IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第52話 ありふれた、されど一番の宝物

「待って、紅!」

「……鈴。葵を頼む。知ってのとおり、頼りないやつだからな」

「……紅……。……うん、分かってる。あたし、頑張るから。きっと、あいつが自分を好きになれるように頑張るから。だから、あんたも……!」

「……答えは得た。大丈夫だよ鈴音。俺もこれから、頑張っていくから……」

 

 

 

 

 

 

 ……どうやら俺にかかっていた狂化の呪いは、鈴音に倒されたことで解けたらしい。

 正直、助かった。あのままだったら、せっかくの自由時間を楽しむことはできなかったはずだからな。

 

「心残りはそっちなんだ……」

「ん、シャル子。いたのか」

「最初から見てたよ……。はい、これ」

《よう、相棒。まだ生きてるか?》

「あ、8。一緒に飛ばされてたのか」

 

 海から上がり、潜水服を脱ぎ捨てる(実際は『脱ぐ』っていうより『残骸を外す』って感じだな)。そしてシャル子から8を受け取ると、量子化していたタオルを取り出し、体を拭く。……ああ、気持ちいい。

 

「……で。一夏、葵。ちょっとこっちに来てくれ」

 

 ちょいちょい、と手招き。葵がとことことこちらにやってきて、一夏はその後ろについてくる。その様子から一瞬カルガモの親子を思い浮かべてしまい、少し笑いがこぼれそうになるのを我慢する。

 

「……何?」

「言っておくけど、俺は止めたほうがいいって言ったからな?」

「葵はあんまし関係ない。ちょっと一夏に質問があるんだが……」

 

 『止めたほうがいい』って、さっきの鈴音からのリンチのことだろうか?あれに関しては、あんまり気にしてない。最後の方なんか、俺もあいつもノリノリだったし。

 ま、そんなことより、聞きたいのはそのきっかけ。俺が空を舞ったときの話だ。

 

「お前、あの時テントの前にいたよな?何があったんだ?」

「……あー。非常に説明しにくいんだけど……」

 

 そう前置きをしてから、一夏は話し始めた。

 降ってきたにんじん。四散するテント。空飛ぶ潜水服。現れたアリスもどき。終始空気のセシリア。

 断片的な情報だったが、何となく状況はつかめた。

 

「……つまり、篠ノ之博士が俺を殺しに来た、と」

「全然伝わってねぇ!?」

 

 いや、大事なのはそこだけだろう。(タマ)狙われたんだぜ?ニンキョー的に考えて、報復あるのみだ。

 ギャグ補正がなければ、間違いなく死んでた。シリアス回じゃなくて、本当によかった。

 

「……メタ発言、自重」

 

 葵に指摘される。そういや、ずいぶん前に自重することを決意したはずだったけど……臨海学校だからネジが緩んでたか?反省反省っと。

 

「……絶対懲りてないでしょ」

「いや、懲りた。だから、今度はもっと対空設備を充実させたテントを……」

「ベクトルが違う!!」

 

 鈴音に怒られた。つられて他の4人も苦笑い……って、4人?

 

「セシリア、いつの間に?」

「一夏さんの説明中にはいましたわ!!」

 

 おおう、空気だったから気付かなかった。ごめんな、セシリア。

 

「……ってことは、空気云々っていう発言も……?」

「ええ、しっかり聞かせてもらいましたわ、一夏さん」

 

 にっこりとほほ笑むセシリア。その表情はよくできた絵画のように美しい。

 惜しむべきは、その額に複数の青筋が浮かんでいることだが。

 

「あ……あの~……セシリア、さん?」

「一夏さん、大事なお話がありますから、一緒に来てくださいませんか?」

「一緒に……って。こら!引きずるな!そっち岩場で、何もないから!!」

 

 OHANASHIだよな。間違いなく。

 一夏終了のお知らせ。織斑先生の次回作にご期待ください!

 

「じゃあ、遊ぶか!!」

「……うん!鈴音とシャルロットも……来る?」

「え、ええ」

「じゃあ、行こうかな~……」

 

 そう言って、俺達4人は歩き出す。案外薄情な連中だった。

 

 

 

 

 

 

 遊ぶとはいったものの、特にアテがあるわけではない。

 なにせテントは吹き飛ばされ、そのとき展開していた遊び道具やカメラや双眼鏡は、全て壊れてしまった。特にゴムボート。あれで漂流するのを楽しみにしてたのに、破裂してしまった。泣きたい。びょーびょー泣きたい。

 

「……じゃあ、スイカ割りは?」

「そもそも、スイカを用意してないな……」

「……別にスイカでなくてもいい。例えば……」

 

