IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第16話 二人の幼なじみ

「……と、いうわけで、俺と箒とセシリアで一夏を鍛えることになったわけだが」

「誰に、何を説明しているのだ?」

「気にするな」

 

 俺達四人はアリーナに集合している。箒も、訓練機の「打鉄」をレンタルていたため、この場には四機ものISがそろっていることになる。

 ちなみに葵は、「フェアな勝負にしたい」という内容の言葉を残し、練習への協力を拒否した。俺に関しては、一夏のデータなど知り尽くしているので、今更外れても関係ない、という判断がなされた。

 葵を仲間はずれにするようで気が進まないのは確かだが、本人の希望ならしょうがない。一夏ら三人も、ゴメンと謝る葵に対して、口々に「気にするな」と言っていた。

 凰は、セシリアと箒の猛反対、および同じクラス代表の葵が辞退したことを受け、筋を通すためにと辞退した。意外と、律儀な性格なんだな。

 

「くっ……。まさかこんなにあっさりと訓練機の使用許可が下りるだなんて……」

 

 セシリアはセシリアで、なんだか悔しそうだ。そんなに箒が加わるのが嫌だったか?

 確かに、近接格闘は俺一人で足りるかもしれないが、俺の剣技はガーベラの切れ味まかせなので、一夏の……というか、普通のISのスタイルとは違うのだ。そこを箒が補ってくれれば、一夏もそこそこレベルアップし、初戦突破くらいはできるだろう。葵と当たらなければ、な。

 

「では一夏、はじめるとしよう。刀を抜け」

「お、おうっ!」

 

 双方、刀を抜いて対峙する。空気が張り詰め、戦闘状況特有の緊張感が満ちていく。

 

「では――参るっ!」

 

 ……が、神はシリアスが嫌いであるようだった。戦場に不釣り合いな、甲高い声が響く。

 

「お待ちなさい!一夏さんのお相手をするのはこのわたくし、セシリア・オルコットでしてよ!?」

 

 セシリアが、箒と一夏の間に割って入る。その銃口を箒に向けて。

 ……一夏の相手をするんじゃないのか?

 

「ええい、邪魔な!ならば斬る!」

「訓練機ごときに後れを取るほど、優しくはなくってよ!」

 

 そして戦闘を開始するバカ二名。既に目的を見失っている。

 

「……じゃ、一夏と俺で近接格闘の訓練な。ホラ、こっち向け」

「お……おう。だけど、いいのか?あの二人を放っておいても」

「任せろ。……おーい二人とも。勝った方が一夏と訓練だ。異論はないな~?」

 

 返事はない。その代わり、戦闘は激化した。

 

「……よし!」

「いや、全然良くねぇからな!!」

 

 つっこむ一夏を無視し、俺は刀を構えて振りかぶる。

 一夏も、ようやく刀を構え、戦闘が始まる。

 

 ……その後、戦いは4機のISが入り乱れる乱戦となったが、気が付いたら1VS2の戦いとなっていた。さて、逃げたのは誰でしょう?

 

 

 

 

 

 

「ようし、そこまで!!そろそろ止めないと、一夏が死んじゃうぞー」

 

 外部スピーカーを使い、三人に呼び掛ける。すると三人は戦闘を中断し、ここまで下りてくる。

 

「ハア……ハア……。死ぬかと思った」

「ふん、鍛えていないからそうなるのだ」

「あら、このくらいでバテていては、先が思いやられましてよ?」

 

 三者三様。一夏は疲労困憊し、箒とセシリアはそうでもない。……鍛え方の問題ではなく、2対1はキツイと思うが。レッドラム&スタルカ撃破のように。いや、アレは実質1対1か。

 

「……というか紅也!途中からいなかったよな!?」

「ああ、巻き込まれたくなかったからな」

 

 冗談抜きで死ぬし。

 

「何をしている、早くピットに戻れ」

「お、おう。……って、箒?なんでこっち側に来るんだ?」

「私もピットに戻るからだ」

「いや、セシリアの方に―――」

「ぴ、ピットなどどっちでも構わないだろう!……あ、紅也はどうする?」

 

 とってつけたように箒が言う。……俺はお邪魔かな?

 

「いや、一つのピットにIS三機はキツイだろ。セシリアがぼっちになっちまうから、俺はあっちに行くぜ。じゃあな、お二人さん」

 

 そう言って踵を返し、セシリアのいるピットへと向かう。

 ……この時、一夏のピットについて行っていたら、今後の展開は変わっていたかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 ……バシン!……バシン!

 一夏の特訓後、俺は弓道場に来ていた。今日は刀のノルマはこなしたので、弓の練習をしている。昔から俺は、刀と弓の練習を続けていた。これは師匠や、老師から言われたことがきっかけであるが、今となっては習慣化している。腕前は上々。的の中心に当て続ける、なんて神技はできないが、的から外さない程度の腕前はある。

 第三世代兵器は、イメージが命だ。弓とビームライフルは違うが、「狙い、当てる」というプロセスに差はない。……欲を言えば、弓型の武器があればよいのだが、現行技術じゃ無理だ。ビームを、矢の形で留めるなど……。

 

 まあ、無い物ねだりはしない。このビームライフルだって、死ぬ思いで手に入れたんだから、これ以上の贅沢は言えないさ。

 

 弓道部の方々に礼を言い、俺は寮の部屋へと戻る。この時間なら、葵と夕食が食えるかもしれない。……昼間はグダグダだったからな。あれじゃ、葵も不満だろう。

 

「ただいま。葵、夕飯まだなら一緒に―――」

「あ、おかえり(ホン)。悪いわね、夕食ならもう――」

 

 バタン。ドアを閉じる。

 目をこすって部屋番を確認。……うん、間違いなく1017室。

 じゃあ……なんで凰がいたんだ?

