IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第21話 葵、怒る。

 ―――女性というものは、本当に分からない。

 俺が技術者であり、仕事を請け負ってる以上、そちらを優先するのは仕方がない。

 多少、葵に迷惑をかけることは承知だった。

 葵も、納得しているはずだった。

 それなのに……目の前の光景は何だろうか?

 

「……立て。紅也の作品は、この程度じゃないはず」

 

 俺と簪、二人で作り上げたばかりの『打鉄弐式』は地に倒れ、空には、フル・ウェポン装備の青い機体が浮いていた……。

 

 

 

 

 

 

〈side:山代 葵〉

 

 ……最近、出番が少ない。

 じゃなかった。最近、紅也が冷たい。

 

 昼はよく一緒に食べるけど、夕方は一夏の特訓にかかりきり。たまに、私と模擬戦もするけど、やっぱり、その頻度は少ない。

 問題は、夜。最近、紅也の帰りが遅い。

 気になって聞いてみると、

 

「仕事を請け負った」

 

 とのこと。仕事なら、しょうがない。そう、思っていた。

 ―――依頼主が、四組の代表だと分かるまでは。

 

 四組の代表は、更識 簪。代表候補生なのに専用機が無い、可哀想な子。

 そして………私の、対戦相手。

 何で?何故、()の手助けをするの?

 

 私が嫌いになったの?――いや、それはありえない。何があっても、私たちは対立しない。

 じゃあ、「一回戦はスルー」と考えていた私を、戒めるため?――紅也も相手をナメてた。

 私の当て馬にする気?――迷惑だ。そんなことより、一緒にいてほしい。

 じゃあ、相手に興味を持った?――有り得る。紅也は、そういうタイプだ。

 

 興味があることは何でもやってみて、気が付いたら全力で取り組む。利害について発言するようになったのも職業意識からで、実際はそんなもの抜きに引き受けるお人よし。

 そんな紅也は、彼女に乞われたのだろう。

 

 ――専用機を作ってほしい、と。

 

 ……ということは、その機体は、紅也が初めて、一人で組み上げたISとなる。

 それは許せない。お兄ちゃんは、約束してくれた。いつか、私の専用機を作る、と。

 なのに、他の女の専用機を先に作る?

 

 そんなの、許せない。

 ――いや、認められない。

 

 

 

 

 

 

 ある日の訓練中。

 例によって、私は一人だった。空中にターゲットを投影し、撃ち、切り、時には蹴り飛ばす。いつもの練習。が、今日はいつもと違っていた。

 

「お、良かった、まだ開いてるな……。おーい、葵!いるか?」

 

 それは、間違いなく紅也の声。8を通じて、私の機体に通信が来る。

 アリーナの入り口の方へ降下。まだ紅也は出てこない――今出てきた。私に、手を振っている。私も、片手をあげて合図を返そうとすると……

 

 あの女が、現れた。

 

「おーい、葵!悪いな、急に押しかけて」

「……いい。何?」

 

 思わず、険のこもった返し方をしてしまう。仕事なのは分かってるけど、この女が紅也と私を引き離した、と考えると、胸がざわつく。

 ――そう、昔、紅也があの人に連れていかれたときのように。

 

「そ……そんなに怒るなよ。……っと、そうだ、その前に……簪、自己紹介」

「……初めまして。わ……私は、更識 簪……。あなたの……対戦相手です」

「……知ってる。私は、山代 葵。紅也の、妹」

「よし、じゃあ、本題に入ろう。

 葵。さっき、コイツの機体が完成したんだけどな。新開発した戦闘支援AIを組み込んだから、そのテストをしたいんだ。……頼めるか?」

 

 新開発。コイツのために、紅也はそこまでやったのか。

 ずるい……。私には、そんなことはしてくれなかったのに。

 

