IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第30話 男?女? 再び

 さて、午後の授業はIS整備だ。

 どっちかというと、こっちが俺の専門分野。

 葵と別れた俺は、第一アリーナの更衣室へと向かって走っている。

 前回の授業でスーツを着なかったため、今回は予め着替える必要があったのだ。

 ……正直、かなり面倒だ。エネルギーで変換できるんだから、それでいいじゃないか。

 でも、ISスーツで集合って言われてるからなぁ。はあ……。

 

 まあ、今回着替えるのには、別の意味もある。

 ……シャルルは女かもしれない。それを確かめるのだ。

 この時間なら、まだ誰も着替えに来てないはず。早めに着替えて、物陰に隠れていれば、きっとばれずに監視できる。

 

 と、いうわけで、着替えをさっさと済ませた俺は、ロッカーの中に隠れているんだが……。

 入ってきたのは、一夏のみ。シャルルはどうしたんだ?

 

「まったく……。鈴もシャルルもずるいよな。まさか、スーツ着たままだなんて……」

 

 お、なんてタイミングのいい独り言だ!知りたいことが全部分かったぞ。

 スゲエよ、空気の読める男。

 じゃ、シャルルが来ない以上、ここにいてもしょうがない。さっさと出るかな。

 

 バタン!

 

 ロッカーを勢いよく開ける。そして……

 

「オーーールハイル!ブリタアァァァァァニアァァァァァァ!!!」

「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 そのとき、正体不明の絶叫が、校舎まで届いたそうな……。

 

 

 

 

 

 

「いや、あの時の一夏は傑作だったな、イヤ、ホント」

 

 夕食時。俺と一夏とシャルルは、揃って食堂に来ていた。

 IS学園に3人だけの男子が集まれば、当然、騒ぎになるわけで。俺達三人、特にシャルルは質問攻めにあっていた。

 やれ、「生まれはどこ」だの、「好みのタイプは」だの、「一夏と俺ならどっちがいいか」だの……。最後の質問をした奴は、フレキシブルアームでくるくる回してやった。このくらいは許されるだろ?

 質問の波が引いたところで、ようやく、静かな夕食の時間がやってきたというわけだ。

 

「そりゃ、誰もいないところから人が出てきたら、普通は驚くって」

「アハハ……。あの叫び声、一夏だったんだ」

 

 思惑は外れたものの、共通の話題としては上々のものが手に入ったから、まあいいか。

 

「そういや、シャルルは、いつからISが使えることが分かったんだ?」

「え、えーっと……。一夏が使えるようになったから、男でも適性試験を受けるようになって、それから……かな。山代君「紅也でいいよ」……紅也はいつから?」

「実をいうと……だいぶ前だな。ISが開発された頃には、もう乗れてたぜ」

「え!?そ、そんなに前から……」

「おいシャルル!どう考えても嘘だって!」

「……いや、そこはつっこむところだろ?」

 

 シャルルは、なかなか真面目な性格のようだ。

 最近ISに乗れるようになった奴が、専用機を持って転校できるわけないだろ?今日の操縦を見る限り、ずいぶん前から訓練されてたと分かる。

 ……やはり女か?ちょっとカマをかけてみようか。

 

「まったく、シャルルは真面目だな。いい嫁さんになりそうだぜ」

「よ、嫁!?そんな……僕は……。…………って、ぼ、僕は男だよ!」

「紅也……。お前、コレなのか?」

「なっはっは!ジョークだよ。メキシカンジョークだ」

「めきしかん……?」

「だから、深く考えるなって!」

 

 ……隠す気あんのか?ここまであからさまだと、逆に罠のような気がするが。

 って、罠って何だよ。誰得だよ(笑)。

 あー、もうこの話題はいいや。

 

「そういや一夏。箒とは仲直りしたのか?」

「……箒?」

 

 うわ、急に不機嫌になった。選択肢を間違えたか?直前のセッションに戻って、ロードし直すべきだろうか。

 ……が、正直このまま放っておくと、良くないことが起こる気がする。ここで誤解を解くための仕込みをした方がいいだろう。

 

「ああ。昼間一緒にメシ食ったんだけどな。なんか、一夏に心ないことを言ったって、スゲェ落ち込んでたぞ。なんだか分からんが、昨日の『何とも思ってない』発言が原因か?」

「……ああ、それもあるけどな。

 午前中のIS実習で、ISを立たせっぱなしにした子がいたんだけどな。あいつ、俺が踏み台になって運べばいいって言ったんだぜ。ふざけるなって話だよ。

 ……で、実際自分は俺を踏み台にして……。ホント、俺が嫌われるようなことしたか!?」

 

 ふうん。お互い、見事にすれ違ってるな。

 二人の意見を聞いてるだけで、隠してることが見えてくるぜ。

 

「……で、そのとき一夏はどうするつもりだったんだ?」

「? そのとき、ってのは?」

「だから、ISを立たせっぱなしにした、その後の子だよ。俺には、だっこして運んでるように見えたけどな」

「あ、それ、僕も見てた」

「み、見られてたのか……」

 

 頭を抱える一夏。そんなことより。

 

「で、その子の後が箒だろ?一夏は、同じようにだっこして運ぼうとしたのか?」

「う……。それは……」

 

 明らかに言い淀む。後ろめたいことでもあったのか?

