IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第33話 どんな理由があれ、立派な変態行為です。本当にありがとうございました

「……あーあ、頭部小破。修理しないとな。じゃ、俺はもう上がるから」

「僕もあがるよ。どのみちもうアリーナの閉館時間だしね」

「おう。じゃあ、俺も。あ、銃サンキュ。色々と参考になった」

「それなら良かった。えっと……じゃあ、先に着替えて戻ってて」

 

 俺がシャルルを疑う点、その3。シャルルは、俺たちと一緒に着替えようとしない。

 いつもわざとらしく、何やら強引な理由をつけて、タイミングをずらすのだ。

 

 ……結局、あの後作戦に進展はなく、シャルルの正体を暴くことはできていない。

 そろそろ、俺も我慢の限界だ。葵分が足りていない。

 

「たまには一緒に着替えようぜ」

「い、イヤ」

「つれないことを言うなよ」

「つれないっていうか、どうして一夏は僕と着替えたいの?」

「というかどうしてシャルルは俺と着替えたがらないんだ?」

 

 おお、一夏が押してる。

 いいぞー。もっとやれー。そして後ろで燃えてる三人にボコられろー。

 

「どうしてって……その、は、恥ずかしいから……」

「慣れれば大丈夫。さあ、一緒に着替えようぜ」

「いや、えっと、えーと……」

 

 言い訳切れか?もう一押しだ……と、言いたいところだが、時間切れだな。

 凛がガントを連射すべく、魔力全開で迫ってきている。ものの例えだが、暴力系ツンデレ女子の例えとしては適切だと思う。

 ここは俺がフォローして、シャルルからの「頼れる度」を上げるべきだろう。

 

「そこまでだ、一夏。そんなに着替えをしたがるなんて、お前はやっぱり……」

「わー!ストップ、ストップ!!

 こんなに女子がいるところで、そんなことを言うな!そもそも、前の誤解だって、解くのにどれだけ苦労したか……」

「はいはい、誤解されたくなかったら、さっさと着替えに行きなさい。引き際を知らないやつは友達なくすわよ」

 

 凰が一夏の首根っこを掴み、俺を見る。

 

 ――ナイス、紅!

 ――グッジョブ、凰!

 

 一瞬のアイコンタクト。凰はISを足に部分展開し、ずるずると一夏を引きずっていった。

 BGMはもちろんドナドナだ。本当は歌詞を書きたいが、作品を消されたくないのでカッツ・アイ。

 

「……なあ、シャルル。一夏のことで困ったことがあれば、愚痴ぐらいは聞いてやるぜ」

「う、うん……。ありがとう、紅也」

 

 はにかむシャルル。その姿は、美少年というよりむしろ……。

 

「こ、紅也さん。もし、今の一夏さんと一緒に着替えるのがお嫌でしたら、そうですわね。わ、わたくしが一緒に……」

「行くぞセシリア。大丈夫だ、紅也は強い」

「ほ、箒さん!自分で歩けますわ!離してくださいませ!」

 

 一緒に……何だろう。すごくいい話な気がするが、聞いたら後悔しそうな気もする。

 

「……じゃあ、シャルル。俺、先に行ってるぜ」

「うん……。じゃあ、後でね」

 

 

 

 

 

 

「はー、風呂に入りてえ……」

 

 俺が更衣室に入ったときの、一夏の独り言がそれだった。

 何だ?シャルルに振られたから、今度は女湯を覗こうってか?

 俺の中での一夏の評価は、一気に変態の域にまで落ちた……。

 

「いきなり覗き宣言とは。お前、ギャルゲー主人公の友達のアホキャラみたいだぞ」

「うわぁ!?……紅也か、脅かすなよ」

 

 今の一夏はパンツ一枚。なんか、漢の最終装備って感じだな。

 

「さっさと着替えろ。俺も、今のお前と一緒に長居はしたくないんだ」

「どういう意味だよ!?俺はノーマルだからな!!」

「なら、まずはその格好をやめろよ」

 

 その言葉で、一夏は着替えを再開。俺も、ISスーツを脱ぎ始める。

 

「しっかし、紅也のスーツって、変な感じだよな」

「あん?どこがだよ」

「どこ、って……。なんつーか、全身タイツ?」

 

 そう。俺のISスーツは、首から下、手の先から足の先までをすっぽりと覆っている。

 これは、全身装甲の特徴とも言える、稼働時の摩擦軽減のためだが……。説明メンドクサイ。

 

