IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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今日は外伝3連発です。


過去編2 ビーム強奪事件

 ――ジンのトライアルから半年後。

 

 あの後、葵がチューンしたジンは研究のためにN.G.Iに接収され、葵自身もテストパイロットを解任された。

 そこで葵はモルゲンレーテに再び異動し、メイン・バトル・フィギュアのテストパイロットに任命された。

 

 そして、二ヶ月前……。

 忘れもしない、あの大事件が起こった。

 

 ――N.G.Iとモルゲンレーテの、協力関係の破棄。

 

 多くの技術者は引き抜かれ、技術のほとんどは手に入れられず……。モルゲンレーテは、設立以来初めての大敗北を喫したのであった……。

 

 

 

 

 

 

「元々は遥かなる大宇宙を探索するために作られたマルチフォーム・スーツである、インフィニット・ストラトス。白騎士事件をきっかけに世界中に広まったそれは、当初こそ本来の用途で研究されていましたが、やがてIS開発を巡る状況は一変しました」

 

 ラジオ越しに、そんな演説が聞こえてくる。

 

「宇宙開発のために開発していた初期のIS、通称「type-00」を狙ったテロ事件。多くの宇宙開発関係者を巻き込んだその事件を契機に、ISは宇宙から遠ざかっていきました……」

 

 フリーウェイを疾走する車の窓からは、冬化粧を始めたカリフォルニアの街並みが見える。

 これで空が見えたら最高なんだけどな……。あいにく、厚い雲が空への道を閉ざしている。

 

「……しかし、それは結果として更なるIS開発を促し、今日(こんにち)に至るまでの発展の礎となったと言えるでしょう」

 

 車がフリーウェイを下りる。制限速度の上限が下がるが、気にせず今の速度をキープ。

 幸い、道に雪は積もっておらず、こんな車でもスリップせずに済んでいる。

 

「あの未曾有のテロから10年……。我らアメリカのIS開発は、転換期を迎えました。

 ……そう、新たなる第三世代機の開発に成功したのです!」

 

 やがて、基地の入り口が見えてくる。

 頑丈そうなゲートの前には、銃を持った警備員が二人。

 車が彼らに近づくと、彼らは手に持つ銃を下げ、ゲートを開く。

 

「この事件で犠牲となった彼ら、彼女らに対し、冥福を祈りましょう。マリア・キッドマン、クラウス・E・ヒエムロス、ロバーク・スタッド、クロウ・スタンピード、ニコラス……」

 

 警備員が敬礼し、車が中に入っていく。

 しかし、車は定められた駐車場へは向かわず、敷地の奥……IS研究所へと向かっていく。

 

「では、紹介しましょう!ノース・グランダー・インダストリーが開発した、最新鋭の全身装甲型IS……「デュエル」の登場です!」

 

 目的地に到着した。

 ラジオを切り、コートを着込む。

 後部座席に乗せてあった8を掴み、車を降りる。

 

 瞬間。

 冷たい冬の乾いた風が、俺の頬を撫でつけた。

 

「寒ぅぅぅぅ!!」

 

 並大抵のことじゃ動じない自信のあった俺だが、この寒さには驚いた。

 こりゃ……ドイツより寒いんじゃないか?

 

「ホラ、しゃきっとしなさい!男の子でしょ?」

 

 運転席に座っていた女が、俺の尻を蹴り飛ばす。しかもつま先で。

 その乱暴な動作に、叫び声を上げそうになるのを必死にこらえ、やや涙目になりながら振り返る。

 

「痛ってぇな!何すんだよ、母さん!」

「そんだけ元気がありゃ大丈夫ね。……じゃ、さっさと装着(・・)しなさい」

「はいはい」

 

 8を握る手に、思わず力がこもる。

 ……実験では何度かやってるけど、実際に使うのは今日が初めてだ。

 集中し、いつもの感覚を思い出す。あの、体内に、違った何かが生じる感覚を……。

 

 そして。

 8が、消失する。

 

「……成功、ね」

「よし。第一段階はクリアだね」

 

 体が感じていた寒さが消失する。

 同時に視界がクリアーになり、自身の感覚が増幅したような、奇妙な錯覚に襲われる。

 

「じゃ、入るわよ。コウヤは平気だろうけど、私はかなり寒いんだから」

「……どの口が言うか!どの口が!」

 

 入り口のカードスロットにカードキーを通し、暗証番号を入力する。

 すると赤いランプが緑色に変化し、錠が開いたことを示した。

 

「失礼しまーす……」

 

 なーんて、冗談めかして入るも、返事は無い。

 

