IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第175話 矛盾の果てに

「そこを、どけぇぇぇ!」

 

 フォンと箒の戦いに加勢すべく飛び出した葵の前に現れたのは、ステルスを解除した『ゴーレムⅢ』だった。まるで虚空から生み出されるかのように現れた剣先は、常人では回避不能の速さでもって『ブルーフレームセカンドK』の頭部から股下までを両断しようと振り下ろされる。

 しかし、そんな子供騙しの一撃では、〈オーバーリミット〉を発動した葵には届かない。両肩部のフィンスラスターで、空を泳ぐように自在な動きを見せる彼女は、逆に無防備な腹部めがけて〈タクティカルアームズ〉を叩きこむ。

 AIでさえ目で追えない速度で放たれた一撃は、そのまま『ゴーレムⅢ』を両断するかに思われたが、敵もさるもの。事前に滑り込ませていた展開装甲でシールドを形成し、逆に刃を受け止めていた。

 

「装甲、邪魔!」

 

 耐ビームコーティングが施された〈タクティカルアームズ〉なら敵のビームシールドを抜けられるが、それを発生させている展開装甲そのものを破壊するには力不足であった。

 一方で、『ゴーレムⅢ』にとって有利な状況なのかというと、実はそうでもない。セシリアと鈴相手にやっていたように、展開装甲を分割して小型のシールドビットとして扱えば、逆にこちらが力負けして1基1基ビットを破壊され、最終的には機能停止するという試算が出ているのだ。だからこそ『ゴーレムⅢ』は防御に重きを置き、膠着状態の維持に努めるのだ。勝負を急ぎたい葵にとっては、忌々しいことだが。

 〈タクティカルアームズ〉を叩きつけた反動で距離を取る葵。葵の奇襲を警戒して、大型ブレードと四連装ビームというオーソドックスな装備構成に変化する『ゴーレムⅢ』。このまま続くかに思われた睨み合いは、援護のために駆け付けたラウラの参戦により、嫌が応にも動き出すことになる。

 

 

 

 

 

 

 一人で戦っていたのは、葵だけではない。

 IS学園生最強の女、学園唯一の国家代表である更識楯無もまた、孤独な闘いを続けていた。

 

「しゃーおら!」

 

 何度目になるかわからない、ビットとランスの激突。ビームの熱量で蒸発していく水は〈アクア・クリスタル〉により失われた端から再生成され、辺り一面に膨大な蒸気を生み出し続けている。

 しかし、蒸気の量が一定の閾値を超えると、『ゴーレムⅢ』は様々な手段で蒸気を吹き飛ばし、〈清き熱情(クリアパッション)〉を使う隙を与えない。どうやら自分は徹底的にマークされていたようだ、と楯無は歯噛みした。

 〈可愛い嘘(キュートポイズン)〉による束縛は、すでに時間切れ。フルスペックを発揮する許可を与えられた『ゴーレムⅢ』の力は、思った以上に厄介なようだった。現に、一夏が助けに行かなければ、簪は間もなく撃墜(おと)されていただろうから。

 

(それにしても、妙ね。全ての力を使えるのなら、あのステルス能力こそ真っ先に使うべきでしょう。なら、それができない理由があるってことかしら?)

 

 まだ無理をする局面ではない。いざとなれば一撃で決着をつけられる必殺技もある。楯無はこの相手から、引き出せる限りの情報を引き出すことを決めた。

 それが周りで戦っている可愛い後輩たちの、助けになると信じて。

 

 

 

 

 

 

「俺が切り込む!鈴音は随伴して、ビットの破壊か敵の拘束を狙ってくれ。セシリアは――」

偏向射撃(フレキシブル)で本体を狙います。ビットの対処はお任せしますわ」

「遅れるんじゃないわよ、紅!」

 

 緩急をつけた加速で、『レッドドラゴン』が先行する。当然、『ゴーレムⅢ』が黙って見ているはずもなく、展開装甲の一つを四連装ビームに変化させ、紅也を亡き者にせんと閃光を放つ。

