IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第40話 開幕!学年別トーナメント!

 六月も最終週に入った。

 つまりそれは、IS学園において、学年別トーナメントが始まったことを意味する。

試合の直前までこうして関係者が走り回っているほど、慌ただしい現状だ。

 そんな中、俺はというと……

 

 

 ――IS学園内、整備室。

 

「ハーイ。久しぶりね、紅也、葵」

「エリカさん。来てたんですか?」

「ええ、そうよ。……って言っても、アナタ達だけを見に来たんじゃないの。3年生をスカウトに来たのよ。後は……あの子、シャルロットちゃんの様子見よ」

「……シャルロット?」

「ああ、ここじゃ、シャルルって名乗ってたわね。あのフランスの子よ」

 

 そうか。シャルルって、男の名前だもんな。本名はシャルロットか。――シャル子って呼んどけば間違いないだろ。

 

「……で、パーツは?」

「もう!つれないわね、葵ちゃんは。ここよ」

「……これが……!」

 

 エリカさんのブレスレットが輝く。光が収まると、俺達の目の前には、オレンジ、白、青の三色から成る肩アーマーと、2本の大型アーマーシュナイダーがあった。

 

「これが葵の新装備か……。俺の注文そっちのけで開発された……」

「ハイハイ、拗ねないの。そっちも鋭意制作中だから。……そもそも、遅れの原因は、可変機能の追加が原因なのよ?自業自得じゃない」

「ぐっ……。何も言い返せない……」

 

 それを言われると弱いな。実際、当初の予定では完成してるはずのものなんだから。

 

「……紅也。装着をお願い」

 

 気が付いたら、葵はブルーフレームを展開していた。

 俺は元の肩アーマーを外し、さらに両脚部にあるハードポイントを開放する。そしてフレキシブルアームズを展開し、新しい肩アーマーの装着作業に入る。

 

「そういえば。これはどんな装備なんだ?」

「……増加スラスター。これ一つで、バックパックと同等の推力が得られる」

「は!?それって、ヤバくねぇか?」

「……大丈夫。リミッターはつけておく」

「ならいいけどな……。脱臼すんなよ」

「……うん」

 

 ほい、っと。装着完了。後はハードポイントにアーマーシュナイダーの鞘をマウント。これで、最適化を行えば、これらの装備はブルーフレームの一部となる。

 

「じゃ、元のアーマーは持って帰るわね。……そうそう、紅也には予備の腕パーツを渡しとくわ。もう壊さないでよ。給料から引いとくからね」

「そ、そんな!?シャル子の一件でチャラにしてくれよ!」

「考えとくわ。……じゃ、そろそろ試合が始まるわよ。早く着替えなさい」

「はいはい。……っと、エリカさん」

「ん?何?」

「着替えるから、出てけ」

 

 

 

 

 

 

 着替えを終えた俺達は、一夏と合流するべくアリーナへと向かう。

 ……そろそろ、トーナメントの組み合わせも発表されるころだろう。一夏は、ボーデヴィッヒとの対戦ばかり気にしていたが、俺にとっては、誰と当っても関係ない。どんな奴が来ても、勝ってやる。たとえ箒や簪、シャル子と当っても、手加減などしない。

 

 ――そして、この手でIS・ザ・ISの称号をつかんでやるっ!

 

「ねぇよ、そんな称号」

「……一夏、シャルル」

「紅也、山代さん、遅かったね」

「ああ、本国から新造パーツが届いてな。インストールしてたら遅刻した。

 ――で、組み合わせは?」

 

 その質問に対し、一夏は笑みを浮かべて答える。

 

「俺達は一回戦第1試合、対戦相手はラウラだ」

「へぇ、そりゃ……」

「……出来過ぎ」

「でしょ?僕も、そう思うよ」

「ところで、俺たちの対戦相手を知らないか?良かったら、その試合時間も」

「あー、悪い。俺、自分の分しか見てなかったわ」

「やっぱり。僕が見たから安心して。紅也たちは一回戦第12試合、対戦相手は棗さんとグローリーさんのペアだよ」

「……雑魚」

「言うな。専用機持ちは、ほとんどいないんだから」

 

 ちなみに、棗とグローリーは、IS実習の時に俺が指導したやつらである。クラスは一組。語尾に「―」をつけて話すのが棗で、変な日本語を使うのがグローリーだ。

 

「ありがとな、シャルル。……っと、そうだ。これ、ウチからのプレゼントだ。

 試作武装で、しかも弾数は3発だけだが、AICに対抗するための切り札だぜ」

 

 そう言って俺は、シャル子にある武器を渡す。

 

