IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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前話の投稿時間を間違えてたことに気付きました。ごめんなさい!
お詫びと言っては何ですが、前倒しで明日の投稿分も上げておきます。


第20話 いつもいつでもうまくいくなんて保証はどこにもない

 専用機作りを手伝って欲しい。

 

 目の前の少女は、確かにそう言った。

 しかし―――

 俺に依頼する。その意味を、正しく理解しているだろうか?

 

「……更識 簪」

「……え?」

「お前は、俺に『専用機制作』を依頼することがどういうことか、正しく理解しているか?」

「……………」

 

 更識は無言だ。おそらく、俺の言った意味を考えているのだろう。

 

「……俺は、オーストラリアの国営企業、モルゲンレーテに所属している。つまり、俺に依頼をするということは、モルゲンレーテに依頼すること……ひいては、お前の専用機を作った組織と、モルゲンレーテが提携する、ということになりうる。それでも……いいのか?」

「………………!!」

 

 ようやく思い至ったようだ。驚愕というか、目に見えて動揺している。

 ……“更識”の名を持つ少女だが、どうやらまだまだ不足のようだ。

 長い沈黙のあと、更識は再び口を開く。

 

「……それは、困る。……でも、手伝って欲しい……」

「きっちり線引きをして、組織の利益を優先したのは合格だけど……。それじゃあ、俺にメリットがねぇだろ?そのへん、どう考えてるんだ?」

 

 意識を仕事モードに切り替え、再び更識を睨む俺。……さあて、どう出る?互いの得になるプラン、提案できるか?

 

「……機体運用データの、あなた個人への譲渡……。私は、モルゲンレーテじゃなく……山代紅也という学生個人に依頼する……!」

 

 紅い瞳が、俺をまっすぐに射抜く。その眼に迷いはなく、ただただ、強い光が宿っていた。

 

「…………ふう。どうにも、弱いねぇ……」

 

 こんなに純粋で、ひたむきな奴に頼まれたら、断れないだろ。

 

「……じゃあ……」

「追加の条件だ。機体データだけじゃなく、武装データも要求する。

……俺個人に依頼するということは、モルゲンレーテの特許技術は使えない。それでもいいのか?」

「……構わない。一人で続けるより……そっちの方が、いい」

「……そうか。なら……交渉、成立だ!」

 

 右手を差し出す。更識も、おずおずといった様子で、右手を出し、握手をする。

 

「改めて自己紹介だ。俺は、フリーの見習い技術者、山代紅也だ。紅也と呼んでくれ」

「……私は日本の代表候補生、更識(さらしき)(かんざし)……。更識って呼ばれるのは……好きじゃないから……その……」

「わかった。じゃあよろしくな、簪」

「……うん」

 

 

 

 

 

 

「……で、まずは、お前の機体を見せてほしい。本体は完成してんだろ?」

「……うん。おいで……打鉄弐式(うちがねにしき)……」

 

 簪の体が光に包まれていく。展開された打鉄弐式は、打鉄とは別物の機体であるようだった。

 まずは肩部ユニット。打鉄ではシールドが装備されていたが、それが大型のウイングスラスターと、小型のジェットブースターに換装されている。次に目につくのは、機動性重視の独立ウイングスカート。また、腕部装甲も、打鉄よりもスマートな形をしている。

 

「へぇ……。防御型じゃなくて、機動型なんだな。コンセプト自体は、俺のレッドフレームとよく似てるぜ」

「そ、そうなんだ……。紅也、くんも……機動型なんだ……」

「ああ。特殊な軽量金属を使っててな、とにかく攻撃を喰らわず、敵の懐に入って、ズバッ!と斬る機体だ。……で、コイツはどうやって運用するんだ?」

「あなたとは……正反対。武器は……マルチロックオンシステムによる高性能誘導ミサイル……。それと、荷電粒子砲……」

 

 マルチロックに荷電粒子砲。面制圧に向いてそうだな。OIGAMIとか搭載したら、鬼畜使用になりそうだ(撃ち負けはしないだろう、当るのであれば……)。

 しかし、荷電粒子砲、ねぇ……。ウチの陽電子砲と、どっちが強力かな?突発的な取引だったが、案外いいデータが取れそうな気がするぜ。で、マルチロックは、確かN.G.Iの次世代機に搭載される予定だったハズだ。完成させれば、ヤツらと取引も可能だろう。そうすれば――彼女を、こちらに引き込める。

 ……まあ、青写真を描いていても仕方がない。今は、打鉄弐式に集中だ。

 

「まず、第一に。俺が企業と無関係に使える技術ってのは、そんなに多くない。だから、打鉄弐式を完成させることはできない」

「……………」

「だけど、代わりの武装を搭載して、戦えるようにすることはできる。今は、それでいいか?」

「いい……今は……それで……」

 

 さて、俺が使える技術といえば……

 

・白式の零落白夜

・ブルー・ティアーズの全データ

・甲龍の全データ

 

 の三つか……。どれも、整備や調整のときに8を接続し、こっそりと拝借したものだ。

 

……………

………………

…………………

 

 ……そう、盗作だ。「人の作品に手を加えるのは、いけないことだと思います」って、作曲家の人が言ってました。

 

「ま、まあ、ミサイルの誘導システムは、ブルー・ティアーズを参考にするとして、弾頭は……八式弾を使うか。荷電粒子砲は……技術は持ってるが、これは公開できない。悪いな」

「……気に、しないで……。そういうことも、ある……」

「そう言ってもらえると嬉しいぜ。……よし!これで方針は決定だ。とりあえず、今日はここまでにしとこうぜ」

「……うん」

 

 俺と簪は、整備室を後にする。

 さて、明日からは、忙しくなりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 翌日からは、嵐のような日々だった。