 

「散開!」

「そして、反撃っ!」

 

 照準波を検知した瞬間、紅也と鈴は二手に分かれ、各々が持つ射撃兵装を一斉に放つ。三つ首の龍のごとく光線を撃ち出した『レッドドラゴン』と、不可視の弾幕を張る『甲龍』の攻撃は、しかし敵本体に達することなく阻まれた。射線を遮るように展開したシールドビットが円形のフィールドを発生させ、すべての攻撃を防ぎ切ったのだ。いくらビームでも、いくら見えなくても、直進する以上は射線を予測され、防がれる。

 ならば、もし“曲がる射撃”があったとしたら?

 

「さあ、奏でて差し上げましょう。アナタに送る鎮魂歌(レクイエム)を!」

 

 タイミングを合わせていたセシリアが、4基の〈ブルー・ティアーズ〉による一斉射撃を放つ。今しがたシールドビットを展開したばかりの敵は、慌てて新たな展開装甲を分離し、射線上にビットを置く。ビームシールドを貫けない〈ブルー・ティアーズ〉のBTレーザーは、光の傘にはじかれる雨のように散り散りになり、消失した。

 

 だが、それでいい。

 

「これで、足は止まったなぁ!」

 

 6基の展開装甲のうち、大剣に1基、巨大メイスに1基、砲台に1基。そしてシールドビットに2基を振り分けたことで、機動力を強化する『ライダー』形態に変形されることはなくなった。紅也と鈴はビームフィールドを躱し、『ゴーレムⅢ』本体に肉薄した。

 

「くらいなさい!」

 

 〈双天牙月〉と巨大メイスが激突し、ビリビリと大気を振るわせる。拮抗は一瞬。だが決定的な隙を逃さないのが、紅也という剣士の強みだ。

 

「……ふっ!」

 

 鞘走りの勢いを利用し、〈ガーベラストレート〉を一閃。狙いは、頑丈そうな打突部よりもはるかに頼りないグリップ部分だ。鏡のように磨き上げられた刃が走り、遅れてキィン、と音がついてきたときにはもう、『ゴーレムⅢ』とメイスの繋がりは絶たれていた。

 

「もう一丁!」

 

 連結した刃を振り回す鈴は、返す一撃で大剣と打ち合う。しかし、今の一撃を学習したのか、敵は無理に付き合おうとはせず、〈双天牙月〉を受け流すと後方へ飛びのいた。直後、飛び去る機体の残影を、三条のビームが貫く。この短時間で、紅也たちの動きを読んだのだろうか?

 

「……なんてな。まだ手はあるんだぜ!」

 

 紅也の視線の先には、本体に近い長さを持つ巨大なBTライフル〈スターダスト・シューター〉を構えるセシリアの姿があった。エネルギーはすでにフル充填済み。獲物を狙う狩人は、この瞬間を待っていたのだ。

 

「――消えなさい!」

 

 最大チャージにより、ビーム兵器に匹敵する熱量を持ったBTレーザーが、逃げた『ゴーレムⅢ』に喰らいつかんと猛追する。これはさすがに防ぎきれないと感じたのか、『ゴーレムⅢ』は各個に展開していたシールドビットを合体させて展開装甲に戻し、それを2枚重ねて強力なエネルギーシールドを形成した。このままでは、先の二の舞――そう思うものは、このチームの中にはいなかった。

 

 セシリアがここまで温存していた、偏向射撃。それが今、このタイミングで解禁され、直進するはずだったレーザーは生命を与えられたかのように自在に動き出し、シールドを迂回した。

 

「…………‼」

 

 ただのプログラムであるはずの『ゴーレムⅢ』が、うろたえたかのように硬直する。咄嗟に大剣を楯代わりに構え、今の一撃を耐えようと防御姿勢をとろうとするが、なぜか、大剣が動かない。

 

「あんた、案外忘れっぽいのね」

 

