そろそろ手元にないと最新話が書けない……。
さて、あんなことがあった以上、まともに泳ぐことが出来なかった俺は、そのまま浜辺でだらだらしていた。
う~ん、水着って、いいよねぇ。
きゃいきゃいとはしゃぐ女子を見ていた俺は、気が付いたら眠ってしまい、目が覚めたら夕方だった。少し損した気分ではあったが、まだ初日なんだから、と自分を励まし、遊びから戻ってきた葵たちと共に旅館へと撤収した。
……手抜き、とか言うなよ?実際、延々と睡眠描写したって、面白くねぇだろ?
◆
昼の時とは異なり、全員一緒の夕食。今日の料理は和食だ。
「うん、うまい!昼も夜も刺身が出るなんて豪勢だなぁ」
「そうだね。ほんと、IS学園って羽振りがいいよ」
そう話してるのは、俺の向かいに座っている一夏と、その隣にいるシャル子。前は箸が苦手だったはずのシャル子は、いつの間にやら使い方をマスターしたようで、話しながらも器用に山菜をつまんでいる。一方、その反対側、つまり一夏の左に座っているセシリアは、正座がつらいのかなかなか食事が進まない様子。そんなに一夏の隣をキープしたかったのか?
……でも、おかしいなぁ。あの席は、たしか
くいくい。
不意に、浴衣の左の袖を引かれた。
……何故浴衣?と思う人のために説明しておこう。
なんとこの旅館、『お食事中は浴衣着用』という、読者サービs……げふんげふん。もとい、なんとも奇妙な決まりごとがあるのだ。そのため、現在の俺はもちろん浴衣。
一夏も浴衣。シャル子も浴衣。周りの女子も全員浴衣。
――これぞ、固有結界『
いやあ、眼福眼福。
閑話休題。
で、浴衣の袖をつつましく、いじらしく、かわいらしく引っ張ったのが誰か、って話だったよな?俺の左隣に座っている、その手の主は、葵だ。
「……紅也」
「ん?何だい?」
「……苦手」
…………………なっ…………!?
このとき俺が受けた衝撃は、どう表現すればよいだろうか。
最愛かつ相思相愛(に違いない)の妹が、わざわざ何を言うのかと思ったら、いきなり『苦手』宣言とか。
これが反抗期か?
いや、それよりも。
何でだ?俺、何か嫌われるようなことをしたか?
心当たりは……ある。それも、海での出来事だけに絞っても、3つほど。
その3つ。たった3つの失敗が、兄妹の絆を引き裂いてしまうとは―――ッ!!
……俺の人生は、何だったのか。
ちくしょうっ……あんまりだッ……。こんなのって、ねぇよ……。
「……だから、苦手」
「まさかの追い打ちキタ――(°∀°)――!!」
ひどすぎる。鬼か?いや、鬼畜王だ。
ここで追撃とか、どんだけSなんだよ、葵。
そんなにお兄ちゃんが嫌いか?俺の評価は、そこまで低くなってたのか?
何が悪かったんだ!?教えてくれ!葵!!
そんな俺の内心を知ってか知らずか、葵は俺の皿の方へと箸を伸ばし――って、箸?
「……お刺身、苦手。あげる」
ぽとり、と。
俺の皿の上に、瑞々しい生魚の切り身を置いたのだった。
「……えーと、苦手って、刺身のことか?」
「……?他にあるの?」
「………いや、ねぇよ」
最後の方、思わず憮然とした返事になっちまった。
なーんだ、俺の勘違いか。よかったよかった。
そうだよな。葵が俺のこと、嫌うはずがないもんな!うんうん。
……と、いうことは、こんな誤解をした俺は、葵のことを信じ切れていなかったとでもいうのか?馬鹿な!
ああ、恥ずかしい!穴があったら埋まりたい!!