「よし、着替え終わり。紅也は……時間かかりそうだな」

「うるせえ。今日は無理な姿勢で刀を振ったから、腕が痛いんだよ。

 普段は三倍早く着替えられるっつーの」

 

 背中のジッパーに手が……手が……届かない。

 

「あのー、山代君と織斑君とデュノア君はいますかー?」

「はい、えーと、織斑と山代はいます」

 

 ……ん?この声、山田先生かな。

 あの人のことだ。ノックせずに入ることくらいやりかねない。

 こそこそと、ロッカーの中に入り、隠れる。

 

「入っても大丈夫ですかー?まだ着替え中だったりしますー?」

「ああ、ちょっと待ってください。俺はともかく、紅也は……」

「もう隠れてるから、大丈夫だ」

「……だそうです。入ってください」

「そうですかー。それじゃあ失礼しますねー」

 

 バシュッ、と圧縮空気が抜ける音がして、ドアが開いたことを教えてくれる。

 

「山代君……はどこかにいるんですよね。デュノア君は一緒ではないんですか?今日は織斑君と実習しているって聞いてましたけど」

「あ、まだアリーナの方にいます。もうピットまで戻ってきたかもしれませんけど、どうかしました?大事な話なら呼んできますけど」

「ああ、いえ、そんなに大事な話でもないですから、織斑君から伝えておいてください。ええとですね、今月下旬から大浴場が使えるようになります。結局時間帯別にすると色々と問題が起きそうだったので、男子は週に二回の使用日を設けることにしました」

「本当ですか!」

 

 一夏の声のトーンが、急に上がった。

 風呂、入りたがってたもんなあ。じゃあ、しょうがないよなあ。

 でも、手まで握る必要はないよなぁ……。

 

「嬉しいです。助かります。ありがとうございます、山田先生!」

「い、いえ、仕事ですから……」

「いやいや、山田先生のおかげですよ。本当にありがとうございます」

「そ、そうですか?そう言われると照れちゃいますね。あはは……」

 

 前から思ってたんだけど、一夏って、けっこう強引だよな。

 ……新聞部に、情報売っちゃおうかな。そしたら、明日の一面は差し替えだ。

 タイトルは、「教師と生徒、夕暮れの更衣室で密会!」ってところか。

 

「……一夏?何してるの?」

 

 来た!シャルルだ。

 あぶねぇ、もう少しで飛び出すところだった。

 

「まだ更衣室にいたんだ。それで、先生の手を握って何してるの?」

「あ、いや。なんでもない」

 

 一夏が、山田先生から手を離す。二人とも、どこか恥ずかしそうだ。

 

「一夏、先に戻ってって言ったよね」

「お、おう。すまん」

 

 む、これはプレッシャー!?シャルルか!

 

「喜べシャルル。今月下旬から大浴場が使えるらしいぞ!」

「そう」

 

 シャルルはISを解除し、タオルで頭を拭き始める。ごしごし、と。やっぱり、機嫌が悪そうだ。そのせいで……。

 

 シャルルは、俺の存在を忘れている。

 

「ああ、そういえば織斑君にはもう一件用事があるんです。ちょっと書いて欲しい書類があるんで、職員室まで来てもらえますか?白式の正式な登録に関する書類なので、ちょっと枚数が多いんですけど」

「わかりました。――じゃあシャルル、ちょっと長くなりそうだから今日は先にシャワーを使っててくれよ」

「うん。わかった」

「じゃ山田先生、行きましょうか」

 

 二人分の足音が遠ざかる。これで更衣室に残っているのは、俺とシャルルの二人だけ……。

 

「…………はあ。何をイライラしてるんだろ、僕……」

 

 ため息をつくシャルル。その姿は、まるで恋する乙女のようで……。

 だが男(?)だ。

 

 もうすぐ分かる。シャルルは男か、女か。

 今分かった。俺の正体を探ってた時の一夏やセシリアは、こんな気持ちだったんだろう。

 だが、俺は奴らとは違う。下手な失敗はしない。

 なにせ俺は、かつてイギリスのIS訓練施設や、N.G.Iの研究施設に潜入した実績を持つ、凄腕のスパイだ。まあ、後者は母さんに手伝ってもらったけど。

 

 シャルルは、ISスーツに手をかける。いよいよだ。いよいよ、シャルルの秘密が明かされる――

 

 ……後になって思う。このときの俺は、変態一直線だった、と。

 

 

 

 

 

 

 結論を言おう。

 シャルルの胸部には、がっちりとしたコルセットがはまっており、そこから溢れるたわわな胸が、はっきりと見えた。

 下を脱ごうとしたあたりで、俺は目線を逸らした。

 胸は、直接見なかったからセーフだ。うん。

 

