IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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今回はネタ多めな気がします。全部拾えた人とは一晩中でも話せそうです(笑)


第26話 ふたりは転校生

 箒と一夏の誤解は解けぬまま夜が明け、翌日。

 そろそろISスーツの注文日が近付いているためか、教室は騒がしかった。

 

「やっぱりハヅキ社製のがいいなぁ」

「え?そう?ハヅキのってデザインだけって感じしない?」

 

 ハヅキ……葉月ねぇ。

 危険な香りしかしないね。ドリルとか、チェーンソーとか、サングラスとか。

 

「そのデザインがいいの!」

「私は性能的に見てミューレイのがいいかなぁ。特にスムーズモデル」

「あー、あれねー。モノはいいけど、高いじゃん」

「そういえば織斑君のISスーツってどこのやつなの?見たことない型だけど」

「あー。特注品だって。男のスーツがないから、どっかのラボが作ったらしいよ。えーと、元はイングリッド社のストレートアームモデルって聞いてる」

「そうなんだー。山代君のは?」

「ん?ア○ブレラ社の、ウェ○カーモデルだ」

「「「嘘だっ!!!」」」

「うおっ、怖っ!」

「そもそも、全身装甲型にも、ISスーツって必要なの?」

「そりゃもちろん。なんてったって……」

 

「ISスーツは肌表面の微弱な電位差を検知することによって、操縦者の動きをダイレクトに各部位へと伝達、ISはそこで必要な動きを行います。もちろん、全身装甲だろうと同じ事です。また、このスーツは耐久性にも優れ、一般的な小口径拳銃の銃弾程度なら完全に受け止めることができます。あ、衝撃は消えませんのであしからず」

 

 長いセリフを、すらすらと噛まずに言いきってみせたのは、副担任の山田麻耶先生だ。

 見た目はアレでも、伊達に教師はやってないというわけか。

 

「山ちゃん詳しい!」

「一応先生ですから。……って、や、山ちゃん?」

 

 『一応』って、オイ。南海か。あるいはおっはーか。……レイモンドって、今どこで何してるんだろう?少し気になる。

 

「山ぴー見直した!」

「今日が皆さんのスーツ申し込み開始日ですからね。ちゃんと予習してきてあるんです。えへん。……って、や、山ぴー?」

 

 相沢か。それとも矢吹丈か。あだ名多いな。

 

「あのー、教師をあだ名で呼ぶのはちょっと……」

「えー、いいじゃんいいじゃん」

「まーやんは真面目っ子だなぁ」

「ま、まーやんって……」

 

 4号か。……っと、アレはパー○ンか。

 

「あれ?マヤマヤの方が良かった?マヤマヤ」

「そ、それもちょっと……」

「もー、じゃあ前のヤマヤに戻す?」

「あ、あれはやめてください!」

「じゃあヤマやん、で」

「山代くんまで!?と、とにかくですね。ちゃんと先生とつけてください。わかりましたか?わかりましたね?」

 

「「「「「はーい、ヤマやん先生!」」」」」

 

 みんな、ノリがいいな。

 そんなクラスメイトが俺は好きだ!愛している!!

 

 がらららっ!!

 そんなコントの最中、扉が開く音が空気を引き裂く。このタイミングで乱入してくる人物など、一人しかいないではないか!

 

「諸君、おはよう」

「お、おはようございます」

 

 担任、織斑千冬の登場により、クラスは一瞬で鎮まった。

 この威厳、副担任とは雲泥の差だ。山田先生がパチリスなら織斑先生はバンギラs……

 

 パアン!きゅうしょにあたった!!

 

「痛いか?次はもっと痛いぞ」

「……ごめんなさい」

 

 織斑先生は教卓へと戻っていく。そういえば、このやりとりも久しぶりだ。

 

「今日からは本格的な実戦訓練を開始する。訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので各人気を引き締めるように。各人のISスーツが届くまでは学校指定のものを使うので忘れないようにな。忘れたものは代わりに学校指定の水着で訓練を受けてもらう。それもないものは、まあ下着で構わんだろう」

 

 爆弾発言キターーー!!

 しかし、下着姿+IS……。これはなかなか……

 

 む、殺気?正面……教壇からか!なんてプレッシャーだ!やはりお前も……ドミナンt……

 

 バシン!600族の攻撃力は洒落にならない。

 

「次は狩るぞ?」

「……肝に銘じます」

 

 危険だ、この力。……大きすぎる。修正が必要だ。

 

「では山田先生、ホームルームを」

「は、はいっ」

 

 これ以上俺に構うのは時間の無駄と判断したのか、織斑先生はSHRを始める。

 というか担任。仕事しろよ。

 

「ええとですね、今日はなんと転校生を紹介します!しかも二名です!」

「え……」

「「「「な……なんだってーー!!」」」」

 

 寝耳に水だ。こんな情報、聞いてないぞ!?