 ああ、認めよう。紅也は、これに、使える技術を全て使ったのだと。

 これは、紅也の最高傑作。私以外に与えられた、紅也が作ったワンオフ機。

 なら、証明してもらおう。

 

「いい。受けて立つ」

「……よ、よろしく……お願い、します」

 

 最高は、最強に届くのか。

 もし、戦うに値しない、不完全なモノだったら、こんな機体は……いっそ―――

 

 

 

 

 

 

〈side:山代 紅也〉

 

「じゃあ、今回の趣旨を確認するぜ。

 メインは、AIによる火器管制システムの動作確認。あとは打鉄弐式の実戦テストだ。……葵、やりすぎるなよ」

「……大丈夫。様子は、見る」

「……と、いうわけだ。簪、展開してくれ」

「……わかった。おいで……打鉄弐式……」

 

 簪の体に光が張り付き、装甲を形成していく。

 見た目は、初めて見たときと変わらない。だが、頭脳たるAIを搭載したことで、その性能は飛躍的に上昇した。……理論上はな。

 

「それが……あなたの機体?」

「……そう、です。名前は……打鉄弐式。倉持技研……日本製の、第三世代機。あなたの……ISは……」

「……ブルーフレーム。モルゲンレーテ、第三世代相当機。……早く」

 

 葵は、ブルーフレームを上昇させる。遅れて簪も、上空へと飛んでいった。

 うん、スラスター正常。クリムゾンから送られてくるデータも、すべて想定内の値だ。

 もう、事故ったりはしないだろう。

 

 ……と、ここで葵の機体について説明しておこう。

 正式名称はMBF-P03、アストレイ試作三号機だ。型番から分かるように、俺のレッドとは色違いの兄弟機。性能、基本武装は共通だ。

 特化した能力はないが、その莫大な拡張領域に納められた武装により、様々な距離に対応できる万能機だ。

 ……ちなみに、三号機だからといって暴走事故を起こしたことは無い。念のため。新劇場版の方が救いがありそうだね。

 一番の特徴は、武装だけでなく、装甲すらも換装できる点だろう。機体の能力(・・)と相まって、どんな相手とも有利に戦える。

 

 葵と簪は、空中で向かい合う。互いの眼を見て、来るべき時に備えている。

 

「では、模擬戦開始!」

 

 開戦を告げる。と、同時、簪と葵は同時に距離を取り、円軌道で銃口を向け合う。

 簪はミサイル発射管を、葵はバズーカを――ビームライフルは使用禁止だ――向け、隙をうかがう。

 ――なるほど。葵は相手を待ってる。普段は、こんな闘い方はしていないし。

 簪は――クリムゾンと相談中か?データを見ると、ミサイルの軌道データを入力しているようだ。センサーに、9つの軌道が浮かび上がっている。

 これぞ、射殺す百頭(ナインライブズ・ブレイドワークス)……って、アホか。

 

「行け……!!」

 

 先手を打ったのは簪。ミサイル発射管から、9発のミサイルが、異なる軌道で放たれる。

 ……が、葵は後退し、頭部のバルカン砲、イーゲルシュテルンで撃墜する。

 

 ――油断したな、葵。それは、ただのミサイルじゃない。

 

「……っ!散弾!?」

 

 撃墜したはずのミサイルから、無数の鉄塊が飛び出し、ブルーフレームの装甲を穿つ。

 八式弾。ミサイルの中に入れた散弾を、爆破によって打ちだす特殊弾頭だ。

 

「まだまだ……!!」

 

 今度は15発。同時制御は問題ない。ブルーフレームは高速移動し、回避を試みる。急加速、のち急減速。7発が目標を見失い、壁へと激突する。

 残りは大回りの軌道ではあるが、誘導を継続……。うん、いい性能だ。

 静止した葵に襲いかかる魔弾。しかし、ブルーフレームは突如自由落下を始め、ミサイルを回避した。……PICを切ったのか?

