海上に、突如出現したISの反応――それは、強奪された「銀の福音」のものだ。
次いで現れる、二つのコアの反応。それは紛れも無く、デュエルとバスターであった……。
◆
〈side:強奪犯〉
「バカな!再起動やてぇ!?
エッジ!福音は機能停止してたハズやろ?」
「は、はい……。確かに、モルゲンレーテの操縦者が機能を停止させたと。私も確認しました」
「とにかく、福音は
「構へん!でも、もし裏切ったら……分かっとるな?」
「コイツが爆発するんだろ?忘れちゃねェよ」
「では、行きます!エフ、ハッチの開放を!」
エッジの声に答え、輸送機の後部ハッチが開く。そして飛び出すエッジとチョッパー。すぐにISを展開し、拘束を解かれた福音へと挑みかかる。
――そのとき、福音に異変が起こった。
◆
〈side:山代 葵〉
タクティカルアームズの性能は、想像以上だった。おかげで、当初の予定よりもはるかに早く、連中に追いつけそうだ。
「連絡です」
そんな中、唐突に
「……何?」
「ISコアの起動を確認しました。数は3。うちひとつは、福音のものです」
「……どういうこと?」
「おそらく、P-02の攻撃によるシステムダウンから立ち直ったものかと」
「……そう」
これは予想通りだ。
先程医務室へ行ったとき、8から光雷球の説明は受けている。
なんでも、ISのシステムを滅茶苦茶にするらしく、その影響でシールドエネルギーが残っていても『ゼロ』に見えるとか。おそらく、敵は福音がもう動かないと思って油断したんだろう。……獲物を前に舌なめずりなんて、三流のすることだ。
――が、報告は続く。
「その後、福音の形態が変化。おそらく、
――なお、この情報はIS学園にも気付かれたはずです。注意して下さい」
――IS学園に気付かれた。
ということは、エイミーさんやみんなが、追撃に出てくるかもしれない。
それは、ちょっと困る。
「……そう。IS学園に動きがあったら、また連絡して」
「了解しました」
通信が切れる。
……さて、情報を整理しよう。
福音の再起動&第二形態移行により、敵はデュエルとバスターを起動。
ミラージュコロイドで隠れた輸送機は、おそらく逃げただろう。
――と、いうことは。
福音と連携できれば、2対2で戦える。
……とはいえ、相手は敵も味方もなしに暴れるだろう。だから、共闘なんて不可能。
だったら、こちらが利用するまでだ。
作戦を練り直した私は、再び加速して戦闘宙域まで向かう。
レーダーなど必要ない。私が向かう先に、強烈な感情のうねりを感じる。同時に、わずかな殺気も。
殺気が薄い、ということは、やはり目的は福音を再度鹵獲することとみていいだろう。ならば、付け入る隙は多分にある。
――センサーが目標を探知。接敵まで後1分。
そんな表示が、目の前に映しだされる。心が昂るのを感じた。
あと少し……あと少しで、私は力を示せる。
見てて、お兄ちゃん。
私は、強くなったって、教えてあげるから……。
光が見える。緑と白の光が。
その間を縫うように飛んでいるのがデュエル、射程外から砲撃を繰り出してるのがバスターだろう。両方とも私には気づいてるだろうけど、気にする余裕はないはず。
3、2、1……接敵。
私は、その場にいる全員の有効射程距離内に到達した。
目に入るのは、こちらをうかがうかのように顔を上げる福音。映像で見ていた時とは違い、装甲のいたるところから翼が生えたその様子は、やはり異様だ。
おそらく、乱入者――つまり私――の動向を観察している、と言ったところだろう。
ならば、と私は福音に背を向け、デュエルに向けてビームを放つ。するとデュエルは、あろうことかビームサーベルでビームを弾き、そのまま私の方へと間合いを詰めてきた。
――その勝負、乗ってやろうじゃない。
福音から意識を外し、脚部のナイフシースからアーマーシュナイダーを抜き放つ。
瞬間、敵の心が乱れた。
『そんな鉄の塊でビームと斬り合うのか?』……と、あからさまな嘲りを感じる。
でも、それは隙だ。それも、致命的な。
振り下ろされるデュエルのビームサーベル。私は瞬時加速で距離を詰め、相手の手元に狙いを定める。
そう。ビームサーベルの本体へと……。
そして。
ビームとナイフが交差する。
「……馬鹿な……」
その驚愕は、敵のもの。結果は分かりきっていたのだから、私はいちいち驚かない。
即座に敵を蹴り、距離を取る。その瞬間、デュエルのビームサーベルが小爆発を起こした。
「……貴公、何をした?」
それに対する私の返答は、当然無言。
なんで、好き好んで自分の秘密を話さなきゃいけないの?そんなのは、少年漫画の中だけで十分よ。
まあ、種は簡単。このアーマーシュナイダーには、対ビームコーティングが施してあるのだ。
私は、前からこう思ってた。
シールドは大きすぎて、格闘戦では扱いづらい、と。
