IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第51話 天災襲来

「ふー、さっきはとんだ失態を晒しちまったな」

 

 部屋の位置を確認した俺は、再びテントへと戻り、泳ぐ支度を整えていた。

 ちなみに潜水服を持ってきたのは、ただ単にみんなを驚かせたかったから。織斑先生は無反応だったけど、一夏はギョっとしてたし。効果はありそうだ。

 

「さて、他に持っていくものは……っと」

 

 キィィィィィィン……

 

 ………………?

 

 何だ?何か聞こえるな。

 まるで、何かが高速で接近しているような音。どこかで聞いたことのある音。

 

「ま、まさか……ELSの襲ら……」

 

 ドカ―――――ン!

 

 何かが、テントのそばに落ちた。俺はテントの入り口から吹き飛ばされ、無様に宙を舞う。

 想定外の事態。こんなとき、どうすればいいのか?

 

「たっ……大佐ぁ~~!!」

 

 ……とりあえずネタに走ってしまった自分に、今更ながら嫌気がした。

 不死身の男にあやかって、どうしても生存フラグを立てたかったのだ。

 

 

 

 

 

 

〈side:織斑 一夏〉

 

 ――時間は、少し遡る。

 海へ行こうと思い立ち、別館へ向かった俺は、中庭のところで立ちすくむ箒を発見した。

 目線の先には、例の真っ赤なテント。……ああ、気になるのかな?

 

「箒」

「! な、なんだ。一夏か。脅かすな」

「別に脅かしたつもりはねぇんだけど」

 

 普通に話しかけただけだし。なにをそんなに慌ててるんだ?

 

「と、ところで、聞いてくれ!実はあの中に、不審者がいるのだ」

「不審者……?それってもしかして、潜水服を着た……」

「ああ、そうだ。テントから出てきて、アンテナを立てたと思ったら、私に向かって手を振ってきたんだぞ!?」

 

 あ、ほんとだ。アンテナが増えてる。そういえばさっき、ワンセグがどうとか言ってたから、その関係だろ。

 

「あれ、紅也だぞ?」

「……は?」

「だから、紅也。さっき顔見たから、間違いないって」

「……なんでまた、あんな格好を……」

「さあ?」

 

 潜水服だから、海に潜るためじゃないか?知らんけど。

 

「……はあ。警戒していたのが馬鹿みたいだ。私は行く」

 

 そう言うや否や、箒はすたすたと歩き去ってしまった。後に残されたのは、俺とテントとウサミミだけ。……って、ウサミミ?

 箒は気付かなかったみたいだけど、ご丁寧に「引っ張ってください」という張り紙までしてある。

 これって、間違いなく、あの人の仕業だよなあ……。

 ってことは、この下に埋まってるのか?となると、さすがに放置はできない。

 

 俺は中庭におり、ウサミミをつかむと、力を入れて一気に引き抜いた。

 

「のわっ!?」

 

 引き抜いたのは良かったんだが……そこにあったのはウサミミだけだった。想定外の軽さに、俺はそのまま尻もちをついてしまう。

 

「いてて……」

「何をしていますの?」

「お、セシリアか。いや、今このウサミミを――あ」

 

 後ろから聞こえた声に反応し、振り向いた俺が目にしたのは……セシリアのスカートの中だった。

 

「!? い、一夏さんっ!」

 

 俺の視線に気づいたセシリアは、ばばっとスカートを押さえて後ずさる。レースのついた白い下着は、ばっちり俺の脳内に記録されていた。……俺の馬鹿。

 

「す、すまん。その、だな。ウサミミが生えていて、それで……」

「は、はい?」

 

 セシリアは素っ頓狂な声で訊き返す。そりゃそうだ。俺だって、人からそんな説明を受けたら、理解できないに違いない。……よし、ここは分かりやすく説明しよう。

 

「いや、束さんが――」

 

 キィィィィン……。

 

 う?なんだ、この、何かが高速で向かっているかのような音は――って、うお!?

 

 ドカ―――――ン!

 

 謎の飛行物体は、盛大に地面に突き刺さった。それはいい。いや、よくない。

 その飛行物体――デフォルメされたにんじんだった――が突き刺さった場所。それは、あの赤いテントが数秒前まで存在していた場所だった。

 

「こ……紅也ぁぁぁぁぁ!!」

 

 いや、コレ、ヤバいって!

 すっごく土煙が上がってるし!なんか、赤い切れ端がひらひら舞ってるし!

