IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第31話 では……ミッション・スタートだ!

 で、翌日。朝の教室にて。

 

「おはようございます、紅也さん。今日はずいぶんと遅かったですわね」

「ああ、久しぶり……いや、そうでもないか。おはようセシリア。

 いや、いつもは早く来すぎてたからな。今日からはゆっくりでもいいかな、と」

「つまり、「何となく」ですわね」

「まあ、そういうこった」

 

 とりあえず、作戦の一環として、葵と一緒にいるのを見られないようにすることから始めた。俺は食事の時間をずらし、鍛錬も一緒にはやらないことにした。

 葵は乗り気ではなかったが……。俺と離れるのが嫌だった、とか?そうだったら嬉しいんだが。

 

「お、おはよう紅也」「紅也、おはよう」

「よう、一夏、シャルル。朝からさわやかだな」

 

 噂の二人が登場だ。食事の時間をずらしたのは、やはり正解だったらしい。

 

「おはようございますわ、一夏さん、デュノアさん。相変わらず、仲がよろしいことで」

 

 ……ん?セシリアから、良くないオーラが出てるぞ。

 何かしたのか、一夏?が、当の本人はそんなことには気づかず。

 

「はあ、部屋が一緒だし、同じ男子だからな。当たり前だろ」

 

 と、これまた実にさわやかに返答する。

 

「……やはり、油断なりませんわね」

 

 ぼそっ、と。小声でつぶやくセシリアに危険を感じた俺は、即座に話題を転換する。

 

「そ、そうだ!お前ら、昨日は一緒に昼飯食ったって聞いたけど、どこにいたんだ?」

「昼……?うん、屋上で食べたよ」

「あんまり騒がれるのも嫌でさ。食堂なんか、かなり混んでたんじゃないか?」

「ああ。シャルル目当てのお客さんで満員御礼!……って感じだったぜ」

「そ、そうでしたの。でしたら紅也さん、今度、わたくしがお弁当を作って差し上げますわ!よろしければ……」

「お、ありがとな、セシリア。楽しみにしてるぜ」

「! そ、そうですか。楽しみに……。

 では、期待に応えるとしますわ!!」

 

 ガッツポーズをするセシリアと、「やっちまった」的な表情の一夏が、妙に気になった。

 ……大丈夫、セシリアだって、進歩してるはずだ。前のはたまたまマズかっただけ……の、ハズ。

 

「はーい、みなさん揃ってますね。HRを始めますよ」

 

 山田先生も到着だ。今日も一日が始まる。

 

 

 

 

 

 

〈side:山代 葵〉

 

 昨日、紅也が発案した、シャルルを探る作戦。

 はっきりいって、ナメてるとしか思えない。

 相手は一応、訓練を受けた工作員。簡単にはボロを出さないし、こちらの情報くらい、持っていても不思議じゃない。

 

 ――当然、私のことも知っているだろう。

 

 本来だったら、監視なり尋問なりを行って聞きだすべきだろうが、学園内でそんなことをしたら、国際問題に発展しかねない。

 しかし……。だからといって、こんな猿芝居をする必要は無いと思う。

 まったく、何でこんな作戦を思いついたのか……。

 

 ――そういえば、授業前に意識を失った、って言ってたっけ。

 

 きっと、そのショックで、頭が動作不良を起こしているんだろう。そうに違いない。

 

 私がしっかりしなくちゃ……。

 

 

 

 

 

 

〈side:山代 紅也〉

 

 ん?どこかで、非常に不本意な評価を受けた気がする。

 それはそうと、今は昼休み。今日も、購買に行くのは止めておいた方がいい、という俺の判断で、いつものメンバー+シャルルは教室で食事をしていた。

 

「そういえばさ」

 

 餃子をほおばる凰が、唐突に話しかけてくる。

 

「今朝、葵に元気がなかったんだけど、紅に心当たりはある?」

 

 ぶほっ。

 思わぬ角度から突然投げ込まれた『葵』という単語を聞いて思わず噴き出しそうになった俺は、それを必死でこらえつつ、ごまかす手段を考える。

 気を逸らす手段とか話題とか……そうだ、あれを使おう。

 

「ああ。なんか、自分のせいで一夏と箒がケンカしたんじゃないか、って気にしてたから、それかも。あの後、仲直りは……できたようだな」

 

 一夏と箒を見る。箒は、自分の弁当にあった唐揚げを、一夏に分け与えてる最中だった。

 

「まったく、もう少しあのままでも良かったのに」

「ええ、本当に。見てると、なんだかイライラしますわ」

「あー……。それは同感だな。リア充爆発しろ」

 

 そう言いながら、ジト目で一夏を睨む凰、セシリア、俺。シャルルは、「爆発……?」とか言いながら、何かを考えているようで。

 

「まあ、お互いに悪い所があったからな。今回は、おあいこってことで。な、箒」

「う、うむ……。紅也にも……その、なんだ。迷惑をかけたな」

 