 頼みの綱の大剣には、〈高電圧縛鎖〉が巻き付いていた。電流が大剣を伝い、腕へ、そして本体たるISコアへと流れ込んでくる。

 今度こそ、動きが完全に止まった。龍の如く荒れ狂うBTレーザーが、無防備な『ゴーレムⅢ』の腹部を貫く。デュアルアイから光が消え、大剣が粒子の粒となって消滅した。

 

 ――次の瞬間。

 

「まだ終わってねぇ!」

 

 『ゴーレムⅢ』の両眼に光が灯り、〈高電圧縛鎖〉を伸ばしたまま固まっている『甲龍』を蹴り飛ばした。同時に、たった今収納した展開装甲を含めた5基を全てビーム砲に変化させ、全方位に滅茶苦茶に撃ち始めた。

 

「こいつ、腹をぶち抜いた程度じゃ倒れないっての!?」

「待ってください。では、最初に倒した1機は……?」

 

 堰を切ったように暴れまわるビームの嵐をなんとか回避しながら、3人は恐ろしい結論に達した。その予感は、直後に聞こえた一夏の叫びで、証明されることになる。

 

「紅也、後ろだ!」

《熱量急速上昇!センサーに反応!『アーチャー』がお前を狙っている!》

 

 挟まれた。〈ヴォワチュール・リュミエール〉を欠いた今のレッドフレームでは、状況の打開は困難だ。一か八か、多少の被弾は覚悟で、『アーチャー』の攻撃を防ぐしかない!紅也は〈ガーベラストレート〉を正眼に構え、銃口をまっすぐに見据えた。

 その瞬間視界を遮ったのは、青いラインを輝かせるまっしろな機体の背中だった。

 

「うおぉぉぉぉ!!」

 

 割り込んできた機体、『白式弐式』は、左腕の大型クローアーム〈白鵠〉の手のひらを相手に向け、荷電粒子砲を放つ。〈穿千〉と〈白鵠〉、2つの機体から放たれた高エネルギーは互いの中間地点で激突し、周囲の空気をプラズマ化させながら、じりじりと『白式弐式』の方へと近づいてきた。

 

「一夏!くそっ、これでも喰らえ!」

 

 負けじと紅也もビームを放つが、突如射線上に現れたシールドビットに阻まれる。周囲に視線をめぐらすと、傷だらけの『打鉄弐式』と戦いながらも、展開装甲の一部を差し向けてきた3機目の『ゴーレムⅢ』の姿があった。

 

「紅也さん!一夏さん!」

「来るな、セシリア!俺より簪を頼む!」

「……ごめん、なさい。倒し……きれな、かった」

「そんな損傷で無理しちゃダメよ!そいつのことはみんなでなんとかするから、こっちに来なさい!」

 

 敵も味方も集まってくる。もう、分断作戦は機能していない。

 

「……もう、限界、だっ」

「一夏ももういい!スリーカウントで散開するぞ」

「……いや、防いでみせる!俺の前で、これ以上仲間をやらせねぇ!」

 

 迫る大火力を前に、一夏は一歩も引かない。〈白鵠〉のビームクローを展開し、そのまま高速で回転させることでビームローターを形成し、相殺しきれなかったエネルギーを受けきってみせた。

 

「助かったぜ、一夏」

「はは、こういうのって、いつもはお前の役目なのにな」

 

 ひとまず攻撃はしのいだが、状況は依然として厳しい。〈150ガーベラ〉による無差別攻撃も視野に入れるべきかもしれない、と考えたところで、さらなる援軍がやってきた。

 

「一夏、無茶するね。紅也も無事でよかった」

「シャル子か!ってことは、『ゴーレムⅢ』は……」

「1機落としたよ。今から僕もこっちに加わるからね」

 

 状況は依然として厳しいが、反撃の芽は出てきた。そう遠くない決着を予感し、紅也はごくりと唾をのんだ。

 

 

 

 

 

 

