IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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男装騒動は、ひとまずこれで決着です。


第7話 織斑の鳴くころに~種明かし編~

 放課後、アリーナにて。

 

「さて、ここにありますは2機の練習機。

 向かって右がラファール・リヴァイブ。デュノア社が開発した射撃型第二世代機。

 左は、打鉄。日本が開発した、接近戦型第二世代機だ。……さて、一夏。お前の機体はどんな機体だ?」

 

 芝居がかった口調、大げさな動作。似合わないのは自覚してるが、やってみたくなったのだ。

 

「俺の機体の名前は白式。まだ完成してないから現物はないけど、武器は近接ブレード一本。完全な接近戦型だって」

「ブレオンか……それに“白式”とは……。男心をくすぐられる機体だな」

「そういうものなのか?」

 

 上から一夏、俺、篠ノ之。現在アリーナにいるのは、この三名だけだ。

 

「じゃあ、お前が使うべきは、この打鉄だ。早速装着してみろ」

「あ、ああ……。やってみる」

 

 一夏は、打鉄に体を預ける。すると、機体が体を包み込んでいき―――装着された。

 

(……本当にISが使えるんだな)

 

 今まで話には聞いていたが、実際に見てみると妙な感慨がわき起こる。

 この世界ではあり得ない光景。ISを装着できる男。安定期に入りつつある世界の流れを変えた、湖面に投げ込まれた巨石。

 それが、織斑一夏という少年なのだ。

 

「じゃあ、俺も行くぜ。……8!」

《合点承知!レッドフレーム、展開!》

 

 俺の持つ8が光に包まれ、俺の体に纏わりつく。

 同時に脳に膨大な量のデータが流し込まれていくような感覚。そして高揚感。

 

《レッドフレーム、展開完了》

 

 8のディスプレイ上の文字が、脳に直接知覚される。久々の展開だったが、何一つ不具合は無い。

 

「ふ……全身装甲(フルスキン)……」

「カッコイイだろ?特に顔とか」

 

 親指で、自身の顔を指さす。俺と同じ緑色のデュアルアイに、真っ赤なVアンテナ。それらが白いフェイスをド派手に彩る。装甲色は白と赤のツートンで、胴体部分のみ黒を基調としている。そして、この機体の最大の特徴は―――

 

「その腰にあるのは……日本刀か!」

「ああ!銘はガーベラ・ストレート!こいつに切れないものはないぜ!!」

 

 鞘から抜き放つ。その刀身は、光を浴びて輝いた。

 この刀は、師匠がかつて名のある刀工に弟子入りし、一から作り上げたものだ。

 こいつに切れねぇモンはねぇ!とは師匠の弁。実際にビームを切り裂いたときは、正直驚いた。

 

「なんて……なんて美しい刀だ」

「ありがとよ、篠ノ之。……さて、おしゃべりはここまでだ。空へ上がるぞ、一夏!」

 

 背部のフライトユニットに点火する。これは元々M1用の装備だが、当然そのプロトタイプであるレッドフレームにも互換性がある。俺はこれをさらに改造して、プロペラントタンクを二基追加したため、飛行可能時間は従来の倍以上。しかも、全ての燃料を一気に燃やせば、超高速移動も可能となる優れものだ。

 

「ま、待て!飛ぶっていっても、どうすりゃいいか……」

「エレベーターに乗ってるときを思い出せ!あの浮遊感!

それから、ジェットコースターに乗ってるイメージだ!そうすりゃ飛べる」

「お、おう。……おお、浮いた!浮いてるぜ!!」

 

 文字通り浮かれる一夏。だが、本番はここからだ。

 

「よし、じゃあ次は武装の展開だ!手の中に刀を出現させるイメージで、いくぞ!」

「いや、そんなの、急には思い浮かばな……」

「じゃあ、篠ノ之を思い浮かべろ!」

「……おお、すぐに出てきた!!」

「ちょっと待て!山代、一夏、どういうことだ!」

 

「「いや、すぐに木刀を持ちだすから……」」

 

「……降りてきたら覚えてろよ」

 

 ハイパーセンサーはすごいな。睨む篠ノ之の目まで、はっきり見える。

 

《怒》

(……いや、8。見ればわかる)

 

「じゃあ、いよいよ模擬戦だ。……ついて来れるか?」

「おう、やってやるぜ!!」

 

 互いに刀を、正眼に構える。いざ、戦闘……開始!!

