IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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なぜか忍殺風。


第168話 インタビュー・オブ・ニュージェネレイション

 タッグマッチのペア決定から数日後、久しぶりにIS学園の外に出た一夏、箒、紅也の三人は校門前で待ち合わせ、黛薫子の姉、黛渚子が勤める出版社へと向かっていた。

 不用心かもしれないが、今のIS学園には束がいる。この日の外出も事前に話を通しており、安全のため『ヴェーダ』に察知されないよう対策を施した監視用ナノマシンを散布した上で、何か起こったらすぐに駆け付けられるように準備されている。

 もっともその監視用ナノマシンの裏の目的は、箒と一夏の晴れ姿を見たい、という天才のしょーもない欲望なのだが、役に立っているので問題はないだろう。

 

 ちなみに、何かと紅也と一緒に行動することが多かった葵も、学園祭以降は一人気ままに行動することも増えてきており、今日は相方がいないもの同士、ラウラと組んで訓練すると言っていた。第三、第四の能力も開放できるよう、少しでも訓練を積んでおきたいのだろう。

 

「なんかこういうの初めてで、緊張するな」

「あ、ああ……。インタビューって、どういうことを話せばいいのだろう」

「失言しない程度に、聞かれたことに答えればオッケーだぜ。話していいこととヤバいことの区別はついてるだろ?」

 

 入学以来緘口令を連発しているIS学園であり、さらに今は束という特大の爆弾も抱え込んでいる。万が一にもそれが漏れた場合、メモリーポリスが緊急出動することになりそうだ。いや、学園にそんな組織はないけれど。束であれば人の記憶ぐらいどうにかしてしまいそうな気がする。

 

「それにしても、紅也は落ち着いているな。初めてではなかったのか?」

「俺は大人に混ざって働いてたってのもあるけどさ、実は葵の代役として何回かこなしてたんだぜ。声変えて胸盛れば案外バレないもんさ」

「マジか。双子の入れ替わりとか、本当にやるやついたんだな」

「いや、学祭のときもやっただろ。あのときは葵が俺のふりしてたけどよ」

「声真似は兄妹共通の特技なのか……」

「母さんから教わった技能の一つさ」

 

 主に潜入・変装のための技能であった。能力の無駄遣いとは、まさにこのことを言うのだろう。

 

「まあ、普通に今の姿でのインタビューも受けたことがあるぜ。ただ、仕事じゃなくて個人的な趣味の範疇だったらしいから、記事にはなってないけどな。その人いわく、野次馬根性だそうだ」

「ほう。つまり私たち三人の初めてのインタビューを掲載するのか。黛先輩の姉とやらも、なかなか強かだな」

「だよな、絶対売れる」

「そうか?」

 

 世界で二人だけの男性IS操縦者と、唯一の第四世代機の持ち主のインタビュー。流行るかな?と言われたら絶対流行る!と即答できる注目度だ。

 女に限らず三人寄れば姦しいということで、わいわいと雑談しているうちに編集部に到着した。

 

 

 

 

 

 

「どうも、私は雑誌『インフィニット・ストライプス』の副編集長をやっている黛渚子よ」

 

 インフィニット・ストラトスをもじってるんだろうけど、業が深そうな名前だな、などと考えていた紅也を尻目に、自己紹介が終了する。取材のために通された部屋は意外にもしっかりとした作りで、これならば話の内容が外に漏れることもなさそうであった。

 ICレコーダーによる記録が始まり、まずはインタビューが行われる。

 

「早速だけど織斑くん、女子高に入学した感想は?」

「ISのこととかじゃなくて、いきなりそれですか……」

「ティーン向けの雑誌で、誰がそんなこと知りたがるのよ。それよりもみんな、IS操縦者になった男の子のほうに興味津々なのよ」

 

 言われてみればその通りかも、と一夏は納得したと同時、肩の力を抜く。緊張もほぐれたようで、普段通りに話すことができた。

 