「じゃあ、貰うぜ。なんか欲しいおかずはあるか?」
「……わさび」
「刺身が無いのにわさびだけって、どうするんだよ……」
そうは言いながらも、俺はわさびの山を箸でとり、葵の皿へ運ぶ。そして箸に付いた残りを刺身に塗りつけ、しょうゆに浸してから口に運んだ。
……食べたことのない、独特な歯ごたえだ。何の魚かは分からねえけど、とりあえず一言。
うますぎるぅ!!もっと食わせろ。
いやぁ、生の魚がこんなにうまいなんて、大発見だ。
この味に出合えただけでも、日本に来て良かったと言える。
だって、ピラルクーとかアロワナなんて、食べごたえはあったけど身が硬くて、まずいったらありゃしなかった。最初に刺身を頼んだときは『覚悟』を決めたこともあったけど、今となってはあの日の自分を笑ってやりたいね。
で、俺からわさびを受け取った葵はというと、わさびと山菜を混ぜ合わせ、味噌汁につっこんでいる最中だった。赤みがかっていた汁が、なんとも形容しがたい色に変わっていく。
「……和食を……ナメてる……」
そう発言したのは、現在俺の右に座っている簪だ。昼間助けてもらったお礼をしようと提案したら、隣の席で夕食が食べたいと言ってきたため、確保したのだ。……これってお礼になるのか?気を使われただけのような気がするんだよなぁ……。
「しょうがないさ。葵の味覚は、ちょっと変わってるんだ」
「……『ちょっと』?」
「………ああ、『ちょっと』だ」
頑張れ、俺!さっき、葵を疑ってしまったんだ!今度こそ、信じてやらなくてどうする!?
残ったわさびの山を、おいしそうに食べる葵を見ながら、俺はそう決意した。
「っ~~~~~~~!!」
突然、シャル子が鼻を押さえる。こころなしか、その目には涙が浮かんでいるような気もする。……まさか、葵の真似をして、わさびを食べたのか?
ダメじゃないか!ちゃんと、『良い子はマネしないでください』って言っただろ!?
……え、言ってない? 今言ったからいいの!
「だ、大丈夫か?」
「ら、らいひょうぶ……」
無理して笑うな、シャル子。すげぇ痛々しい顔してるぞ。
「ふ、風味があって、いいね……。お、おいしい……よ?」
「……シャル子、もういい。しゃべるな」
ええい、どんだけ優等生なんだ、コイツは!アレか?Noと言えない日本人って奴か?
……いや、シャル子はフランス人か。
と、ここで一部始終を見ていた葵が唐突に手を伸ばし、箸を持つシャル子の右手を両手でがっちりとホールドした。
その瞳は、心なしかきらきらと輝いているようで……。
「……同志」
「……え?」
「……あげる」
ホールドを解いた葵は、まだ残っていたわさびを箸でつかみ、シャル子の口元へと運んでいく。多分、さっきの発言を字面通りに信じた結果の行動だろうが…。相手の顔を見てやれよ。滅茶苦茶嫌そうだぜ?
「遠慮はいらない」
「いや、遠慮とかじゃなくてね、えーと……」
「……私は十分味わった」
「ぼ、僕も十分かなー、なんて……」
箸を伸ばす葵と、やんわりと断ろうとするシャル子。が、無駄だ。
そんな控えめな『拒否』じゃ、今の葵には通じないぞ~。
「……いいなあ」
「何が?」
ぽつり、と呟く簪に、俺は思わず返事を返す。
あれがよさげに見えるのであれば、俺は眼科の受診をお勧めしたい。
……とか考えていたのが伝わったのか、はたまた独り言を聞かれたことが恥ずかしかったのか。簪は急に両手をパタパタと振り、話し始めた。
「……えと、あの……なんでもな……なんでもあるの」
「とりあえず落ち着け。混乱しすぎで日本語が意味不明だぜ」
そう言ってやると簪は手を止め、目を閉じて軽く深呼吸――軽いのか深いのかどっちなんだ――としてから、再び話し始めた。
「あ……あの……『あーん』ってやるやつ……。仲が良さそうで……」
「羨ましい、とか?」
「う、うん……」
そう言って、照れくさそうに目を伏せる簪。……何この可愛い生き物。
「そっか。じゃあ……ハイ」
そう言いながら、俺は手をつけてなかったお新香を箸でつまみ、簪の口元へと運ぶ。
反射的な行動だったのか、簪は小さく口を開け、それを受け取った。
「……!!」
「どうだ?」
そう問いかけるも、反応は無い。……いや、咀嚼は続いてるものの、どこか上の空というか、何というか……。ちょっと不意打ちすぎたかな?
