IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第79話 世界には、自分そっくりな人が3人いるって言うけどな……

「では、わたくしはここでお別れですわね。葵さん、シャルロットさん、ごきげんよう」

「うん、またね」

「……バイバイ」

 

 空港で、私とシャルロットはセシリアに別れを告げる。

 どうやら、帰還命令が出たのは私たちだけじゃなかったみたい。セシリアもまた帰国すると言ってたから、時間を合わせて一緒に行くことにしたのだ。

 でも、それもここまで。現在時刻は10:30。

 セシリアの乗るイギリス行きの便は、もうすぐ飛び立つ。

 私たちの乗るオーストラリア行きは、その30分後だ。

 

「あーあ、行っちゃったね」

「……うん」

 

 シャルロットと二人。空き時間をもてあまし気味。

 

「葵は、もう紅也には連絡したの?」

「……昨日のうちに」

「そっか。じゃあ、今度は『今、空港』とか送ってみたら?」

「……子供じゃないんだから」

「あ、アハハ……。そうだね。

 でも、そのくらいいいんじゃないかな。……せっかく、兄妹仲がいいんだから」

 

 ……ふう。シャルロットは、なんか誤解してるみたい。

 

「私たちは、深い所で繋がってる。連絡は、昨日の分だけで十分」

「深い所……?それって、いわゆる双子どうしのテレパシーってやつ?」

「……そんな感じ」

 

 本当は、それだけじゃない。

 後天的な遺伝子強化を施された母から生まれた双子。それが私と紅也。

 その精神の結び付きは非常に強く、離れていても互いの気持ちを確認できるほどだ。

 

 でも……何だろう?

 この、胸に感じる、“焦り”の正体は……?

 

 

 

 

 

 

〈side:織斑 一夏〉

 

 夏休み二日目。

 昨日はいろいろ大変だった。

 昼過ぎに箒と一緒に呼び出されたと思ったら、紅椿や白式の登録に関するいろいろな書類を読んだり、署名したり……とにかく疲れた。

 そのせいで、今日は完全に寝坊。

 まあ、休日だからいくら寝ててもいいんだけどさ……。

 

 で、今日。

 とりあえず久々の休日を楽しみたくなった俺は、実家に帰ろうと思って、箒に声でもかけていこうかと思ったわけだけど……。

 

「あれ、箒は留守なのか?」

「う、うん。なんだか、今朝早くに出ていったけど……」

 

 ルームメイトの子(名前は覚えてない、ゴメン……)が言うには、剣道部の朝練が始まるような時間に出ていって、そのまま帰って来なかったらしい。

 簪の言ったように、拉致されたわけじゃないよな?

 まあ、千冬姉が動いてないなら、外出届は出てるんだろうけどさ。

 

「そっか。ありがとな」

「え、う、うん。こっちこそ」

 

 軽く挨拶をして、再び寮の廊下を歩く。

 ……うーん、鈴あたりを誘ってもいいけど、代表候補生って忙しいらしいからな。

 しょうがねぇ、今回は一人で行くか!

 

 

 

 

 

 

 久しぶりに歩く、IS学園の外。

 周りの男女比を見て、改めてここが学園外なのだと実感する。

 基本、IS学園って女子しかいないもんな。例外は俺と紅也だけど、紅也はとうとう戻って来なかったし……。

 あいつ、元気にしてるかな?便りが無いのは元気の証拠、っていうけど。

 ここまで連絡してこないとなると、逆に心配だ。

 まあ、葵は『心配いらない』って言ってたし、だったら大丈夫だろ!

 

 バスに乗り、住み慣れた街を目指す。

 最後に家に戻ったのは、学園に入学する前だった。

 実に4カ月ぶりの帰宅。なんだか、ずいぶんと久しぶりに感じる。

 のろのろ走るバスに揺られること十数分。中学の通学路にあったバス停で降車した俺は、徒歩で自宅へと向かう。

 ……懐かしいな。4カ月前まではここを、五反田と一緒に帰ってたんだな。

 もっと前は、鈴も含めて三人で。

 そういや、あの時から気になってたんだけど、鈴の家って微妙に方向違うんだよな。

 何で、いつも一緒に帰ろうとしてたんだろ?

 ううむ、謎だ。今度聞いてみようかな。

 

 なんてくだらないことを考えていたら、あっという間に家に着いた。

 家の中は無人……千冬姉はまだIS学園にいるから、当たり前だ。

 カバンから鍵を取り出し、少しだけ緊張しながら扉を開ける。

 

 ガチャッ、バタン!

 

 そして、すぐに扉を閉める。

 

 ……間違えた。どうやらここは、俺の家じゃなかったようだ。

 まったく、うっかりしてたぜ。久々に帰ってきたら、家を間違えるなんて。

 そうだよな!

 表札は『織斑』だったけど、織斑なんて名字、俺達だけじゃないし。

 最後に帰って来たのは4カ月も前だから、住所間違えたのかもしれないし。

 鍵だって、家と同じ奴を使ってる家があってもおかしくは……

 

 おかしくは……

 

 ……いや、おかしいだろ!!

 

 ああ、認めよう。

 ここにある『織斑家』は、間違いなく俺の家だ。

 見た目は全然変わってないし、当然住所も合ってる。

 じゃあ、何だ?

