今後も今のペースで更新を続けていきたいですね。
―――女性というものは、本当に分からない。
俺が技術者であり、仕事を請け負ってる以上、そちらを優先するのは仕方がない。
多少、葵に迷惑をかけることは承知だった。
葵も、納得しているはずだった。
それなのに……目の前の光景は何だろうか?
「……立て。紅也の作品は、この程度じゃないはず」
俺と簪、二人で作り上げたばかりの『打鉄弐式』は地に倒れ、空には、フル・ウェポン装備の青い機体が浮いていた……。
◆
〈side:山代 葵〉
……最近、出番が少ない。
じゃなかった。最近、紅也が冷たい。
昼はよく一緒に食べるけど、夕方は一夏の特訓にかかりきり。たまに、私と模擬戦もするけど、やっぱり、その頻度は少ない。
問題は、夜。最近、紅也の帰りが遅い。
気になって聞いてみると、
「仕事を請け負った」
とのこと。仕事なら、しょうがない。そう、思っていた。
―――依頼主が、四組の代表だと分かるまでは。
四組の代表は、更識 簪。代表候補生なのに専用機が無い、可哀想な子。
そして………私の、対戦相手。
何で?何故、
私が嫌いになったの?――いや、それはありえない。何があっても、私たちは対立しない。
じゃあ、「一回戦はスルー」と考えていた私を、戒めるため?――紅也も相手をナメてた。
私の当て馬にする気?――迷惑だ。そんなことより、一緒にいてほしい。
じゃあ、相手に興味を持った?――有り得る。紅也は、そういうタイプだ。
興味があることは何でもやってみて、気が付いたら全力で取り組む。利害について発言するようになったのも職業意識からで、実際はそんなもの抜きに引き受けるお人よし。
そんな紅也は、彼女に乞われたのだろう。
――専用機を作ってほしい、と。
……ということは、その機体は、紅也が初めて、一人で組み上げたISとなる。
それは許せない。お兄ちゃんは、約束してくれた。いつか、私の専用機を作る、と。
なのに、他の女の専用機を先に作る?
そんなの、許せない。
――いや、認められない。
◆
ある日の訓練中。
例によって、私は一人だった。空中にターゲットを投影し、撃ち、切り、時には蹴り飛ばす。いつもの練習。が、今日はいつもと違っていた。
「お、良かった、まだ開いてるな……。おーい、葵!いるか?」
それは、間違いなく紅也の声。8を通じて、私の機体に通信が来る。
アリーナの入り口の方へ降下。まだ紅也は出てこない――今出てきた。私に、手を振っている。私も、片手をあげて合図を返そうとすると……
あの女が、現れた。
「おーい、葵!悪いな、急に押しかけて」
「……いい。何?」
思わず、険のこもった返し方をしてしまう。仕事なのは分かってるけど、この女が紅也と私を引き離した、と考えると、胸がざわつく。
――そう、昔、紅也があの人に連れていかれたときのように。
「そ……そんなに怒るなよ。……っと、そうだ、その前に……簪、自己紹介」
「……初めまして。わ……私は、更識 簪……。あなたの……対戦相手です」
「……知ってる。私は、山代 葵。紅也の、妹」
「よし、じゃあ、本題に入ろう。
葵。さっき、コイツの機体が完成したんだけどな。新開発した戦闘支援AIを組み込んだから、そのテストをしたいんだ。……頼めるか?」
新開発。コイツのために、紅也はそこまでやったのか。
ずるい……。私には、そんなことはしてくれなかったのに。
ああ、認めよう。紅也は、これに、使える技術を全て使ったのだと。
これは、紅也の最高傑作。私以外に与えられた、紅也が作ったワンオフ機。
なら、証明してもらおう。
「いい。受けて立つ」
「……よ、よろしく……お願い、します」
最高は、最強に届くのか。
もし、戦うに値しない、不完全なモノだったら、こんな機体は……いっそ―――
◆
〈side:山代 紅也〉
「じゃあ、今回の趣旨を確認するぜ。
メインは、AIによる火器管制システムの動作確認。あとは打鉄弐式の実戦テストだ。……葵、やりすぎるなよ」
「……大丈夫。様子は、見る」
「……と、いうわけだ。簪、展開してくれ」
「……わかった。おいで……打鉄弐式……」
簪の体に光が張り付き、装甲を形成していく。
見た目は、初めて見たときと変わらない。だが、頭脳たるAIを搭載したことで、その性能は飛躍的に上昇した。……理論上はな。
「それが……あなたの機体?」
「……そう、です。名前は……打鉄弐式。倉持技研……日本製の、第三世代機。あなたの……ISは……」
「……ブルーフレーム。モルゲンレーテ、第三世代相当機。……早く」
葵は、ブルーフレームを上昇させる。遅れて簪も、上空へと飛んでいった。
うん、スラスター正常。クリムゾンから送られてくるデータも、すべて想定内の値だ。
もう、事故ったりはしないだろう。
……と、ここで葵の機体について説明しておこう。
正式名称はMBF-P03、アストレイ試作三号機だ。型番から分かるように、俺のレッドとは色違いの兄弟機。性能、基本武装は共通だ。
特化した能力はないが、その莫大な拡張領域に納められた武装により、様々な距離に対応できる万能機だ。