《……クリエイター、あまりマイスターを困らせないで下さい》
8の回線を通して、クリムゾンが呼びかけてきた。
久しぶりの登場だな、お前。正直、作者も忘れかけてたよ。お前の存在。
「あ~!やまぴーがかんちゃんに『あーん』してた~」
「いいなぁいいなぁ。私にもやってー!」
「悪いけど、それは無理だ。これは簪に助けてもらったお礼みたいなもんで、特別サービスだから」
「! ……と、特別……」
「え~。ざ~んねん。それにしても……くふふ~」
間延びした口調で話す布仏さんが、なんだか意味ありげな視線を簪へと送る。……なんだろうな?
《……クリエイター。わざとやっているのですか?》
《狙ってやれるほど器用じゃないさ、紅也は》
◆
……ピシリ。
「あ、葵?箸、割れそうだけど……」
「……気のせい」
「シャルの言うとおりだ。取り替えてもらった方が……」
「……うるさい」
ひょいっ。ぱくっ。
「~~~~~~~!!」
「い……一夏ぁ~!!」
(……何をやっているんだ、あいつらは)
◆
そんなこんなで食事もひと段落。
あの後、床をのたうちまわる一夏が織斑先生に叩かれたり、簪が走り去ったり、左隣から正体不明の殺気をたたきつけられたりと、まあいろいろあったが、それはこの際置いといて。
俺は久しぶりに、自分が使う部屋である、山田先生の部屋へと戻ってきていた。
先程テントのあったあたりへ行ってみたが、「Eintritt verboten!」と書かれたテープが張られており、近づくことができなかった。まあ、一夏の話を聞く限り、俺の持ち物が残っている可能性は低いんだけどな。
でもなあ……99%は、100%じゃないぜ?
とはいえ、現場に落ちてたものはラウラか教師が回収しただろうから、後で聞いてみようと思い、戻ってきた次第である。
(……でも、山田先生どころか、織斑先生までいないとは……)
どこに行ったのかは分からないが、山田先生と織斑先生は部屋にいなかった。かといって他の教師を訪ねる訳にもいかず、またわざわざカモがネギ背負ってラウラの部屋に行く勇気など持っていない俺は、とりあえず今持っている荷物を展開することにした。
幸い、海で使うものはダメになったが、日用品や着替えはまだ8の中で量子変換されている。それらをひとつひとつ展開し、自分の記憶と照合しつつ、手早くまとめていった。
そしてその作業がひと段落した頃、唐突に8から「ブー!」と音が鳴った。
《向かいの部屋に反応2。教師が部屋に戻ったようだ》
浮かんだ文字は、織斑姉弟の帰還を示すものだった。
いいタイミングでの連絡だ。ひょっとしたら、作業が終わるまで待っててくれたのか?相変わらず
「おっけ。じゃ、ちょっと行こうぜ」
《ああ、それと……》
8を片手に、部屋の外へ。
空いた右手でドアノブを回し、内開きの扉を引っ張ると――
「「……………………」」
そこには、俺が予想していなかった光景が広がっていた。
《ドアの前に生体反応2。知ってる奴らだ》
「見りゃわかるよ……」
織斑部屋のドアの前。そこに箒と鈴音の二人が張り付いていたのであった……。
葵の欠点①:味覚が特殊。しかし、流石にセシリアの料理は食べれない。
???「不本意ですわ!」