 ……そりゃあそうだろう。今ここにいるはずの警備員は、ほとんどが別の基地にいるのだから。

 そう――デュエルの発表式典の警備に。

 

 

 

 

 

 

 さて、そろそろ状況を整理してみようか。

 俺の名前はコウヤ・ヤマシロ。オーストラリアの企業、モルゲンレーテに所属する技術者だった男だ。

 

 ――そう。だった(・・・)のだ。

 

 今の俺は、モルゲンレーテが開発したメイン・バトル・フィギュアのテストパイロット。そう、戦う技術者だ。……なんてな。

 

 さて、ここで重要なのは、俺が男であるという点だ。

 メイン・バトル・フィギュア、通称MBFは、モルゲンレーテが開発した第二世代のISだ。しかしISは、女でしか起動できない。

 ならば、何故俺がテストパイロットなのか?

 

 ……答えは簡単。俺のMBF、レッドフレームは、ISじゃないのだ。

 

 コアを持たず、エネルギー源はバッテリー。量子変換や操縦者の生体コントロール以外の機能はほぼ使えない、ISの劣化版。それが、今の俺の機体だ。

 

 そんな俺が、何故オーストラリアを飛び出し、アメリカにいるのか?

 それはズバリ……ドロボウするためである。

 

 二ヶ月前にN.G.Iとモルゲンレーテが提携を解消してから、モルゲンレーテはN.G.Iに多くのスパイを送り込み続けた。そう――彼らの技術を奪うために。

 そのほとんどは捕えられ、その後の行方は分からない。だが、それでも数人――警備員や技術者として、N.G.Iにもぐりこむことに成功したのだ。

 そんな『潜在的スパイ』のうち一人が、ある情報をキャッチした。

 

 ――デュエルの発表式典のとき、基地が無防備になると。

 

 それを利用し、モルゲンレーテはビーム兵器の強奪を決行することにした。

 今までは、Xナンバーと呼ばれるN.G.Iの新型……デュエルを警戒し、作戦を行うことは出来なかった。でも今日はそのデュエルもいない。そして、ISのいない基地など……張り子の基地も同然だ!

 

 

 

 

 

 

「とはいえ、警備は十分多いんだけどね……」

「そりゃそうよ。ここ、GAT計画の最先端の研究所だもの」

 

 とりあえずロッカールームに潜入し、工作員から渡された制服に着替えた俺達は、正面切って堂々と廊下を歩いている。

 こういう場合、下手にキョドったりコソコソすると、逆に怪しまれるのだ。

 もちろん、ダンボールは論外。一度やってはみたかったけど……またの機会に使用しよう(つまらんシャレだな、我ながら)。

 

「……で、母さん。とりあえず、口調を直してくんない?その姿で女言葉は、さすがに怪しいというか……」

「あら、ごめんなさい。……こんなんでいいか?」

「何故俺の口調をチョイスしたのかは分からないけど、まあ、さっきよりは……」

 

 今回、潜入メンバーとして動くのは、スパイを除けば俺と母さんの二人だけ。

 しかし母さんは、かつてのモンド・グロッソ出場によって完全に顔が割れている。そこで、今は男装して潜入してもらっているのだ。

 元々そこまで大きくない胸はサラシで隠し、男物の作業服を着て、名前の由来にもなった長い青髪は、栗色に染めたうえで縛って三つ編みにしてある。

 

 廊下を歩く、歩く、歩く……。

 しばらくするとセキュリティレベルの高い扉に閉ざされた、閉鎖区画の入り口にたどり着いた。

 

「ここだな……。ベニ、8でロックを解除して」

「ベニって何だよ、デュオもどき」

 

 一度8を分離して、カードスロットと連結させ、暗号解析を始める。

 様々な文字列が浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返し、パスワードの解読が進む。

 

「あなたの名前……ユウヤさんの故郷では、漢字で『紅也』って書くんですって。その『紅』っていう字は、『べに』とも読めるらしいの」

「ふうん……だから『ベニ』ね。……ま、気に入ったかな」

 

 ちらちらと通路をうかがいながら、解読を進める。

 パスワードは残り一桁。これなら、すぐにでも扉が――ほら、開いた。

 

「じゃあ行くよ、デュオ」

「ハハハハハ!時よ止まれ、ザ・ワールド!!」

「いや……それは『DIO』だって」

 

 さて、問題はここからだ……。

 

 

 

 

 

 

 最初の警備兵に遭遇。……銃を持っていた。

 いくら8を装備してるとは言っても、レッドフレームの装甲を展開してない俺では、あんなものは防げない。

 そして母さんもISを持っていない。たとえ内部からの手引きがあったとしても、この基地にISを持ち込むことはできないからだ。

 だからこそ、俺が選ばれた。人以上IS未満の装備を持つ、この俺が。

 

 警備員は、俺達をちらり、と見ただけで通り過ぎる。…どうやら怪しまれずに済んだようだ。

 しかし、心臓に悪い。

 一歩間違えれば殺される……。これが現実なのだと、否が応でも思い知らされる。

 

「なーに弱気になってんだよ。お父さんならこのくらい、笑い飛ばして進むぜ?

