IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第66話 燃えるワン・マン・フォース

 海上に、突如出現したISの反応――それは、強奪された「銀の福音」のものだ。

 次いで現れる、二つのコアの反応。それは紛れも無く、デュエルとバスターであった……。

 

 

 

 

 

 

〈side:強奪犯〉

 

「バカな!再起動やてぇ!?

 エッジ!福音は機能停止してたハズやろ?」

「は、はい……。確かに、モルゲンレーテの操縦者が機能を停止させたと。私も確認しました」

「とにかく、福音は排出(イジェクト)するぜ!このままじゃ機体がヤベェ」

「構へん!でも、もし裏切ったら……分かっとるな?」

「コイツが爆発するんだろ?忘れちゃねェよ」

「では、行きます!エフ、ハッチの開放を!」

 

 エッジの声に答え、輸送機の後部ハッチが開く。そして飛び出すエッジとチョッパー。すぐにISを展開し、拘束を解かれた福音へと挑みかかる。

 

 ――そのとき、福音に異変が起こった。

 

 

 

 

 

 

〈side:山代 葵〉

 

 タクティカルアームズの性能は、想像以上だった。おかげで、当初の予定よりもはるかに早く、連中に追いつけそうだ。

 

「連絡です」

 

 そんな中、唐突に宇宙(ソラ)から通信が届く。私は意識をまだ見ぬ敵へと向けながらも、回線を開いてそれに答える。

 

「……何?」

「ISコアの起動を確認しました。数は3。うちひとつは、福音のものです」

「……どういうこと?」

「おそらく、P-02の攻撃によるシステムダウンから立ち直ったものかと」

「……そう」

 

 これは予想通りだ。

 先程医務室へ行ったとき、8から光雷球の説明は受けている。

 なんでも、ISのシステムを滅茶苦茶にするらしく、その影響でシールドエネルギーが残っていても『ゼロ』に見えるとか。おそらく、敵は福音がもう動かないと思って油断したんだろう。……獲物を前に舌なめずりなんて、三流のすることだ。

 

 ――が、報告は続く。

 

「その後、福音の形態が変化。おそらく、第二形態移行(セカンド・シフト)と思われます。

 ――なお、この情報はIS学園にも気付かれたはずです。注意して下さい」

 

 ――IS学園に気付かれた。

 ということは、エイミーさんやみんなが、追撃に出てくるかもしれない。

 

 それは、ちょっと困る。

 

「……そう。IS学園に動きがあったら、また連絡して」

「了解しました」

 

 通信が切れる。

 ……さて、情報を整理しよう。

 

 福音の再起動&第二形態移行により、敵はデュエルとバスターを起動。

 ミラージュコロイドで隠れた輸送機は、おそらく逃げただろう。

 ――と、いうことは。

 福音と連携できれば、2対2で戦える。

 ……とはいえ、相手は敵も味方もなしに暴れるだろう。だから、共闘なんて不可能。

 だったら、こちらが利用するまでだ。

 

 作戦を練り直した私は、再び加速して戦闘宙域まで向かう。

 レーダーなど必要ない。私が向かう先に、強烈な感情のうねりを感じる。同時に、わずかな殺気も。

 殺気が薄い、ということは、やはり目的は福音を再度鹵獲することとみていいだろう。ならば、付け入る隙は多分にある。

 

 ――センサーが目標を探知。接敵まで後1分。

 

 そんな表示が、目の前に映しだされる。心が昂るのを感じた。

 あと少し……あと少しで、私は力を示せる。

 見てて、お兄ちゃん。

 私は、強くなったって、教えてあげるから……。

 

 光が見える。緑と白の光が。

 その間を縫うように飛んでいるのがデュエル、射程外から砲撃を繰り出してるのがバスターだろう。両方とも私には気づいてるだろうけど、気にする余裕はないはず。

 

 3、2、1……接敵。

 

 私は、その場にいる全員の有効射程距離内に到達した。

 目に入るのは、こちらをうかがうかのように顔を上げる福音。映像で見ていた時とは違い、装甲のいたるところから翼が生えたその様子は、やはり異様だ。

 おそらく、乱入者――つまり私――の動向を観察している、と言ったところだろう。

 ならば、と私は福音に背を向け、デュエルに向けてビームを放つ。するとデュエルは、あろうことかビームサーベルでビームを弾き、そのまま私の方へと間合いを詰めてきた。

 

 ――その勝負、乗ってやろうじゃない。

 

 福音から意識を外し、脚部のナイフシースからアーマーシュナイダーを抜き放つ。

 瞬間、敵の心が乱れた。

 『そんな鉄の塊でビームと斬り合うのか?』……と、あからさまな嘲りを感じる。

 でも、それは隙だ。それも、致命的な。

 

 振り下ろされるデュエルのビームサーベル。私は瞬時加速で距離を詰め、相手の手元に狙いを定める。

 そう。ビームサーベルの本体へと……。

 

 そして。

 ビームとナイフが交差する。

 (ビーム)は容易く両断され、消滅した。

 

「……馬鹿な……」

 

