IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第24話 みんなもIS ゲットだぜ!

 ――草木も眠る丑三つ時。

 撃墜したブリッツから戦闘ログを奪った紅也は、IS学園近海に潜っていた。

 その身には、ブルーフレーム用の水中用装備、スケイル・システムが装備されている。

 

(8?反応はこの辺か?)

《もう少し下だ。そこから、微弱なコア反応がある》

(……まったく。連中、面倒なことをしやがって。大方、一夏を奪取した後に回収する予定だったんだろうが……。甘かったな)

《……これだ。コアナンバーは……解析不能。未登録だ》

(へぇ。本当に無人機とはな。……どこから来たのやら)

 

 海底に沈んで―――否、磔にされていたのは、異形のISだった。

 Xナンバーとも、ASTRAYとも違う、全身装甲。深い灰色をしたそのISは腕が異常に長く、脚よりも下まで伸びている。しかも……ビーム砲口が二つずつ、両腕についている。これは、明らかなオーバーテクノロジーの塊だ。しかし、今やその両腕と頭部には、三基のランサーダートが刺さっていた。

 

(機能は……完全に停止してるな。よし、じゃあコアを取り出すぞ)

 

 仄暗い水の底で、カチャカチャという音が、静かに響いていく……。

 

 

 

 

 

 

「以上が、今回のブリッツとの交戦の顛末です」

「そう……分かったわ。そうそう、送ってくれたパーツだけど、彼、喜んでたわよ。

 で、あのコアのことなんだけど……起動は難しいわ。反応してくれないのよ」

「……無人なのに。変なの」

「そうですか……。引き続き、研究をお願いします。うまくすれば、俺もISに乗れるようになるかもしれない」

「そうね……。織斑くんのデータももらってるけど、あまり進展ないし。

 ……やっぱり、解剖を」

「じゃ、さよならエリカさん」

 

 ぶつっ。通信を切る。

 モルゲンレーテへの報告が終わり、ようやく、日常が戻ってきた。

 同時に、俺たちの仕事も一つ減る。

 

 仕事の一つは、織斑一夏のデータ集め。そしてもう一つは、強奪機体の回収だ。

 かつて、N.G.Iから強奪された4機のXナンバー。その全てにPS装甲が搭載されているため、ビーム兵器持ちのASTRAYか、N.G.Iの彼女でないと対抗できない。

 そこで俺達は、織斑一夏を狙って集まる(かもしれない)Xナンバーを鹵獲するため、ついでに、そいつらのデータ(さすがに本体は無理だ)を横取り――もとい、取り返すため、ここに入学したのだ。

 ……改めて考えると、けっこう打算的な理由だな。

 

 さて、そのためにブルーフレームに搭載された機能。それが、武装へのハッキングだ。

 ISの本体から離れたパーツなら、何であれ解析し、使用許可を書き換え、自分の武器にしてしまうことができるのだ。

 ……何でレッドにはないかって?拡張領域を埋めるほどの、かさばる武装があるからだよ。

 昨日は、それを使ってトリケロスを強奪し、ブリッツ本体は学園に引き渡した。そのうち、N.G.Iの関係者が引き取りに来るだろうが……奴らの悔しがる顔が目に浮かぶぜ!!

 

「ふふふふ……あーっはっはっは!!」

「……うるさい」

 

 なんやかんやで、訪れた平穏を満喫する山代兄妹であった。

 

 

 

 

 

 

 あの事件にかかわった俺、葵、一夏、凰。それから箒とセシリア(一夏のピットにいたそうだ)、簪(結局、逃げずに見ていたそうだ)には、箝口令(かんこうれい)がしかれた。

 ……IS学園ではなく、国からの圧力だ。モルゲンレーテか、N.G.Iか……。まあ、そんなことを考えても意味はねぇけどな。

 

 ブリッツを奪取し、学園を襲撃した組織も、正体不明だ。だけど、師匠が言うには、古くから存在する、一枚岩の組織に違いないとのこと。今のところはこちらからアクションを起こす必要は無い、と説得された。

 

 さらに不気味なのが、無人のISだ。おそらく、一夏の襲撃に来たのだろうが、ブリッツと交戦して行動不能にされた。――全く情報のない、第三軍が動いている。しかし、この技術を入手できたなら、うちの試作1号機は完成に近づくだろう。早く解析してほしい。

 

 

 

 ……さて、状況説明はこんなものでいいだろう。今、俺の部屋には――

 

「で、(ホン)?アンタ、何者なの?」

「紅也。結局、あのISは何だったんだ?」

「他国の、最新型のビーム兵器なんて、なんでそんなものを持っているんですの?」

「あの光の剣は何だ?見たこともないぞ」

「……PS装甲って、何?」

 

 (くだん)の関係者が全員集まり、俺を質問攻めにしていた。

 ……葵?こいつらが来る直前に、危険を察知して逃げたよ。

 

「まあ待てよ。俺はショートクタイシ?じゃないんだ。ひとりずつ頼む」

 

 俺の言葉で、全員が互いの顔を見合わせた後、セシリアが手を上げた。

 

「では、わたくしから……。あのような高出力の携行型ビームライフルは、現状ではアメリカのN.G.Iの独占技術ですが、それを何故紅也さんが持っているんですの?」

「禁則事項です」

 

 セシリアからジト目で睨まれる。……が、次。箒くん。

 

