放課後、アリーナにて。
「さて、ここにありますは2機の練習機。
向かって右がラファール・リヴァイブ。デュノア社が開発した射撃型第二世代機。
左は、打鉄。日本が開発した、接近戦型第二世代機だ。……さて、一夏。お前の機体はどんな機体だ?」
芝居がかった口調、大げさな動作。似合わないのは自覚してるが、やってみたくなったのだ。
「俺の機体の名前は白式。まだ完成してないから現物はないけど、武器は近接ブレード一本。完全な接近戦型だって」
「ブレオンか……それに“白式”とは……。男心をくすぐられる機体だな」
「そういうものなのか?」
上から一夏、俺、篠ノ之。現在アリーナにいるのは、この三名だけだ。
「じゃあ、お前が使うべきは、この打鉄だ。早速装着してみろ」
「あ、ああ……。やってみる」
一夏は、打鉄に体を預ける。すると、機体が体を包み込んでいき―――装着された。
(……本当にISが使えるんだな)
今まで話には聞いていたが、実際に見てみると妙な感慨がわき起こる。
この世界ではあり得ない光景。ISを装着できる男。安定期に入りつつある世界の流れを変えた、湖面に投げ込まれた巨石。
それが、織斑一夏という少年なのだ。
「じゃあ、俺も行くぜ。……8!」
《合点承知!レッドフレーム、展開!》
俺の持つ8が光に包まれ、俺の体に纏わりつく。
同時に脳に膨大な量のデータが流し込まれていくような感覚。そして高揚感。
《レッドフレーム、展開完了》
8のディスプレイ上の文字が、脳に直接知覚される。久々の展開だったが、何一つ不具合は無い。
「ふ……全身装甲(フルスキン)……」
「カッコイイだろ?特に顔とか」
親指で、自身の顔を指さす。俺と同じ緑色のデュアルアイに、真っ赤なVアンテナ。それらが白いフェイスをド派手に彩る。装甲色は白と赤のツートンで、胴体部分のみ黒を基調としている。そして、この機体の最大の特徴は―――
「その腰にあるのは……日本刀か!」
「ああ!銘はガーベラ・ストレート!こいつに切れないものはないぜ!!」
鞘から抜き放つ。その刀身は、光を浴びて輝いた。
この刀は、師匠がかつて名のある刀工に弟子入りし、一から作り上げたものだ。
こいつに切れねぇモンはねぇ!とは師匠の弁。実際にビームを切り裂いたときは、正直驚いた。
「なんて……なんて美しい刀だ」
「ありがとよ、篠ノ之。……さて、おしゃべりはここまでだ。空へ上がるぞ、一夏!」
背部のフライトユニットに点火する。これは元々M1用の装備だが、当然そのプロトタイプであるレッドフレームにも互換性がある。俺はこれをさらに改造して、プロペラントタンクを二基追加したため、飛行可能時間は従来の倍以上。しかも、全ての燃料を一気に燃やせば、超高速移動も可能となる優れものだ。
「ま、待て!飛ぶっていっても、どうすりゃいいか……」
「エレベーターに乗ってるときを思い出せ!あの浮遊感!
それから、ジェットコースターに乗ってるイメージだ!そうすりゃ飛べる」
「お、おう。……おお、浮いた!浮いてるぜ!!」
文字通り浮かれる一夏。だが、本番はここからだ。
「よし、じゃあ次は武装の展開だ!手の中に刀を出現させるイメージで、いくぞ!」
「いや、そんなの、急には思い浮かばな……」
「じゃあ、篠ノ之を思い浮かべろ!」
「……おお、すぐに出てきた!!」
「ちょっと待て!山代、一夏、どういうことだ!」
「「いや、すぐに木刀を持ちだすから……」」
「……降りてきたら覚えてろよ」
ハイパーセンサーはすごいな。睨む篠ノ之の目まで、はっきり見える。
《怒》
(……いや、8。見ればわかる)
「じゃあ、いよいよ模擬戦だ。……ついて来れるか?」
「おう、やってやるぜ!!」
互いに刀を、正眼に構える。いざ、戦闘……開始!!