 そう言って葵が指さしたのは、サッカーボールと同じくらいの大きさの岩だった。

 

「なるほど。スイカが食べたいんじゃなくて、そんな感じの遊びがしたいわけね」

「……そう」

「僕はいいと思うけど」

「じゃ、決まりかな」

 

 意見がまとまったところで、俺はその岩を拾い上げ、適当な所に置く。岩は砂にめりこみ、程よく固定された。

 そして準備は完了。棒の代わりに木刀を、目隠しの代わりにテントの切れ端を用意し、皆の所に戻ろうとすると、唐突に声をかけられた。

 

「嫁よ、何をやっている?」

「遊びの準備だよ、ラウラ。遅かったけど、何かあったのか?」

「うむ。中庭で爆発騒ぎがあったようなので、調査をな」

「……………」

 

 俺のせいでした。いや、俺のせいじゃないけど、俺が関係してるし……うーん。

 

「悪ぃな、ラウラ。……そうだ、ラウラも一緒にどうだ、スイカ割り」

「スイカ割り?何だ、それは?」

「……まあ、見たほうが早いな。来いよ」

 

 俺は説明をしないまま、ラウラを先導して歩く。鈴音はラウラに対して思う所があるようだが、とりあえず追い返す気はないようだ。ちょっと安心だな。

 

「……と、いうわけでこの5人でスイカ割り……もとい『いわくだき』をやろうぜ!」

「砕けるかっ!」「砕けないよっ!」

 

 いきなり二人に反対された。

 だけど葵とラウラは無言。無言は肯定とみなしまーす。

 と、いうわけで多数決で決定!

 

「ルールは簡単!この目隠しをつけて、くるくる回り、周りの声を頼りに岩まで向かい、そして木刀で叩く!当れば勝ちだ」

「な、何だ……。砕かなくてもいいのね」

「それなら参加しようかな、うん」

 

 当たり前だ。素人がただの木刀で斬岩剣なんか使えたら、いよいよパワーインフレが心配になってくるじゃないか。

 ともかく、今度は全員の賛成を得られた。じゃあ楽しい楽しいスイカ割り、始めるとしようか!!

 

 

 

~一巡目・一人目:紅也~

 

「ほーら、回りなさい!」

「いやぁ!やめてください、お代官さまぁ~」

「よいではないか、よいではないか~」

 

「鈴、楽しそうだね」

「……紅也も」

「嫁にそんな趣味があったとは……」

 

「違うからな!!」

 

 とういわけで10回転したあと、ふらつく頭をおさえつつ木刀を構える。……軽いなぁ。やっぱ真剣じゃないと、しまらねぇなぁ。

 最後に確認した位置は、俺の左前方、二十歩くらい先だったはず。記憶を頼りに歩き出すも……。

 

「紅也!僕の方に来てどうするのさ!岩はあっちだよ!」

「右よ右!ああもう、行き過ぎ!!」

「……まっすぐ」

「11時の方向、距離8だ」

 

 ……ごちゃごちゃうるせぇ!!

 『あっち』ってどっちだ!見えねぇよ!

 鈴は的確だけど、右に歩けばいいのか右を向けばいいのかどっちだ!

 葵は声が小さい!聞こえないぜ。

 ラウラ!12時の方向って、どっちだ!距離の単位は何だ!?

 

「そこだよ、そこ!」

「今度は左!……そっちじゃないわよ!」

「……後ろ」

「6時の方向だ。近いぞ」

 

 とりあえず、近くにあることはわかった。

 だが、距離がわからん。……こうなったら―――

 

「空破斬!!」

 

 斬撃を飛ばして、叩き斬ってやる!!

 

 

「きゃー!?パラソルが!」

「海が裂けた!?」

「何なにナニ~!?」

 

 

 ……外したか。

 

「何やってんのよこの馬鹿は~!!」

 

 腹部に衝撃。声からして鈴音だろう。痛い。

 そのまま後ろに倒れた俺は、頭を岩にぶつけ、悶絶することになった。

 

 

 

~一巡目・二人目:シャルロット~

 

「うう……目が回るよぅ……」

「我慢しなさい!元・男でしょ?」

「そういう誤解を招く発言はやめてくれないかなぁ!?」

「……勝った」

「私は負けたようだ」

「なあ、何で俺は参加しちゃだめなんだ?」

「あんた男でしょうが!!女の体に触りたいわけ?」

「……ちっ」

 

 だって、なぁ。回してる最中に胸とか触っちゃっても、アクシデントで済むよなあ?葵とラウラなんか、露骨に大きさ比べてたし。

 

「……GO」

 

 葵の号令で、シャル子が歩き出す。その足取りはおぼつかなく、生まれたての小鹿のようにプルプル……じゃない、フラフラしてる。

 俺もあんな感じだったのか?