……ちなみに、三号機だからといって暴走事故を起こしたことは無い。念のため。新劇場版の方が救いがありそうだね。
一番の特徴は、武装だけでなく、装甲すらも換装できる点だろう。機体の
葵と簪は、空中で向かい合う。互いの眼を見て、来るべき時に備えている。
「では、模擬戦開始!」
開戦を告げる。と、同時、簪と葵は同時に距離を取り、円軌道で銃口を向け合う。
簪はミサイル発射管を、葵はバズーカを――ビームライフルは使用禁止だ――向け、隙をうかがう。
――なるほど。葵は相手を待ってる。普段は、こんな闘い方はしていないし。
簪は――クリムゾンと相談中か?データを見ると、ミサイルの軌道データを入力しているようだ。センサーに、9つの軌道が浮かび上がっている。
これぞ、
「行け……!!」
先手を打ったのは簪。ミサイル発射管から、9発のミサイルが、異なる軌道で放たれる。
……が、葵は後退し、頭部のバルカン砲、イーゲルシュテルンで撃墜する。
――油断したな、葵。それは、ただのミサイルじゃない。
「……っ!散弾!?」
撃墜したはずのミサイルから、無数の鉄塊が飛び出し、ブルーフレームの装甲を穿つ。
八式弾。ミサイルの中に入れた散弾を、爆破によって打ちだす特殊弾頭だ。
「まだまだ……!!」
今度は15発。同時制御は問題ない。ブルーフレームは高速移動し、回避を試みる。急加速、のち急減速。7発が目標を見失い、壁へと激突する。
残りは大回りの軌道ではあるが、誘導を継続……。うん、いい性能だ。
静止した葵に襲いかかる魔弾。しかし、ブルーフレームは突如自由落下を始め、ミサイルを回避した。……PICを切ったのか?
同時に発射されるバズーカ。ミサイルの行き先に先回りしたそれは、全てのミサイルを巻き込んで爆発する。
……否。一発だけ、被害を免れた。クリムゾンのコントロールではない。簪が動かした一発。
それが葵の回避先に回り込み、あわや命中と思いきや――
キンッ!
軽い金属音。ミサイルの軌道が不自然に逸れ、ブルーフレームの後方で爆発する。
「……嘘!?」
「……………」
簪が絶句する。
無理もない。
なにせ、ナイフ一本でミサイルの軌道を逸らされたのだから。
《簪、次は48発、同時発射を試すぞ》
「……うん。あの人……強い……」
今度は48発全て。……焦っているのか?誘導するのは20発に絞り、残りは広域に拡散させるようだ。当然、葵はミサイルの檻から逃れ、狙いの雑な外へと向かう。……が、急激に外側のミサイルの精度が上がり、葵を追い詰める。
成程、コントロールする弾頭を切り替えたのか。うまい手だ。
「このまま……墜ちて……!!」
「………………」
今度は八式弾だけじゃない。スタン、スモーク、チャフ、ナパームなど、多種多様な弾丸が爆発する。簪が、葵の視界を完全に奪った。
スモークの中へ突入するミサイル群。これは、葵でもダメじゃないのか?
爆発。爆発。爆発。
煙の中で爆炎が上がる。……アレ、打鉄弐式にあんな弾頭あったっけ?
あれって……確か、ジンの強襲装備にあったミサイルでは……?ってことは!
煙の中から飛び出す、青い流星。その両足には、空になった3連装ミサイルポッド。
右手にバズーカは既になく、握られたのは両刃の剣。左手のマシンガンからは、光が放たれ続ける。それを認識した時、簪に避ける術は残されていなかった。
「くっ……!!」
「…………」
簪は近接武器である薙刀、
ガン!
剣が、薙刀を払いのける。胴ががら空きになると、今度は二本のナイフが、薙刀を、装甲を、そして操縦者を襲う。
地に落ちる簪を、葵は追撃する。ナイフを投げつけ、高速移動。重力を乗せた蹴りを加え、簪を地面に叩きつけた。
「……立て」
葵は、空から静かに告げる。簪は答えない。否、答えられない。
クリムゾンから送られるデータが示している。簪は、操縦者保護機能によって、既に気絶している。
「紅也の作品は、この程度じゃないはず」
無慈悲にバズーカと、マシンガンを構える葵。その顔は見えないから、どんな表情かは分からない。
「……この程度?なら、そんな欠陥品は――」
「待て。そこまでだ、葵」
レッドフレームを展開し、いつでも止めに入れるようにする。
「まだ、こいつは未完成だ。……言っただろ、実戦テストだ、って。だから、壊すな。俺の、最初の作品なんだ」
――頼む。言外にそう匂わせて、葵に告げる。
「……約束、覚えてる?」
ぽつり、とつぶやいた一言。レッドは、それをしっかりと拾ってくれた。
はて……どの約束だろうか?この場合、機体の話だよな?
「専用機のことか?……俺が、一人前になったらの話だ。こいつは、プロトタイプってことで、妥協してくれ」
「……わかった」
銃口を下げる。武器が、光に変わっていく。
葵は、わかってくれたようだ。ゆっくりと下りてきて、こちらに向き直る。
「……ごめん」
その言葉は、誰に向けられた言葉だったか。
葵は、静かにアリーナを去っていった…………
バイザーのせいで分からないけど、このときの葵ちゃんの目はグルグルしてたはず。
『昔』の出来事については、第三章あたりで明らかになる予定です。