよう。

 

 さて、何かいい話題があるかな。

 

 ……あ。

 

「そういえば、この間、シャルロットがエリカさんからメールを受け取ったときに……」

「ちょっ!?あ、葵!その話は秘密にして、って言ったよね、僕!」

「……兄妹に秘密はなし」

「昔約束したんだよ。『僕たち兄弟は、互いに嘘をつかない』って。さあ、話せ」

「違うよね!?多分だけどそれ、紅也と葵の話じゃないよね!?」

 

 シャルロット、正解。

 某帝国の98代皇帝と、その兄の会話だ。

 まあ、正解しても何が変わるわけじゃないんだけど。

 

「メールを見たとき、シャルロットが……」

「わー!わー!わー!」

「シャル子が?どうしたんだ?」

「紅也も聞かないでぇぇ!」

 

 先程までの空気は一転、にぎやかな雰囲気に変わる。

 これが、紅也が秘密を隠してまで守りたかった、日常。

 願わくば……こんな日が、永遠に続きますように。

 

 

 

 

 

 

〈side:織斑 一夏〉

 

 あの、衝撃的な出会いから一週間。

 家にいてもやることがなくなってきたから、俺は一度IS学園に戻ることにした。

だって、なあ。

 初日で片付けを終えて、二日目以降にダラダラしたり、五反田のとこに遊びに行ったり。

 早い話が、やることがなくなったのだ。

 

(……まあ、IS学園なら、誰かしらいるだろ)

 

 というわけで4カ月使った自分の部屋へと戻り、家から持ちこんだ私物や、逆に持ち帰るものを選び、整理してると、荷物の隙間からパサリ、と何かが落ちた。

 

(ん、このレポート……提出期限が今日までだったっけ)

 

 おっと、一応ことわっておくが、未提出ってだけだ。

 レポート自体に手をつけてない、って訳じゃない。

 勉強教わったとき、葵に散々言われたからな。「課題は早めにやっておけ」って。

 あいつと紅也を見てると、ときどきどっちが兄なのか姉なのか、分からなくなる。

 いや、そもそも双子なんだから、明確な違いは無いんだろうけど。

 

(ま、とりあえず、やることやっとくか)

 

 そう思いなおした俺は、レポートを手に持ち、職員室へと向かった。

 

 

 

 そして、その帰り道。

 部屋に向かってゆっくり廊下を歩いていると、目の前を歩く見慣れたツインテールが。

 

 ――そういや、最近鈴と話してねえな。

 

 そう思った俺は、ちょっとした悪戯心を持って、足音を消して鈴に近づく。

 後ろから肩でも叩いて、驚かしてやろうかと思ったんだが……。

 あと少しで手が届くその距離。そこで、突然鈴が振り返った。

 

 まあ、そりゃばれるか。

 ISが使えるといっても、それを除けば俺はごく普通の一般人。

 それに対して鈴は、こんなナリでも代表候補生だ。

 素人の尾行くらい、簡単に気付くってことか。

 理屈じゃわかるけど、なんか面白くねえな。からかい甲斐がないというか、なんというか。

 

「い、い、一夏!?な、なんでアンタここにいんのよ!へ、部屋じゃないの!?」

 

 あれ、予想外の反応。

 まさか、たまたまUターンしたところに俺がいた、とか?

 いやいや、それこそ有り得ないだろ、確率的に。

 

「いや、レポートの提出忘れてたから。ん?何持ってるんだ?」

 

 話してる最中、俺は鈴が何かを握りしめてる事に気付いた。

 あの形状からいって……レシート?あるいは、福引券とか?

 

「な、なんでもないわよ!」

 

 正体を見極めるため、もう少し良く見ようと顔を近づけると、鈴はそれをさっと背後に隠してしまった。

 うーん……何してんだ、コイツは。

 そう思ったのが伝わっちまったのか、鈴は急に咳払いを始めた。

 ……ホントに何なんだ?