 その驚愕は、敵のもの。結果は分かりきっていたのだから、私はいちいち驚かない。

 即座に敵を蹴り、距離を取る。その瞬間、デュエルのビームサーベルが小爆発を起こした。

 

「……貴公、何をした?」

 

 それに対する私の返答は、当然無言。

 なんで、好き好んで自分の秘密を話さなきゃいけないの?そんなのは、少年漫画の中だけで十分よ。

 まあ、種は簡単。このアーマーシュナイダーには、対ビームコーティングが施してあるのだ。

 私は、前からこう思ってた。

 シールドは大きすぎて、格闘戦では扱いづらい、と。

 だったら格納しておけばいい、とか思っても、相手がビームサーベルを持っている場合はそうはいかない。なぜなら、間合いに入る前に斬られる可能性が高いからだ。

 

 ならば――

 武器を楯として使えばいい。

 

 ビームサーベルの一つを破壊した私は、即座に距離を取る。

 アーマーシュナイダーでは、PS装甲に傷はつけられないからだ。

 焦らなくていい。敵のビームサーベルは、後一本のはず。

 その一本を失えば、格闘戦でのアドバンテージは私のものだ。

 ……相手が一人だけなら、ね。

 

「喰らいぃ!」

 

 バスターから放たれる、黄色い閃光。それは数秒前まで私がいた空間を貫いていた。

 まだ脅威は去っていない。次に私を襲ったのは、福音から放たれた光の雨だった。

 今の一撃は、私とデュエルを同時に狙ったものだろう。いくら私の「優先順位」が低いとはいえ、放置など有り得ない。

 右肩のスラスターを吹かし、タクティカルアームズの角度を調節することで、私はアクロバットに回避行動をとる。

 ちらり、とデュエルを見ると、残念ながらあちらも回避に成功したようだ。切り落としたビームサーベルの代わりに、新たにビームライフルを装備し、福音に牽制射撃を行っていた。

 

 ……え、ビームライフル?

 おかしい。

 あれは、確かに紅也が破壊したはず……。

 まさか……すでに量産されている?

 強奪犯風情が、ずいぶんと立派なバックボーンを持ってるのね。

 

 動揺は一瞬で消し去り、それすらも戦意に変える。

 福音は、デュエルを狙って攻撃を続行する。ならば、私の狙いはバスターだ。

 敵ははるか遠方。ならば、近接武器はふさわしくない。

 右手にビームライフル、左手にはバズーカを装備。三基のスラスターをバランスよく吹かしながら、バスターへと高速接近する。

 

「なっ、速い!?……でも、甘いで!」

 

 バスターは連結した砲塔を分離し、私に向けて腰だめに構えた。左腰の補助アームに接続された高エネルギー収束火線ライフルが、私にめがけて次々と発射される。

 ……でも、無駄!

 ハイパーセンサーで銃口の向きを捉え、手足と翼を動かすことで、速度を落とさずに回避していく。

 その一方で、私もバズーカをバスターに向けて発射し、やや遅れてからビームを放つ。

 まあ、昔VT-ISに使った技の改良版だ。バズーカで相手を狙い、回避したらビームに当てる。そんな戦法。

 でも、相手はPS装甲機。バズーカを回避しない可能性もある。だから私はバズーカを近接信管で発射し、弾頭も閃光弾にしておいた。

 元々、私の本命はビームサーベルだ。ゆえに素早くバズーカを収納し、ビームサーベルを呼び出す。

 

 バスターは、肩のミサイルポッドから3基の小型ミサイルを放ち、バズーカを迎撃した。その間にも私を狙い続けてるんだから、相手はやはり優秀な人間なのだと分かる。

 

 光が炸裂した。

 

 それに驚くバスターだが、すぐに右腰のガンランチャーを光の方へ向け、発砲する。

 いい手だ。弾種はおそらく散弾。ASTRAYの装甲では、おそらく耐えられまい。

 格闘戦を諦め、私はビームを発射する。しかしそれが目標に命中することは無く、僅かに下降することで避けられてしまった。

 

「今のはいい手やったで。やるなぁ、姉ちゃん」

「……そっちこそ」

 

 再び放たれるガンランチャー。この間合いでは反撃が難しい。

 そう判断した私は一時距離を取り、次のチャンスに備えることにした……のだが。

 

「はあぁぁぁっ!!」

 

 気合い一閃。

 背後から恐ろしいスピードで迫るデュエルの剣技から逃れるため、前進するしかなかった。

 しかもデュエルの後方からは、いたるところから光の翼を生やした福音が接近してきていた。

 

「どや!乱戦に持ち込めば、アンタが不利やで!」

 

 私は未だにバスターの射程内。しかもデュエルはPS装甲でダメージを無視できるため、散弾を気にせず斬りつけてくる。

 こういう相手は厄介だ。

 

 近接戦特化、傷つくことを恐れないデュエルと。

 中・遠距離専門、味方の被害を考えないバスター。

 ――少し、まずいかもしれない。

 

 しかも――

 

「IS学園に動きあり。ISが出撃してきました」

 