 しかも、箒の話が正しければ、今のあいつの装備はただの(?)潜水服。いつもの魔改造制服でもなければ、レッドフレームでもない。

 

 ……マジで死んだかも。

 

「に、にんじん……?と、いうか、紅也さんと何の関係が?」

 

 セシリアがそう漏らす。

 すると、それを聞きつけてかどうかは知らないけど、にんじんは二つに割れ、中から一人の人間が登場した。

 

「あっはっはっ!引っかかったね、いっくん!」

 

 その人物の格好は、不思議の国からやってきたような青と白のワンピース。奇妙奇天烈かつ他者の追随を許さないセンスの持ち主だとわかる。その謎の人物の正体とは……驚くなかれ、ISの開発者である、篠ノ之束その人である。

 

「やー、前はほら、ミサイルで飛んでたら危うくどこかの偵察機に撃墜されそうになったからね。私は学習する生き物なんだよ。ぶいぶい」

 

 そんな事を言いながら、俺の手からウサミミを受け取る束さん。一人不思議の国のアリスかなにかだろうか。懐中時計は持ってないのかな?

 そして「あれー?束さんの懐中、壊れちゃった……」とか言って。……やめよう。なんか、つらい三週間を過ごすことになりそうだ。

 

「お、お久しぶりです、束さん」

「うんうん。おひさだね。本当に久しいねー。ところでいっくん、箒ちゃんはどこかな?さっきまで一緒だったよね?トイレ?」

「えーと……」

 

 バッシャアァァァァァン!!!

 

「……そうだ、紅也!

束さん!着地地点見てなかったんですか!?人がいたんですよ!?」

「んー、あの子?あの子はねー、箒ちゃんを怖がらせたから……死刑!!」

「ちょっとぉぉ!!」

 

 確信犯か!わざと狙って、着陸したのか?

 

「まあ直撃はしてないし、体も丈夫だから、大丈夫でしょ!……あ、そんなことより箒ちゃん探さないと!じゃあねいっくん。また後でね!」

 

 そう言って束さんは、すったったーと走り去っていく。その速度は無茶苦茶速い。さすがはISの開発者。いや、関係ないか。

 

 ……それにしても、何か、話してるときに違和感があったような?

 

「い、一夏さん?今の方は一体……」

「束さん。箒の姉さんだ」

「え……?ええええっ!?」

 

 

 

 

 

 

〈side:シャルロット〉

 

 早めに着替えを済ませた僕は、先にビーチに行って一夏を待とうと思い、手早く水着に着替えた。

 あの試着室での騒動の後、一夏が選んでくれた水着。それを着て一夏の反応を見るのは、正直かなり楽しみだ。今の僕の足取りは軽く、僕の心はこの青空のように澄み渡って……

 ……青空?雲一つないけど、何かが飛んでいる。数は2。大きいものが一つと、小さいものが一つ。小さい方はだんだんと大きくなって……って!危ない!!

 

 慌てて後退。すると目の前の砂浜に、カバン大の何かが突き刺さった。

 

 バッシャアァァァァァン!!!

 

 次いで、大きいものが海に落下し、そのまま沈んでいく。奇怪な見た目をしてたけど……人のような形だった。何で空から?

 まあ、それはさておき。

 

「何だろう……これ?」

《その声……シャルルか》

 

 突如カバンに光が灯り、ディスプレイに文字が浮かぶ。こんなモノを持ってるのは、僕の知り合いの中では一人だけ。紅也だ。

 

「えっと……8、だっけ?」

《いかにも。ところで、紅也はどうした?》

「どうした、って……あ!」

 

 分かった!さっきの人影、たぶん紅也だ!なんで空から降ってきたかは知らないけど、まだ浮かんでこない。早く助けてあげないと!!

 

《紅也は……海の中か。

 状態:気絶 バイタル:正常

 ……心配不要だ》

「え?そうなの?」

《どうせ、すぐに戻ってくる。それよりシャルル、私を水から遠ざけてくれ。塩水は苦手なんだ》

 

 ふーん。ISなのに、変なの。

 ……ところで、さっきから周りのみんなが何かひそひそ話してるんだけど、何かあったのかな?

 

 ―――――あ!第三者的な目線で見ると、今の僕って、一人で誰かと話してる、変な子みたいだ!!

