IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第60話 トライ・フォース

「見えたぞ、一夏!紅也!」

「!!」

「ま…待て!俺はまだ……!」

 

 ようやく、箒たちの背中が見えてきた。こいつらによれば、もう福音はすぐそこだという。

 しかし、俺の視界に、まだ目標は映っていない。……いや待て。コンプリート・センサーが異常な熱量を捉えた。これは……馬鹿な!?ビームだと!

 

「加速するぞ!目標に接触するのは――「待て、箒!」紅也か、何だ?」

「前方に、ビームを使ってる機体がある。確認してくれ!」

「何を馬鹿なことを……なっ!?何だ、あの機体は!」

 

 やはり、福音とは別の機体か。

 ……騒ぎを聞きつけて、盗みにきたのか?コソドロがっ!

 加速する俺のセンサーが、ようやく敵の姿を捉える。一機は、本来のターゲット『銀の福音』。その名にふさわしく、全身は銀色の装甲に覆われ、さらに頭部から一対の巨大な翼が生えている。その姿は、さしずめ狂った天使、といったところか。

 問題なのはもう一機。白を基調とした装甲に、青い胴体の全身装甲機。左手に楯を、右手にビームライフルを持ったその機体を、見間違えるはずもない――!

 

《GAT-X102 DUEL》

(見りゃわかるよ!!)

 

 ちっ、もう一機だと!?

 何のためのブリーフィングだ、馬鹿馬鹿しい!

 

「紅也、こりゃ作戦変更が必要じゃねぇか?」

「そうだな……。俺があの全身装甲を引きつける!あいつも、PS装甲だ!悪ぃが、福音の相手は任せた!」

 

 そう言って、威力を最小にしたビームを放つ。要は、ビーム兵器を搭載していることをアピールして、デュエルの狙いを逸らそうというアイディアだ。

 

 ――が、意外や意外。

 奴は、そのまま福音との戦闘を継続しつつ、スピーカーでこちらに呼びかけてきた。

 

「そのビームライフル……。貴公は、アーチャー……いや、ブリッツを倒したモルゲンレーテの操縦者に相違ないな?」

「それが、どうしたっ!!」

 

 勢いそのままビームサーベルで斬りかかる。が、相手もビームライフルを消し、一瞬でビームサーベルに持ち替え、俺の刃を受け止めた。

 

「いい太刀筋だ……。ちょうどいい、協力していただこう。我が名はエッジだ。貴公の名は?」

「敵に名乗る奴が……いるかっ!」

 

 デュエルを弾き飛ばす。と、同時に、箒と一夏が福音に突っ込んでいくのが見えた。

 ――仕方ない。福音は奴らに任せよう。俺は……

 

「お前を倒す!」

「ですから……話を聞きな、さいっ!」

 

 空中で体勢を立て直したデュエルは、二本目のビームサーベルを引きぬき、交差させて俺の剣を受け止めた。そのままバーニアを吹かし、俺から距離を取る。

 ……くそっ!こいつ、格闘戦が上手い!

 

 ……とはいえ。

 こっちの主目的は、あくまで福音の撃破。

 一撃必殺作戦なら、今距離を取らせたことには、十分な価値がある。

 そして決着がついた後、二人の助けを借りてこいつを――

 

「敵増援確認。迎撃モードへ移行。〈銀の鐘(シルバー・ベル)〉、稼働再開」

 

 唐突に聞こえた、垂れ流しの音声。

 おそらく福音から発せられたであろうそれは、恐ろしく抑揚のない、平坦な機械音声だった。これなら、8に表示された文字の方が、まだ温かみを感じられる。

 この声から感じられるのはただ一つ――敵意だけだ。

 

 戦闘に備えて、箒や一夏とリンクを確立していたのが幸いした。この声を聞き逃していたら、俺は背後に気を配りはしなかっただろう。

 戦闘状況を確認。

 最初の一撃は回避されたみたいだ。零落白夜は出ているものの、敵に損害は見られない。

 箒は一夏の背後を守りつつ、福音を牽制。一夏は刀を振り続けているも、ひらりひらりとかわされている。――どうやら、作戦通りにはいかなかったか。

 一瞬、後退したデュエルを見る。どうやら、俺に最接近する気は無いらしい。

 ひょっとして、共倒れになるのを待ってるんじゃねぇか?姑息な手を使う!

