ジェス・レポートを挟んで定時に次話を投稿します。
気が付いたら、時刻は放課後。
俺は自分の部屋で、ベッドに横になっていた。
幸い制服がボロボロだったり血まみれだったり、ハルバードを持った男が隣に立ってるなんてこともなく、いたって普通の状況だ。
……うん、帰ってきた。
なぜだか、そう思えた。
「……あ、気が付いた」
「……あおい?」
顔を上げると、最初に見えたのはヒエピタを持った葵の姿だった。
うーん、ボーデヴィッヒにキスされた所までは覚えてるが、それ以降のことは思い出せな……いや、思い出したくない!?
記憶にプロテクトでもかかってるのか?
まあ、それにしたって熱は出ないはずだから、ヒエピタはいらないぞ、葵。
「……良かった、気が付いた」
「おいおい、大げさだな。別に、打撲程度で死にはしな……」
「何か、『天使』とか『死んだ世界』とか言ってたから、てっきり……」
「前言撤回だ。あやうく戻れなくなる所だった」
あぶねぇ。この小説が強制終了して、新しいクロスオーバー作品が始まる一歩手前だったようだ。葵には感謝を。下手人には鉄槌を。
「……具合、どう?」
「ん、ああ。もう起きれる。大丈夫だぜ」
「……じゃ、着替えてから一夏の部屋に来て。先に行ってる」
「え?あ、パジャマか……。
じゃ、なくて!一夏の部屋?待ちなさい、葵!あいつ、女の子と混浴するようなケダモノなんだよ!おにーちゃんは許しませんよ!!」
あ、葵の奴、行きやがった!
くそっ!あいつらを二人きりにしていられるか!
間違いが起こる前に、さっさと追いかけないと……。
◆
「……で、これは一体どういう状況?」
一夏の部屋に着いた俺を待っていたのは、葵や一夏だけでなく、箒、セシリア、凰、シャル子、それになんと、ボーデヴィッヒだった。
なんかこんな状況、前にもあった気がする。あのときは、確か、そう……
「じゃあ早速、今回の件について知ってることを話してもらうわよ、
俺を対象とした、大尋問大会が開かれたんだっけか。
「……って、待て!この章ではXナンバーは登場してないし、俺が関わった事実も無い!!」
「とぼけるな。ニュースでやっていたぞ?モルゲンレーテとデュノア社が合併すると」
へ?ようやく公表したんだ。しかし、何でそれだけの理由で俺を疑うかね、箒は。
「シャルロットから聞いたけど、紅也、シャルロットが女だって知ってたらしいな」
「そ、そうなんですの!?こ、紅也さん!そこのところを詳しく話していただきますわ!」
「う……わ、分かった。了解だ」
セシリア、すごい迫力だ。一夏は……その無数の傷は何だい?みんなにやられたのかな?
「えーと、シャル子の件だな。簡単にいえば、『シャル子を男と偽って転校させた』とバラされたくなければ、モルゲンレーテと合併しろ……って取引したんだ」
「……そして、モルゲンレーテの操縦者として保護。これで、フランス政府も手を出せない」
「そういうわけだから、僕も正体を明かすことにしたんだ。……もう、みんなに嘘はつきたくなかったから……」
なるほど。シャル子が正体を明かしたのは、そういう理由だったんだな。
なのに、偽物だの本物だの、カッコつけちゃった俺ってば一体……。
「大体の事情は分かったわ。
……じゃあ次、昨日の混浴について、詳しい話を聞かせなさい!」
「そ、そうだ!あの写真、お前が撮ったんだろ!?」
「一夏、そういう問題ではないぞ。お前は当事者なのだからな」
「……不潔」
「貴様、それでも教官の弟か」
「見そこないましたわ」
女子勢の言葉の弾丸に晒された一夏は、大破どころか一発で轟沈だ。当事者の一人であるシャル子もまたあたふたしてるのは、ボロボロになった一夏を見たせいか、それとも当時のことを思い出したせいか。
それはそれとして、さて……何を話すかな?
「あー、まず、俺が箒と剣道やってた時、山田先生が呼びに来た」
「ああ、それは覚えてるぞ。
……そういえばそのとき、鈴がどうのと言ってたが、あれは何だったのだ?」
「それも含めて話す。シャル子と一夏が一緒に入るのはマズい!と思った俺は、葵に通信して二人が部屋にいるか確かめてもらおうと思ってたんだ」
「……それで?」
「それを山田先生と話してる最中にやってたから、通信と会話の返答を入れ替えちまったんだよ」
「あー、要するに、私と葵が一緒にいて、葵が抜け出せないから『じゃあ凰も連れていけ』なんて言ったのね。……そういえば紅!アンタ、いつまであたしを凰って呼ぶ気よ。みんなみたいに名前でいいわよ」
「では、
「なっ……///」
「……ネタ自重」
「オーライ。じゃあ区別が難しいから、俺は鈴音と呼ぼう」
何か鈴音が照れてるな。さすがはフラグメーカーの言葉。こうかはばつぐんだ!