◆
「……なにか言い訳は?」
「……………」
「「一夏!!」」
結論を言おう。互いに正面から刀をぶつけ、続いて放った俺の胴への一太刀は、あっさりとシールドエネルギーを奪い去った。
やったぜ、いえーい。
・一夏30秒撃破
・一夏ノーダメージ勝利
・一夏孤独戦闘勝利
を同時に習得だ。
「これは……IS以前の問題なんじゃないか?」
「奇遇だな。私も同じ意見だ」
「……………ゴメンナサイ」
「なあ、篠ノ之。お前の話では、一夏はお前と同門なんだよな?」
「……箒でいい。少なくとも、私が転校した小学四年生までは続けていた。
一夏。どうしてここまで弱くなっている!?」
「受験勉強してたから、かな?」
「……中学では何部に所属していた」
「帰宅部。三年連続皆勤賞だ」
「で、本当のところは?」
「……………」
まあいいや。どうせ、なにか事情があったんだろう。
「じゃ、せっかくアリーナ借りたんだから、今日はISの訓練をやろう。
箒もラファールを使えよ。飛ぶだけなら、そんなに変わらんだろ」
「お、おう……」「ああ」
その後俺達は飛行、降下、回避などの基礎訓練を、使用時間ぎりぎりまで続けていた。
◆
ISの訓練を切り上げた俺達は、剣道場に集まっていた。
「すみませんね、無理言ってしまって」
「そんなに気にしないで、山代くん。私たちも、もう練習止める時間だから。
それに、キミたちの実力も、見てみたいしね~」
俺は剣道部の人に頼んで、部活動終了後の剣道場を借りることにした。
理由はいわずもがな、一夏の強化である。現在、防具を装備した一夏と箒が、竹刀を構えて相対している。
「では、いざ尋常に~勝負!」
審判役の女子が、どこぞの奇策師みたいな合図をすると、二人が動き出す。
互いに竹刀の先端を軽くぶつけ合い、様子見をする。時折、箒の竹刀が一夏の竹刀を横にいなし、ペースを崩そうとする。だんだんと一夏の竹刀のブレが大きくなっていき……
突然。竹刀を寝かせた一夏が走り出す。明らかな胴狙いだ。
「やぁぁぁ!どー……「めーーーん!!」」
バシン!
「面、一本!勝者、篠ノ之 箒!」
後の先を取って、鮮やかに一閃。両者の実力差は明らかだった。
「織斑くんてさあ」
「結構弱い?」
「ISほんとに動かせるのかなー」
「いや、最後のは関係ないと思いますよ、先輩」
「やはり……だいぶ弱くなったな」
「ああ……。残念ながら、そうみたいだ」
一夏は、かなり悔しそうだ。多分、昔は箒の方が弱かったんだろう。
しかし、希望はある。一夏の目には、やる気が宿っているように見える。今の敗北が、いい刺激になったんだろう。……こういう奴は、必ず強くなる。
「よし、じゃあ、明日からは特訓だ!修行編に突入するぞ!」
「うむ、私も賛成だ。これから毎日、放課後三時間、私が稽古をつけてやる!」
「ちょ、なんで二人ともそんなにやる気なんだよ!というか三時間って……」
どうやら、一夏もやる気になったようだ。「なってないからな!?地の文ねつ造するなよ!」
「よし、じゃあ、今日はここまでにしようぜ。剣道部のみなさん、ありがとうございました!」
「いえいえ~」
「また来てね~、織斑くん、山代くん」
「両手に薔薇。篠ノ之さんずるい」
「また明日ね~」
皆さん、良い人たちだった。嫌な顔一つせず、俺達の特訓に付き合ってくれた。
「ここまでされて、期待に応えられなかったら男じゃないぜ、一夏!」
「そ、それもそうだな。―――よし、やろう」
「うむ、その意気だ」
「じゃ、そうと決まれば作戦会議だ。俺の部屋とおまえたちの部屋、どっちにする?」
◆
〈side:織斑 一夏〉
……あれ、これってもしかしてチャンスじゃないか?