 

 

 

 

 

 

「……なにか言い訳は?」

「……………」

「「一夏!!」」

 

 結論を言おう。互いに正面から刀をぶつけ、続いて放った俺の胴への一太刀は、あっさりとシールドエネルギーを奪い去った。

 

 やったぜ、いえーい。

 

・一夏30秒撃破

・一夏ノーダメージ勝利

・一夏孤独戦闘勝利

 

 を同時に習得だ。

 

「これは……IS以前の問題なんじゃないか?」

「奇遇だな。私も同じ意見だ」

「……………ゴメンナサイ」

 

「なあ、篠ノ之。お前の話では、一夏はお前と同門なんだよな?」

「……箒でいい。少なくとも、私が転校した小学四年生までは続けていた。

一夏。どうしてここまで弱くなっている!?」

「受験勉強してたから、かな?」

「……中学では何部に所属していた」

「帰宅部。三年連続皆勤賞だ」

「で、本当のところは?」

「……………」

 

 まあいいや。どうせ、なにか事情があったんだろう。

 

「じゃ、せっかくアリーナ借りたんだから、今日はISの訓練をやろう。

箒もラファールを使えよ。飛ぶだけなら、そんなに変わらんだろ」

「お、おう……」「ああ」

 

 その後俺達は飛行、降下、回避などの基礎訓練を、使用時間ぎりぎりまで続けていた。

 

 

 

 

 

 

 ISの訓練を切り上げた俺達は、剣道場に集まっていた。

 

「すみませんね、無理言ってしまって」

「そんなに気にしないで、山代くん。私たちも、もう練習止める時間だから。

それに、キミたちの実力も、見てみたいしね~」

 

 俺は剣道部の人に頼んで、部活動終了後の剣道場を借りることにした。

 理由はいわずもがな、一夏の強化である。現在、防具を装備した一夏と箒が、竹刀を構えて相対している。

 

「では、いざ尋常に~勝負!」

 

 審判役の女子が、どこぞの奇策師みたいな合図をすると、二人が動き出す。

 互いに竹刀の先端を軽くぶつけ合い、様子見をする。時折、箒の竹刀が一夏の竹刀を横にいなし、ペースを崩そうとする。だんだんと一夏の竹刀のブレが大きくなっていき……

 突然。竹刀を寝かせた一夏が走り出す。明らかな胴狙いだ。

 

「やぁぁぁ!どー……「めーーーん!!」」

 

 バシン!

 

「面、一本!勝者、篠ノ之 箒!」

 

 後の先を取って、鮮やかに一閃。両者の実力差は明らかだった。

 

「織斑くんてさあ」

「結構弱い?」

「ISほんとに動かせるのかなー」

「いや、最後のは関係ないと思いますよ、先輩」

 

「やはり……だいぶ弱くなったな」

「ああ……。残念ながら、そうみたいだ」

 

 一夏は、かなり悔しそうだ。多分、昔は箒の方が弱かったんだろう。

 しかし、希望はある。一夏の目には、やる気が宿っているように見える。今の敗北が、いい刺激になったんだろう。……こういう奴は、必ず強くなる。

 

「よし、じゃあ、明日からは特訓だ!修行編に突入するぞ!」

「うむ、私も賛成だ。これから毎日、放課後三時間、私が稽古をつけてやる!」

「ちょ、なんで二人ともそんなにやる気なんだよ!というか三時間って……」

 

 どうやら、一夏もやる気になったようだ。「なってないからな!?地の文ねつ造するなよ!」

 

「よし、じゃあ、今日はここまでにしようぜ。剣道部のみなさん、ありがとうございました!」

「いえいえ~」

「また来てね~、織斑くん、山代くん」

「両手に薔薇。篠ノ之さんずるい」

「また明日ね~」

 

 皆さん、良い人たちだった。嫌な顔一つせず、俺達の特訓に付き合ってくれた。

 

「ここまでされて、期待に応えられなかったら男じゃないぜ、一夏!」

「そ、それもそうだな。―――よし、やろう」

「うむ、その意気だ」

「じゃ、そうと決まれば作戦会議だ。俺の部屋とおまえたちの部屋、どっちにする?」

 

 

 

 

 

 

〈side:織斑 一夏〉

 

 ……あれ、これってもしかしてチャンスじゃないか?