 でも……今なら、一夏たちの援護に入れる。

 

「一夏、箒!援護に入る!」

「紅也!だが……」

「零落白夜もそろそろ時間切れだろ?選手交代だ!」

「待てっ!あと少しで……」

 

 一夏が、雪片弐型を大きく振りかぶる。

 一撃で倒す。そんな一夏の信念が込められたかのような太刀筋だ。

 だが――敵にとってその動きは、あまりにも遅かったらしい。

 

「!!」

 

 一夏が息をのむ音が、リンクを通じて伝わってくる。

 それもそのはず。福音の多方向推進装置(マルチスラスター)である、銀色の翼の装甲の一部が、花のようにゆっくりと開く。

 

 否。ゆっくりに見えてるのは錯覚で、アドレナリンとかそういうもののせいなんだろう。

 

 開いた翼の中。そこには数えるのも馬鹿馬鹿しくなるくらいの、おびただしい数の砲口が存在した。福音は翼をせり出し、すべての砲口を一夏へと向ける。それを俺の脳が知覚した瞬間――そこに、羽根が降りそそいだ。

 

「ぐうっ!?」

 

 状況が違えば、それはそれは幻想的な光景に見えただろう。

 しかし、その羽根の正体は、高密度に圧縮されたエネルギーの塊だ。どこのファルザービーストだ!とか、ギャグを発する余裕もない。

 羽根の雨は白式の装甲に突き刺さり、一斉に()ぜた。

 

《これが銀の鐘(シルバー・ベル)……。なんという連射速度だ!》

「ビームほどじゃねぇが、火力もな!一夏、無事か?」

 

 その返事に答えるかのように、一夏が煙の中から現れる。ところどころにダメージが見られるが、どうやらまだ戦えるらしい。零落白夜も残ってる。

 よし!まだ終わってな――

 

「ええい!どこを見ている!」

 

 唐突に聞こえた第三者の声。確認するまでも無く、デュエルの操縦者だ。

 くそっ!決着までは静観だと思ったが、読みが甘かったか!?

 デュエルは左手に構えたシールドで体を隠しながら、こちらへ向けて突っ込んでくる。

 あれはアンチ・ビーム・シールド。ビームサーベルでは効果が薄い。ならっ……

 

 ガーベラストレートを抜刀。正眼に構え、楯を切り捨てるべくカウンターの体勢に入る。

 

「紅也!」

 

 箒の叫び声が聞こえたのは、そんなときだった。

 その瞬間、迂闊にも俺は、デュエルから意識を逸らしてしまった。

 そして――自分の愚かさを思い知ることになった。

 

(羽根――!?)

 

 銀の鐘は全て、一夏を狙っているものだと思ってた。

 その原因は、俺の脅威度が低いと判断されたためだと思い、油断していた。

 それが何だ?抜刀したことで脅威が高まったのかどうか知らないが、奴は隠していた砲口の一部を俺に向け――発射してきたのだ。

 

《回避――》

(できねぇっ!!)

 

 脚部の姿勢制御スラスターを作動させるも、直撃コースから逃げ出すには遅すぎた。

 破壊をもたらす光の羽根が、ゆっくりと俺に近づいてきて――

 

 瞬間。

 視界が、何かに遮られた。

 

 

 

 …。

 ……。

 ………。

 …………ダメージ無し、だって……?

 

「だから言ったでしょう!?『どこを見ている』と!」

「……は?」

 

 機体の被害状況に呆然としていた俺を現実に引き戻したのは、そんな声だった。

 

 周囲を確認。

 一夏――戦闘中。〈銀の鐘〉の大半にロックされているも、逃げ切っている。

 箒――俺に近づいてきたようだが、まだ距離がある。

 

 じゃあ……この楯の持ち主は、誰だ?