 朝。いつもの特訓を行う。

 昼。時に一夏たちと、時に凰や葵と昼食を取る。まだ、修羅場中であるようだ。

 夕方。一夏の訓練。その後、部活。

 夜。8と簪とともに、武装の設計とシステム構築。

 ……俺、よく体を壊さなかったな。

 

 そんな日々が数週間続き、本日、ようやくマルチロックミサイルの試作品が完成した。

 

「――と、いっても、同時にロックできる本数は、本人の能力次第、しかも誘導兵器の適性が必要な欠陥品だけどな」

「……じゃあ、私には……難しい……」

「かもな。だから、コレを使う」

 

 そう言って俺は、一枚のディスクを取り出す。

 

「……それは……?」

「8と同じ、疑似人格データだ。これをISのAIとして組み込んで、マルチロックと誘導の補助をする。……まあ、俺が組んだプログラムだから、完成度はそこまで高くないけどな」

 

 ディスクをコンピュータにセットする。後はこのケーブルを打鉄弐式にセットし、インストールをすれば、AIが起動するはずだ。

 

「どうする?使うか?」

 

 まっすぐに簪の目を見る。ずいぶんと顔が赤いな。きっと、完成の瞬間が近いから、興奮してるんだろう。

 

「え……えと、使う……」

「OK!そうこなくっちゃな。じゃあ、この書類にサインしてくれ」

 

 それは契約書。こういうことをしっかりしておかないと、モルゲンレーテに迷惑がかかる。

 主な内容は、以下の通りだ。

 

・手助けは俺の一存であり、企業は関与しない。

・機体、および武装の運用データは、全て俺個人にも譲渡される。

・疑似人格のインストールによる不具合には、一切の責任を負わない。

・当方に、打鉄弐式を接収する意思は無い。

 

 まあ、以前の口約束を、書面にしただけのものだ。追加したのは三行目だけ。ちょっと無責任な気もするが……。まあ、しょうがないだろ。こういうの作ったのは初めてで、自信が無いんだから。

 

「わかった……」

 

 二枚にサインをし、一枚は俺が、もう一枚は簪が持つ。ここに、契約は完了した。

 

「じゃあ……AIのインストールと武装の量子変換、両方進めるぜ!」

「……お願い……します」

 

 ケーブルをセット。データ送信!

 

「……今更、だけど……」

「ん?」

 

 AIのインストール中の空き時間。唐突に、簪が話しかけてきた。

 

「どうして……助けて、くれたの……?」

「どうして、って……。あのとき、ちゃんと言っただろうが。『君が何者だっていい!必要だって言ってくれ!』……ってな」

「……そんな台詞、聞いてない……」

「冗談だよ。……でも、ま、俺個人が必要だって言ってもらえて、嬉しかったから、かな。俺自身は、まだまだ半人前だから、頼られる機会なんて、無いんだよ」

 

 葵は別だが。戦闘以外では、頼りにしてくれてるが。

 

「……そ、その……あの……あ、ありがとぅ」

「……その言葉は、完成した時までとっておいてくれよ」

「……うん」

 

 再び沈黙。やがてインストールが完了するまで、俺達は固唾を呑んで見守っていた。

 

「よし、インストールは完了だ。簪、起動してくれ」

 

 さて、と……。うまく動いてくれよ!

 

「打鉄弐式、起動……。……これは」

《初めまして、私は、戦闘支援用AIです。名称未設定……名前を設定してください》

 

 空間に投影されたディスプレイに、文字が浮かび上がる……成功だ!!

 

「よし、成功だ!そいつに名前を付けてやれ。今日から、そいつが簪の相棒だ!」

「相棒……私、の……」

 

 そう、相棒だ。

 この数週間、簪を見ていて気付いた。

 ………こいつは、なんでも一人でやろうとする。

 あのとき、協力を求めてきたのは、きっと不自然なくらい(・・・・・・・)奇跡的な出来事だったのだろう。

 それはさておき、このまま一人で背負い込み続けたら、後々困難にぶつかったとき、きっと足を止めてしまうだろう。そうなればただでさえ閉鎖的な簪が、より暗い性格になって、心を閉ざすかもしれない。

 ……俺がいなかった時の葵が、どんどん暗くなっていったように。

 だからこそ、思う―――コイツには、唯一無二の相棒が必要だ。一人でできなくても、二人ならできる。そう、信じさせてくれるような……。

 

 簪は、きょろきょろと周りを見渡している。……と、不意に俺と目が合った。

 

「……クリムゾン……あなたの名前は、クリムゾン……」

 

「…おい、いいのか?そんな、思いつきで決めても」

「思いつきじゃ、ない……。あなたは、私を……助けてくれた……。……だから、あなたも……紅也くん、も……私にとっては……」

 

 相棒、と。そう言いたいのかな。

 

《了解。クリムゾンを、名称登録……。初めまして、マイスター。あなたのお名前は?》

「……更識 簪」

《簪……すてきな響きです。今後とも、よろしくお願いします》

「……うん、こちらこそ……」

 

 そう言った簪の顔は、とてもきれいな笑顔だった。

 

「よし、じゃあ後は、クリムゾンが火器管制を出来るかどうか、アリーナでテストしよう。幸い、使用許可はとってあるからな。すぐに行こうぜ!」

 

 そう言って向かうのは第二アリーナ。この時間なら、まだ葵が使っているはずだ。なら、葵にも手伝ってもらえるだろう……。

 

 

 ―――とか考えていた紅也は、非常に甘かったと言わざるを得ないだろう。

 




パロったセリフが多めです。これ書いてたとき、テンション高かったんだろうなぁ。
不穏な引きで次回に続きます。

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