IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第49話 ここが最後のセーブポイント

(ううっ、勢いでこんなことしちゃったけど、どうしよう……)

 

 シャルロットは悩んでいた。

 水着を見てもらおうと思った。ここまではよかったのだが、さっきから自分をつけまわしている三人(・・)を撒くために、思わず一夏を試着室の中に連れ込んでしまったのだ。

 

(でも……葵も、鈴も、セシリアも、全員がコアを潜伏モードにしてるっていうのは、おかしいよね……。現に葵は測ったようなタイミングで出てきたし、他の二人も……)

 

 間違いなく、尾行しているだろう。

 

(ん~……。三人とも諦めて帰ってくれないかなぁ)

 

 居残り掃除を課せられた放課後、シャルロットは一夏に「付き合ってくれ」と頼まれた。その言葉は期待していた意味ではなかったけど、間違いなくシャルロットだけを誘ったものだった。

 つまり、これは、デート。

 少なくともシャルロットは、そういうふうに考えていた。

 

(で、でも、さすがに同じ個室で着替えはやりすぎたかなぁ……)

 

 少しの後悔と、羞恥で顔を赤く染め、シャルロットは一夏の姿を見やる。一夏は、天井の隅を見つめたり、目を閉じたりと、非常に落ち着かない様子だ。きっと、ものすごく動揺してるに違いない。

 

(し……しょうがない!せっかくここまでやったんだから、覚悟を決めて――)

 

 そう思ってブラジャーに手をかけたそのとき――

 

「織斑!デュノア!何をやっているか!!」

 

 試着室のカーテンが開き、修羅が現れた。

 

 

 

 

 

 

〈side:織斑 千冬〉

 

 む、ようやく私sideだと?

 第三章になるまで一切無かったとは。許せんな。

 何より許せんのは、山田くんよりも後になったことだが……。

 

 まあ、それはいい。

 さて、何故私が原作より早く一夏たちを発見できたのかを語るために、少し時間を戻すとしよう。

 

 

 

 

《スネーク?どうしたのよスネーク!スネェェェェェク!!!》

 

 山代への指導を終えた私は、奴のヘッドセットから漏れる音声に気付いた。

 声の主は凰……。それに何か良からぬものを感じた私は、ヘッドセットを奪い取った。

 

《何の騒ぎだ、馬鹿者》

《ぎゃああああ!ザ・ボスが出た!紅のやつ、ラスボスに負けたのよ!!》

《落ちついてください、鈴さん!これはむしろチャンスですわ!》

《オルコットまでもか……。何をやっている?》

《ええ、実は、先程たまたま一夏さんを発見したのですが……》

《一夏の奴、シャルロットと一緒に試着室に入っていったのよ!……じゃ、なかった。入っていったんです!》

 

 な……何だと?

 あの大馬鹿者め!何をやっているのだ!

 

《場所を教えろ。すぐに向かう》

 

 

 

 

 と、いうわけで私は、間違いが起こる前に到着した。

 山代の持っていた端末も、「急げ」と一言放っただけで詳細な地図を表示したため、大いに役立った。《命だけは……》と表示されていたのが気になったが、些細なことだ。

 

「まったく、男女ふたりで試着室に入るとは、感心せんな」

「「は、はい……」」

「平気でそんなことをするとは……。織斑、お前はデュノアを女として見ていないのか?」

「ええ!?そ、そんな……」

「ま、待て、シャル!俺はちゃんと、お前を女として見て……」

「ほう、ずいぶんなセリフだな、織斑。それを承知で中に入ったと」

「ち、違うんだ千冬姉!俺は……」

「そうなの?僕を異性として意識してないの?」

「だから、シャルは……」

 

 ふっふっふ。混乱しているな、馬鹿者め。どっちつかずの態度をとり続けるからこうなるのだ。

 

「……あ、そういえば織斑先生。ソレは……?」

 

