IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第23話 消えるIS

 ――襲撃時、ピット内。

 唐突に降り注いだ光。アレは間違いなく、ASTRAYと同じもの――ビーム発振器より生じる高出力ビームだった。

 ……やはり来たか、アンノウン!狙いは、やはり織斑一夏か?

 

 レッドフレームを展開。今回、ガーベラストレートは使えない。代わりに取り出したのは、M1アストレイとの共通装備、標準武装のビームライフルとアンチ・ビーム・シールドだ。

 

(……紅也!)

(……葵か!あの機体……)

(うん……。間違いなく、Xナンバー!!)

 

 新型ビームを携行する機体は、現在、この世に8機しか存在しない。

 うち3機はモルゲンレーテが、5機はN.G.Iが所有していたが、それは過去の話。

 Xナンバーと呼ばれる、GAT計画によって作られた試作機5機のうち4機は、起動テスト時に何者かに強奪されたのだ。

 

(よし……思ったより早く、回収(・・)できそうだ。

 アレは、どの機体だ?)

(ビームの出力、バスターやイージスより低い……。なら……)

(ブリッツか、デュエルか……。いずれにしても、普通の機体にとっては脅威にはちげぇねぇな)

 

「簪!ちょっと行ってくる。ここを動くなよ!」

「……え!?何を……」

 

 腰にスライドした通常のバックパックから、白い棒を引き抜き、構える。

 俺が刃をイメージしつつエネルギーを回してやると、そこからピンク色の光が飛び出し、刃となって顕現する。

 ――これが、ASTRAYの第三世代兵器、ビームサーベル。

 

「さあて、行くぜ!!」

 

 ビームサーベルを突き立てると、ピットの扉はバターのように溶け始める……!!

 襲撃者の機体は、凰に銃口を向けている。が、既に葵が向かっているようだ。

 俺も、急がねぇと……!

 

 

 

 

 

 

 そして現在。俺は敵の前にいる。

 敵はブリッツだった。戦闘能力自体は低いこのIS。2機がかりならどうにでもなるが、問題は――

 

「だから、俺も戦う!雪片弐型なら、ダメージを与えられるハズだ!」

「あたしだって、時間稼ぎくらい……」

 

 この二人だ。こんな状況下で、足手纏い二人を守りながらは戦えない。

 ブリッツは、戦闘能力こそ(比較的)低いが、面倒な能力があるんだよ……!!

 

「早く!奴が見えるうちに、安全なところに逃げて!」

 

 葵が、苛立たしげに叫ぶ。俺も同感だ。早くしないと、一夏が奪われる!

 状況を理解しようとしない二人に、強硬手段に出ようとしたその時……。

 

「織斑、凰。早く避難しろ。山代の言っていることは全て事実だ。お前らは、足手纏いになる」

 

 再び響く、凛とした声。……織斑先生か!ありがたい!!

 

「……と、いう訳だ。ここは、俺達が引き受ける。

 8!パワーを上げるんだ!」

《了解!レッドフレーム、バトルモード!!》

 

 ビームサーベルが、輝きを増す。……これなら、たとえPS装甲であっても切断できるはずだ。

 

「……わかった。それじゃあ……って、あれ?ブリッツはどこに行ったんだ?」

「ホント……。レーダーにも映ってないわね」

 

 ……何!?しまった!!

 

「葵!コンプリート・センサーに換装!索敵しろ!!」

「了解!」

 

 ブルーフレームの頭部が光を発して収納される。が、漂う光は再び葵の顔を覆い隠し、新たなパーツとして再形成された。

 ブルーフレームの装備の一つ、コンプリート・センサーだ。見た目には、V字アンテナが無くなっただけ。しかしこの頭部パーツは、通信能力とセンサーが大幅に強化されている。

 

「……いた!白式より六時方向!」

「……え!?うわあぁぁぁ!!」

 

 白式が、突然妙な機動をする。まるで、見えないナニカに引っ張られたような……

 

「迂闊だぞ、一夏!!」

 

 高速移動。一夏の行き先に先回りして、ビームサーベルを振るう。

 確かな手ごたえと共に、流されていた白式の動きが止まった。……よっしゃ、成功だ!!