 ……ああ、あのときのユウヤさん、カッコ良かったわ~」

「いや……こんな所でノロケられても……。何か吐き気が」

 

 いっそのこと休憩室に忍び込んで、特濃ブラックコーヒーでも飲んでこようか。

 そんなことを考えられるくらいには、俺にも余裕が出てきた。

 

「……お、分かれ道だな」

「……そう、だね……」

 

 研究室の突き当たりに位置する、二つの分かれ道。

 たしかここが分岐点。

 

 右なら格納庫……うまくいけば新型のデータを手に入れられるも、発見されたら命は無い。

 左なら武器開発区画……ビーム兵器があるのはこっちのはずだ。

 

「じゃあ、俺は左に行くよ。母さんは手筈通り、陽動をお願いします。

 ……死なないでよ。俺はともかく、アオイが寂しがる」

「安心しなさい、私を誰だと思ってるの?最強無敵のお母さん、ヒメ・ヤマシロよ」

 

 そう言い残し、母さんは右の通路へと足を進める。俺は左へ。

 後ろは振り返らない。

 ……きっと、母さんは大丈夫だから。

 

 

 

 

 

 

 8が持つ機能の一つ、立体映像の投影を使い、自分の姿を大人に変える。

 半年前はレッドフレームを部分展開しないと使えなかったそれは、今や8を持っているだけで使えるように進化していた。まあ、手を離したらおしまいだから、念には念をと8を装着してるんだけどな。

 

 外見は、実際にこの区画に勤めている研究員の一人に。背格好も似ていたので、まあ丁度良かった。

 しかもその本人は、今頃西海岸のコンテナの中で絶賛昼寝中。後ろから本人登場!なんてドッキリは起こりえない。

 

 なので俺は、だいぶ余裕を持って研究室にたどり着くことができた。

 周囲ではISのプログラムを組んでいたり(あれは……可変機か?)、巨大砲塔を作っていたり(なんか、男のロマン砲とか言ってる)、巨大な実体剣にビーム発信機を取り付けるための議論をしていた(新型のビームサーベルか?)。

 

「だーかーら!これをつければ、ここからビームが発射できるだろ?まさか、剣からビームが飛んでくるとは思わないだろうよ!」

「バッカ、お前……。ここは普通にビームサーベル用の発信機をつけて、ビーム・実体二つの特性を持たせる方がいいだろうが!」

「いや……操縦者の方で設定をいじって、両方の用途で使えるようにするのはどうだ?」

「「それだ!」」

「よし、早速プログラムを組むぞ!」

「じゃあ俺は、シュゲルトゲベールそのものの設計を見直そう」

「決まりだな!俺は、このプランを上申してくるぜ」

 

 ビーム発信機に取り付いていた三人の技術者は、一瞬にして走り去ってしまった。

 残りの技術者は、こちらを見てもいない。ただただ、自分たちの研究に没頭している。

 

 ――チャンスだ。

 

 ビーム発信機に触れる。すると、俺の中に様々な情報が流れ込み、これの特性を理解しようとする。

 実はレッドフレームには、相手の武器を奪い、解析し、アンロックするという規格外のプログラムが積んである。その分、容量は大きいが、別に今回の任務に多くの武器はいらない。ビーム発信機の一つや二つ、余裕でインストールできる。

 時間にして30秒くらいか。目の前の装置は消失し、レッドフレームの拡張領域に収納された。

 これで、俺の任務は終了。

 ややあっさりと終わったことに安堵しながらも、俺は研究室を後にするのだった……。

 

 

 

 

 

 

〈side:ヒメ・ヤマシロ〉

 

「……何だ、拍子抜けしちゃうわね」

 

 格納庫にいたのは、12,3人の男性技術者のみ。IS操縦者は一人もいなかった。

 これはラッキー!……と思ったけど、あいにく新型らしき影は一つも無し。そこにあった3機のISは、すべて旧型のジンだけだった。

 

「……ま、暴れるには十分ね」

 

 ゴキッ、ゴキッと肩を鳴らす。

 そしてその場でストレッチ。屈伸、伸脚、上体起こし……と、矢継ぎ早に行い、体を温める。

 

「おい……何をやってるんだ?」

 

 その様子を見とがめられたのか、作業員の一人が無防備に私に近づいてくる。

 ……バカね。怪しい人物がいたら、まず発砲すべきでしょうが。それでもって動けなくしてから正体を探る。少なくとも、私はそうやってるわよ?