 

「いつまで呆けている気ですか!離脱しなさい!」

「え?……なっ!?」

 

 センサーに映った光景を見て、俺はようやく現状を理解する。

 俺を狙って放たれた〈銀の鐘〉。それを防いだのが、あのデュエルのパイロットであると。

 

「な……何のつもりだ!?」

「最初に言ったでしょう?『協力していただく』と」

「だから、それが『何のつもりだ』、って言ってんだよ!」

 

 後退しながら、俺はスピーカーで話しかける。事情は分からないが、一応助けられた身だ。本当は今すぐにでも斬りつけてやりたいが、そうもいかない。

 

「まず一つ言っておきます。私の目的は、福音の捕獲です」

 

 後退しながら、奴もスピーカーで話しかけてくる。

 どうやら、俺がオープンチャネルを使えないと思ったらしいが……好都合だ。

 

「何だ?Xナンバーの次は軍事機密か?お前ら、本当に強奪が好きだな!」

「どの口が言いますか、モルゲンレーテの操縦者。

 ……続けます。そして貴公らの目的も、福音の捕獲でしょう」

「……ああ、そうだ」

 

 ようやく、安全な距離を取れた。

 箒と一夏は連携を取り、左右から福音を挟み込む戦法をとっている。

 

「ですが、お恥ずかしいことに、私だけでは太刀打ちできない相手なのです、あれは。

 そして……おそらく貴公らでも勝てないでしょう」

 

 ――コイツ、今何て言った?

 俺達3人が……いや、この際それは置いといていい。

 こいつが……Xナンバーが、太刀打ちできない相手?

 

「そんなバカな!さっきのはエネルギー兵器だが、PS装甲を貫通できるほどの出力は無かった!それなのに、何故……」

「……貴公なら、すでに予想が出来ているのでは?」

 

 その言葉で、俺は熱くなった頭を、一旦冷やすことにする。

 

 〈銀の鐘〉に、PS装甲を貫通するだけの出力は無い。

 しかしこいつは、PS装甲でも太刀打ちできないと言う。

 ならば、別の武装が脅威だということ。

 PS装甲の脅威になりうるのは――

 

「どうやら、気付いたようですね。さて、貴公はどうしますか?」

 

 センサーに映る福音は、すでに〈銀の鐘〉の発射を止め、距離を取ることに徹していた。

 今までとは違う動き。今までとは違う、ナニカをするための――

 

「分かった、共闘だ!赤い方を守ってくれ!」

「承りました!」

 

 もはや、話し合いの余地は無かった。

 俺が一夏の方へ、あいつが箒の方へ、全速力で向かう。

 

「! 紅也、何で……」

「なっ、貴様は……」

「「話は後だ!!」」

 

 俺は福音と一夏の間に立ち、アンチ・ビーム・シールド(赤)を実体化させる。刹那、福音から聞こえた機械音声が、その判断が正しかったことを証明した。

 

「敵機脅威度、大と断定。〈銀の祝福(シルバー・シャワー)〉、稼働開始」

 

 敵の翼から、さらなる砲口がのぞく。そして――

 

 緑色の雨が、俺達へと降りそそいだ。

 

「やはりビーム兵器!」

「やはり? 紅也、一体どういう……」

「赤いお嬢様、楯から出ないでください!」

「そ、そういえば紅也!あいつと敵対してたんじゃ!?」

 

 会話をしながら、俺達は福音から距離を取る。…よし。だいぶビームの密度が薄くなった。

 左手にシールドを、右手にビームサーベルを構え、俺は福音の方を向く。

 

「今回限りの共闘だ!期限は、福音撃破まで!……アンタ、その後どうする?」

「アンタではなく、エッジと。撃破後は、私は本来の任務を果たします。止めたければ、貴公らが私を倒せばいい」

「ずいぶんな自信だな……。OKだ!一夏、箒!援護してくれ!」

 

 楯を正面に構え、俺は福音へと突進。ビームが楯に命中するが、俺本体に致命傷は無い!