「これは……」

「まあ、契約の特典だとでも思ってくれ。じゃ、俺は行くからな。……葵」

「うん。二人とも、頑張れ」

「ちょっと待った!契約って、一体……」

「後でシャル子に聞けよ。じゃーな」

「『シャル子』って……。紅也!お前、まさか……」

 

 一夏の声を背に受けながら、俺達は歩く。

 12番目か、ずいぶんと後だな。とりあえず、観客席から観戦させてもらおうか――

 

「山代兄妹、話がある」

「え?」

「……織斑先生」

 

 

 

 

 

 

〈side:織斑 一夏〉

 

「……え?じ、じゃあ、紅也達は……」

「うん。実はバレてたんだ。僕が、女だって」

「そうだったのか……」

 

 あの日。シャワー室にボディソープを置きに行った時、裸のシャルルと鉢合わせした。

 あの時はなにがなんだか分からず、しかもシャルルは逃げるように部屋から出ていったため、状況が分からなかった。

 その後、いろいろな話を聞いた。シャルルは、俺の情報を探りに来たスパイで、会社の広告塔で、そして――愛人の子だと。

 

「あのとき、『ここにいろ』って言われたのは、正直嬉しかった。でも、同時に、申し訳なかったんだ。だってあの時、もう問題は解決してたから」

「申し訳ない、なんて言うなよ。答えが見つかってよかったじゃねぇか。

 ……で、紅也のやつ、どんな解決方法をとったんだ?」

 

 それは、すごく気になった。同じ学生なのに、俺には思いつかなかったことをあっさりとやってのけた。一体、どんな手品を使ったのやら――

 ……って、アレ?シャルル?何で、そんなに遠い目をしてるんだ?

 

「……いつもの悪い笑い方をして、デュノア社を占領しちゃった」

「……は?」

 

 はい?占領?

 

「ああ、もちろん力ずくじゃないよ!……でも、ある意味力ずくというか……。少なくとも、軍事力には頼ってない、かな」

 

 びっくりした。俺はてっきり、葵あたりがデュノア社を滅ぼしたんだと思ってた。

 ……まあ、よく考えてみれば、たった1機のISが、企業を破滅させるなんてことはないか。

 

「……アナトリアの傭兵じゃないんだから」

「何だ、それ?」

「知らない。なんか、紅也がそう言ってた。

 ともかく、まあ、平たく言えば父……社長を脅して、モルゲンレーテの傘下に入れちゃったんだ。僕は、所属をモルゲンレーテに移されて、保護された」

「そっか。それが『契約』ってやつか。じゃあ、その武器は……」

「うん、モルゲンレーテの作品。試作品って言ってたけど、ちょっと出してみようか」

 

 そう言って、シャルルはそれを実体化させた。初めて見た武器だからだろうか、シャルルにしては展開に時間がかかってる。やがて光が像を結びそれが実体化すると、一緒に紙が出現して、ひらひらと俺の方へ落ちてくる。

 

「えーっと……『このたびは我がモルゲンレーテの商品をお買い上げいただき』……決まり文句だな。中略……『なお、この武器は試作品につき、3回に1回は暴発し、IS本体を巻き込んで爆散する恐れが』……って!なんじゃこりゃ!!」

「試作品というより、欠陥品だね」

 

 さすがのシャルルも、顔が引きつってる。

 

「でも、良く考えれば、それだけ高出力なんだろ、これ」

「……一夏は前向きだね。うん、これは本当にほかの手段がなくなったとき、使おう」

「そうだね。じゃ、作戦の確認をするよ……」

 

 

 

 

 

 

〈一回戦 第一試合〉

 

「一戦目で当たるとはな。待つ手間が省けたというものだ」

「そりゃあなによりだ。こっちも同じ気持ちだぜ」

 

 アリーナに、4機のISが浮かぶ。織斑一夏の白式、シャルル・デュノアのラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ、ラウラ・ボーデヴィッヒのシュヴァルツェア・レーゲン、そして一機だけ場違いな、篠ノ之箒の打鉄。

 

「いや、事実かもしれないが!わざわざ言うことか!?」

 

 試合開始まで、あと5秒。各々が、心の中でカウントする。

 4秒、3秒、2秒、1秒――

 

 ――――始め!!

 

「「叩きのめす」」

 

 一夏とラウラは同時に言葉を放った。白式は瞬時加速を行い、ラウラへと肉薄する――!!