 ……苦情が来たから止めたけど。

 

 男はなおも私に近づく。その表情は、私を怪しんでいるものではなく……むしろ、私の頭を心配してるような表情だった。

 

 ――正直、不愉快です。だから……

 

「凶がれ☆」

 

 ドゴス!!

 

 強烈な延髄蹴りを放つ。

 それだけで男は、声もあげずに倒れ伏した。

 

 ……なのに、何故か(・・・)他の作業員は私に気付き、慌ただしく動き始める。

 武器を取りに戻る者。私に接近する者。外部と連絡を取ろうとする者……。

 

 まあ、関係ない。

 全部潰すだけだ。

 

 殴る。蹴る。飛んで、踏みつける。

 私が手足を動かすたびに、人がバタバタ倒れていく。

 気分は三国無双。この爽快感がたまらない。

 

「ばぁぁぁぁくねつ!ゴッド・フィンガァァァァァア!!」

 

 連絡を取ろうとしていた作業員をアイアンクローで締め付け、そのままコンソールに叩きつける。手加減したから、死んではいないだろう。

 

 ――これで、残りはあと一人。

 

「う、動くな!撃つぞ!!」

 

 向こうで拳銃構えて震えてる、バカ一人だけだ。

 

「ねえ知ってる?『撃つぞ』って言う人は、たいてい撃つ気がないんだよ」

「うるさい!撃つぞ、この豆しば!」

「カッチーン!いいわ、ぬるぬる動いてあげる!ホラ、撃ってみなさいよ!」

「く、くそう!俺に撃たせやがって!!」

 

 パアン!

 

 三下っぽいセリフと共に、銃弾が放たれる。

 ……的外れの方向に飛んでいくかと思ったら、案外いい狙いね。このままだったら右腕辺りに直撃するんじゃないかしら。

 でも、黙ってやられる訳にはいかない。私は腕をスッと動かし、銃弾が通り過ぎた直後に元に位置に戻す。

 

「ば……馬鹿な。銃弾がすり抜けただと……?」

「あら、あなたにはそう見えたの?トロいわね。じゃあ……」

 

 ――次は、こっちの番よ。

 

 近くにあったコンピュータを両手でつかみ、持ち上げる。

 繋がっていたコード類はすべて力任せに引きちぎり、刺さっていた整備兵は振り払い、頭の高さまでリフトアップ。

 

「な……化け物……」

「化け物……?」

 

 何よ、こんなかよわい乙女(心は常にラブリー17歳)に向かって、その言い草は。

 失礼しちゃうわね、ホントに。私は、化け物なんかじゃないわ。

 

「――違う、私は悪魔だ!」

 

 コンピュータを放り投げる。狙いはあいつの足下。……さすがに、死人は出したくないしね。

 

「ひ……ひぃぃぃぃぃ!!」

 

 男は腰を抜かし、地面にへたり込む。

 それでも意識を保ってるのは、プロとしての意地かしらね。

 

「じゃ、眠りなさい」

 

 ――決め技は、ドロップキック。これで、格納庫は制圧した。

 

「……って、制圧?陽動が目的だったのに、やり過ぎちゃったわね」

 

 こうなったら、自分で警報機でも押してやろうかしら……と考え、格納庫をうろつく。

 そして――気付いた。

 

「……これ、IS用のハンガー?何で空っぽなのかしら……?」

 

 

 

 

 

 

〈side:コウヤ・ヤマシロ〉

 

(何で……)

 

 上手くいっていたはずだった。

 ビーム発信機は強奪し、後は逃げるだけ。そのはずだった。

 なのに――

 

(何で、こんなところにISがいるんだよ!)

 

 ――そう。俺の目の前には、見たことのないISが立ちふさがっていた。

 青、白、赤の三色に彩られた、全身装甲のIS。

 その両手にはアーマーシュナイダーが握られ、黄色いデュアルアイが、俺を射抜くように見ていた。

 

(どういうことだ……。新型は1機だけのはずだ……!)