「山代くんも、同じ質問いいかな?」

「ウケそうな答えと真面目な答え、どっちがいいですか?」

「両方お願い。どっち載せるかはこっちで判断するわ」

「女子ばかりの環境には戸惑いが多かったんですが、同じ境遇の一夏がいたので、心の支えになりました。男性用設備の少なさは確かに大変でしたよ。最初はお風呂も使えませんでしたから。……オア、元々モルゲンレーテで整備班として働いていたので、そういう環境にも慣れていました。どはいえクラスメートがみんな女の子っていうのは、初日からドキドキしっぱなしでしたよ」

「うーん、この小慣れた感じ。薫子が言ってた通り、くせ者ね」

 

 紅也の方は普段通り、茶化しつつもスラスラ答える。こういう場が初めてではないというのは伊達ではないらしい。

 

「じゃあ篠ノ之さんにはお姉さんの話を」

「……何も言わずにISなんて作って、今のような生活になったのは正直、複雑な思いがある。だが紅椿をもらったことには感謝しているし、そのとき久しぶりに話して、色々と誤解も解けたように思う。確かに姉さんは支離滅裂で行動力の化身で、周りを振り回す迷惑なところはあるが……それでも、自慢の姉だと、そう言えます」

「箒……」

 

 姉に対するわだかまりがあった箒だが、紅也の見舞いに行ったときの一件やその後のやりとりで、だいぶ改善してきたようだ。ちなみにインタビューをリアルタイムで聞いている束は、『グランクチュリエ・探の装』を展開したまま悶えていた。さすがは妹馬鹿である。

 

「うーん、いい話を聞けたなー。じゃあ次、この三人が戦ったら、誰が強いの?」

「俺じゃないか?」

「そりゃ、年季が違うからな……」

「あと一歩で勝てる気はするのだが」

「年季って?ISを始めたのは、みんな4月からだよね」

 

 紅也は一夏の腹を小突いた。

 

「俺は夏休み中も、モルゲンレーテに戻って訓練してましたからね。もともと企業所属ですし、学生とは違うんですよ、学生とは!」

「なるほどねー。じゃあ、織斑くんと篠ノ之さんだと?」

「私です!」

「まあ、そうだよな……」

 

 絢爛舞踏を使いこなして以降、箒の実力はめきめきと上昇。エネルギー無限という反則性能を抜きにしても、展開装甲の使い方や動きの緩急など、もはや素人とはいえないレベルになっていた。

 本人が知らないことではあるが、入学時点でIS適性がCと、粗製だったはずの箒は、いつの間にやらIS適性がSというブリュンヒルデ、ヴァルキリークラスにまで引き上げられていた。先天的な素質に影響されるはずのIS適性が変化、それも最強操縦者クラスにまで上がるなど前代未聞であったが、どうせ束が何かしたのであろう。

 

「そのへんは共通見解なのね」

「紅也のターンデルタは、機動力がすごく高くて、まず捕まえられないんですよ」

「紅椿なら追いつけるが、練度の差で負けているな」

「とはいえこっちも必死ですよ。白式のクロ―は一撃必殺級の威力があるんで、当たったらおしまいですから」

「そういえば織斑くんも山代くんも、機体の見た目がガラっと変わったわよね」

「はい。俺のレッドフレームは元々試作機で、データを取り終わったから本国に置いてきたんです。で、しばらくは宇宙開発のため使ってた試作機のデルタアストレイに乗り換えて、データが集まったらまた量産機ベースの試作機に……」

「ああ、そういえば山代くんは技術の話になると止まらないって、薫子が言ってたわね。失敗したな~」

 

 予期せぬ紅也の暴走はあったものの、その後もインタビューは順調に進み、次は写真撮影の時間となった。

 事前に説明があった通り、スポンサーから提供された撮影用の衣装に着替え、スタジオに集合する三人。カジュアルスーツを着崩し爽やかなホストのような装いの一夏に、制服とはまた違った女の子っぽいスカートとデニムジャケットを羽織る箒、そしてなぜか洋装の上から派手な陣羽織を重ね、ミスター・ブシドーとでも名乗れそうな姿の紅也。三人が三人とも、普段と違う雰囲気となった友人の姿に困惑する。

 