「紅也と山代が持っていたあの剣は、何なのだ?」

「禁則事項です」

 

 ジト目が増えた。じゃあ次。

 

「……PS装甲って、何……?あんな強固な素材、見たことない……」

「禁則事項……だけど、一つだけ。アレには、俺たちのビーム以外は通用しない。見かけたら、絶対に戦うなよ」

「……わかった」

 

 簪の質問は、セーフだ。この程度なら、技術漏えいにはならない。

 

「じゃ、次は俺が……。結局、あのISは何者で、どんな目的だったんだ?」

「……まあ、少しは話せるか。

 あれは、アメリカの大手企業N.G.Iが極秘開発した試作機で、名前はブリッツ。詳しくは言えないが、特殊なステルス機能を持ってる」

「……じゃあ、そのN.G.Iってのが、襲撃を!?」

 

 一夏が、今にも飛び出しそうな勢いで立ち上がる。

 

「それなら話が早いんだけどな……。その機体、強奪されたんだよ。

 ……結構、有名な話だと思うんだけどな」

 

 ジト目組が増える。もちろん、加わったのは俺だ。

 

「一夏さん……。ニュースぐらい、見るべきだと思いますわ」

「……確か、お前がISを動かしたと発表されたのと、同じ時期だったが」

「あー……。その頃、テレビに映ってるのが恥ずかしくて、ニュースとか見てなかったよ」

 

 セシリアと箒につっこまれ、うなだれる一夏。……哀れだ。

 

「……強奪されたのは、4機……の、はず」

「ええ、確かにそのような内容でしたが……。……と、いうことは……」

「まさか……!」

 

「……そうだ。強奪した組織は、最大であと3機の新型を所有してる」

 

「……あんな機体が、3機も……」

「……って、紅也?『最大で』ってのは、どういう意味だ?」

「N.G.Iの試作機は5機あったんだ。奪われなかった残りの一機が、機体の回収のために動きまわってる。……あの人はばかみたいに強いからな。1機くらい回収してても不思議じゃないぜ。

 ……で、敵の狙いは……お前だ、一夏」

 

 びっ。

 人差し指を一夏に向ける。対する一夏は、口をあけたまま、マヌケ顔で固まってる。

 

「……え、俺?」

 

 ようやく発した一言には、緊張感のかけらも感じられない。……ハア。この鈍感男め。

 

「お前は、自分の重要性を何一つ理解してねぇな。世界でただ一人、ISを使える男としての価値を」

「いや、紅也さんもそうでしょう?」

「………。俺は所属がはっきりしてるから、いいんだ」

 

 ……あぶねぇ。墓穴を掘るところだった。セシリア、ツッコミの腕が上がってやがる。

 

「……あなたは……特別。政府が……代表候補生への専用機開発を打ち切ってまで……支援するほどに……」

 

 簪が長台詞とは、珍しい。……ああ、そういえば白式は、倉持技研の管轄。

 打鉄弐式が未完成だったのは、一夏が間接的な原因だったのか。

 

「で……そろそろいいかしら」

 

 今まで黙って目を閉じ、腕を組んで話を聞いていた凰が、唐突に口を開く。

 

「紅……。そんな情報を知ってて、存在しないはずのビーム兵器を持っていて、そして何より、あたしを足手纏い扱いしたアンタは、何者なのよ!」

 

 核心に触れる話。そして、この場にいる誰もが思ったこと。

 ここまでの機密を知る、山代 紅也とは、何者なのか……?

 

「何者って……。じゃあ、語らせてもらうぜ」

 

 そして、紅也は語りだす。己の人生を。

 

 

 

 

 

 

 俺の名前は山代紅也。モルゲンレーテのエージェントだ。

 事の発端は数か月前。俺は上司に呼び出され、作戦司令室に来た。

 

「コウヤ、聞いてくれ。N.G.IのXナンバーが、何者かに強奪された」

 

 回収を命じられた俺に迫る、組織の魔の手。

 味方に裏切られ、同僚を失い、愛する妻と娘も人質にとられる。

 

 それでも、俺は戦う。忠誠を誓った国のために。愛する者を守るために。

 

 ―――事件は、リアルタイムで起こっている。

 

 

 

 

 

 

「「「「「ストップ!!」」」」」

 

 全員がハモる。……何だ、まだプロローグなのに。

 

「いや、どこのバウアーさんだよ!明らかにパクってるじゃねぇか!」

「シリアスを期待したわたくしが、ばかみたいではありませんか!」

「……いや、セシリアにだけは言われたくないセリフだな」

「なっ……。それは、どういう意味で……」

 

 やはり、セシリアにはボケが似合う。そういう意味だ。

 

「……じゃ、なくて!真面目に話しなさいよ!!」

 

 ツインテールを逆立たせる凰。……って、指鉄砲を向けるな!何を撃つ気だ?俺には、強化すら使えねぇぞ!!

 

「わかった、わかった。真面目に話すよ。俺の……正体は――」

 

 全員が息をのむ気配が伝わってくる。

 

「――禁則事項です♥」

 

 ……だって、箝口令にひっかかるもの。

 

「「「「「ふ……ふざけるなぁ~!!」」」」」

 

 IS学園は、今日も平和でした。

 




これにて第一章は完結です。
明日は過去編とジェス・レポート2、25話をゲリラ的に投稿します。

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