 

「きょ、今日は暑いわね」

「ん?そうか?涼しい方だぞ」

「暑いのよ!この国の夏は昔から!」

「あー、そういやお前昔から暑いのダメだっけ」

 

 そうだった。

 こいつは家に来るたびにクーラーをガンガン効かせて、涼んでたっけ。

 そういや、なんか顔も赤くなってるし……暑いんだろうな。

 

「そんなに暑いなら、俺の部屋でも行くか?エアコンつけるぞ」

 

 この廊下、あんまりエアコン効いてないからな。

 確か、設定温度は28度までだったか?エコはいいけど、人間ガマンは良くないぜ。

 

「ま、まあ、そうね。じゃああんたの部屋に行ってあげる。飲み物出しなさいよ?」

「へいへい。麦茶でいいよな」

「冷たけりゃなんでもいいわよ」

 

 やれやれ。何で無意味に偉そうなんだ、こいつは。

 まあ、それが鈴らしさなんだろうな。

 鈴と二人、並んで部屋まで歩きながら、俺はそんなことを考えた。

 ちなみに、鈴も鈴でなにやら考え事をしてるらしく、急に俺から距離をとったり、腕組みしながら歩いたりと忙しそうだった。

 そうこうしてる間に、部屋の前までたどり着く。

 俺はそこで止まったけど、鈴は気付かずに歩き続ける。

 そのまま放っておいたら、どこまでも歩いていきそうだ。

 

「鈴」

 

 名前を呼ぶも、聞こえてない様子。

 

「鈴?」

 

 今度は近くで名前を呼び、ついでに顔を覗き込む。

 

「なっ、なによ!」

 

 ようやく反応があった。

 

「なによって、部屋ついたぞ。入れよ」

「わ、わかってるわよ、バカ……」

 

 バカ、って。

 俺はまっとうな発言をしただけだけど?

 部屋のドアを開けながら、俺はそんなことを考えた。

 

 

 

 

 

 

 それからしばらく、鈴と昔の話をした。

 一緒に撮った記念写真のこととか、アルバムを見ながらの思い出話とか、後、何故かビンタされた。

 俺、何かしたか?

 あ、それと、明日遊びに行く約束をした。

 なんでも、新しくできたウォーターワールドのチケットが手に入ったらしい。

 その値段、なんと2500円。二枚でディ○ニーランド一回分に相当する。

 まあ、せっかく誘ってくれたから、購入することにした。

 

 ……それにしても、明日か。

 ちょっと急じゃないか?

 

 とにかく、先週家に持って帰ってしまった水着を取ってこようと思い、こうしてIS学園の外へ出ようと思い立ったわけだけど。

 そこで俺は、意外な人物と顔を合わせることになった。

 

「ん?お、セシリア」

 

 その人物とは、イギリスに帰省していたはずのセシリアだった。

 スーツケースを持ってるってことは、残りの休みは日本で過ごすのか?

 それにしても、後ろにある白い車って、セシリアの実家で用意したんだよな。

 見るからに高級そうだ。普段は実感ないけど、ホントにお嬢様なんだな。

 

 俺に気付いたようで、セシリアはぎこちなく振りかえる。

 何ていうか、「ぎぎぎ」って擬音が似合いそうなくらい、不自然に。ゆっくりと。

 

「よっ」

「一夏さん、一週間ぶりですわね。ごきげんよう」

 

 ちょこん、と。

 スカートをつまんで挨拶をするセシリア。その様子も、どこか不自然で……

 ……あ、わかった。きっと、帰ってきて早々に俺と会うとは思わなかったから、驚いてるんだな。

 確かに、今のセシリアはぼーっとしてるし、心の準備が出来てないってのがよくわかる。

 いや、分かるぜ、その気持ち。

 俺だって、予想外の場所で友達(・・)に会ったら、ちょっとは動揺するし。

 まあ、いつまでも無言ってのもダメだな。向こうが緊張してるんだったら、こっちから声かけねえと。

 

「セシリア?」

「――はっ!?」

「大丈夫か?ぼーっとして、もしかして熱射病か?気をつけないとダメだぞ。夏の熱射病は危ないんだ」

「い、いえっ!大丈夫です!その、さっきまで車の中でしたから、すこし立ちくらみをしただけです!」

 

 ……なんでそんなに必死そうなんだ?