「うーん、子供と大人のはざまにいる10代の子のスーツ姿に、凛とした男勝りな女の子がみせるガーリーな姿、それにハーフだからこそ映える異国の侍風美少年!みんな似合ってるわよ!」

 

 渚子から講評をいただいたところで、さっそく写真撮影である。まずは箒を中心に、左右を男二人で固める定番の構図。正義の秘密結社、とでも名乗れそうな雰囲気が漂っている。

 ちなみにカメラから見て一夏が左で紅也が右。小道具の模造刀が映えるという判断だろうが、ホログラフを被せている左腕が映らないので紅也的にもありがたかった。

 次は男子二人の構図。一夏は気づかなかったが、見る人が見ればどことなくイケナイ雰囲気を漂わせたその一枚を見て、おふざけ版のコメントが使われると確信する紅也であった。

 最後は、編集長が紅也たちに目をつけるきっかけとなったという、箒と紅也のツーショット。隣り合い、肩を並べて困難に挑むようなポーズは、外から見ていた一夏も思わずうなる程度にはキマっていた。

 

「はい、お疲れ様!じゃあ、三人とも着替えちゃって、今日は解散。あ、服はそのままあげるから、持って帰っちゃって」

「いいんですか?ありがとうございます」

「では、せっかくなので、私はこのまま……」

「待ってくれ二人とも!俺はさすがに着替えたい!」

 

 撮影ならともかく、ターンデルタの待機形態である紅いヘアバンドと陣羽織の組み合わせは、一見するとサムライを勘違いした日本かぶれの外国人のようだった。

 

「そうか?私は似合っていると思うが」

「紅也は刀のイメージあるし、顔も日本人に近いし、違和感ないだろ。時代以外は」

 

 箒は本気でそう思っているようだが、一夏はからかい半分。これ以上いじられるネタを増やしたくない紅也は、すぐに更衣室に引っ込んだ。

 

「最後の写真だが、一夏から見てどうだった?私は、ちゃんと紅也の隣に立てていただろうか」

「んー、二人とも刀っぽいイメージがあるし、箒は身長高いしな。きりっとしてて、よく似合ってたと思うぜ。でもあれじゃ、紅也に護衛されてるみたいな感じだったけどな」

「むう……私も和装のほうがよかったか」

「まあ、その恰好もさ、いつもと違って大人びているっていうか、その……ドキっとしたよ」

「そうか。やはり、男はこういった可愛らしい服のほうが好みなのだな」

「そこは人によると思うけど、まあギャップというか、そういうのが好きなやつは多いよ」

「一夏もそうなのか?」

「あー、えっと……そんなの聞いてどうすんだよ」

 

 なんて雑談をしているうちに、いつもの私服に戻った紅也が出てきた。コスプレみたいと言っていた衣装も、なんだかんだ言って持ち帰るようである。

 

「二人とも、待たせたな。じゃあ帰るか」

「いや、そんなに待ってないさ。羽織を脱いだだけだろ」

「待たせたのは事実だしな。この後どうする?せっかく町に出たんだから、どこか寄っていくか?」

「そ、それなら、どこかで夕食でも食べていかないか」

「今からだと食堂開いてるかギリギリだしな、いいぜ。どこ行く?駅前のジョセフとかガスターか?」

「い、いや、前に静寐から聞いた店があってだな、行きたいと思っていたのだ」

「ファミレスよりはいい案だと思うぜ。仕事の後に贅沢しても、罰は当たらんだろ」

「じゃあそこにしようか。箒、案内してくれよ」

「う、うむ、任せておけ!」

 

 こうして三人で連れ立って歩くこと数分、一夏たちが目にしたのは針葉樹の森というオシャレなレストランと、その入り口から続く大行列だった。

 

「人気店みたいだな。二時間待ちだってよ」

「こ、こんなに混んでいるとは……」

「予約しときゃよかったな。残念だったな、箒」

 

 よほどの意気込みがあったのか、がっかりと肩を落とす箒を慰める紅也。いくら早めの時間とはいえ、日曜日のディナータイムをナメてはいけなかった。

 

