IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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見直してみたら、ちょっと最新の設定と矛盾する所があったので、文章を一部修正しました。


第8話 そんなに似てるか?じゃあこうしよう。

〈side:織斑 一夏〉

 

「ブッ……アハハハハハハ!じゃあ何か?一夏ァ、お前は俺が女だと思ってたのか?

ひゃひゃひゃひゃひゃ!あー、腹痛ぇ!!」

「……失礼」

 

 あの後、俺が部屋に来た本当の目的を話すと、紅也と山代は何とも対照的な反応を返してくれた。箒も白い目で見てくるし、最悪だ。

 

「しっかし、そんなに似てるか?オルコットも間違えてたし」

 

「……そっくり」

「私も、かなり似てると思うぞ」

「俺だって、ホントに本気で分からなかった」

《一致率99.7%。ほとんど同一人物だ》

 

 俺を含めた全員がツッコム。自覚がないのか、コイツは。

 

「まあ、意識して似せてたわけじゃないが、……そうだな。確かに不便だ」

 

 そう言うが早いか、紅也は立ち上がる。

 

「え、急にどうしたんだよ」

「ちょっと買い物!悪ぃな、二人とも。今日はここまでにして、また明日話そうぜ」

「ここまで、って……。まだ何も決まってねぇだろ!」

「いいや、私と一夏の特訓は決まったぞ」

「箒!?マジか」

 

 とかやってるうちに、紅也は部屋から出ていった。ドタドタドタ……バアン!と足音が遠ざかっていく。……妙に聞き覚えがある気がするが、最後の音は何だろう?

 後に残されたのは、俺達二人と、この部屋の主である、もう一人の山代。

 

《私もいるぞ》

「……………」

 

 その山代は、こちらをじっと見つめるだけで、何のアクションも起こさない。

 

「あー……俺達、帰った方がいいか?」

 

 俺の問いに、山代はコクリ、とうなずく。

 

「む、では。世話になったな、山代」

 

 今度は箒が話しかけるが、やはりうなずくのみ。……無口な子なのか?

 立ち上がり、どこか気まずい雰囲気を背に受けたまま、ドアの方へと体を向ける。すると唐突に、紅也のベッドに腰かけていた山代が立ち上がる。

 

 そしてひらひらと手を振り。

 

「また、明日」

 

 確かに、そう言った。

 歓迎されてないのかと思ったけど、そうでもなかったみたいだな。

 それだけの言葉でなんだか嬉しくなった俺達も、笑顔で手を振り返すのであった。

 

 

 

 

 

 

〈side:山代 紅也〉

 

「ただいま~っと。待たせたな、葵」

「大丈夫。あんまり待ってない」

「そいつは良かった」

 

 いつもの無口・無表情だが、その顔が嬉しそうだとわかるのは、やはり双子だからだろうか?

 

「あの二人」

「一夏と箒のことか?どうした?」

「悪い人じゃないみたい」

「そっか。……良かったな」

「ともだちに、なれるかな」

 

 ……驚いた。葵の口からそんな言葉が聞けるとは。

 普段は無口で、必要なこと以外は話さない葵。そんなこいつにも、オーストラリアではたくさんの友達が居た。しかし、ここは日本。俺以外、誰も葵を知らない土地。

 ……やはり、さみしいんだろう。

 

「大丈夫。二人とも、友達になってくれるよ」

 

 ポンポン、と葵の頭に触れる。昔から俺とこいつの背丈はあまり変わらないが、俺は葵を撫でるのが好きで、葵もそうされるのが好きだった。

 

「―――うん」

 

 嬉しそうに見えた表情を、完全に笑顔に変化させ、彼女はそう言った。

 

「……で、それ。何?」

「ん、コレか?これはな……」

 

 

 

 

 

 

