――ジンのトライアルから半年後。
あの後、葵がチューンしたジンは研究のためにN.G.Iに接収され、葵自身もテストパイロットを解任された。
そこで葵はモルゲンレーテに再び異動し、メイン・バトル・フィギュアのテストパイロットに任命された。
そして、二ヶ月前……。
忘れもしない、あの大事件が起こった。
――N.G.Iとモルゲンレーテの、協力関係の破棄。
多くの技術者は引き抜かれ、技術のほとんどは手に入れられず……。モルゲンレーテは、設立以来初めての大敗北を喫したのであった……。
◆
「元々は遥かなる大宇宙を探索するために作られたマルチフォーム・スーツである、インフィニット・ストラトス。白騎士事件をきっかけに世界中に広まったそれは、当初こそ本来の用途で研究されていましたが、やがてIS開発を巡る状況は一変しました」
ラジオ越しに、そんな演説が聞こえてくる。
「宇宙開発のために開発していた初期のIS、通称「type-00」を狙ったテロ事件。多くの宇宙開発関係者を巻き込んだその事件を契機に、ISは宇宙から遠ざかっていきました……」
フリーウェイを疾走する車の窓からは、冬化粧を始めたカリフォルニアの街並みが見える。
これで空が見えたら最高なんだけどな……。あいにく、厚い雲が空への道を閉ざしている。
「……しかし、それは結果として更なるIS開発を促し、
車がフリーウェイを下りる。制限速度の上限が下がるが、気にせず今の速度をキープ。
幸い、道に雪は積もっておらず、こんな車でもスリップせずに済んでいる。
「あの未曾有のテロから10年……。我らアメリカのIS開発は、転換期を迎えました。
……そう、新たなる第三世代機の開発に成功したのです!」
やがて、基地の入り口が見えてくる。
頑丈そうなゲートの前には、銃を持った警備員が二人。
車が彼らに近づくと、彼らは手に持つ銃を下げ、ゲートを開く。
「この事件で犠牲となった彼ら、彼女らに対し、冥福を祈りましょう。マリア・キッドマン、クラウス・E・ヒエムロス、ロバーク・スタッド、クロウ・スタンピード、ニコラス……」
警備員が敬礼し、車が中に入っていく。
しかし、車は定められた駐車場へは向かわず、敷地の奥……IS研究所へと向かっていく。
「では、紹介しましょう!ノース・グランダー・インダストリーが開発した、最新鋭の全身装甲型IS……「デュエル」の登場です!」
目的地に到着した。
ラジオを切り、コートを着込む。
後部座席に乗せてあった8を掴み、車を降りる。
瞬間。
冷たい冬の乾いた風が、俺の頬を撫でつけた。
「寒ぅぅぅぅ!!」
並大抵のことじゃ動じない自信のあった俺だが、この寒さには驚いた。
こりゃ……ドイツより寒いんじゃないか?
「ホラ、しゃきっとしなさい!男の子でしょ?」
運転席に座っていた女が、俺の尻を蹴り飛ばす。しかもつま先で。
その乱暴な動作に、叫び声を上げそうになるのを必死にこらえ、やや涙目になりながら振り返る。
「痛ってぇな!何すんだよ、母さん!」
「そんだけ元気がありゃ大丈夫ね。……じゃ、さっさと
「はいはい」
8を握る手に、思わず力がこもる。
……実験では何度かやってるけど、実際に使うのは今日が初めてだ。
集中し、いつもの感覚を思い出す。あの、体内に、違った何かが生じる感覚を……。
そして。
8が、消失する。
「……成功、ね」
「よし。第一段階はクリアだね」
体が感じていた寒さが消失する。
同時に視界がクリアーになり、自身の感覚が増幅したような、奇妙な錯覚に襲われる。
「じゃ、入るわよ。コウヤは平気だろうけど、私はかなり寒いんだから」
「……どの口が言うか!どの口が!」
入り口のカードスロットにカードキーを通し、暗証番号を入力する。
すると赤いランプが緑色に変化し、錠が開いたことを示した。
「失礼しまーす……」
なーんて、冗談めかして入るも、返事は無い。
……そりゃあそうだろう。今ここにいるはずの警備員は、ほとんどが別の基地にいるのだから。
そう――デュエルの発表式典の警備に。
◆
さて、そろそろ状況を整理してみようか。
俺の名前はコウヤ・ヤマシロ。オーストラリアの企業、モルゲンレーテに所属する技術者だった男だ。
――そう。
今の俺は、モルゲンレーテが開発したメイン・バトル・フィギュアのテストパイロット。そう、戦う技術者だ。……なんてな。
さて、ここで重要なのは、俺が男であるという点だ。
メイン・バトル・フィギュア、通称MBFは、モルゲンレーテが開発した第二世代のISだ。しかしISは、女でしか起動できない。
ならば、何故俺がテストパイロットなのか?
