(ううっ、勢いでこんなことしちゃったけど、どうしよう……)
シャルロットは悩んでいた。
水着を見てもらおうと思った。ここまではよかったのだが、さっきから自分をつけまわしている
(でも……葵も、鈴も、セシリアも、全員がコアを潜伏モードにしてるっていうのは、おかしいよね……。現に葵は測ったようなタイミングで出てきたし、他の二人も……)
間違いなく、尾行しているだろう。
(ん~……。三人とも諦めて帰ってくれないかなぁ)
居残り掃除を課せられた放課後、シャルロットは一夏に「付き合ってくれ」と頼まれた。その言葉は期待していた意味ではなかったけど、間違いなくシャルロットだけを誘ったものだった。
つまり、これは、デート。
少なくともシャルロットは、そういうふうに考えていた。
(で、でも、さすがに同じ個室で着替えはやりすぎたかなぁ……)
少しの後悔と、羞恥で顔を赤く染め、シャルロットは一夏の姿を見やる。一夏は、天井の隅を見つめたり、目を閉じたりと、非常に落ち着かない様子だ。きっと、ものすごく動揺してるに違いない。
(し……しょうがない!せっかくここまでやったんだから、覚悟を決めて――)
そう思ってブラジャーに手をかけたそのとき――
「織斑!デュノア!何をやっているか!!」
試着室のカーテンが開き、修羅が現れた。
◆
〈side:織斑 千冬〉
む、ようやく私sideだと?
第三章になるまで一切無かったとは。許せんな。
何より許せんのは、山田くんよりも後になったことだが……。
まあ、それはいい。
さて、何故私が原作より早く一夏たちを発見できたのかを語るために、少し時間を戻すとしよう。
*
《スネーク?どうしたのよスネーク!スネェェェェェク!!!》
山代への指導を終えた私は、奴のヘッドセットから漏れる音声に気付いた。
声の主は凰……。それに何か良からぬものを感じた私は、ヘッドセットを奪い取った。
《何の騒ぎだ、馬鹿者》
《ぎゃああああ!ザ・ボスが出た!紅のやつ、ラスボスに負けたのよ!!》
《落ちついてください、鈴さん!これはむしろチャンスですわ!》
《オルコットまでもか……。何をやっている?》
《ええ、実は、先程たまたま一夏さんを発見したのですが……》
《一夏の奴、シャルロットと一緒に試着室に入っていったのよ!……じゃ、なかった。入っていったんです!》
な……何だと?
あの大馬鹿者め!何をやっているのだ!
《場所を教えろ。すぐに向かう》
*
と、いうわけで私は、間違いが起こる前に到着した。
山代の持っていた端末も、「急げ」と一言放っただけで詳細な地図を表示したため、大いに役立った。《命だけは……》と表示されていたのが気になったが、些細なことだ。
「まったく、男女ふたりで試着室に入るとは、感心せんな」
「「は、はい……」」
「平気でそんなことをするとは……。織斑、お前はデュノアを女として見ていないのか?」
「ええ!?そ、そんな……」
「ま、待て、シャル!俺はちゃんと、お前を女として見て……」
「ほう、ずいぶんなセリフだな、織斑。それを承知で中に入ったと」
「ち、違うんだ千冬姉!俺は……」
「そうなの?僕を異性として意識してないの?」
「だから、シャルは……」
ふっふっふ。混乱しているな、馬鹿者め。どっちつかずの態度をとり続けるからこうなるのだ。
「……あ、そういえば織斑先生。ソレは……?」
一夏の言葉で涙目だったデュノアが、私の右手を見ている。つられて一夏もこちらを見ているが……。
ああ、そういえばあったな。こんなものも。
「そこで拾った。なあに、気にすることは無い」
「拾った、って千冬姉……。それ、どうみても紅也じゃ……」
「し、しかも、白目剥いてますけど……」
何だ。さっきから静かだと思ったら、気絶していたのか。だらしのない奴だ。
「気にするな。私に逆らった者の末路だ」
「「……………」」
青ざめ、沈黙する二人。自分の未来を想像したのだろうか?すっかりおびえている。
「……って、あれ?紅也のコアの反応は、IS学園から出てるんだけど……」
「何?奴のISの待機状態は、この端末のはずだが……」
《その信号はダミーだ。本体である私は、潜伏モードで起動中だ》
ダミーの信号だと?そんな技術、聞いたことも無いぞ。
……やはり、山代は何かを隠している。
「あ、織斑先生。ようやく追いついたぁ……」
小走りでこちらに来たのは、山田君だった。姿が見えないとは思っていたが、まさかついてきていなかったとは。体力不足だな。
「ところで山田先生と千冬姉はどうしてここに?」
一夏。話題を逸らそうとしているのがまる分かりだ。
「私たちは水着を買いに来たんですよ。あ、それと今は職務中ではないですから、無理に先生って呼ばなくても大丈夫ですよ」
まったく。山田君も律儀に答える必要はないだろう。それにしても……
「そろそろ出てきたらどうだ?」
そう。私に情報を
「そ、そろそろ出てこようかと思ってたんですよ……」
「え、ええ。タイミングを計っていたのですわ」