 同時に発射されるバズーカ。ミサイルの行き先に先回りしたそれは、全てのミサイルを巻き込んで爆発する。

 ……否。一発だけ、被害を免れた。クリムゾンのコントロールではない。簪が動かした一発。

 それが葵の回避先に回り込み、あわや命中と思いきや――

 

 キンッ!

 

 軽い金属音。ミサイルの軌道が不自然に逸れ、ブルーフレームの後方で爆発する。

 

「……嘘!?」

「……………」

 

 簪が絶句する。

 無理もない。

 なにせ、ナイフ一本でミサイルの軌道を逸らされたのだから。

 

《簪、次は48発、同時発射を試すぞ》

「……うん。あの人……強い……」

 

 今度は48発全て。……焦っているのか?誘導するのは20発に絞り、残りは広域に拡散させるようだ。当然、葵はミサイルの檻から逃れ、狙いの雑な外へと向かう。……が、急激に外側のミサイルの精度が上がり、葵を追い詰める。

 成程、コントロールする弾頭を切り替えたのか。うまい手だ。

 

「このまま……墜ちて……!!」

「………………」

 

 今度は八式弾だけじゃない。スタン、スモーク、チャフ、ナパームなど、多種多様な弾丸が爆発する。簪が、葵の視界を完全に奪った。

 スモークの中へ突入するミサイル群。これは、葵でもダメじゃないのか?

 

 爆発。爆発。爆発。

 

 煙の中で爆炎が上がる。……アレ、打鉄弐式にあんな弾頭あったっけ?

 あれって……確か、ジンの強襲装備にあったミサイルでは……?ってことは!

 

 煙の中から飛び出す、青い流星。その両足には、空になった3連装ミサイルポッド。

 右手にバズーカは既になく、握られたのは両刃の剣。左手のマシンガンからは、光が放たれ続ける。それを認識した時、簪に避ける術は残されていなかった。

 

「くっ……!!」

「…………」

 

 簪は近接武器である薙刀、夢現(ゆめうつつ)を展開するが……

 

 ガン!

 

 剣が、薙刀を払いのける。胴ががら空きになると、今度は二本のナイフが、薙刀を、装甲を、そして操縦者を襲う。

 地に落ちる簪を、葵は追撃する。ナイフを投げつけ、高速移動。重力を乗せた蹴りを加え、簪を地面に叩きつけた。

 

「……立て」

 

 葵は、空から静かに告げる。簪は答えない。否、答えられない。

 クリムゾンから送られるデータが示している。簪は、操縦者保護機能によって、既に気絶している。

 

「紅也の作品は、この程度じゃないはず」

 

 無慈悲にバズーカと、マシンガンを構える葵。その顔は見えないから、どんな表情かは分からない。

 

「……この程度?なら、そんな欠陥品は――」

「待て。そこまでだ、葵」

 

 レッドフレームを展開し、いつでも止めに入れるようにする。

 

「まだ、こいつは未完成だ。……言っただろ、実戦テストだ、って。だから、壊すな。俺の、最初の作品なんだ」

 

 ――頼む。言外にそう匂わせて、葵に告げる。

 

「……約束、覚えてる?」

 

 ぽつり、とつぶやいた一言。レッドは、それをしっかりと拾ってくれた。

 はて……どの約束だろうか?この場合、機体の話だよな?

 

「専用機のことか?……俺が、一人前になったらの話だ。こいつは、プロトタイプってことで、妥協してくれ」

「……わかった」

 

 銃口を下げる。武器が、光に変わっていく。

 葵は、わかってくれたようだ。ゆっくりと下りてきて、こちらに向き直る。

 

「……ごめん」

 

 その言葉は、誰に向けられた言葉だったか。

 葵は、静かにアリーナを去っていった…………

 




バイザーのせいで分からないけど、このときの葵ちゃんの目はグルグルしてたはず。

『昔』の出来事については、第三章あたりで明らかになる予定です。

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