 一夏の言葉で涙目だったデュノアが、私の右手を見ている。つられて一夏もこちらを見ているが……。

 ああ、そういえばあったな。こんなものも。

 

「そこで拾った。なあに、気にすることは無い」

「拾った、って千冬姉……。それ、どうみても紅也じゃ……」

「し、しかも、白目剥いてますけど……」

 

 何だ。さっきから静かだと思ったら、気絶していたのか。だらしのない奴だ。

 

「気にするな。私に逆らった者の末路だ」

「「……………」」

 

 青ざめ、沈黙する二人。自分の未来を想像したのだろうか?すっかりおびえている。

 

「……って、あれ?紅也のコアの反応は、IS学園から出てるんだけど……」

「何?奴のISの待機状態は、この端末のはずだが……」

《その信号はダミーだ。本体である私は、潜伏モードで起動中だ》

 

 ダミーの信号だと?そんな技術、聞いたことも無いぞ。

 ……やはり、山代は何かを隠している。

 

「あ、織斑先生。ようやく追いついたぁ……」

 

 小走りでこちらに来たのは、山田君だった。姿が見えないとは思っていたが、まさかついてきていなかったとは。体力不足だな。

 

「ところで山田先生と千冬姉はどうしてここに?」

 

 一夏。話題を逸らそうとしているのがまる分かりだ。

 

「私たちは水着を買いに来たんですよ。あ、それと今は職務中ではないですから、無理に先生って呼ばなくても大丈夫ですよ」

 

 まったく。山田君も律儀に答える必要はないだろう。それにしても……

 

「そろそろ出てきたらどうだ?」

 

 そう。私に情報を(リーク)した二人が、まだ物陰に隠れている。

 

「そ、そろそろ出てこようかと思ってたんですよ……」

「え、ええ。タイミングを計っていたのですわ」

 

 凰とオルコットが姿を現す。その視線は、あからさまにデュノアを敵視しており、厳しい表情だ。……恋する乙女もいいが、大概にしておけよ、小娘ども。

 

「何だ、鈴たちも来てたのか。葵と紅也がいたから、もしかしたら……とは思ってたけど」

「『何だ』って何よ!あたしがいちゃ悪い!?」

「わたくし達は……そう、紅也さんに誘われたのですわ!一夏さんを尾行するから、一緒に来ないか……と」

「ふうん。……で、紅也は千冬姉に見つかって、こうなったと」

 

 嘘をつくな。山代が悪乗りしたのは間違いないだろうが、絶対にお前たちの発案だろう。そして一夏。あっさり信じ過ぎだ。女の嘘を見抜けんとは、減点モノだな。

 

「……ならばちょうどいい。コイツを持ちかえれ。お前らの管轄だろう?」

 

 右手の物体を、オルコットたちの方へ放り投げる。しかし二人はそれに反応できず、山代は床に落ち、前衛的なオブジェに成り果てた。

 

「……あ、あー。私ちょっと買い忘れがあったので行ってきます。えーと、場所がわからないので(ファン)さんとオルコットさん、ついてきてください。それにデュノアさんも」

 

 む、山田君。何を……。

 

「え?山田先生、何を買い忘れたんですか?」

「えーっと……包帯、とか?」

「…………あー」

 

 それに納得したのか、ぞろぞろと去っていく一同。

 その場に残されたのは、私と一夏と……ただの屍のみ。

 

「……まったく、山田先生は余計な気を遣う」

「え?」

「ふぅ……。言っても仕方がない、か。一夏」

「な、なんですか?織斑先生」

 

 ……織斑先生、か。さっきまでは名前で呼ばれていたが、ようやく訂正したか。しかし……

 

「今は就業中ではないからな、名前でいい。私たちはこの場ではただの姉弟(きょうだい)だろう」

「わ、わかった」

 

 さて、姉弟として過ごす、久しぶりの休日だ。少しは楽しんでもばちは当たらないだろう?