……答えは簡単。俺のMBF、レッドフレームは、ISじゃないのだ。
コアを持たず、エネルギー源はバッテリー。量子変換や操縦者の生体コントロール以外の機能はほぼ使えない、ISの劣化版。それが、今の俺の機体だ。
そんな俺が、何故オーストラリアを飛び出し、アメリカにいるのか?
それはズバリ……ドロボウするためである。
二ヶ月前にN.G.Iとモルゲンレーテが提携を解消してから、モルゲンレーテはN.G.Iに多くのスパイを送り込み続けた。そう――彼らの技術を奪うために。
そのほとんどは捕えられ、その後の行方は分からない。だが、それでも数人――警備員や技術者として、N.G.Iにもぐりこむことに成功したのだ。
そんな『潜在的スパイ』のうち一人が、ある情報をキャッチした。
――デュエルの発表式典のとき、基地が無防備になると。
それを利用し、モルゲンレーテはビーム兵器の強奪を決行することにした。
今までは、Xナンバーと呼ばれるN.G.Iの新型……デュエルを警戒し、作戦を行うことは出来なかった。でも今日はそのデュエルもいない。そして、ISのいない基地など……張り子の基地も同然だ!
◆
「とはいえ、警備は十分多いんだけどね……」
「そりゃそうよ。ここ、GAT計画の最先端の研究所だもの」
とりあえずロッカールームに潜入し、工作員から渡された制服に着替えた俺達は、正面切って堂々と廊下を歩いている。
こういう場合、下手にキョドったりコソコソすると、逆に怪しまれるのだ。
もちろん、ダンボールは論外。一度やってはみたかったけど……またの機会に使用しよう(つまらんシャレだな、我ながら)。
「……で、母さん。とりあえず、口調を直してくんない?その姿で女言葉は、さすがに怪しいというか……」
「あら、ごめんなさい。……こんなんでいいか?」
「何故俺の口調をチョイスしたのかは分からないけど、まあ、さっきよりは……」
今回、潜入メンバーとして動くのは、スパイを除けば俺と母さんの二人だけ。
しかし母さんは、かつてのモンド・グロッソ出場によって完全に顔が割れている。そこで、今は男装して潜入してもらっているのだ。
元々そこまで大きくない胸はサラシで隠し、男物の作業服を着て、名前の由来にもなった長い青髪は、栗色に染めたうえで縛って三つ編みにしてある。
廊下を歩く、歩く、歩く……。
しばらくするとセキュリティレベルの高い扉に閉ざされた、閉鎖区画の入り口にたどり着いた。
「ここだな……。ベニ、8でロックを解除して」
「ベニって何だよ、デュオもどき」
一度8を分離して、カードスロットと連結させ、暗号解析を始める。
様々な文字列が浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返し、パスワードの解読が進む。
「あなたの名前……ユウヤさんの故郷では、漢字で『紅也』って書くんですって。その『紅』っていう字は、『べに』とも読めるらしいの」
「ふうん……だから『ベニ』ね。……ま、気に入ったかな」
ちらちらと通路をうかがいながら、解読を進める。
パスワードは残り一桁。これなら、すぐにでも扉が――ほら、開いた。
「じゃあ行くよ、デュオ」
「ハハハハハ!時よ止まれ、ザ・ワールド!!」
「いや……それは『DIO』だって」
さて、問題はここからだ……。
◆
最初の警備兵に遭遇。……銃を持っていた。
いくら8を装備してるとは言っても、レッドフレームの装甲を展開してない俺では、あんなものは防げない。
そして母さんもISを持っていない。たとえ内部からの手引きがあったとしても、この基地にISを持ち込むことはできないからだ。
だからこそ、俺が選ばれた。人以上IS未満の装備を持つ、この俺が。
警備員は、俺達をちらり、と見ただけで通り過ぎる。…どうやら怪しまれずに済んだようだ。
しかし、心臓に悪い。
一歩間違えれば殺される……。これが現実なのだと、否が応でも思い知らされる。
「なーに弱気になってんだよ。お父さんならこのくらい、笑い飛ばして進むぜ?