 『ゴーレムⅢ』に追われ、なんとか逃げ延びた簪を見ていた楯無は、あることに気づいた。

 簪を追っていた『ゴーレムⅢ』が、紅也を狙っていた『ゴーレムⅢ』に向けてビットを飛ばした以降、わずかに攻撃のペースや、威力が鈍っていたのだ。

 その事実から彼女は、敵が一度に同時に使用できるエネルギーには限りがあり、処理能力を超えた攻撃を実行すれば弱体化させることができる、と推理した。その情報は一斉に共有され、彼らは反撃の狼煙を上げることになる。

 

「じゃあ、私も決着をつけないとね」

 

 楯無の決意を受けて、両肩の〈アクア・クリスタル〉が輝きを増していく――。

 

 

 

 

 

 

 ラウラと葵が組んだのだ。すぐに箒に援護が入る。

 

 その予想は裏切られ、彼女たちと『ゴーレムⅢ』の戦いは長引いていた。

 

「ラウラ!」

「ちっ、今度は下か……」

 

 ラウラが合流したとたん、ステルスを起動して逃げに徹した『ゴーレムⅢ』は、最初のころのように大技こそ撃ってこないものの、この場を離れようとするものを優先的に狙い、自身の位置を悟らせぬままに一方的に攻撃を加えていた。〈オーバーリミット〉を使用した葵も、〈英雄殺し〉を宿したラウラも、その姿を捉えることはできない。

 幸い、楯無が予想したように、ステルス中は使用エネルギー量に制限がかかるらしく、二人とも大きなダメージを受けていない。だがそんな事実は、今まさに足止めを食らっている二人にとって、何の慰めにもならないものだった。

 

「〈コンプリートセンサー〉なら、見えるか?」

「ダメ、だと思う。攻撃してくるその瞬間まで、何の反応も示さないもの」

「そうか……。これでは、AICも使えん。厄介な……!」

 

 こうしている間にも、いたぶるようにビームが飛んでくる。いくらダメージが小さくとも、このままいけばジリ貧だ。どこかで、大きな賭けに出なければならない。

 

「いっそ、強行突破しちゃう?」

「奴は箒と私たちを分断したいようだからな。それしかない、か……」

 

 覚悟を決めた葵は、〈フルアーマー・フェイズシフト〉を展開。装甲の内側に『シュヴァルツェア・レーゲン』を格納した。

 もちろん、そんなあからさまな隙を、敵が見逃すはずはなかった。再び虚空からビームの嵐が放たれ、『ブルーフレームセカンド』に直撃する。

 しかし、減衰しきったビームで破壊できるほど、フェイズシフト装甲はヤワではない。損傷らしい損傷の見当たらないブルーは、『ゴーレムⅢ』など無視して脇目も振らずにフォン・スパークを目指す。

 このままでは、いくら攻撃しても埒が明かないと気付いたのだろう。攻撃がやんだ後に訪れたのは、一時の凪。最初の一撃でそうしたように、限界までエネルギーを貯めてから攻撃するつもりだろう。

 

「案外、このまま突破……は、させてくれないわね」

「当然だ」

 

 突如現れた高エネルギー反応は、〈フルアーマー・フェイズシフト〉に覆われていない脚部を狙える位置にあった。葵は即座に機体の向きを変え、耐熱効果の高いジェルを装甲表面に展開。このまま攻撃を防ぎつつ、〈AIC〉の間合いまでラウラを連れて行けば、後はどうにでもなる。

 敵の姿が現れた。兵装は予想通り、アーチャー形態で使っていた巨大な弓型のビーム砲。と、そこで2人は違和感に気づく。

 現れたのは空中に浮かぶ武器だけで、肝心の『ゴーレムⅢ』本体がいないことに。

 

「まさか……」

「あの武器までも、誘導して扱えるというのか!」

 

 ビームという強烈な光の奔流に紛れるように、闇色の機体が姿を現す。想定以上の閃光でセンサーが焼き付いた葵は、その姿に気づかない。展開装甲を腕にまとい、PS装甲すら粉砕しかねない超巨大メイスを振り上げた『ゴーレムⅢ』は、勝利を確信した。