 

「真っすぐ歩けー。右に行ってるぞー」

「もうちょっと左ー。そこで止まって!」

「……そのまままっすぐ」

「5時の方向、距離3だ」

 

 さすがはシャル子といったところか。皆の声を聞き、すぐに岩の前までたどり着いた。

 ……でも、ここですんなり終わったら、面白くねぇよなぁ。

 鈴音とアイコンタクト。奴もニヤリと笑う。やっぱりわかってんなぁ、コイツは。

 ……作戦開始だ。

 

「まだ距離あるぞー」

「真っすぐ走りなさい!」

「……止まって」

「近すぎる!やめろ!」

 

 スイカ割りの真骨頂。声をかける人間が、必ずしも正しいとは限らない。

 見てる方には、見てる方の楽しみ方があるのだ。

 

「~~~痛ったあ!?」

 

 シャル子、失敗。岩に脛をぶつけてしまった。

 ちょっと痛そうだけど……傷は残らないし、大丈夫だろ。

 

 

 

~一巡目・三人目:葵~

 

「右回転!」

「次は左回転!」

「あはは……やりすぎじゃない?」

「……目が、回る」

 

 葵は、平衡感覚がハンパない。そこで念には念、いつもより多めに回しておりま~す!!

 

「……目、回った」

「ふ、ここまでだな」

「じゃあ、スタート!」

 

 シャル子の声を合図に、葵が歩き出す。足取りはしっかりしているが、向かっているのは見当違いの方向だ。回すついでに、スタート地点も変えさせてもらった。これで、そう簡単にはいかないだろう。

 

「左……と見せかけて後ろだ!」

「実は上よ!」

「二人とも、真面目にやったら?」

「7時の方向だ。間違えるなよ」

 

 唯一信頼できそうなラウラの情報をもとに、葵は歩き始めた。……が、そっちは海。

 どうやらラウラも、だんだんと楽しみ方が分かってきたらしい。

 俺の方を見て、「ふふん」とでも言いたげに胸を張っている。張るほどないのが残念だけどな。

 

「……12時の方向、距離30。全力で振り抜け」

「ストップ!それは岩じゃなくて、俺の位置だ!!」

「何言ってんのよ。岩の位置でしょ?」

「嘘は良くないよ、紅也」

 

 なんてこった!

 女性陣が、全員敵になっちまった!

 まるでパルヴァライザーを倒した後、いきなりIFFが切り替わったような衝撃が、俺を襲う!!

 

「葵!信じてくれ!そこにいるのは……」

 

 そこまで言って、反射的に頭を下げる。遅れてヒュン!と風を切る音がした。

 ……葵のやつ、木刀を投擲しやがった!!

 

「……外した」

「何で残念そうにするかなぁ!?」

 

 

 

~一巡目・四人目:鈴音~

 

「ああもう、みんな、情けないわね!アタシが手本をみせてあげるわ!!」

「よし、回してくれ」

「……了解」

「いいよ」

「嫁のためだ、悪く思うな」

 

 三人の言葉を皮切りに、鈴音が高速回転を始める。

 遠心力でツインテールが横に伸び、コマみたいだ。しかも足下からは砂埃があがってて、その様子から俺はネオドイツのガンダムファイターを連想した。

 

「止~め~て~!!」

「……ゴー・シュート」

「スピニングコング?」

「いや、シュトゥルム・ウント・ドランクだろう」

 

 三者三様の言葉で、回転する鈴音を送り出す。その勢いは一向に衰えず、鈴音は人間ベイブレードと化したまま、一直線に岩へと突き進んだ。

 そして、激突。

 木刀は岩に命中するも、鈴音の螺旋力をまともに受けたためか、真っ二つに砕けてしまった。

 

「ああ!王刀が!!」

「……ただの木刀」

「ただの木刀、じゃない……さいこうの木刀さ!」

「ま、壊れちゃったら一緒よね」

 

 ……とはいえ、木刀が折れたら、もう『いわくだき』はできない。

 

「悪いな、ラウラ。お前の番まで回せなくて」

「気にするな。私は十分に楽しんだ。機会があれば、また『スイカ割り』をしてみたいものだ」

「そう言ってくれるとありがたいぜ」

 

 ……そういえば、ひょっとして俺は、ラウラに間違った『スイカ割り』を教えちまったんじゃないだろうか?

 今更ながら、少し不安になった。

 




日常回。水着回でもあるはずが、描写を省いているせいでそんな感じがしませんね。
紅也にとってはこうした日常こそが大切なものだったりします。

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