……ああ、あのときのユウヤさん、カッコ良かったわ~」
「いや……こんな所でノロケられても……。何か吐き気が」
いっそのこと休憩室に忍び込んで、特濃ブラックコーヒーでも飲んでこようか。
そんなことを考えられるくらいには、俺にも余裕が出てきた。
「……お、分かれ道だな」
「……そう、だね……」
研究室の突き当たりに位置する、二つの分かれ道。
たしかここが分岐点。
右なら格納庫……うまくいけば新型のデータを手に入れられるも、発見されたら命は無い。
左なら武器開発区画……ビーム兵器があるのはこっちのはずだ。
「じゃあ、俺は左に行くよ。母さんは手筈通り、陽動をお願いします。
……死なないでよ。俺はともかく、アオイが寂しがる」
「安心しなさい、私を誰だと思ってるの?最強無敵のお母さん、ヒメ・ヤマシロよ」
そう言い残し、母さんは右の通路へと足を進める。俺は左へ。
後ろは振り返らない。
……きっと、母さんは大丈夫だから。
◆
8が持つ機能の一つ、立体映像の投影を使い、自分の姿を大人に変える。
半年前はレッドフレームを部分展開しないと使えなかったそれは、今や8を持っているだけで使えるように進化していた。まあ、手を離したらおしまいだから、念には念をと8を装着してるんだけどな。
外見は、実際にこの区画に勤めている研究員の一人に。背格好も似ていたので、まあ丁度良かった。
しかもその本人は、今頃西海岸のコンテナの中で絶賛昼寝中。後ろから本人登場!なんてドッキリは起こりえない。
なので俺は、だいぶ余裕を持って研究室にたどり着くことができた。
周囲ではISのプログラムを組んでいたり(あれは……可変機か?)、巨大砲塔を作っていたり(なんか、男のロマン砲とか言ってる)、巨大な実体剣にビーム発信機を取り付けるための議論をしていた(新型のビームサーベルか?)。
「だーかーら!これをつければ、ここからビームが発射できるだろ?まさか、剣からビームが飛んでくるとは思わないだろうよ!」
「バッカ、お前……。ここは普通にビームサーベル用の発信機をつけて、ビーム・実体二つの特性を持たせる方がいいだろうが!」
「いや……操縦者の方で設定をいじって、両方の用途で使えるようにするのはどうだ?」
「「それだ!」」
「よし、早速プログラムを組むぞ!」
「じゃあ俺は、シュゲルトゲベールそのものの設計を見直そう」
「決まりだな!俺は、このプランを上申してくるぜ」
ビーム発信機に取り付いていた三人の技術者は、一瞬にして走り去ってしまった。
残りの技術者は、こちらを見てもいない。ただただ、自分たちの研究に没頭している。
――チャンスだ。
ビーム発信機に触れる。すると、俺の中に様々な情報が流れ込み、これの特性を理解しようとする。
実はレッドフレームには、相手の武器を奪い、解析し、アンロックするという規格外のプログラムが積んである。その分、容量は大きいが、別に今回の任務に多くの武器はいらない。ビーム発信機の一つや二つ、余裕でインストールできる。
時間にして30秒くらいか。目の前の装置は消失し、レッドフレームの拡張領域に収納された。
これで、俺の任務は終了。
ややあっさりと終わったことに安堵しながらも、俺は研究室を後にするのだった……。
◆
〈side:ヒメ・ヤマシロ〉
「……何だ、拍子抜けしちゃうわね」
格納庫にいたのは、12,3人の男性技術者のみ。IS操縦者は一人もいなかった。
これはラッキー!……と思ったけど、あいにく新型らしき影は一つも無し。そこにあった3機のISは、すべて旧型のジンだけだった。
「……ま、暴れるには十分ね」
ゴキッ、ゴキッと肩を鳴らす。
そしてその場でストレッチ。屈伸、伸脚、上体起こし……と、矢継ぎ早に行い、体を温める。
「おい……何をやってるんだ?」
その様子を見とがめられたのか、作業員の一人が無防備に私に近づいてくる。
……バカね。怪しい人物がいたら、まず発砲すべきでしょうが。それでもって動けなくしてから正体を探る。少なくとも、私はそうやってるわよ?