 

 

 

 

 

 

〈side:山代 紅也〉

 

 ……ヒドくない?ねえ、ヒドくない!?

 一夏はともかく、織斑先生は絶対気付いてたよ、俺が目覚めたこと。

 なのに無視?放置プレー?

 そんなに弟と過ごす時間が大事かぁぁぁ!!

 

 まあ、俺も葵と過ごす時間が少ないと死ぬけどな!

 

 それはさておき、まずは現状把握。

 頭から床に叩きつけられ、犬神家状態。8に表示されたバイタルデータをチェックすると、血圧、心拍ともに正常の範囲。意識レベルはやや低め。……うん、大丈夫だ。

 一旦体を倒し、立ち上がろうとするも……頭に血がのぼってるせいか、上手くいかない。

 とりあえず何かにつかまって、ゆっくり立ち上がればいいか……。

 そう考え、虚空に手を伸ばすと、不意に、誰かに手を掴まれた。

 

「大丈夫か?」

「……らうら?たすかるよ」

 

 どうやら、とうとう発見されてしまったようだ。だが、葵のいないこの状況では、非常にありがたい。

 

「ごめん。てをひっぱってくれるか?ひとりじゃたてないんだ」

「嫁を支え、助けるのは当然だろう。……せーの!」

 

 華奢な外見からは想像できないような強い力で、俺は強制的に立たされる。

 やぱり、軍人なんだなぁ……と、改めて確認した瞬間だった。

 

「ありがとう、らうら。おかげで、助かったよ」

 

 ああ、ようやく調子が戻ってきた。まだ頭は痛いけど、この程度なら一人で歩ける。

 ……しっかし織斑先生。身に覚えのないことで殴りやがって。許すまじ!

 こうなったら、夜道で背後から襲いかかって……襲いかかって……

 

 ………………。

 

 返り討ちにあうところしか想像できない……。

 

「ど、どうしたんだ?立ち上がったと思ったら、いきなりorzとは……。やはり、まだ調子が悪いのか?」

「ああ、大丈夫だ。ちょっと、現実が嫌になっただけだから」

 

 ああ、ラウラは優しいな。無愛想だけど気遣いができて。物騒だけど繊細で。ぜひ、家に嫁に来て欲し……。

 

 はっ!?いかん!それではラウラの思うつぼだ!!

 

「な、なんでもない!なんでもないぞ!

 ……そうだ!お礼がしたいんだが。ラウラ、なにか俺に出来ることはあるか?」

「礼か……。ふむ。では、私の水着を選んでほしい。今まで、こういったものとは無縁の生活だったのでな。何を着ていいのかわからん」

「そっか。そんなんでいいなら、付き合うぜ。

 葵と一緒に来ることもあるから、こういうもんには詳しいんだぜ、俺」

 

 げしっ。なぜか蹴られた。

 

「わ、私といるときに、他の女の話をするな!」

 

 そんなこと言っても、葵は妹だし。別カテゴリーにいれてくれてもいいじゃんか。

 ……そういや、葵はどこに行ったんだろう?

 

 

 

 

 

 

「さて、包帯は~。って、山代さん?こんなところで、どうしたんですか?」

「……包帯と湿布。必要になる気がした」

「そ……そうなんですか。双子ってすごいんですね~。あはは……」

「……そう。私たちの結び付きは、とても強い」

 

 

 

 

 

 

「……あ!そういえば、結局まだ水着を買ってないや!」

「後にした方がいいわよ。あの二人、なんだかんだですごく仲がいいから」

「……わたくしとしては、もっと思い出すべきことがある気がするのですが……」

 

 

 

 

 

 

 こうして、各々が準備を進める週末。時間はあっという間に過ぎていく。

 穏やかな日常。変わらない生活。

 

 しかし。

 

 変化の刻は、確実に迫っているのだった……。




千冬姉までメタいのは、ギャグパート使用ということで。

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