だったら格納しておけばいい、とか思っても、相手がビームサーベルを持っている場合はそうはいかない。なぜなら、間合いに入る前に斬られる可能性が高いからだ。
ならば――
武器を楯として使えばいい。
ビームサーベルの一つを破壊した私は、即座に距離を取る。
アーマーシュナイダーでは、PS装甲に傷はつけられないからだ。
焦らなくていい。敵のビームサーベルは、後一本のはず。
その一本を失えば、格闘戦でのアドバンテージは私のものだ。
……相手が一人だけなら、ね。
「喰らいぃ!」
バスターから放たれる、黄色い閃光。それは数秒前まで私がいた空間を貫いていた。
まだ脅威は去っていない。次に私を襲ったのは、福音から放たれた光の雨だった。
今の一撃は、私とデュエルを同時に狙ったものだろう。いくら私の「優先順位」が低いとはいえ、放置など有り得ない。
右肩のスラスターを吹かし、タクティカルアームズの角度を調節することで、私はアクロバットに回避行動をとる。
ちらり、とデュエルを見ると、残念ながらあちらも回避に成功したようだ。切り落としたビームサーベルの代わりに、新たにビームライフルを装備し、福音に牽制射撃を行っていた。
……え、ビームライフル?
おかしい。
あれは、確かに紅也が破壊したはず……。
まさか……すでに量産されている?
強奪犯風情が、ずいぶんと立派なバックボーンを持ってるのね。
動揺は一瞬で消し去り、それすらも戦意に変える。
福音は、デュエルを狙って攻撃を続行する。ならば、私の狙いはバスターだ。
敵ははるか遠方。ならば、近接武器はふさわしくない。
右手にビームライフル、左手にはバズーカを装備。三基のスラスターをバランスよく吹かしながら、バスターへと高速接近する。
「なっ、速い!?……でも、甘いで!」
バスターは連結した砲塔を分離し、私に向けて腰だめに構えた。左腰の補助アームに接続された高エネルギー収束火線ライフルが、私にめがけて次々と発射される。
……でも、無駄!
ハイパーセンサーで銃口の向きを捉え、手足と翼を動かすことで、速度を落とさずに回避していく。
その一方で、私もバズーカをバスターに向けて発射し、やや遅れてからビームを放つ。
まあ、昔VT-ISに使った技の改良版だ。バズーカで相手を狙い、回避したらビームに当てる。そんな戦法。
でも、相手はPS装甲機。バズーカを回避しない可能性もある。だから私はバズーカを近接信管で発射し、弾頭も閃光弾にしておいた。
元々、私の本命はビームサーベルだ。ゆえに素早くバズーカを収納し、ビームサーベルを呼び出す。
バスターは、肩のミサイルポッドから3基の小型ミサイルを放ち、バズーカを迎撃した。その間にも私を狙い続けてるんだから、相手はやはり優秀な人間なのだと分かる。
光が炸裂した。
それに驚くバスターだが、すぐに右腰のガンランチャーを光の方へ向け、発砲する。
いい手だ。弾種はおそらく散弾。ASTRAYの装甲では、おそらく耐えられまい。
格闘戦を諦め、私はビームを発射する。しかしそれが目標に命中することは無く、僅かに下降することで避けられてしまった。
「今のはいい手やったで。やるなぁ、姉ちゃん」
「……そっちこそ」
再び放たれるガンランチャー。この間合いでは反撃が難しい。
そう判断した私は一時距離を取り、次のチャンスに備えることにした……のだが。
「はあぁぁぁっ!!」
気合い一閃。
背後から恐ろしいスピードで迫るデュエルの剣技から逃れるため、前進するしかなかった。
しかもデュエルの後方からは、いたるところから光の翼を生やした福音が接近してきていた。
「どや!乱戦に持ち込めば、アンタが不利やで!」
私は未だにバスターの射程内。しかもデュエルはPS装甲でダメージを無視できるため、散弾を気にせず斬りつけてくる。
こういう相手は厄介だ。
近接戦特化、傷つくことを恐れないデュエルと。
中・遠距離専門、味方の被害を考えないバスター。
――少し、まずいかもしれない。
しかも――
「IS学園に動きあり。ISが出撃してきました」
タイムリミットが近い。
みんなが来たら、こいつらは撤退してしまう。
それでは、私が命令違反をしてまでここに来た意味が無い。
嫌だ。
それだけは、嫌だ。
「しぶとい、ですね!」
もはや一本だけしかないビームサーベルで、私と打ち合うデュエル。相手の目的も、おそらくは早期決着だろう。だというのに、その動きにはブレがない。
私もビームサーベルを展開しつつ、バスターへの更なる接近を試みるも、うまくいかない。デュエルの妨害も原因の一つではあるけど、それ以上に厄介なのが福音だ。
さっきから、私たち全員に向けて〈銀の鐘〉と〈銀の祝福〉を斉射してるのだ。狙いは荒くても、これだけの密度の弾幕の中じゃ、うかつに動けない。
……さて、狙うべきはどの機体だろう。
バスター?