……苦情が来たから止めたけど。
男はなおも私に近づく。その表情は、私を怪しんでいるものではなく……むしろ、私の頭を心配してるような表情だった。
――正直、不愉快です。だから……
「凶がれ☆」
ドゴス!!
強烈な延髄蹴りを放つ。
それだけで男は、声もあげずに倒れ伏した。
……なのに、
武器を取りに戻る者。私に接近する者。外部と連絡を取ろうとする者……。
まあ、関係ない。
全部潰すだけだ。
殴る。蹴る。飛んで、踏みつける。
私が手足を動かすたびに、人がバタバタ倒れていく。
気分は三国無双。この爽快感がたまらない。
「ばぁぁぁぁくねつ!ゴッド・フィンガァァァァァア!!」
連絡を取ろうとしていた作業員をアイアンクローで締め付け、そのままコンソールに叩きつける。手加減したから、死んではいないだろう。
――これで、残りはあと一人。
「う、動くな!撃つぞ!!」
向こうで拳銃構えて震えてる、バカ一人だけだ。
「ねえ知ってる?『撃つぞ』って言う人は、たいてい撃つ気がないんだよ」
「うるさい!撃つぞ、この豆しば!」
「カッチーン!いいわ、ぬるぬる動いてあげる!ホラ、撃ってみなさいよ!」
「く、くそう!俺に撃たせやがって!!」
パアン!
三下っぽいセリフと共に、銃弾が放たれる。
……的外れの方向に飛んでいくかと思ったら、案外いい狙いね。このままだったら右腕辺りに直撃するんじゃないかしら。
でも、黙ってやられる訳にはいかない。私は腕をスッと動かし、銃弾が通り過ぎた直後に元に位置に戻す。
「ば……馬鹿な。銃弾がすり抜けただと……?」
「あら、あなたにはそう見えたの?トロいわね。じゃあ……」
――次は、こっちの番よ。
近くにあったコンピュータを両手でつかみ、持ち上げる。
繋がっていたコード類はすべて力任せに引きちぎり、刺さっていた整備兵は振り払い、頭の高さまでリフトアップ。
「な……化け物……」
「化け物……?」
何よ、こんなかよわい乙女(心は常にラブリー17歳)に向かって、その言い草は。
失礼しちゃうわね、ホントに。私は、化け物なんかじゃないわ。
「――違う、私は悪魔だ!」
コンピュータを放り投げる。狙いはあいつの足下。……さすがに、死人は出したくないしね。
「ひ……ひぃぃぃぃぃ!!」
男は腰を抜かし、地面にへたり込む。
それでも意識を保ってるのは、プロとしての意地かしらね。
「じゃ、眠りなさい」
――決め技は、ドロップキック。これで、格納庫は制圧した。
「……って、制圧?陽動が目的だったのに、やり過ぎちゃったわね」
こうなったら、自分で警報機でも押してやろうかしら……と考え、格納庫をうろつく。
そして――気付いた。
「……これ、IS用のハンガー?何で空っぽなのかしら……?」
◆
〈side:コウヤ・ヤマシロ〉
(何で……)
上手くいっていたはずだった。
ビーム発信機は強奪し、後は逃げるだけ。そのはずだった。
なのに――
(何で、こんなところにISがいるんだよ!)
――そう。俺の目の前には、見たことのないISが立ちふさがっていた。
青、白、赤の三色に彩られた、全身装甲のIS。
その両手にはアーマーシュナイダーが握られ、黄色いデュアルアイが、俺を射抜くように見ていた。
(どういうことだ……。新型は1機だけのはずだ……!)