 

「……敵は、姿を消せる。私にしか、見えない。だから……」

「……ええ。悔しいけど、撤退するわ。一夏!」

「あ、ああ。山代、紅也。迷惑かけて悪かった!!」

 

 そう言い残し、一夏と凰は、葵が空けた穴へと逃げる。……これで、心配事はなくなった。

 

「さて……『ミラージュコロイド』、いつまでも通じると思うなよ――!」

「すぐに……堕としてやる!」

 

 

 

 

 

 

 ここから始まるのは、試合じゃない。殺し合いだ。

 ……少なくとも、相手はそのつもりだろう。

 

 ブリッツの真骨頂は、その名の通りの電撃作戦である。

 コロイド粒子を装甲表面に吸着させ、可視光線やレーダーを屈折することで、肉眼はもちろん、あらゆる探査装置から姿を消す完全なステルス装備――ミラージュコロイド。

 これを用いて奇襲、破壊工作を行うという、いかにもテロリストが好みそうなISだ。

 しかし、ミラージュコロイドには弱点がある。一つは、PS装甲を切らないと、使えないという点。もう一つは、コロイド粒子は時間と共にはがれ落ちる、という点だ。

 

 PS装甲。これも厄介だ。

 特殊な金属に、一定の電圧の電流を流すことで、装甲を相転移させ、強度を増す。それにより、レールガンすらも無効化する、最強の対物理装甲だ。

 つまり、一秒間に1のシールドエネルギーを消費することで、従来のビーム程度の弱い攻撃を無効化するのだ。確かにエネルギーは食うが、それを補って余りあるメリットである。

 ミラージュコロイド中はコレが解除されるから、相手も迂闊な攻撃はできない。ゆえに逃げに徹するようなことがあれば、こちらからは手出しができない。

 ……そこで、弱点その2を利用する。

 

 コンプリート・センサーの高い電算能力を使い、「モノが消えた」場所を割り出すのだ。

 そうすれば、見えないモノの通り道が分かる。……ならば、取るべき作戦は―――

 

「葵!ミサイル発射だ!」

 

 6発のミサイルが、地上に向けて放たれる。辺りに砂埃が舞い、作戦の準備が整った。

 

「観測開始……」

 

 シールドを構えながら、油断なくビームライフルを構える葵。俺は、そんな葵と背中合わせになり、シールドとビームサーベルを構える。

 ――ライフル、苦手なんだよ。

 

《ブルーフレームと、データリンク……成功。こちらは私が処理しよう》

「お願い、8」

 

 ――が、ここで敵は予想外の、しかしありがたい行動に出る。

 

 ビキュウゥゥゥゥン!!!

 

 虚空から放たれる緑の光、ビーム。

 しびれを切らしたブリッツは、先制攻撃を選んだようだ。

 

「「散開!!」」

 

 二人同時に叫び、宙域を離脱。センサーにより高エネルギー反応を捉えていた俺たちは、余裕を持ってビームを回避する。

 葵は、反応のあったポイントに即座にビームを発射。その光は直撃はせずとも、ミラージュコロイドの一部を剥ぎ取った。左肩の、赤い部分が、空に浮かんでいる。――今だ!

 

 訓練用のペイント弾を連射。アリーナがカラフルになっていくが、気にしない。

 だって――ホラ。敵の姿は、空中に浮かびあがっている。

 ミラージュコロイドの弱点その3。コロイド粒子は、黒以外には吸着しづらい。

 

 浮かび上がったシルエット。敵も観念したのか、ミラージュコロイドを解いてPS装甲を展開する。先程切り裂いたことで左腕のピアサーロック、グレイプニールは既に失われ、右腕の攻盾システム、トリケロスは――ん、ランサーダートが無い?発射された形跡もないし……。まさか、ここに来る前に誰かと交戦したのか?