 翌日。時刻は朝7時。

 やはり葵はもういない。ベッドは几帳面に片付けられ、最初から誰もいなかったかのようだ。

 今日の散歩は止めておこう。アレをしてたら、おそらく時間が足りなくなる。

 誰もいないことを確認し、部屋の鍵をかけてからシャワーを浴びる。

 ふと、鏡の中の自分と目があった。

 

『意識して似せてたわけじゃないが……』

 

 一夏と箒に言った言葉。あれは嘘だ。

 俺は昔から――織斑一夏という存在が表舞台に現れる前から――モルゲンレーテに所属し、レッドフレームのテストパイロットをしていた。

 

 

 

 

 

 

 レッドフレーム―――

 オーストラリアの国営企業、モルゲンレーテ。そこでは日夜、最新製品の開発が行われている。衣類から建築、自動車、果ては―――兵器まで。

 モルゲンレーテが、オーストラリアのIS開発を請け負ったのは、当然の流れだった。

 そこで設計されたのが、第二世代の汎用的全身装甲型IS、メイン・バトル・フィギュア。

 しかし、各国が第三世代機を求める中、モルゲンレーテは出遅れていた。そこで取った作戦が、他企業との連携である。彼らはその技術力を背景に、時には金で、時には脅しで、次々と協力を取り付けていった。

 ある日。アメリカの大企業、「ノース・グランダー・インダストリー(N.G.I)」から、共同開発の提案が持ちかけられる。願ってもなかったチャンスに、モルゲンレーテは飛びついた。

 通称「GAT計画」――携行型ビーム兵器を搭載した、特殊素材性全身装甲を持つISを開発するための計画であった。

 

 新たな理論で生み出された、最新式のビーム兵器。まだどこも開発に成功していないそれを、すでにN.G.Iは完成させていた。その技術は徹底的に秘匿され、どこにも―協力者であるはずのモルゲンレーテにすら―公表されなかった。

 ならば、なぜ共同開発など持ちかけたのか?

 ……彼らの狙いは、モルゲンレーテの技術者と、全身装甲型の運用ノウハウであった。N.G.Iは、圧倒的な資金力を背景に技術者たちを買収した。『円滑な技術の交換のため、技術者の移動は自由とする』という、契約文の一つが仇となった。

 相手の人材を奪ってやろう、という考えがありありとうかがえる一文。―――モルゲンレーテは、N.G.Iの資金力をナメていたのだ。

 自分たちが得意としていた手法で、自分の首が締められる。なんという皮肉だろうか。

 

 しかし、モルゲンレーテもただでは転ばない。スパイを放ち、金をばらまき、なんとか情報を得ようとする。そしてようやく、その努力は報われた。

 ビーム発信器。工作員の一人が、そのデータの持ち出しに成功したのだ。

 モルゲンレーテは、それを元手にビーム兵器の開発を始める。同時に、性能試験のための運用機には、メイン・バトル・フィギュアが選ばれる。ビーム兵器運用のため、設計が見直され、再制作されたその機体。N.G.Iから盗まれた技術で作られた、歴史の陰に存在するIS。王道から逸れた者―――その名は、ASTRAY。

 

 その試作機として、異なる設計コンセプトの元で、数機のプロトタイプが制作された。そのうちの2号機が、現在の紅也の乗機、レッドフレームである。

 

 

 さて、こうして生まれたレッドフレームであったが、一つの問題があった。

 レッドフレームは、表向きは量産機のプロトタイプであったが、その実態は、特定の人物にしか動かせない機体であったのだ。それが、あるモルゲンレーテの協力技術者の弟子――山代紅也(男)であった。

 「レッドフレーム」というISを動かせる彼の存在が明らかになったら、どうなるか―――。紅也とレッドフレームはN.G.Iに奪われ、今度こそモルゲンレーテは全てを失うだろう。

 そうした事態を予見した彼らは、開発開始と同時に紅也の隠蔽を行った。N.G.Iとの協力関係を破棄し、紅也と葵の存在は秘匿された。両親は共にモルゲンレーテ社員であったため、説得は容易だったと聞いている。