凰とオルコットが姿を現す。その視線は、あからさまにデュノアを敵視しており、厳しい表情だ。……恋する乙女もいいが、大概にしておけよ、小娘ども。
「何だ、鈴たちも来てたのか。葵と紅也がいたから、もしかしたら……とは思ってたけど」
「『何だ』って何よ!あたしがいちゃ悪い!?」
「わたくし達は……そう、紅也さんに誘われたのですわ!一夏さんを尾行するから、一緒に来ないか……と」
「ふうん。……で、紅也は千冬姉に見つかって、こうなったと」
嘘をつくな。山代が悪乗りしたのは間違いないだろうが、絶対にお前たちの発案だろう。そして一夏。あっさり信じ過ぎだ。女の嘘を見抜けんとは、減点モノだな。
「……ならばちょうどいい。コイツを持ちかえれ。お前らの管轄だろう?」
右手の物体を、オルコットたちの方へ放り投げる。しかし二人はそれに反応できず、山代は床に落ち、前衛的なオブジェに成り果てた。
「……あ、あー。私ちょっと買い忘れがあったので行ってきます。えーと、場所がわからないので
む、山田君。何を……。
「え?山田先生、何を買い忘れたんですか?」
「えーっと……包帯、とか?」
「…………あー」
それに納得したのか、ぞろぞろと去っていく一同。
その場に残されたのは、私と一夏と……ただの屍のみ。
「……まったく、山田先生は余計な気を遣う」
「え?」
「ふぅ……。言っても仕方がない、か。一夏」
「な、なんですか?織斑先生」
……織斑先生、か。さっきまでは名前で呼ばれていたが、ようやく訂正したか。しかし……
「今は就業中ではないからな、名前でいい。私たちはこの場ではただの
「わ、わかった」
さて、姉弟として過ごす、久しぶりの休日だ。少しは楽しんでもばちは当たらないだろう?
◆
〈side:山代 紅也〉
……ヒドくない?ねえ、ヒドくない!?
一夏はともかく、織斑先生は絶対気付いてたよ、俺が目覚めたこと。
なのに無視?放置プレー?
そんなに弟と過ごす時間が大事かぁぁぁ!!
まあ、俺も葵と過ごす時間が少ないと死ぬけどな!
それはさておき、まずは現状把握。
頭から床に叩きつけられ、犬神家状態。8に表示されたバイタルデータをチェックすると、血圧、心拍ともに正常の範囲。意識レベルはやや低め。……うん、大丈夫だ。
一旦体を倒し、立ち上がろうとするも……頭に血がのぼってるせいか、上手くいかない。
とりあえず何かにつかまって、ゆっくり立ち上がればいいか……。
そう考え、虚空に手を伸ばすと、不意に、誰かに手を掴まれた。
「大丈夫か?」
「……らうら?たすかるよ」
どうやら、とうとう発見されてしまったようだ。だが、葵のいないこの状況では、非常にありがたい。
「ごめん。てをひっぱってくれるか?ひとりじゃたてないんだ」
「嫁を支え、助けるのは当然だろう。……せーの!」
華奢な外見からは想像できないような強い力で、俺は強制的に立たされる。
やぱり、軍人なんだなぁ……と、改めて確認した瞬間だった。
「ありがとう、らうら。おかげで、助かったよ」
ああ、ようやく調子が戻ってきた。まだ頭は痛いけど、この程度なら一人で歩ける。
……しっかし織斑先生。身に覚えのないことで殴りやがって。許すまじ!
こうなったら、夜道で背後から襲いかかって……襲いかかって……
………………。
返り討ちにあうところしか想像できない……。
「ど、どうしたんだ?立ち上がったと思ったら、いきなりorzとは……。やはり、まだ調子が悪いのか?」
「ああ、大丈夫だ。ちょっと、現実が嫌になっただけだから」
ああ、ラウラは優しいな。無愛想だけど気遣いができて。物騒だけど繊細で。ぜひ、家に嫁に来て欲し……。
はっ!?いかん!それではラウラの思うつぼだ!!
「な、なんでもない!なんでもないぞ!
……そうだ!お礼がしたいんだが。ラウラ、なにか俺に出来ることはあるか?」
「礼か……。ふむ。では、私の水着を選んでほしい。今まで、こういったものとは無縁の生活だったのでな。何を着ていいのかわからん」
「そっか。そんなんでいいなら、付き合うぜ。
葵と一緒に来ることもあるから、こういうもんには詳しいんだぜ、俺」
げしっ。なぜか蹴られた。
「わ、私といるときに、他の女の話をするな!」
そんなこと言っても、葵は妹だし。別カテゴリーにいれてくれてもいいじゃんか。
……そういや、葵はどこに行ったんだろう?
◆
「さて、包帯は~。って、山代さん?こんなところで、どうしたんですか?」
「……包帯と湿布。必要になる気がした」
「そ……そうなんですか。双子ってすごいんですね~。あはは……」
「……そう。私たちの結び付きは、とても強い」
◆
「……あ!そういえば、結局まだ水着を買ってないや!」
「後にした方がいいわよ。あの二人、なんだかんだですごく仲がいいから」
「……わたくしとしては、もっと思い出すべきことがある気がするのですが……」
◆
こうして、各々が準備を進める週末。時間はあっという間に過ぎていく。
穏やかな日常。変わらない生活。
しかし。
変化の刻は、確実に迫っているのだった……。
千冬姉までメタいのは、ギャグパート使用ということで。