気が付いたら、アリーナにいた。
……いや、どうして?俺は、更衣室の入り口で……限界を迎えたはずなのに。
「……お。意識が戻ったぞ」
「大丈夫、山代君?」
「一夏……と、デュノアか……」
「シャルル、でいいよ。一夏もそう呼んでるし」
「……俺、は」
体を起こそうとするが、なかなかうまくいかない。
「おい、無理すんなよ。ISの飛行時のGをモロに受けたんだ。少し休んでろ」
「……え?」
「山田先生が、君を運んできたんだよ」
そうか……。
あの後、俺は山田先生に起こされて……。その、あのスンゴイ胸で……。
ブハッ!
「おい、ホントにどうしたんだ!?」
「しっかりして!」
……やばい!今思えば、恥ずかしすぎる!
「だ…大丈夫だ、問題ない……」
「……そう言ったときは大丈夫じゃない、って葵も言ってたz……」
「貴様ぁ!いつの間に葵を呼び捨てにするようになった!!」
「ええ!?復活した!?」
おっと、シャルルが驚いてる。……いけないいけない。
「目が覚めたようだな、山代。動けるか?」
「ええ、まあ」
「では、八人グループになって実習を行う。各グループリーダーは専用機持ちがやること。いいな?では分かれろ」
◆
「あの……。私の活躍は……?」
割愛しました。
「うう……ひどいです。どこぞの番組の不定期ミニコーナーじゃないんですから……」
あるいは、錆白兵VS鑢七花。そんなもんです。
◆
……予想はしていた。
俺達は、世界でも珍しい男性IS操縦者。
――ワイルド系、織斑一夏
――守ってあげたい系、シャルル・デュノア
――そして、非常に不本意だが、「かまってほしい系」こと俺、山代紅也
そんな3人に人気が集中するのは、ある意味予想通りで……。
「織斑君、一緒にがんばろう!」
「デュノア君の操縦技術を見たいなぁ」
「山代君、私の専用機を作って~」
……いや、最後の奴。実習関係ないだろ。
「ん~、作ってもいいけど、その代わりにこの契約書にサインを……」
取り出したのは、モルゲンレーテの専属契約書(常に5枚は持ち歩いてる)。
いつでも、「僕と契約して~」を実行できるように。
「ほら、ここにサインするだけだから。え、印鑑持ってないの?しょうがないなぁ。じゃあ、拇印でも……」
スパァン!
「この馬鹿者どもが……。出席番号順に一人ずつ各グループに入れ!順番はさっき言った通り。次にもたつくようなら今日はISを背負ってグラウンド百周させるからな!
それから山代!学園内での契約は禁止だ!契約書は全て没収する!!」
「そ、そんな!? 今月中に5件以上の契約取らないと、俺、クビになっちゃいます!」
「貴様はどこのセールスマンだ!」
とかなんとかやってる間に、班ができていた。
「最初からそうしろ。馬鹿者どもが」
ため息をつく織斑先生。
……いや、自由な班決めなんかやったら、だいたい人気者のとこに集まるから。修学旅行の班決めとか、特に悲惨じゃないか。ホント、「最初から、こーすれば良かったんだぁぁぁ!」って感じだな。この虫野郎!!
あ、誤解しないでくださいね。決して、織斑先生に暴言を吐いたわけではありませんから。
「……やったあ。織斑君と同じ班っ。名字のおかげねっ……」
「……うー、セシリアかぁ……。さっきボロ負けしてたし。はぁ……」
「……凰さん、よろしくね。あとで織斑君と山代君のお話聞かせてよっ……」
「……デュノア君!分からないことがあったら何でも聞いてね!ちなみに私はフリーだよ!……」
「……山代君、技術者なんでしょ。ISの裏話とか聞きたいから、放課後、私の部屋に……」
「……………………………」
あと、君。悪いけど、今日は部活があるんだ。また今度な。
「ええと、いいですかーみなさん。これから訓練機を一班一体取りに来て下さい。数は『打鉄』と『リヴァイヴ』が三機ずつです。好きな方を班で決めてくださいね。あ、早い者勝ちですよー」
今日の山田先生は、いつもと違う。なんだか堂々としていて、いつもより大人びている。
さっきの模擬戦で、自信を持ったのか。
そ、それとも……俺との一件で、ヒ○テリアモードになったとか!?