 うう……恥ずかしいよぅ。

 

 

 

 

 

 

〈side:葵〉

 

 ……海。日本に来てからは、初めての、海。

 日差しに十二分に警戒する必要があったオーストラリアと違い、ここの太陽はどこか柔らかい感じがする。

 だけど、油断は禁物。日本の夏の日差しは、かなり強いと聞いてる。

 まずはパラソルを立てて、日焼け止めを塗って……いや、先に海に入ろうかな?みんな、楽しそうに遊んでるし……。

 そう考えながら海を見る。光を反射し、キラキラと輝く海。その様子はまるで、私を誘っているかのようだった。

 

「あ、織斑君だ!」

「う、うそっ!わ、私の水着変じゃないよね!?大丈夫だよね!?」

「平気平気!まいよりはマシよ!」

「ミヨー!それってどういう意味ー?」

 

 にわかに周囲が騒がしくなる。邪気が……じゃなかった。一夏が来たみたい。

 

「わ、わ~。体かっこい~。鍛えてるね~」

「織斑くーん、あとでビーチバレーしようよ~」

「おー。時間があればいいぜ。……あちちちちっ」

 

 サンダルを履いてこなかったのかな?火傷するよ。

 

「――ん、葵?早いな」

「……そう?ところで、紅也は?」

 

 一夏が私に気付き、話しかけてくる。そこで私は、先程から気になっていたことを聞いてみることにしたのだ。

 ――さっきから、紅也に通信が繋がらない。

 反応を見る限り、間違いなく砂浜に来てるはずだけど……見当たらない。

 ……どうしたの、一夏。顔が青いわよ?

 

「……紅也は「い、ち、か~~~~~~っ!」―――って、のわっ!?」

 

 突然現れ、一夏に飛び乗った小柄でスレンダーな人影は、鈴音のものだった。

 

「……何か、失礼なことを考えなかった?このナイスバディーは」

 

 気のせい。絶対気のせい。

 

「……で、一夏。葵と何話してたのよ。ていうか紅は?」

「それを話そうとしてたんだよ。紅也はさっき……」

 

「ねえ、何あれ?」

「え?サメ?」

「ちょっとちょっと!ヤバくない?」

 

 ……………?

 海の方が騒がしい。そちらに視線を向けてみると、海の中に影のようなものが見えた。

 その黒い影は、砂浜に向かい、ゆっくりと近づいてくる。

 

「よく見やがりなさい!あれはサメじゃねぇわ」

「ニコール~?相変わらず変な日本語使うよね~?で、その根拠は~?」

「脚があるわ」

「あ~。ほんとだ~」

 

 やがて、海から何かが姿を現す。

 丸い頭部に、スモークのかかったレンズグラス。確か、紅也の荷物に入ってた潜水服だ。

 ……まさか、このためだけに海中でスタンバってたのかな?我が兄ながら、ぶっとんでる。

 

「……Ar……Uh……」

 

 しかもそんなうなり声を上げ、右手を突き出し、ゾンビのような格好で女子生徒に迫っていく。……変態か。

 

 

「いやあああああっ!?」

「宇宙人だ~」

「おまわりさーん!変態です!極めて特殊な変態がここにー!!」

「URRRRRRRRッ!!」

「こっちに来たぁ!?」

 

 

 ……何て言えばいいんだろう。阿鼻叫喚の地獄絵図?

 

「何よ、アイツ!ちょっと行ってくるわ!!」

「あっ!鈴!……行っちまった」

 

 この様子を見るに、鈴音はアレの正体に気づいてなくて、一夏は気づいてるみたい。

 

 

「来なさい、変態!アンタの相手は、このあたしよっ!!」

「■■■■■■■■――!!」

「なっ!見かけによらず、やるじゃない!!――いいわ、こうなったら、本気で相手してあげる!!」

 

 

 あっ、衝撃砲。あれってただの潜水服だから、紅也、死んだかも。

 

 

「なっ!?これをくらってまだ立てるなんて……」

「あっ、ヘルメットが取れた!」

「あ~。やまぴーだ~」

「……紅。なんのつもり?」

「……Ar……thur……」

「あたしは凰鈴音よっ!!」

 

 

 ……何?狂化してるの?しかも第四次。

 手に持ってるワカメは、宝具化してるんだろうか?

 

「……なあ」

「……何?」

「いいのか、あれ。放っておいても」

「……楽しみ方は、人それぞれ」

 

 

「何故……?それほどまでに、あたしが憎かったの?紅!!」

「■■■■■■■―――!!」

 

 

「まあ……楽しそうではあるな、二人とも」

 

 一夏の言葉に、無言でうなずく。

 臨海学校は、まだ始まったばかり。それに、どうせ本格的に動くのは明日。

 なら、今日ぐらい遊んでも、いいんじゃない?

 


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