 わざわざ一組に、二名。十中八九、どこかの国の回し者だ。くそっ、警戒レベルを引き上げないと。

 とりあえず、本社に連絡を……。

 

「じゃあ、入ってきてください!」

 

「失礼します」

「……………」

 

 その姿を見て、クラスに更なる衝撃が走る。

 一人はいい。長い銀髪と、左目の眼帯。あの頃の葵のような雰囲気を纏った、鋭く、しかしどこか壊れやすそうな少女。前に箒を刀に例えた事があったが、この少女はさながら「薄刀・針」のようだ。

 

 問題は、もう一人。

 

 首の後ろで束ねられた、濃い金髪。華奢な体に中性的な顔立ちの――男子であった。

 

 

 

 

 

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」

 

 ――しかも、デュノアだと!?欧州一の斜陽企業が、直々に送り込んできた刺客か。

 ……まあいい。こいつは本物か?それとも、俺と同じ偽物か?

 どちらにせよ、しばらくは警戒しないといけないな。

 

「お、男の娘……?」

「? はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入を――」

 

 笑顔で返事をするデュノア。その表情に、邪気は見えないが……。

 

「きゃ……」

「はい?」

「「「きゃああああああ―――――っ!」」」

 

 くっ、音波攻撃!?どこの喜界島さんだ、お前ら。

 窓がビリビリ震えてるぞ。

 

「男子!三人目の男子!」

「しかもうちのクラス!」

「美形!守ってあげたくなる系の!」

「そして男の娘……。じゅるり。」

「地球に生まれて良かった~~~~!」

 

 そろそろクラス内の変態を特定したほうがいいと思う。

 

「あー、騒ぐな。静かにしろ」

「み、皆さんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから~!」

 

 二人の教師の反応は、正反対のものだった。

 しかし、それらは確かに効果があったようで、クラスは再び静寂に包まれる。

 

「…………………」

 

 誰も――転校生すら――言葉を発しない。……いや、もう俺たちのターンは終了してるから。君、自己紹介しなさい。

 

「……挨拶をしろ、ラウラ」

「はい、教官」

 

 どうやら、織斑先生とは知り合いのようだ。

 それも、ただの知り合いではない。教官という言葉といい、今の敬礼といい、間違いなく、ドイツの軍関係者。

 

「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ」

「了解しました」

 

 再び敬礼。……かなり固い感じだな。こいつも色モノか。

 しかしこの関係、まるでジンネマンとマリーダだな。……まさか、コイツも強化人間!?

 ―――なんてな。戯言だよ。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

「……………」

 

 再び沈黙。何かを期待して待つクラスメートの姿に、軽くデジャヴを覚える。

 一夏のときと同じだ。この流れなら、多分―――

 

「あ、あの、以上……ですか?」

「以上だ」

 

 今度はずっこけない。そんな柔らかい空気じゃない。

 空気が張り詰めている。そんな中、唐突に。

 

 ボーデヴィッヒが動く。

 つかつかと、早足で、一夏の方へ。

 

「! 貴様が――」

 

 ……この剣幕、普通じゃない。

 何かが起こる。そんな気がして、俺は直感的に一夏の頭を下げさせる。

 

 ガン!ヒュン!

 

 予感的中。ボーデヴィッヒの平手が、さっきまで一夏の顔があった空間を通り抜ける。

 

「……貴様」

 

 赤い右目が、俺を睨む。その目に宿っていたのは、間違いなく憎悪の感情だった。

 俺はそれを無視して、一夏に声をかけることにする。

 

「無事か、一夏?」

「『無事か?』じゃねぇだろ……。無茶苦茶痛いわ!何しやがる!!」

 

 ……一夏は、今ので思いっきり机に頭をぶつけたようだ。

 ぱっと見、ぶたれた方がダメージが少なかったんじゃないか?ってくらい、おでこが赤い。

 

「織斑一夏……。私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」

 

 そうとだけ言い残し、空いている席へと座るボーデヴィッヒ。一方の一夏は、めまぐるしく変化する状況に、理解が追い付いていないようだ。

 

「あー……ゴホンゴホン!では、HRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」

 

 こうして、波乱だらけの一日が、始まることとなった……。

 


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