「……コホン。そろそろ、話を戻してくださいませんか?」
「悪ぃな、セシリア。
……で、なんやかんや言って遅れて風呂に行った俺だけど、そのとき既に二人とも風呂に入っててな。で、ちょっとした悪戯心が芽生えた俺は、二人が一緒に風呂に入っているという証拠写真を撮って、風呂から退散したわけだ」
「ちょっと、紅也、肝心なところが抜け――」
「要はシャル子の抜け駆けだ。……さて、判決は?」
「デュノア、そこに直りなさい!」
「ゆ、許せませんわ!一夏さんと……こ、混浴なんて!!」
「仕置きが必要だな」
俺にとって余計なことを口走ろうとしたシャル子であったが、恋の暴走特急に乗り込んだ一夏ラヴァーズは止まらない。弁明虚しく、あっという間に取り囲まれた。……計画通り(ニヤリ)
「……私からも、一ついいか?」
「ん、ボーデヴィッヒか。何だ?」
「ラウラと呼べ。キスまでした仲だろう?」
「第一部の某吸血鬼みたく、ひどく一方的だったけどな……。まあ、悪い気はしなかったが」
ギリギリギリ。
葵につねられた。地味に痛い。
「わかった。悪かった、葵。
……で、何だ?前に聞かれた……ええと、『最初の一人』?については、何も知らんぞ」
「その話はもういい。嫁の母親の顔は確認したからな。
VTシステムに呑まれる前、確かに嫁の声を聞いた気がするのだが、何故だ?一夏との間に起こった
……おお、その辺の説明を忘れてたな。
てっきり昨日の話でうやむやになったと思ってたが、まだ覚えてたか。
「ああ。葵のISには敵の解析機能がついててな。それがVTを発見して、俺の機体に知らせたんだ。……で、俺はお前を保健室まで運んだ後、システムを解析した。
……一歩間違えば犯罪だったが、勝手にリミッターをつけさせてもらった。その、なんだ、危険な目に合わせたくなかったからな」
俺自身を危険な目に合わせたくなかった。うん、間違ってない。
この話、嘘はついていないがホントのことも言ってない。我ながらひどい話だと思う。
「……答えになってないが」
「まあ聞け。そのリミッターってのが、俺の意識データをトレースしたものでな。本来の役割は発動前の説得だったんだが……どういうわけか発動後も残留したみたいだ。お前と会話したのは、おそらくそれだろうな。もう消えてるはずだが、どうだ?」
「……ああ、もういないな。
これで理由はわかった。その……私の事を気遣ったというのなら、データを解析した件は不問にする」
「助かるぜ、ラウラ」
よし、言い訳終了。これで今回の件で犯罪者扱いされることはない……はず。
え、覗き?調査だよ、あれは。
「こ、紅也さん!何でボーデヴィッヒさんと仲良くしてらっしゃいますの!」
「セシリア、滅茶苦茶言うな!」
「そうだぞ。嫁と仲良くするのは当然だろう」
「ラウラも、油を注ぐな!」
「……不快」
「葵まで!?」
とりあえず最低限の言い訳は済んだが……。
この騒動を治めるには、どうすればいいんだろうな?
◆
「まあ、全員納得したようだな」
「……良かった」
あの後少し騒ぎがあったが、みんな聞きたいことは聞いたのか、一息ついてから去っていった。俺としても、納得させるだけの説明はしたので、今回の件から派生した騒動は、全て終結したと考えていいだろう。……これで、平和な日常が戻ってくる。
「ラウラに母さんの正体を感づかれたのは焦ったが、別人だと思ってくれたみたいだし」
「……コンタクトが効いたんだと思う」
「そうだな。見た目がそっくりな人なんて、結構いるし。ほら、簪だって髪の色、青だろ」
「……キャラかぶり」
「イヴさんみたいなことを言うな。……髪伸ばせば、ずいぶん違う感じになるだろ。ほら、もう肩まで伸びてるし」
「お互い様。紅也も、一週間に一回は染め直してる」
「……強化ってのも、考えものだな」
「……うん」
俺達の母は、ドイツにいた頃に遺伝子強化を受けていた。
その影響からか、俺達二人は父さん由来の遺伝形質をほとんど発現しておらず、母さんそっくりの見た目になっている。
それは、成長面にも影響を与えているようで、髪が伸びる速度も異常に早いのだ。身長は……母さん、そこまで大きくないからな。
で、でも!そのうち、きっと、もっと伸びる……はず。
「次の行事は……臨海学校か」
「……うん」
「……何も起こらないといいな」
「………………………」
「黙るなよ!」
俺たちの任務を考えるなら、何かが起こってしかるべきだろう。
ただ、俺たちだって花の高校生なんだ。たまには平穏な、楽しい日々を望んでも罰はあたらないだろ?
※新作は始まりません