 巨大な右腕を引き、フェンシングのような構えで超巨大メイスを振りかぶった、まさにその瞬間――『ブルーフレームセカンド』の影から飛び出した漆黒の機体が、射線上に割り込んだ。

 

「葵、上だっ!ぐぅぅぅぅ!」

「ラウラ!?」

 

 敵の気配は感じなかったし、センサーにも反応はなかった。

 だがラウラは、胸に宿った蛇の紋章から伝わる“予感”に従い、飛び出した先には敵がいた。咄嗟に〈AIC〉を発動しようとしたが、敵のほうが一歩早い。メイスの直撃を受け、さらにその先端から飛び出したパイルバンカーの一撃を生身の身体に叩きこまれたラウラは、絶対防御を貫いて与えられた痛みに悶絶した。

 PS装甲を破壊するための武装の直撃。『シュヴァルツェア・レーゲン』のエネルギーは尽き、再び『ゴーレムⅢ』との消耗戦が始まるかに思えた。

 

「……まだ、だ……。まだ、オレは……私は……負けない!」

 

 蛇の紋章が再び輝き、ラウラは最後の力を振り絞る。超巨大メイスを抱え込み、さらに〈AIC〉を発動し、姿を消そうとしていた『ゴーレムⅢ』の動きを、完全に止めてみせた。

 

 ――葵も知らなかったことだが、〈英雄殺し〉には隠された能力があった。

 それは自身の身を犠牲にして大切なものを守るとき、大幅に能力が上がること。そして、どんなに苦しい戦いからも、必ず生還すること。

 この世界の誰もが知らないことだが、これは力なき者の剣となり、楯となると誓い、生涯戦い続けた傷だらけの傭兵の生き様そのものであった。

 

「今だ!やれぇぇぇ!」

「ラウラの犠牲、無駄にはしない!」

 

 心なしか、自身に宿る〈オーバーリミット〉の紋章も、いつも以上に力を貸してくれているような気がする。〈フルアーマー・フェイズシフト〉をパージした葵は、即座に〈タクティカルアームズ〉を展開(コール)し、『ゴーレムⅢ』の胸に突き立てた。

 

「まだまだ!」

 

 突き刺さった〈タクティカルアームズ〉の先端が徐々に開いていき、傷口をさらに広げていく。剣先が2つに割れ、ガトリング砲の銃口が完全に露出した瞬間、葵は今までのお返しとばかりにビームの嵐を叩きこんだ。

 

 装甲を削られ、内部のコアすら粉微塵になった『ゴーレムⅢ』が墜落し、粒子の光をまき散らしながら消えていく。それを見届けたラウラもまた意識を失い、地上へと落ちていくのだった……。

 

 

 

 

 

 

 絶対防御を誘発し、すべてのISを一撃で倒せる力を持つ最強の矛、『白式』。

 エネルギーを無限に生み出し、理論上は永遠に戦い続けることもできる最強の盾、『紅椿』。

 

 並び立てば止められる者などいない、無敵のコンビ。しかし今、その2機は敵と味方に分かれ、隠されていたもう一つの存在理由、互いの暴走を止めるための抑止力としての在り方を存分に発揮していた。

 

「やるじゃねぇか!伊達に第4世代は名乗っちゃいねぇな」

「ふん!貴様に褒められてもな」

 

 エネルギーの消耗を避けるためか、実弾系の武装を次から次へと展開する『白式type-F』。至近距離でも平然と放たれるミサイルや、爆炎に紛れて死角から襲い掛かる実体剣、ある程度直進すると弾頭が弾け、拡散するバズーカ、他にもどこから手に入れたのか、マシンガンやショットガン、薙刀や鉄球など、各国の第2世代機の標準装備を節操なく使うその様は、まさしくテロリストだった。『ゴーレムⅢ』とは違った意味で何をしてくるかわからない相手に対し、箒の対応は無常かつ合理的なものだった。