 それでも、レッドフレームまでは隠せない。そこで、全ASTRAYは第二世代機として公表され、その完成披露が行われることになった。

 

 その前日、葵は、長かった自分の髪を、紅也と同じ長さまで切り落とした。

 「これで、バレても大丈夫」そう、言って。

 こうして、完成披露は無事に行われた。表向きの操縦者は、山代葵ただ一人。しかし……

 

 

 

 

 

 

 世界初の男性IS操縦者、織斑一夏が現れたのは、それからしばらくした後だ。

 俺は隠れる必要がなくなり、こうして表舞台へと出てきた。

 同時にレッドフレームも、本来の第三世代武装を解禁される。これは、もう一つの事件がきっかけなのだが……まあ、機会があれば語ろう。

 

(もう、似せる必要は無い……。もう、葵も、俺になる必要なんて、無い……)

 

 鏡に映った、俺であり葵でもある顔に、笑顔を向ける。

 もう、コイツは、必要無い。

 

「……じゃあな」

 

 鏡に背を向ける。少し名残惜しい気もしたが、その感傷も水滴と共に振り払う。

 さて、今日からが、俺の本当の高校生活だ。

 

 

 

 

 

 

「おっはよう!」

 

 先程までのブルーな気分を振り払うように、わざと大声で挨拶する。

 俺の姿に気付いた奴らがこちらを見て……その目線が固まった。

 

「ん?無視された。……俺、嫌われてたっけ?」

 

 入り口の近くにいた女子に話しかける。その子は「アハハ……」と乾いた笑いをもらし、目線をそらした。

 

「なんだよ、何なんですかァ、一体」

「………そのセリフ、そっくりお前に返すよ」

 

 最初に話しかけてきたのは、やはりというか、一夏だった。

 俺の中では、「ボケなのかツッコミなのか、判断に困る人物ランキング」でぶっちぎりの第一位の男である。

 

「……何か、すげえ不愉快なことを思われた気がするんだが」

「そうでもないぞ。で、なんであんなことを言ったんだ?」

「胸に手を当てて……いや、鏡を見て考えろ!!どうしたんだ、その髪!!」

 

 周りの女子も、「うんうん」とでも言うかのように、一斉にうなずく。

 ―――俺の髪は、燃えるような赤い色に染まっていた。

 

「どうしたって言われても……イメチェンだけど?」

「イメチェン?なにかあったのか?」

 

 ……一夏ァ。

 

「テメェが!妙な!勘違いを!するから!だろうがッ!!」

 

 右。左。右。蹴り。アッパーで怒涛の連撃。……もちろん、じゃれあいレベルまで手加減してるぜ?

 

「………ああ!」

「何『今ようやく思い出しました』って顔してんだよ!

ったく……。これで、ややこしいことにはならねぇだろ」

 

 そう言って自分の席へ……は行かず、そのままアイツのところへ向かう。

 

「……セシリア・オルコット」

「な、何でしょう?」

 

 いきなり話しかけたからか、それともこの髪のせいか、キョドるオルコット。面白いからもう少し続けたいが、ここは真面目な話だ。ガマンしろ、俺。

 

「俺は山代 紅也だ。葵じゃない。

 これだけははっきりさせておくぜ。もしお前が、葵へのリベンジのつもりで俺と戦うつもりなら、俺はどんなメリットがあっても戦わない。俺は一人のIS操縦者として、お前と戦うつもりだ。

葵と戦いたいなら、葵に挑めばいい。でもな、俺と戦う気があるなら……」

 

 互いのプライドを賭けて、全力で勝負だ。

 俺は葵の影じゃないし、葵も俺の影じゃない。俺達は限りなく近くとも……別々の人間なのだから。

 




これで名実共に「紅」になりましたね。

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