 そして今、俺は――

 

「……言い訳は?」

「あれは、調査であって、覗きでは……」

「問答無用。……ド変態」

「うわあぁぁぁぁぁ!!!」

 

 自分の部屋で正座を強いられ、葵に頭を踏みつけられていた。

 

 あの後、葵と連絡を取って部屋で合流した俺は、意気揚々と、戦果を報告した。

 当然、見てきたことすべてを語ったため、シャルルのセミヌードを見たことがばれ……。今に至る。

 

「……あ、でも」

「? 言い訳は聞かな……」

「胸は、たぶん葵と同じくら……」

「死ねぇぇぇぇぇ!!」

 

 あー、葵の絶叫なんて、久しぶりに聞いたな……。

 結構レアだよな。葵は、感情を表に出すタイプじゃないのに……。

 あー、景色がスローモーションだ。迫る蹴りや、足の根元に存在する下着まではっきり見える。とりあえず黒じゃなくて、お兄ちゃんは安心だぞー。

 

 どぐし。

 

 

 

 

 

 

〈side:シャルル・デュノア。いや……〉

 

 ……とうとう、バレてしまった。

 同室だった一夏が、シャワールームにボディーソープを置きに来たとき、その……裸を見られてしまった。当然、いつものコルセットを外してあったため、女の部分を見られてしまった。

 当事者である一夏は、すでに外に出ている。おそらく、混乱の只中にいることだろう。

 

(あーあ。これで僕は終わりだ。真相がばれたら、本国に強制送還されて、身柄を拘束される。デュノア社は……。まあ、どうでもいいや)

 

 今の僕にとっては、何もかもがどうでも良かった。

 一夏と紅也の情報を探れと言われ、失敗したことも。

 これによって自分の未来が、永遠に閉ざされることも。

 二度と、皆に会えなくなることも―――

 

 イヤだ。

 

 それはイヤだ。

 もっと、ここにいたい。

 もっと、皆と一緒にすごしたい。

 もっと、一夏と一緒に……。

 

(……そうだ。紅也なら、何て言うんだろう)

 

『何か悩みがあったら、いつでも相談しに来てくれよ』

『……なあ、シャルル。一夏のことで困ったことがあれば、愚痴ぐらいは聞いてやるぜ』

『私は24時間365日、誰からの相談でも受け付ける!』

 

 紅也の言っていた言葉を思い出す。……アレ、最後のは違うような……?

 

 でも。

 

(相談に乗る、って言ってくれたもんなぁ……)

 

 紅也は普段こそアレな感じだけど、真面目なときは今まで出会った誰よりも実直だ。

 前に「先生みたい」と評したことがあったけど、それは偽りない本音だ。

 

 相談に乗る、と言ってくれたあのときの紅也の顔。とても真剣だった。

 本当に何でも聞いて、受け入れてくれる。そんな気がした。

 

(……よし)

 

 コルセットを取り付け、その豊満な胸を隠す。

 今はまだ、女だってことまでは言えないけど。

 まずは、話してみよう。

 

 

 

 

 

 

 と、いうわけで、1017室の前に来たんだけど。

 

「死ねぇぇぇぇぇ!!」

「そげぶっ!?」

 

 ……なにやら、お取り込み中のようだ。

 アレかな?「ふらぐ体質」って奴かな。一夏と同じで。

 

 どうしよう。帰ろうかな。そんなことを考えていると……。

 

 がちゃり。

 

 ドアが開いた。僕の存在に気づいたのか、それともたまたまか。

 どちらにせよ、もう「逃げる」という選択肢は取れない。

 

「ん、シャルルか。どうしたんだ?……まさか、一夏に襲われたとか?」

 

 紅也の声がする。本人としては冗談のつもりだろうが、微妙に当たってるから笑えない。

 どうしよう。緊張して、紅也の顔が見れない。

 

「……何か、あったんだな。とりあえず、入れよ」

 

 茶化すような態度から一転、まじめな声音になった紅也。

 場の雰囲気が明らかに変化し、静かな廊下に緊張感が張り詰める。

 

「――紅也」

 

 意を決して、僕は顔を上げ―――そしてフリーズした。

 

 紅也の目の上には、それはそれはきれいな青たんができていた。

 

 ――ああ、神様。

 あなたは、シリアスが嫌いなんですね?

 




シリアスは好きです(笑)

たぶんこのころリトバにハマってたと思われますね。

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