 だが、そんなことはどうでもいい。敵の武装は、ビームサーベル、およびビームライフルのみだ。――これならば、鹵獲できる。

 

「やるぞ、葵」

「……うん」

 

 二機で並んで突撃。ビームの砲塔がこちらを向く。

 葵がシールドを構える。俺はその影へと隠れ、減速せずに突き進む。

 発射。着弾。ダメージなし。

 レッドが飛び出す。砲塔が再びこちらを向く。

 が……それは発射されない。葵が、ビームサーベルで、右腕の関節部を切り裂いたのだ。

 絶対防御によって、操縦者の右腕は残ったものの、トリケロスが落下していく。

 それをレッドフレームでキャッチし、8で解析。そのデータを、ブルーフレームへと送る。

 

「くっ……舐めやがってえぇぇ!!」

 

 聞き覚えのない声。おそらく、敵の操縦者だろう。

 ……そんな、三下っぽい台詞を吐くなよ。やられ役。

 

「さて、投降する気は……ねぇよな。じゃあ……!」

 

 トリケロスを葵に投げつけ、ビームサーベルを二本構える。

 我武者羅に繰り出された蹴りを回避し、足を斬りつける。次いで左腕、胴体に斬撃を刻む。

 全身装甲の利点は、装甲を使うことで、シールド・バリアーの展開を抑えることだ。 逆に、装甲の下は生身のため、装甲さえ斬れば絶対防御が発動する。

 

「ぐああああぁぁ!!」

 

 シールドエネルギー、ゼロ。ブリッツは消え、操縦者は落ちていく。

 

「フン……。元々こっちの技術だ。弱点なんて、知り尽くしてるんだよ」

 

 突入してきた教師に捕縛された操縦者に、俺はそう言い捨てた。

 

 

 

 

 

 

 ――深夜。IS学園の一室にて。

 

「失礼します」

 

 コンコン、とノックの音がする。その後入室したのは、サラサラしたブロンドヘアーの、背の高い美人であった。

 

「ふむ……貴様が、連絡のあったN.G.Iの操縦者か」

 

 応接室らしきその部屋の、いすに座って彼女を迎えたのは、織斑千冬である。彼女に座るように勧め、互いに向かい合ったところで、話し合いが始まる。

 

「初めまして。私は、エイミー・バートレットです。

 ふふっ、こんなところであの『ブリュンヒルデ』に会えるなんて、光栄だわ」

「……その様子だと、自己紹介の必要はないようだな」

 

 あたりさわりのない会話。しかし、そんな儀礼はすぐに終わり、本題が始まる。

 

「早速ですが、今回、IS学園襲撃に使われたIS――ブリッツと、その操縦者を、引き渡してください」

「……理由を聞いても?」

「あれは、元々我々の開発した機体ですわ。……恥ずかしながら、強奪されてしまいましたけど」

「フン……。その程度の理由で、受け入れられるとでも……」

「いいえ、受け入れざるを得ないはずですわ。そのための根回しも、既に終わっています。

 ……そろそろ眠いので、このお話、終わりにしません?」

 

 くぁ……と、本当にめんどくさそうにあくびをするエイミー。そんな彼女を見て、千冬からは思わずため息が漏れる。

 

「……そうだな。話は終わりだ。……私だ。奴を連れてこい」

 

 電話をかけて数分。犯人が運ばれてくるまで、二人は言葉を交わさなかった。

 

 

 

「この件に関する、我々の責任はここまでだ。後は、何があってもお前の責任だ」

 

 引き渡し後、千冬が告げる。その口調は、あくまで事務的だった。

 

「冷たいですわね。

さて、ブリッツの状態は……あら?」

 

 モニターに表示された情報を見て、エイミーはこてん、と首をかしげる。

 

「……ねえ、コイツを鹵獲したのは、コウくんだったかしら?」

(コウ)……?ああ、山代 紅也だ」

「やっぱり。……ふふっ。相変わらず、手癖の悪い子ね」

 

 まるで、いたずらっ子を叱る母親のような雰囲気で、彼女は微笑む。

 月明かりに照らされたその姿は、どこか神秘的ですらあり――

 

「織斑さん。紅くんには、気をつけなさい。でないと……」

 

 大事なものを、盗まれちゃいますよ。

 戯れに呟いたような、しかし確かな重みを持ったその一言は、さながら神託のように響いた。

 


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