IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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前話もそうですが、悪乗りの結果タイトルを変更しています。


第37話 ありのままの姿

「一夏、今日も放課後特訓するよね?」

「ああ、もちろんだ。今日使えるのは、ええと――」

「第三アリーナだ」

「「わあっ!?」」

 

 一夏とシャルルが並んで歩いているところに、箒が横に並び、突然話しかけた。

 気付けよ、幼なじみ&スパイ。

 

「……そんなに驚くほどのことか。失礼だぞ」

「お、おう。すまん」

「ごめんなさい。いきなりのことでびっくりしちゃって」

「あ、いや、別に責めているわけではないが……」

不責(せめず)。俺は驚かすつもりだからな」

「「「わあっ!?」」」

 

 いつの間にか一夏の背後に立った俺は、某不忍(しのばず)をまねて登場する。

 

「これぞ相生拳法・背弄拳。……なんてな」

 

 ……そこ。ただ後ろに立っただけとは言うな。

 

「まあ、ちょうどよかった。今日は、葵が第三アリーナにいるんだ。一緒に行こうぜ」

「う、うん。じゃあ、行こう。ほら、一夏と箒も!」

「お、おう」

「うむ」

 

 ふっふっふ……

 一夏め。何も知らずについてくるとは、愚かな。

 公衆の面前で完封して、ぼっこぼこにしてやんよ!!

 

「なあ、箒。俺、なんだか嫌な予感がするぞ」

「奇遇だな、一夏。私もだ」

「僕もそう思うな。だって……」

「「「紅也がああいう笑い方をするときは、たいてい悪だくみしてるときだ!」」」

 

 

 

 

 

 

 ……おかしい。

 なんだか、アリーナの方が騒がしい気がする。

 

 ――いや、気のせいじゃない。

 確実に、人が増えている。

 

「なんだ?」

「何かあったのかな?こっちで先に様子を見ていく?」

 

 シャルルは、観客席へのゲートを指す。確かに、そっちの方が手っ取り早く事態がわかるだろう。でも、もし葵が何らかのトラブルに巻き込まれてたら、ピットに行った方が早い。

 

 ……待てよ。避難警報が出ないレベルの戦闘系のトラブルなら、葵の心配はいらないか。

 

「………そうだな、行こう」

「紅也。なんとなくだが、後で葵に謝った方がいい気がするぞ」

 

 最近鋭いですね、箒さん。

 

「誰かが模擬戦をしてるみたいだね。でもそれにしては様子が――」

 

 ドゴォンッ!

 

「「「「!?」」」」

 

 突然の爆発音。俺をはじめ全員が、音の発生源に目を向ける。

 もくもくと立ち上るその煙の中から、現れた者は――

 

「鈴!」

「それに、セシリアか!」

 

 二人とも、苦い表情だ。爆発の中心をにらみ、武器を構えている。

 その爆心地に立っていたのは、漆黒のIS『シュヴァルツェア・レーゲン』。操縦者は銀髪の人形、ラウラ・ボーデヴィッヒだった。

 

「――ふう、葵じゃなくて良かった」

「よくねぇよ!二人を見ろ!」

 

 凰とセシリアの機体は――あーあ、ヒデェや。修理が必要かな――かなりのダメージを受けていた。シールドエネルギーの残りは知らねぇが、実体ダメージは大きい。

 それに比べてボーデヴィッヒは損傷軽微だし、葵は安全地帯にいるから当然無傷……

 

 ……って、葵!?何で、見てるだけなんだ?まさかボーデヴィッヒと組んだのか?

 

 まあ、それはないか。むしろ、3対1でも嬉々として戦いそうだ。

 

「何をしているんだ?――お、おい!」

 

 一夏の声で、俺は二人へと注意を戻す。

 凰とセシリアは目配せをした後、再びボーデヴィッヒへと向かっていく。

 

 ――ん?葵から通信?

 

(紅也。あのISのデータを収集して)

(あの、ドイツ軍のISか?)

(そう。私の勘では、面白いものを積んでる)

(レールガン以外の……。第三世代兵装か?)

(うん。さっきから、不自然な状況が何度かある。鈴音たちが負けるまでに、解析しておきたい)

(……負けるのは確定なのか?)

 

 甲龍の肩が開き、衝撃砲が放たれる。しかしボーデヴィッヒは回避行動をとらず、右手を突き出した。

 

《空間圧、消失――!》

(衝撃砲を打ち消した?……いや、防いだ!?アレはまさか、熾天覆う七つの……)

(違う。……でも、それほど違わない。アレで、衝撃を止めたのよ)

(……その話し方。お前、興奮してないか?)