 俺は答えを得るために、もう一度玄関を開ける。

 

「何で、こんなに散らかってるんだぁーーーー!!」

 

 記憶のままだったのは、家の外観のみ。

 肝心の中身は、知らないうちに魔窟と化していた。

 まあ、魔窟と言っても、別に結界張ったり悪霊放ったり廊下の一部を異界化させてる訳じゃないけどさ。

 でも室内は、劇的にビフォーアフターされていた。

 ある意味異界。

 

 廊下には、無造作にゴミ袋が3つ。しかも、一枚は穴があいてるせいで、悪臭のオマケ付き。

 台所には、茶碗が一つと大量の小皿。ついでにスチロールトレーが山盛り。

 机の上には、20禁飲料の空き缶……何を思ったか、タワー状に5本重ねてある。

 

 ホント……なにやってるんだ、千冬姉!!

 

 はあ……。これじゃ、今日一日は片付けで潰れるかな。

 文句を言いながらも、俺は片付けを始める。

 ……そういや、燃えるごみの日は昨日だったな。アルミ缶も先週。

 かろうじて、資源ごみの回収だけは間に合いそうだけど……やる気、出ねぇなあ。

 ため息を吐きつつも、俺は実家の清掃を始めるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 4時間後。

 あらかたゴミを片付け、床に掃除機をかけ、ついでに途中で発見した洗濯物類も洗い終えた俺は、ようやく一息つくことができた。

 ああ、これぞ我が家。

 この家の本来の姿は、こうやって掃除が行きとどいた状態だ。

 断じて、千冬姉が作り出した異界ではない。

 つーか、ゴミ箱の裏で変なきのこを見つけたときは、マジで驚いたぞ。

 

 ……っと、話が逸れた。

 家に帰って来たのが11時頃で、それからずっと片付けをしてたわけだから、当然、俺は昼飯を食べてない。

 とりあえず食事だ。あるもので何か作ろう。

 そう思った俺は、冷蔵庫を開く。

 

 ……レタスが腐って、ドロドロになってた。

 

 しまった。

 こっちの片付けを忘れてた。

 いや、それはいい。

 よくは無いんだけど、この際置いておく。

 問題は、食料が一つも無いってこと。

 しょうがない、今日はコンビニ弁当とかで我慢するか。

 家に着いたのはいいけど、全然休めてない気がする。

 

 かくして、俺は再び外を歩く。

 太陽はあいかわらず地球全土に光を送り続けて、大地を温め続けてる。

 まさに、夏の太陽さまさま、って感じだ。

 ちなみに、今のは夏とサマーをかけた洒落だ。シャルあたりがいたら即座につっこんでくれるんだろうけど、あいにく今は留守……らしい。

 なんでも、葵と一緒にオーストラリアに行ったとか。代表候補生も大変だな。

 

 ――と、そんなことを考えてたからだろうか。

 何となく周囲を見ながら歩いていた俺は、見覚えのある青い髪に目を惹かれた。

 簪?

 違う。あれは……葵の髪だ。

 人込みの中に消えたその姿を、俺は思わず追いかけた。

 葵は、決して背が高い方ではない。だからこそ、俺は彼女の姿を見失わないように歩く。

 そして――見つけた。

 

「葵!お前、どうして……」

 

 声に気付き、葵が振り返る。

 肩までかかる長い髪、日系にしては白い肌、紅也と同じ、緑色の瞳、そして――

 

「……あれ?」

 

 違和感を感じた。

 具体的には、その……胸元に。

 目の前にいる葵は、普段と比べて……なんというか、スレンダーな体型だった。

 

「んー、君は……ひょっとして、織斑一夏くんかな?」

「え?は、はい、そうですけど……」

 

 やばい。

 やっぱり、人違いだ。

 恥ずかしさで、顔がかあっと赤くなる。

 それと同時に、俺は葵とそっくりなこの人が何者なのか、考えていた。

 うーん……。やっぱり、葵と似すぎてるような。

 

「……あ、もしかして、紅也と葵のお姉さん……とか?」

「あらあら、嬉しいことを言ってくれるわね」

 

 そう言って、目の前の葵みたいな女性は、手で口元を隠して笑う。

 その、落ち着いた大人のような動作に、思わずくらりときた。

 

「……で、お姉さんはどうしてこんなところに?」

「そうねぇ。キミに会いに来た、って言ったらどうする?」

「えっ!?いや、その……」

 

 再び慌てる俺。その動作を見て女性は満足したのか、「冗談よ」と言って言葉を続ける。

 

「葵に会えるかと思ってここまで来たんだけど……。一夏くん、葵がどこにいるか知ってる?」

「あ、はい。なんでも、今日、オーストラリアに出発したとか。今はもう日本にいないはずです」

「そうなの。ま、キミに会えただけでも幸運だったかな?」

 

 うーん、この人と話してると調子が狂うなぁ。

 こういう人は今まで俺の周りにいなかったから、変な感じだ。

 タイプ的には束さんに近いんだけど、どこか掴みどころがないっていうか。

 

「じゃ、私はもう行くわね。また会いましょ、織斑一夏くん」

 

 バイバーイ!と一方的に手を振り、女性は去っていった。

 そういえば、結局名前を聞かなかったな。今度、葵に聞いてみようか。

 そこまで考えて、俺は先月の事を思い出した。

 

『あ……葵って、国家代表だったのか?スゲーな。代表候補生より上じゃねえか』

『ああ、ただのハッタリよ。これは母さんの身分証』

『そっくりだな……』

 

「……あれ、お姉さんじゃなくて、母親……?」

 

 思い至ったその結論に、俺は愕然として立ちつくすのだった……。

 




(あれ、でもヒメさんは確か今……)

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