 

「……おかえり」

 

 ドアが開き、出てきたのは葵。コイツと凰が一緒にいる、という事実に違和感を覚える。確か、凰は苦手だ、って言ってたよな?

 

「ああ、ただいま。それより葵、どうして凰がここにいるんだ?」

 

 そう言うと、チラリ、と凰の方を見る葵。凰がうなずくと、葵は俺の目を見つめ、一言。

 

「泣いてた」

「泣いてた?何でまた……っと、これは聞かない方がいいかな?」

 

 俺も凰の方を見る。凰は肩をすくめ、「大したことじゃないわよ」と強がって見せた。

 それを確認し、俺は再び葵に質問する。

 

「で、もう凰は落ち着いたのか?」

「……多分。」

 

 頼もしい答えだ。俺は部屋の前での問答を中断し、ようやく部屋へと入る。俺のベッドに腰かけていた凰を、シッシと手で追い払うジェスチャーをし、俺が座るスペースを確保する。

 

「……で、何かあったのか?」

 

 改めて、今度は、凰に問いかける。葵が凰をほっとけなかったのはよく分かった。問題は、あの見た目打たれ強そうな凰が、泣くほどの原因だった。ひょっとしたら、何か、とんでもない危険が潜んでいるかも―――

 

「一夏よ!」

「………ハイ?」

「全部一夏が悪いの!あんな女と同居だなんて!しかも、幼なじみだからいいなんて!」

「ちょ、落ち着……」

「アンタは黙って聞いてなさい!酢豚を奢るだぁ!?アイツ、女の子にたかる気かっての!しかも、乙女の純情を(もてあそ)んで!!だいたいアイツは昔から……」

 

 凰は語り続けた。同じ話を、何度も何度も。それこそ、耳にタコができるくらいに。俺も葵も、もううんざりした目で凰を睨んでる。

 彼女の話を総合すると、ピットで一夏と話した時、箒と同室だと知った。それを一夏が『幼なじみならいい』と言ったため、なら部屋を変わってもらおう、と思ったそうだ。

 ……コイツは、二組のクラス代表の座もかっぱらったらしい。欲しいものは奪う!を地で行ってる奴だな。とんでもない!

 

―――まあ、俺も、モルゲンレーテも、そんなことは言えないがな。

 

 話を戻そう。そして荷物をまとめて一夏の部屋に向かい、ひと騒動あったらしいのだが、ただの痴話げんかなので割愛。その際、一夏が昔の約束を間違えて覚えていたらしく、それがショックで泣いて出ていったところ、葵と会って部屋に招かれたそうだ。

 ちなみにその約束の内容を聞こうかと思ったが、葵に「女の子同士の秘密」と言われては黙るしかなかった。

 

「……で、葵。俺はこの問題に関わっていいのか?」

 

 まだ話し続けてる凰を無視し、葵に話しかける。

 

「本人の問題。話、聞いてあげるだけでいい」

「その、話を聞くのが少しイヤなんだが……」

「……私も。少し後悔」

 

 まるで、老人の昔話を聞いているようだ。現に今は、今日のケンカの話ではなく、小学校の思い出話を延々と語り続けている。……某ファミレス漫画のコックの気持ちがよく分かるな。誰か、胃薬を。

 

 

 

 

 

 

 結局凰は、話し疲れ・泣き疲れで、そのまま倒れるように眠ってしまった。しかも、俺のベッドで。

 

「……なあ葵。凰の部屋って分かるか?」

「……知らない」

「……どうする?」

「泊める」

「織斑先生に引き渡――」

「泊める」

「……それしかないか」

 

 ため息をつきつつも、俺は凰に布団をかける。制服がシワになりそうだけど、そのくらいは自業自得でいいだろう。

 

「これでよし……っと。じゃあ葵、悪いけど、そっちに入れてくれ」

「構わない」

「悪いな、ホント。ちょっと狭くなるけど、俺は寝相はいいほうだから、まあ心配はするな」

「知ってる。私も、寝相はいいもん」

 

 互いにさっさと寝巻に着替え、同じベッドに入っていく。

 今更気恥かしさなどない。昔は、よくこうしていたものだ。

 

鈴音 (リンイン)

「ん?どうしたんだ」

「うるさいけど、嫌いじゃない」

「そうか。俺もそんな感じだ」

「……羨ましい」

「……何が、だ?」

「どんなことも全力で取り組んで。泣いて、笑って。……恋をすると、あんな風になるの?」

「それを俺に聞くなよ……」

 

 俺だって、恋愛などしたこともない。女の子を見てかわいいと思うことはあるが、同時に、やはり住む世界が違うとも思ってしまう。

 ……俺が付き合えるのは、おそらく、俺のように多少裏について知っている人物だけだろう。

 レッドフレームが本当の意味で完成し、その技術が世に出回るようになれば、状況は変わるだろうが……。

 

「羨ましい。あんな風に、熱い思いを持てるなんて……」

「葵……」

 

 葵は、かなり冷めた人間だ。事実を端的に言い、感情が読めない(もちろん俺には分かる)。

 しかし実際は、コミュニケーションが苦手なだけ。葵自身にも自覚はないだろうが、コイツの心の奥底には、強い思いがある。それを、表に出すのが苦手なだけだ。

 

「葵。ここは学校だ。分からないことがあれば、学べばいいさ。『人間らしくない』って思ってるかもしれないけど、そうやって悩む時点で、十分だと思うぜ?」

「お兄ちゃん……ありがとう」

「じゃ、電気消すぜ。おやすみ」

「うん、お休み」

 

 部屋から、音と光の一切が消えた。

 




兄妹なんだから、一緒に寝るくらい普通。
……どこかの吸血鬼もどきがそう言ってました。

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