 半分忘れてたけど、これで紅也の正体がわかる。

 

「では、わたs「じゃ、じゃあそっちの部屋に行かせてもらうぜ。」……一夏」

「ああ、分かった。俺の部屋は1017室だから、また後でな!」

 

 紅也は手を振りながら去っていく。その姿が完全に見えなくなったところで、箒は話しかけてきた。

 

「一夏。どうしたんだ?私たちの部屋のほうが楽だろう」

 

 ぐっ……なんでそんなにケンカ腰なんだよ。正直心臓に悪い。

 

「いや、その、あれだ。他の奴の部屋ってどうなってるのか、気になってな」

 

 うん、嘘は言ってない。気になっているのは別のことだが。

 

「……そうか。なら、いい。しかし……紅也のルームメイトに迷惑をかけるなよ」

「あ、そういうことか」

 

 すっかり失念していた。俺と箒が同室なように、あいつだって女子と一緒に住んでるんだろう。多分。

 

「まあ、あいつもいいって言ってたし、そこまで騒がなければ大丈夫だろ」

「そういうことを言ってるのではない!……ハア」

 

 なぜかため息をつく箒。幸せが逃げるぜ?

 ……しかし、紅也のルームメイト、どんな奴なんだろうか?

 

 

 

 

 

 

「紅也、いるか?」

「ああ、お前らか。開いてるぜ」

「おじゃましまーす、と」

「失礼する」

 

 入って早速だが、部屋を見渡す。ハンガーには、さっきまで着ていたであろう制服と、かつて制服だったはずのものがかかっていた。

 床には、開封済みのダンボールと、未開封のダンボールが一つずつ。荷物の整理中だったのだろうか?

 

「悪いな、まだ片付いてなくてよ」

 

 キョロキョロしていた俺を見たのか、紅也が苦笑している。

 

「そんなことは無いと思うぞ」

「ありがとな、箒。二人とも、座ったらどうだ?隣のベッドが空いてるからな」

《まあ、楽にしろ》

 

 紅也と8に勧められるがままに、俺達はベッドに腰掛ける。見たところ、使用された形跡のない、完全な空きベッドだった。

 

「しかし、いいのか?お前も、誰かと同室なのだろう?悪い気がするが……」

「ああ、あいつはそんなこと気にしねぇよ。だから大丈夫だ」

「へぇ……」

 

 とりあえず、これでルームメイトがいることは確定だ。

 

「じゃ、本題に入ろうか。明日からの練習だが……一夏、基礎体力は十分か?」

「お、おう。もちろん」

 

 人並みにはあると思う。

 

「じゃあ、篠ノ之との稽古は三時間でいいな」

「うむ」

「待てぇい!『うむ』じゃねぇよ!長いっつうの!!」

《一夏、努力に勝る王道なし、だ!》

 

 8にまでダメ出しされる始末。というかコイツ、本当に機械(メカ)か?

 

「ついでに、空いてる時間に、私にあの技を教えてほしい」

「空破斬のことか?別にいいけど、一朝一夕で身につく技じゃないぜ?」

「空破斬?なんだ、その名前!?箒、紅也、一体朝に何があったんだよ!?」

 

 ホントに気になる。二人とも、気が付いたら意気投合してるし。

 ……と、主に俺がヒートアップしていると、

 

 その瞬間は、唐突にやってきた。

 

 

 ガチャリ、と鍵を開ける音。ドアが開くと、そこにいたのは―――

 

 女子の制服に身を包んだ、山代 紅也だった。

 

「―――誰?」

 

 少女は問いかける。しかし、箒も俺も動けない。

 予想外の邂逅に、場が止まったかと思われたが。

 

「おう、お帰り。なんだ、思ったより早かったな」

 

 雰囲気を変えたのは、やはり紅也(男)だった。

 

「今日は短いの。それより……誰?」

「ああ、こいつらか?この二人は――」

《世界で唯一ISを動かせる男、織斑一夏と、そのルームメイトの篠ノ之箒だ》

「……って、8!俺のセリフを―――」

「そう。ありがと、8。で、何故?」

「何故って、今度クラス代表を決めることになってな。それで、一夏が代表候補生と試合するんだ。その作戦会議」

「……紅也がやればいい」

「俺は忙しーの」

 

 俺達をおいてけぼりにしながら話す二人。意を決して、俺は口を開いた。

 

「で……君は、誰なの?名前は?」

「…………」

 

 少女は、紅也のほうをチラ、と見た。

 

「自己紹介しなさい」

 

 再び俺達を見る。その瞳は、あの夜見たのと同じ、吸い込まれるような緑で―――

 

「山代 葵。紅也の、双子の妹です」

 

 今ここに、謎は解けたのであった………。

 




というわけで、オリ主は二人いたのでした!ちゃんちゃん。
明日も3話投稿の予定です。

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