 タイムリミットが近い。

 みんなが来たら、こいつらは撤退してしまう。

 それでは、私が命令違反をしてまでここに来た意味が無い。

 

 嫌だ。

 それだけは、嫌だ。

 

「しぶとい、ですね!」

 

 もはや一本だけしかないビームサーベルで、私と打ち合うデュエル。相手の目的も、おそらくは早期決着だろう。だというのに、その動きにはブレがない。

 私もビームサーベルを展開しつつ、バスターへの更なる接近を試みるも、うまくいかない。デュエルの妨害も原因の一つではあるけど、それ以上に厄介なのが福音だ。

 さっきから、私たち全員に向けて〈銀の鐘〉と〈銀の祝福〉を斉射してるのだ。狙いは荒くても、これだけの密度の弾幕の中じゃ、うかつに動けない。

 ……さて、狙うべきはどの機体だろう。

 

 バスター?

 ……最優先で撃破したいところね。でも、現状では困難。

 

 デュエル?

 ……いずれエネルギー切れで自滅しそうだけど、その前に私がやられるかも。

 

 福音?

 ……ダメだ!倒したらこいつらに鹵獲されて、逃げられる!

 

 なら――

 

 覚悟を決め、デュエルに集中する。

 武器はビームサーベルとアーマーシュナイダー。変則的なCQCとも呼べる型で、デュエルの懐に飛び込む!

 

「一騎討ちか!望むところだ!」

 

 敵もナイフの間合いから外れ、ビームサーベルだけが届く距離での格闘戦を挑んでくる。

 私はバスターに背を向けないように注意しながら、デュエルを上下左右、様々な場所から斬りつけた。

 でも、通らない。

 完全にデュエルだけに集中できれば話は別だけど、やっぱり気が散ってしまう。

 そして何回斬り合ったか分からないけど、戦いは、唐突に終わりを告げた。

 

「エッジ!」

「! 了解だッ!」

 

 デュエルはビームサーベルの刃を消し、瞬時加速で離脱した。

 そしてデュエルが消えたその先には、再び砲を連結したバスターが……。

 

「ほな、さいならッ!!」

 

 超高インパルス長射程狙撃ライフルの黄色い火線が、私を射抜かんと発射されていた。

 ……そう、既に発射されていたのだ。

 回避は間にあわない。アーマーシュナイダーじゃ防げない。仮にシールドがあっても防げないのは、すでに紅也が身を持って証明した。

 ならば、どうする?

 ……被害を最小限に抑えるしかない!

 

 仮に直撃を受けても、絶対防御がある限り私は死なない。

 でも、ここで気絶なんかしたら、間違いなく私と福音は鹵獲されてしまう。

 

 ――そうなれば、もう二度と、紅也達とは会えない。

 

 迫る火線を見つめ、私は肩のスラスターを全力で起動する。

 当てるなら足だ。そこなら無くなったとしても、戦闘に支障はない。

 

 光が迫る。

 ブルーフレームはまだ動かない。

 のろのろと、妙に引き延ばされた時間の中で、私はゆっくりと迫る「脅威」を見つめていた。

 

 ――負けたくない!

 

 そう思ったとき、私の目の前に光が出現した。

 とっさに、その光に手を伸ばす。しかし、手はゆっくりとしか動かない。

 

 そして――

 

 迫る(きょうい)と目の前の(きぼう)が衝突した。

 

 その瞬間、時間の流れは元に戻り、私はとうとう光を掴みとった。

 握ったそれは、剣の柄。それは徐々に形を成し、やがて青い刀身(・・・・)が姿を現した。

 

 その瞬間。

 私に衝撃が走る。

 着弾の衝撃とは違う、電気のような衝撃。

 それは全身を駆け巡り、私に力を漲らせた。

 

 ――この感覚を、私は知ってる。

 初めてブルーフレームを装着したとき、しばらくしてから味わった感覚。

 第一次移行と同じ感覚。

 ならば、これは……

 

 第二形態移行(セカンド・シフト)

 

「なんや……。なんや!その剣は!!」

 

 表情は見えないけど、おそらく驚愕してるであろうバスターの操縦者。

 よっぽど、今の一撃に自信があったんだろう。

 それはそうだろう。私だって、本気でやられると思った。

 でも、現実はどう?

 必殺の火線は、あろうことか剣一本に逸らされて、私は無傷。

 

 ねえ、どんな気持ち?今、どんな気持ち?

 

 ああ、気分がいい。力がみなぎってくる。

 この力をくれたきっかけになってくれた貴女に感謝して、さっきの質問に答えてあげましょう。

 

「この剣の名前は、タクティカルアームズ。最高の技術者が作った、最高の(つるぎ)よ!!」

 

 ――戦いは、これからだ。

 




実体剣メインで戦う葵では、PS装甲機二機とやりあうのは厳しかったようです。あやうく紅也の二の舞でしたが、彼が残した力で窮地をしのぐ!
しかし状況は変わらない。PS装甲を貫くには、ビームの力が必要だ!
タイムリミットが迫る中、葵がとった選択は――?

次回『actress again』

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