半分忘れてたけど、これで紅也の正体がわかる。
「では、わたs「じゃ、じゃあそっちの部屋に行かせてもらうぜ。」……一夏」
「ああ、分かった。俺の部屋は1017室だから、また後でな!」
紅也は手を振りながら去っていく。その姿が完全に見えなくなったところで、箒は話しかけてきた。
「一夏。どうしたんだ?私たちの部屋のほうが楽だろう」
ぐっ……なんでそんなにケンカ腰なんだよ。正直心臓に悪い。
「いや、その、あれだ。他の奴の部屋ってどうなってるのか、気になってな」
うん、嘘は言ってない。気になっているのは別のことだが。
「……そうか。なら、いい。しかし……紅也のルームメイトに迷惑をかけるなよ」
「あ、そういうことか」
すっかり失念していた。俺と箒が同室なように、あいつだって女子と一緒に住んでるんだろう。多分。
「まあ、あいつもいいって言ってたし、そこまで騒がなければ大丈夫だろ」
「そういうことを言ってるのではない!……ハア」
なぜかため息をつく箒。幸せが逃げるぜ?
……しかし、紅也のルームメイト、どんな奴なんだろうか?
◆
「紅也、いるか?」
「ああ、お前らか。開いてるぜ」
「おじゃましまーす、と」
「失礼する」
入って早速だが、部屋を見渡す。ハンガーには、さっきまで着ていたであろう制服と、かつて制服だったはずのものがかかっていた。
床には、開封済みのダンボールと、未開封のダンボールが一つずつ。荷物の整理中だったのだろうか?
「悪いな、まだ片付いてなくてよ」
キョロキョロしていた俺を見たのか、紅也が苦笑している。
「そんなことは無いと思うぞ」
「ありがとな、箒。二人とも、座ったらどうだ?隣のベッドが空いてるからな」
《まあ、楽にしろ》
紅也と8に勧められるがままに、俺達はベッドに腰掛ける。見たところ、使用された形跡のない、完全な空きベッドだった。
「しかし、いいのか?お前も、誰かと同室なのだろう?悪い気がするが……」
「ああ、あいつはそんなこと気にしねぇよ。だから大丈夫だ」
「へぇ……」
とりあえず、これでルームメイトがいることは確定だ。
「じゃ、本題に入ろうか。明日からの練習だが……一夏、基礎体力は十分か?」
「お、おう。もちろん」
人並みにはあると思う。
「じゃあ、篠ノ之との稽古は三時間でいいな」
「うむ」
「待てぇい!『うむ』じゃねぇよ!長いっつうの!!」
《一夏、努力に勝る王道なし、だ!》
8にまでダメ出しされる始末。というかコイツ、本当に機械(メカ)か?
「ついでに、空いてる時間に、私にあの技を教えてほしい」
「空破斬のことか?別にいいけど、一朝一夕で身につく技じゃないぜ?」
「空破斬?なんだ、その名前!?箒、紅也、一体朝に何があったんだよ!?」
ホントに気になる。二人とも、気が付いたら意気投合してるし。
……と、主に俺がヒートアップしていると、
その瞬間は、唐突にやってきた。
ガチャリ、と鍵を開ける音。ドアが開くと、そこにいたのは―――
女子の制服に身を包んだ、山代 紅也だった。
「―――誰?」
少女は問いかける。しかし、箒も俺も動けない。
予想外の邂逅に、場が止まったかと思われたが。
「おう、お帰り。なんだ、思ったより早かったな」
雰囲気を変えたのは、やはり紅也(男)だった。
「今日は短いの。それより……誰?」
「ああ、こいつらか?この二人は――」
《世界で唯一ISを動かせる男、織斑一夏と、そのルームメイトの篠ノ之箒だ》
「……って、8!俺のセリフを―――」
「そう。ありがと、8。で、何故?」
「何故って、今度クラス代表を決めることになってな。それで、一夏が代表候補生と試合するんだ。その作戦会議」
「……紅也がやればいい」
「俺は忙しーの」
俺達をおいてけぼりにしながら話す二人。意を決して、俺は口を開いた。
「で……君は、誰なの?名前は?」
「…………」
少女は、紅也のほうをチラ、と見た。
「自己紹介しなさい」
再び俺達を見る。その瞳は、あの夜見たのと同じ、吸い込まれるような緑で―――
「山代 葵。紅也の、双子の妹です」
今ここに、謎は解けたのであった………。
というわけで、オリ主は二人いたのでした!ちゃんちゃん。
明日も3話投稿の予定です。