 

 ヤバイ。葵のやつ、ひょっとして暴走してるのか?

 

 俺の記憶の底から顔をのぞかせたのは、一年前のあのとき。無邪気な笑みを浮かべたかつてのアオイの姿。

 もしや、二人をボーデヴィッヒにけしかけたのは――

 

(それよりアレ、光波防御帯に似てない?)

(……なるほど。応用できるってことか?)

《原理によっては可能だろう。なら、早速観測&解析だ》

 

 通信終了。ブルーフレームから、リアルタイムの戦闘データが送られてくる。

 

 ボーデヴィッヒのISの両肩から、刃が射出され、凰へと迫っていく。

 本体とワイヤーで繋がったそれは、凰の迎撃を複雑な軌道で回避しながら、甲龍の右足を捕らえる。

 

 いいな、あの武器。アレにビーム発信機をつけて、ビーム刃やビームを発射できるようにしたら、優秀な兵器になるだろう。

 

 ……っと、セシリアが射撃をして凰を援護する。同時にビットを射出するが、動きが鈍い。やはり、まだ同時制御は無理か!?

 ボーデヴィッヒがまたも両腕を突き出す。すると、その方向にあるビットの動きが……止まった!?

 

《……なるほど》

(! 何か分かったのか、8!)

《あれは、物体の慣性を……いや、ベクトルそのものを打ち消している!》

(なるほど。だから、衝撃やビットが止まったのか)

 

 セシリアのレーザーと、ボーデヴィッヒの大型レールカノンの射撃が激突、相殺される。

 が、レールカノンは単発なのに対し、ライフルは連射がきく。即座に第二射を放とうとするセシリアに、拘束されていた凰がぶつかる。

 さしずめ、ワイヤー版ジャイアントスイングか。運動エネルギーがたっぷりと乗せられたその一撃は、二人の体勢を崩すには十分すぎた。それを好機とみたボーデヴィッヒは、中距離の間合いから一気に距離を詰める。アレは、確か……

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)――!」

 

 一夏が叫ぶ。

 そうだ。一夏の得意技。そして、レッドフレームの不意打ち技だ。

 

 凰は双天牙月の連結を解き、二天一流の構えをとる。ボーデヴィッヒも両手首のパーツからプラズマ刃を展開し、つばぜり合いが始まる。

 ……が、突撃の勢いを保つボーデヴィッヒに対し、凰は防戦一方で、後退中だ。攻守の逆転は不可能。しかも、数を6つに増やしたワイヤーが、再び襲いかかる。

 

 ――6つのワイヤー付き誘導兵器による同時攻撃。このコンセプトは、何かに生かせるかもしれない。うん、覚えておこう。

 

 凰はそちらにも集中力を割かねばならず、剣筋が乱れる。

 そして、再び肩のパーツが開くが……

 

 一秒以下の駆け引きが求められるこの状況で、起動に時間がかかる兵器を使うのは、はっきり言って悪手だ。

 

 衝撃砲が爆散する。ボーデヴィッヒの実弾攻撃が、肩を射抜いたのだ。凰は大きく体勢を崩し、追撃のプラズマ刃がその身に届かんとするも――

 それを遮る影。セシリアのライフル、スターライトmkⅢが、剣線をそらす。同時にミサイルを放ち……って、自爆かよ!?スゲェ覚悟だ。

 

 セシリアと凰は床に叩きつけられる。しかし、ボーデヴィッヒは――

 

 無傷、だった。

 

 再び瞬時加速。凰を蹴り、セシリアに砲撃。さらにワイヤーブレードで二人を拘束。拳による乱打が、二人に叩きこまれる。

 

《シールドエネルギー、急速減少!このままだと操縦者生命危険域(デッドゾーン)へ行くぞ!》

(ここまでだ。葵!止めろ)

(極めて了解)

 

 通信とほぼ同時に、ブルーフレームは飛翔する。三機の間に割って入り、ビームライフルをボーデヴィッヒの顔面に突きつける。

 ……うわあ、容赦ねぇ。

 

「…そこまで。勝負はついた」

「フン……」

 

 シュヴァルツェア・レーゲンに、ワイヤーが戻っていく。その間に、セシリアと凰はのろのろと離脱していった。

 ……あのダメージじゃ、予備パーツなしでの修理は難しいだろう。アイツ、少しやりすぎだ。

 