 まあ、全部知ってるけど。

 

「何か心当たりがあるなら、早いうちに謝っとけよ。大部分は箒が悪いとしても、お前にも非はあるぜ」

「そ、そうか?納得できないけどな……」

「じゃあ、謝った後でそう言え。たまには、本音で語り合ったらどうだ?」

「紅也……。分かった、後で箒と話してみるよ」

 

 そう言った一夏の表情は、さっきまでと異なりやや明るかった。その様子を見て、もう大丈夫かと思い食事を再開しようとするも――

 

「……ふふ、紅也って、何か先生みたいだね」

 

 今まで会話に参加してこなかったシャルルが、ようやく声を上げる。

 

「……は?先生?俺が?」

 

 尤も、言ってる内容は理解不能だったが。

 

「うん。なんか、みんなのことをよく見てて、悩みを解決する手助けをして……。なんか、かっこいいよ」

 

 そう言って、キラキラした目で俺を見るシャルル。

 

 やめて!そんな純粋な眼で俺を見ないで!

 みんなをよく見てるのは、情報を取り逃さないため。

 悩みを解決するのも、自分のミスの尻拭いと、友好度アップのため。

 そんな、打算だらけの人間なんだからぁ~!!

 

「さて、ごちそうさま。俺は先に行くよ」

「お、行って来い!思い立ったが仏滅、とかよく言うからな」

「いや、それを言うなら『吉日』、だろ。とにかく、ありがとな!シャルルも、また部屋で!」

「あ、うん。一夏も頑張ってね」

 

 ひらひら。

 手を振る俺とシャルルを置いて、一夏は去っていった。

 

「……そういやシャルル、一夏と同室なんだな」

「うん。一夏の部屋、一人で使ってたみたいだから。そういえば、紅也は誰と同じ部屋なの?さっき言ってた、箒って人?」

「いいや?一人部屋(・・・・)だぜ。どうしてそう思ったんだ?」

「うーん……。なんか、妙に肩入れしてた気がしたから、かな」

 

 まあ、半分くらい俺達の責任だったから、とは言わない。言う必要がない。

 

「俺は、目の前の問題を放っておけないタイプなんだよ。それだけだ」

「ふふ……。ホントに先生みたいだよ」

 

 だから、そんな立派な存在じゃないって。

 だって。

 

「そうかな。じゃあ、シャルルも何か悩みがあったら、いつでも相談しに来てくれよ。俺の部屋、1017室だから」

 

 こんなふうに、君がボロを出すのを待ってるんだから。

 

 

 

 

 

 

「……と、いうわけで。転校生は男装女子かもしれねぇ」

「……怪しい」

 

 1017室。俺と葵は、今日の転校生について話し合っていた。

 ボーデヴィッヒの身元はすぐに判明。ドイツ軍の特殊部隊に在籍する、現役の軍人だった。

 

 問題はシャルル。

 今までどんなデータベースにも、デュノア社社長の息子なんて存在しなかった。

 これについては、社長の隠し子か、養子であると仮定すれば、説明が付く。彼(彼女?)が言っていたように、IS適性試験をすぐに受けられたのも、これで説明できる。

 

 だが、問題は、その経歴だ。

 シャルルの経歴は、小中と私立の学校へ行き、高校に入ってから急にIS学園に編入、というものだ。学校の卒業生名簿にも載っていたし、卒アルにも写真がある。

 しかし――。

 モルゲンレーテの情報網を使って、その学校の卒業生に連絡を取ったところ、その学校でシャルルを見たことがある人は、ひとりもいなかったのだ。

 姓が違うわけではない。写真を見ても否定するのだから、彼は確かにいなかったことになり。

 つまりは、企業――あるいは国家――による情報操作が行われた可能性もある。というのが現状だ。

 

 だから、罠をはった。

 四月に起こった出来事。セシリアと一夏による誤解を、再現する。

 一人部屋と聞いていた俺の部屋。そこに女物の下着と、男性用の制服があったら?

 

 ――シャルルは誤解するだろう。

 「山代 紅也は、実は女である」と。

 

「名付けて、木下秀吉大作戦!……てな訳で葵。協力してくれるか?」

「本気?」

「ああ、本気(マジ)で成功すると思ってるぜ」

「……まあ、いい」

 

 しぶしぶ、といった調子だが、葵の賛同も得られた。

 

「よし。とりあえず、お前は女子の制服を隠して……。あ、これは変装用のカツラだ。部屋にいるときは、これをつけといてくれ。シャルルが訪ねてきたら、俺はバスルームに隠れるから。後は……。女子用制服は、クローゼットに隠しておいてくれ。あくまで、一人部屋だと思わせるんだ」

「……ノリノリ」

 

 おい葵。何で頭を押さえてるんだ。

 俺の完璧な作戦の、どこに不備があるんだ?教えてくれ。

 

「……やるだけやる」

「そうか、じゃあ、後は監視カメラの設置と~」

「……一夏の部屋に仕掛ければいいのに」

「ん~、何か言ったか?」

 

 転校生の来た夜は、こうして更けていくのであった……。

 




紅也はたまに馬鹿になる。

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