「どうする?もう少し時間をつぶしてから、寮の食堂で食べるか?」

「いや、なんか今日は外食の気分になってるからなー、それは負けた気がする」

「えーと、それでは、確か、駅の反対側にも雰囲気のいいお店が……」

「ここの混雑を見ると、そっちも望み薄だな。カップル多いし、デートの締めに最適なんだろうよ。……けっ」

「でででででデートなど、私は、そんなつもりじゃ」

「だいたい俺たちは三人組なんだから、違うだろ」

「そうだそうだ。私はただ、ディナーの予習としてだな……」

「わかったわかった、じゃあどうするかな……」

 

 挙動不審になった箒をスルーすることにした紅也。このまま放置していたら、告白のこととか、余計なことまで言い出しかねないと思ったからだった。

 紅也に助けられたことをきっかけに、彼に好意を持つようになった箒。紅也は、その思いは罪悪感から生まれた一時的なものであり、そこに付けこむようなことはしたくないと考えていた。そもそも箒は一夏の幼馴染で、ずっと彼に思いを寄せていたはずなのだ。

 

 ……いや、待てよ?と紅也は考え直す。

 

 入学前は確かにそうだったはず。そして入学時に一夏と箒は再会し、よくあちこちでラブコメを繰り広げていたはずだ。俺もそれを面白がって、引っ掻き回したり仲裁したりしていた。その頃は確かに俺と箒は友人同士だったはず。だが一緒に訓練したりと、一夏と過ごすはずだった時間を奪っていた……いや、二人の関係に干渉していた?

 もしかしてそれが、篠ノ之博士が言っていた“シナリオ”なのだろうか?

 思えば今日だってそうだ。前にも少し考えたが、黛先輩がインタビューの話を俺にまで持ってくるのは不自然だと感じたし、報酬も、3人に対して4人分のチケットというのは奇妙すぎる。

 もしも本来(・・)声がかかるのが一夏と箒の二人だけで、その報酬が1枚のペアチケットだったとしたら、つじつまが合うのではないか?

 

 シナリオを崩すもの、イレギュラー、鍵。考えれば考えるほど、俺の、山代紅也という役割は、その条件にあてはまっているような気がする。

 

 Caution……

 

「おい紅也、置いていくぞー」

「すぐに何かに没頭するのは悪い癖だぞ」

「……ん、ああ、悪い。どうするんだっけ?」

「前にうちに来た、弾っていただろ?そいつの実家の食堂に行くんだよ」

「なんだ、ディナーの予習はもういいのか?」

「か、からかうな紅也!私は本番に強い女だ!」

 

 空きっ腹で考え事してもしょうがないか、と紅也は首を振り、それらを頭の外に追いやった。五反田食堂の話は、前に一夏や鈴音から聞いていたし、友達の実家というだけでなく実際オススメできるレベルで美味しい店なのだろう。

 

「そっちはガラ空きだといいな。あ、でもあんまり空いてると味とかいろいろ不安になるから、程よく混雑してて空席が2、3席あるならなお良し」

「味は俺が保証するぜ。駅から少し離れてるし、待たされることはねえはずだ」

「食堂か……少々、服装に気を使ったのだがな」

「そのことなんだけどな、箒。店によってはドレスコードがあるから、ちょっといい店に行くつもりのときは事前に伝えてくれよ。入れないこともあるからな」

「あ、そう、そうだな!次があればな!そうさせてもらう!」

「あのディナー券のホテルも、多分そういうの必要だよな。俺、あんまりちゃんとしたのは持ってないぞ……」

「今日もらった服で、大体のところは大丈夫だ。誰を誘うか知らねえが、楽しみにしてるぜ」

 

 今の疑念はひとまず忘れ、この変わらないやりとりを、日常を大事にしていこう。先を歩く二人をからかいながら、紅也はそう結論付けた。

 

 後から考えてみれば、それは正しくもあり、同時に間違いでもあった。

 彼らはまだ知らない。多少の騒動が起こりつつも、今日まで続いてきた日常が。紅也が腕を失ったことを隠してまで、続けたかった日常が。

 あの日を境に、予想だにしない形で失われることを。

 




明日も12時に投稿します。連続投稿なんていつ以来だろうか。

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