 まあ、こっちの方が『いつものセシリア』っぽいな。

 

「そうか。それならよかった」

「ええ、まったくです」

 

 しかし返事をしたのは、セシリアではなかった。

 唐突に響いた、聞いたことのない女性の声。

 シチュエーション的に紅也とのやりとりを連想し、とっさに後ろを振り返った俺が見たのは、やっぱり見たことのない女性だった。

 

「ん?えーと、どちら様でしたっけ」

「お初にお目にかかります。セシリア様にお仕えするメイドで、チェルシー・ブランケットと申します。以後、お見知りおきを」

 

 なんと、本物のメイドさんだ。……って、待てよ。どっかで聞いたことのある名前のような。

 

「ああ!前に一度、セシリアからお話は聞いていましたけど、あなたがそうだったんですか。初めまして、織斑一夏です」

「はい。織斑様。――ときに、ご無礼を承知の上でおたずねしますが、私のことをお嬢様はなんと?」

「ええ。とてもよく気が利く方で、優秀で、優しくて――美人だって言ってました」

「まあ」

 

 にっこりと、柔らかな笑みを浮かべるチェルシーさん。

 そうそう。セシリアにしては珍しく、人のことをベタ褒めだったからな。そのおかげで印象に残ってた。

 ……そのとき、一緒に話を聞いてた紅也が不用意な発言をして、セシリアにぶっ飛ばされたことも含めて、よく覚えてる。

 いや、だって、なあ。女同士って……。何考えてるんだよ、あいつは。

 

「私も織斑様のお話はよくお嬢様から耳にしております」

「へえ、そうなんですか。ちなみに俺のことはなんて言ってました?」

「くすっ。それは……」

 

 言いながら、チェルシーさんはセシリアの方をちらり、と見る。

 つられて俺もそっちに目線だけを向けると、セシリアは動揺MAX、いっぱいいっぱいな感じになっていた。

 それを見て茶目っ気のある笑みを浮かべたチェルシーさんは、ゆっくりと人差し指を自身の唇に持っていき――

 

「女同士の秘密、です」

 

 男女問わず釘付けにするような表情で、そうおっしゃった。

 

 

 

 

 

 

 あの後チェルシーさんは車に乗って去っていき、俺とセシリアは学園内のカフェへと移動していた。

 そこで一緒に話でも……と思ったんだけど、なんだかセシリアの様子がおかしい。

 

「……………」

 

 なんだか、ずっとふてくされた表情で、しかも無言のまま、ひたすらアイス・カフェラテをかき回してる。

 な……何だ?俺、何かしたのか?

 先程までの行動を思い出す。

 ……うーん、特に問題になるような行動はしてないと思うんだけど。

 まあ、いくら鈍感といわれる俺でも、こんな雰囲気は嫌だ。

 気は進まないけど……聞いてみるしかねえよな。

 

「はぁ……」

「いや、あのな?セシリア。どうしてそんなに機嫌が悪いんだ?……も、もしかして、俺のせいか?」

「そうですわ」

「即答かよ……」

 

 思わずうなだれる。

 なんだ?ひょっとして俺が誘ったこと自体が嫌だったとか?

 言われてみると、ここに来てから――いや、来るちょっと前から、セシリアは不機嫌だった。

 それは今でも変わりなく、セシリアは黙ってカフェラテを飲み続けてる。

 

「…………………」

「…………………」

 

 お互いに、気まずい沈黙が続く。

 ……はあ。俺が悪いんだったら、俺がどうにかするしかないよな……。

 所在なさげにポケットにつっこんだ手が、何かに触れる。

 さっき鈴から買ったチケットだ。

 なんでも、俺以外にも買い手がいくらでもいるほど、手に入りにくいチケットだとか。

 ……これだ!

 

「セシリア」

「……はい」

「ここに行かないか?」

「――はい?」

 

 某特命係の警部のような返事が返ってきた。

 うーん、けっこう高かったんだけど、仕方がない。

 俺は当日券を買えばいいだろう。

 念のため、開場1時間くらい前に買いに行くか!




夏休みのテーマパークをナメてはいけない(戒め)

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