……最優先で撃破したいところね。でも、現状では困難。
デュエル?
……いずれエネルギー切れで自滅しそうだけど、その前に私がやられるかも。
福音?
……ダメだ!倒したらこいつらに鹵獲されて、逃げられる!
なら――
覚悟を決め、デュエルに集中する。
武器はビームサーベルとアーマーシュナイダー。変則的なCQCとも呼べる型で、デュエルの懐に飛び込む!
「一騎討ちか!望むところだ!」
敵もナイフの間合いから外れ、ビームサーベルだけが届く距離での格闘戦を挑んでくる。
私はバスターに背を向けないように注意しながら、デュエルを上下左右、様々な場所から斬りつけた。
でも、通らない。
完全にデュエルだけに集中できれば話は別だけど、やっぱり気が散ってしまう。
そして何回斬り合ったか分からないけど、戦いは、唐突に終わりを告げた。
「エッジ!」
「! 了解だッ!」
デュエルはビームサーベルの刃を消し、瞬時加速で離脱した。
そしてデュエルが消えたその先には、再び砲を連結したバスターが……。
「ほな、さいならッ!!」
超高インパルス長射程狙撃ライフルの黄色い火線が、私を射抜かんと発射されていた。
……そう、既に発射されていたのだ。
回避は間にあわない。アーマーシュナイダーじゃ防げない。仮にシールドがあっても防げないのは、すでに紅也が身を持って証明した。
ならば、どうする?
……被害を最小限に抑えるしかない!
仮に直撃を受けても、絶対防御がある限り私は死なない。
でも、ここで気絶なんかしたら、間違いなく私と福音は鹵獲されてしまう。
――そうなれば、もう二度と、紅也達とは会えない。
迫る火線を見つめ、私は肩のスラスターを全力で起動する。
当てるなら足だ。そこなら無くなったとしても、戦闘に支障はない。
光が迫る。
ブルーフレームはまだ動かない。
のろのろと、妙に引き延ばされた時間の中で、私はゆっくりと迫る「脅威」を見つめていた。
――負けたくない!
そう思ったとき、私の目の前に光が出現した。
とっさに、その光に手を伸ばす。しかし、手はゆっくりとしか動かない。
そして――
迫る
その瞬間、時間の流れは元に戻り、私はとうとう光を掴みとった。
握ったそれは、剣の柄。それは徐々に形を成し、やがて
その瞬間。
私に衝撃が走る。
着弾の衝撃とは違う、電気のような衝撃。
それは全身を駆け巡り、私に力を漲らせた。
――この感覚を、私は知ってる。
初めてブルーフレームを装着したとき、しばらくしてから味わった感覚。
第一次移行と同じ感覚。
ならば、これは……
「なんや……。なんや!その剣は!!」
表情は見えないけど、おそらく驚愕してるであろうバスターの操縦者。
よっぽど、今の一撃に自信があったんだろう。
それはそうだろう。私だって、本気でやられると思った。
でも、現実はどう?
必殺の火線は、あろうことか剣一本に逸らされて、私は無傷。
ねえ、どんな気持ち?今、どんな気持ち?
ああ、気分がいい。力がみなぎってくる。
この力をくれたきっかけになってくれた貴女に感謝して、さっきの質問に答えてあげましょう。
「この剣の名前は、タクティカルアームズ。最高の技術者が作った、最高の
――戦いは、これからだ。
実体剣メインで戦う葵では、PS装甲機二機とやりあうのは厳しかったようです。あやうく紅也の二の舞でしたが、彼が残した力で窮地をしのぐ!
しかし状況は変わらない。PS装甲を貫くには、ビームの力が必要だ!
タイムリミットが迫る中、葵がとった選択は――?
次回『actress again』