 

 冷や汗が流れる。もはやここまで。

 かつて味わったことのない、凄まじい危機感が、俺を押しつぶそうとしていた。

 

「観念しなさい、産業スパイ。盗んだものを返すなら、命まではとらないわ」

 

 ――ッ!この声……エイミーさん!?

 なんてこった!てっきり、式典の方に行ったと思ったのに……。

 

 まずいことになった。

 彼女は、N.G.Iでもトップクラスの実力を持っている。それが新型で出てくるとなると、その戦力は予想が出来ない……!

 

「だんまりかしら?なら……」

《警告!敵機、火器管制の起動を確認!》

「手足の5,6本は貰っていくわよ!!」

 

 そんなにねぇよ!というツッコミは呑み込み、俺はその場から飛びのく。

 瞬間、敵機の頭部から銃弾が連射され、床に弾痕を刻みつけた。

 

「ふうん、やるわね。じゃ、次は格闘戦よ!」

 

 敵はナイフを構え、脚のスラスターを吹かし、こちらに接近する。

 ――冗談じゃねぇ!こんなところで、死ねるかよ!!

 

(8、閃光弾!)

《スタンバイ済みだ!》

 

 右手の平に小型のグレネードが出現する。

 ピンは既に抜かれていたそれを、俺は足下に転がし、全力で踏みつける!

 

 カッ!!!

 

 強烈な閃光が巻き起こり、俺と敵機の視界を潰す。

 

《閃光弾、追加だ!》

 

 さらにもう二つ。逃げる方向と、その逆に投げ捨て、一気に駆けだす!

 逃げ切れるとは思えない。だからせめて、手に入れたコイツだけは引き渡さねぇと……。

 

「――甘いわね」

 

 ブゥン。

 

 何も見えないはずの光の中。目のような二つの光が、確かに俺を見た……気がした。

 全力で前に飛びのく。

 ガキン!という金属音。

 おそらくはアーマーシュナイダー。

 

 ……殺される!!

 

「逃げられると思ったの?このストライクから!」

 

 敵が迫る。俺は逃げる。

 でも、無理だ。逃げられるわけがない。

 

 そもそも、生身でISの相手をするなど不可能だ。敵は機械で、こっちは普通とちょっと違うだけの人間。

 

《どうする?こうなったら、レッドフレームで……》

(だめだ!俺じゃ勝てねぇ!)

 

 まさに絶体絶命。ナイフを手に俺に迫るストライクが、死が、ゆっくりと近づき――

 

 唐突に、その脚を止めた。

 

 

 ビゴォォォォン!!

 

 

 そして、響く爆音。

 振りかえると、俺とストライクとの間には、大きな緑色の柱が出現していた。

 

「ッ!これは……ビーム!?どこから……」

「ココダ」

 

 そして穴から飛び出す、一機のIS……。そこにいたのは灰色の全身装甲で身を固めた、トサカを持つ鎧武者……N.G.I-1017「ジン」だった。

 その両手に構えられたのは、ジン以上の大きさを持つ、長大なビーム砲であった。

 

「くっ……バルデュス……」

「ニガシテモラウゾ」

 

 そう言うや否や、ジンはビーム砲を再び構え、ストライクに向けて発砲する。

 施設の被害など考えない、強力無比な一撃。

 対するストライクに回避の余地は無く、とっさに呼び出した赤いアンチ・ビーム・シールドで防御する。

 

「……ニゲロ!」

 

 ジンから、機械的な音声が発せられる。

 その声……音程こそ変えているけど、間違いない!母さんだ!

 

(……ありがとう、母さん!)

 

 爆音を背後に聞きながら、俺はローラーブーツを展開して一気に逃げ出した……。

 

 

 

 

 

 

 その後の話をしよう。

 母さんは施設への無差別攻撃を行い、ストライクは防戦一方。

 ……完全に悪役の戦い方だよね。一般人を人質にとるなんて、さ。

 

 まあ、その混乱に乗じて俺は逃げ出し、母さんもジンを自爆させてから逃げたみたい。

 ……さすがにコアは盗まなかったよ?そんなことしたら、絶対に足が着くし。

 

 そして騒ぎを聞きつけ、デュエルが戻ってきた頃には俺達の姿は既に無く。

 空港が封鎖される前に、堂々と、国外への脱出に成功したのであった……。

 

 こうして、モルゲンレーテはビーム技術を手に入れた。

 生産されたビームライフルはMBFの装備として登録され、MBFはASTRAYと名を改めることになる。

 

 ――そしてこの4カ月後。物語は大きく動き出すのであった……。

 


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