嫌過ぎるぞ、そんな設定。
「……で、みんなはどの機体がいいんだ?」
「んー、そだねー」
「山代君って、刀得意だよね」
「ああ。でも、今日の実習じゃ武装展開はしないぜ」
「じゃ、どっちでも同じかなぁ」
「……とかなんとか言ってる間に、もう残り一機になってるけどな」
「あー、ホントだー」
残っているのはラファールが一機。残念、時間切れだ。
それを取ってきて、さてどうするかと考える。周りを見ると、どの班もISの装着を始めていた。――オープンチャンネルで指示を受けたのかな?こういうとき、レッドフレームは少し不便だ。
「じゃ、とりあえず番号順に並んでくれ。これから、一人ずつ装着作業に入るぜ」
「「「「「はーい!!」」」」」
そう言うと、みんな一列になり、元気よく返事をする。
はっはっは……。元気良すぎだろ。耳きーん、だ!
「山代君山代君、どうやればいいの?」
「ああ。まずISに座るように……って、これ前の授業でやってるよな?」
「えー、いいじゃんいいじゃん。手とり足とり教えてよ!」
「あ、ミヨずるい!山代君、私も!!」
「わたしもー」
……参ったな、すごい熱気だ。
シャルルと一夏の所も、似たり寄ったりの状況で――あ、鬼神に叩かれた。
「……怒られる前に、さっさとやろうぜ」
「「「「「り、りょうかーい!!」」」」」
圧倒的な力を前にした班員の団結力は、半端なく強かった。
「はい、じゃあ装着したら起動!そしたら歩いてみて!」
一人目、飯田さんがISを起動。何事もなく立ち上がる。
「コイツ、動くぞ!!」
「立った!クララが立った!!」
「いいぞ、ジョー!!」
皆さん、ノリがいいことで。
歩行、しゃがんでから装着解除。こうしないと、ISに乗れなくなっちまう。
一夏の班みたいにな。
「じゃあ次、グローリーさん。同じようにやってみてくれ」
「はーい。こんなの、お茶の子前よ!」
「いみわからん」
起動、装着、そして歩行。ここまでは良かった。
「あー、織斑君がお姫様だっこしてるー!」
「いいないいなー」
騒ぎがしたので一夏の班を見ると、立ったままのISに乗せるため、クラスメイトを白式で運ぶ一夏の姿が。
「……フフン!」
なにやら、ラファールから妙な声が。嫌な予感がする。
「おっと!うっかりISをしゃがませるのを忘れちまいました!」
そう言って、立ったまま装着解除したISから飛び降りるグローリーさん。……俺にも、あんな恥ずかしいことをやれと?だが断る!
ISの脚部に接近。8を使って制御系に干渉し、停止中のISをしゃがませる。
「ああー!ニコの努力がー!」
「山代君、ひどいよひどいよ!」
「空気?読みませんが何かぁ?ハイ次ぃ!」
◆
〈side:篠ノ之 箒〉
何をやっているのだ、あいつは!
山田先生の胸を見たり、女子と密着したり……デレデレしすぎではないか!
と……とはいえ、次に……その、一夏に抱いてもらえるのは、順番的には私だ。
そこだけは、あいつに感謝してやってもいいな。
「あー……また俺が運ばないといけないのか。えーと、次は誰?」
「私だ」
「え……。お、おう」
……なんだろうか?どこか、ひっかかる反応だったな。
と、唐突に一夏は私に背を向け、白式をしゃがませた。
「……何だ?」
「いや…。箒は、俺が踏み台になったほうがいいんだろ?ほら、早く乗れよ」
う……。た、確かにそう言ったが、あれは、一夏が他の女を抱くのが嫌だっただけで、決して踏み台になってほしかったわけでは……。
とか思っていると、一夏はさらに続けた。
「ほら、早くしろよ。俺のことなんか、踏み台程度にしか思ってないんだろ」
――昨日の食堂でのことは、ただの照れ隠しだった。
今の一夏の発言も、おそらくは売り言葉に買い言葉の状態だからだろう。
でも。
それでも。
この一言は、私には相当こたえた。
「…………………」
無言のまま、思わずうつむく。
この馬鹿は、本当に、どこまで、私の心をかき乱せば気が済むのだ!?
感情に任せて一夏を踏み台にし、私はISへと乗り込む。
とにかく今は、なにか行動していないと、どうにかなってしまいそうだった。
食堂でのやりとりのせいで、原作よりも二人が険悪です。
そんな状態だと……。