冷や汗が流れる。もはやここまで。
かつて味わったことのない、凄まじい危機感が、俺を押しつぶそうとしていた。
「観念しなさい、産業スパイ。盗んだものを返すなら、命まではとらないわ」
――ッ!この声……エイミーさん!?
なんてこった!てっきり、式典の方に行ったと思ったのに……。
まずいことになった。
彼女は、N.G.Iでもトップクラスの実力を持っている。それが新型で出てくるとなると、その戦力は予想が出来ない……!
「だんまりかしら?なら……」
《警告!敵機、火器管制の起動を確認!》
「手足の5,6本は貰っていくわよ!!」
そんなにねぇよ!というツッコミは呑み込み、俺はその場から飛びのく。
瞬間、敵機の頭部から銃弾が連射され、床に弾痕を刻みつけた。
「ふうん、やるわね。じゃ、次は格闘戦よ!」
敵はナイフを構え、脚のスラスターを吹かし、こちらに接近する。
――冗談じゃねぇ!こんなところで、死ねるかよ!!
(8、閃光弾!)
《スタンバイ済みだ!》
右手の平に小型のグレネードが出現する。
ピンは既に抜かれていたそれを、俺は足下に転がし、全力で踏みつける!
カッ!!!
強烈な閃光が巻き起こり、俺と敵機の視界を潰す。
《閃光弾、追加だ!》
さらにもう二つ。逃げる方向と、その逆に投げ捨て、一気に駆けだす!
逃げ切れるとは思えない。だからせめて、手に入れたコイツだけは引き渡さねぇと……。
「――甘いわね」
ブゥン。
何も見えないはずの光の中。目のような二つの光が、確かに俺を見た……気がした。
全力で前に飛びのく。
ガキン!という金属音。
おそらくはアーマーシュナイダー。
……殺される!!
「逃げられると思ったの?このストライクから!」
敵が迫る。俺は逃げる。
でも、無理だ。逃げられるわけがない。
そもそも、生身でISの相手をするなど不可能だ。敵は機械で、こっちは普通とちょっと違うだけの人間。
《どうする?こうなったら、レッドフレームで……》
(だめだ!俺じゃ勝てねぇ!)
まさに絶体絶命。ナイフを手に俺に迫るストライクが、死が、ゆっくりと近づき――
唐突に、その脚を止めた。
ビゴォォォォン!!
そして、響く爆音。
振りかえると、俺とストライクとの間には、大きな緑色の柱が出現していた。
「ッ!これは……ビーム!?どこから……」
「ココダ」
そして穴から飛び出す、一機のIS……。そこにいたのは灰色の全身装甲で身を固めた、トサカを持つ鎧武者……N.G.I-1017「ジン」だった。
その両手に構えられたのは、ジン以上の大きさを持つ、長大なビーム砲であった。
「くっ……バルデュス……」
「ニガシテモラウゾ」
そう言うや否や、ジンはビーム砲を再び構え、ストライクに向けて発砲する。
施設の被害など考えない、強力無比な一撃。
対するストライクに回避の余地は無く、とっさに呼び出した赤いアンチ・ビーム・シールドで防御する。
「……ニゲロ!」
ジンから、機械的な音声が発せられる。
その声……音程こそ変えているけど、間違いない!母さんだ!
(……ありがとう、母さん!)
爆音を背後に聞きながら、俺はローラーブーツを展開して一気に逃げ出した……。
◆
その後の話をしよう。
母さんは施設への無差別攻撃を行い、ストライクは防戦一方。
……完全に悪役の戦い方だよね。一般人を人質にとるなんて、さ。
まあ、その混乱に乗じて俺は逃げ出し、母さんもジンを自爆させてから逃げたみたい。
……さすがにコアは盗まなかったよ?そんなことしたら、絶対に足が着くし。
そして騒ぎを聞きつけ、デュエルが戻ってきた頃には俺達の姿は既に無く。
空港が封鎖される前に、堂々と、国外への脱出に成功したのであった……。
こうして、モルゲンレーテはビーム技術を手に入れた。
生産されたビームライフルはMBFの装備として登録され、MBFはASTRAYと名を改めることになる。
――そしてこの4カ月後。物語は大きく動き出すのであった……。