 

「おおおっ!」

「ふん……」

 

 が、ラウラはそれを見切り、右手を突き出す。

 ――そう。AICだ。これを破るべく不意打ちを選択する、という一夏の奇策は、敵に読まれていたのだ。

 腕が、胴が、足が、白式の全てが、AICという名の網に囚われる。

 

 ……同じ突撃狙いでも、せめて、一夏が『杜若(かきつばた)』の構えでも使えれば、回避できたかもしれないが。あいにくそんな技は誰も教えていないし、そもそもこの世界にその流派は存在しない。

 

「くっ……!」

「開幕直後の先制攻撃か。わかりやすいな」

「……そりゃどうも。以心伝心で何よりだ」

「ならば私が次にどうするかもわかるだろう」

 

 シュヴァルツェア・レーゲンの肩に搭載された大型レール(カノン)が、発射態勢を整える。この直撃を受ければ、いかなISも無事ではいられまい。

 ――が、忘れてはいけない。この戦いは、チーム戦であるのだ。

 

「させないよ」

 

 シャルルが一夏を飛び越えて出現。手にした六一口径アサルトカノン〈ガルム〉が火を噴き、ラウラに爆破(バースト)弾が降りそそぐ。

 

「ちっ……!」

 

 レールカノンの砲身が白式からずれ、弾頭は空を切る。さらに、シャルルはそのままラウラに攻撃を続け、追い払う。

 この援護により、一夏はAICから解放された。

 

「逃がさない!」

 

 シャルルは突撃体制へと移り、左手にアサルトライフルを呼びだす。すると一秒以内に銃が出現し、銃弾を放ち始める。

 

 ――これこそ、シャルルの固有技能、『高速切替(ラピッド・スイッチ)』である。

 

 そう。シャルルは普通(ナチュラル)の人間でありながら、葵と同様に、リアルタイムの武装呼び出しが可能なのだ。

 銃弾が、ラウラに迫る。しかし、繰り返すようだがこれはチーム戦。

 

「私を忘れてもらっては困る」

 

 箒の打鉄が出現。実体シールドを展開して銃弾をはじき、そのままシャルルへと斬りかかった。が、シャルルは余裕の表情。箒が弱いから?量産機だから?

 ――否。

 

「それじゃあ俺も忘れられないようにしないとな!」

 

 シャルルの背後に、瞬時加速を行った一夏が迫る。ぶつかる直前に、シャルルは宙返りをしてポジションチェンジ。一夏と箒の近接ブレードが、衝突して火花を散らした。

 

 キン!ガキン!

 

 白式はスラスター推力を上げながら、何度も打鉄に斬りかかる。箒も全てを防いではいるものの、勢いに押されてじりじりと後退していく。

 

「くっ!このっ……!」

 

 このままではマズイ。焦れた箒は、刀を上段に構え、振りかぶる。

 そう―――彼らの狙いどおりに。

 

「シャルル!」

「うん!」

 

 左手を峰に添え、一夏は雪片弐型を寝かせて構える。完全な受けの太刀。

 その刹那、一夏の背後に隠れていたシャルルが両脇から手を伸ばす。その両手に握られた武器は六二口径連装ショットガン、〈レイン・オブ・サタディ〉。

 

 この距離なら、たとえ黄河が逆流しても外さない。

 

 箒の顔が青ざめる。一連の動きは、全てコンビネーションだったのだ。

 

 フォーメーションS32。あの時は剣を持った方が後ろにいたが、その逆バージョンというわけだ。

 

 チームワークがなければ、成立しない戦い方。箒とラウラでは、成し得ない戦術。

 

 シャルルが引き金を引く。放たれた散弾は、しかし虚しく宙をきる。

 そう、箒が消えたのだ。

 

「邪魔だ」

 

 箒をワイヤーで投げ飛ばしたラウラが、無理やり入れ替わり急接近する。

 助けたわけではない。ラウラの独断による行動。その証拠に、箒は地面に叩きつけられ、わずかにダメージを受けている。

 が、ラウラはそんな箒を気にもせず、一夏たちへの攻撃を始める。プラズマ手刀を用いて、斬撃、突撃、刺突とバリエーション豊かな乱打を繰り出す。

 一刀VS二刀―――。

 

「数の差で私が有利だな」

「たかが二倍じゃねえか!」

 

 一方、シャルルも同時展開された6本のワイヤーブレードに阻まれ、うまく援護ができないでいた。

 

(シャルル、無事か?)