 〈絢爛舞踏〉のエネルギーを惜しみなく使い、展開装甲で本体を守る。装甲破壊にさえ気を付ければ、負ったダメージは瞬時に回復する。まるで不死者のような強引な戦い方は、それを破る手段がない相手に対しては非常に有効だ。

 ただし問題は、フォンにはそれを破る手段がある、という一点だ。

 〈零落白夜〉により回復する間もなくエネルギーを奪われれば、いかに『紅椿』といえど対処不能だ。だからこそ箒は、有利に進めているこの戦いにおいて、慢心だけはしないように己を律していた。

 クロスレンジでの交戦は避け、攻撃の主体は隙の少ない〈空裂〉と〈雨月〉のレーザー。攻撃はなるべく遠距離で迎撃し、視界を奪われないようにする。そうした基本を守ることこそが、自身に一番向いているやり方だと、箒は今までの経験から知っていた。

 

「けっ、面白みのねぇ相手だぜ」

「ああ、まったくだ。退屈するな」

 

 互いに軽口を叩くが、状況は変わらない。なにせ、箒はダメージを受けていないが、フォンもまた箒の攻撃をかわし続け、無傷のままなのだ。全身に取り付けられた姿勢制御用のスラスターを細かく噴射することで、常識外れの機動性を発揮する『白式type-F』は、箒の知るかつての『白式』とは完全に別物だった。

 

(……いや、待て。確かこいつは、『ブラドアヴァランチ』とか言っていた。もし、それがこの機体の真の名前だとしたら?)

 

 葵とセシリアは、東南アジアでの戦いの際、フォンが強奪した白式のことを『白式type-F』と呼ぶのを聞いたという。そのときの白式は、色が変わっただけで外見の変化はなかったらしい。実際、箒たちは束が持ってきた映像で、その姿を確認している。

 その後、今の姿になったのは、束の設備を使って改良を施したからだとばかり思っていた。だがそれが勘違いで、“姿”と“名前”が同時に変わる、あの“現象”が原因だとしたら――。

 

「――埒が明かねぇな。まさか、テメェにこの姿を見せることになるとは」

 

「〈*****〉」

 

 恐ろしい想像が、現実になった。

 フォンが何かを唱えた瞬間、『白式type-F』の姿がぶれ、赤い残光を残して消える。

 箒は反射的に振り向き、〈雨月〉から拡散レーザーを放つが……狙いは合っていたものの、攻撃が当たる前にフォンは消えていた。

 

(まずい……。これは、単一使用能力!ならば、やはり『白式』は!)

「あげゃげゃげゃげゃ!」

 

 耳障りな笑い声が響いたとき、その身に〈零落白夜〉を受けた箒の意識は暗転する。

 奇しくもそれは、葵とラウラが『ゴーレムⅢ』を仕留めたのと同時だった。

 




・フォン勢力
 フォン・スパーク『白式type-F』????『ブラドアヴァランチ』:損傷なし
 第四世代無人機『ゴーレムⅢ』×5

・学園勢力
 織斑一夏『白式弐式』:損傷軽微、エネルギー残量70%程度
 篠ノ之箒『紅椿』:機能停止
 セシリア・オルコット『ブルー・ティアーズ』:弾頭型〈ブルー・ティアーズ〉1基ロスト、損傷軽微
 凰鈴音『甲龍』:損傷軽微
 ラウラ・ボーデヴィッヒ『シュヴァルツェア・レーゲン』:エネルギー残量1%未満、機能限界
 山代葵『ブルーフレームセカンドK』:本体損傷なし

 山代紅也『レッドドラゴン』:損傷軽微
 シャルロット・デュノア『オレンジフレーム』:損傷軽微、エネルギー残量低下
 更識簪『打鉄弐式』:ウィング破損、機動力低下
 更識楯無『ミステリアス・レイディ』:装甲小破

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