「で?ようやくお前か。さっきの二人よりは楽しませてくれるのか?」

「言ったでしょ?口のきき方には気をつけなさい。さっさとシールドエネルギーを補給して、戻ってきなさい」

「くっ……」

 

 葵とボーデヴィッヒの会話が、8を通して聞こえてくる。あちゃあ、やっぱり熱くなってるな、葵のやつ。

 シュヴァルツェア・レーゲンはピットへと戻っていく。俺たちも、二人が退避したピットへと急いだ。

 

 

 

 

 

 

「う……。一夏、紅……」

「無様な姿を……お見せしましたわね……」

 

 ブルー・ティアーズと甲龍はボロボロだったが、二人の操縦者は無事だった。

 

「まったく、何があったんだ?……まあ、アイツがケンカを売ってきたんだろうけど」

「う、うん……。大体、そんな感じ」

「大体?鈴はともかく、セシリアはやすやすと挑発に乗るタイプじゃないだろ」

「一夏!それ、どういう意味よ!!」

 

 一夏のうっかり発言に、凰が噛みつく。そういうことしてるから、挑発に乗りやすいって言われるんだ。

 

「……で、セシリア。何で葵がキレてたんだ?」

「……やっぱり、怒ってるのですね。おそらくは、自分が侮られたことが原因でしょう。

 そういえば、あの女が気になることを言ってましたわ。『脱走兵の試作型(プロトタイプ)など、完成された私の敵ではない』……と」

 

 脱走?試作型?

 ボーデヴィッヒがそう言ったのか?

 アイツはドイツ軍人だ。軍のデータベースを見る機会もあるだろう。

 『脱走兵』というのが俺の思った通りの人物なら、ボーデヴィッヒの正体も、葵につっかかってきた理由も説明がつく。

 ……また、めんどくさい誤解が生じてるようだ。

 

「それ、関係ないんじゃないか?

 そんなことより、なんで葵は見てるだけだったんだよ」

 

 ああいう状態の葵なら、乱入しそうだったが。

 

「ああ、それは葵さんが、『そうね、セシリアと鈴音、二人と戦って勝ってみなさい。そうすれば、戦ってあげなくもないわ』と言って、わたくしたちを……」

「……ああ。試験扱いか?」

「ま、まあ、わたくしとしても、あの女と決着をつけたかったので、引き受けたのですが」

 

 そうか。三下扱いされたのか。本人は気付いてないけど。

 

「なあ鈴、調子悪いなら保健室に……」

「いいわよ!それより、葵の試合を見に行くわよ!アイツがボコボコになるところを見ないと、気が済まないわ!!」

「凰は平気そうだけど、セシリアはどうする?一緒に来るか?」

「紅也さんと一緒に……。え、ええ!もちろん!!」

 

 おう!?セシリアのやつ、急に元気になったな。

 大丈夫か?空元気じゃないといいけどよ。

 

「よし、じゃあ箒とシャルルも……。ってオイ、二人とも!?」

「うう……。どうせ私は、空気だ」

「一緒にいたはずなのにね……。アリーナに着いてから、セリフが一言も……」

「……なんかゴメン」

 

 

 

 

 

 

 再び観客席。

 

 アリーナの空に浮かぶは、青と白の全身装甲、アストレイ・ブルーフレーム。

 そして今ゲートから飛び出したのは漆黒のIS、シュヴァルツェア・レーゲン。

 

 両者共に万全の状態。レールガンとビームライフルを互いに向け、静止状態を保っている。

 

「貴様……。顔ぐらいみせたらどうだ?」

「断る。これは、装備の一部。

 ……そもそも、アンタの言うことなんて、聞く訳ないじゃない」

「フン、挑発など無駄だ」

 

 舌戦が繰り広げられるも、すぐに終わる。

 互いに、多くを語る者ではない。二人は戦闘者。語るよりも、戦いで多くを示す者。

 

「……そのようね。うん、冷静になってきたじゃない。

 いいわ。すごくいい。これなら―――」

 

 ――少しは楽しめそうね。

 

 葵の気配が変化する。

 

 冷たく冷たく、氷のように。

 鋭く鋭く、刃のように。

 

「フン、それは――

 

 こちらのセリフだ!!」

 

 

 ――――本気の戦闘が、今、始まる。

 




ハーメルンへの投稿から一カ月が経ちました。
まだまだ先は長いですが、今後も本作をよろしくお願いします。

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