(一夏こそ。すぐにサポートに入るからね)

(いや、いい。このまま例の作戦で行こう)

(……。わかった)

 

 ISのプライベート・チャネルによる短いやりとり。ラウラを相手にするため、新たなる策が発動する。

 シャルルはラウラの射程から逃れ、箒へと肉薄したのだ。

 

「相手が一夏じゃなくてゴメンね」

「なっ……!?バカにするなっ!」

 

 激昂する箒は、近接ブレードでシャルルに襲いかかる。シャルルも武器を近接ブレード、〈ブレッド・スライサー〉に変更し、受け止める。

 一刀VS一刀。しかし、シャルルには銃があった。

 レイン・オブ・サタディ発砲。打鉄の装甲が、鉄塊によって削られていく。

 

「くっ……!」

 

 唇を噛む箒。剣で、銃で、自在に攻撃を繰り出すシャルルに、箒の勝ち目は少なかった。

 ゆえに、箒は地上へと向かう。

 

「逃がさないよ!」

 

 シャルルの追撃をかわし、防御しながら、打鉄はその二本の脚で、大地に立った。

 

「これで、お前の攻撃の自由度は半減した!不本意だが、時間稼ぎをさせてもらうぞ!」

 

 奇しくもそれは、箒の指導者である紅也が、好んで使う戦法であった。

 

「なるほど、いい手だね。でも……箒の腕じゃ、僕に射撃は当らないよ!」

「ふっ……。遠距離攻撃が、銃だけだと思うな!」

 

 ザクリ!

 箒は、刀をアリーナの地面に突き刺す。

 シャルルは、紅也との交戦経験がない。ゆえに知らない。この技は―――

 

 

 

 

 

「先に片方を潰す戦法か。無意味だな」

 

 一方のラウラは、シャルルに向けていたワイヤーブレードを全て一夏へと向け、手数で圧倒していた。一方の一夏は、反撃など考えず、全ての力を防御に回す。

 そう。一夏の選んだ戦略も、時間稼ぎであった。

 ただし、距離はとらない。この間合いから離れたら最後、もう一度食らいつくのは不可能に近いからだ。

 剣は刀で、ワイヤーは足で蹴り続ける。驚異的な集中力で、被弾を最小限に抑えることに成功していた。

 

「貴様の武器はそのブレードのみ。近接戦でなければダメージを与えられないからな」

 

 ラウラも、一夏の意図に気付く。しかしあくまで自信があるのか、間合いはそのままに剣舞を続けていた。

 

「うおおおおっ!」

 

 零距離。すでに「とっつき」の間合いで行われる高速戦闘。……が、そんな戦いに飽きたのか、ラウラはプラズマ手刀を解除。AICを起動して、白式を拘束する。

 

「では――消えろ」

 

 6つのワイヤーブレードが、一夏へと食らいつく。

 

「くそおおっ!」

 

 斬。

       斬。

    斬。

 斬。

      斬。

   斬。

 

 白式の装甲は30%以上削られ、シールドエネルギーも半分持っていかれる。

 が、攻撃は終わらない。一夏の右手は二本のワイヤーに拘束され、そのまま床へと叩きつけられた。

 

「がはっ!」

 

 肺が圧迫され、空気が漏れる。

 そんな無防備な一夏に、ラウラは照準を合わせる。レールカノン起動。光が臨界し、砲弾が放たれる。

 

「とどめだ」

 

 弾種は、対ISアーマー用特殊徹甲弾。当りどころによっては、一瞬で勝負が決まってしまう。もはや一夏に、回避するすべは残されていない。

 

 ―――そうだ。

 一夏は、紅也を思い出す。あいつの刀は、かつて砲弾を切り裂いていた。

 やるしかない。雪片弐型を握る手に力がこもり、右腕を動かす。

 

 しかし。

 

 その右手に、先程のワイヤーが絡まっていた。これ以上、手は動かせない。

 万策尽きた。一夏がとれる手段は、もう何一つ残っていない。

 

 そう、一夏(・・)にできることは、ない。

 

「お待たせ!」

 

 ガキン!

 

 シャルルのシールドが、迫る砲弾を防いだ。そして絡まったワイヤーを切断し、白式を解放する。

 

 離脱。

 

「シャルル……助かったぜ。ありがとよ」

「どういたしまして」

「箒は?」

「思ったより苦戦したけど、お休み中だよ」

 

 土壇場で箒が放った空破斬は、まだ未完成。ヴェントを破壊したものの、紅也が放つほどのダメージは発生しなかったのだ。そしてシャルルに間合いを見切られ、善戦するも、撃破されてしまった。

 今は、アリーナの隅で膝をつき、うつむいている。

 

「さすがだな」

「その言葉はこの試合に勝ってから、ね」

 

 残された一丁のマシンガン、ヴェントを投げ捨て、シャルルは武装を展開する。

 

「ここからが本番だね」

「ああ。見せてやるとしようぜ。俺たちのコンビネーションをな」

 

 これで2対1。試合はまだまだ、加速していく――――

 


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