 まあ、この様子を見れば、どう考えてもミッション成功だろう。

 サクサク、とカツサンドを咀嚼する。うん、脂っこすぎなくていいな。

 

「なら良かった。これで、一夏も安心して訓練ができるな」

「? どういう意味だよ」

「だって、ケンカ中だったら、訓練が本気の試合に変わりかねないからな。そうなったら、ケガのリスクは倍増だぜ」

「む。私は、そのようなことはしないぞ!」

 

 声を荒げる箒は無視して。

 

「そうだ、シャルルも一緒に訓練しないか?個人トーナメントもあるし、お互いに磨き合おうぜ」

「え?いいの?」

 

 シャルルを勧誘し、了承も得る。

 ……親密度を上げる作戦は、順調に進行中だ。

 

「ちょっと紅!今回は、私も参加させてもらうわよ!」

「ああ。もちろん。凰も、一緒にやろうぜ。……負けねぇぞ」

「ふん、こっちこそ!」

 

 そういや、凰は前回仲間はずれだったか。今思うと、悪いことをしたかな?

 まあ、そのおかげで葵と仲良くなったんだから、よしとするか。

 

「それにしても……。ずいぶんすごいメンバーが集まったよな」

 

 ぽつり。

 

 一夏が、唐突につぶやく。

 

「む?どういう意味だ?」

 

 箒が尋ねるも、ほかの全員は意味がわかっているようで。

 

「箒さん、よく考えてくださいな。ここには、専用機持ちが4人。遠距離型のわたくしと、近・中距離型の鈴さん。そして二人を守る騎士(ナイト)である、近距離型の一夏さんと紅也さん。完璧な布陣ではなくて?」

「下手すりゃ、戦争が起こせるよな。どうする?ラーズグリーズ隊とでも名乗るか?」

「紅。なによ、そのセンス……。そういえば、シャルルのISって、どんな機体なの?やっぱり近距離型?」

「ふふ、それは後のお楽しみだよ」

 

 そのまま話題は、今日の一夏の特訓内容へと移っていく。葵の話題は、完璧に消滅したようだ。これで、ひとまず安心だな……。

 

 

 

 

 

 

〈side:山代 葵〉

 

 お昼休み。

 紅也と鉢合わせしないように、今日も私は食堂へ行く。

 あいかわらずの混雑で、席を見つけるにも一苦労。でも、よく見ると、隅っこの席に、不自然に空いている一角がある。

 

 ――ちょうどいい。

 

 カルボナーラと味噌汁、酢豚を注文し、その席へと向かう。

 当然のように、そこには先客がいた。昨日写真で見た、銀髪眼帯女。

 たしかドイツの代表候補生、ラウラ・ボーデビッヒだっけ。

 

「……失礼する」

「……………」

 

 返事はない。まあ、最初から返事を聞く気はないけど。

 ラウラはその態度が気に入らなかったのか、顔を上げて……。

 

 ――? 私の顔を見ている?なんで?

 

 視線を迎撃するかのように、私も顔を上げる。

 翠と紅の瞳が、交錯した。

 

「…………」

「…………」

 

 互いに無言。……用があったんじゃないの?

 酢豚とカルボナーラを一緒に混ぜ、一口サイズにして放り込む。

 

 ……?気のせいかな?視線がそれた気がする。

 

 ぐちゃぐちゃ。もぐもぐ。

 

 無言で食事を続ける。おいしいな。

 

「……お前」

 

 どれくらい沈黙が続いただろう?

 唐突に、ラウラが話しかけてきた。

 

「私は、お前を見たことがある」

「…………」

 

 そんなことを言われても、私はコイツを知らない。

 

「お前は……。昔、ドイツにいたな」

「……知らない」

「とぼけるな。昔、お前の資料を見た」

「奇遇。私も、アナタの資料を見た」

 

 ……………。

 三度(みたび)の沈黙。ただし、今回は、目を逸らさないままに。

 

「お前は、私と同じ存在だ」

 

 はっきりと。

 ラウラは私にそう言う。あくまで淡々と。事実を告げるかのように。

 

「……そうかもしれない」

 

 私は、目的のために、命じられるままに戦う者だ。目の前のラウラも、軍人ならば、おそらくそうだろう。

 でも。

 

「でも、格が違う。アナタは、空っぽ」

 

 私には、紅也がいる。鈴音もいるし、ついでに、簪もいる。

 目標とする母がいる。尊敬する父がいる。

 

 だけど。

 

 コイツには、何もない。

 一緒に食事する友達もいない。親の顔も知らない。

 それは、とても悲しいことだ。だから、同じような存在である(と、考えた)私に話しかけたのか?

 

「っ! 何だ……。何だ!その目は!!」

 

 こちらを睨みつけるラウラに、もう興味はない。

 じゃあね。

 縁があったら、また話そう。

 




葵の味覚は時々独特。
モノによってはセシリアの手料理でもおかわりできます。

言葉足らず同士が出会って、すれちがいも加速中です。

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