 

「私はビームライフルで牽制します。当らないでくださいよ」

 

 エッジは、福音の周りを円軌道で周回し、ビームを放つ。

 福音はそれを紙一重でかわしているが、ビームの熱にやられて装甲がところどころ焦げている。

 

「私もいるぞ!」

 

 そこへ箒の斬撃が飛来。〈空裂(からわれ)〉によって生まれたエネルギー帯と、〈雨月(あまづき)〉から放たれたエネルギー刃が、福音の動きを鈍らせた。

 

 ――好機!

 

「うおおぉぉぉぉ!!」

 

 ――斬ッ!!

 

 非殺傷の範囲で出力を引き上げたビームサーベルは、福音の左足を、しっかりと斬り裂いた。

 

「外したっ!!」

「ならば私が」

 

 牽制は箒一人で足りると判断したのか、エッジまでもが格闘戦を挑む。

 狙いは背後のウイングスラスター。敵の機動力と攻撃力、その両方を削ぐのが狙いだろう。

 

「La………♪」

 

 さらに砲口が増えた。左右合計、48門。

 そして全方位(オールレンジ)に放たれる、緑の光と輝く羽根。

 至近距離にいた俺達二機はそれをもろに食らい、再び後退を余儀なくされた。

 

「くっ……楯が……」

 

 エッジが漏らしたように、俺のシールドもかなりヤバい。〈銀の鐘〉でシールド表面の対ビームコーティングを削られ、〈銀の祝福〉でシールド本体を削られた。

 視界の隅で、ビームサーベル二本を構えたデュエルが見える。おそらく、ビームをはじきながら再接近するつもりだろう。打ち合ってみて分かったが、彼女にはそれだけの技量がある。

 一方の俺は、アンチ・ビーム・シールド(青)を取り出すと、一夏に呼びかけた。

 

「一夏、零落白夜は使えるか?」

「もう残り僅かだ!大事に使っても、もって後30秒!」

「それだけありゃ十分だ!箒、また援護を頼む」

「策があるのか?」

 

「ああ……。気は進まないけど、な」

 

 俺はエッジに接近し、彼女の前に出た。

 

「何のつもりだ?」

「俺が楯になるから、アンタが頃合いを見て奴を斬ってくれ!」

「……首級は私が獲ることになるが、いいのか?」

「構わねぇ!これしかねぇんだ!!」

「……貴公に感謝を!」

 

 燃料は気にせず、瞬時加速。と、同時に、ぴったりとタイミングを合わせたエッジもまた、瞬時加速を始める。

 二機が一体となり、矢のように福音に迫る。それに気づいた福音が、火線を俺に集中させるも、俺達は止まらない。

 

 ――不思議な感じだ。

 エッジとはさっきまで敵同士だったのに、今は自然に背中を預けている。

 こいつの人柄ゆえだろうか?どうしても、背後から不意打ちするような人間とは思えない。

 同時に、卑怯な手を使うとも思わない。とても真っすぐで、いいヤツ(・・・・)だ。

 彼女は、今この瞬間だけは、とても心強い相棒だった。

 

 光をばら撒きながらも、福音は上昇して逃げようとする。

 しかし、さっきから斬撃を飛ばし続ける箒によって阻まれ、動くことが出来ないでいる。

 ……エネルギーは大丈夫なのか?

 そして一夏は……よし、指示通りに動いてるな。

 

「俺は下がるぞ!決めろよ、エッジ!」

「了解した!!」

 

 すっ……と推力を落とし、俺はエッジに追い抜かれる。

 福音に迫る、二刀流のデュエル。それを見届けた俺は……

 

 自身のビームサーベルに、エネルギーをこめる。

 

 知ってるか?いいヤツってのは、寿命が短いんだよ。

 

 ×の字に振り抜かれる、ビームサーベル。しかし福音は、一瞬のうちに後方へと加速することで、その直撃を避けていた。

 

 ――今だ。

 

「行けぇぇぇ!一夏!!」

 

 叫びながら、俺も瞬時加速。

 狙いは、攻撃直後のデュエルの背中。共闘は、福音の撃破までだ。

 後は、一夏が福音を落とせば……!

 




福音もパワーアップ。

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